トリニティにある、テラスに私は訪れていた。
相変わらずの豪華なゴシック様式に、舌を巻いていると生徒会のメンバーに席を案内してくれるのでついてく。
先にある丸いテーブル席にはケーキとティーカップが置かれており、そこにはナギサが座っていた。
「お待ちしていました、先生。どうぞおかけください」
「ナギサ、待たせて悪かったね」
「気にしていませんよ先生。それよりも、私に言わなければならない事がありますよね……?」
「な、なんの事やら……」
ピキッと音が響いた。
恐る恐るナギサを見ると、手に持っていたティーカップがヒビ割れていた。思わず唾を飲んでしまう。
やばい、ナギサ怒ってる。
「その、ナギサ落ち着いて……」
「落ち着いていますよ? だから、早く、私に、教えてください先生」
「ミカの件は、本当に……申し訳ございませんでしたっ!」
「それで済むわけないでしょうがっ!」
ナギサの怒鳴り声がテラスに反響する。
私はそれに対する反論を持ち合わせていないので、土下座をして許しを請うしかできない。
「ミカさんの件は私も心配して色々と立ち回っていました! 記事を書いた犯人も特定されてあと一歩の所まで来ていたんです! それなのに……そ・れ・な・の・に! 暴力事件に退学騒動、そして結婚なんて……私を何回殺す気ですか⁉」
土下座している私にナギサはストレスをぶつけるかの如く耳元まで頭を下げて声を荒げた。
普段のおとなしいナギサは何処へ行ってしまったのだろうか。
後ろに控えていたティーパーティーの他メンバーが目を大きくしてこちらを見つめている。
「本当にすまないっ、自分の気持ちを抑える事が出来なかったんだ。全ては私の落ち度だ」
「当然ですっ、このロリコン教師! 先生という立場でありながら未成年に手を出すなんて……貴方は最低です!」
「ぐはっ」
火の玉ストレートな言葉の数々を受けて私は倒れてしまう。
だが、こんなナギサも新鮮で悪くないと思っているのは内緒だ。
「それで、ミカさんの調子はどうですか?」
「あぁ。順調だよ、今年の夏に生まれる予定でナギちゃんに私も会いたいってはしゃいでたよ」
あの後、私とミカは互いの立場を忘れて何度も求め合った。
当然避妊具なんて普段持ち合わせていないので、ミカは直ぐに妊娠してしまったのだ。
一度こっそり装着して回避しようともしたが、物凄く怒られてしまって以来日の目を見る事は無かった。
「安心しました。私もミカさんに会いたいとお伝えしておいて下さい」
「きっとミカも喜ぶよ」
「はぁ……。全く、どうしてこんな事になってしまったのでしょうか。もし私の幼馴染を泣かせたら……ロールケーキをぶち込みますからねっ」
「はっ、はいぃぃ」
そう言って怒るナギサだったが、本心ではミカと先生を祝福していた。
きっとあのままミカが放置されていたら、大事件に発展していたのが見えていたからだ。
でもティーパーティーであるナギサがミカに加担し過ぎては行けない。
学園内の政治力の均衡が崩れる可能性もあるからだ。
どうか彼らに祝福あれ。
そう心に呟いて、先生に対して愚痴をぶつけるナギサであった。
▽
現在私はシャーレの居住区に引っ越していた。
そこに、今日モブ子ちゃんが来てくれるとの事だったので、念入りに掃除をしているとチャイム音が鳴った。
「ミカ先輩、居ますかー?」
「あっ、モブ子ちゃん。こっちこっち!」
「お久しぶりです、わぁ~お腹、大きくなりましたねっ」
「うんっ、でももっと大きくなるって言われたの。私がお母さんになるなんてまだ実感ないよ~」
「きっとミカ先輩なら、いいお母さんになれるはずです! 優しいし美人だし、きっと産まれてくる子供も可愛いでしょうね」
「あははっ、ありがとう」
それから私たちは、ソファに座って最近あった事を沢山話しあった。
まず一つ目に私が居なくなった後、正義実行委員会の調査によってイジメを行っていた生徒複数人が停学処分を受けたらしく、モブ子ちゃんに暴力を振るった主犯格の子は退学処分を受けたようだ。
また、私が先生と結婚した話は意外にもいい意味で学園中の話題らしく私のような女性が男性の求める理想なのではないかと結論付けた生徒達が聖園ミカ風ファッションと称した髪型や言葉遣いを作って流行しているらしい。
そして、私に魔女だと因縁着けていた子達も真似しているらしくプライドは無いのかと思ってしまったのは内緒だ。
「モブ子ちゃん……今更だけど、あの時は置いてっちゃってごめんなさい」
「あははっ、そんな事もありましたね。でも、大丈夫です。ミカ先輩のせいじゃありません」
「私あの後ずっと後悔してたの。私の代わりに怒ってくれていたモブ子ちゃんを置いて行っちゃうなんて、最低だよね」
「ミカ先輩……」
正直、あれからモブ子ちゃんに連絡するのが怖くて仕方が無かった。
何度もメッセージを打っては消して、後悔しては泣いて。
そんな日々を忘れたくて先生を求めた事もあった。
だが、暫くしてモブ子ちゃんから連絡があったので、今回私たちは再開出来たのだ。
「モブ子ちゃんって強いよね」
「そんなっ、ミカ先輩の方が全然強いですよ」
「ううん。私、とっても弱いよ。だって、モブ子ちゃんに連絡するのが怖くて怖くて、仕方なかったんだもん」
"なぜ助けてくれなかったの?"
"私を置いていってしまったの?"
"私の事も裏切るの?"
そう言われてしまうんじゃないかと思うと手が震えてしまって。
見えない恐怖に怯えて生きていた。
「幻滅したでしょ?」
「……ミカ先輩。私、実は今日あるものを持ってきたんです。良かったら受け取ってもらえませんか?」
それからモブ子ちゃんは鞄からある袋を取り出した。
その袋を私は恐る恐る受け取って紐を緩め中身を取り出すと中から髪留めが出てきた。
水色をベースにした艶のある上品なそれは、どう見ても高価なシロモノで自作の域を超えた伝統品のようだった。
「これって、もしかして」
「はい。前に渡せなかった自作のアクセサリーです。前のブローチは壊されちゃいまいたけど、こっちの方が自信作なので良かったら使って下さい」
「凄く綺麗……。勿体なくて使えないよ……」
「ダメです。絶対に使って下さい」
そう言ってモブ子ちゃんはプイッと横を向く。
すると彼女の後ろ髪に留まった美しい髪留めが現れた。
その髪留めの色も水色模様で私の持っているものと瓜二つで――
「ミカ先輩、私と一緒なのは嫌ですか?」
「あははっ、モブ子ちゃんにはやっぱり敵わないなぁ」
そうして私たちは笑いあった。
きっとこれからもモブ子ちゃんには迷惑をかけてしまうだろう。
でも、それすらもが心地よくて楽しくて。
今日モブ子ちゃんと初めて真の友達になれた気がした。
▽▽▽▽▽▽
夢を見た。
十字架に磔にされる夢だ。
でもいつもと違っていて、両手両足を縛るロープは簡単にちぎれた。
「あれ、どうして……」
「裁きを受けろ魔女め!」
そう聞こえて振り向くと私の足元に何かが落下した。
火炎瓶だっ、燃えてしまう!
そう思って身構えたのだが、何も起きなかった。
不思議に思って下を見ると、足元にはマッチ棒が一本だけ転がっていた。
「これっていったい……」
こんなもので燃えるはずないだろう。
「あははははっ」
今度は嘲笑うような甲高い笑い声が聞えてきた。
愉快そうに笑う少女の声だ。ゆっくりと喉を絞められているような気味の悪い声に変化していき、どんどん声の数が増えていった。
「ミカ先輩っ、こっちです!」
私が耳をふさごうとすると、何処からか現れたモブ子ちゃんが助け出してくれた。
そして、光の元まで導いて何処かへと消えて行ってしまった。
「ミカ」
「せ……先生?」
「君は一人じゃない」
やっとあの続きが聞ける。
そう思うと胸がドキドキしだした。
「だから、私を信じて。いつか必ず迎えに行く。それまで待っててね私のお姫様」
読んでいただきありがとうございました。
今回の作品は自分でも満足した出来になったと思っております。
宜しければ是非感想をいただければと思います。
普段はpixivに作品を投稿しておりますので、よければそちらも読んでいただければと思います。