オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

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01.さようなら大嫌いな現実(リアル)

緑色に澱んだ雲の絨毯から黒い雨が降り続く

空気加湿器のかび臭い匂いが充満したオフィスの中

カタカタと鳴り止まないキーボードの音にまくし立てられて、止まりそうになる指を無理やり動かし、フォームのチェックを進めていく

 

幸いにも頭を使うような作業はあらかたかたづき、あとは脊髄反射のルーチンワークを片付けるだけだ。

気分は明るい。なんたって今日は土曜日、あと数時間で休めるのだから

 

「召されろ」

 

という淡い希望は今週も打ち砕かれた。

新しく入った業務メールのお陰で、21連勤確定である。

 

トドメとばかりに更に新しいメール通知が。殺す気か?殺す気だな。よし戦争だ。

 

殺意を漲らせ開くと、懐かしい名前が目に飛び込んできた

 

「風鈴菓さん

お久しぶりです、いかがお過ごしでしょうか?

既にご存知かも知れませんが、来週いっぱいでユグドラシルがサービス終了することになりました。

 

なので、最後にもう一度だけでも、みんなで集まってみませんか?

ユグドラシルでお待ちしています。

 

モモンガ」

 

風鈴菓…それは私がユグドラシルで使っていたPC名だ

モモンガというのは、当時私が所属していたギルドのマスターで、よく一緒に遊んでたっけ

 

あのクソゲーもついにサービス終了か

 

現実の方で物価のインフレが進み過ぎてゲームどころじゃなくなったから

DMMOセットを売り払って引退したけど

 

とうとうゲーム自体が無くなっちゃうんだ

 

色々酷かったけど、それでも青春<思い出>が詰まったあの世界に未練がないと言えば嘘になる

 

現実では決して巡り会えなかった楽しい出会いが、そこにはあったから

色々酷かったけど、最後ぐらいは見届けてあげたいな

色々酷かったけどな!

 

■■■■

 

28連勤をしばき倒し、定時ダッシュを決めた私は

数日前から予約していた完全個室のネカフェに急いだ

 

無防備になるDMMO-RPGをオープンスペースでやる馬鹿はいない。警察に依頼する金ごと盗まれてホームレスに一直線だ。

そして肺インプラントのフィルターを交換できなくて、数日で窒息死する

 

個室に入り、念のため持ってきた南京錠で内側から更に施錠して、ゲームを起動する

浮遊感のあと視界がホワイトアウトし、次の瞬間

懐かしい場所に私はいた

 

企業の会議室とは比べ物にならないほど豪奢な円卓。囲う41の席の一つに、うちの子がちょこんと座っていた。

 

溢れる愛のままくしゃくしゃに撫で崩してしまった粉色のふわふわな髪の毛に、小動物のようなうるうるした金色の瞳。

縫合痕だらけの身体を甘々なベージュのケープで隠し、小柄な身体には似つかわしくない巨人から移植した二本の腕が背中から生えた羽根のように地面に垂れている。

ゴシックホラーを基調にした、フラジャイルで儚く可愛い、自慢の子。

 

名前はラッフィー。人造物系<フランケン・シュタイン>の盾ヒーラー<ヴァルキュリア>で、バトルジャンキーが多めのうちのギルドでは稀少な回復役だ。

 

こっちの存在に気付いたみたいに、上目遣いに見上げてくる仕草があまりにも愛らしくて

愛が溢れるままにぎゅっと抱き締めたいけど、残念ながらそんな機能は無い

 

様々な角度からスクショを撮っていると

ピロリとモモンガさんから伝言<メッセージ>が飛んできた

 

「ふうかさん、お久しぶりです!」

 

「おひさですー!メールありがとうです

最近忙しくて、あまりニュースチェックしてなかったので」

 

ヴォン、と円卓の上座が光り、厳かなローブに身を包んだ大柄な髑髏が転送してくる

モモンガさんのアバターだ

 

ちなみにふうかは私の愛称で、風鈴菓の略だ

 

「いえいえ、現実<リアル>の方が大事ですから

来て貰えただけでも嬉しいですよ」

 

本当に嬉しいのだろう。表情のない骨アバターなのに、生き生きしているように見える

 

それにしても、41人もいた円卓が、今は二人だけか

こんな大きなギルドホーム、維持するだけでも大変な労力だろうに

ずっと一人で、どんな気持ちだったんだろうか

 

「もう少ししたら一段落つきそうなので、その時にまた一緒に遊びましょ

オリジン・ゴッドとか」

 

さっき廊下で見かけたゲームのチラシを思い出し、それとなく勧めてみた

 

「…お断りさせて頂きます。あ、誘ってくれるのは嬉しいですけど、丁度良いきっかけなので

これからは現実<リアル>に専念しようかと」

 

声が暗い。地雷を踏んだかな

 

「というか、どこ行ってたんですか?」

 

「あ、それはですね…」

 

悪戯がバレた子供みたいに、誤魔化すように頭を掻ぐモモンガさん

 

「エロ鳥頭(ペロロンチーノ)に黒歴史抹消でも頼まれたんですか?」

 

「ちがいますって!…聞いて笑わないでくださいね

最後にみんなで打ち上げ花火でもしようと思いまして、沼の方で花火を並べてたんですよ」

 

「また無駄に金のかかる実りのないイベントを…

でも面白そうですね 見てみたいです」

 

アーコロジーの隣に住んでるから、花火はよく見てた

文字通り住んでる世界が違うころを見せ付けられてる気がして、歳を追うほど嫌いになっていったけど

 

「…で、点火しようとしたら

オブジェクト制限に引っかかって警告が出て、どれぐらい減らしたら大丈夫か一個ずつ回収して確認してたんですよ」

 

強迫症でもあるのかな?

 

「でも警告だけで引火自体は出来るんですよね?

どうせ最後ですし付けちゃいましょうよ

何発セットしたんですか?

 

「8000発ほどです」

 

何言ってんのこの人

 

■■■

 

せっかくだからナザリック中に仕掛けて花火のドミノ倒しをやろうぜ、と提案したら泣きそうな声で却下されたので

じゃあ何発までならやっていんですか、って交渉していると

ギルドメンバーのヘロヘロさんがインしてきた

 

「いや~本当にお久しぶりです、モモンガさん

それに風鈴菓さんも来てたんですね」

 

「おひさです 先に来てまっせ」

 

「正直、来て貰えるなんて思っても居ませんでしたよ、ヘロヘロさん

…二年ぶりぐらいですかね」

 

「そんなに経ってるんですか?やばいなぁ…最近残業ばかりで時間の感覚変なんですよねぇ」

 

そういえばヘロヘロさんプログラマーって言ってたから、残業も凄いんだろうな

 

最近失眠症気味で、あまり眠れないとか

そんなやり取りをぼーっと見守っていると

 

「…と、僕はそろそろ…ちょっと眠すぎて

また、どこかでお会いしましょう」

 

「あ、ちょっと待って

折角ですし、サービス終了まで——」

 

思わず引き止めようとして、目の前でログアウトされてしまった

 

「…しつこい、って思われたかな…」

 

「そんなことないですよ。

ヘロヘロさん、見るからにしんどそうでしたから

聞こえなかったんじゃないですかね」

 

そんなフォローされても

 

「——さん、ふうかさん

もうそろそろ0時ですし、玉座の間に向かいませんか?」

 

空気の読めなさに自己嫌悪に浸っていると、心配そうにモモンガさんが声を掛けてくれた

 

「そうですねー。最後に花火で玉座の間を処理落ちさせながらサービス終了するのも面白そうです」

 

「本当に勘弁してください。後生ですから」

 

苦笑いして席を立ったモモンガをターゲットに指定し、

 

「命令:追随」

とラッフィーに命令を出す

 

小さく会釈して、異形の少女は立ち上がり、壁の台座からギルド武器取り出したモモンガさんの後を追う

 

廊下に出ると、そこには執事やメイドのNPCたちが一列に待機していた。

 

先頭の初老の執事は確か、たっち・みーさんが作った子だったはず

たっち・みーさんの娘さん、元気になったかな

 

「最後ですし、NPCたちを動員してもいいですよね」

 

恭しく頭を垂れたNPCたちを前に、モモンガはそう聞いてくる

 

「良いと思いますよ

その方がいいスクショ撮れそうですし」

 

「ありがとうございます、ふうかさん

それじゃ、命令:——いや、付き従え」

 

急に声のトーンを落として魔王ロールで命令し、ひらりとマントを翻すモモンガさん

 

最後はロールプレイで通す気らしい

それなら、乗った方がいいか

 

「我が僕よ、死の支配者に付き従え」

 

骨だけの魔王様に、ツギハギだらけの少女

そのさらに後ろを執事とメイドの集団が続き、列を成して玉座まで行進する。

 

玉座の隣には黒い羽を生やした美しい女性のNPCが立っており、否応にも注意を惹かれる

 

「あれ。その子、どんな設定でしたっけ?」

 

「えーと、設定は…守護者統括のアルベドで、設定は…長っ!

たしか設定魔のタブラさんのNPCでしたね

へー、そういう設定が…」

 

「ちなみにビッチである」

 

最後の一行を思わず読み上げてしまった

 

「ちなみにビッチである」

 

「二度も読まないでくださいよ!」

 

「大事な事だから二回読んだんですよ」

 

タブラさん懐かしいな…同じホラー好きだから、おすすめのホラゲー実況を勧めあったりしてたっけ

いつも洒落にならないぐらい怖い動画を一方的に押し付けられてただけな気もするけど

 

「流石にちょっと変えます?」

 

「じゃあ、モモンガさんを愛してる、とかで良いんじゃないですか?四天王の紅一点っぽい設定で」

 

「女性NPCだけで四天王組めちゃいますけどね」

 

「屁理屈漕いでないで。やれ」

 

すみません、タブラさん おたくの子汚してしまいました…

と言いながら渋々ギルド武器でアルベドの設定を書き換えていくモモンガさん

 

この人の中では事後扱いらしい

 

■■■

 

設定を書き換え、NPCたちにひれ伏せ、と命令してから玉座に座り直すモモンガさん

私も自分の定位置——旗のところに行こうとしたけど

遠すぎて締まらないので

ラッフィーを玉座の隣に立たせることにした

 

スクショを何枚も撮ってみたけど 心なしかモモンガさんもラッフィーも寂しそうな表情をしている

 

PC<アバター>やNPCに表情なんてないのに

 

 

23:59:57

 

明日は有給取ったから、このまま寝落ちしよう

 

23:59:58

 

起きたらスクショも編集しないとだし

 

23:59:59

 

それにしてもモモンガさん大丈夫かな 

燃え尽き症候群とかにならないといいけど

 

00:00:00

 

もう一度SNSに誘ってみよかな スクショ送る時のついでにでも




今更オーバーロードのアニメ見て勢いで書き始めた書き物モドキです

文章力死んでますがよければ是非
お気に入りや感想とか頂けるとモチベがぐんぐんあがります!
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