オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜 作:アバダケダブ郎
『ラッフィー、さっき送った人間って今どこにいるの?』
「ベリュースですね、今、ニューロリストさんのところにいます」
『そこに案内して』
「かしこまりました、マスター
あの、でもとても遠いので、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移しても、よろしいでしょうか…?
戦いに赴かれ、疲れているマスターにこれ以上負担を掛けるのは、嫌です」
むしろ今まで使ってなかったの…?
そういえばさっきもわざわざ走ってきたな
「…これは、マスターからお預かりしている物なので」
…たしかに、あれって至高の方々<ギルドメンバー>しか持てないアイテムだから、自分だけ使うのは気まずいか
でかくし過ぎて徒歩での移動に時間が掛かりすぎるから作ったアイテムなのに
守護者全員に持たせたら気兼ねなく使えるかな
今度モモンガさんに相談しよう、ナザリックの効率化にもなるし
『正しい判断だと思うよ。それじゃ転移でお願い』
「…はい!ご承認頂けて、とても嬉しいです マスター」
顔を綻ばせ、ギルド指輪を起動させるラッフィーをどこか寂しそうに見つめ、
「え、もう行ってしまわれるでありんすか…?」
ウルウルと上目遣いで見てくるシャルティア。
いつもの謙りまくった感じなら事務的にスルーできるのに
情に訴えてこられたら断り辛い
ああ、もう
『シャルティアも一緒に来る?』
「! はいでありんす!」
るんるんと、嬉しそうに小躍りしながらラッフィーと手を繋ぎ
シュタッっと背筋を伸ばした瞬間
転移が発動し、私たちの視界は暗転した。
■■■■
「それで?その八欲王というのはその後どうなったのかね?
”答えたまえ”」
「さ、最後はお互いの物を欲して殺し合った…」
「それはもう聞き飽きたよ。もう一度、苦痛の王<キング・オブ・ペイン>を味わえば口が軽くなるかね
ニューロリストくん、よろしく頼んだよ」
「もう、デミちゃんったら、くんじゃなくちゃん付けで呼んでって言ってるじゃない」
「ひっ、知らない!これ以上は本当に知らない!いやだ、いやだあああ!!アアーッ!!」
尋問室と書かれた物々しい扉の奥から凄惨な悲鳴が木霊する。
何が行われているのか想像したくもない。事後になるまで待つか
「失礼するでありんすー」
「お仕事お疲れ様です、デミウルゴスさん、ニューロリストさん」
こちらの気も知らずに、元気よく扉を押し広げて入室する二人
「おや、シャルティアにラッフィーじゃないか
記憶が正しければ、確か君たちは今日、休日だったね
こんなところにいるのはあまり関心しないね
至高の御方々が定められたように、より至高の御方のお役に立てるように、心身を休ませ英気を養うべきではないのかね?」
チクチクと嫌味にも、本気で心配してるようにも聞こえるのがデミウルゴス
丸メガネに意味ありげな邪悪な笑みと、普段から胡散臭いから判断が難しいんだよね…
それよりシャルティアも非番だったのか、だから迎撃か遅れて…なんだか申し訳ない気分になる
現実で例えれば休日に緊急出社させた挙句担当外の案件に連れ回すようなものだ
「いと尊き御方が望んだことなので大丈夫でありんす」
「…!これは失礼いたしました。フーリンカ様も一緒とは露知らず、御身の望みに異を唱えた此度の愚劣な行い、
いかなる処罰も甘んじて受け入れる所存でございます!」
『…ラッフィー、ちょっとの間体借りるね』
喜んで、と綻んだラッフィーに入ると、即座にデミウルゴス達が跪いた
「起きてください、デミウルゴス、他の皆も。
この子たちの身を案じ、注意してくれたあなたを責めるつもりはありませんよ
むしろ、休暇を命じておきながら自らそれを破った私にこそ非があります」
「そのようなことは断じて有り得ません!
持てる限り全ての時間を持って至高の御方々に仕えるべき我らが、こうして休息を享受できるのも単に御身の慈悲ゆえ
お求めとあらばどんなことよりも優先してお役に立つのが我々一同の心よりの幸福でございます」
「その忠義に感謝を。では、早速で悪いのですが、あなたの力を使わせて貰えますね?」
まともに聴いてると背中がムズ痒くなるデミウルゴスの独白を天井の…まぁ、なんか色々ぶら下がってるものを数えて受け流し、
忠義のマシンガントークが止んだのを見計らってこちらの要件だけを伝える。
今度からこうやって乗り切ろう
「はい、なんなりと!いと尊き御身の役に立つことこそ、私めの最大の喜びでございます!」
意訳:OK
以上。
早く済ませてしまおうと、インベントリから魔封じの水晶を取り出し、魔法を込める
「それは…第十階位魔法まで封じ込められる、魔封じの結晶
…なるほど、そういうことですか!
この下等生物で魔法の実験をなさるおつもりですね!ならば暴れられないよう、今すぐ四肢を切断してご覧に入れましょう」
「それはダメ!…この者には大事な使い道があるので、五体満足のまま、傷を付けないでください
デミウルゴスは、悪魔召喚の魔法を使えますか?」
チャキン、と流れるような動きで五指の爪を刃物のように伸ばし、穴を切り分けようとしたので慌てて制止する
何をどう察したらこんな暴挙に出るんだ
「これは出過ぎた真似を、申し訳ございません。御身の深遠なる考えを蒙昧にも推し量ろうとした自分の浅はかさを恥じるばかりです
召喚魔法につては、確かにそのような知識を学び収めております」
「では、あなたが召喚できる低位の悪魔で、理性を持ち言葉を解する者を一体、この場に呼び出してください」
逡巡し、得心が行ったように そういう事ですか、と笑みをこぼして 言われた通りグレムリン・メイヤーを召喚するデミウルゴス
レベルは40台…だったはず。流石に大丈夫だろう。
占拠<オーバーライド>を込めた水晶を召喚された悪魔に手渡す
「この中には占拠<オーバーライド>の魔法が込められています
これを使って、その男の体に入ってください」
「キキッ、承知シタ」
魔封じの水晶を受け取った悪魔は、目を閉じて何かを念じると
だらりとその場に崩れ落ちた
そして白目を剥いて気絶していた穴がぴくりと動き、不快そうに顔を顰め、ジタバタともがき始める
「グゥゥ…!フーリンカ様、コノ体オカシイ!オナカ痛イ!!」
「ああ、それはニューロリストくんの苦痛の王<キング・オブ・ペイン>だ。いと尊き御方の為に我慢したまえ」
いや、そんな必要ないが?
「ニューロリストさん魔法を解除してください
痛みが共有されるのは実践済みなので」
「あら…もうやめちゃうの?せっかくいいところなのに…
でもフーリンカ様が望むならその通りにするわ」
パチンと細長い指を鳴らすと、ジタバタ暴れていたベリュース(グレムリン)が大人しくなった
肩で大きく息をする自分の部下を前にしても何も動じず、流石フーリンカ様、などと一人関心しているデミウルゴスはスルーし
「ではこれを食べてみてください」
インベントリからデビル唐辛子――地獄産の錬金素材を手渡す
「!感謝シマス、フーリンカ様!頂キマーカッ、辛イイイイ!!!」
悪魔の大好物という設定のアイテムに目を光らせ、ひったくる様にして奪い口に放り込んだグレムリンだが、次の瞬間顔を真っ赤にして咆哮をあげ、ぺっぺと必死に吐き出し始めた
「いと尊き御方から頂いた食べ物を吐き出すことの意味はご存知でありんすねぇ?」
「こらシャルティア、威嚇しない
実験は成功ですね。悪魔にとっては美食であるデビル唐辛子も、人間が食べたら立派な凶器
ということです」
占拠<オーバーライド>を魔封じの水晶に込めれば、他人でも使えるようになる
そして味覚はやっぱり、憑依した対象に依存する
「…なるほど、いと尊き御方のご叡智、このデミウルゴス感服いたしました」
「どういうことでありんす?」
「僕が運営している牧場の肥料改善といったところだね
囲ってみたは良いものの、維持が大変でね
丁寧に作ったミンチも直ぐに吐き出され、衰弱死するものまででる有様だ
原因がわからずずっと頭を悩ませていたのだが…その理由にお気づきになられて、御身自ら示していただけるとは…」
穴(グレムリン入り)に浄化<ピュリファイ>の魔法をかけて辛味を癒してるそばで
感極まったデミウルゴスが興奮した様子で熱弁している
いや、何の話?というかデミウルゴスの任務って牧場経営なの?
元々、アンデットだらけであまり維持費のかからないギルド拠点だから食料は商人NPCと契約してサブスク購入していたけど
こっちの世界だとそんな相手いないし、いざという時のために自給自足できるようにしているのかな
「ま、まぁ…そうですね?コスパも大事ですが、ちゃんとした餌を与えてください
巡り巡って、自分たちが食べることになるわけですから」
どうせ家畜だからと、無限湧きする恐怖公の眷属のミンチで飼育されたりでもしたらたまった物じゃない
「そのような使い道がございましたか!」
となぜか感銘を受けているデミウルゴスが不安で堪らない。何にどんな使い方を見出した?
まさか今までは別のミンチだったけど、今ので恐怖公の眷属に利用価値を見出したんじゃ…
「言っておきますが、牧場に恐怖公を絡めることはいかなる形でも一切許可しませんよ」
「ええ、勿論でございます」
本当に大丈夫か…?とにかく、一番確かめたいことを確認できたので
「私はこれからモモンガを呼んで来ますので、シャルティアは各階層守護者に食堂に集まるよう言伝をお願いしいます
デミウルゴスはこいつにちゃんとした服を着せて、食堂に連れてってください
セバスに準備をさせています」
「「「もしや…!」」」
キラリ、とその場の全員の目が光った気がした
「ええ、宴会です」
狂喜するシャルティア達を後にし、セバスから聞き出したモモンガさんの居場所――宝物殿に転移した