オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

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16.ナザリック地下大墳墓の至上目的

『マスターは、食べないのですか?

アインズ様も皆さんもとても楽しそうにしているのに、そこにマスターがいないのは、とても悲しいです…』

 

乾杯を済ませ、各々が席に着く中

チラッとセバスと目配せしたラッフィーから伝言<メッセージ>が飛んでくる

 

モモンガはナザリックの全員と分かち合いたいとは言ったけど、

部外者の体が一つしかないんだから 体のない私は別の誰かのを借りないといけないもんね

 

下級炎精霊<レッサー・ファイア・エレメンタル>を召喚しても口はないし

デミウルゴスにグレムリン・メイヤーを召喚させても悪魔の味覚は…まあなんというか独特すぎて

 

異種族の味覚というのは

例えば同じようにリンゴを食べて、同じように甘いと口々にするけど

実際には悪魔の甘いは人間にとっての激辛だったりする

なので体を入れ替えて同じものを食べても、全く違う味に中身がついて行けず さっきのグレムリンみたいになる

 

だからといって私を差し置いてラッフィーが食べたら 周りからの恨みが凄そうだしなぁ…

 

『わかった、ラッフィーの分は別に取らせるから』

 

せめて私みたいにワイワイ騒ぐ宴会が好きじゃないタイプなのを祈りつつ、ラッフィーに占拠<オーバーライド>をかける

 

「いただきます」

 

「それは至高の御方々の間に伝わる、おまじないなのでありんしょうか…?」

 

つい日本人の感覚で食前のあいさつを捧げてしまい、隣に座っていたシャルティアが不思議そうにする

 

「ええ、食材への感謝と、それを作ってくれた料理人への感謝といったところですね」

 

モモンガさんはしなかったけど、あそこまで盛り上げておいて「いただきます」は締まらないから、場の流れだろう

 

「料理人へも労いも忘れない寛大すぎるお言葉、まさに支配者たるや行いかと存じます

…しかし、食材になるべくして生まれた下等な存在への感謝など、いと尊き御身に相応しくないかと存じます」

 

向かいに、モモンガのすぐ隣に座っているアルベドが難色を示してきた

 

「好き好んでこのように生まれたわけでもないのに、たまたま運良く上位存在に生まれたからと、見下していい道理は無いですよ

自分勝手な都合で命を奪うのだから 相応の敬意は示すべきですし、それが彼らへの供養にもなります」

 

「至高の御身が上位存在であらせられるのは必然のことです

…ですが、取るに足らない下等生物にも陽の光のように分け隔てなく憐憫を与えられるというのなら…それに倣いましょう」

 

渋々と手を合わせるアルベドに続き、守護者一同も食材への感謝を告げる

 

…上位者として振舞うには、さっきのはまずかったかな

下等生物と見下すアルベドの言葉に、ついカッとなって反論してしまった

私だって、元いた世界では取るに足らない――搾取されるだけの存在 どんなに努力しても抗えようのない枠組みに囚われて

生まれながらに鎖に繋がれた、家畜のようなもの

 

こうして白亜の宮殿で支配者気取りで、従者を侍らせられるのも本当にただ運が良かったとしか言えない

 

「ま、まあ ナザリックの支配者である以上自身を貶める行為を心苦しく思うアルベドの気持ちも分からなくはない

だが風鈴k――ウールの言うように、生まれる身を選べない以上 弱者に対しても最低限の敬意という物はある

 

ナザリックに対し明確に敵意を、害をなす存在でなければ 不要に尊厳を踏みにじる必要はないだろう」

 

どことなく気まずい雰囲気になったのを収めるように、自ら進んで料理に手をつけ始めるモモンガ

 

釣られて守護者たちもそれぞれナイフとフォークを手に取り、主の一挙一投足を伺う

間違っても、主より先に料理に手をつけてはならないとばかりに

 

ナザリックを挙げての一大イベントだけあって、初日に食べたものとは比にならない豪勢な料理に

硬い動きでフォークを突き刺し、ジュワッと溢れる肉汁が滴るままに急いで口に運んだ黒マントを羽織った豚――もとい中身モモンガは、カッと目を見開く

 

「フフフフフッ ハハハハハ!

これが物を食べる感覚…食事か」

 

我を忘れたようにフォークを動かし、一心不乱に料理を口に運ぶアインズ

気持ちはわかる。一週間前始めてこちらの料理を食べたときの私も大概似たようなもので、本当に他のことなんかどうでも良くなりそうな味だもんね

 

アーコロジーの金持ちが食事なんかに大金を注ぎ込む理由をあの時始めて理解した

 

■■■■

 

美食にとり憑かれ、我を忘れたモモンガに倣うように、食欲に支配された宴がひと段落着いたころ

ラッフィーに体の支配権を返し、フラフラと会場を散策していると

守護者たちらしきシルエットが会場の一角に集まって何やら談義しているのに気づく

 

至高の主と仰ぐ相手があそこまで食事にがっついてたら、流石に冷めてしまったとか

とても嫌な予感がしたので、近くに控えているシルエット――おそらくメイドにこっそり騎乗<ライド>して話を盗み聞きすることにした

 

「セバス、アインズ様とウール様が会食をした際のことを皆に」

 

「ウール様が食事を召し上げられたとき、アインズ様と同じようにいたく感銘をお受けになられました

 

その時アインズ様は料理を口にしたものの、元の御姿ゆえ食べられず

”生憎と食べられない死者の身だが、たまには生前を振り返るのも悪くない”

そう仰っておりました」

 

アルベドに問われ、初めてこの世界に来た夜のことをしみじみ語りだすセバス

 

「アンデットには生の世界が遠いでありんすえ

温もりに飢え、刺激に飢え――だからこそ、生の世界への憎しみが募っていくでありんす

肉体を持つ吸血鬼であるわらわでさえ、時たま気が狂ってしまうほどどうしようもなく苦しく思いせんし」

 

その時の辛さを思い出し、顔をしかめたシャルティアの言葉に

守護者たちの表情が険しくなる

 

「アインズ様もウール様も肉体を持たないアンデット――

想像を絶する苦しみに苛まれ、それでも我々を心配させまいと、常に上位者として振舞ってくださっていた…ということですね」

 

拳を血が出るほど強く握り締め、唇を一の字に結ったアルベドの口から辛うじて絞り出された言葉に、シャルティアは重々しく頷いた

 

「なんということだ!我々は…!自分たちが忠義を尽くしたいがだけに、至高の御方々の気持ちを慮ることもせず

自己満足の忠義を押し付け!忠義を尽くしていると思い込み、至高の御方々の慈悲に甘えていただけか!」

 

失礼、と思わず握りつぶした骨削のゴブレットの残滓をパラパラと払いつつ、ドサりとソファに腰を下ろすデミウルゴス

重々しく白い溜息を吐いたコキュートスに、あの、あの と何かを言おうとして言葉がまとまらないマーレ

 

「アインズ様もウール様も生の実感に飢えている

その解決法は――ウール様が深遠の叡智を持って、今日この場にて示された

 

ならば我々の使命は明らかね」

 

話を纏めるようにアルベドが全員の中央に歩みだす

 

「各員ナザリック地下大墳墓の至上目的は

アインズ様達に美食を

地上の天空の空のこの世のありとあらゆる全ての食の可能性を探求し、研鑽し、

もっとも洗練された至高の味わいをお渡しすることだと知れ」

 

歓喜の声を上げる一同

 

ねえ、どうしてこうなった?

 

もしかして占拠<オーバーライド>と同じで騎乗<ライド>も実はNPC達に気付かれていて

上司<私>の前だから忠誠心MAXの背中がムズ痒くなるクソ寒い演技を全員でしてるとか?

…いや、いくらなんでも被害妄想がすぎるか

 

早速美食の何たるかを学ぼうと厨房に押しかけていった一同にこれ以上ついて行けず

騎乗<ライド>を解除した私は誰もいなくなった白黒の世界でゆっくり頭を冷やしてからモモンガさんのところに戻った

 

■■■■

 

『モモンガさんモモンガさん

って、人の体でどんだけ暴飲暴食かましたんですか??

人の心がないんですか!?』

 

既に食事を終え、占拠<オーバーライド>を解除して元の体に戻ったモモンガさん

その足元でお腹を大きく膨らませ、黒革ボンデージが食い込んでボンレスハムみたいになってる穴が脂汗を浮かべて気絶していた

知らない間に体を使われて、気づいたらブクブクに太ってるとか悪夢か

 

『ふうかさんこそ今までどこ行ってたんですか?

他のみんなもどっか行っちゃうし勿体ないからメイド達と一緒に頑張って全部食べたんですよ』

 

『…わーい、勘違いが加速しますねコングラチュレーション』

 

『え、勘違いって何の話ですか?』

 

耳をすませば聞こえまっせ

モモンガの食べっぷりを賛美するメイド達のヒソヒソ話

 

『まあそれより、宴会どうでした?楽しかったですか?』

 

『はい!大満足です こんなに美味しいもの食べたの、生まれて初めてですよ!

ふうかさんがいなかったら一生有りつけることができませんでした

本当にありがとうございます!』

 

『そ、そんな素直に喜ばれると…まあ嬉しいですけど』

 

皮肉を返そうと思ったのに本当に生き生きしててその気も失せた

 

『それで、これからはどうするんですか?食事も出来るようになりましたし

穴の体を借りれば他にもいろんな事は出来るでしょうけど

娯楽にばかり浸ってたら人間すぐ駄目になりますよ』

 

もう会社に行く必要もないし、このままナザリックに篭ってのんびりと一生を過ごすのも悪くない

なんて言い出しそうな雰囲気でソファーでぐてーとしてるモモンガさんに圧をかけていく

 

『そうですね…やっぱり、この世界でのナザリックの基盤を固めることが最優先でしょうか

 

その上で、他のギルドメンバーの安否を確認、合流する

…ただここ数日、アウラに周辺の調査をさせましたけど、プレイヤーは見つからなかったので

 

スルシャーナさん達のように百年単位で時期がずれてることも考えると、街で情報収集する必要も出てきますね』

 

『村長から教えてもらった最寄りの街だと、エ・ランテルでしたっけ』

 

机の上に開きっぱなしになった、セバスが取ってくれたノートを覗き込む

エ・ランテルの他にもリ・エスティーぜ王国とバハルス帝国、スレイン王国の項目が書かれ、それぞれ注釈がついている

 

『ええ、なんでも冒険者ギルドという組織があって、腕に覚えのある冒険者たちが集まる場所だそうです』

 

『冒険者か…ユグドラシルの時も私たちプレイヤーはNPCから冒険者って呼ばれてましたね

クエスト受けたり、色々便利な定番設定だからでしょうけど』

 

『懐かしいですね~…あの、ふうかさん

よければもう一度、冒険にでてみませんか?』

 

その言葉を待ってました

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