オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

17 / 37
17.プロジェクト・ベリュース

吹雪が吹き荒ぶ蒼白の平野

甲冑のような外甲をもつ白銀の昆虫人を先頭に、白無垢を着た女性型のモンスターが続き

その行列に守られるように肘が地面に着くほど長い二本の巨腕を引きずったメイド服の少女が進行している

 

「気分はどうダ?もう少し吹雪を弱めるべきカ」

 

「氷結無効の魔法を掛けていますので、大丈夫ですよ コキュートスさん

でも、お気遣いとても嬉しいです」

 

心配させまいと含羞む少女に、コキュートスは「辛くなったら何時でも言うのだゾ」、と進んでいく

 

今日はラッフィー達に第五階層「氷河」で素材調達をお願いしていた

準備があるので、ニューロニストのところで待っていると伝えたものの

彼(彼女)から熱烈なアプローチを受けるモモンガが面白――じゃなく、その乙女心を汲んで

途中からこっそりラッフィーに憑いている

 

普段あからさまにラッフィーを贔屓している自覚はあるので

私がいない間に嫌がらせを受けてないかの確認も予てだが、武人肌のコキュートスならそもそも不要の心配だったようだ

 

「着いたゾ」

 

吹雪のなか目を凝らさないとうっかり落ちてしまいそうなクレーターの淵で立ち止まる

 

「ありがとうございます、コキュートスさん

竜骨の埋葬地…マスターが仰ってた、ドラゴンの心臓、頑張って見つけないと、ですね」

 

巨腕を斜面にめり込ませ、体を支えながら滑るようにクレーターの底に降りるラッフィー

先導しよう、と一飛びで着地したコキュートスが合図を送ると、一瞬だけ吹雪が止み

谷の底に氷漬けで保存された竜や巨獣、その他強力なモンスターの死体が姿を現した

 

今回二人にお願いしたのはマッドサイエンティストのスキル 魔化手術<デモニック・サージェリー>に使う生体パーツの収集で、

具体的にはドラゴンの心臓に、魔獣の革などだ。素体が貧弱すぎるので、できれば筋肉繊維もいくらか欲しい

欲を言えば魔力を生み出す魔嚢もあるとなおグッド、目潰し対策に胞子種の目玉もあれば完璧だ

 

早速ドラゴンの凍死体を見つけた二人が作業を開始したのを見て、もう大丈夫だろうと判断し

騎乗<ライド>を解いてモモンガのいる氷結牢獄に戻った

 

■■■■

 

「い、いや お前の気持ちは嬉しいのだが、私はアンデットなのでな

超えなければならない壁が多すぎる

だから、諦めることだ」

 

「あらぁ、そんな連れないこと言わないでぇ、種族や性別の違いなど些細なこと

そこに愛があればどんな困難だって乗り越えられるわ」

 

氷結牢獄に戻り、モモンガに騎乗<ライド>し視聴覚を傍受した途端愉快な場面に出くわした

ニューロニストがモモンガを壁際まで追い詰め、迫っている現場に

 

『ふうかさんーー!!ヘルプミー!!どこに行ってんですかこの裏切り者ーー!!』

 

ここにいますよー

これ以上はモモンガさんがトラウマになりかねないので、介入する

 

『そろそろ素材が届きそうなので 被検体の所に案内してください』

 

「あら、ウール様戻ったのね

かしこまりましたわ、こちらへどうぞ~

モモンガ様、この続きは今度、二人っきりで、ね♥」

 

パチリ、とウィンクを飛ばし、仕事モードに切り替えたニューロリストは長い指で壁から鍵束を手繰り寄せ

地下牢を進んでいく

 

極寒の地下牢には今現在、一人しか捕虜がいない

 

『おい、穴 生きてるか』

 

「そ、その声は…!頼む、ここから出してくれ!これ以上酷いことしないでくれ!!」

 

伝言<メッセージ>を飛ばすと、ベッドに包まっていたベリュースが弾かれるように飛び上がり、鉄格子まで這ってきた

心なしか太った気がするけど、ここ数日続いたモモンガの暴飲暴食のせいだろう

 

魔封じの水晶が5回までしか魔法を込められないとわかり、節約路線に切り替えたのが3日前

流石に毎食使うと足りないが、節約して使えばそれなりに長く保つ計算だ

 

最終手段として、告死精<バンシー>の魔法リストも網羅してるモモンガさんが星に願いを<ウィッシュ・アポン・スター>でわざとレベルダウンし、

占拠<オーバーライド>を再習得する手もあるが、

必ずや代わりになるものを見つけてまいります!と目を輝かせ飛び出したデミウルゴスを信じて

当面はモモンガさんが普段長居する肉体を作ることになり、人間の味覚が絶対条件なので、何でもすると誓った穴に白羽の矢が立った次第だ

 

『それはお前次第だな 

人間をやめて限りある自由と引き換えに一生私たちに仕えるか

現状のまま一生ここに囚われるか

永遠の眠りにつくか

さあ 選べ』

 

よく考えたらそんなに怨みがある訳でもないが

かといって無事に解放してやると周りに示しが付かないので

できる最大限の妥協案を三つ並べてみた

 

究極の選択を突きつけられ、嘘だろと尻餅つく穴

生憎と現実だ。こればかりは交通事故に遭ったと己の不運を恨んでくれ

 

「至高の御方々をあまり待たせるんじゃないわよ」

 

「一つ目!一つ目を選ぶ!あなた方に忠誠を誓います!!」

 

痺れを切らしたニューロリストが鉄格子に手をかけたの見て、慌てて忠誠を誓う穴

まぁ、一番幸福な選択肢だと思うよ

 

■■■■

 

「なあ、ウールよ 本当にこれに移植するのか?」

 

「仕方ないじゃないですか、未起動のホムンクルス素体、喋れるの女性型しかいないんですから」

 

男性使用人はイー!しか言えないし。

恨み言をネチネチ聞かなくて済む分、そっちでもいい気がしないでもないが

ある程度の自由は約束してるので

 

今私たちは氷結牢獄の地下室、真実の間に併設された手術室にいる

素材を持ってきたラッフィーに占拠<オーバーライド>し、手術台にベリュースと未起動のホムンクルス素体を並べる

 

「オペの内容を確認します」

 

キュッ、と手術用のゴム手袋を引っ張り、宣言する

ツギハギだらけのラッフィーも相まって、気分は完全に某無免許黒医師だ

 

「まず穴――ベリュースの体を魔化手術<デモニック・サージェリー>で合成獣<キマエラ>に改造、

しかる後WI強欲と無欲で経験値を与え、種族レベルを引き上げたあと血肉人形<フレッシュ・ゴーレム>に改造

その後ベリュースの脳をホムンクルスと交換する

長く辛いオペになるから心して掛かってください」

 

「最初に脳を移植したほうが良いんじゃないか?」

 

手術の全容を聞いて卒倒した穴に代わって

手術用具を乗せたトレーを持った助手モモンガが至極まっとうな意見を述べる

 

「人間種と異形種で脳の移植はできないので まずキマエラに改造して異形化する必要があります

それからデミウルゴス案の現地人へのWI使用テストを行いますが、脳移植は経験値喪失が発生するので

その前に上位種に改造します

 

もしキマイラの段階で脳移植を行っちゃいますと、三日もかけてやっと纏めたプランが全部おジャンになるので却下です」

 

本当は占拠<オーバーライド>で空っぽになった術者の本体が別の人に占拠<オーバーライド>された時、術者の憑依先を殺したらその精神はどうなるかも試したかったのに

魔封じの水晶が勿体無いからとデミウルゴス・アルベドから却下された

 

まあ、麻酔はするから寝てる間に全部終わる 安心して眠れ

 

「ウール様、メスを持つときは小指に力を入れないとダメよ、刃先がぶれてしまうわ」

 

スキルは持ってるが、ゲームの時みたいに手をコネコネするだけで手術が成功するわけもないので

人体に詳しいニューロリストのレクチャーを受けながら施術する

 

素人がいきなり執刀医とか大惨事の予感しかなかったのに

適切なアドバイスと部下の拷問の悪魔<トーチャーデビル>達が回復魔法をかけ続けてくれたお陰で

ぐだぐだになりながらも手術自体は成功した

 

――正直、冒険用の「いざという時に気兼ねなく使い捨てに出来る肉体」というコンセプトなので、適当な安価素材で良かったのに

ラッフィーとコキュートスが気合を入れすぎて最上位の素材ばかり取って来たせいで 失敗したらとプレッシャーがやばかった

ニューロリスト様々である。今度から大先生と呼ぼう

 

気になる結果についてだが、

まずはベリュース・改

見た目はそのままにエルダードラゴンの心臓にベヒモスの腹皮、デビルパイソンの筋繊維とマリシャスデーモンの魔嚢

目には無限再生するショゴス細胞を応用した擬似眼球を移植

具体的なレベルは分からないが、素体の魔物から職業レベルを移植してるので

物理・敏捷・魔法の均等が取れたバランス型に仕上がっているはず

試乗<オーバーライド>してみたところ、レベル50のアウラの魔獣と互角なので、多分そのぐらいだろう

 

次に侍女ベリュース

見分けが付きやすいように本人と同じ金髪ショートのショタっぽいホムンクルスに移植

反乱してもメイド達で鎮圧できるように子供型の素体を使用。エロ鳥頭<ペロロンチーノ>の秘蔵品らしいが正直どうでもいい

 

「ない!俺の息子がない!!なんでこんなに声が高いんだ!?あと手も細い!」

 

『それはお前が女の子になったからやで』

 

テンプレのように自分の体をぺたぺた触って百面相しているベリュースをユリの所に送る。あとは上手く躾てくれるだろう

 

■■■■

 

「どうしても、ダメですか…?」

 

場所はモモンガの書斎

インベントリから装備を取り出し、ウキウキで机に並べ厳選するモモンガの傍ら

持ち運ぶのも面倒だからとベリュース・改に入ったままついて着た私は残りストック三桁を切った魔封じの水晶に魔法を込めようとして

悲しそうなラッフィーの声に集中を遮られた

 

「大丈夫よラッフィー、ウール様は私が命に代えてもお守りしますから」

 

相手はモモンガから装備を受け取り確認している戦闘メイド、ナーベラル・ガンマ

いざという時上位転移<グレーター・テレポーテーション>ですぐ逃げられるので、同行相手に選んだ

 

「今回は人間の街に行くから、ラッフィーの姿は目立ちすぎるのよ

…そういうふうにした私が悪いんだけど、だから、お留守番お願い」

 

全身ツギハギだらけのゴシックホラーとか変な性癖で心底申し訳ない。

 

「マスターに作って頂いた体を、不満だなんて思ったことはありません…!

ただ、もしマスターに何かあったとき、その場にいられないと思うと、嫌でしかたなくて…

…私のワガママでマスターを困らせてしまって、ごめんなさい

 

ナザリックで、マスターの旅の安全を、お祈りしていますね…!」

 

本当は一緒に行きたいだろうに、これ以上悲しませまいと健気に微笑むラッフィー

ああ、もうなんて可愛いの!

 

思わず抱きしめたくなる衝動を

モモンガさんの前と穴の体ということで辛うじて自制し

その夜モブメイドの体を借りてめちゃくちゃ添い寝した

 




お気に入りが70件超えました。ありがとうございます

主人公がラッフィー抱く感情は
ラナーがクライムに、レイヴン伯が息子に抱くそれに近いです
きっと三人はとても気が合うでしょう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。