オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

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20.本当に怒ってないんですよええ本当に

アインザックとモモンガから二人掛かりで無理難題を押し付けられ、

悪態をついて逃げるように走り去った男を気の毒に思いつつ、紹介された宿に向かう。

 

ギルドを出て広場を挟んですぐのその宿は、西部劇のような横開きの扉をしていて

押し開いてホールに入るといかにも荒くれ者、といった風貌の客が屯しており

無遠慮な視線を背中に受けながらカウンターに急ぐ

 

「宿だな?相部屋で1日5銅貨、メシは朝は8時まで

昼、夜は別料金だ」

 

「個室を二部屋希望したい。それと夕食もだ」

 

「うん?お前さん、カッパーのプレートだろ?だったらここは…」

 

「先ほど組合で登録してきたばかりなんだ

ここに来るよう紹介されたが」

 

差し出された鍵を押し返し、発行したばかりのプレートを二枚、テーブルに並べると

露骨に顔をしかめる店主。そこにもう一通、アインザックからの招待状を見せると

店員の態度が一気に軟化して、すぐに鍵を用意してくれた

 

「部屋は二階の奥で隣同士だ。本来お湯は別料金だが、特別にオマケだ

今後とも贔屓にしてくれよ」

 

「ありがとう、そうさせて貰おう」

 

鍵を受け取ったモモンガに代わり、店長に一礼して

まずは荷物と入浴を済まそうと階段に向かうべくホールを横切る

 

「おっと!おいおい、痛いじゃねえか!どうしてくれんだよ、おい?」

 

わざと席から身を乗り出した男がモモンガにぶつかり、因縁をつけ始めた

 

「こりゃそっちの女に優しく介抱してもらうしかねえな?」

 

なんて微笑ましいテンプレ通りの小悪党ムーブ

 

「ええ、いいですよ。さあおいで、優しく介抱してあげます」

 

「うっ、やっぱいいです」

 

名声づくりの一環で回復魔法をかけようと、優しくほほ笑みかけながら両手を広げて近づいたら顔面蒼白で逃げられた

おい、なにか釈明があるなら聞こうじゃないか

 

『ふうかさん、それ女の子がしちゃいけない顔です』

 

『パーハラですか、ナーベラルさんにチクりますよ』

 

『容姿じゃなくて表情がやばいんですって!』

 

うるせぇ、笑おうとしたら自然とこうなるんだからしょうがないだろ

 

「あの、ホント調子乗ってました スミマセン」

 

一歩踏み出すと露骨に後ずさる男

 

おい、一応これでも花も恥じらう乙女だからな?

 

「どうして謝るのですか?」

 

壁際まで下がって手足をジタバタさせるそいつの襟元に手をかけ、優しく立たせてあげる

 

『ひ、ひぃぃい!!スミマセン!スミマセン!!ホント悪かったんで!』

 

本当に失礼なやつだな、まるで人が虐めてるみたいに被害者ぶりやがって

勝手に腰を抜かして倒れたから立たせてやっただけなのに

 

「だから何に謝ってるんですか?怒ってないんですよ 本当に、ええ、本当に怒ってないんです」

 

「あひぃぃいいい!!」

 

バッ、と手を振り払われ脱兎のごとく逃げられた

そのまま椅子に足を引っ掛け、女性客を巻き込んで盛大にずっこける

 

想像の斜め上の惨状に唖然と立ち尽くす隣の全身黒フルプレートを見上げ、問いかける

 

『モモンガさん、モモンガさん

わたし、キレイ?』

 

『アッハイ』

 

おいどういう意味だ

 

「おっぎゃああああ!!ちょっとちょっとちょっと!あんた何すんのよ!!」

 

詳しく話を聞こうと後ずさるモモンガさんに迫ってると

男が倒れた方から女性の悲鳴が聞こえた

 

弾かれるように振り向くと

ボサボサの赤髪に雀斑の女性が地面を踏み抜きながらズガズガとこちらに近づいてくる

 

「あんたのせいで私のポーションが割れちゃったじゃない!弁償しなさいよ!」

 

「ポーション?」

 

回復アイテムのポーション?

 

「私が…私が食事を抜き酒を断ち――倹約に倹約を重ねて貯めた金で今日!

今日!買ったばかりのポーションを壊したのよ!」

 

「ならばそいつに請求するべきだろう」

 

指差しで詰ってくる女を押し退けるようにモモンガが割って入ってくる

 

「金貨1枚と銀貨10枚よ

いつも飲んだくれてるんだから払えるはずないわよね」

 

眼光を飛ばされ、巻き込まれないとあからさまにそっぽを向き口笛を吹き始める男の仲間たち

おおう、なんて薄っぺらい友情

 

「あんたさあ、ご立派な鎧着てるぐらいなんだから治癒のポーションぐらい持ってるんでしょ?

現物でもかまわないからさ、カノジョの代わりに立て替えてくんない?」

 

「かのっ!?」

 

そういう関係じゃねぇよ

 

「…持ってますけど、どうしてポーションが必要なんですか?

病気とかなら、私治癒師なので治せると思いますけど」

 

『本気で聖女フーリンとかやるんですか?』

 

『そうじゃなくて

一本で完治するとか、たぶんエリクサー級のレアポーションですよ?

物資を食いつぶすしかない今そんなレアアイテムのストックを切るぐらいなら

魔法でパパッと治した方が安上がりじゃないですか』

 

それにポーション一本だけじゃ完治は難しいかもだし

 

「はあ?なんでそうなるのよ

保険よ保険、戦闘で負傷した時用にポーションぐらい用意するでしょ

冒険者の常識よ?」

 

「そういうことなら、持っているが…」

 

マントに手を突っ込み、こっそりインベントリから下級治癒薬<マイナー・ヒーリングポーション>を取り出すモモンガ

差し出されたポーションを訝しげに見つめ

 

「赤いポーション?」

 

「これで問題はないな?」

 

「ええ、ひとまずは」

 

ひったくるようにして奪い、伸びてる男を蹴りで退かして席に腰を落とし、食事を再開する女冒険者

安物で誤魔化されてくれてよかった、とホッと息をつくモモンガさん

 

「さて、邪魔が入ったが私たちも部屋に行くとしよう」

 

■■■■

 

あんな騒ぎがあった後で下で食べるのは気まずく、

モモンガの部屋まで持ってこさせた料理をテーブル代わりの木箱に乗せ、床に座って二人で囲む

 

「「かんぱーい!」」

 

木製のマグいっぱいに注がれたビールを打ちつけ

香辛料を混ぜたバターのような物をナイフで切れ目を入れたパンに塗り込み、手づかみで食べる

 

パンにシチューに肉料理と、ナザリックのと比べたらかなり見劣りするが

こういういかにも冒険者向けの食事というのはファンタジーの定番で、雰囲気だけでもうワクワクが止まらない

 

「なにこのソース、美味しい!」

 

「ですです!微かに酸っぱくて辛いのに塩気もたっぷりで…

塗るだけなので色んな料理にも合いそうです

ナザリックでも作れないか、少し持ち帰りますね」

 

残ったソースをインベントリに突っ込むモモンガさんをよそに、肉料理に手を付ける

引き締まった肉は手に持ってみるとズッシリ重く、口につけると濃い塩気とパサパサの食感がした

 

「それは多分保存食ですね。いや~いかにも冒険者の宿!ってかんじですね!」

 

笑いながらビールで燻製肉を流し込むモモンガに倣ってみると意外と美味しい

肉の渋さとシュワシュワしたビールの泡が噛み合って、どんどん食が進む

 

最後はスープ。キノコとポテトを煮込んだドロドロの白いシチューで

こちらもまた塩気が強め

それでもどろりと暖かい物が喉を通ってお腹いっぱいに広がる多幸感にドーパミンがドバドバと溢れる

 

「なんか、こういうのっていいですよね~」

 

「ナザリックの料理は美味しいですけど、毎回王様の晩餐状態で堅苦しいですもんね

自室で食べる時も、ラッフィーの体なので実質一人飯ですし

 

「ですです、食事はみんなでワイワイするのが一番ですよね

『それがお望みであらば、皆よ”談笑したまえ”』とか逆に気まずいって!」

 

本当になー。支配の呪言で談笑を命じるとかパワハラ上司も真っ青

 

「それに王道ファンタジーみたいに、お酒や料理をチビチビ摘みながらポーカー勝負とかもしてみたいですねー」

 

「あとタブラさんが必死に流行らせようとしてたクトゥルフTRPGも追加で

なんにしても、まずは仲間作りですね」

 

「そう…ですね。そのためにも、ギルドの皆を早く探し出さないとですね!みんなの再会に、乾杯!」

 

一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべるモモンガさん。しかしすぐにビールを手に取り、勢いよく杯を挙げた

 

それ飛び散るからやめろ

 

■■■■

 

楽しかった夜食も眠気が勝り出し、そろそろ部屋に戻ろうと廊下に出る

熱気にあてられた室内と違い、しんと冷たい空気が火照った顔を冷ましてくれる

 

それにしても、いくら中世ファンタジーで照明がロウソクとはいえ、真っ暗な廊下は流石に怖い

窓ぐらい開けてもいいのに。

 

それとも酒盛りしすぎて消灯時間超えちゃったか

手探りで部屋まで行き、鍵穴を探り当てたその先で――

 

「一緒に来てもらうぞ」

 

低い男の声と共に鈍い音がした

 

「…え?」

 

「は?」

 

視線を落とせば黒ずくめの男が私のお腹を触っていて

 

「わーい!痴漢!」

 

いや、何がわーいだ!ここはきゃあだろ

くっ、まさかこんなイベントが自分に巡ってくるなんて思わなくて反応を誤った

 

「ち、ちがっ!」

 

「ふうかさん大丈夫ですか!?

――おい貴様、惨たらしすぎる死に方をしたくなければ今すぐ彼女を離せ」

 

勢いよく扉を開き、いつの間にか抜刀したモモンガさんが飛び出してくる

 

「くっ、しかたない、一斉に掛かれ!

…おい、大人しくしていろ、じゃないと切る」

 

合図を出しつつ流れるような動きで背後に回った男が首にナイフを突き立て、後ろに引きずる

入れ替わるように複数の気配がカタカタと乾いた音を立ててモモンガに飛びかかる

 

「どけ!」

 

躊躇いなく振り抜かれた大剣は硬い者同士がぶつかる音と共に何かを辺り一帯に撒き散らす

コロコロと部屋の入口まで転がったそれは、人の頭蓋骨だった

 

「なっ!スケルトン・ウォリアー達を一撃だと!?

ええい、一斉に魔法を放つぞ!

火の矢<ファイヤーボルト>」

 

号令を出しながら自身も手を突き出し、掌に火の玉を浮かべる男

 

火や雷の矢がモモンガに殺到する――

 

「上位障害障壁<グレーター・ダメージ・バリア>」

 

その前に障壁魔法を発動して全て防ぎきる

 

「馬鹿な、あれだけの数の魔法を防ぎ切っただと…!!

いや、ありえるか…!

 

おい、お前!

今度余計なことをしたら本当に掻っ切るぞ!」

 

こちらの存在を失念していた男が驚愕に震える

あ、これって

 

「上位障害障壁<グレーター・ダメージ・バリア>」

 

「ちっ、痛い目を見ないと分からないみたいだな!

…!?くっ、はっ、離せ!!」

 

自分に障壁を掛け、首元の刃を跳ね除けてそのまま男の首を掴むと

自分でも驚く程に、まるで子供のようにすんなり持ち上げることができた

 

「ぐぇっ、やめろ!離せっ!このっ…!!」

 

最初は掌で、やがて刃物も突き立てて逃れようとする男だが、それらは全て障壁に阻まれ意味を成さない

抵抗などまるで無いように手を伸ばし、その覆面を剥ぐと――

 

「やっぱり」

 

昼間ギルドで自傷してきた男の顔だった




<通話中>
オリ主:デミウルゴス、私が笑う時ってどんな感じ?

デミ:はい!友好の意図を示しつつ、相手が被捕食者でしかないことを刻みつけ、己の立場を思い知らせることで決して図に乗らせない
まさに至高の御方に相応しい笑みかと存じます!
かくいう私も御身に憧れ、練習していはいるのですが、どうしても上手くできず
<通話終了>
やはり至高の御身の深遠なる御技を私ごときが真似らるわけがないので有りましょうね

…もしもし、ウール様?ウール様ーー!?」
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