オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜 作:アバダケダブ郎
感想・誤字報告ありがとうございます!
「アンデットとは穏やかじゃないな」
首を掴んだまま壁際に押し付けた昼間の男の顔を覗き込みながら
闇に潜む男の仲間達から庇うように私の前に立つモモンガ
「昼間の逆恨みか?」
男の仲間への牽制の意味も込めて武器を突き出すと、返事の代わりに暗闇の中蜘蛛の子を散らすように逃げていった
「仕掛けてきたのはそっちだ、覚悟は出来てるな!」
――一人たりとも逃すものか――
「待ってください!」
「…なんだ、ふう――フーリン」
剣を振り上げ、躊躇なく男を切り殺そうとしたモモンガを慌てて止める
「確かに襲ってきたのはアレですけど、そもそもモモンg――が法外な額を吹っかけるからでしょう」
『あのですね、ふうかさん』
呆れた溜め息と一緒に飛んできた伝言<メッセージ>を払いのけ
「それに、ここで殺すより、捕まえて冒険者ギルドに突き出したほうが
襲撃を返り討ちにしたって実績に繋がると思いますよ」
「まあ、確かにそうだが…」
冒険者ギルド、という単語に男がびくりと反応する
「頼む!それだけはやめてくれ!
あんたが言うとおり 法外な報酬を吹っかけられて、いっそ拐ってしまおうと思ったんだ
…虫のいいことは重々承知だが、どうか見逃してくれ!
報酬は――報酬は必ず用意する!」
「さっき逃げていった連中は」
「仲間だ
…同じ冒険者の仲間たちだ
だから、頼む!見逃してくれ…!
ギルドに突き出されたら俺たち全員路頭に迷っちまう!
そうなったらあんな大金 一生…!」
手を離しても、逃げることなく喉元を抑え咳き込みながら必死に嘆願する男
「いいだろう。だが、汚い金を積まれても彼女は動かない
それを忘れるな」
剣を降ろし、態とらしく隙を見せて鞘に収めながら背中を見せるモモンガ
『これで良いんですよね?ふうかさん』
『我侭に付き合ってくれて、ありがとうございます
…やっぱり、迷惑ですよね』
『そんなことないですよ
やりたい事をやるのがオープンワールドの醍醐味ですから
それにユグドラシルでもこういうシチュのクエストは沢山ありましたしね』
――流石にふうかさんやナザリックの危険になるなら殺しますけど――
『…報酬はあまり期待できませんよ?』
これはゲームなんかじゃない、死んだらそれっきり――それを知ってるのに、態とらしくゲームの話で茶化して
何でもないという風に装って…きっと、本心は
無防備を晒しても再度襲って来るような事はなく、感謝の言葉を繰り返しながら走り去っていく足音を背中に感じつつ、
各々の部屋に入る。
…何やってるんだろうな、私は
無責任に同情なんてするから、チャンスありかもと付け上がらせて
こんなことになっているのに
そのうえ守ってくれたモモンガさんに見逃せだなんて、どれだけ図々しいんだ
魔物が蔓延り、人間同士が殺し合うこの凄惨な世界で、あんなの悲劇ですらない、有りふれた日常でしかないのに
ゲーム感覚なのは、私のほうだ
■■■■
一夜越えて、依頼を受けるべくギルドに向かった私達は
暖簾を潜った途端無数の冒険者にひっきり無しに声を掛けられていた
昨日あれだけ目立ったのだから当然と言えば当然だけど
なんというか
『普通の冒険がしたい…っ!』
『ホントそれです』
勧誘合戦にうんざりしてその場を抜け出し、外壁近くのこぢんまりした食堂に変装してまで忍び込み
チビチビと昼食を取りながら伝言<メッセージ>で愚痴り合う
殿様待遇なんてこの数日ナザリックで一生分受けてきてお腹いっぱい
のびのびと自由に冒険したいからこうして一般人のフリして冒険者登録してるのに
…チマチマとランク上げするのがしんどいからって、第六階位宣言して飛び級しようとしたのはどこの誰?という話だが
『もういっそ、整形してやり直します?ロンデスさんとか知り合いが見たらバレバレですし、その顔」
『でもナーベラル、その姿しか成れませんよ?』
『マジかー。一番顔出してるのに…
ほかにドッペルゲンガーっていましたっけ』
『いますけど、レベルが低いので人間の姿は無理ですね…
シェイプシフターならデミウルゴスのところに結構いますけど』
『シェイプシフターは変身しても味覚が悪魔のままだから嫌です』
なんて実りのない話を味の薄い緑色野菜のペーストを固めた料理をチビチビ摘みながらしていると、
申し訳なさそうな顔した女将さんが小さな男の子を伴ってやってくる
「お客さん、悪いけど相席頼めるかい?」
すみません、と小さく手を振る少年
「いいですよ。ね、モモンガさん」
「え?あ、ああ…」
モモンガの偽装であるモモンから隠れるために変装してるので、一周回って本名を呼ぶ奇妙な状況
許可を得た少年は、ありがとうございます
とこちらの隣に座ってくる
こういう年頃の男の子って変に異性を意識して、露骨に距離を取って来そうなものなのに
デミウルゴスお揃いの丸眼鏡で商人に変装したモモンガが余程胡散臭かったんだろうな
「何を食べてるんですか?」
「これですか?ンピニャッコっていう、ゴブリンが作る果物の干物です
何の果物を使ってるのかは誰も知らないんですけどね…」
ポリッジを頼んだ少年が何やら見たことのない干物を浸し始めたので
会話の取っ掛りにと、何気なく訪ねてみたら想像の斜め上の返答が帰ってきて思わず耳を疑った。
「あ、違いますよ?ゴブリンが時々持っているんです
ゴブリンの商人から買った、なんて おとぎ話みたいな話じゃないですよ」
変な意味に捉えられたと思ったらしく、慌てて弁明する少年
「ドロップアイテムということか…冒険者ギルドで買ったのか?」
「確かにギルドに納品することもできますけど、額が微々たるものなので
普通は自分たちで食べますね」
「随分と詳しいんだな」
「私、こうみえても冒険者なので」
喫驚するモモンガにしてやったりと、少年はふふっとほくそ笑む
「まだ小さいのに、しっかりしてるんですね‥」
思わず呟いた感想に少年が唇を尖らせる。あ、失敗した
子供に子供扱いはタブーなのに
「貴族のお坊ちゃまとは違いますからね
子供だろうとなんだろうと、お金がなければ働くしかないんです 平民は」
「ううっ、ごめんなさい」
そういう意味じゃなくて、本当に感心しただけで
「でもそれなら、冒険者じゃなくてもほら、食堂とか、もっと安全な仕事があるじゃないですか?」
「街の子ならともかく、元農民なんてどこも雇いませんよ
売上をくすねて逃げられても中々捕まりませんからね
だから一番危険で誰もやりたがらない冒険者をやるしかないんです
ギルドを通してるので報酬を持って逃げられる心配もないですし
それに子供の冒険者は安い上にすぐ死ぬのでチームでも引く手数多なんです
下手に年を取って、役目は同じなのに分け前だけは一丁前に要求してくる――なんてことがないので」
あなたたち商人が一番よく使う手口ですもんね?と言わんばかりの皮肉たっぷりの口調
その会話にはもう親近感しか湧かなかった
『モモンガさん、モモンガさん
この子実はユグドラシルプレイヤーだったりしません?そうでなくても、現代日本から転生してきた子とか
やさぐれ具合がもうまんまです』
『ちょうど同じこと言おうと思ってました…』
■■■■
それから何気なく現代日本のネタを織り交ぜて会話してみたけど、残念ながらシロだった
なんでも貴族に酷い目に遭わされたらしく
成金コーデのモモンガが綺麗なお姉さんを侍らせて貧民街の食堂で昼間堂々酒を飲むもんだから
わざわざ煽りに来たのかとムカムカして意地悪を言ってたらしい
嬉しいけど、綺麗なお姉さんの身体借り物なんだよね…
それで妙に波長が合うというか打ち解けて、実はこちらも冒険者でモモンガの格好はただの性癖と打ち明けたら
チームの仲間に紹介して貰える流れになった
誰が性癖だ!と抗議するおしゃれスーツのインテリヤクザ風味お兄さん一名ほどはさておき
「では改めまして、私は漆黒の剣のリーダー、ぺテル・モークです
それであちらがチームの目と耳であるレンジャーのルクルット・ボルブ
そして治癒魔法や自然を操るドルイドのダイン・ウッドワンダー」
「ハーイ」「よろしくお願いする」
リーダーのペテルに紹介され、軽薄そうな男と重厚そうな男がそれぞれ会釈してくる
「そして最後に
「その二つな恥ずかしいからやめません?」
思想は中二病っぽいのに、そういう感性はまともらしいニニャが反論する
「いいじゃないか、タレント持ちなんだから 前面に出して宣伝してかないと」
「ほう、タレント?」
聞き慣れない単語にモモンガの目が光る
たしか、穴の言い分ではこの世界で生まれついての特集能力だっけ
「魔法適性とかいうタレントで、たしか習熟に8年かかる魔法が4年で済むんだっけ?」
「それは凄い」
感心するモモンガに小さく頷くニニャ
「この能力を持って生まれたことは幸運でした
…夢を叶える第一歩が踏み出せたのですから」
それでもこの街にはンフィーリア・バレアレという、どんなマジックアイテムでも使える人がいて
そっちの方がずっと有名人らしい
『クラス制限のあるユグドラシルアイテムでも使えるんでしょうか』
『さあ…あ、捕まえて実験とかそういうの勘弁してくださいよ?』
などと失礼極まりない念を送ってくる中身骸骨魔王。人のことをマッドサイエンティストか何かと勘違いしてない?
タレント持ちと第六階位の使い手
有名人同士のパーティもあって、ギルドに入っても他の冒険者から執拗に勧誘されることなく
互の紹介を終えて依頼の受注に向かった。