オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜 作:アバダケダブ郎
「お主は、いや、あなた様は一体、何者じゃ…!?」
ンフィーレアを回収したモモンガの転移門<ゲート>でカジット一味をナザリックに飛ばし
最後の一滴まで魔力を絞り尽くしてニニャ達を蘇生して
魔力切れを起こして虫の息なモモンガの代わりに墓所の一件を原因不明のアンデットのスタンピードとギルドに報告して全ての功績をモモンに擦り付け、
今回の一件で身の危険を感じたバレアレ一家をカルネ村に送り、同行した漆黒の剣が修行のために残りたいというのでカルネ村に残してエ・ランテルに戻り
ギルドからオリハルコンの昇進とチーム名”漆黒”、モモンの二つ名”漆黒の英雄”、何故か”黒蝶の聖女”と二つ名を貰い、
ギルドを挙げての祝賀会を存分に楽しみ、
「男同士の親交を深めようじゃないか」とモモンガを夜の街に連れ出したアインザックを見送って諸々の後片付けを済ませて
ようやくナザリックに戻り、最古図書館<アッシュールバニバル>に直行した途端
私の到来に膝まづくNPC達に気づいたカジット一派が、山積みの書物の間から畏敬の篭った血走った眼差しをこちらに向けてきた。
「身の程を弁えたまえ、人間
君達にチャンスをお与えになってくださったいと慈悲深き至高の御方に図が高いとは思わないかね?
”平伏したまえ”」
呪言を使って、一同を這い蹲らせるデミウルゴス
「わがままを聞き入れて貰い感謝します、デミウルゴス
何か進展はありましたか?」
「とんでもございません!ウール様の深遠なる英知に沿うよう、この身にできる精一杯の幇助をしたに過ぎません
進展ですが、人間にしては魔術への理解が深い――とはいえ、天性の才ではなく、積み重ねた知識によるものですが――及第点程度の解は出せております」
「つまり、見込みはあるのですね?」
「三段登って二段降りるのを繰り返し、100の階段を気合で登りきる――そんな泥臭く愚かしい、ウール様の御目に与ることすら憚られるような見苦しいものではありますが
結論からいうと、見込み自体はあるかと」
どこか面白くなさそうに、徹底的にこき下ろすデミウルゴスを見かねて
動物とも人間とも付かない骸骨の司書長、確かティトゥスなんとかなんとかが話を遮る
「失礼ながら、デミウルゴス様
ユグドラシルに存在しない魔法を、彼らは独自に開発しています
その情報を取るに足らないものと一蹴し、報告を怠るのは至高の御方への不誠実かと
ウール様、こちらを」
そういってスクロールを数本載せたトレーを差し出してくる
「これは?」
「はい、この人間どもが属す組織が独自に開発した魔法で
効果は対象に魔力的な印を刻みつけ、対応する魔法を使えば何処からでも探知できる、というものです
刻印<マーク>と特定<サーチ>と彼らは呼んでおります
ユグドラシルでも同様の魔法はございますが、こちらは全く別の原理で成り立っており、研究する価値は十分にあるかと」
そのような児戯を、と拗ねるデミウルゴスを横目に、差し出されたスクロールを一本手に取る
確か、スクロールを使うときは魔法名を唱えれば良いんだっけ
「刻印<マーク>」
試しに自傷男――クラウに掛けてみる
なんの反応もないが、確かに魔力的な繋がりができたような気がする
続いて特定<サーチ>を使うと、青白いオーラがクラウを包み
視覚だけでなく、感覚的にもその存在を感じ取ることが出来るようになった
「刻印<マーク>はユグドラシルとは違い、時間制限がなく
こちら消去<イレイズ>を術者本人が使うことでしか解除できません
こちらのカジットにも同様の術が掛かっており、解除方法を模索中ですが
ナザリックの場所を特定されるリスクを鑑み、現状では護衛付きでアウラ様達がカルネ村近郊の森にて建築中の偽拠点に移すのが良いかと存じます」
余計なことを、と歯軋りするデミウルゴスをよそに、
ローブの裾から三本目のスクロールを取り出し、差し出してくるティトゥス
手に取り、発動すると
男を覆うオーラと気配が消える
「とても興味深いです、報告に感謝します
偽拠点についても承認します。ただ当プロジェクトの重要性を鑑み、万全の護衛体制でことにあたるように」
「このデミウルゴス、しかと承りました
ナザリック防衛指揮官の名に恥じない、万全の警護体制を御覧に入れて見せましょう」
「頼もしい限りの言葉とても嬉しく思います
デミウルゴスの懸念もわかりますが、研究とは一見してつまらないことの積み重ね
ピースが多ければ多いほど、それらを組み合わせて得られる結果が指数関数的に増えていくものです」
――というのは、研究部門のレポートを取りまとめ、応用法を見出す事務職の経験に基づいた実体験
それに、ユグドラシルのレシピも一見全く関係ないところから派生するものだし、あながち間違いではないはず
「多忙なあなた達をこんな事に付き合わせてしまい、申し訳なく思います
ですが、現地の魔法体系に基づいた新しい魔法の開発はナザリック全体の利益に繋がる大事なプロジェクト
大変ですが、引き続き彼らのサポートをお願いしますね」
「御意に」
今回の研究についてはちゃんとモモンガさんに承認を取っている
ゲーム時代の魔法を理解もせず本能で使うだけだとこの先もしもの時に困るし、
なにより地球と行き来する方法がわかればギルドのみんなをこちらに連れてこれるかもと、思ったより乗り気で
ナザリック三大頭脳(アルベド・デミウルゴス・宝物殿の埴輪)を総動員しようとしたので
まだ下段階だからしばらく様子見が必要となんとか押し止めた
ニニャの姉の件があるので、今デミウルゴスを専属にされるとちょっと困る
それに埴輪もナザリックの維持費捻出に欠かせない存在だし、
カジット達みたいに扱いやすい、むしろいっそ魔法の探究が人生目標な現地人の大賢者がいればいいんだけど
…そんな都合のいい話ないか
しばらくは司書達だけで大丈夫だろうと、カジット達の世話を任せ
デミウルゴスを伴って退室する
「あれは?」
「はい、ウール様の命に従い各地より回収された
あの人間達に対する人質にして実験体でございます」
図書館の奥、巨大な氷塊の中に氷漬けにされた人間の残骸達
四肢を失ったものや干からびたもの、骨だけになったものや灰の塊
そして一際目立つの、眠るように目を閉じているカジットの母
「回収した時点で、全員の死亡が確認されております」
こちらの視線に気づき、解説するデミウルゴス
てっきり生きたまま氷漬けにしてる、とか言い出すと思ってたのに
「ご苦労様です、デミウルゴス
第十階位スクロールの素材開発に魔封じの水晶探索、それから牧場運営と諜報活動、その上今回の件まで任せてしまって
あなたには本当に頼りっきりですね…
何かお礼をしたいと思うのですが、望むものはありますか?」
「何を仰られます!ウール様に頼って頂けることがどれほど幸福なことか!
それに加えて褒美など、望外の喜びでございます!
…しかしながら、もしそう仰るのならぜひ、ウール様にお食事を――
ディナー?…そういえば、美食を捧げるとかなんとか、あの時言ってたっけ
「分かりました
楽しみにしていますよ」
「感謝致します、ウール様!それでは早速、用意して参ります!」
あ、ちょっと待って
と呼び止める間もなく、いそいそと転移してしまうデミウルゴス
…先約があって時間が掛かるのに
まあ、伝言<メッセージ>を飛ばせば良いか
そう自分を納得させ、ハムスケに乗って第五階層に急いだ
■■■■
「ふーふふふーふーん♪」
真実の部屋に入ると、ご機嫌な鼻歌が聞こえてきた
「お邪魔します、大先生」
「あら、ウール様、いらっしゃい!
でも大先生は恐れ多いから、いつも通りニューロリストって呼んで頂戴ね
それより見てこのネイル、とても良い感じでしょ?」
回転椅子をくるりと回してこちらに振り向く脳喰い<ブレインイーター>
いつもは赤いマニキュアなのに言われて見れば確かに、今日はキラキラと黒光を放っている
「どうしたんですか、それ?
立体ネイル…にしてはちょっとゴツいですね」
「この前ウール様が処理してって送ってきた人間の女がいるじゃない?
その子が身に着けてるブラ、沢山の金属板で出来ててね
それを見て閃いたのよ
アインズ様も最近ずっと黒い鎧を着ているし、きっとこういうのが最近のトレンドなのね」
それはない
「その女の人ですけど、処理は出来てますか?」
「もちろんよ」
ぽんぽん、とテーブルを叩いた先には
アルミバットの上に綺麗に折りたたまれた肌色の――うん、ぶっちゃけいうと人皮
先日捉えたクレマンティーヌとかいうサイコパス女の皮が折り畳んであった
総替えするにあたって、ベリュースの時みたいにベリベリ剥がしたくなかったので
施術の前処理を大先生にお願いしておいたのだ
「取り替え用の羽毛蛇<ケツアルコアトル>の皮はもう形を整えてあるから
あとはウール様が縫い付けるだけよ」
「ありがとうございます
提供してくれたマーレと、羽毛蛇<ケツアルコアトル>にも感謝しないとですね」
「お礼なんていいのに
ウール様のお役に立てるのが、私たちにとって一番のご褒美よ
でも、アインズ様の好みについて教えて貰えるともっと嬉しいわ」
モモンガの好み…言われてみればちょっと気になるかも
どんな嬢を指名したか今度アインザックに聞いてみよう
――まあ、そういう店に行ってることがバレたら大変なことになりそうなのでNPC達には黙っておくけど
無難な話題に逸らして雑談しつつ手術室の扉を開くと、
無機質な照明に照らされた手術代の上には、理科実験室の人体模型のような物体が縛り付けられていた
空洞の眼窩は宙を見つめ、うわ言を呻く口からはカヒューカヒューと空気の漏れる音しかしない
「歯も全部ぬいちゃったんですか…」
「正面からは分かり辛いけど、ノミのような物で全部くり抜かれててね
下の方も…あらいけない、こんなお下品な話はウール様にはできないわ
…とにかく、壊れた部分は全部切除しておいたわ。どうせ必要のない機能だし
それに、歯牙移植は繊細な作業だから、ウール様のスキルアップにぴったりよ」
アルコールは水膨れするから、塩を塗って消毒済みよ、と事も無げに告げられる想像を絶する仕打ちに思わず絶句する
ムカついたのは確かだし、酷いことされると分かってあえて何も言わず大先生のところに送ったけど
ここまでやると流石に不憫だ。というか、見てるこっちまで気分が悪くなる
中国の歴史でもライバルの王妃を残酷に殺しすぎて、最後に自分も惨い殺され方した人がいたし
そういうジンクスからあまり酷いことはしたくないのに
「…未起動のホムンクルス素体もお願いします
脳移植、もう一度練習したいので」
最終的に五体満足なら、ノーカウントだよね…?
『モモンガさん、モモンガさん
Allow me talk.話をしよう。愚痴でもなんでも付き合うから、作業BGMになってくれ』
『ふうかさん!いいところに!
愚痴というかちょっと――いや超頭痛が痛い頭痛案件がありまして、ちょうど相談しようと思ってたところです!
…でも作業BGMってことは死霊術師、デミウルゴスのところですか?』
氷のように冷たい鋭光を放つ手術道具を前に、現実逃避しようとモモンガに伝言<メッセージ>したら向こうも面倒くさいことになってるっぽい
『いえ、
手作業なので頭は空いてますけど、指先がヒクつきそうな予感がするので後でかけ直しますね』
『あ、ちょっと――』
呼び止めるモモンガを無視して伝言<メッセージ>をガチャ切りし、目先のオペに集中することにした