オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

30 / 37
30. 今日からお前、私の専属メイドな

最後の歯を埋め込むと、すぐさま拷問の悪魔<トーチャーデビル>が癒合<キュア>を掛ける

 

「お疲れ様、ウール様

綺麗に植えれたわね、上達が早くて私も誇らしいわ

対象が暴れても正確に手術できるように、次からは麻酔なしの手術に挑戦してみましょうね」

 

戦場医目指してるわけじゃないからいいです、と心の中でダメだしつつ

渡されたタオルで汗を拭いながらため息をつく

 

自分で言い出したこととは言え、色々とキツかった、精神的に

サイコパス女にムカついて強い言葉を言ってしまったせいで、こんな目に遭うなんて

因果応報とはよく言ったもの

 

乾いた血がべっとりついた手術用の手袋を脱ぎながら手術台に横たわる躯を見下ろす

全身理科人形だった肉体には羽毛蛇<ケツアルコアトル>の胸皮とショゴス細胞の眼球と心臓を移植され

人間から合成獣<キマエラ>にクラスチェンジ

 

どう見てもカタギじゃないし顔見知りとエンカウントしたらベリュース以上にややこしい事になりそうなので

容姿をナーベラルそっくりに整形し、差別化として髪の毛を降ろして切り揃え、お姫様カットに

 

冒険者を続けるにあたって危険な場面もあるだろうし、そんな場所にナーベラルを巻き込む訳にはいかないので

いざという時のスタントマンにするためだ

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

…で、向かいの手術台の上で膝を抱えて丸くなってるのがサイコパス女の自我を移植したホムンクルス

中身が凶暴なので他のホムンクルスと間違えないように元の容姿そっくりにこちらも整形したのだけど

 

こいつどうしよう。

もともと脳移植せずそのまま占拠<オーバーライド>して使い潰す予定だったから、配置先とか考えてなかった

目覚めてからずっとあの調子だからメイドにも使えないし

 

…ペストーニャにカウンセリングをお願いして

最悪、第九階層(ロイヤルスイート)のどっかに軟禁してニートライフでも送らせるか

それなら因果応報で自分に跳ね返ってきても全然ウェルカム

 

占拠<オーバーライド>:ナーベラル(コピー)

 

新しく作った身体に憑依して乗り移る

憑依が解けても目を覚まさないナーベラルにひやっとしたが、横にさせたらすぐに意識を取り戻してくれた

 

「長い時間憑依し続けたらどうなるか、ちゃんと検証すべきでした

安全かも分からないのに巻き込んでしまい、申し訳ありません…」

 

「ウール様にこの身を捧げて死ねるのなら本望です!

だからどうかご自責なさらないでください!」

 

無理矢理にでも身を起こそうとしたナーベラルを慌てて支え、

至高の御方になんということをさせてしまった、と自責をやめないナーベラルをあやしつつ、真実の部屋を出る

 

「フーリン殿!顔色が悪いでござる!

何か具合が悪いのでござるか!?」

 

扉を開いた途端、門前に待機させておいたハムスケがとっとこと駆け寄ってくる

 

「なんですか、この無礼な獣は

ウール様の前で身の程も弁えない、存在価値のない下等生物など今すぐ屠って――」

 

スッと目に殺意を宿したナーベラルを抑え

主人と仰いだ相手の豹変に脳がフリーズして立ち尽くすハムスケのヒゲを抓る

 

「フリーズしてないでこっち向け

言い忘れたけど、私は他人の体に乗り移れるからしょっちゅう姿が変わるぞ

 

あとここでは私のことはフーリンじゃなくて、ウールと呼ぶように

…剥製にされたくなければ」主にNPC達に

 

ピクっと反応したハムスケは丸い目を瞬かせ、短い前足で頭をくしくしする

 

「至高の御方が寛容にも説明して差し上げているのにまだ理解できないのですか、この獣は…」

 

これから屠殺される豚を見るような冷ややかな目でその仕草を見据え

処していいですかと問うてくるナーベラルを制し

 

「ナーベラル、ちょっと体借りますね」

 

占拠<オーバーライド>:ナーベラル

 

「フーリン殿!」

 

気配か何かを感じ取り、シャットダウンしていた脳みそが回りだすハムスケ

その目の前で自分を指差し、

 

「はいはい、で、今から――」「私がフーリン、というかウール。わかった?」

 

「わかったでござる!つまりウール殿は自由に体を乗り換えることができるのでござるな!」

 

元金髪女を指しながら乗り換えて会話を繋げて、ようやく理解できたハムスケは、ぽんと手を叩いて納得する

 

「最初からそう言ってる

で、この人はナーベラル。先輩にあたるからちゃんと敬うように」

 

「これは失礼したでござる、ナーベラル殿

同じ殿に仕える者同士仲良くするでござる」

 

「そ、そのように馴れ馴れしくされる謂れはありません、獣」

 

ずいずいと擦り寄るハムスケを煩わしそうに押し除けながら、どこかそわそわしているナーベラル

 

ははーん

 

『ナーベラル、ナーベラル

一応こいつ、餡ころもっちもちのペットなので

可愛がってあげてください。愛玩動物なので』

 

「餡ころもっちもち様のですか!?」

 

「?」

 

急に大声を出したナーベラルにヘケ、と首を傾げるハムスケ

あざとい

 

「そ、そういうことなら仕方ないですね

これは至高の御方々の意思、至高の御方々の意思…」

 

ぶつぶつと自分に言い聞かせて、一心不乱にハムスケをもふり始めるナーベラル

にやけまいと必死に表情筋を動員して、睨みつけるような目つきになってるが

 

やっぱりイメージが、とか思ってるんだろうな…

同じ顔でまわりをドン引きさせる私とは違ってちゃんと可愛いんだから、気にしなくていいのに

 

くすぐったいでござるよーと嬌声をあげるハムスケをBGMに

先ほどの約束を果たすためデミウルゴスに伝言<メッセージ>を飛ばすのだった

 

■■■■

 

「お帰りなさい、マスター!」

 

部屋に戻ると、満面の笑みを浮かべたピンクのもふもふ――ラッフィーが出迎えてくれた

どこぞの獣と違ってひと目で分かってくれて本当に嬉しい

 

「ただいまラッフィー!お留守番お疲れ様ー!

手術とか色々疲れたー癒して癒してー!」

 

飛び込むように抱きついて、ふわふわの髪の毛に頬を埋め、

ラッフィーからしか得られない養分を思う存分補給する至福の時間

 

「フーリン殿、いえ、ウール殿

こちらの方はもしや、ウール殿の妹君でござるか?」

 

ドアの前で存在を忘れていたハムスケの問いかけに現実に引き戻される

 

「妹…か、…うん、そんな感じ」

 

「い、妹だなんて、とても嬉しいです、マスター…//」

 

恥ずかしそうにこちらの胸に顔を埋めてくるラッフィー。

巨人の腕を私の背後に回してハムスケにこっそりサムズアップしているけど、本音はどうなんだろうな

 

人の気持ちに敏感で、相手の望む振る舞いをする…それが、私がこの子に掛けた呪い

誰からも嫌われない八方美人が幸せな生き方と、そうなりたいと願った理想の自分

 

現実になってからあまりの愛くるしさとスキンシップ解禁でつい愛で過ぎてしまうけど、

本人からしたら権力者に無理矢理迫られ、内心どんなに嫌がっても断れない絶望的な状況

 

…私のやってることは、ニニャの姉を攫ったクソ貴族と同じだ

だから、なるべくこの子の負担にならないように距離を取らないと

 

「――さて

早速で悪いけど、着替えお願いできる?

このあとデミウルゴスを待たせてて」

 

「デミウルゴスさん、ですか

分かりました。ディナー(・・・・)にふさわしい、ゆったりしたドレスを用意しますね」

 

「うん、お願いねー」

 

名残惜しそうにしながら離れて、ウキウキとウォークインクローゼットに入っていくラッフィー

 

…あれ、ディナーなんて教えたっけ?

 

「ここがウール殿の寝室でござるか

では某は警備として外で待機すればいいでござるか?」

 

「別に、入ってもいいよ」

 

追加の腕で横幅が広めのラッフィー用にドアは広めに作ってあるし、ハムスケでも通れる

 

「ではお言葉に甘えるでござる

おお、ウール殿の御部屋は外に通じているのでござるな!」

 

失礼するでござる、ともごもごしながら部屋に入ってきたハムスケは半壊した壁から覗く自然に目を輝かせる

 

「奥行きはそんなにないけどね

入ってもいいけど、ハーブ畑は絶対に荒らさないこと

庭から部屋に上がる時はそこの水場で体を洗うこと

 

土足で部屋に上がったら剥ぐ」

 

「り、了解したでござるよ

でも水場を使わずとも、体を綺麗にすれば上がっても良いでござるか?」

 

「いいけど、バスサンドなんて無いよ?」

 

確か、ハムスターって水洗いはダメなんだっけ

 

「否、そうではなく

某は生活魔法の清浄<クリーン>を仕える故、水場で身を清める必要がないのでござる」

 

生活魔法?たしかニニャが言ってた、美容や体を洗う魔法だっけ

 

「やってみ?」

 

「かしこまりでござる!洗浄<クリーン>」

 

呪文を唱えたハムスケの体を薄い水の渦が駆け抜け、シュワっと弾け

一瞬でさらさらになった毛並みのすぐ横で、汚れを吸い黒く濁った水球がぷかぷかと浮かぶ

 

おお、便利…!

 

「それ、私にも掛けられる?」

 

「もちろんでござるよ、清浄<クリーン>」

 

ヒンヤリ冷たい水の感触が体の表面を駆け抜け、一瞬ぞわりとするも

すぐさま乾いた風が肌に触れ、真珠パウダーをまぶしたようにさらさらになった羽毛蛇<ケツアルコアトル>皮の額から汗でへばりついていた一筋の髪が重力に従って滑り落ちる

 

「ど、どうでござるか…?」

 

「…こう」

 

「ウール殿…?」

 

「最高!今日からお前、私の専属メイドな!」

 

「それはウール殿により一層認められたということでござるか!?

これからも精一杯精進するでござるよ!」

 

「うむうむ、良きにはからえ」

 

ムニムニとハムスケのほっぺを揉んでいると、バタン、と扉が叩きつけられる音がし

 

フーリンカ(・・・・・)様、お召し物の用意ができました」

 

振り向けばそこには

満面の笑みを浮かべたラッフィーが静かにこちらに手招きしていた

 

「さ、さすがウール殿の妹殿でござる

笑顔がそっくりでござるよ」

 

え、私普段あんな怖い笑い方してたの!?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。