オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜 作:アバダケダブ郎
「お待たせしました、デミウルゴス」
ラッフィーが選んでくれた簡素だけどや仕立てのいい、ゆったりしたイブニングドレスを纏い、
指定された第六階層の巨大樹のテラスにハムスケごと転移すると
巨木の上に作られたオープンテラスで既にテーブルをセットしたデミウルゴスが配下の悪魔共々セバスよろしくに片肘を前に控えていた
「ようこそいらっしゃいました、ウール様!
今宵のディナーを献上する名誉に預かり光栄の極みでございます
それにラッフィーと…失礼、君は誰だね?ナザリックの者では無いようだが…」
大仰に一礼し、ラッフィーとも挨拶、それから後ろのハムスケと視線を合わせ、はてとメガネを正すデミウルゴス
「某はハムスケ、ウール殿の専属メイドでござるよ」
「そうでしたか!同じ至高の御方に忠義を尽くす同志として、あなたを大いに歓迎しますよ
生憎と急遽のことでおもてなしの用意は出来ておりませんが、木の実などは如何でしょうか?」
とこちらを伺うデミウルゴスに頷く
「ではそのように」
パン、パンと掌を二回叩くと、木の上から巨大などんぐりを抱えた、顔のない悪魔が舞い降りてくる
「おお!これはかたじけないでござる!」
人間よりも大きいどんぐりを嬉しそうに抱え、戯れ始めるハムスケに営業スマイルを送り、再度こちらに頭を下げるデミウルゴス
「大変お待たせいたしました、ウール様
では我々も」
お手をこちらへ、と誘われるままラッフィーと向かい合うようにテーブルに座ると
直立したまま給仕に徹するデミウルゴスの指パッチンで料理を隠していた白銀のクローシュが消え
花弁のように切り揃えられた白い料理が現れる
「一品目はこちら、オードブルの百年雪蓮のスライスでございます」
「綺麗ですね、頂きます」
見た目はよくても、悪魔と人間の味覚は違いすぎる。味は――なんてこともある
ゲテモノ料理じゃないことに内心胸を撫で下ろしつつ、慣れないナイフで切り分け、口に運ぶ
舌に触れた途端広がる、甘すぎず苦すぎない控えめな味わい
前歯を立てて噛みちぎれば、コリコリした食感が舌の上で踊る
「美味しい…」
その言葉にデミウルゴスは誇らしげに口角を釣り上げ、なんとなく視線をハムスケに向けた先で
私の背後に回したラッフィーの巨腕がデミウルゴスに向けてサムズアップしているのが見えた
「はい、とても美味しそうです…私も、頂きますね」
と誤魔化すように、慌てて巨腕を伏せたラッフィーは懐から小瓶を取り出し、その中身を料理に振り掛けてから口に運ぶ
中身はハーブを挽いた粉――基礎ステータスを向上させるドーピング効果のあるアイテムで、料理アイテムに混ぜて作る「ハーブ飯」は能力上昇値がさらにブーストする
ゲームの時毎食食べさせていたら病みつきになったらしく、食事の時は必ず掛けるようになった
とはいえ、それは普段部屋で食べる時しか見せないラッフィーの癖
料理人に失礼なので、公の場では自重させているのに
そんな私の視線に気付いたのか、バツが悪そうに小瓶を仕舞うラッフィー
しかし料理には既にどっさり塗されており――
「ウール様の舌に叶い、感無量でございます
次はスープでございます こちらの
お口直しに是非」
それを咎めることもせず、むしろフォローするように自分も瓶入りのハーブ粉を取り出し、テーブルの中央に並べてくる
…なんでデミウルゴスがそれ持ってんの?
そういえばドレス選びの時も、ディナーのことを事前に知っていたような素振りだった…
……………………
…………
「ご馳走様でした
とても美味しかったです」
「有り難きお言葉!このデミウルゴス、今までの研鑽が報われた思いです!」
結局、結晶のような甘い粒々が生えたクリスタルグラスという野菜のサラダや、宝石箱のような海鮮料理の盛り合わせ、ひと目で人肉でないとわかる鳥料理のヴィアンドに、精巧な白鳥のシュガーアートと
怯えていた事態を見事に回避したような真っ当なフルコースをご馳走して貰え、私の知らないところで二人が交流を持っていることにモヤモヤしながらも、眼福口福と余韻に浸る
「…ですが、これでは新たに苦労を掛けただけで、何もお返しできていません
おもてなしする事こそ喜び、とは言わないでください
一方的に尽くされることも苦痛になりえます――私は、私の行いであなたに感謝したいのですよ」
「考えが至らず、申し訳ございません
しかし、いと尊きの御身が我々を見捨てず、こうして君臨してくださるだけでもこの上ない幸せ
…これ以上を望むなど、悪魔の身にさえ余る強欲というものです」
メガネを指先で弄りながら、長い尻尾をゆっくりと左右に振るデミウルゴス
変にジェラシー燃やしてないでもっとちゃんと料理を味わうべきだったか?でもグルメ番組みたいな褒め方できないしなぁ…
「悩み事を相談してみる、というのはどうでしょうか?
その、上司に迷惑をかける事を恐れてはいけない、ホウレンソウをしっかりして、ちゃんと意見を交換するのが正しい忠誠のあり方だと、至高の御方、死獣天朱雀様がよく、仰っていましたので…」
いいですか?と上目遣いで伺ってくるラッフィー
正確には「上司を味方に付けるクレバーな凌ぎ方」…デミウルゴスに聞こえの良いように、一部改変しているのだろう
…問題は、何故、ラッフィーがそれを知っているか?
それは現実になる前の、ゲームの時の話
NPC達はゲームだった時のことを、覚えている…?
「よろしいのでしょうか?」
「え、ええ…私にできる範囲で良いのなら」
「御身の深遠なる叡智にお伺い立てする機会を頂き感謝致します!
では――ただ今進めている、リ・エスティーゼ王国掌握に関することですが――」
げ、さっきモモンガさんが伝言<メッセージ>で相談してきたやつ
どう切り出すか悩んでたけど、こんなふうに持ってくるか…
ドングリを完食し、すぴすぴと寝息をかき始めたハムスケに癒しを求めつつ、
一句たりとも聞き逃してはならない、デミウルゴスとアルベドが主導する降って湧いた一大プロジェクトの概要に耳を傾けた――
■■■■
「…なるほど」
さっぱりわからん
ノートも取らずこんな長い状況説明を聞かされて理解できるか
かといって「深遠の叡智を持つ至高の御方」が部下の報告をメモ取りながらとか幻滅させてしまうだろうし
モモンガさんの苦労がようやく理解できた
「では、プロジェクトを進行するにあたって
動員することになる膨大な人員に計画を恙無く行き渡らせるための概要はどのように考えていますか?」
「はい、至らぬこの身、ウール様の遠謀をお借りする形となりますが
王国の裏社会を牛耳る八本指が手にした悪魔像を狙って私ことヤルダバオトが悪魔の軍勢を率いて王都に攻め寄せ、
それをルプスレギナ率いる聖カルネ騎士団が阻止することでアインズ・ウール・ゴウン教の名を知らしめると共に
愚かにもツアレニーニャ・ベイロン嬢の身柄を晦ませ、ウール様を煩わせた八本指への制裁
襲撃に乗じて王国より人的、物的資源の奪取によるナザリックの資源難解決
八本指を乗っ取り王国暗部との繋がりを利用し間接的に王国を掌握
そして人類の敵対者たるヤルダバオトと救済者たるアインズ・ウール・ゴウン教の対立構造を築き、
バハルス帝国、ローブル聖王国など人類の有力国家に本作戦を複製応用することで既存の四大神信仰やスレイン法国の影響力を削ぎ
これによりアインズ様が仰られたようにナザリックを表舞台に立たせることなくその影響力を堅磐なものとする作戦と想定しております」
人、それをマッチポンプという。
「…ですが、アインズ様にこの案を奏上したところ、寛大にもお認めいただけましたが、どこかご納得頂けていないご様子
その深きお考えを伺い知ろうにも我々ごときではとても思慮が及ばず、恥ずかしながら至高の御身より助言を賜り頂ければと」
と徹底的に自分を扱き下ろして謙るデミウルゴス
「さすがですね、デミウルゴス。非の打ち所のない、100点満点の作戦です」
「…!お褒めに預かり、光栄の極みです!」
実際問題、裏組織を傀儡にして政権を操るのはもとても合理的だ
資金の流れ先が腐敗貴族や犯罪者の懐からナザリックに変わるだけなので良心が痛むとかそういう事もない
それにヤルダバオトという仮想敵を作って焦燥を掻き立て、解決策を提示してあげるのはヒトラーが多用した人心掌握術で効果は折り紙つき
「…ただ、100点ではりますが、120点ではない
結果を出せるけれど、その上を――
いくつか考えに入れないといけない点があります」
だけど悪魔の軍勢で各国を蹂躙するのは流石にまずい
ゲーム時代のAOGならともかく、ここは紛れもない現実だ
伝言<メッセージ>で交わしたモモンガさんの苦悩
それはナザリックの支配者としてNPC達を失望させないために非情な決定をせざるを得ない葛藤と、
現実で搾取され、ゲームでも異形種だからと迫害され寄り集まった仲間達に「力を得た途端圧制者に変わるのか」と軽蔑される恐怖
立場に囚われ不自由で、「わがまま」を通すこともできない
…なら、私が止めるしかない
「気に入らない」からと「わがまま」を通す
至高のもう一人ではあるけれど、支配者でも何でもない私だからこそできる役目
「あそこで気持ち良さそうに鼻提灯を作ってるハムスターはこちらの世界でテイムした野生生物です
どうしてナザリックに連れ帰ったと思いますか?」
「女性の気持ちに疎い私をどうかお許し下さい
おそらく、憶測でしかないのですが――所謂、可愛いから、でございましょうか?」
「確かに可愛いですが、そんなものラッフィーの足元にも及びませんし、仮に人肌寂しくて抱き枕にしたとしても
ナザリックに戻ってラッフィーがいる今、不要の存在です」
かああ、と赤面し、巨腕で地面をバンバンと叩きつけるラッフィーの髪を手櫛で掬いながら
——彼女のハムスケへの敵意を削ぎつつ、デミウルゴスへの牽制をして
「あれは、私やアインズと同じ、あなたが言う至高の四十一人の一人、餡ころもっちもちのペットでした」
「なんと!」
デミウルゴスの尻尾がピンと伸びる
「…生憎と、遠い昔に主人と逸れ、すっかり野生に帰ってしまい
私達のことを覚えてはいませんが」
「至高の御方の庇護を受けておきながら、その恩義を忘れるとは…!」
「それには深い訳があるのです。咎める事は許しませんよ
…とにかく、彼女の存在は、一つの可能性を提示してくれました
私達は運良く、ナザリックごとこの地に転移できましたが
もしかしたら、記憶をなくしてこちらの世界に転移――あるいは転生してくる
前置きを済ませ、次にどう繋げるかを考える私にデミウルゴスが問いかけてくる
「つまり、大勢を戦乱に巻き込むこの作戦では
至高の御方であることを忘れられた方を苦しめる事態に繋がるかも知れない——」
流石デミウルゴス、こちらが伝えたい事を的確に汲み取ってくれる
「ナザリックのことを忘れるようなものは、至高の四十一人とは認められないかも知れませんが」
「そんな事は断じてございません!記憶をなくそうとも、生まれ変わろうとも
我々を創造なさった至高の御方への忠義を違えるはずがございません!
例え認知して頂けずとも変わらぬ忠義を尽くす所存です!」
一片の迷いもなく断言してくるデミウルゴス
それが心からの忠誠であると、今までのすべてが示しているのに
どうしても信じきれない自分が憎い
「こんな典故があります
ある君主が戦場で兵士に命を救われ、謝礼をしようとその故郷を訪れますが
兵士は謝礼を頑なに拒み、山に篭ってしまいます
業を煮やした領主は山に火を放つように命じ、兵士が降りてくるのを待ちました
しかし兵士は降りてこず、山の中で焼け死んでいました
ナザリックの力を持ってすれば、王国を征服するのは容易いことでしょう
ですが、それでは民衆に埋もれた私達の友を、あるいはその子孫を戦火に巻き込んでしまうかも知れない
苦労の末、見つけ出したのが友の遺灰ではアインズ・ウール・ゴウンの名も泣くでしょう」
「…力でねじ伏せ強者が弱者を支配するのは獣のやり方
真なる統治は君臨せずとも、ただそこにおわすだけで民から崇められ
心を、魂を、己の持ちうる全てを差し出さずにはいられない
まさに至高の御身が今なされている、そのことを愚昧な人間どもにも…しかし、
いや、私ごときの矮小な物差しで至高の御方を推し量ろうなどそれこそ傲慢…!アインズ様はそこまで汲んだ上で、提案した私の立場を慮って下さったということですか…!」
勿論、AOGのみんなが王国にいる可能性は限りなく低い
ハムスケのようなことがそう何度も起こるとは期待してもいない
それでも、これでデミウルゴスが計画を考え直して、無辜の民を苦しめる権力者にならないのならそれでいい
モモンガさんが、何より創造主である
弱者を虐げる権力者に、この子がなるのは見たくない
…それに、これは私の願望でしかないけど
私達がここに来れたように、この世界が来世の世界で、輪廻転生というものが本当に存在するなら
「ウール様の言葉、このデミウルゴスしかと理解いたしました」
この世に生まれ変わった私の最愛の人達が――私を愛してくれた人達が
「この世に生まれ変わった至高の御方々が」
その身分に生まれに関係なく、
「生まれの貴賎、種族に関係なく」
等しく平等に幸せに、生まれてよかったと、心の底から思える
「至高の御方に相応しい最高の生を、どこにおわそうとも確約できる」
「――甘い夢に浸した至福の世界を作りなさい、デミウルゴス
悲劇が存在し得ない、蜂蜜漬けのアクアリウムのような
永遠の眠りにつくその日まで、定められた幸福のレールをひた歩む
永劫に巡る理想郷を」
「御意――」
悪事を共有するようにニヤリと笑い合う
…あれ、デミウルゴスにご褒美をあげるはずなのに、なんでまたタスクを押し付けてるんだろう?
二次創作は自己満足とは言え
頑張って書いても何の反応も貰えないのは、
空気を読まずに一人盛り上がってるみたいでとても滑稽で虚しいものですね…
試しに一週間執筆止めてみたらQOLが格段に上がったので
書き溜めてた分全部投稿して、とりあえず終了にしたいと思います
こんなクソつまらない小説のような何かをここまで読んでいただき、
そして感想欄で盛り上げつづけてくれたお二方
今までありがとうございました