オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

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34.吾輩は光のステッファンである

迷路のように入り組んだ館の中をもつれ合う二人の青いシルエットを目印に走り抜ける。

 

霊体なのだから壁抜けぐらい出来ても良いだろうに、

鍵の掛かってない扉しか透過できないゲーム仕様がそのまま現実になって違和感しかない。

 

何とか2階まで駆け上がり、扉を通過した瞬間――

 

上級傷害障壁<グレーター・ダメージ・バリア>

 

豚が二本足で立ち上がり全裸の女性に襲いかかろうとしていたので、急いで騎乗して障壁魔法で止める

 

「…へぁ?」

 

障壁に阻まれ、養豚場から脱走した豚――のようにブクブク肥え太った、贅肉を振り回していた男が

理性を感じられない間抜けな音を発し、半透明の障壁に首を傾げるのを後回しに

 

大治癒<ヒール>

 

原型を留めないほど殴られ、痛々しい姿の女性に回復魔法を掛けると

動画を逆再生するように傷口が見る見る癒えていき

 

「な、なんだ!?何が起きとるんだ 傷がひとりでに…ひぃっ!化け物!!誰か、誰k――」

 

占拠<オーバーライド>

 

目の前の光景にど肝を抜かれ、声を張り上げる豚男。

 

黙らせようにも今は霊体で、沈黙<サイレンス>のような攻性魔法は使えない

仲間を呼びたくても私自身に刻印<マーク>は刻んでおらず(そもそも標的にできない)、転移の目印にしていたクレマンティーヌはさっき回収されている

コッコドールに憑けたシャドーデーモンを呼び戻すのはもっと間に合わない――咄嗟に打開策が思いつかず

 

しかたなく元凶そのものを乗っ取って黙らせた

 

「スタッファン様!如何なされましたか!?」

 

それでも時既に時間切れだったようで

勢いよくドアが開き、似合わない執事服をパツパツに着込んだ、人相の悪い大男が殴り込んできた

 

「あー…、えー

何でもない、ゴキブリが出ただけだ

チミ、ここの掃除はどうなっとるのかね?」

 

勢いで憑依してしまったけど、この男のことは何もわからないので

どんな話し方したらいいかわからず、咄嗟に思い浮かんだうちのネチネチ課長のモノマネで誤魔化す

 

「はぁ、ゴキブリ、ですか

それは…ええ、申し訳ございません

掃除が行き届いてないようなので、掃除担当の奴隷を探し出ししっかりと落とし前を付けさせます」

 

目に殺意を宿した男に、壁際で縮こまっていた女性がビクリと震える

 

「いやいや、待て、待つんじゃ!待ちたまへ!

えー、ウォッホン!ちみがその奴隷に落とし前を付けさせたところでゴキブリに遭った吾輩になんのメリットがあると言うんだね?

吾輩が欲しいのは補填なのだよ。そうだ、この女を詫びに寄越したまえ

それで手を打ってやろう」

 

「吾輩…」

 

何言ってんだこいつ?頭おかしいの?

と顎をあんぐりと開き、眉間を皺寄せて呆れ顔する執事もどき

さすがにただでふんだくるのは非常識すぎたか

 

「ふむ、そうだな

タダは言い過ぎだ、半額に負けてくれたまえ。それぐらいの誠意は見せてもらわんと」

 

「は、はぁ…半額

スタッファン様がそれでよければ、まぁ…

一応コッコドール様に話伺って来ますんで

ごゆるりとお楽しみください」

 

可哀想なものを見る目で、あとはごゆるりと、と退室する執事もどき

おい、私のキャラ付けに文句あるならはっきり言って貰おうか。

 

…でもまぁ、どうせ赤っ恥かくのこの豚人間だし、誤魔化せたから結果オーライか

 

溜息をつき、視線を落として――胸の代わりに出っ張った豚腹で足元が隠れ、汚い物を見ずに済んだが

こいつ全裸だったことを今更思い出して、先ほど執事もどきがドン引きしてた理由に合点がいく

 

それより

 

「ツアレニーニャ・ベイロンか?」

 

タンスの角に隠れ、こちらを警戒していた女に問いかけると

 

「い、いえ…私は、ラヴィ…です」

 

あからさまな怯えを浮かべた表情でフルフルと首を横に振る

 

「ツアレニーニャ・ベイロンじゃないのか…」

 

つい落胆すると、機嫌を損ねたと勘違いしたのか

 

「ごめんなさい!どうかお許し下さい!ひどいことしないで!」

 

と震えて懇願され

 

「もう大丈夫だよ。殴って悪かったね

あれは…そう、吾輩の体に取り付いていた悪魔の仕業だ

チミを殴る罪悪感が眠れる吾輩本来の人格を呼び覚ましてくれたのだよ

今の吾輩は光のスタッファンだ」

 

何言ってんだこいつ

と真顔になるラヴィ

 

やめてくれ、その反応は私に効く。

憑依とか余計ややこしくなるから今はこう言うしかないんだよ

 

「とりあえず、これを着たまえ」

 

クローゼットを漁り、色々とアレな服の中から比較的まともなメイド服を選び、全裸のラヴィに手渡す

 

「あ、あの…す、すみません…

私、とんでもない粗相を…どうか、どうかお許し下さい…!」

 

「気にするな、今の吾輩は光のスタッファンだからな

粗相ぐらい幾らでも許そう

…ぐぬぬっ、…えー、ただ、着替え終わったら吾輩の着付けも手伝ってくれたまえ」

 

ベッドに脱ぎ捨てられたこいつの服らしき物を着ようとして、太り過ぎてとても一人じゃ着れないので

まだ思いっきり警戒している様子だが、先程より幾分マシになったラヴィに覚束無い手つきで服を着せてもらいながら

これからどうするかと思考を巡らせる

 

執事もどきがコッコドールを呼んで来てくれるなら、とり憑いたシャドーデーモンの刻印<マーク>を頼りにシャルティアを呼べる

そうした場合、こちらの存在は魅惑<チャーム>で誤魔化せるとして、転移門<ゲート>でラヴィを救出したら人一人消える事になる

 

だけどこんな裏稼業してる連中だ、本人たちの記憶はともかく、コッコドールが売上をくすねないために本人達も預かりしれない監視役がいてもおかしくない。

そいつらがチェックしていたらすぐにボロがでて、下手したら奴隷取引打ち止めもある

 

そうなったらすり替えたシェイプシフターで買い手の内部から探る作戦も練り直しになってしまう。

 

『デミウルゴス、残りのシェイプシフター達は今どうしていますか?』

 

『!ウール様!直に御声を賜り恐悦至極に存じます!

シェイプシフター達ですが、以前ウール様に申し付け頂いた――領の線で進展があり、残り7体全員を先ほど関係者とすり替え致しました

元となった人間ですが、ウール様の命令通り一先ずは氷結牢獄に幽閉しております』

 

…そういえば全部で30人しかいないんだったか、シェイプシフター

 

『しかし必要とあらばすぐさま撤収させ、ウール様の元に派遣致します!』

 

『ううん、大丈夫ですよ

作戦の進捗状況を確認したかっただけなので

引き続き、そちらの線からも捜査を進めてください

ツアレニーニャもそうですが、奴隷売買に関与している腐敗貴族から、本作戦の要となる情報を得られる可能性が高いので』

 

『人間の一個人という、一見単純で明快な目標を示し、その過程で自ずと浮上する氷山の全貌を見据えた采配

ウール様の深遠なる謀慮にはいつも感服させられてばかりです』

 

勝手に感極まってるデミウルゴスを残して伝言<メッセージ>を切る

やっぱり正規の手続きを経て、この子を身請けした方がいいか。

 

そうこうしているうちに再びドアがノックされ、口に切り傷のある人相の悪い――のはここの全員に当て嵌っていい加減飽きたので性格の悪い野良猫のような金髪の男、野良猫男が入ってくる

 

「初にお目にかかります、スタッファン様

自分は八本指の警備部門、六腕の一人“幻魔”サキュロントと申します

 

先ほどの件ですが、確認したら部屋の掃除はそこの奴隷が担当みたいでして

タダでお譲りしてもいいんですが、代わりといっちゃなんですが

今回もスタッファン様にお力添え願いたい事がありまして」

 

こちらの出方を伺うように、一字一句に糸を絡めこちらの言質を引き出そうとする野良猫男

 

「なんだね、言いたまえ」

 

「ははぁ!実は――」

 

■■■■

 

外装が豪華になっても相変わらずガタゴト揺れる馬車の中

身請けしたラヴィを傍に座らせ、向かい側にサキュロントが腰掛けている

 

「もう一度確認するが、その老年の使用人がチミのところの奴隷――従業員を今も匿っているのは間違いないのかね?

既に逃がしていたら無駄足になるんだぞ?

幾ら吾輩の権限でも、無実の商人にケチを付けたとなれば面倒事は免れん。その責任をチミ達は取れるのかね?」

 

「ええ、“目”達に見張らせていますが、館から出てはいないようです

地下道でも使われたら話は別ですがね

 

責任は、お隣にいるどれ――従業員で十分かと

…王国は今奴隷が禁止されてますのでね

巡回使様がうちのVIPなんて公に知られたら、困るのはお互い様でしょう」

 

ラヴィを身請けする条件、それは数日前脱走したという奴隷の回収だった

流れで仕方ないとは言え、逃亡した奴隷を保護してくれるような相手に強請を掛けないといけないのはとても気が重く

館から離れていよいよシャルティアに居場所を伝える術もなく

 

仮にサキュロントを無力化してもさっきさらりと言った“目”に見張られてるので八本指を刺激しかねない

 

なのでやっぱり行くのやめようぜ、と誘導してみてはいるけど馬車の進行は止まらず

馬の嘶きと共に停まった馬車から降りれば門番のいない、固く閉ざされた鉄門が眼前に立っていた。

 

その鉄門を御者にこじ開けさせ、ズカズカと扉の前に行きと無遠慮に叩く

 

「開けろ!開けんかい!

ここにおるのはわかっとるんじゃ!出てこい!」

 

こうなったら徹底的に悪代官を演じて、ひと目でやばいと相手に警戒させ奴隷を隠すなり逃すなりさせるしかない

 

「大変長らくお待たせいたしました。ウ、お二方は私めらに何用でございましょうか?」

 

どうか居留守を決めてくれますように、というこちらの願いをあっさり砕き

秒と待たずに開かれた扉の向こうで恭しく頭を下げる鋭い眼光のロマンスグレーの執事と金髪の令嬢――というかセバスとソリュシャン

 

え、なんでここに居んの!?

潜伏任務中って言ってたけどこういうこと!?

さすがにこっちに気づいてないよね?

 

まずいまずい、こんな豚人間に憑依してあんな悪代官ムーブ、イメージダウンどころの話じゃない!

探るような、サーチライトのような鋭い視線で射抜いてくるセバスから逃げ出すように目をそらしつつ

 

「わ、吾輩はここ一帯を取り仕切る巡回使のスタッファンである。

こちらの方の従業員を貴殿らが誘拐したとの通報を受け、検めに来た次第だ」

 

「…そうでございましたか。

このような見窄らしい、御身を持て成すには余りにも不相応な家屋ですが、

もしよろしければどうか、お上がりになられて、詳しくお話をお聞かせ願えないでしょうか?」

 

一瞬だけ目を見開き、驚愕、失望、軽蔑、達観とも取れる表情を浮かべるセバス

公僕が奴隷販売の片棒を担ぐなんて、たっち・みーさんに作られたセバスには思う所があるんだろう

 

もっと、奴隷の間違いでは?とか反論してくれたらいいのに

抵抗されると思ってたのだろう、サキュロントも狐につままれたような顔でこちらをマジマジと見て

 

「決めるところはちゃんと決めるんですね、スタッファンの旦那も」

 

おい、どういう意味だ。

 

すんなりと応接間に通され、

 

「このような粗末なおもてなししか用意できず、申し訳ございません」

 

とデザートを散りばめたケーキスタンドに豪奢なティーポットをカテラリーで押してくるセバスにサキュロントはそっと間を詰めてきた

 

「な、なあスタッファンの旦那

なんか毒とか仕込まれてませんよね…」

 

件の従業員を連れてまいります、とセバスが退室し、残ったソリュシャンを警戒しながら耳打ちしてくる

 

「言葉を慎め下等…人間、いえ下民。

貴様はともかく、我々がその御方に毒を差し出すなど断じて有り得ない

そのような可能性を示唆しただけでも万死に値すると知れ…!!」

 

お嬢様の身分も忘れ全力のさっきをサキュロントにぶつけるソリュシャン

ガタン、と椅子が倒れる音がし

キレたサキュロントが抜刀したかと慌てて振り向けば、口から泡を吹いて気絶していた。

 




主人公は深読みしすぎてドツボに嵌るタイプ
あと忘却能力が素晴らしいのでNPCが気配で自分の存在を察知できることを忘れています
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