オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

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35.ああもう、マンパワーが本当に足りない

口から泡を吹き仰向けに倒れて気絶している情けない野良猫男

そして向かいには激昂した姿勢のまま、失態に今更気づいたのかわなわなと震えるソリュシャン。

 

「何事です!ソ…お嬢様!」

 

どうしてこうなった、

というか、こんな時どうリアクションしたらいい!?

と思考がフリーズしてる間に扉を勢いよく開いてセバスまで参戦してきた。

 

やばいやばいやばい!これどうしよう!

 

幾ら国家権力とは揉め事を起こすな、といっても

ここまであからさまに拗れたらもうどうにもならない。

 

ソリュシャン達からしたら現地人の一官吏が悪意満々で乗り込んで来た挙句、うっかりその護衛を倒してしまった感じだ。

どう考えてもこれ以上弁明の余地も何もない、交渉決裂

面倒事になる前に溶かして証拠隠滅が一番ベターで、特にこの二人には六本指のこと知らせてないから

今ここで二人を消すことになんの躊躇もないはず

 

だからといって今から伝言<メッセージ>を掛けても

「じゃあなんで知ってるんだ?」ってなって私がこの場にいる&挙動不審で豚男=私ってばれる

それだけは絶対に回避しないと!私のイメージが…!

 

「一体どう言うことなのか説明してください」

 

「そ、それは…!」

 

問い詰めるセバスに、狼狽えるソリュシャン。もはやお嬢様と執事の立場が完全に逆転していて、どちらが上か傍からでも一目瞭然だ

 

ああ、もう

こうなったら

 

「うぉっほん。…何をしたかは知らんが、変な気は起こさないことだ。

この館は外から監視されておる。もし我輩たちが戻らなければどうなるか」

 

わかってるな?

と視線で訴えると

 

「…!わかりましたわ。ではスタッファン様、我々はこれからどのように行動すればよいのでしょうか?」

 

一瞬だけ視線を交わし、すぐにお嬢様の風格を取り戻したソリュシャンが問いかけてくる。

…セーフ。「だったら見張ってる奴ら全員溶かして差し上げますわ」とか言いだしたらどうしようかと思った。

 

というかそれをこっちに聞くなよ…

こういう状況って豚男からしたらかなりビビってるはずだから、どうすればいいって聞かれて、「こうしろ」って言うのも可笑しいし…

ロールプレイ的にここはキレて調子に乗るべき?それとももっとビビるべき?

…やばい、どういう反応が正しいかわからん

 

モモンガさんならもっと上手くできるんだろうけど…

 

「…二日後に改めて迎えに来るとしよう。何をすべきか、何が正しい(・・・)か。その時までに考えたまへ」

 

正しい、のところだけわざと強調して発音する。

 

たっち・みーさんならこの状況でも絶対に逃亡奴隷の子を助ける。

正しいこと、つまり正義を行うなら セバスなら同じようにしてくれるはず

 

「かしこまりましたわ、スタッファン様」

 

得心がいったように、微笑みを浮かべ深々と頭を下げると

気絶したサキュロントにしれっと第七階位の精神魔法を掛けるソリュシャン

 

…うん、見なかったことにしよう。せっかく上手く話が纏まったのに変にリアクションして台無しとか藪ヘビどころじゃない

 

こっちの世界では第四階位でもとんでもないことなのはNPC達は知らないし、

そもそも魔法の学識もなさそうなこのアホ官吏に階位なんて分からないだろうから

そのことを踏まえてのソリュシャンの挑発かもだし

 

…一応、あとでデミウルゴスに階位のこと周知させるようにお願いしておこう

 

■■■■

 

「な、なぁ…スタッファンの旦那

さっきのことだが、コレで秘密にしてくれないか?

…もちろん足りない分はあとで埋め合わせする!なんならあんたが困ったときは絶対に力になりますんで!

どうか、このことはうちの連中には黙ってくだせぇ!」

 

目覚めたサキュロントはソリュシャンの記憶操作魔法で「出された高級酒を飲みすぎて酔いつぶれた」という記憶らしく、セバスに玄関まで見送られ、馬車まで戻る道中

さっきのことはどうか秘密にしてくれと、耳打ちと共に金貨がずっしり入ってそうな革袋を握らせてきた。

 

「人助けだと思って!上にバレたら冗談抜きで俺マジで殺されますよ!」

 

そうなんですね大変ですね

…で相槌打てたらいいんだけど

あのさ、これ中身が私だからいいけど、本物のスタッファンだったら連れを記憶操作されるとか宣戦布告以外の何でもないぞ?

それとも何か

「私がその気になればあなた如き、如何ようにもなりますわよ。身の程を弁えなさい下等生物が」

って暗に圧をかけられてた感じ?

 

だとしたらあの時もっとビビった方が正解なの?

脅しが効いてないって思われて、後をつけられて闇討ち…とかないよね?まだこの豚男には五体満足でいて貰わないと

セバスたちの館に行ってすぐ不審死とか絶対八本指に疑われる

 

ソリュシャンがこっそり粘糸つけてないか何度も服装を確認してから、ふーっとため息をつく

それをどう捉えたのか、ビクッと身をこわばらせるサキュロント

心配しなくてもあの館で気絶したことが漏れて困るのはこっちも一緒なんだから、お口チャックはちゃんとしますよー

 

…なんて言って安心させてやる理由が微塵もないので

末永く怯えてろと、ぷいと馬車の外に視線を投げる

 

それからなんとかこちらの機嫌をとろうとあの手この手のサキュロントと、何が起きた?と目を点にするラヴィ

面白いのでそのまま不機嫌なフリを続けてガタコト揺れること数刻

 

摩訶不思議なギスギス空間を乗せた馬車がコッコドールの館まで着き

 

「後の報告はチミがやったまへ。

吾輩は疲れたからもうこのまま帰る

あー酒をたらふく飲んで今日のことを忘れたいなー(棒)」

 

と馬車から蹴り出すと、

 

「この御恩は一生わすれませんぜ、スタッファンの旦那!」

 

となぜか救世主を見るような目で崇められられた

 

勘違いするな、別にお前のために言ったんじゃねぇ

犯罪者に感謝されても嬉しくもなんともないので、しっしと手払いして御者に馬を走らせる

 

これからこいつにはさっきの宣言通り、死ぬほど酒を飲んで記憶を飛ばして貰う。

それはもう、誰がどう見ても今日のこと覚えてないのは酒を飲みすぎたからとしか思えないほどに。

 

その隙についでにラヴィを逃す。

ナザリックのNPCに頼るのはNG。四六時中監視の目が付いてるだろうし、化物に攫われた、なんて上に報告されたら絶対警戒される

同じ理由でそのまま逃してもすぐに連れ戻されるからNG

 

衛兵はまずアテにならないし、冒険者に依頼するのもお金がない

必要なのは、ナザリックとは無関係で、私の言うことを聞いてラヴィを八本指から守りながら王都から連れ出せるこっちの世界の人間

 

――つまり六本指が本気で調べて、ちゃんと足跡が出て「なんだ、こういうことか」と納得できる相手――

 

…そんなの一人しかいないか

ああ、もう マンパワーが本当に足りない

 

■■■■

 

ソリュシャンの記憶操作からヒントを得て、帰るなり酒蔵に篭って片っ端からボトルを空けていき

頭がクラクラになってこれ以上は無理、となったところで占拠<オーバーライド>を解除してスタッファンから脱出。

 

ゲームの仕様通りバッドステータスは霊体には受け継がれず、ずどんと仰向けに倒れた豚野郎を残して

離れの馬小屋で待機を命じておいたラヴィに占拠<オーバーライド>する

 

いちいち事情を説明して納得させる余裕はないし、なによりこの件に私が関わってることを知ってる人は少ないほどいい

だからこの子には何も知らないまま、気づいたらカルネ村行きの馬車に乗って貰う筋書きだ

 

『聞こえますか?今外に出ました

後どれぐらいで着きそうですか?』

 

『…神!今すぐ迎えにあがります!』

 

伝言<メッセージ>を飛ばすと、信仰に目をギラギラさせた顔が幻視できる、興奮した返事が即座に返ってきた

神って、そりゃ色々説明が面倒だから「ウールです、使命を与えます」って感じで話しかけたけど

こいつこんなキャラだっけ

 

『ありがとうございます、ロンデスさん

四番目の塀の隙間に隠れていますので、そこに馬車を寄せてください』

 

救助しそこねた奴隷がいるから回収しに来て、と伝言<メッセージ>を送ったら二つ返事で引き受けてくれたロンデス

ここまではいいんだけど、最初にエ・ランテルに送って貰った時やさっきサイコ女を搬送した時の常識人っぷりからは想像もつかないほど

熱狂的に崇められて

ああ、こいつも村人やニグンと同類かー。と少し幻滅した。

 

それでもこうして呼びかけに応えてくれるのはありがたいことだし、

株価で言えばちょっと下がっただけだ。ニグンみたいなナイアガラを通り越してアビスじゃない。

 

数分と待たないうちに馬車を走らせてきて、態々降りてエスコートしようとするロンデスを制して荷台に滑り込むと

用意された麻袋を被り、カモフラージュ用に用意させた雑多な荷物の間に潜り込む

 

こちらの意図を察してすぐに馬車を繰り出し、大通りに出るロンデス

 

生命探知<デテクトライフ>で見た限り近くに六本指の「目」らしき存在はないが、それでも人目につく前に早く王都を離れないといけない

昼間の繁盛が嘘のようにシーンと静まり返った深夜の繁華街を馬の蹄と車輪の音だけが響き、予め買収した関門にまっすぐ向かうロンデス

 

それでも万が一に備えて少しでも奥へと、荷物の間に割り込んだ先でふと 柔らかいものにぶつかる

 

びくりと震えた、荷物とは思えないそのリアクションに驚いて麻袋の隙間から覗けば

同じように麻袋を被った金髪の女性が怯えた目でこちらを伺っており

やがてそれは驚愕へと見開く

 

「…うそ、ラヴィ…ちゃん?」

 

この街でラヴィのことを知る人間、それは三種類

六本指関係者か、「客」か、そして――同じ奴隷か

 

「私だよ、ツアレだよ!」

 

興奮した様子でこちらの手を掴み、麻袋越しに顔を寄せてくる女性に思わず聞き返す

 

「ツアレって…、もしかしてツアレニーニャ・ベイロン?」

 

「そうだけど…どうしてその名前を知っているの…?」

 

知るはずもない本名を言い当てられ、不思議そうなツアレに

やっと探し人が見つかって、安堵と同時にどうしてここにいるのかという疑問が湧き上がり

どう返したらいいか分からず、曖昧に頷いてしーっと人差し指を立てる

 

どうしてこんなところに?救助しそこねた人がいると聞いて、ロンデスが助けにいったとか?

 

経緯を聞こうとロンデスに伝言<メッセージ>を繋げようとした瞬間

横から割り込むような、魔力の糸がつながり

 

『ふうかさん!ふうかさん、今どこですか?

大変です!セバスが…セバスが謀反したらしいんですよ!』

 

切羽詰まったモモンガさんの声が脳内に響くと同時に

 

「二人とも何かに掴まれ!」

 

切羽詰まったロンデスの悲鳴と共に、視界が横転した。




誰得なサキュロント救済ルートやスタッファン救済ルートを書いて無駄に時間使ってました(ボツ案)
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