オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜 作:アバダケダブ郎
サキュロントファンの皆様ごめんなさい(先行入力)
硬い荷台から体が離れる一瞬の浮遊感
そして荒れ狂う貨物にもみくちゃにされ、暗闇の中何も見えず、備えようのない物量に殴りつけられ
思わず悲鳴をあげてしまったのはツアレか
「二人とも大丈夫か!?」
帆布越しのくぐもった声に応えようと
覆い被さったそれらを掻き剥がせば、
月明かりに照らされた舗装されていない泥道に散らばる貨物に囲まれ
額から血を流したロンデスが抜刀したままこちらに背中を向けつつ、用心深く周囲を警戒していた
『…ふうかさん?聞こえてますか?』
『あーはい、聞こえてます』
馬車が横転して一面大惨事、なんてこっちの状況なんてお構いなく
――そも知りようがないんだろうけど――返事がないことを心配してくるモモンガさんを適当にあしらいつつ
暗闇に目を慣らして現状確認を優先する
「大丈夫です、…一体何が起きたのですか?」
一瞬ウールとして話しかけよう思ったが、ただでさえややこしい状況で余計に混乱させたくないので
逡巡してラヴィのフリを通すことにする
「待ち伏せだ。手口からして六本指の手の者と見て間違いないだろう」
険しい視線の先を辿れば、前足を有刺鉄線のような茨縄に裂かれ、地面に横になった馬が苦しそうに呻いている
直様生命探知<デテクト・ライフ>を掛けると――
「…!危ない!」
てっきり囲まれてると思ったのに人の気配は全然少なく
しかし何もないはずの空間からひとつだけ、あからさまに不審な青いシルエットが
腰に手を当て肩を張り上げ、なんというかズレたボディビルダーのように肉体美を誇張しながら
事も無げにロンデスに歩み寄り、その真後ろに立ち、フンス、とポージングを一回
キモいことこの上ない謎の動きに困惑していると、そいつがおもむろに抜刀し始めたので
反射的に手元にあった金鎚をそれに向けて投げつけてしまった
「!! おっと危ない危ない
…なぜ俺の存在に気づいた?」
即座に振り向き身構えたロンデスと、声に反応してこちらを向き、飛来した金鎚を難なく避け
何もないはずの暗闇から滲みでるように浮かび上がる、目つきの悪い既視感しかない野良猫のような男
こいつは確か…
『…?あの、ふうかさん?
それでセバスのことなんですけど…』
『あー、はいはいムホンですね
たまによくありますよねそういうの』
ムホンってなに?単語の意味を理解する脳キャパが足りない
こちとら非常事態なのに何度も伝言<メッセージ>繋げてくるな
ちょっとは察しろ
「お前は…幻魔サキュロント…!やはり六本指か!」
「ただの奴隷泥棒にしちゃえらく情報通じゃあないか
…どこの回しモンだ?」
「…さあな」
「ふっ、まあ言えないわな。
まあいい。そんなのはお前をぶっ殺してから幾らでも調べられる
それよりもだ。おい、そこの奴隷 お前、俺の姿が見えてたな?」
本題とばかりに、目に殺意を滾らせてこちらを睨みつけるサキュロント
回答を誤ればただじゃ済まない――素人でもわかる剣幕の中
最悪のタイミングで脳裏に伝言<メッセージ>が飛んでくる
『リアクション薄っ!謀反ですよ謀反!
身勝手な理由でナザリック全体を危険に晒したってソリュシャンの報告ですけど…
もしかしてふうかさん、何か知ってます?』
「どうなんだよおい!」
『どうなんですか!』
「あああ!もう一遍に話しかけんな鬱陶しい!
んな出来損ないのジョジョ立ちみたいな変態ポーズで事も無げに歩いてたら誰だって気づくわ!」
やば、つい心の声が漏れてしまった
「ラヴィちゃん?!」
驚愕するツアレにやっちまったと悟る
視線を野良猫男に戻せば、心なしか顔が赤いそいつは羞恥のあまりかプルプル震えていた
「やっぱり見えてやがったか!
くっ、ジョジョダチだかなんだか知らんがあれを見られたからには生かしちゃおけねぇ…
連れ戻してスタッファンの野郎に恩を売って館のことをチャラにして貰おうかと思ったがやめだ
ぶっ殺してやる!皆殺しだ!
俺の密かな楽しみタイムを知った奴は一人たりとも生かしちゃおけねぇ!」
知らんよそんな意味不明な楽しみ
「させるか!」
細身の剣を構え、さっきの変態ムーブとは打って変わってまっとうな動きで迫り来るサキュロントを、
迎え撃つように間に割り込んだロンデス剣を一閃させるもその剣筋がおかしい
標的から軽く一人分は離れた距離から振り抜かれた剣閃は当然掠りもせず、
あらぬ方向を睨んでいるロンデスを余裕たっぷりに見下ろしたサキュロントはお返しとばかりに上段に構えた剣を振り下ろそうとする
「ククク!そう!これだよこれ!幻術で俺の姿が見えない!
この誰にも見られない自分だけの領域から好きな姿勢で好きな角度で好きなタイミングで一方的に攻撃するこの快感!
これだから幻術はやめられねぇ!」
色々深い!
補助隠蔽化・上位感知強化<インビジブル・エイド・エフェクト・グレーター・パーセプション>
補助隠蔽化・補助最強化・上位加速<インビジブル・マキシマイズド・エイド・エフェクト・グレーター・ヘイスト>
いつもの癖で傷害障壁<ダメージ・バリア>を掛けそうになるも、そんなことしたら明らかに第三者の存在を疑われるので
思いとどまってロンデス自身にバフを盛ると
強化された感覚から迫る風圧を感じ取ったロンデスが残影を残してその場から立ち退き、サキュロントの攻撃を完全に回避した
『さっきからどうしたんですかふうかさん?返事が全然ないし、もしかして何かあったんですか?』
『ちょっと静かにしてください!今戦闘中!』
まさか避けられるとは想定外とばかりに、完全に空振りして渾身の一撃を何もない地面に叩きつけ、硬直したサキュロントのすぐ傍らで
不思議そうに自分の手を開いたり閉じたりして自身に起きた変化を確認するロンデス
「お、お前も俺の姿が見えてるのか!?」
「神よ、ご加護を賜り感謝します…!」
ダメだこの二人会話が成立してない。
というかせっかく人がこっそりやってるのに要らんこというな。
『え、は!?戦闘中!?大丈夫なんですか!?怪我とかは?!
今どこにいるんですか!?持ちこたえてください直ぐにいきます!』
『大丈夫なのでこなくていいです!…とにかく、今取り込み中なので。
後で掛け直しますからシャラップなう!』
課金アイテムで――
とか不穏な単語が聞こえたけど、気にせず伝言<メッセージ>をぶつ切りして目の前の状況に集中すると
羽織るタイプの茶色い金属系スケイルメイルをカサカサと鳴らし、残影を残してサキュロントの周りを翻弄していた
「チクショォォオ!!何なんだよその動き!カサカサ動くのやめてそこに直りやがれ!」
その姿はなんというか、地に落ちた蝉がジタバタしながら人に纏わりついてるようで、遠目に見るのも悍ましく
当事者のサキュロントもあまりの悍ましさに及び腰になって力の入ってない剣を振り回し
しかしそれら全てを紙一重で躱され続けている
「偽神なんか信じるからそうなる。悔しかったら改宗するんだな異教徒」
圧倒的ではあるが、技を磨いた兵同士の戦いという風体は微塵もなく
どちらかというと人外の領域に裸足で踏み込んだ変態が理解することすら冒涜的な
何かで一方的に蹂躙しているような有様で
茶色光りするカサカサが収まった頃には体中の要所だけを正確に突かれ、
命に別条はないものの指一本動かせない状態のサキュロントがボロ雑巾のように仁王立ちするロンデスの足元に転がっていた
「ウール様は偉大なり!」
「ヒェッ」
堪らず悲鳴を洩らすツアレ
うん気持ちはよーく分かるよ。
あとそのウールとかいうの、多分あの変質者のこと認知してないと思うから
あんなのが標準的な信徒とか思わないでくれ
知らんけど
「然リ。だが、今しばらく眠っていて貰おウ」
晴れ晴れした表情で天を仰ぎ、両手を広げて感慨深く決め台詞を吐いたロンデスのすぐ後ろの空間に黒い亀裂が走り
極寒の冷気を纏って現れたコキュートスが手を沿えると、問答無用で崩れ落ちた
「そうだね。我らの至高の主の加護を受けておきながらあのような恐怖公を彷彿とさせる悍ましい戦いには
二言三言言わないと気がすまなかったところだ。代わりに殴ってくれて感謝するよ、わが友。
とはいえ、果たして必要だったかどうかはさておき、ウール様が御手を煩わさぬよう代わりに戦ったその行いは
たとえ人間といえど労うべきところか
生憎とここからはナザリックの問題なのでね。今日の出来事は忘れて、宿舎で目を覚ますといい
人間」
銀色の甲殻類の尻尾を揺らしながら、デミウルゴスが続いて現れ、至極自然にコキュートスの向かいにたち
二人の間には亀裂と、ちょうど一人分が収まる空間が
そしてそれこそ当然のように
「さて、ウールよ。今回の件について、詳しく聞かせて貰おうか」
絶望のオーラを纏った髑髏大魔王が、黒い眼窩に仄暗い赤火を灯しながら
不機嫌そうな低い声で威圧感たっぷりに収まった
『主にデミウルゴス達を使って何してたかについて
そしてなにより!なにより一人で戦闘したことについて!』
あ、これ本気で怒ってるやつですわ