オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜   作:アバダケダブ郎

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37.何があってもナザリックに戻ってきますよ

表情の読めない骸骨顔でじっとこちらを睨み、黒いオーラをメラメラと立ち上らせるモモンガさん。

 

同じく表情が分からない甲殻類の顔で時折白い息を吹き出すコキュートス

そして意味ありげにふふと笑い、口角を釣り上げるデミウルゴス。

 

『え、えーと。なんと申しますか』

 

ゲームで慣れてると思ってたけど、それは和気藹々遊んでる時に限る

こんなギスギスした状況で表情が分からないの怖すぎる

 

逆にこっちは今生身の人間(ラヴィ)。言葉に出さずとも表情から何かを読み取ったのか、

自分に鎮静を掛けたようで緑のオーラを一瞬浮かべたモモンガさんは咳払いし

 

「とはいえ、こんな所で話すものでもないな

デミウルゴスよ、ひとまず四人を回収しろ。氷結牢獄――にはそいつだけを

残りはカルネ村に届けよ」

 

氷結牢獄、と聞いて一瞬焦ったけど、

しかし直ぐにロンデス達をカルネ村へと訂正するモモンガさん。

気を使ってくれたのは嬉しいけど、こうして一方的に心の内を見透かされてるのはいい気分じゃない

そっちが何を考えてるのか、こっちは何もわからないのに。アンフェアだ

 

「そしてコキュートスはソリュシャンのところに先に向かえ。

ないとは思うが、密告に気づいたセバスが口封じに出る可能性もある

デミウルゴスも四人を送ったらそちらに行け」

 

「御意」

 

「承知シタ」

 

 

「ウール様、ここより先は私が」

 

とデミウルゴスに頭を下げられ、憑依していたことを思い出し、占拠<オーバーライド>を解除すると

自我が戻った途端眼前に異業種が佇み取り乱すラヴィを、どこか達観した様子で眺めるツアレ共々支配の令言で縛り

 

「では行くとしよう」

 

『ちゃんと憑いて来てくださいよ』

 

伝言<メッセージ>を一言飛ばし、転移門<ゲート>を開いたモモンガの背中に

逡巡してから騎乗<ライド>

 

そのまま扉を潜ればナザリックの、モモンガさんの執務室にいた。

 

デミウルゴスとコキュートスはおらず、別々に起動した転移門<ゲート>で送ったのだろう

地味に器用なことするなぁ、と呆れてると

 

『で、何やってたんですか ここ数日

リ・エスティーぜ掌握作戦で六本指をあぶり出すのは分かりますけど

聞いてませんよ、犯罪組織に潜入調査なんて』

 

『すみません、モモンガさん

奴隷売買の話を聞いて、ついカッとなってやりました』

 

『エ・ランテルの郊外で野宿してただけなのに、どうやったら王都の犯罪事情が分かるんですか?』

 

…まぁ、そうわな。デミウルゴスから聞くわな。いつからこんなこと始めたのか、とか

分かっててわざと聞くの、試されてる感じで好きじゃないな

でも元はといえば私のせいか。

 

変に隠れてこそこそやってるから、こうして発覚した時に仲間はずれにされた疎外感とか、裏切られた気分が半端ないんだろうな

 

『…ぶっちゃけますと、ニニャのお姉さんが奴隷にされてて

助けるためにデミウルゴスにお願いしました

黙ってた理由はクラウの時みたいに「見捨てる」とか言われたら嫌だったので

 

以上、それだけ』

 

元々深くもない引き出しをひっくり返して、洗いざらい晒しても

髑髏魔王は顎に手を当てて唸るだけ。

本当にこれ以上何もないんだけどなー。

 

『ふうかさん、あの、クラウって?』

 

『…冒険者ギルドで自傷してきた人です。妹が重症の人』

 

やっと思い出したようで、あ、と口を開くモモンガさん。

そして額を抑えて首を横に振る。

 

え、これどういう意味?

手札全部明かしたし、これ以上深堀りされてもなんも捻り出せんのだけど

 

『そういうことなら最初から話してください!

――というのも、断った前科がある手前、相談しにくいのは分かりました。

 

だからこの件でふうかさんを責めるのはお門違いですね

結果的に命令を曲解したデミウルゴスが王都侵略を始めたとしても』

 

ぐっ!スクロールの素材調達を任せてたはずなのに急に王都掌握とか騒ぎ始めたの、こういうことか!

そりゃ怒るよ、軽い気持ちでNPC動かして大惨事とか

 

『まさかこんな事になるなんて

すみません、考えが至らなかったです』

 

『…いえ、むしろ人探しを頼まれただけなのに王国転覆に結びつけちゃうデミウルゴスの思考に染まったらそっちのが嫌なので

至らなくて結構です。というか至らないでくださいそんな深淵

 

それに気軽に報連相できない空気を作ってしまった私のせいでもありますし、今回の件はお互い様ということで』

 

本当にすまぬ。

 

『…ただ、今度からこういう事は一言相談して欲しいです

クラウの時は本当に見ず知らずの、素性の知れないポッと出の赤の他人。

どんな厄介事に巻き込まれるかわかったもんじゃないので、ああするしかなかったんです。

 

だけどニニャさんの場合は勝手が違います

一緒に冒険して悪い人じゃないのは分かりますし、なによりこっちの世界での初めてのチームメイトですから

当然助けますよ』

 

当然助ける、そう断言する姿は一瞬たっち・みーさんに見えて

カルネ村の時も、クラウの時も

絶望に押しつぶされそうな時にこんなことを言ってくれる人がいたらどれだけ心強かったことか

 

――現実世界の私に、こんな言葉を掛けてくれる人がいたなら

 

なんて馬鹿げた考えを振り払う。誰も彼も救われる世界なんてお伽噺の世界にしかない。

少し力があるだけで、そんなことを成そうと本気で思うならそれこそ傲慢だ。

手の届く範囲で、自分に無理のない範囲で、助けたい人だけを助けるモモンガさんの判断こそ現実的だ。

 

「――だけど、それはそれとして」

 

これで一件落着、と思っていたところに

トーンを落としたモモンガさんの声が執務室に響く

 

「どうして一人で戦ったりしたんですか?

それも周りに仲間が誰もいない、よりにもよって完全に無力な一般人に占拠<オーバーライド>してまで!

どれだけ危ないことをしたか分かってるんですか!?」

 

まるでそれが犯してはならない大罪かのように、禁忌のように

大げさに、誇張気味に声を荒げる

 

『しょうがないじゃないですか、あんな犯罪組織が相手で

そこら中に目があるのに、ナザリックの異業種(NPC)達を動かして目撃されたら

それこそ討伐隊とか組まれますよ

 

そりゃ確かに、ロンデスにバフ盛りすぎて人間辞めちゃってますけど

調べれば法国の特殊部隊出身だってことで、相手もそれで納得するでしょうし

ヘイトもそっちに向くはずです』

 

全く響いてなさそうに、首をゆっくり振るモモンガさん。

 

『…あとラヴィに憑依したのはそうしないとパニクって何するかわからないから

事情を説明して納得させてる時間もなかったですし、

それにちゃんと保険に防御魔法掛けてましたし』

 

と付け足しても、まるでわかってないとばかりに、苛立たしげに首を振る

 

「そうじゃない!どうでもいいあんな奴ら!

問題なのはふうかさん自身ですよ!

あんなひ弱な一般人に憑依して、万が一倒されたらどうするんですか!?」

 

『どうって、憑依が解けて元通りになるだけでしょ』

 

ロンデスたちをどうでもいい呼ばわりされて、無性に腹が立ち、売り言葉に買い言葉と反論する

 

『ゲームの時だって、厄介なモンスターや敵は私が憑依してわざと殺されたりしてますよね』

 

「それはゲームの話でしょう!プレイヤーがこっちの世界で死んだらどうなるか、生き返れる確証なんてない!

それに、もし封印されたら?WI(ロンギヌス)を打ち込まれたら?

ゲームと違って倒されるだけじゃない、死よりも辛い状況はいくらでもあるんですよ!」

 

『そ、それは…』

 

スタッファンで危うく酔いつぶれたことを思い出して、あながちないとも言い切れず言いよどむ

 

『だけど!それをいうならエ・ランテルの時だって、本物の|魔術詠唱者<マジックキャスター>を相手にしてましたよね

あれだってモモンガさんの理屈でいったら危ないじゃないですか!』

 

変なポーズを決めたがるチンピラじゃない、街一つ壊滅させかけた本物の死霊術師。

あれはカジットがリッチになろうと勝手に起こした事件だからあの規模で済んだけど、背後にあるズーラノーンという組織がガチで関わってた事件なら

援軍の上位死霊術師達が加勢して屍海戦術で押しつぶされた可能性だってある

 

 

「そうなったらそうなったで何とでも対処できます!

問題なのは、ふうかさんが一人で戦ったこと!

 

危なっかしいんですよ、ふうかさんは!

ずっと深淵の凝視(アビスゲイズ)だったから危機感が薄いかも知れませんけど、

他のやつらなんかよりまずは自分の安全を何よりも最優先してください!」

 

バン、と机をぶっ叩いて言葉を遮り、怒鳴り散らすように吐き出すモモンガさん

そして言い過ぎたと自分でも思ったのか、鎮静の魔法を掛け、椅子に腰を落とす

 

『…ほかのやつらを優先って、私がそんな頭ん中フラワーガーデンなパッパラパーな訳ないじゃないですか

どんな風に見えてたか知らないですけど、何時でもちゃんと自己保身考えてますが』

 

普通に考えたら、ゲームの中の存在と、同じ現実世界から来た人間

どちらを信用するか、と言われたら後者を選ぶんだろう

だから、モモンガさんにとっても、私が何かやらかして消えてしまうのは怖いと

そう思うのは普通…なのだろう

 

言葉が通じて、意思疎通ができるなら

同じ世界の人間か、ゲームのNPCかなんて、そんなこと関係ないのに

 

『安心してください、私がラッフィーを残してどこかに行くわけ無いじゃないですか

何があってもナザリックに戻ってきますよ』

 

何か言いたげに口を開きかけ、やれやれと首を振るモモンガさん

 

「…とにかく、もう危ないことをしないでください。それだけは、約束してください

ロンギヌスに続いて傾城傾国まで出てきたんです。この世界に他にプレイヤーがいるのは間違いない

 

結構恨み買って来ましたからね、ナザリック

今度1500人に攻め込まれたら、流石に二人で防ぎきれる気がしませんよ」

 

冗談めかしていうモモンガさんだが、心なしか黒い眼窩は遠くをまっすぐ睨んでるようで

自分で言った言葉に危機感を感じたように、何やら真剣に悩み込んでいる

 

「――まずは、セバスの件ですね」

 

そんな低い呟きとともに、なんの前触れもなく宙に現れた漆黒の亀裂に飲み込まれ、私の視界はブラックアウトした。

 




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