オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜 作:アバダケダブ郎
結局アルベド達の争いは至高の御方…ヴォェッ!背中が…!モモンガさんが一人しか后を取れないなんておかしいから、どっちが正妃かの争いになり
デミウルゴスがそろよりさっさと命令をくれと話題を逸らしてくれたことで一先ず解散となった。
マーレはモモンガさんの命令通り土魔法でナザリックの隠蔽を、他のNPCたちは警備の強化
そして元々プレアデスの一員であったラッフィーはセバスと同じモモンガ探索の任務を与えられた。
『――ということがありまして、どっちにしますか?』
『アルベド達もアルベド達ですけど、それをど直球ストレートで伝えてくるふうかさんが私は怖いですよ…
後継云々はさておき、今どんな状況かも分からないのに、ナザリックという後ろ盾を失うのは悪手だと思います』
『それもそうですね。ヴァルキュリアの失墜の時みたいにいきなりインフレするかもですし』
あのクソアップデートで、最高レベルが60から100まで引き上げられ、ステータスのインフレでそれまでの最強装備が一瞬でゴミ屑となった。
しかも深淵の凝視<アビスゲイズ>のような地雷要素も大量に追加され、あまりの理不尽さにユーザーの1/10がそのまま引退。
かくいう私もそんな地雷を真上から踏み抜いた一人で、血の教訓からモモンガさんの懸念は痛いほどよく分かる。
情報収集、ジッサイ大事。
『あれは酷かったですね…ご愁傷様でした。
それでなんですけど、ちょっと外まで探索に行きませんか?
ずっとNPC達に囲まれて息が詰まっちゃって…』
『行きます』
即答した。外がどうなってるのか、実はさっきからずっと気になっていたのだ。
『それじゃ一階で待ってますね』
了解。ラッフィーに頼み、装備させたギルドの指輪で第一階層まで転移して貰う。
しばらく道なりに進んでいると、黒い鎧を着た騎士の前で悪魔たちが跪いている光景に出くわした。
よく見るとデミウルゴスもいる。
ということは黒騎士はモモンガさんか
『ふうかさん、ちょうどいいところに!護衛を付けろってデミウルゴスがうるさくて
ラッフィーさんに話を合わせて貰えますか?』
いいですよー、とラッフィーに伝言<メッセージ>を送る
「見事だデミウルゴス。どのような相手であれ警戒を怠らず、引き続き警備を強め、ねずみ一匹たりとも通すな。
そしてラッフィーよ、お前は私に同行しろ」
「ありがたきお言葉…!ご期待に沿うよう、努力してまいります」
「かしこまりました、モモンガ様」
尻尾を垂らし、心なしかシュンとしているデミウルゴスに後ろ髪を引かれつつ、
憑いたラッフィーに引っ張られるがままにナザリックの正門を潜る
その先に広がる世界に、私達は絶句した――
「わぁ…」
『凄い…』
どこまでも続く見渡す限りの草原に、満天の星空。
こんな透き通った空は、一度も見たことがない
照明もないのに、月明に照らされた大地が無限に広がって見える
『ラッフィー、ちょっとだけ…
ちょっとの間だけ、体を借りてもいい?』
余りにも美しすぎる光景を、少しでも間近で見たくて
ついそんな願いを口にしてしまう
『勿論です、マスター。マスターのお役に立てるなら、私も嬉しいです』
占拠<オーバーライド>――それは、相手の体を完全に乗っ取る魔法。
背後にとり憑くだけの騎乗<ライド>とはわけが違う
断れるわけがない相手に、お願いだなんて、どれだけ残酷で恐ろしいことか
だから、ずっと切り出せなかったのに
だけど、目の前の光景が余りにも美しすぎて。どうしても我慢ができなくて
『——ありがとう、すぐに返すから』
祈るように両手を組んだラッフィーの中に、魔法を使って侵入する
刹那の浮遊感、次の瞬間
吹き抜ける夜風の冷ややかさ、耳元を掠める草木のさざめき、鼻腔を突き抜ける深緑の匂い、閉じた瞼から感じる暖かな寒光
長らく感じていなかった感覚たちが波のように押し寄せ、ここがゲームなどではない
間違いようがない現実だということを、この上なく思い知らされた
「本当に、遠いところまで来てしまったんですね…」
「ええ、本当に現実の世界とは思えませんよ、ふうかさん…!
ブループラネットさんにも見せてあげたかったなぁ…」
「…。そう、ですね。」
「きっとノリノリで星座のことを教えてくれますよ
あれがベガ、あれがデネブって、初めて第六階層の天空を作った時のように
それで、イベントの集合時間まで数えて、みんなで盛大に遅刻して
ワクワクしてやった、反省はしている!って…」
モモンガさん…
「いますよ、きっと。私達のようにプレイヤーたちが…モモンガさんのメールを見てログインした、ギルドのみんなが
…だから探しに行きましょう、こんなにも広い世界なんですから どこかに、どこかで この空を見上げて感動しているはずです」
私は自分を幸運だなんて思ったことは一度もない。
だからこんな奇跡が、私達だけに訪れるなんて信じたくない。じゃないと、あまりにも不公平だから
「…ええ、探しに行きましょう、アインズ・ウール・ゴウンのみんなを!
そして今度こそ…現実<リアル>のしがらみなんて、もうどこにもないんですから…!」
■■■■
どれだけ夜空に見入っていたんだろう。不意に寒気を感じて、思わずくしゃみをしてしまい
思った以上に長くラッフィーの体を使っていたことに気づく
慌てて占拠<オーバーライド>を解いてナザリックに入ると、プレアデス達を引き連れたセバスが血相を変えて走ってきた
「モモンガ様!先ほど、とてつもない気配を感じましたが、一体何が起きているのでしょうか!?あれはもしや、至高の御方のものでは…」
「セバスか。何でもない、気にするな
それより、ラッフィーに何か暖かい飲み物を用意してやれ」
「飲み物を、ですか?」
ギロリと、ラッフィーの方に視線を向けるセバス。怒ってるのか驚いてるのか、いつもしかめっ面だから判断出来ない
「ああ、私のわがままに付き合わせてしまってな、体を冷やしてしまったようなのだ」
「それは、プレアデスにあるまじき失態。このセバス、いかようにも処罰をお与えください」
「セバスよ、私は彼女の忠誠を労うと言ったのだ。それは責任者であるお前も同様だ」
「寛大なお言葉感謝します。早速飲み物を用意させていただきます」
ちょっとこれは不味いかも
「…私なんかにお気を使って頂き、とても恐縮です。
ですが、マスターに作って頂いたこの体、寒さぐらい、平気です…。それに、夜風に当たることくらい、慣れてますので…」
小刻みに震えるラッフィー。その理由は、寒さだけじゃないはず
デミウルゴスの時もだけど、ラッフィーへの贔屓が過ぎて、NPC達の顰蹙を買いかねない
人の気持ちに敏感なこの子だから、それに気づいているんだ
『モモンガさん、もういいです
私のこと、教えちゃってください』
『いいんですか?』
『夢じゃなくて、この世界が本物だってわかったんですから、いつまでもモモンガさんだけ矢面に立たせる訳にも行かないですよ
――それに打算的なことを言えば、もうNPC達の本心は聞けたんですし、これ以上隠れている意味がないです
むしろいつどこにいるかも分からない私の存在が、NPCたちへの牽制になって、モモンガさんのストレスを分担できたら、なんて』
なんて耳障りのいいこと言ってるけど、本当はラッフィーのため――
元々、ラッフィーはゲーム内で普通に売られてるコモンレアのNPC“奴隷の少女”だった。
ガチャ産のレアNPC、それこそSSRだって沢山引き当てたのに、それら全部解体してラッフィーだけに注ぎ込んだのは
檻の中の彼女が、なんとなく自分に似ていると思ったから。
この子を最高に幸せにすれば、いつか自分も同じように、あの地獄のような生活から誰かに救ってもらえると信じて、無意識に自分を重ねていたんだ
そんな、どうしようもなくなって、神に祈ることすら諦めて、データの羅列でしかないゲームに掛けた願い
それが本当に叶った。この子のお陰で。だから、この子が不幸になるとこは見たくない。
「そのマスターきっての願いなんだがな…」
「今、なんと…?」
ギロっと、セバスの目が光ったような気がした
泣きそうな顔でモモンガさんを見つめ、小さく首を横に振るラッフィー
しかしそれが却って決定打になったようで、セバスたちは口でこそ何も言わないが、答えてくださいと言わんばかりの視線をモモンガさんに向けた
『ラッフィー、体借りるね』
「と、言うことだ…です、セバス。私のいない間、ラッフィーのことを気に掛けて貰い、感謝します」
無理無理無理!対人で敬語以外とか無理!
というか何あのプレッシャー!?モモンガさんはあんなのを今まで受けてたの!?あんなもん受けながらあの言い回しして、たまに格好もつけて??
それともあれか、肉体に魂に引っ張られるってやつ
逆立ちしても威厳なんて微塵も出せないラッフィーの声だから、反射的に弱気になっちゃってるだけ?
「風鈴菓様…なんという…なんという喜ばしいことでしょう」
直立不動のまま、静かに身震いし、失礼、とハンカチを取り出して静かに涙を拭うセバス。その後ろに控えるメイド達も表情を崩すまいとぎゅっと唇を結び、それでも流れてしまう涙を流れるような仕草で拭い取っている。
感動要素どこにあった?
忠誠心ガンギマリなこの人たちにとっては退社した上司がいきなり復職したようなこの状況でも、
死に別れた肉親が生き返ったような気持ちなんだろうけど。
「宴を――料理長シホウツ・トキツに宴の準備をさせております。
どうか、食堂にお越しいただけないでしょうか。これはナザリックに仕える我々一同の、真摯な願いでございます」
耳元に手を当て、どこかに伝言<メッセージ>を飛ばすと、セバスは恭しく腰を曲げ、頭を下げてくる
『…これってもしかしなくても守護者達全員の総意ですよねー』
『私はもう既に胃が痛いですよ、ふうかさん…』