オーバーロード~至高のもう一人は救済を望む〜 作:アバダケダブ郎
『料理長といえば、副料理長クラヴゥってブループラネットさんのNPCでしたね』
『そうなんですか?
本当に食べられるわけでもないし、見ていて虚しくなるだけなので、ほとんど行ったことないから覚えてないです…』
『でもゲームが現実になった今なら…!?』
『食べられる!』
いぇーい!思わずモモンガさんとハイタッチ――しようとしてノってくれなかったので
勢いのままバチンと頭を引っぱたいてしまった私は悪くない。
心なしかセバスの視線が怖い。
「…とこのように、いつ襲撃があるかも分からない状況で、警備体制を弱めることになる宴は容認できない
だが、彼女の帰還を祝うお前達の気持ちは受け取ろう。食堂に案内せよ」
「考えが至らぬばかりに至高の御方々の御身を煩わせてしまい、申し訳ございません。如何様な罰も甘んじて受けましょう」
「不満があれば処罰の内容共々言葉で伝えていますので、謝罪は不要です。
それにこれはただの戯れ、あなたの考えていることとは恐らく違うでしょう」
と、怒ってるのか許してるのか分からない上司構文を真似てみたけど、ちゃんと威厳でてるかな?
何にしても勝手に深読みして謝られてたらテンポ悪いし、ここはズバッと言っておかないと
「かしこまりました。至らぬ私めにもそのような寛大なお言葉を賜り、深謝いたします」
ぎゃぁああ!背中が、背中がむずむずする!
こんな一挙一投足に一々全部恭しく対応されてたら本当に精神が持たないってば。
溝の中でひっそり腐っているのがお似合いのこんな蛆虫にこれ以上大出力のスポットライトを斉射しないでくれ。
もう気持ちを料理に切り替えよう、今の私は料理一筋だ。
ゲームの時、料理のオブジェクトの横にグルメ漫画を開いて味を読む、エアお茶会なんて虚しいイベントに参加したことあるけど、
今度こそ本当に食べられるのだ
楽しみで語彙が死んでとにかく楽しみでしかない。
食堂に案内され、ワクワクしながら待つこと数分
コンコン、と扉が軽くノックされ、セバスに続いて様々な料理を乗せたワゴンを押したメイド達が入室し、流れるような動作でスルスルと目の前に並べていく
『あれ、なんでふうかさんのところにだけ?』
『席を間違えたとか…?お誕生日席って言うぐらいですから、特別な日の人しか座れないんじゃないですか?』
『え、でもここに案内したのはセバスですよ?』
『談話する時の席と食べる時の席は別って、漫画で読んだことあります』
そういうものなのか、と頷いて スッと隣に転移してくるモモンガ
見た目だけ大魔王が音もなく転移してきた感じなので、シュール極まりない
「失礼いたしました」
なぜか申し訳無そうに深々と頭を下げたセバスが合図すると、モモンガさんの前にも料理が並べられていく
あっ…察したわ
「どうぞ、お召し上がりください」
一通り料理を並べ終え、一礼すると、一列になって部屋の端に待機するメイド達。
目の前には見たこともない美味しそうな料理の数々。どれもが食欲をそそる鮮やかな色合いで、香ばしい匂いを漂わせている。
『こういう時って、いただきます、でいいんでしょうか?』
『私に聞かないでくださいよ…最後に食堂で食べたのだって、十年以上前なんですから
料理を作った人への感謝の気持ちをそれっぽく言ったら良いんじゃないですかね』
私だって最後に誰かと一緒に食事したのは小学校の給食が最後なんだけどな
「この短い時間で、これほど素晴らしい料理の数々を用意して頂いたことに感謝します」
「勿体無きお言葉。料理長シホウツ・トキツにしかとお届けします」
当然というか食器は洋式らしい
ナイツとフォークを使うのなんて小学校以来だから、一番使いやすそうなスプーンを手に取り、
ピンと指先の先まで神経を巡らせて、考えうる限り優雅な動作で機械的にスプーンを取り、スープを口に運び、飲みこむ。
ちゃんと威厳のある振る舞いができているんだろうか
しかも今はラッフィーの体を使っているのだから、恥をかくのは私だけじゃない
「おいしい…!めっちゃ美味しいよこれ!」
今まで食べたどの食物にも当てはまらない、認知を超えた味に、そんな考えが一瞬で吹っ飛んだ。
知っている味で無理やり描写するならば
チューブ食品のような化合物まみれの過剰な味付けでも、SCOP(単細胞有機プロテイン)肉のようなパサパサした食感でも、ソイレントグリ〇ンのような喉の奥からムワッとする吐き気もなく、
最上位浄化<グランド・ピュリファイ>が舌の上で溶けて口腔から体中がデトックスされていくような、そんな味に気づけば私は作法も忘れ、一心不乱にスープを平らげていた
ボト。ボトボト…
そんな至福の一時は、隣から伝う閉め忘れたチューブ食品が滴るような生々しいな音で、現実に引き戻された
音の正体を探ろうと視線を向けれた先では――眼窩の光を消した髑髏顔がフリーズしていた。
あんぐりと開かれた口、というか顎骨にはスープがべっとりと付着し、重力に従って虚しく滴り落ちていく。
やっぱそうなるよねー。
「あ、あー。生憎と食べられない死者の身だが、相伴に預かるとしよう。それにたまには生前を振り返るのも悪くない」
苦しい言い訳をかき集めてなんとか威厳を取り繕うモモンガさん。
さっきから鎮静<カーム>のエフェクトが何度も発生しているけど、何してるんだろう。
結局口に運んでは顎骨から落としていくモモンガさんが気になって、味が全然頭に入らなかった。
伝言<メッセージ>を飛ばしてみたけど、やはり味どころか口に入れた感覚すらないらしい
まさか本当に自分のPCになるなんて予想できる訳ないんだから
スケルトン・メイジを選んだ過去の自分を殴りに行かなくてもいいと思うよ
■■■■
食事を済ませ、やまいこさんのNPCプレアデスのユリ・アルファの先導でゲームの時使っていた自分の部屋に案内される
第九階層にずらりと並ぶ没個性の扉とは正反対に、個室の中身はそれぞれの好みで魔改造されていて
私の個室は壁の一部が朽ち果て、内装にまで植物が侵食した遺跡のデザインで、割れた窓や壁の間から穏やかな日差しが遠景オブジェクトの森の向こうから差し込んでいる
こういう景色を見ていると心が落ち着くというか、嫌なことから解放されたような自由な気持ちになる
と現実で教師をやっているやまいこさんに相談したら「かなりヤバイ精神状態の現れ。さっさと病院行け」と言われたけど
「では私はこれで。何かありましたらいつでもお呼びつけください」
一礼して退室するユリ・アルファを見送り、占拠<オーバーライド>を解除する
「…?マスター…?
私に何か、至らないところがありましたか?私のせいで、嫌な気持ちにさせてしまいましたか…?」
え、なんで?
「先程から何度も、占拠<オーバーライド>をしては、すぐに解いてらしゃったので…。私の体をお使いになるのは、嫌でしょうか…?」
上目遣いでそんな誤解を招くようなこと言わないで?
ずっと体の主導権を奪われたままは嫌でしょ?
って、伝言<メッセージ>しないと聞こえないんだった
『そんなことないよ、体を貸してくれてむしろ感謝じゃ足りないぐらい
でも流石に疲れただろうし、今日はもうゆっくり休んで』
「お気持ちはとても嬉しいです、マスター。…でも、マスターのためにこの身を捧げられるなら、それが私にとっての何よりもの幸せです
だから…どうか、私のことなど気になさらなずに、必要なだけ、お使いください…」
ブルータス。お前もか。
『ダメです。ちゃんと休みなさい。ユリ・アルファだってお暇したんだから
誰かに憑依してないといけない私の従者だからって、そんな特例は認めません』
『ユリさんは、そんなことをしません。このナザリックの、他のみなさんと同じように、マスターや至高の御方達に、ひと時も欠かさず常にお仕えしてるんです
…すみません…マスターが知らないはずないのに…
でも、物の喩えでも、ユリさんのことをそんな風に言われるのは、とても悲しいです…』
え、どういうこと
『休まないの?』
『休みませんよ』
『誰ひとり?』
『はい、誰ひとり』
『24時間ずっと?』
『はい、みなさん24時間ずっと、マスター達のために一生懸命、それぞれの使命を全力で全うしています』
……
『いや、休め?』
なにこれ24時間働けて最高だぜ!私は幸福で完璧な市民ですいあいあくとぅるふ!
ってナザリック全体がそういうノリ??
伝言<メッセージ>:モモンガ
『モモンガさんモモンガさん、ブラック企業についてどう思います?
私は大嫌いです。ぶっ潰したいです』
『私も大嫌いです。人間を労働搾取することしか考えていない、この世にあってはならない邪悪な存在です。
どうしたんですかいきなり』
モモンガさんと私で意識の差がないようでなにより
『今のアインズ・ウール・ゴウン、ドブラックです
NPC達が24時間無休息で働くのが美徳と本気で思ってるっぽいです』
『ええーー!?あ、でもゲームだと専門のルーチンを組まなければ、NPCは出された命令を延々とリピートしますから、多分それの延長じゃないですかね』
『精神衛生上すこぶる悪いので、そんなクソ制度今すぐ撤廃します。以上。まる』
『アッハイ』