RPの補助に近いものとなっています。
世界を見つめる『ナニか』が、独りそこにいた。
否、独りと表現するのもおこがましいほどに希薄な存在だった。何故ならば『ナニか』には同族が居らず、同士も居らず、名も持たず、認識されず、触れられず、声を聞かせることも出来ず、ただ見つめることのみしか出来ないような……そんな存在だったからだ。
その『ナニか』は、ずっと星を見ていた。
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、見ていた。
憤る生命を見ていた。
嘆く生命を見ていた。
笑う生命を見ていた。
不幸で、幸福な生命を、『ナニか』にとってはあまりにも眩しい、煌めく生命を見ていた。
そして、あんまりにも眩しかったから、あんまりにも煌めいていたから、『ナニか』はとてつもなく羨ましくなってしまったのだ。
そのような成り行きで、『ナニか』は自身に『エリオット』という名前を定義付け、とある小さな世界に足を踏み入れた。
◇ ◆ ◇
エリオットはその世界で初めて他者と言葉を交わした。誰かと思いを交わした。
時には、生命を奪うこともした。初めて魔物とは言え生命を奪った時、エリオットは眠ることが出来なかった。震えながら小さくベッドの中で縮こまり朝が早く来ることを祈った。
しかし、魔物はエリオットがなんであるかも関係なく平等に襲いかかる。闘うことを知り、時に魔法で、時に剣で、敗北と勝利を繰り返しながらエリオットは少しばかり強くなっていった。
ふらり、ふらり、彷徨うように揺蕩うようにあてどもなく歩いたエリオットは『魔王軍』と呼ばれる国のような、しかして軍のような場所にたどり着きそこに根ざした。
エリオットはその世界では『神もどき』を名乗る、よく分からない存在であったにもかかわらずその軍にいるもの達は受け入れた。
彼らは一様に、『魔王』と呼ばれる存在の復活を待っているらしかった。実の所、エリオットにはそう言ったものは分からなかったが、共に待つことを選んだ。
その軍には幽霊がいた、妖精がいた、魔獣もいた、怪異もいた、獣人も現れ、獣もいて、なんなら喋る食材やただの人ですら受け入れるような、そんな摩訶不思議極まりない場所ではあったが、そんなものはエリオットにとってどうでもよかった。
だって、だって、だって……嬉しかった!!
誰かとお祭り騒ぎの様な日々を送る、笑ったり泣いたり怒ったり、好きな物や嫌いな物を共有したり、贈り物をし合ったり。
それは『ナニか』だった頃にはきっと享受することを想像すら出来なかった、そんな幸福な日々だったのだ。
幾日が過ぎ、そんな幸福な日々を享受し続けた『神もどき』はある日、小さな疑問を抱く。
「果たして、この場所に居なくても、ぼくは、私を保てるのだろうか」
時に残酷に、時に気まぐれに、祝福を与えたり生命と争う『神もどき』。
だけど、そう、……例えば、ただの人間のような、祝福も奇跡も何も出来ないけれど、そんな自分でも、必要とされるのだろうか。
きっと『魔王軍』なんて恐ろしい名前を冠しているというのに、優しいこの場所ならば受け入れられるだろう。
───────……それでも『ナニか』には一抹の不安を捨てきれなかった。
旅に出るという、眠りを促す幽霊と幼い獣人を見て、『ナニか』も小さな決意をした。
頭の輪を捨てて、目立つ内側の七色の髪を隠し、寒さに負けぬよう外套を羽織り、普段は履かない靴を履き、エリオットは門扉の前に立つ。
あの日、自分を受け入れた、大きな大きな門。今までも幾度も自身を見送り、そうして受け入れてくれた門。
肩に下げた鞄の紐を握りしめ、小さく息を飲み込む。
「ぼくは、……私は知りたくなったのです。『私』は、あそこにいなくとも、『エリオット』でいられるのか。あの自由で、楽しく、 ──……優しい場所にいなくても、私は私でいることを許されるのか。そうして帰ってくる頃に、きっと私は胸を張ってこの場所にいられると思うのです」
暖かい思い出は自室に置いて、普段地につけることの無い足で真っ直ぐに…否、少しばかり震わせながら、『エリオット』は二人を追いかけた。
二人を追いかけるからと言って、怖くないわけではなかった。寂しくないわけではなかった。
だって、この旅の終わりに見つかるかなんて分からない。受け入れてもらえるかなんて分からない。
それでも、探し続け追い求める生命の美しさを、『ナニか』ははるか昔から知っていたのだ。
◇ ◆ ◇
かくして、天使のような見た目の神を騙る『ナニか』は旅に出るに至った。
この旅の終わりに、『ナニか』はどう変化するのか。それは、きっとホンモノの神様にさえ分からない。