「──どうだいミツキ君。あれからひと月、宿題の答えは見つかったかな?」
「これかな、ってのは一応。でもそれを正解には出来てません」
3回目の検定試験を経て、春先に待つ進級試験まで暫しの安寧が訪れた学院生活。
今日も今日とて部屋の掃除をする俺に、ベル先輩は宿題の進捗を聞いてきた。
「ふむ、という事は……『この為を思えば頑張れるが、それは叶わないものだ』……と言った所かな。例えば……故郷にいる恋人とかッ!?」
「……まぁ、当たらずとも遠からずと言っておきます」
珍妙なポーズにした指先をビシッ!と音がしそうな勢いで突きつける先輩の言葉を、背中で受け流す。
相変わらずこの人はいつも見透かしたような事を言ってくる。時として俺の胸中をドンピシャで言い当てる事すらあって空恐ろしく思うのだが、流石に「俺は別世界の人間で、行方不明の恋人がこの世界にいるかもしれなくて、しかもその相手の幼馴染が学友かもしれな以下略~」という何とも複雑怪奇な状況に置かれているとは見抜けなかったようだ。
「……そういえば──リーバンテイン主席は、先輩の剣も俺と同じで軽い、って言ってましたけど……それってつまり先輩は心意を使えないって事ですか?」
「……君は本当に耳敏いね──ああ、その通りだよ。僕はリーバンテイン君を始め上級修剣士上位3人と違って、心意が使えない。前にも言ったろう?肉体労働は苦手なんだ。そんな僕が、剣に何かを込めるなんて出来るわけがない。こうして、君にアレコレ入れ知恵するのが精々だ」
……何となく分かった。嘘は言ってないのだろうが、話してない事もあるのだろう、と。
恐らく、心意を使えない理由に関する事だろうか。少なくとも、こうして上級修剣士第四席に就いている事からして本当に実戦が苦手、ということはあるまい。
「──まぁそんな僕でも、弟子である君がリーバンテイン君に勝ってくれれば実質主席みたいなものだ。期待しているよ、頑張ってくれたまえ」
そう冗談めかして笑う。そんな先輩の顔が一瞬──ほんの一瞬だけ陰りを見せたことに、俺は気付かなかった。
時は流れ、年越しを経た3月某日──夕食を食べ終えた俺は、キリトとユージオと共に初等練士寮の中庭へ赴いていた。
神聖術の授業でも使用する触媒を生み出す色とりどりの花達の間を通り抜け、隅っこに置かれた小さなプランターの前で足を止める。
「──お、結構育ってるじゃないか」
「ホントだ、前より蕾が膨らんでる……!」
「四度目の正直だ、上手く咲いてくれるといいんだけどな……」
主要な花々と違って花壇の外で育てられているコレは《ゼフィリア》という花──人界を4つに仕切る《不朽の壁》を隔てて隣接するウェスダラス西帝国から輸入された種を、去年の秋頃にキリトが購入。以来こうして育てているのだが……先の言葉から分かる通り、既に3度枯らしてしまっている。
決して、キリトがちゃんと面倒を見ていなかったというわけではない。寧ろ、中庭の花壇の世話をしている花好きの生徒に色々と話を聞いて知識を付けたり、毎日欠かさず水やりをしたりと、いつになく真剣だった。にも関わらず失敗してしまったのは、「ゼフィリアの花は西帝国の土でしか咲かない」と言われているからだ。購入したのはあくまで種だけで、土までは付属してこなかった。
そもそも、輸入された理由からして園芸ではなく香辛料としての役割を期待されていたこの花を、何故こうも熱心に育てているのか……キリトが言うには、ある種の実験的試みらしい。
このアンダーワールドに潜む力──強力なイメージを以て働きかける心意の力の影響力を確かめる為、イメージの力でこの花を咲かせてみよう、と。
1度目と2度目は敢え無く全滅。しかし前回の3度目は小さいながらも発芽には成功した事で、半信半疑だった俺も「次は上手くいくんじゃないのか」と思い始めていた。
ユージオから受け取ったジョウロで開花前の花に水をやるキリトの表情は穏やかで、慈愛のようなものを感じる。花といえど生きている──発端は単なる知的好奇心だったとしても、時を共にする内に愛情が芽生える事もあるだろう。
お前達は必ず綺麗な花を咲かせる事が出来る、元気に育ってくれ──そんな言葉が聞こえた気がした。
「──にしてもまだ驚いてるよ、キリトにこんな趣味があったなんて。もしかして、《ベクタの迷子》になる前は花を育てたりしてたのかな?」
ユージオの言葉を受け、現実世界でガーデニングをするキリトを想像してみる──考えられない、というわけではないが、そうなれば恐らく一緒になって花を育てるだろうアスナの方がハッスルしそうだと思い、小さく吹き出してしまった。
「……おいミツキ。笑ってんの聞こえてるからな」
「……いやすまん。別にお前の事を笑ったわけじゃ」
「フン、どーだか」
「本当だよ──ほら集中しろ」
キリトが意識を花へ戻す傍ら、ふとユージオが口を開く。
「……前々から思ってたけど、2人って随分仲が良いよね?」
「……そうか?俺からしてみりゃ、キリトとユージオの方が仲良さそうだが」
「それを言うならミツキとユージオだって」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、何ていうかな……君達2人は、僕と出会うよりずっと前から友達だったみたいな──そんな感じがするんだ。ほら、使う流派だってどっちもアインクラッド流だろ?単に同じ剣を使うってだけじゃなくて、小さい頃一緒に剣の腕を磨いてたんじゃないかな、って」
ユージオのその感覚は概ね正しい。
事実、俺とキリトはアンダーワールドに来るよりずっと前から同じ場所で戦っていたし、SAOベータテストまで遡れば、様々なシステム外スキルの練習もした。
「……ねぇ、2人は……もし記憶が全部戻ったら、どうするんだい?やっぱり、故郷に帰りたいと思──」
「──帰らないよ。帰るとしても、それは整合騎士になってからだ」
「ああ。勿論、最終的には元いた場所に帰る事になるだろうが……全部終わってからでも遅くはない。整合騎士になって、カセドラルに行く。それを途中で投げ出す気は無いさ」
「でも、それはあくまで僕の目的に付き合ってくれてるだけじゃないか。どうして、君達はそこまでしてくれるんだい?」
「どうして、って言われてもな……俺もミツキも前いたとこじゃ十中八九剣士だったわけだし、なら四帝国統一大会で優勝したいって思うのは変じゃないだろ?」
キリトの言葉を聞いたユージオは、小さく顔を俯けて呟く。
「……僕は、とても弱い人間なんだ。ザッカリアで衛兵隊に入って、こうして学院に入学出来たのも、全部キリトやミツキがいてくれたからで……ルーリッドでキリトと出会っていなければ、僕は今もずっと斧を振っていた。天職を言い訳にして、本気で村を出ようなんて考えもせず……いつかはアリスの事も忘れて、1人で生を終えていた」
「ユージオ……」
……その気持ちは痛いほど分かる。時間というのは残酷で、どんなに大事に思っている相手だろうと、やがては意識の片隅に押しやってしまう。俺と同様に、それはユージオが最も危惧した結末であり、最も恐怖した結末なのだろう。
「だからせめて、君達と一緒にいられる内に少しでも強くなって、少しでも早く追いつかなきゃって、思ってたのに──今僕は、記憶が戻っても帰らない、っていう君達の言葉に、酷く安心してる。……ダメだよね、こんなんじゃ」
「……あのなユージオ。勘違いしてるようだけど、俺だってお前がいなきゃ何も出来なかったんだぞ?何せ禁忌目録も帝国基本法も殆ど覚えてないし、自前の剣どころか金だって1シアすら持ってない。《青薔薇の剣》を振れるくらい権限が上がったのだって、ユージオが村に案内してくれなきゃあり得なかった。俺とお前、どっちが欠けても今の状況にはなってない──だから、これからも俺達は一緒だ。俺達だけじゃない、ミツキとメディナもいるし、先輩達だって色々教えてくれてる。力を合わせなきゃ、ガキの頃から剣を握ってきた上級貴族の坊ちゃんやら帝国騎士団の精鋭やらに敵わないぜ?──1人で頑張ろうなんて考えるのは、そうするしかなくなった時くらいでいいんだよ。な、ミツキ?」
キリトがバシッと音がしそうな勢いで俺の肩に手を置く。
「……まぁ、概ね同感だ。それになユージオ。剣の腕で言えば、お前は絶対に俺達より強くなる。今はまだ知識や経験の差で俺達が上にいるだけで、その差が無くなったなら──きっとお前は、名実共に最強の整合騎士になれるよ」
俺やキリトがSAOで最強と呼ばれていた理由の1つが、仮想世界内に於ける反応速度だ。これが仮想世界内で長い時間を過ごした事による適応の結果であることは、《絶剣》ユウキが証明している。
その点で言えば、ユージオを始めとする人工フラクトライト達はその極致と言える。何せ仮想空間の中で生まれ、仮想空間の中で死んでいくのだ。適応なんてレベルの話じゃない。今しがた言った通り、知識や経験、技量の面で俺達に追いついたならば、ユージオは俺やキリト、ユウキすら超える最強の剣士に──
「最強、か……全然想像つかないや。僕からすれば、その称号は君達の方がしっくり来る──そういえば、キリトとミツキって戦ったらどっちが強いの?」
「唐突な質問だな……んー、こういうのって単純な力量差だけじゃなくて、色んな条件とか相性でも変わってくるからなぁ」
「まぁでも、入試の順位的にミツキの方が強いんじゃないか?」
「いや、あれは単に型の演舞の差だろ。こっちはメディナに教えてもらってたからな。実戦じゃキリトの方が上だ」
「じゃあ、もしお互いに最高の状態で戦ったとしたら?」
最高のコンディション──俺の場合、まず得物が剣から槍に変わる。そしてキリトに対する諸々の感情やらも除外。あと俺を最高の状態にするのに必要なものは──アリスが笑顔で応援してくれたら多分……いや、絶対無敵になれる。うん、チアガール姿で応援してくれたら100パー勝つ。負ける気がしない。
「うむ。その条件なら──」
「「──間違いなく俺が勝つな」」
異口同音の言葉に、俺とキリトは互いを見合う。
「……いや、俺だろ」
「いやいや、俺だって」
「馬鹿言うな。『最高の状態』で俺が負けるわけないだろ」
「こっちのセリフだ」
ヒートアップしかけた俺達の間にユージオが割って入り、その場はなんとか鎮火。
大方キリトも「アスナやユイが応援してくれたら~」とか考えていたんだろうが、勝つのは俺だ。絶対に。
「……あ、そうだ──なぁユージオ、明日1日《青薔薇の剣》を貸して貰っていいか?」
「いいけど……何に使うの?試験の時に感覚が変わっちゃうからって、いつもは木剣じゃないか」
「ああ。明日、リーナ先輩に俺の本気の剣を披露する約束をしたんだ。木剣じゃ2連撃が限界だし、なんか味気ないだろ」
「なる程、確かにアインクラッド流の真髄はそんなものじゃないもんね。そういう事なら全然いいけど……でもキリト、忘れたの?」
「え……何を?」
「お前……去年の今頃に何をしたか、覚えてないのか?」
「ち、ちょい待ち。今思い出す──えーと、去年の今頃だから……俺達が央都に来たばかりくらいだろ。そん時は確か…──あぁそっか、遂に明日か!」
「そういう事。──で、どうする?《青薔薇の剣》が良ければ貸すけど」
「いいや、
そう言って花壇を後にするキリトは、遠足前日の小学生よろしく明日の安息日を心待ちにしているのが表情から伝わってきた。
《サードレ金細工店》──北セントリア第七区に居を構えるその店を1年ぶりに訪れた俺達を出迎えたのは、恰幅のある強面の男性だった。
彼こそは店主であるサードレ氏──ユージオの先代《刻み手》の知り合いであり、俺達が央都まで持ってきたギガスシダーの枝と謎の物体Xを剣に仕立ててくれるよう頼んだ人物なのだが……
「──見ろィ、この有様を!」
そんな声と共に、俺達の前にいくつもの四角い石版が投げ出される。東帝国特産の砥石らしいのだが、磨り減って厚みはほぼ無いに等しく、砥石としての役目はもう期待出来そうにない──それが実に15枚。
「この黒煉岩の砥石1つで何年使えるか知っとるか、3年じゃぞ3年!それがたった1年で15個も全損しよった!全く、とんでもないモンを持ち込んでくれたもんじゃ!」
「「す、すみません……!」」
凄まじい剣幕のサードレ氏に、俺もキリトも平謝りするしかない。
彼の天職はあくまでも《金細工師》であって《鍛冶師》ではない。そんな彼が武具を作ろうとすると、必然的に素材を削って磨く事になる。
曰く、氏本人は鍛冶師になるのが夢だったらしく、細工師になってからもその夢を捨てきれず、装飾品だけではなくこうして武器防具も取り扱っているそうなのだが……出来の面で言えば、例え同じ素材でも削って作るより叩いて作った方が高優先度に仕上がるのだとか。
非情な現実にもめげず、素材探しの長い旅に出て遂に発見したギガスシダーと、何の因果か一緒に転がり込んできた謎の物体X──金属ではない以上、削って加工するしかないこれらを、最高の剣に仕立ててみせる!と意気込んでいたのが実に1年前。果たして結果は如何に……
老師はフン!と気合を入れて、カウンターの下から2つの布包みを持ち上げる。音からしてさぞかし重そうな包みの中に、頼んでいたものがあるのだということはすぐに分かった。
「ところで小僧共……まだ、砥ぎ代の話をしとらんかったなァ……?」
吸い寄せられるように布に伸びていた俺達の手が、その一言でピタリと止まる。修剣学院は帝国が運営してる都合学費ゼロだが、諸々の一部消耗品は自費で調達しなくてはならない。
しかも隣のキリトに至っては、安息日が来る度街に出ては買い食いを繰り返していた為、入学時よりも金は確実に減っているはずだ。俺は元より、ユージオも有り金を全部持ってきてくれているものの、足りるかどうかは判断しかねる。砥石の相場は知らないが、1つで3年使える砥石×15となれば45年分。決してお安いものではないだろう。
内心ビクビクしながら代金の発表を待つ俺達を見て、サードレ氏は口元の髭を撫でると、
「──タダにしてやらんでもない」
と、たっぷり溜めてから言い放った。ただし──
「──ただし、お前さん達がこの化物共を振れるなら、じゃ。素材の時点で凄まじい重さじゃったこやつらを央都まで持ってきた以上、見込みはあろうが……こやつら、剣として完成した途端に一際重くなりおった」
化物──そう評された2振りの剣を、俺達はそれぞれ持ち上げる。カウンターに直立させると、かかっていた布がずり落ちて柄の部分が露わになった。
ギガスシダーの枝が姿を変えたキリトの剣は、透明感のある黒い剣。そして俺の剣はというと……
「……お前さんの剣だがな。砥石で削った箇所がそうやって変色しおった。儂としては、元の綺麗な色のまま剣になるのを想像しとったんだが……」
「……いえ、寧ろこの方が俺の好みです」
透き通った碧色の水晶が変じた俺の剣だが、鞘からはみ出たナックルガードから柄にかけてが、見事な灰色に染まっていた。白化したプラスチックをイメージすると分かり易いだろうか。塗料を塗ったような質感ではなく、表面がうっすらと白んでいる。しかしあの水晶が有していた透明感は失われておらず、表面は相変わらずツルツルしていた。
俺達は数歩下がって距離を開けると、鞘を腰に据えて一気に抜き放つ。元の素材からは考えられない、ジャリィィィン──という音と共に姿を現した刀身部分を目にした瞬間、思わず息が漏れた。
俺の剣は、外周が灰に縁どられながらも元の水晶の色を大きく残していた。俺が1番長く使っていた槍である《ハウヴェード》の穂先と丁度逆のカラーリングだ。
サードレ氏に促され、俺とキリトは横に並んで剣を掲げると──短い気合と共に、真っ直ぐ振り下ろす。秘奥義こそ発動させなかったが、剣圧が店の窓を小さく揺らした。
「……ほう、ひよっ子練士がそいつを振りよったか」
「……いい剣です」
「ああ。重さも丁度いい、良く馴染みます」
「当たり前じゃい。特にそっちの灰色の剣は、15個の砥石の過半数を喰らいおったんじゃからな」
「ってことは……ミツキの持ってたあの水晶って、ギガスシダーより硬かったってこと……?」
「そういう事になる──小僧、あんなものどこから見つけてきた?儂はこれでも若い頃に北帝国を隅々まで旅したが、あんな素材は見た事がない」
「こいつがあったのはメディナの──貴族の領地の洞窟なんですけど、そこには……?」
「そういう事か……納得がいったわい。流石に貴族の私領地にまで無断で入ることは出来んからな。それをこうして儂の手で剣に出来たのは、ステイシア神の導きというやつか──何にせよ、礼は言っておこう」
「お礼を言うのはこっちです。素晴らしい剣に仕立ててくれて、ありがとうございます」
「ふん──約束通り、金は要らん。出世した暁に『この剣は細工師サードレの作だ』と広めてくれりゃいい。その剣は、たった今からお前さん達のモンだ」
改めてお礼を言って、天命が減ったらまた砥ぎをお願いしに来る旨と、その時こそちゃんと金を払うという約束をした俺達は、この世界に於ける愛剣を背に帰路に着く。しかしここに1つの罠というか、誘惑があった。
「……なぁ。折角金が浮いたんだし、ちょっとくらい良いよな?」
街の設計上、七区にあるこの店から学院へ戻るには六区を通らざるを得ない。そして六区は七区と並ぶ商業エリアで、主に食料品を取り扱う店が多く並んでいるのだ。
キリトが指差したのは《跳ね鹿亭》という店。ここ1年間の食べ歩きで見つけた店らしく、蜂蜜パイが絶品なのだとか。
ユージオは無駄遣いしないようキリトを引き止めていたが……
「……まぁこういう時くらいはいいんじゃないか?それに俺、あまり買い食いとかしてなかったし。正直ちょっと興味はある」
と、俺が賛成派に回った事で形勢逆転。人数分だけ購入する方向で可決した。善は急げとばかりに店に走ったキリトが戻ってくると、早速持っていた袋から蜂蜜パイを取り出す。
「運が良かったな。丁度焼きたてだった──ほらミツキ」
キリトから受け取った蜂蜜パイは、口に入れる前から蜂蜜とバターのいい香りが鼻腔を擽ってくる。2人を待たずにひと口齧ってみると、芳醇な味わいが口の中一杯に広がった。
「あ、ミツキってば食い意地張り過ぎ──って、どうしたの……?」
「ミツキ、お前……」
「え……?」
夢中で残りをペロリと平らげていた俺の頬を、つうと何かが伝う。拭った指先は濡れており、それが自分の涙だと気付くのに数秒の時間を要した。
「っ……悪い。う、美味すぎて涙が……」
ゴシゴシと目元を拭う。少し考えたユージオは、
「……はい。僕の分、あげるよ」
と、それに続く形で、
「俺のも半分やるよ。確かに泣く程美味いもんな。なんならもっと買って──」
「それはまた今度にしときなよ。早く帰ろう」
キリトからも半分分けてもらった蜂蜜パイを食べ終えた俺は、2人と共に学院へ足を向ける。
その道中、何故突然涙が出てきたのかを考えて……答えはすぐに見つかった。
それに付随するように、彼女と挑戦した花束のクエストの記憶までもが蘇り、俺の胸に郷愁の念にも似た思いを生み出した。
一体何故?という疑問も当然あったが、それについて考えられる余裕は今の俺には無かった。
ミツキ は 剣 を 手に入れた!
ミツキの剣はSAOFDにも登場する《碧水晶の剣》をちょっと弄ったのをイメージしてます。
色とか細かい部分が違いますが、ほぼアレです。
【挿絵表示】
そしてそして。ミツキが感じたホームシック的な奴。
もう分かってる方もいるでしょうが、跳ね鹿亭の蜂蜜パイとSAOでアリスと食べた蜂蜜パイが同じ味だったのは、このアンダーワールドが旧SAOサーバーのシステムを丸っとコピーしてるからです。菊岡さん達が重村教授に協力を仰いだ結果ですね(いや、だからって…と思わなくもない)
実は当時から張ってあった伏線がながーいスパンを経て回収された瞬間だったりします。
お暇があれば是非、幕間:《花束に愛を込めて》を振り返ってみてください。