ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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友達ではなく

 どうにかウォロ・リーバンテインとの戦いを無事に切り抜けた俺達。

 ようやく自分の剣を手に入れ、心意の力への取っ掛りも掴んだ所で、いよいよこの時がやって来た。

 

 初等練士達の1年の集大成。12ある上級修剣士の椅子を賭けて戦う進級試験である。

 

「──いよいよだね」

 

「ああ。ここでしくじったら全部水の泡だ。気合い入れろ」

 

「かと言って気負い過ぎも良くないけどな──俺達全員、この為に頑張ってきたんだぜ。きっと大丈夫さ」

 

「ま、それもそうだな」

 

「だね──そういえば、メディナは?」

 

 試験開始30分前。勤勉なメディナなら精神統一なりしている頃だが、周囲にいる生徒達の中にあの特徴的な緋色の髪は見られない。

 

「猫の墓に挨拶してから来る、ってさ。俺も一緒しようかと思ったんだが……まぁ話したい事もあるだろうし」

 

 そう答えた俺の手には、自分の物に加えてメディナから預かった木剣がある。もしまたかつてのように木剣を隠されたりしないようにという事だったが、一方で猫の墓参りにしては少々時間がかかっている気もする。

 

「……ちょいと様子を見てくる。悪いけど、木剣(コレ)預かっててくれ」

 

「あ、うん。ミツキも遅れちゃわないようにね──!」

 

 小走りに敷地内を駆け抜け、学内の林へ向かう。仔猫の墓がある木に到着したが、そこにメディナの姿は無かった。

 

 入れ違いになったか、或いは──

 

 少し考えた俺は、無事健在だった墓を一瞥してから別の場所へ足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る──メディナは一度ミツキと別れ、試験前に仔猫の墓へ挨拶しに来ていた。

 

「今日はね、すごく大事な試験があるんだよ。この試験で上位12人に入れれば、上級修剣士になれる……私の悲願への第一歩を踏み出せるんだ──試験が終わったら、また来るね。いい報告が出来るように頑張るから、応援してて」

 

 最後にそっと墓石を撫でたメディナは立ち上がり、試験会場へ向かおうと踵を返す──その先に、あまり見たくない顔が。

 

「──やぁ、メディナ」

 

「……何の用ですか。もうすぐ試験の時間でしょう」

 

 現れた婚約者の顔を、メディナは明らかな警戒心を湛えて睨む。

 

「ふ、そう怖い顔をするな。今更そんなみずぼらしい墓に興味など無い」

 

 つまり、用があるのはメディナ本人ということ。話があるから付いてくるよう言われたメディナは、警戒は保ったまま場所を移動する。

 彼もれっきとした初等練士であり、今回の試験を受けなければ進級出来ず落第になる。時間を無駄にしてまでメディナを足止めする事はしないはずだ。

 

「……それで、話というのは?」

 

「悪い事は言わない。試験を受けるのは止せ」

 

「……どういう意味ですか」

 

「どうも何も、言葉通りだ──《欠陥品》のオルティナノスがまた身の丈に合わない事をして笑いものにされるのを防いでやろうと、私なりの気遣いだよ」

 

 嘘だ。気遣いなどと聞こえのいい表現をしているが、その実メディナに試験を受けさせまいとする意図は透けている。

 

「気遣い、痛み入ります。しかしそれには及びません。早く行かなければ、試験に間に合わなく──」

 

 あくまでも穏便にこの場を切り抜けようとするメディナだったが、婚約者の男は立ち去ろうとする彼女の行く手を執拗に阻んでくる。

 

「だから、その必要は無いと言ってるのが分からないか?お前のような《欠陥品》が進級試験で勝ち進むなんて相応しくない、ありえないんだよ──お前がこれまでの試験で小賢しくも手を抜いていた事くらい、とっくに気付いていたとも!今日の為に、あの平民共と頑張って稽古に励んできた事もなァ!」

 

「ッ……通してください!このままではあなたまで試験に遅れてしまう、私に気を取られて進級出来なかった等と醜聞が立つのは、そちらも本位ではない筈」

 

「当たり前だ。だから大人しく従ってもらおうか」

 

「断る!どのような法を以てしても、私をこの場に縛り付ける事は出来ない!」

 

「──それが婚約者に対する口の利き方かッ!」

 

 毅然と否を唱えたメディナに対し、婚約者は口を歪めて彼女の頬を叩く。突然の事でメディナの警戒が甘くなった隙に腕を掴むと、傍らのドアを開いて中に彼女を押し込んだ。

 

「今のは天命を減らす意図ではない。夫として、礼儀作法のなっていない妻に対する躾けだ──まぁ、この言い訳はもう使えんがな」

 

「何、だと……っ!?」

 

 学内の備品が保管されている倉庫へ放り込まれ膝をつくメディナを、婚約者は愉快そうに見下ろす。

 

「お前との婚約は、たった今を以て破棄する──そもそも嫌で仕方なかったんだよ。親同士の勝手な取り決めで卑しいオルティナノスと婚約させられるなんてな」

 

 だが、彼の父親はこう続けたという──これはあくまでも口約束に過ぎない。教会で誓いを立てる正式な婚姻とは違い、こちらの気分次第でいつでも反故にしていいのだ──と。

 

「お前が私との婚約を拒否出来ないのは分かっていたからな。私が上で、お前が下、この立場を存分に利用させてもらった──…ックク……隠しきれない屈辱を滲ませた表情(カオ)で私に奉仕するお前の健気さには、中々に愉しませてもらったよ!」

 

「貴様……最初から、それが目的で……ッ」

 

「それ以外に何があると言うんだ?この私が、お前のような《欠陥品》を本気で愛すると?お前如きにそんな価値があるとでも思ったのか?お前みたいな《欠陥品》の一族を、一体、誰が、何の為に相手すると思う?──答えられないなら教えてやろう、利用する為だ!そうでもなければ、誰がお前と交流など持つものか!そんなことにも気付かない、どこまでも愚鈍で無能なお前を有用に使ってやったんだ、感謝して欲しいものだなァ!ッハッハッハッハ──!!」

 

 心底楽しそうに高笑いする婚約者は、絶望に俯けられているのだろうメディナの顔を覗き込む。

 

 しかし──

 

「…ふ──ふふふっ……」

 

 聞こえてきたのは、涙に濡れた嗚咽ではなく、どこか達観したような小さな笑い声だった。

 

「……ああ、そうだな。私達オルティナノスに進んで関わろうとする者など存在しない。いるとすれば、お前のように私達を利用する腹積もりの者が殆どなのだろう」

 

 あんなに口汚く罵られて尚、緋色の髪の間から覗くメディナの双眸にはしっかりとした光が灯っていた。

 

「だが勉強不足だったな。いるんだよ──私がいくら拒絶しようと、めげずに何度も何度も関わろうとしてくる──正真正銘の大馬鹿者がな」

 

「……あの平民の事を言っているのか?ハッ、それがどうした。まさか助けに来てくれるとでも?そんな御伽噺のような事があるわけ──」

 

「いいや、案外起こるものらしい──いい機会だ、貴様も()()()の馬鹿さ加減を思い知るといい」

 

 不意に、背後からポン、と婚約者の肩に手が置かれる。

 

「──よう、何してんだ。こんな所で」

 

 背後に立っていたのは、剣呑な雰囲気を漂わせる紺髪の少年──メディナの同室の生徒であるミツキだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猫の墓から移動を初めて程なく、メディナはすぐに見つかった。というのも──

 

「──随分と楽しそうじゃないか、ええ?その癇に障る馬鹿デカい声がよく聞こえたよ」

 

「お、お前ッ……!?」

 

「確か……『何かの目的に利用するんでもなければ関わるわけがない』……だっけか──どうも知らないみたいだから教えてやる──利用価値だの損得だの、ンなもん関係無しに楽しい事は共有したいし、困ってる時は力になりたい。たまに喧嘩して痛ぇ思いもする──世間じゃそういう間柄を友達って言うんだ。試験にゃ出ないが、よく覚えとけ」

 

「と、友だと?……は、ははッ……お前如き平民が、貴族と友人になれると本気で思っているのか!?こいつとて《欠陥品》といえどれっきとした貴族だぞ!どんな甘言で惑わされたか知らんが、心の底ではお前の事を見下して──」

 

「──お前らと一緒にするな。メディナはお前みたいに、立場にかこつけて遊び半分に誰かを陥れる事はしない。自分がどれだけ苦境に立たされようと他人の心配を出来る、どれだけ泥に塗れようと誰かを助ける為に行動出来る、誇りあるオルティナノス家の当主だ!」

 

「平民の分際で貴族の誇りを語るなッ!」

 

 

「ならば私が言おう──私は、二度とお前の命令には従わない。二度と悪意に屈しない!オルティナノス家9代目当主として、父から受け継いだ誇りを示し続ける!」

 

 

「ッ……貴、様ァ……!」

 

 怒り心頭といった様子の婚約者──「元」をつけるべきか──これまでなら遠慮なしにメディナを殴っていただろうが、婚約関係を破棄した以上、気軽に手を上げる事が出来なくなった。

 

「──行くぞメディナ。コイツだけじゃない、皆に示すんだ。君が親父さんから受け継いだ剣と誇りを」

 

「ああ!」

 

 元婚約者を押し退け、俺とメディナは試験会場へ急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか開始3分前に間に合った。キリトもユージオも何があったのか大方察しはついているようで、多くは語らず、ただ口元に安堵の笑みを湛えて俺達の木剣を差し出してくる。

 

「さっき聞いたんだけど、今回の試験は、型と神聖術だけじゃなくて実戦も含まれてるみたいだ。といっても相手は教官だから、全力で戦っても平気だと思うけどね」

 

「目指すは4トップ──上位4席総なめだが、最低限12位以内に入ってりゃいい。上級修剣士にさえなれれば、検定試合で上に上がれるからな」

 

「っし──そんじゃ、グッドラック!」

 

「……それ、どういう意味だい?」

 

「あー、『幸運を祈る』って意味だな」

 

「この期に及んで運頼みか……」

 

「う、運だって大事だろ……!とにかく、全員ベスt──最善を尽くして頑張ろう!」

 

 そう言ってキリトが手を差し出したのに倣い、俺達は4つの拳をコツンとぶつけ合わせ、この場を締めくくった。

 

 試験そのものは至って平和に進んだ。試験番号に沿ってまず型の演舞を披露し、その後教官相手に実戦が行われる。型はともかく、実戦に関しては今更教官に遅れを取るはずもなく、俺達4人共見事に勝利。まだ後ろに神聖術の試験が控えている段階ではあるが、現時点で俺を先頭に4位以下を綺麗に独占していた。

 採点方式は剣術関係が比重を多く占めるので、仮に神聖術の試験が満点だろうと主席の座に就く事は残念ながら叶わなくなったわけだが、各々少しでも順位を上げる為に気は抜けない。

 

 例えばそう、現状上位3席を独占しているのがあの3人──ライオス一味である事実に気を乱される事のないよう注意せねば。

 

 そう意気込んで臨んだ神聖術の試験を終え──程なくして結果が発表された。

 

 目を走らせるのは初等練士全120人中、上位12位以内……

 

 

 第7位、メディナ・オルティナノス

 第6位、キリト

 第5位、ユージオ

 そこから1つ飛ばした第3位に、俺の名前があった。

 

 

「俺達は変わらず、か……けど、ミツキは1つ上がったな。第3席、おめでとう」

 

「おめでとう。ミツキ」

 

「正直、剣と神聖術でお前に負けたのは悔しいが……まぁ、おめでとうと言ってやる」

 

「ありがとう──つっても、点数見る感じかなり僅差だったみたいだけどな……神聖術、頑張った甲斐があるってもんだ」

 

 剣術以外はすっかり一夜漬けがデフォルトになっているキリトと違い、少しずつでも日頃から勉強をしてきた苦労が報われた事に軽くジーンと来る──まぁ、出来る事なら二度とやりたくないのが正直な所だが。

 

 3位に上がった俺と入れ替わりで4位になったのは、ライオス一味からラッディーノだった。神聖術の筆記試験に意地の悪い引っ掛け問題があった為、そこを取りこぼしてしまったのだろう。斯く言う俺自身「当たってますよーに」と祈りながら回答したので、試験前のキリトの言葉が効いたのかもしれない。

 

 そしてワンツートップ──来年度の主席と次席に座るのは、ライオスとウンベールだ。成績はどちらもほぼ満点。貴族らしく幼少から英才教育を受けてきたのは伊達じゃない、ということか。

 

 何はともあれ、無事目標を達成出来たという事で肩の荷を下ろそうとした時だった──

 

「──いやはやお見事、と言うべきかな。不思議な事もあるものだ、よもや《欠陥品》が私より上……それも上級修剣士の座に食い込むとは」

 

 明らかに表面的なものと分かる拍手と共に、メディナの元婚約者が声をかけてきた。

 

「……結果は結果、事実です」

 

「ふざけるなよ《欠陥品》が。大方不正でもしたのだろう。一体どうやって教官を抱き込んだ?その無駄に育ちのいい身体でも使ったか?」

 

「おいお前……ッ!」

 

 礼を失するどころじゃない奴の言い草に物申そうとした俺を、メディナが手で制する。

 

「……なる程。もしあなたが《完全な貴族》であるのなら、確かに私は《欠陥品》なのでしょう。何せ…… ()()が持っているものを私は持っていない」

 

「ほう……一体何だ、言ってみろ」

 

「自分より強い人間を、くだらない小細工で蹴落とし潰そうとする、腐った根性だ──確かに、時として戦わずして勝つ事が最上とされる事もあるだろう。しかしそれは戦えない者を傷つけない為だ。断じてッ──剣を握る意味すら忘れた哀れな貴族の自尊心を守る為ではないッ!」

 

 そう言い切ってみせたメディナに、周囲の注目が集まる。

 

「このッ、《欠陥品》が……大口を叩くからには、相応の覚悟があっての事だろうな……!」

 

「違うというなら剣を取れ──ここで、本当の決着をつけるとしよう」

 

「ならば、私が勝てば試験の結果を不正と認め、再び私の命令に従ってもらうぞ!」

 

「いいだろう──負ける気はないからな」

 

 あっさり条件を呑んだメディナに、元婚約者は「言質を取った」とでも言いたげにニヤリと笑う。

 

「……おい、大丈夫なのか?あいつ、何してくるか分からないぞ」

 

 実力の面で言えば確かに負ける事はないだろうが、相手は陰湿な手段でメディナを虐めてきた輩だ。真っ当な実力勝負をしてくるとは考えにくい。

 

「心配無用だ──私を信じろ」

 

 そう言って、メディナは下ろしていた前髪をかき上げてみせた──入学以前より久しい、凛とした双眸が俺を見る。

 

「……危険だと判断したら、止めるからな」

 

「全く……この心配症め」

 

 事の成り行きを見ていた他の生徒達は、自ずと戦いの場を空けていた。そこへメディナと元婚約者、そして審判を務める俺が移動する。

 

「決着は1本先取──念の為言っておくが、双方不正は無しだ。純粋に剣の技量を以て雌雄を決すると、今ここでステイシア神に誓え」

 

「無論誓う。オルティナノスの剣に、恥じる事など1つとして無い」

 

「ちっ、生意気を……こちらも誓う」

 

 事前に打てる手としてはこんな所だ。アンダーワールド人は法と同じくらい、神への祈りや誓いを重んじる。こうして誓いを立てた以上、あれこれ屁理屈をこねて不正を行う事は難しくなったはずだ。

 

「それでは、双方構え──」

 

 礼を挟み、2人が木剣を構える。

 

「──始めッ!」

 

 遂に始まった決別の戦いは、やはりと言うべきか終始メディナが圧倒する形になった。

 

 外見上、メディナは奴に腕力で劣っている。力勝負に持ち込まれれば、そのまま押し切られてしまう可能性も充分あっただろう。しかし彼女はこの1年──もっと言えば、入学する前からずっと、貴族の正統流派であるノルキア流、ハイ・ノルキア流に加えてアインクラッド流の剣を磨いてきたのだ──彼女の父が残した刀《陽炎の剣》を用いた剣術を。

 

 刀で戦う際、決して敵の得物と押し合いをしてはいけない、とされている。如何に硬く、鋭く打ち上げられた刀といえど、乱暴な使い方をすれば刃こぼれしたり刀身が歪んでしまうのだとか。

 ではどうするのかというと、受け止めて弾くのではなく、相手の攻撃に対して常に刀身を斜めにすることで、力を逃がす。刃同士の接触は最小限に抑え、後は体捌きや足運びでカバー、攻撃後の刹那を斬り伏せるのだ──と、これはクラインと直葉の談だ。

 

 今彼女達が使っているのは木剣でこそあるが、亡き父親の想いを胸に戦う今、メディナは気持ちで《陽炎の剣》を握っているはず。戦い方のノウハウは流用出来るだろう。

 

「くそっ、何故だ──何故当たらないッ……!?」

 

「当然だ、お前の剣は遅過ぎる──お前の剣は軽過ぎる──!」

 

「ッ……頭に乗るな《欠陥品》がァ──!」

 

 奴は半ば自棄になってノルキア流秘奥義《雷閃斬》を発動させた。青い光の尾を引く斬撃がメディナに迫る──!

 

 

「信念無き剣に、オルティナノスの剣は絶対に負けないッ!!」

 

 

 対するメディナも技を発動。赤い光を纏った木剣を下段から斬り上げて《雷閃斬》を弾いたかと思えば、間髪入れず斬り下ろしで木剣を奴の手から叩き落とす。最後に強烈な踏み込みからの突きを奴の左肩へお見舞いした。

 

 瞬くような上下の2連撃と、締めの一突きからなるアインクラッド流3連撃技《緋扇》──苦手としていた連撃技を以て、メディナはこの立ち会いに幕を引いたのだった。

 

「──そこまでッ!勝者、メディナ・オルティナノス!」

 

「はぁ……はぁっ……」

 

 構えを解いたメディナは、肩を押さえて呻く元婚約者に歩みを寄せる。

 

「……な、何をする気だ──やめろ、殺さないでくれ……!」

 

 答えないメディナが木剣を動かした途端、奴は怯えたように声を上げる──しかし待っていたのは無慈悲な追撃ではなく、この立ち会いを締めくくる一礼だった。

 

「──正直、お前を許すつもりは毛程も無い。これまでも、これからも。だが一方で……今この瞬間だけは、感謝する」

 

「か、感謝……だと?」

 

「ああ。お前との立ち会いで、亡き父との誓いを本当の意味で果たす事が出来た──オルティナノス家は、強く正しく、何があろうと誇りを失わない──私は9代目当主として、この誓いを守り抜いてみせる!!」

 

 胸を張って堂々と宣言したメディナに、小さな拍手が送られる。賞賛の音はその数を徐々に増やしていき、やがてはこの場に集った初等練士の大部分が彼女に拍手を送っていた。

 

 斯くして、進級試験は無事に終了。理想としていた4トップ独占という形でこそないものの、4人全員で上級修剣士への切符を手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜──キリト命名《俺たち無事上級修剣士になれたねの会》として、先輩達も混じえて小規模ながらパーティーが開かれた。

 

 飲めや食えやのドンチャン騒ぎの中、メディナが1人外の風に当たっていると、そこへミツキがやって来る。

 

「──改めて、色々とおめでとう。メディナの剣、凄かったよ」

 

「そうか……」

 

「……どうした?」

 

 折角あの男の呪縛を振り切り、上級修剣士になれるというのに、メディナの表情は浮かない。

 

「ミツキ……私はあの時……あの男を、本気で殺してやろうと思っていた。《緋扇》最後の1撃──あれを、奴の心臓に向けて放つつもりだったんだ」

 

「………」

 

「だが、いざその瞬間になると右目が激しく痛んだのと──視界に、お前の姿が見えたんだ」

 

「俺が?」

 

「ああ。お陰で、私は寸での所で軌道を変えることが出来た……お前に教えてもらった技を、復讐で穢したくなかったんだ」

 

「穢すとか、大袈裟だな──後悔は、してないか?」

 

「……どうだろうな、まだ分からん。この先後悔するのかもしれん。だが……納得は出来る。もし時を遡れたとしても、私はきっと同じ選択をする筈だ」

 

「そうか……ならいい。──にしても、一時はどうなる事かと思ったよ。メディナがあまりにも即決するもんだからさ」

 

「何だ、まさか私が負けるとでも思ったのか?」

 

「や、そういうわけじゃないが……」

 

「迷う必要など無かった。そもそも負ける気がしなかったというのは勿論だが──万が一にも私が負けたとて、その時はお前が私を奪い返してくれたのだろう?」

 

「……まぁ、メディナがあいつのいいようにされるのを黙って見てる気はなかったけど」

 

「だから私は臆せず戦えたんだ──オルティナノス当主としては、少々情けないがな」

 

「そんなこと──正直意外だよ、まさかそこまで買って貰えてるとはな。友達冥利に尽きる」

 

「……いや、やはりお前は友達ではない」

 

「……ま、まだダメですか?」

 

「ああ。私はお前を友達と認める気はない……私にとって、お前は──」

 

 暫し、沈黙が流れる。

 

「……俺は、何だよ?」

 

「……いや、何でもない」

 

「いや何でもないって何だよ?何かあるだろ!?せめて同級生とか!」

 

「気が向いたらその内教えてやる、気が向いたらな──戻るぞ」

 

「えぇ……」

 

 ミツキを置いてスタスタと宴の場に戻るメディナ。その胸の内では、先程の言葉の続きが──

 

 オルティナノス領にあるリコリスの花畑──あれはオルティナノス家があの地に追われた当時から存在していた場所だ。あんな荒れ果てた土地にあって尚、リコリスの花は懸命に咲き続けていた。その姿に勇気づけられ、オルティナノス領ではリコリスの花を希望の象徴として大事に世話してきたのだ。

 

 

 ──そんな場所に現れたのが、お前だ。最初こそ怪しい奴だと思っていたが……お前は私を何度も勇気づけてくれた。手を差し伸べてくれた。いつの間にかお前は、私にとってあのリコリスの花と同じ「希望」になっていったんだ。

 




無事4人共進級試験突破!
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