俺達が上級修剣士に進級してから──そして、俺とレイラの稽古の日々が幕を開けてから、早くも1ヶ月が経った。
上級修剣士専用の修練場に、カン、コン、と木剣同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
「──うん。反応は更に磨きが掛かってきたな」
「ありがとうございます……ですが先輩の言うように、相手の力を利用して防御と同時に攻撃を行う、というのはまだまだ……」
俺が得意とするカウンター戦術をレイラに指導するようになって暫く。先も言ったように、元々良い物を持っていた反応速度は更に磨きが掛かり、防戦一方とはいえ俺の半分本気の速度にも付いてこれるようになった。驚くべき成長速度だ。
キリト曰く、ユージオもかなりハイペースで成長していったそうだし、メディナ然り、アンダーワールド人は皆飲み込みが早いのだろうか。
しかしカウンターの本領である反撃の部分が、俺の方からしても中々難しかった。
俺のカウンターは相手の攻撃の威力が強ければ強い程、返しの速度と威力が増す。つまり、俺が十分な力で攻撃を仕掛けなければレイラの練習にもならないのだが……万が一彼女が受けをミスして怪我に繋がってしまったらと思うと、ついつい加減してしまうのだ。
「相手の剣線から力の方向を理解して~ってのは、もう出来てるんだよな。となると……やっぱ問題は俺の方かぁ……」
「先輩……?」
「……よし分かった──レイラ」
「は、はいっ」
「現時点での君の技量を認めた上で、稽古を次の段階に進めようと思う。けど、この方法は危険も付き纏うものだ──具体的には、俺が殆ど加減無しの力で斬りかかり、君がそれを防御、そのまま反撃に繋げる──俺も注意しながらやるけど、君の方も、くれぐれも気を抜かないようにして欲しい。一歩間違えれば冗談抜きに怪我するからな。当然、そっちも加減とかは要らない。遠慮なく俺をぶっ叩いてくれ」
「で、ですが……もし先輩にお怪我などさせては……」
「伊達に君より1年余計に鍛えてない。ちょっとやそっとじゃ大した傷にならないよ」
「わ……分かりました。やってみます……!」
俺は《雷閃斬》をイメージした──流石にいきなり秘奥義を受けさせるのはリスクが高過ぎる為、絶対に技は発動させないが──上段斬りの構えを取り、床を蹴る。
「シッ──!」
言った通り、ほぼ加減無しの一太刀が繰り出される。秘奥義程ではないにせよ、まともに喰らえば無事では済まない速度で迫る木剣を、レイラはしっかりと目で捉えている。
斬り結ぶ位置が身体の正中線から少しずれるように足を運びつつ、俺の木剣を自身のそれで受ける。力に逆らわず、関節を使って衝撃を受け入れ、
「く……ぅ──ッ!」
「
首の後ろ──丁度項と後頭部の境目の辺りに鈍い衝撃。去年何度も味わった、木剣で打たれるのとは似て非なる感覚だった。言うなればそう、何か硬く平たいもので叩かれたような……
「──もッ……申し訳ありませんッ!私、なんて事……っ!」
悲鳴混じりの謝罪と共にレイラが慌てて駆け寄ってくる。見るからに狼狽している彼女を落ち着かせるように、俺は小さく手を挙げた。
「いや……いい一撃だった。寧ろ剣の腹で良かったくらいだ」
「すみません、すみません!本当にすみません……ッ!!」
「大丈夫だから、そんな謝らなくていい──急な挙動で剣筋を上手くコントロール出来なかったんだろ。初挑戦であそこまで出来れば上々だ。気に病むなよ」
「はい……あ、あの……せめて打たれた場所を見せてください。私、神聖術なら少しは自信があるので……」
「あ、ああ……じゃあ頼むよ」
神聖術の式句を唱えたレイラが、光素を生成した指先を首の後ろにかざす。ふわりとした暖かな光が鈍い痛みを洗い流していくのに身を任せていると……
「──だ、大丈夫かい?さっき、なんだか悲鳴みたいな声が聞こえたけど……」
どうやら夕飯前に一汗かこうと稽古に来たらしいユージオの声が──因みに、キリトは明日の神聖術の試験を前に全力の一夜漬けを敢行中らしい。
「ユ、ユージオ修剣士殿……!あ、あの、その私……!」
ユージオの登場に一層狼狽するレイラだが、あちらはおおよそ何があったのかを理解したようで……
「落ち着いてレイラ。大丈夫、ミツキならこの程度平気だよ」
「そうそう。お陰さまですっかり痛みも引いたし、ほら、痕とかも残ってないだろ──…無いよな?」
「うん。元々怪我なんかしてないんじゃないかってくらい綺麗になってるよ──レイラは光素術が得意なんだね?」
「い、いえそんな、褒めて頂く程では……実家に居た頃、手慰み程度に簡単な神聖術を繰り返していただけですので……」
「謙遜するなって。やってる事は単純だとしても、それだけに回数を重ねれば研磨されてくもんだ──剣の素振りと同じでな」
「ありがとう、ございます……光栄です」
「まだ稽古も始まったばかりでここまで出来てるんだ。焦らず地道にやっていこう──って事で、最後に体力作りがてら案山子に素振り50本。型とかは全く気にしなくていいから、剣筋を真っ直ぐ維持したままキレ良く振る事を意識してみてくれ。俺はユージオと稽古してるから、終わったら遠慮なく声かけてくれ」
「分かりました……!」
言いつけ通り剣を振り始めるレイラを見て、ユージオが口を開く。
「……彼女、少し変わったね。始めて会った時はもっと気弱な印象が強かったけど、ちょっとずつ心の芯みたいなものが見えてきた気がする──ミツキ修剣士殿の指導のお陰かな?」
「いいや、彼女が元々持ってたものだよ。そこに俺が関与してるんだとしたら、ただきっかけを与えただけだ──彼女は強くなるぞ、きっと。ユージオ修剣士殿も、もっと後輩の指導に力を入れた方がいいかもな?」
「僕はまだまだ、他人に剣を教えられる程強くないからなぁ……今なら、ベルグリッド先輩の気持ちがちょっと分かる気がするよ」
「……部屋散らかしてティーゼ達に苦労かけるなよ?」
「当然だろ──さて、僕らはどうする?模擬戦なら付き合うよ」
「あー、俺としてもそうするに吝かじゃないんだが……レイラの門限もあるし、あまり熱中し過ぎてもアレだからな。俺達も案山子相手に素振りと行こう」
「了解。何事も基礎が大事だからね」
俺とユージオ、レイラ。3人揃って案山子に向かって無心に木剣を振るう。ガツンッ!と物言わぬ仮想敵を叩く音だけが響く事何度目か──修練場に使われている木の心地いい匂いに混じって、以前にも嗅いだ覚えのあるベトつく様な香料の匂いが鼻についた。
「おや、これはこれは──ユージオ……修剣士に、ミツキ修剣士。それと横にいるのは……あぁ、確かミツキ修剣士の傍付きだったな。名は確か……何といったか、ラッディーノ?」
ユージオの名前を呼ぶ時不自然な間があったのは、姓を持たない平民であることを揶揄しているのか──どぎつい色使いの赤い修剣士服に身を包むライオスは、斜め後ろにいる赤紫の服の修剣士、ラッディーノに目配せする。
「あの練士の名はレイラ・カーヴァス。私の義妹です、ライオス殿」
「おお、なんとそれは!朋友ラッディーノの妹となれば、我らが妹も同然。是非、一度挨拶を──」
そう言ってレイラに歩み寄ろうとするライオス──その瞬間、レイラの表情が不安げに強張るのが見えた──に、俺は剣を止めて口を開く。
「──アンティノス修剣士。生憎ですが、見ての通りレイラは今稽古中です。集中を乱すような真似は差し控えて頂きたい」
釘を刺した俺に食って掛かってきたのは、取り巻き1号であるウンベールだった。
「貴様、無礼ではないか!ライオス殿を呼ぶ時は《主席上級修剣士》とつけるべきであろうッ!」
「……あぁ、それは失礼。ジーゼック
「重ねがさね無礼な!私を呼ぶ時も《次席》を付けたまえ!──大体何だ先程の物言いは!?まるでライオス殿が邪魔をしようとしているとでも言うかのような──!」
「違うと言うならお静かに。ジーゼック次席。そう怒鳴り散らさずとも聞こえます。何より──淑女の前でそのような姿を晒しては、貴族としての品格が損なわれてしまうのでは?」
「貴ッ様……平民如きが貴族の──!」
「──まぁ待てウンベール。今しがたのミツキ修剣士の言葉は、学友としてお前の事を案じてのものなのだろう。貴族たる者、善意は素直に受け取らねばな」
「ッ……そうでしたな。私とした事が、少々熱くなってしまっておりました」
こいつらが俺達に悪態をつく時は、エキサイトしたウンベールかラッディーノをライオスが皮肉たっぷりに宥めるのがいつものパターンなのだが、今回は皮肉成分が少々薄いと感じたのも束の間……
「が、しかしだ──ミツキ殿。先程の言葉は私としても少々傷ついてしまった。貴族の男子が持って然るべき礼節を、よもや邪なものに捉えられるとは」
「……初等練士時代の1年間、そちらが我々にとってきた態度を考えれば、当然の帰結と思いますが」
「クックック……どうやら聞こえていなかったようだからもう一度教えて差し上げよう──そこにいるレイラ・カーヴァス嬢は、貴殿の傍付き練士である以前に、このラッディーノの妹だ。貴殿達に直接危害を加えた覚えなど無いが……友の弟妹に害を成すとでも?」
去年散々聞かされた悪態はお前達に原因がある。とでも言わんばかりの論調に、俺は内心で呆れたような息をつく。こいつらの口から出てくる「友」という言葉がどうにも薄っぺらく聞こえるのは固定観念故だろうか。
「時と場を考えていただきたいと言っている。聞こえていなかったようなのでもう一度言いますが、彼女は稽古中です」
「それなのだがなミツキ殿……貴殿が先程から言っている稽古とは何を指しているのだ?見た所、型の稽古も何もしていないようだが……まさか、技も何もなく、ただ丸太を叩く事が稽古だと言うつもりか?」
「主だった稽古は既に終わっていますし、素振りは剣術の基礎です。それを疎かにしていては、育つものも育たたないでしょう」
「ふむ……しかし彼女は貴殿と違い、生まれながらの貴族だ。ならば当然、正統流派たるハイ・ノルキア流の剣を修めるべきだが、果たしてミツキ殿にそれが出来るかどうか……」
「失礼──アンティノス主席上級修剣士殿。今の発現は流石に聞き捨てなりません。上級修剣士と傍付きの関係に於いて、流派の違いなど問題ではないでしょう」
しびれを切らしたように割って入ってきたユージオだが、傍付きを経験していないライオス達に傍付きと修剣士の関係を説いた所で無意味だ。
ここで、沈黙を保ってきたラッディーノが口を開く。
「ユージオ殿は何か勘違いしておられるようですが──私は愛する妹がしっかりとした指導を受けられているのかと心配なのです。時を作って話そうにも、ミツキ殿はレイラを片時も傍に置いて離さない。もし妹が不当な扱いを受けていたらと思うと……」
だったら傍付き選考会の時のあの言葉はどういう意味だ──そう問い詰めたい所だが、シラを切られるのがオチだろう。逆に言いがかりだなんだと余計な難癖をつけられる可能性だってある。
出来ればレイラだけでも帰したいのだが、それは即ち「稽古中」という口実が無くなる事を意味する。初等練士寮の門限まではまだ少しある為、今帰しても引き止められてしまうだけだ。
ライオス達が現れた時の表情を見るに、レイラは彼ら──ラッディーノと兄妹仲が良いわけではないのはほぼ確定。傍付きを守るのも指導生の役目だ。尤もらしい理由を並べられたとて、レイラとラッディーノを2人にするわけには行かない。
「とはいえ、ミツキ殿の言いたいことも理解は出来る。自らの教えが不十分だと一方的に言われては反論もしたくなるというもの。そこで、だ──」
ライオスはニヤリと目元を細める。
「ミツキ修剣士。貴殿の操る珍妙なる剣が、丸太相手の技しか持たない児戯にも等しい流派かどうか、実際に披露してみてはくれまいか?」
「おお、それは名案ですなライオス殿!実際にこの目で見れば、全てハッキリするというもの」
同調するウンベール。披露しろ、とは言うが、どれだけすごい技を披露しようが奴らは無駄に富んだ語彙力でこき下ろすつもりなのだろう。褒める気など皆無なのは想像に難くない。
で、あるのなら──
「いいでしょう──しかし俺のアインクラッド流は、実戦の中でこそ真価を発揮する剣……披露しろと言うのなら、必然的に立ち会いを行う事になりますがよろしいでしょうか?」
「これは正統流派たるハイ・ノルキア流に貴殿の剣が比するかどうかを確かめる為のものだ。立ち会いとなれば、相手は我らということになるが……それは理解しての発言か?」
「勿論。上級修剣士主席であるアンティノス殿の剣を破れれば文句は無いでしょう」
戦いの前から勝ったつもりでいる俺の言葉に、ライオスの目が細められる──愉快そうだった先程とは違い、剣呑な雰囲気を漂わせていた。
「ふむ、主席上級修剣士として、第三席からの挑戦とあらば受けるのが筋だろうが……此度に於いてはより相応しい相手がいるだろう──そうだな、ラッディーノ」
「ええ。進級試験で私より上の順位になったと言っても、それはただ運に恵まれただけだという事を教えて差し上げるいい機会です」
「──でしたら、僕も。彼と同じアインクラッド流を使う剣士として、次席であるジーゼック修剣士の剣を披露して頂きたい」
俺の横に進み出たユージオを、ウンベールはキツく睨む。
「ユージオ修剣士……我ら貴族の高貴なる剣は、おいそれと披露するものではない。頼むからには、最低限我が剣に打たれる程度の覚悟はあるということか?」
「勿論、寸止めでお願いしたい所ではありますが……こちらは頼んでいる立場です。これ以上アレコレと注文をつけるのは無礼というものでしょう」
「初撃決着でもいいと申すか……ならば、ハイ・ノルキア流の真髄、その身を以て思い知るがいい……!」
話は決まり、俺とユージオ、ラッディーノとウンベールはそれぞれ向かい合う。
「せ、先輩……あの……」
「謝らなくていいからな。どの道、いつかは検定試合で戦う相手だ」
「ですが……」
「それにな、君の事を抜きにしても、あいつらとは去年から因縁があるんだ。それを少しは精算しときたい。──よく見ておけよレイラ。
「……お気をつけて」
ライオスもウンベールも、決して口先だけの人間じゃないというのは知っての通り。それはラッディーノも例に漏れない。義妹であるレイラはそれをよく知っている。だから、俺を見る視線に不安感が募っているのだろう。
斯く言う俺自身、直接目にしたのはライオスの型の演舞を1回きりで、ラッディーノの剣がどういったものなのかは分からない。今や懐かしきザッカリアの剣術大会では、型の動きをひたすら繰り返すという予定調和的試合が繰り広げられていたが、奴らの剣は違う──分かるのはその程度だ。
だが、俺の中に負けるというイメージは一切湧いてこなかった。絶対に勝てる──否、勝つという意志が、俺の中に渦巻いている。
レイラの為というのは勿論だが、最大の理由は恐らくアリス──ライオス達のような手合いは、アリスが最も嫌うタイプなのだ。もしここに当人がいたなら、有無を言わさず立ち会いを要求して叩きのめしていた事だろう。
そんな連中に俺が負けたと知ったら、きっと彼女は烈火のごとく怒る。それはもう滅茶苦茶怒る──それだけならいいが、ガッカリはされたくない。
アリスが胸を張れる俺でいる為にも、こいつらには絶対に負けられない。
──そうだろう、ユージオ?
俺とは違う──もしかしたら同じかもしれないアリスを思い浮かべているはずのユージオの様子をチラリと伺う。彼もまた、真っ直ぐウンベールを見据えていた。その目に無用な気負いは見られない。
ウンベールとラッディーノが木剣を構える。ノルキア流《雷閃斬》の構えだ──上位技であるはずのハイ・ノルキア流《天山烈波》を使わなかったのは、単に出し惜しみか、《雷閃斬》で十分と舐めているのか──それならそれで楽でいい。ユージオも、《バーチカル》として見慣れた《雷閃斬》なら十分対処出来るだろう。
「では……行くぞ──ッ!」
ウンベールの合図で、2人の木剣に光が灯る。ライトエフェクトの尾を引きながら凄まじいスピードで突っ込んでくるラッディーノ──その背を、俺の木剣が叩いた。
「がッ──!?」
秘奥義が終了し、輝きを失った木剣共々ラッディーノが床に崩れる。「何が起きたのか理解できない」といった様相が背中越しにもありありと見て取れた。それは立会人であるライオスも同様らしく、常に余裕を崩さなかった奴の表情に少なからず驚きの色が浮かんでいた。
「……1本。俺の勝ちだ」
「馬鹿なッ……貴様一体何を……ッ!?」
「アインクラッド流極意《カウンター》──機会があれば練習してみるといい」
木剣を腰のベルトに戻し、隣で戦っているはずのユージオとウンベールに目を向ける。
ウンベールの《雷閃斬》に対し、ユージオは下から斬り上げる《スラント》で対抗したようだが……少々ユージオが押され気味か。
理由は分かっている。ウンベールの木剣を包む、ライトエフェクトとは別種の澱んだ光──上級貴族が長い時をかけて育て上げてきた自尊心による心意の力が技の威力をブーストしているのだ。
ユージオの剣も通常より強い輝きを纏っている辺り、多少の差こそあれど互いに心意の力が作用している。心意の力を初めて目にする驚きから集中が緩んだ事で、ユージオが僅かに押し負けているようだ。
「ふはははッ!その無様な姿に流派の卑しさが滲み出ているぞ!次の検定試合でも同じ手口で俺やライオス殿に取って代わるつもりだったのだろうが、そうはいかん!この場で右肩砕いて、当分剣を振れなくしてやるわァ──ッ!!」
鍔迫り合い状態で上から剣を押し込むウンベールに、膝を突いて必死に踏ん張るユージオ──その体が、不意に横へ流れた。
「なッ──!?」
「くッ……うおおおおおおおおおお──ッ!!」
輝きを増したユージオの剣が、ウンベールの剣を跳ね除ける。体勢を崩し大きく後退したウンベールに、すかさず追撃を加えんと踏み出すユージオだったが──
「──そこまで。ユージオ修剣士とウンベールの立ち会いは引き分けとする」
寸での所で差し込まれた声。その主であるライオスが、ゆったりとこちらへ歩いてくる。
「ライオス殿ッ!?俺……いや、私がこんな田舎の平民と引き分けなどと──!」
勝負を止められた挙句引き分け扱いにされたウンベールが食い下がるも、ライオスのひと睨みで大人しく黙る。そして──
「そしてラッディーノ……お前は紛う事なき敗北だ。見事にしてやられたな」
「ラ、ライオス殿……!私は、まだ……い、今のは不意を突かれただけです!もう一度戦えば、こんな奴──!」
「黙れ、見苦しい真似をするな。貴族の恥晒しになるつもりか」
「ッ……はい。申し訳、ありません……」
冷たい言葉でラッディーノを一蹴したライオスは、いつも通りの余裕の笑みを湛えた顔で俺とユージオを交互に見る。
「いやはや、双方見事だった。卒業後は帝立曲芸団にでも天職をお求めになられてはいかがかな」
「……お気遣い、痛み入ります」
ユージオの返答をスルーしたライオスは続ける。
「次は、私が貴族の力を見せてやるとしよう──失礼する」
「何だ──今じゃないのか?」
俺の挑発に足を止めたライオスは、肩越しにこちらを振り返る。
「この程度でいい気になるな──剣を振るばかりが戦いではないぞ、平民」
それだけ言い残し、ライオスとそれを追いかけるウンベールとラッディーノは修練場を後にする──後ろの2人は、最後に俺とユージオをそれぞれ睨みつけていった。
数秒間の沈黙の後、ユージオが溜めていた空気を吐き出した。
「ふぅ……無事に勝てたね」
「お疲れさん、いい剣だったぞ──ってかあの技、キリトから教わったのか?」
ユージオが行ったのは、技の切り替え──ウンベールに押し負けて殆ど停止状態だった《スラント》から、鍔迫り合いの最中に腕の位置を調節して《バーチカル》を発動させたのだ。
武器を持つ腕ではなく、自分の体の方を動かしてソードスキル発動のモーションへ持っていくというのは、俺やキリトがSAOでもよく使っていたシステム外スキルだった。
「いや、そうじゃないけど……咄嗟に思いついただけというか」
「……それで出来ちゃう辺り、つくづくお前はすごい奴だよ。ホント」
「それを言うならミツキの方こそ──随分早く決着したみたいだけど、一体何をどうやったんだい?」
「《カウンター》──相手の攻撃をわざと受けて、その力をそのまま相手へ返すアインクラッド流の極意……です、よね?」
俺の代わりにレイラが答え、「正解」と首肯を返す。初見のユージオに少し補足説明をしてやると、ユージオは呆気にとられたような顔をした。
「アインクラッド流って、本当に奥が深いんだね……2年間修行してきて、キリトやミツキ程じゃないにしても多少は詳しくなったと思ってたけど、まだまだほんの入口だったんだ」
「そういうこった。アインクラッド流は1日にしてならず──頑張りたまえよ、ユージオ君」
「わ、私も頑張ります……!」
ポンとユージオの肩を叩いたところへ、レイラが勢いよく手を挙げる。驚き混じりのやる気に満ちた表情を見た俺は、なんとも微笑ましいような気持ちで彼女の頭をポンと軽く叩くのだった。
《二次小説あるある》
最初は「ここからここまで描こう」と思っていたら、思いの外文量が増えて話を刻むことになり、進行ペースが落ち込む
SAOFDにいよいよ猫アリスとミトが実装されますね。楽しみです。