ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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今回は大分長くなりました。お付き合いいただければ幸いです。


ノーブル・オブリゲーション

 

「──と、まぁそういう事があった訳なんだけど」

 

「ふーむ、なるほどなぁ……」

 

 ウンベール並びにラッディーノとの立ち会いから僅か数日後の夜。キリト達の部屋に顔を揃えた4人の上級修剣士は、世間話がてら先日の事の共有を行っていた。

 

「プライド──自尊心の高いアイツ等の事だ。このまま大人しくしているとは到底思えない。そう思ってここ数日警戒はしてるんだが……何も無いのが逆に妙でな。お前達の意見を聞きたい」

 

 意見を請われた2人──キリトとメディナは、カップに入った紅茶を一口飲んでから口を開く。

 

「上級修剣士は学院則の大部分から解放されてるとはいえ、それでも肝心な規則には縛られたままだ。何か直接的な危害を加えようとしても、禁忌目録だってある。この制限下で嫌がらせを考えるのも楽じゃないんだろうけど……裏を返せば、禁忌や学院則で禁止されていない事であれば、何をやってきてもおかしくない」

 

「例えば……?」

 

「まぁ、具体的に何を、って言われると俺もパッと思いつかないんだけどさ……例えば、『これからお前達に嫌がらせをするぞ』って予告だけして、警戒心で俺達を気疲れさせる作戦、とか──メディナはどう思う?」

 

「……ミツキ、確認だ。ライオスは『次は自分が貴族の力を見せる』とそう言ったんだな?」

 

「ああ──やっぱそこだよな、引っ掛かるのは」

 

 首を傾げるキリトとユージオに、俺は1つの懸念を説明してやる。

 

「ユージオも覚えてるだろ。最後に俺がライオスを挑発した時、あいつが『剣を振るばかりが戦いじゃない』って言ってたの。ありゃその通りだと俺も思う」

 

「覚えてるけど……剣を交える以外の戦いって?」

 

 ユージオの疑問に、メディナが答えた。

 

「私の婚約者だった男の話は、以前にしたな。そいつは、私が飼う事になった野良猫を毒殺し、領民達を実質的に人質に取り、助けに入ってくれたミツキを煽って暴力を振るわせ、禁忌目録違反に仕立て上げようとした──剣術や神聖術など用いずとも、人を苦しめ、陥れることで勝利する方法はいくらでもある。そしてそういう行為に、上級貴族程長じた者はいない」

 

「そうだな、わかりやすく極端な例えにはなるが──検定試合の時期にユージオの故郷に火を放って、あわよくばそのまま学院を去るように仕向ける──とか」

 

 ガタッ!とユージオが立ち上がる。緊張感を滲ませた顔は、どこか青くも見えた。

 

「落ち着け、極端な例だと言っていただろう。もし本当にそんな真似をすれば、禁忌目録違反ですぐさま連行だ──だが一方で、禁忌や院内規則に触れない範疇でそういった事をしてくる可能性は高い」

 

「幸か不幸か、俺達は揃いも揃って学院内に友達が殆どいない。となると、必然的に標的になるのは……」

 

「傍付き練士……ティーゼやレイラに何かしようとするって事……!?」

 

「あくまで可能性の話だけどな。勿論、だからって彼女達にすぐ危害が及ぶ訳でもないと思う……唯一レイラだけは、ラッディーノの義妹ってことで接触の口実に事欠かないから、注意しとく必要があった」

 

「つまり、何か理由さえあればロニエとティーゼも……そういう事だな」

 

「ああ。お前らも、彼女達のことは気にかけておいてくれ」

 

「有事の際は私が動こう。傍付きのいない私なら、無用な被害を出さずに済むだろうからな」

 

 予てより言っていた通り、メディナは指名した傍付き練士をその日の内に解任している。去年の一幕を知らない新入生達にとって、メディナに対する印象はまだ《欠陥品の一族》のままなのだ。

 

「まぁでも、気にし過ぎた結果俺達が試験を落としたりしちゃ本末転倒だ。今の話は胸に留めつつ、基本的には平常心──ステイ・クールで行こうぜ」

 

「ステ……何だいそれ?」

 

「えっ?え……っと、そりゃつまり──」

 

 キリトが助けを求めるような目でこっちを見てくるが、「自分でどうにかしろ」とこちらも視線を投げ返す。

 

「ア、アインクラッド流の極意その1だよ──落ち着いていこうぜ、的な。あとは……じゃあまたな、みたいに別れの挨拶として使う事もあるけど」

 

「本当か……?ミツキならともかく、お前が言うとどこか適当に聞こえるんだが」

 

「あぁ……うん、ちょっと分かるかも──でもまぁ、覚えておくよ。えと、ステイ・クール……だよね?」

 

「あのな……」

 

 メディナとユージオにゲンナリしつつ、キリトは残っていた紅茶をグイっと飲み干すと、

 

「さて、もうじき消灯時間だし、ここでお開きにしようぜ。それじゃあおやすみ──」

 

「待ってキリト。明日の安息日の予定、ちゃんと覚えてるよね?」

 

 ユージオに呼び止められたキリトがぎくりとする。

 

「あ、あぁ勿論。けどなユージオ君、俺は明日急用がだね……」

 

「またそんな事言って。キリトの急用なんてどうせ市街で買い食いとかだろ?折角ティーゼ達の方から親睦会しようって誘ってくれたのに、僕らが行かなきゃ意味がないじゃないか」

 

「わ、分かってるよ……ンじゃあ、明日8時に起こしてくれ」

 

「8時じゃ遅いよ、7時半!」

 

 へぇ~い…と気の抜けた返事を残し、キリトは寝室へ消えていった。

 

「……ユージオ、その親睦会だが……本当に私も参加していいのか?」

 

「勿論だよ。彼女達も是非、って」

 

「そうか……なら良いんだが──確か集合は9時だったな、寮の入口でいいのか?」

 

「うん。大丈夫だと思うけど、ミツキも遅刻しないようにね」

 

「任せろ、時間は守る男だぞ俺は──それじゃ、おやすみ」

 

「うん。2人共おやすみ……ステイ・クール──使い方、これで合ってるかな?」

 

「はは……あー、こういう些細な挨拶には使わないと思うぞ」

 

「そうなんだ……ややこしいなぁ」

 

 キリトからすれば特に深く考えず口にしたのだろう言葉を律儀に使おうとするユージオに微笑ましさを覚えながら、俺はメディナ共々部屋を後にする。

 

「ではな。さっきユージオも言っていたが、くれぐれも寝坊などするなよ。去年と違って起こしてやれないんだからな」

 

「分かってるよ──てか、去年メディナに起こしてもらったのって本当に数える程度じゃないか」

 

「寝坊は寝坊だ。後輩の前でみっともない姿を見せないようにな。寝癖など付いていたら目も当てられん」

 

「勿論気をつけるけど……だったら、3人が来る前に軽く確認してくれよ。メディナは貴族だし、その辺俺よりしっかりしてるだろ」

 

「な、何故私がそんな……まるでふ──」

 

「ふ……?」

 

「っ──な、何でもないッ!とにかく、身だしなみはちゃんと確認しろ、いいなッ!?」

 

 早口でまくし立てたメディナは、すぐさま踵を返して自室へ引っ込んでしまう──緋色の髪から一瞬だけ覗いた横顔が、髪色に負けず劣らず赤くなっていたことに、俺は全く気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。予定通り上級修剣士寮前に集まった──案の定キリトは眠そうにしている──俺達の元へ、ティーゼ達後輩トリオがやって来る。レイラの手には大きなバスケットがあり、出先で食べる昼食をわざわざ用意してきてくれたらしい。

 

「お、お初にお目にかかります。オルティナノス上級修剣士殿!私は──」

 

「ティーゼ・シュトリーネンと、ロニエ・アラベル、そしてレイラ・カーヴァスだな。後ろの3人がよく話しているから知っている──メディナ・オルティナノスだ、初対面にも関わらず、こうして親睦会に呼んで貰えて嬉しく思う。あまり畏まらず、あいつらと同じように気安く呼んでくれて構わない、今日はよろしく頼む」

 

 ティーゼは3秒程ポケーっと見惚れたように凝視してから、差し出されたメディナの手を慌てて握る。ロニエとレイラもそれに続くと、一行は早速学院内の森へ出発するのだった。

 

 

 

 

 

 雑談を交えながら森を進んでいく。

 ユージオが森で見かける様々な動物に興味を示してはティーゼが解説している一方、キリトはメディナと剣術の話で議論、ロニエはそれを興味深そうに聞いている。

 

 そんな5人を後ろから眺めて歩く俺の横では、レイラが穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「……バスケット(そ れ)、ずっと持ってて疲れないか?結構入ってそうだし、俺が代わりに──」

 

「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。いい運動になりますし──って、今のはその、決して鍛錬をしようというわけではありませんので……!」

 

《安息日は稽古禁止》という規則に抵触している恐れがあるのではと思ったレイラは慌てて釈明するが、それを咎める気はない。斯く言う俺自身、暇な安息日にやれ「健康の為」とか「気分転換の為」とか適当に理由をつけては筋トレをしていた経験があるからだ。

 

()()()()が高いのは結構だが、折角の安息日だ、もっと肩の力抜いていいと思うぞ?」

 

「は、はい……その、先輩も──」

 

「ん?」

 

「ここ数日の先輩、なんだかいつもより気を張られているようにお見受けしましたので……先輩も、今日くらいはゆっくりして頂けたら嬉しいです」

 

 ライオス達が何かしてくるのではと警戒しつつ、表向きには平静を装っていたつもりだったが──化けの皮が剥がれかけていたのか、それともレイラが鋭いのか──どうやら見抜かれていたようだ。俺もまだまだだと痛感する。

 

「──あそことかいいんじゃないですか?」

 

「そうだね。じゃああそこで休憩しようか」

 

 ティーゼとユージオが指さした小さな池のほとり──大きな木が作る木陰にレジャーシート代わりの大きな布を広げ、揃って腰を下ろす。各々一息つく傍ら、キリトの意識はレイラが下ろしたバスケットへ向いていた。

 バスケットの中には、肉や魚、野菜を挟んだパンと、香草を添えてこんがり焼かれた鶏肉。そしてフルーツ盛りだくさんのケーキが入っており、匂いだけで空腹を煽ってくる。

 

「おぉ……見事なものだな」

 

「そ、その……私達が作ったものなので、お口に合えばいいんですが……」

 

「食べる前からキリト(こいつ)の気をこれだけ引けてるなら大丈夫だろ」

 

「ミツキ、お前俺を何だと思っとるんだ……いや実際すげぇ美味そうだけど」

 

「日頃の行いだよ──でも本当に美味しそうだね。これ全部3人で作ったのかい?」

 

「はい──と言っても、私とロニエはケーキだけで……」

 

「サンドイッチとお肉の方は、レイラがやってくれたんですけどね」

 

「そんな、2人も手伝ってくれたじゃない。ケーキだって美味しそうに焼けたし」

 

「全体を見れば私達は殆どおまけよ──レイラ、すっごく手際が良くて料理上手なんですよ」

 

「そうそう!私達だけじゃあんなに上手く行きませんでしたし、何ならケーキだって──」

 

「も、もう2人共!そ、その辺で……恥ずかしい……ッ」

 

 褒められ慣れていないのだろうか。レイラはすっかり顔を真っ赤にして縮こまってしまう。彼女に代わり、ちょっぴり反省した様子のティーゼとロニエが各自の分を取り分け、皆でアンダーワールド流の「いただきます」をするなりキリトがサンドイッチにかぶりついた。

 

「……うん、美味い!──跳ね鹿亭に勝るとも劣らない味だぞ」

 

「……ああ、美味い。肉も柔らかくてしっかり味がついてるし──米欲しくなるなぁ」

 

「分かる。絶対ご飯進むよなこの味」

 

 アンダーワールドで2年も過ごせば西洋風の生活様式にも慣れるものだが、やはり日本生まれ日本育ちの俺やキリトとしては、無い物ねだりと分かっていても時折無性に米が恋しくなる時があるのだ──SAOにいた頃も、同じような事を思った気がする。

 

 バクバクと夢中になってサンドイッチを頬張るキリトに、ユージオとメディナが揃って「行儀が悪い」と苦言を呈するが……

 

「そりゃあ俺だってもっと味わって食べたいさ。けどな──周りを見てみろ」

 

 キリトに言われて辺りを見回してみる。見えるのは豊かな自然と、そこに生きる野生動物だけだ。

 

 まさかとは思うが……

 

「……何となく感じる。あいつら、この飯を狙ってるぞ」

 

「そんな訳無いだろ……」

 

 キリトの意地汚さに呆れながら──念の為、周りに注意を配りつつ──各々食べ進める。そこそこなボリュームのあったサンドイッチと肉はあっという間に無くなり、お待ちかねのティーゼとロニエ作のデザートが登場。7つに切り分けられたケーキを一口齧ると、フルーツの酸味に混じって、覚えのある甘味が……

 

「この味……どことなく跳ね鹿亭の蜂蜜パイに似てるような……」

 

「あ、気付かれました?実はこのケーキ、レイラが持ってきた蜂蜜を使ってるんです」

 

「あの店、蜂蜜だけも売ってるのか?」

 

 俺の質問に、ティーゼは意外そうに目を丸くする。

 

「ミツキ先輩、ご存知無かったんですか?レイラの実家、養蜂場を経営してるんです。跳ね鹿亭で使ってる蜂蜜も、そこから仕入れてるんですよ」

 

 始めて耳にする情報に、今度は俺が目を丸くする。その横で、キリトが思い出したように口を開いた。

 

「跳ね鹿亭と言や、いつだったか『その内蜂蜜パイの1日の販売数が減るかも』みたいな事言ってた気がするな、最近不作なのか?」

 

「い、いえその……そういう訳では、無いのですが……」

 

「おいキリト、そういうのはべらべらと話すような事じゃ──」

 

「ありがとうございます、先輩。ですが……大丈夫です、お話します──」

 

 まず大前提として、レイラは元々五等爵士の下級貴族クォート家の生まれであり、代々養蜂場を経営してきた一族である。

 飼育しているミツバチを農家へ貸出して作物生産を助ける他、お菓子作りや料理、酒の材料にもなる蜂蜜は、先程ティーゼが教えてくれたように、《跳ね鹿亭》を始め北帝国にある様々な店や料理店に卸される程評判だったのだが……

 

「──ほんの2年前、当主だった私の父が、事故で不幸に見舞われました。幸い、養蜂業そのものには支障は無かったのですが……取引先との契約、交渉等は全て父が一手に担っていた為、突然の事で経営が傾き始めたんです。母も懸命に立て直そうとしましたが、どうにも……」

 

 そんな折だ、ある貴族が経営の援助を申し出てきた。その家こそがカーヴァス家──ラッディーノの一族だった。

 カーヴァス家は父に代わり養蜂場の経営を請け負う代わりに、その全権を要求。普通なら流石に断る所だが、レイラ達クォート家の面々並びに養蜂場で働く領民達にはしっかり金を払うし、何よりここで採れる蜂蜜を必要としている多くの人々のことを考えた結果、この条件を呑む事にした。

 

 クォート家はカーヴァス家に吸収合併され、名乗る姓もあちら側になった。そのことに少しなりとも思う所こそあったが、それでもあれが最善の選択だったのだと、そう思っていたのだが……

 

「──カーヴァス家が実権を握るようになってから、傾いていた経営は確かに持ち直しました。上級貴族故の人脈の広さも相まって、以前より好調になったくらいで……合併で四等爵士になって、贅沢も出来るようになったんですが……」

 

 浮かない表情のレイラは、制服の裾をキュッと握る。

 

「丁度去年の暮れ頃から、経営方針が変わったんです……他の貴族との私的な契約が増える一方、これまで契約していた中で利益が少ない取引先からどんどん切り捨てられて行きました」

 

 採取できる蜂蜜の中から、良質なものは優先的に他の貴族や一部の高級料亭へ回され、辛うじて契約の生きている他の店には、数段質の落ちたおこぼれを卸す。味の変化も勿論だが、そもそもの供給量が減ってしまうのが問題だ。《跳ね鹿亭》はまさにその煽りを受けた店ということになる。

 懇意にしていた取引先から「考え直して欲しい」という嘆願の手紙も多く届いたが、カーヴァス家当主は一切耳を貸さない。養蜂場の全権を移譲してしまった手前、レイラや彼女の母が口を出せるはずもなかった。

 

「ミツキ先輩……私、本当はウチの養蜂場を取り戻したくて、学院に来たんです。例え整合騎士にはなれなくても、とにかくあの人を上回る実績を残せれば──って……嘘をついてしまったことを、ここに深くお詫び致します」

 

 深々と頭を下げるレイラに、顔を上げるよう言う。

 彼女の生い立ちを聞いて、おおよその推測が立った。傍付き選考会の時、ラッディーノがライオス達に囁いていた言葉の意味……あれは恐らく──

 

 ふと、ユージオが遠慮がちに手を挙げる。

 

「……ごめんレイラ、質問いいかな?」

 

「は、はい。どうぞ」

 

「僕の記憶が間違ってなければ、貴族は私領地民だけじゃなくて他の貴族に対しても裁決権を持ってるはずだよね。全権利の移譲だなんて明らかに不利な条件を提示された時点で、ラッディーノ達にそれを行使出来なかったの?」

 

「それは……」

 

 口篭るレイラに代わり、メディナが答えた。

 

「……少し違うぞ、ユージオ。貴族裁決権が与えられるのは四等爵士以上。そしてその対象となるのは、五等以下の下級貴族と私領地民だ」

 

「じゃあ、つまり……」

 

「もし仮に、カーヴァス家の申し出を断っていた場合『善意を踏み躙られた』などという理由で不敬と見做され、逆に裁決権を行使されていた可能性がある。そうなれば、養蜂場だけを取り上げられてクォート家とその領民は路頭に迷っていたやもしれん」

 

「……はい。その危険性がある以上、母も強く出られなかったんだと思います」

 

「……正直、貴族は全員僕らみたいな平民と違って、色んな特権を持った贅沢な人達なんだ、って思ってた。勿論、僕らが去年お世話になった先輩達や、メディナみたいな例外もいるって分かってるけど──貴族も、色々大変なんだね」

 

「……ユージオ先輩。こんな時に、なんですが──先輩達に、お願いしたい事があるんです」

 

 ティーゼとロニエ、そして沈んでいた表情を引き締めたレイラ達の口から語られた「お願い」とは、とある生徒を助けて欲しい、というものだった。

 

「レイラの同室にフレニーカっていう女の子がいるんですが、彼女が傍付きを務める上級修剣士殿が、とても厳しい方のようで……」

 

「本当にちょっとした粗相に対して長時間の懲罰を課されたり、院内では少々不適切とも言えるお世話を言いつけになったり……最近の彼女、とても辛そうで見てられないんです」

 

 上級修剣士が有する懲罰権によって課す罰則は大抵の場合が「素振り何本」とか「神聖術の書き取り何行」とか「筋トレ何セット」というようなものなのだが、それとて学院則で明文化されているわけではない。修剣士によっては、上記以外の罰を課す者も当然いるだろうが……それでも、学院則に抵触しない範囲でとなると限られてくるのが実情だ。

 その上で、フレニーカという女子生徒をそこまで苦しめる程の懲罰とは何なのか──ティーゼの「女子生徒としては受任し難い命令」という言葉だけで、察しは付いた。

 

 つまるところ、フレニーカを助けるべく、彼女を傍付きから解放する手伝いをして欲しい。という事だ。こちらとしても、協力するに吝かではないのだが……1つ問題がある。

 

「確か……傍付きを解任するには指導教官と上級修剣士の合意が必要だったよね。教官には事情を話せば分かって貰えるとしても、肝心の修剣士が非を認めないと……」

 

「その、問題の修剣士ってのは?」

 

 後輩達3人は視線を交わし、代表してロニエが答えた。

 

「その──ウンベール・ジーゼック次席上級修剣士殿です」

 

 予想していた3つの名前から見事に的中し、俺達4人は揃ってため息をつく。

 

「考えが甘かった──まさか全く無関係な自分の傍付きに手を出すとはな……」

 

「仕方ないよ、普通そこまで予測出来るわけがない──気持ちは、僕も分かるけどね」

 

 ティーゼ達に、ウンベールがそんな暴挙を行う理由──その推測を説明する。

 

「じ、じゃあ……ジーゼック修剣士は、ユージオ先輩と引き分けたから──それだけの理由で、腹いせにフレニーカを……!?」

 

「推測に過ぎないけど……多分」

 

 揃って沈痛な面持ちの傍付き練士達。

 同じ貴族と言えど、ウンベールの所業は理解出来るようなものではないのだろう。そしてそれは、曲がりなりにも彼と同じ上級貴族であるレイラやメディナからしても同様のようだ。

 

「……私には、分かりません」

 

 ふと、ティーゼがポツリと言葉を零す。

 

 彼女の父はこう言っていたそうだ──自分達が貴族として生活出来ているのは、遠い先祖が小さな武勲を立てたお陰に過ぎない。今を生きる自分達はその恩恵に肖っているだけなのだから、与えられた大きな屋敷や特権を当然と思ってはいけない。貴族であるという事は、そうではない人々が幸せに暮らせるよう尽力し、有事の際は真っ先に剣を取って貴族ではない人々を守り、彼ら彼女らよりも先に死ぬという事なのだ──と。

 ウンベールの生家であるジーゼック家は、貴族居住区に大きな屋敷を構え、央都郊外には私領地も有する名家だ。であるなら、多くの恩恵を享受する分、領民や平民達の為に力を尽くすべきなのではないか?己の憂さ晴らしの為に、年端もいかない傍付きの女子を辱める事などあってはならないのではないか?……それとも、父の言葉が間違っていたのだろうか?

 

「……立派な人だな、ティーゼの親父さんは」

 

「ああ。同じ貴族として、身が引き締まる思いだ──ティーゼ、お前のお父上は正しい。貴族の鑑のような方だ。若輩ながら一族の当主の座に就く者として、心から敬服する」

 

 メディナの賛辞の言葉を受け取ったティーゼは、レイラの差し出したハンカチで目元の涙を拭う。そんな彼女達に、キリトが語りかけた。

 

「ティーゼの親父さんが言っていたのは、神聖語で《ノーブル・オブリゲーション》っていう理念だ。貴族みたいに力ある者は、そうではない人々の為にその力を使わなくてはならない、っていう──信念とか矜持、誇りみたいなものかな」

 

「ああ……矜持や誇り、自分の中の正義ってのは、どんな法や規則よりも大事なものだ。法で禁じられてなくてもやってはいけない事は勿論……時には、法で禁じられていたとしてもやらなきゃいけない事だってある──その線引きをするのは公理教会でも神様でもない、いつだって自分自身だからな。法律を盲信して、考えることを止めちゃいけないんだよ」

 

 後輩達と、そしてメディナとユージオのどこかハラハラした視線が俺に集まる。この世界に於ける絶対の法──疑う事すら許されない禁忌目録と、それを敷く公理教会、教会が信仰する神々を否定するような発言をしているのだから、それも当然か。

 

「『法が守るのは秩序であって、人を守るのは同じ人である』──例え、ウンベールの行動が法や規則の上では正しい事で、それを止める俺達の方が間違っているんだとしても──そうであるなら尚の事、その間違いを犯すのは、原因を作った俺達じゃなきゃな」

 

「……そうだね。それが、僕達の取るべき責任だ」

 

 食事を終え、森から戻る最中──

 

「……レイラ。さっきのウンベールの件にも関係することだが、ラッディーノの傍付きは大丈夫なのか?」

 

「は、はい……授業の時などに少し話しますが、フレニーカ程落ち込んではいません──隠しているだけ、なのかもしれませんけど」

 

 引き分けという結果でウンベールがここまで荒れているのだから、こっ酷く負けたラッディーノはこれ以上の荒みっぷりでもおかしくない。俺の知らない所で彼の傍付きも何か酷い仕打ちを受けているのではと思ったのだが、少なくとも精神的に追い詰められているわけではないようだ。

 今後はレイラも居間の掃除に参加させて、俺が直接目を光らせておくべきだろうか……そんな事を考えていると、

 

「あ、あの。ミツキ先輩……」

 

「……あ、悪い。どうした?」

 

「……いえ、何でもありません。すみません、変な事を言って」

 

「……そうか。何かあったら遠慮なく言ってくれよ?」

 

「はい……」

 

 何かを言いたげにしていたレイラだったが、この場は何も言わず、そのまま解散する運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 後輩3人を見送った俺達は、キリト達の部屋に集まる。

 

「……さて。例の件だが、俺としてはすぐにでも動くべきだと思う。どうだ?」

 

 俺の言葉に、ユージオを始め3人共頷く。だが一方で、具体的にどうするかという問題も残っていた。

 

「アイツ等の事だ、まともに聞いた所でどうせシラを切るだろうし、言って素直に止めるかどうかも期待薄だよなぁ」

 

「何より、同室のライオスが静観を決め込んでいるというのが気がかりだ。傍付きを虐げる行為を隠し通せると本気で思う程、奴は馬鹿ではない。現に同期の練士達を通じて我々に知られたわけだしな」

 

「確かに……もしウンベールの件を知ってて黙っていたんだとしたら、それが明るみに出た時、ライオスに対する印象も悪くなるよね。その程度の事は考えつくはず──ライオスでも手が付けられないくらいにウンベールが不機嫌、とか?」

 

「そう単純な話ならいいのだがな……これまでの奴等の力関係を見るに、恐らくそうではないだろう。他に狙いがあると見るべきだ」

 

「う~ん……ミツキ、お前はどう思ってるんだ?」

 

 キリトに意見を煽がれた俺は、口元に手をやって少し考える。

 

 俺としても、基本的な考えはメディナと同じだ。

 ウンベールがフレニーカにいじめ同然の行為を働いているのは、それが主目的ではない。黙認しているライオスもグルの可能性が高い事を考えると──

 

「……この一連の事は、俺達を誘い出す為の罠、かもしれない」

 

「罠……?」

 

「ああ。例えば──フレニーカの件を聞きつけた俺達が、正義感からあいつらに直訴しに行く。そこで俺達を言葉巧みにやり込めて、学院則、延いては禁忌目録違反に仕立て上げる──とか」

 

「そんな──だってウンベールがフレニーカを不当に虐げてるのは事実なんだよ!?それを止めるように言うのが、どうして規則違反に……!」

 

「メディナも言ってたろ。フレニーカの件は向こうにとってあくまでも手段。その先にある目的は……十中八九俺達だ。あいつらは俺達を苦しめ、愉しみ、あわよくば排除したいんだよ──」

 

 ライオス達から見た俺達は、安っぽい正義感を振りかざす無礼な平民、と言った所か。直接関係のない第三者を痛めつける事で俺達の正義感を煽るだけ煽る。しかしウンベールの行為は、少なくとも表面上何ら規則に抵触するようなものではないのだろう。そんな相手を一方的に違反だ何だと弾劾してしまうと、逆にこちらが規則違反となってしまう。決定打を持たない俺達が悔しげに歯噛みする様は、連中にとってさぞや愉快に見えることだろう。

 さりとて無視してしまえば、フレニーカが更に傷つく。それを救わなかった俺達は後輩達からの信頼を失う。どちらに転んでも奴らの優位は変わらないし、旨い酒が飲めるというわけだ。

 

 極めつけは俺達が理屈も何も全てかなぐり捨てて暴力に訴えた場合だ。多少の痛みと引き換えに、誰の目に見ても禁忌目録違反で1発アウト。退学だけで済むとは思えない。よってこれは本当の本当に最後の手段。

 

「──くそ、考えてもキリ無いな。どの道こっちが不利な事に変わり無いんだし、今出来る事を最大限やるしかない」

 

「同感だ。差し当たっては……一先ず口頭注意か。お前達のしている事はこちらの耳に届いているということを仄めかして、それでもフレニーカに対する所業が改善しないようであれば──」

 

「うん。教官にフレニーカの配置替えを頼もう。上級修剣士4人からの嘆願なら教官も無視はしないだろうし、ライオス達に学院側の監査が入った、って事実が知れ渡るだけでも多少は効果があると思う」

 

「方針はそれでいいとして──それにはあいつらと直接話さなきゃいけないわけだよな。誰が行く?」

 

「そうだね……まずキリトは真っ先に外すとして、ここは大元の当事者である僕とミツキが行くべきだけど」

 

「いや……ここは俺とメディナに任せてくれないか」

 

「……そうだな。ミツキはベルグリッド先輩に似て口達者だし、メディナは貴族の手口を俺達よりもよく知ってる。少なくとも俺とユージオが話すよりは効果があるかもしれない」

 

「うん……じゃあ、頼んでいいかな。ミツキ、メディナ」

 

「無論だ」

 

「ただ、無策で行ってもやり込められる可能性が高いのは事実だ。妙な屁理屈を捏ねられないよう、最低限フレニーカ本人の証言が欲しい。今から初等練士寮に行って、詳しい話を聞いてくる」

 

 

 

 

 

 

 キリトとユージオを部屋に残し、俺とメディナは初等練士寮へ向かう。

 安息日とはいえ、午後になれば出かけていた生徒達も戻ってくる。そこに通常現れる事のない上級修剣士が2人も姿を現したということで、初等練士寮はちょっとした騒ぎになっていた。

 

「……来たはいいが、フレニーカをどうやって探すつもりだ?」

 

「そりゃ詳しい人に聞くのが1番だろ。そこの君、ちょっと頼まれて欲しいんだが──」

 

 遠巻きに俺達へ視線を注ぐ初等練士達の中から手近な1人に声をかけた俺は、寮にいるとある人物を呼んで来てくれるよう頼む。果たして、その生徒が連れてきたのは──

 

「唐突にあなたの名を聞いて驚きました── 一体何事ですか、ミツキ上級修剣士」

 

「お久しぶりです、アズリカ先生。急に押しかけてすみません──その、立ち話も何なので入れてもらっても……?」

 

 針の筵の如く突き刺さる下級生達の視線に居心地の悪さを覚えた俺は、背後のメディナに呆れられながらバツの悪そうに寮へ立ち入る許可を求めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「──お待たせしました。さぁ、入りなさい」

 

 寮の事務室に隣接した応接室で待つ俺達の元へ、アズリカ先生は2人の女子生徒を連れてきた。1人は、もし一緒にいたら連れてきて欲しいと頼んだ内の1人であるレイラ。そしてもう1人は──

 

「……初めまして。俺はミツキ、君の友達の指導生をやらせてもらってる。彼女は同じ上級修剣士のメディナ・オルティナノス。それで──君がフレニーカだな?」

 

「は、はい……お初に、お目にかかります。フレニーカ・シェスキ初等練士、です……」

 

 ロニエよりも明るい薄茶色の髪をおさげにした女子生徒──フレニーカは、困惑を隠せない様子で促されるままレイラ共々席に着く。アズリカ先生は部屋を出ようとしたが、一緒に話を聞いてくれるよう頼んで残ってもらった。

 

「それで、その……私にどのようなご用向きでしょうか……?」

 

「……レイラ達から聞いた。ここ最近、君が辛い目に遭ってるって」

 

 フレニーカの肩が、ビクッと大きく震えた。

 

「そ、それはっ……私が、至らないだけで……」

 

「フレニーカ……ミツキ先輩もメディナ先輩も、あなたを助けようとしてくれているの。勝手な真似をしたのは申し訳ないと思うけど……私も、あなたを助けたいって思ってるわ」

 

「……俺達としても、後輩の友達が傷ついてるのを見過ごす事は出来ない。今日中に動くつもりでいる。けどその為には、君の証言が必要なんだ。酷な事を言ってるのは承知の上で、君を助ける為に、君の力を貸して欲しい──頼む」

 

 そう言って、俺とメディナは深く頭を下げた。

 

「そ、そんな……どうか頭をお上げください、上級修剣士殿!」

 

 レイラの説得も手伝って真剣さが伝わってくれたのか、フレニーカはぽつりぽつりと自分がウンベールに耐え難い命令をされてきた事を明かしていく──その内容たるや、聞くに堪えない腹立たしいものばかり。

 内容的に男の俺は外した方が話しやすいかとも思ったのだが、フレニーカは勇気を出して、俺も同席することを許してくれた。

 

「──以上が、数日前からウンベール・ジーゼック次席上級修剣士殿から命じられたご奉仕になります……お耳汚しを、大変失礼致しました」

 

「いや。こっちこそ、思い出すのも辛い事を話してくれてありがとう。最後に2つ、大事な事を聞かせて欲しい──君は、ウンベールからの命令を明確に『嫌だ』と感じていたか?」

 

「……はい。傍付きという立場上、拒否する事が出来ませんでした」

 

「君は、彼の傍付きから解放されたいと望むか?」

 

 2つ目の質問に、フレニーカは顔を俯ける。彼女の肩を、レイラが気遣わしげに抱き寄せた。

 

「わたし……私、こんな日々が続くなら、いっそ学院を辞めようって思ってました……でもっ……お父様やお母様、家族の皆の期待を背負ってここにいるのに……それを裏切ってしまうのが怖くて、申し訳なくてっ……わたし、他の修剣士の下で、もっとちゃんと剣を学びたいですッ……!」

 

 スカートの上で握り締められた手の甲に、ぽたりと雫が落ちる。静かに嗚咽を漏らす彼女の頭に、俺は優しく手を置いた。

 

「……ありがとうフレニーカ。君の願い、この場の全員が確かに聞き届けた──今までよく頑張ったな」

 

 フレニーカをレイラに任せ、部屋に戻る2人を見送った後、アズリカ先生が静かに口を開く。

 

「……近頃、シェスキ初等練士が沈んだ様子で戻ってくる事が多いのは気づいていましたが……あのような目に遭っていたとは知りませんでした。初等練士の身を預かる寮監として忸怩たる思いです」

 

「……同席してくださって、ありがとうございました」

 

「礼を言うのはこちらです。私も、知らず知らずの内に現実から目を背ける癖が付いてしまっていたのかもしれない──尤も、事を知って尚出来る事が無いに等しいのが歯痒い所ですが」

 

「出来る事ならあります──」

 

 そう言ったのは、話を俺に任せて沈黙を貫いていたメディナだ。

 

「あなたは彼ら彼女らを誰よりも近い場所で見守れる人です。例え直接的に助ける事が出来なくても……気にかけ、寄り添ってくれるだけで、少しばかりでも救われる者がいる──少なくとも私は、あなたの心遣いに救われました」

 

「オルティナノス修剣士──そうですか……であれば、良かった」

 

 いつもクールで滅多に表情を動かさないアズリカ先生が、一瞬だけ、どこか安心したような笑みを浮かべた。

 

「……今回の件、基本的には俺達上級生の内で処理するつもりでいますが、事と次第では、事情を知っているアズリカ先生の助けが必要になるかもしれません。その、勝手に巻き込んだ上、事後承諾になって申し訳ないんですが……」

 

「……まぁ、それはいいでしょう──シェスキ初等練士の事は、私の方でも注視しておきます。必要であれば、出来る範囲で協力もしましょう」

 

「……ありがとうございます。ではこれで、失礼します」

 

 アズリカ先生にしっかりと一礼した俺達は、急ぎ上級修剣士寮へ戻る。

 ライオス達の元へ向かう前にキリトとユージオへ手短に報告しようと部屋を尋ねたのだが──

 

「──マジか……」

 

「うん……ごめん、勝手な事しちゃって。あいつ、あんな事してるのにあまりにも平然としてるから、ついカッとなっちゃって……」

 

「俺がちゃんと止めるべきだったんだけどな……悪い」

 

 どうやら、俺達がフレニーカへ話を聞きに行っている最中、気晴らしに食堂で何か食べようとした2人は、ライオス達と鉢合わせてしまったらしい。

 ここ最近は鳴りを潜めていた奴らの嫌味を暫く振りに浴びたことで我慢の限界を迎え、ユージオはウンベールにフレニーカの件を問い詰めてしまったのだという。

 

 当然、本人が非を認めるはずもなく。一応、あしらわれつつも釘だけは刺してきたそうだが……

 

「まぁ仕方ない──改めて俺達も殴り込む。今度は明確な証言付きだ、軽く流せはしないだろう」

 

 メディナを伴い、ライオス達の部屋へ向かう。扉をノックすると、意外なことにライオスが顔を出した。

 

「──おや、ミツキ修剣士殿にオルティナノス修剣士殿ではないか。このような夕刻に、突然何用かな?」

 

「アンティノス殿……ジーゼック次席上級修剣士殿に少々お話があるのですが、ご在室か?」

 

「これはこれは……確かに我が朋友ウンベールは奥の部屋にいるが、生憎貴殿らに合わせる事は出来ぬのだ」

 

「理由をお伺いしても?」

 

 メディナの問いに、ライオスは微かに目を細める。

 

「先刻、食事を終えて部屋に戻ろうとした際、貴殿らのご友人であるユージオ修剣士とキリト修剣士に謂れのない中傷を受けたのだ。ウンベールはそれに酷く心を痛め、寝室にて枕を濡らしている所──言伝で良ければ、私からウンベールに伝えておくが?」

 

 白々しい言葉に内心で盛大に舌打ちした俺はメディナと顔を見合わせる。この様子では、やはりライオスとウンベールが通じているという予想は当たってると見ていい。本人のいない状況で何を言おうと、然したる効果は望めまい。

 

「……いえ。そういうことでしたら、日を改めましょう。失礼します」

 

「何、気にすることはない──学院の頂点たる上級修剣士の主席、次席ともなれば、羨望と畏怖だけでなく僻みを受けることもあろう。ミツキ殿に於かれても、努々気をつけられよ」

 

「……ご忠告、痛み入ります」

 

 会話を長引かせないよう、足早に部屋を後にする──念の為、一度別れて各自の部屋に戻ってから、間を置いてキリト達の元へ集まった。

 

 事の次第を報告する俺は、脳裏にこびりついた嫌な予感をどうにも拭えずにいた。

 




ついに評価バーが端まで染まりました。ありがたい事に色も赤。本当に、感謝感謝です。
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