FGOのレイドイベントに集中する為さ。
※尚、ものの見事に寝過ごしました。
《シンセサイズの秘儀》──最高司祭アドミニストレータによって過去の記憶を封じられ、絶対の忠誠を強いる術式。
アリスも、イーディスも、ベルクーリも、ファナティオも、デュソルバートやエルドリエも──ユージオらが戦ってきた者達は皆、本来人間として生まれ持った人格を奪われ、偽りの記憶と共に人界を守護する整合騎士の役目を与えられた。
そして、たった今目の前で元老長チュデルキンの命を奪った少年もまた……
「──お前達も、俺の邪魔をするのか……?」
「ミツキ……僕が、分かるかい?」
緊張の面持ちで問いかける。温度を失った翡翠色の瞳がユージオを数秒ジッと見つめるが……
「いや、知らんな」
淡々と返ってきた答えに、ユージオは苦い顔をする。
「僕はユージオ、君の友達だ」
「そうか。俺はミツキ、事と次第じゃお前達の敵だ」
「違う。君は過去の記憶を封じられて、都合のいいように操られてるだけなんだ」
「ほーん……それで?」
「僕達には君と戦う理由が無い。だからそこを退いてくれ」
「だが俺にはあるかもしれない──もう一度聞くぞ、お前達も、さっきの肉達磨みたいに俺の邪魔をするのか?」
「……その『邪魔』っていうのは、一体何の事?あなたの目的は何?」
ここまでユージオに任せて沈黙を貫いていたイーディスが口を開く。
「その鎧……あんた整合騎士か。なら丁度いい──アリスはどこだ?同僚なら何か知ってるだろ」
「アリスなら──」
訝しみながらも答えようとしたユージオを、イーディスは手で制する。その目は次第に鋭く研ぎ澄まされていく──
「……どうしてあの子の居場所が知りたいの?あの子に会って、何がしたいのかしら」
「ん……いざ具体的に何を、って聞かれるとパッとは出てこないが……そうだな──俺はとにかく、アリスの笑顔が見たい。彼女の笑顔だけが、俺の胸に空いた穴を埋めてくれる──これじゃダメか?」
「答えだけなら及第点だけど……悪いわね、その暗くて冷たい目を元に戻してから出直してくれるかしら」
「……あんた、アリスの保護者か何かか?」
「保護者というか、まぁ姉みたいなものね──だから、
「悪い虫か、初対面で随分嫌われたもんだ」
「初対面、ね……記憶を封じられた、っていうのは本当みたい──そんなあなたを、アリスに会わせるわけには行かないわ」
剣の柄に手を添えたイーディスは、後ろのユージオに小声で話しかける。
「彼、様子がおかしいのは私でもわかるけど……さっきのあなたの言葉、本当なの?」
イーディスの質問が、今のミツキが記憶を封じられている、という事を指していると理解したユージオは、言葉を選びつつ首肯を返した。
「やったのはチュデルキン……じゃ、状況的にないっぽいわよね。勿論、術者が死んでも解除されない術式っていうのもあるけど」
「それは……はい」
ユージオの顔に別の緊張が滲む。
「……まぁそれに関しては後。今は彼を無力化する事に集中しましょう」
どう返したものかと考えている内にイーディスの方から話を切り上げてくれた事に内心で安堵したユージオは、彼女の言う通り意識を入れ替えて目の前のミツキに集中する。
「……イーディスさん、僕にやらせてください」
「……出来るの?友達なんでしょ」
「何も殺す必要はありませんし、それに……ミツキの剣は僕の方が少しは知ってますから」
ここまでのやり取りから、ミツキがシンセサイズを施されたのは確定した。地下牢から脱出した際に戦ったエルドリエの時のように、会話で過去の記憶を呼び起こして《敬神モジュール》を摘出出来ればと思ったのだが……そもそもの話、ユージオはミツキの過去を語れる程知っているわけではないのだ。当の彼自身ですら……。
こうなれば、剣を以て彼を正気に戻す他ないだろう。当然殺しはしない。出来れば深手を負わせるのも避けたい所だが……最悪、神聖術で治療出来る範疇に止める。
同じアインクラッド流でも、ミツキの剣はユージオがキリトから教わった《剛》の業ではない。流れるように攻撃を捌き、的確に一撃を叩き込むのを是とする《柔》の業──攻撃よりも防御に比重を置いている。一気に間合いの内へ踏み込めば、そのまま取り押さえる事が出来るはずだ。
ユージオは青薔薇の剣を背後まで大きく引き絞る。アインクラッド流突進技《ソニックリープ》の構えだ。
それを見たミツキは、肩に担いでいた槍を下ろすと、
「……その様子じゃ、教えてはくれないって訳か。なら──やっぱり敵だな」
「──ッ!!」
刀身にライトグリーンの光を纏わせ、ユージオが疾風の如く駆ける。凄まじい速度で突っ込んでくるユージオの剣を、ミツキは無造作に掲げた槍で迎え入れた──思った通り、秘奥義での迎撃ではなく、受け流してきた。
だが突進技である《ソニックリープ》なら、例え命中せずとも突進の勢いのまま再度距離を取ることが可能だ。ミツキといえど、この速さを捉える事は──
「──がッ……!?」
刹那、ユージオは背に凄まじい衝撃を感じた。硬いもので思い切り殴りつけられたような、鈍く重い痛みが染み渡る。体勢が崩れ、勢いのまま大理石の床を転がるユージオに迫る追撃を、間に割り込んだ漆黒の刃が受け止めていた。
「──早く立ちなさいッ!」
背中越しにユージオを叱咤しながら、イーディスは槍を振り払い反撃を行う。ミツキは器用に引き戻した槍でそれを受けると、後ろへ跳んで距離を取った。
「あ、ありがとうございます……今のは、一体──」
「見た感じ、槍の長さを利用して、あなたの剣の威力をそのまま返したんだわ──石突だったからまだ良かったけど、もしあれが穂先だったら今頃背中がざっくりいかれてたでしょうね」
「攻撃を、返した……」
アインクラッド流は片手剣に限らず様々な武器を扱う流派であると聞いた事はあったが、剣の時とはまるで違う。たった一号打ち合い──否、一撃食らっただけでそれが分かった。
「──ともあれ、そういう手合いなら前に出るのは私の方が適任ね。あなたは機を見て完全支配術で拘束して。最悪私ごとやってくれて構わないわ」
「っ……分かりました。お願いします」
策を示し合わせたイーディスが前に進み出ると、闇斬剣の漆黒の刀身にそっと指を這わせた。
「──エンハンス・アーマメント!」
この一言を皮切りに、闇斬剣の刀身が闇に包まれる。より深い黒となった刃を構え、イーディスは床を蹴った。
空気を斬り裂く斬撃を、ミツキは先程と同じように槍の柄で受ける──がしかし、ユージオの時のような衝撃は一切生まれず、イーディスの刃がミツキの左肩口に届いた。寸での所で身を引いた事で傷は浅く済んだが、ミツキの顔に僅かながらの動揺が生まれたのを、イーディスは見逃さなかった。
「ツェァ──ッ!」
すぐさま刃を返し、イーディスは果敢に攻撃を続けていく。先程見たミツキのあの返し技は、槍で攻撃を受ける必要がある以上、あらゆる防御をすり抜ける闇斬剣相手には使えない。
そうなると、攻撃手段を1つ潰されたミツキが取れる行動も狭まってくる──まず、ミツキはイーディスの剣が槍を透過してくる事を理解するなり、防御ではなく回避行動を取るようになった。この選択自体はイーディスの予想の範疇だったが、状況判断が思った以上に早い。中々に頭が回るようだ。加えて、回避の動きも隙が少ない。回避に徹させれば有効打を通す機会もあるだろうと考えていたが、こうして槍の間合いの内側に踏み込まれて尚、完全な防戦一方に持ち込まれないよう、適度に牽制を差し込んでくる。手を緩めればその瞬間反撃が飛んでくるのは想像に難くなかった。
イーディスとて彼を殺したくはないが、あからさまに手を抜いていては逆にこちらが危ない。この際、腕の1本は覚悟してもらわねばならないか──
イーディスは一層攻撃の手を加速させる。斬撃から次の斬撃へ移行するラグを極限まで削ぎ落とした絶え間のない猛攻──大きな踏み込みと共に繰り出された横一閃をミツキは後ろに跳んで回避する。
反撃の間を与えまいと、イーディスは踏み込んだ体勢から床を踏み蹴り、突進の勢いを乗せた刺突を繰り出す──!
間髪入れず繰り出された刺突は、ミツキが再び地に足を着けるより先に届く。回避は不可能、防御も不可能。出来て精々、体を捻って刺される箇所を変える程度だろう。それでも明確にダメージは入る。
悪く思わないで──そんな言葉を胸に闇斬剣を突き出すイーディスに対し、ミツキは
刹那、湿った手応えと共に紅い飛沫が散った。
「な……!?」
負傷覚悟で攻撃を仕掛ける、というのは然して珍しい事ではない。イーディスを始め整合騎士でもそんな経験をした者は多いだろう。だがそれはあくまでも「多少の傷には目を瞑ってでも相手を仕留める」という前提があっての事。
そんな先入観や固定観念とも言える考えがあったせいか、イーディスやユージオは今自分の目に映っている光景が信じられなかった。
よもや、抜き身の刀身を素手で掴む──否、
確かに、あらゆるものを透過する闇斬剣の武装完全支配術にもすり抜けられないものは存在する──よくよく考えれば当然と言えるが──人体を始めとする「命ある存在」だ。
ある程度頭の回る相手なら、イーディスの剣を身体で受け止めようと考える。それを見越して、イーディスはもし相手が腕などで斬撃を受け止めたなら、そのまま斬り落とせるよう鍛錬してきた。事実、この状況であってもイーディスの腕ならば剣を斬り下ろすだけでミツキの腕を縦に斬り開けただろう。
この時、ユージオの脳裏にはカセドラルを上り始める前……カーディナルの言葉が思い起こされていた。即ち──自分達が整合騎士に勝るものがあるとすれば、それは正道から外れた奇策だ、と。
その言葉を正しいと感じたのだから、戦いが始まる前に気付くべきだったのだ。即ち──奇策に長じたキリトと同門であるミツキもまた、同じ戦い方をしてくる筈だ、と。
趨勢を分けたのは、ほんの数瞬……傍目には殆ど間も無い、極々小さなイーディスの逡巡だった。ミツキは刃に貫かれた手を更に押し進め、刀身の根元……闇斬剣の鍔を鷲掴みにする。ミツキの狙いに気付いたイーディスだったが、時既に遅し──
「なる程厄介な能力だが──思った通り、
ここから、ミツキの一転攻勢が始まった。
剣そのものを直接押さえられたイーディスの顔面に、槍を握る拳が叩き込まれる──続けてもう1発。小さく怯んだ隙に、ミツキはイーディスの足の甲に槍を突き立て床に釘付けにした。
「ぁぐ──ッ!」
ミツキは動けなくなったイーディスを自由になった右手で手当たり次第に殴り続ける。イーディスは何発目かの拳を掴んで止めるが、両手が塞がると今度は頭突きが襲いかかった。ミツキはイーディスの意識が一瞬だけ揺らいだ隙に手を振り払い、その手を彼女の首へ伸ばす。
「シっ……ス……!」
イーディスは苦しみに喘ぎながらも神聖術で反撃を試みるが、首を締められた状態では詠唱も行えず、窒息感から意識が霞むせいで心意を利用した素因の生成も満足に行えない。
「……あんた、勿体無い事したな。あそこで迷わず俺の腕をかっ捌いてりゃ、こうして捕まる事はなかったろうに」
ギリリと首を絞める手に力が加わっていく……抵抗するイーディスの手からも力が抜けていき──
「ッ……やめろおおおおおおお──ッ!!!」
元のミツキに戻ってくれ──そんな祈りを胸に叫びながら、ユージオは逆手に握った青薔薇の剣を床に突き立てる。武装完全支配術を発動しようとした瞬間──ミツキの手が閃き、槍を掴んだ。
「エンハンス──」
「──アブソーブ・リコレクション」
「──アーマメントッ!」
解放の言葉を結んだユージオ。しかし……
「そんな、どうして……ッ!?」
「ッ──ア゛アアアアアアアァァァッ!!」
狼狽するユージオの耳に、苦悶に満ちた絶叫が──乱暴に蹴り飛ばされてきたイーディスを見ると、右前腕が尋常ならざる方向へ曲がっていた──腕を完全に折られているのだ。ユージオの知るミツキからは考えられない残酷な仕打ちに、いっそ涙さえ込み上げてくる。
そんなユージオの心情など全く気にしていない様子のミツキは、腕をへし折った際にイーディスが手放した闇斬剣を引き抜き、放り投げながら口を開く。
「あぁ痛って…──聞いた話じゃ、
曰く──人界の平和を願って掲げられていたこの旗は、当初こそ人々の未来に向けた希望や調和への祈りを記憶として蓄積していたが、いつしか人々は私腹を肥やすことに執心するようになり、祈る事が減っていった。結果、象徴としての力は時と共に衰える一方だった。宿っていた記憶も長い年月の中で風化して消え失せ、カセドラル武器庫の奥で死蔵状態になっていたのだ。
そんな代物を引っ張り出してきたミツキの発案で、アドミニストレータは特殊な術式を組み上げた。旗槍の中身が空である事を利用し、他の神器に宿る記憶を一時的に取り込む──《アブソーブ・リコレクション》の詠唱で発動する、《記憶簒奪術》とでも言うべき術式を。
これにより《青薔薇の剣》が内包していた記憶が奪われたことで、武装完全支配術が発動できなかったのだ、と。
「ま、それが無きゃただ頑丈なだけで中身が空っぽの槍だ、今の俺にお誂え向きだろ──そら、返すよ──エンハンス・アーマメント」
ミツキが槍の穂先を床に突き立てると、そこを起点に凄まじい冷気がユージオ達を襲う──紛う事なき青薔薇の剣の武装完全支配術だ。先程まで頼もしい切り札だった筈の氷はあっと言う間にユージオとイーディスを飲み込み、巨大な氷塊を作り上げた。
「ふぅ……まぁ記憶を奪う、なんて大仰に言っても、取り込める記憶は1度に1つまでだし、完全支配術は使いきり、記憶解放も使えない。何より──オリジナルと比べりゃ雲泥の差なのが玉に瑕だな」
手の傷を光素で治療するミツキが1人そう呟くと同時に氷塊が砕け散り、閉じ込められていた2人も解放される。青薔薇の剣の完全支配術は攻撃ではなく拘束し無力化する事に重きを置いた術になっているものの、ああして短時間でも氷の檻に閉じ込められてしまえば、相応に気力と体力を持っていかれる。ただでさえ満身創痍なイーディスは勿論、ユージオもまともに戦える状態ではない──お互い手負いである事を加味しても、ユージオにはミツキに勝てるビジョンが全く見えなかった。
「どうする、まだやるかい?──今更だが、お前達の事は出来るだけ殺さないよう言われてるんだ。このまま大人しくしててくれりゃ、俺としても命までは取らないでおくに吝かじゃない」
「ミツ、キ……ッ!」
膝をつき、或いは倒れ伏す2人にミツキがゆったりとした歩調で近づいてくる。
シンセサイズされた者は本来とは全く別の人格が形成されると聞いたが、今前にいる彼は限りなく本人に近い──ザッカリアの衛兵隊や修剣学院で共に2年間を過ごした彼である筈なのに、淡々と語るその言葉から、自分達を見据える翡翠色の瞳から、確かにあった筈の暖かさが消えていた。
「……まぁ、答えがどうだろうと関係ないけどな──痛みは一瞬だ、それが嫌なら自分で気絶してくれ」
完全に意識を刈り取るつもりなのだろう──槍を掲げた彼の腕が、不意に止まった。
「……こいつらの仲間か?なら──」
背後を振り向こうとしたミツキの両脇を、黒と黄金の影が風のように駆け抜けていった。黒い影はユージオの前で足を止めると、膝をついて助け起こす。
髪色、瞳、纏う服、そして腰に吊り下げた剣までもが真っ黒なその少年は、ユージオのよく知る──そしてミツキもよく知る筈の人物だった。
「──悪い。遅くなった、ユージオ」
「キリト……!」
黒衣の剣士キリトの傍らでは、ボロボロの状態で倒れるイーディスを、黄金の鎧に身を包んだ少女が介抱していた。
「ぁ……アリ、ス……?」
「イーディス殿……!申し訳ありません。こんなにもボロボロになって……」
「良か、った……無事、だった……のね──」
右眼を眼帯で覆った黄金の女騎士アリス・シンセシス・サーティの姿を目にしたことで緊張の糸が切れたのか、イーディスは目尻に涙を滲ませ、そのまま眠るように気を失う。そんな彼女を、アリスは折れた右腕を中心に治療を開始した。
そして──4人の前に立つ槍使いの少年は、その内たった1人の姿を凝視していた。
「アリス……」
ポツリと呟かれた名前に、アリスは顔を上げる。翡翠とサファイアの視線が交錯した瞬間、少年の口元は笑みを形作っていた。
「やっと、見つけた……アリス。ずっと、ずっと君を探していたんだ」
ミツキは槍を下げ、自らの血で赤く染まった左手を真っ直ぐ差し伸べる。
「──こっちに来るんだ、アリス」
先程までの冷徹さが嘘のような穏やかな笑みを浮かべるミツキ。その笑みを、アリスは気丈に睨み返す。
「……騎士団の同志を──イーディス殿をこうも無残に痛めつけ、あまつさえかつての学友にも刃を向ける者に、ついて行くとお思いですか」
「俺だって望んでやった訳じゃない。戦いを望んだのはそいつらだ──俺の目的は君だけなんだよ、アリス……君さえいてくれれば、俺はそれで──」
「──それは叶わぬ望みです。私は整合騎士の真実を知りました、最高司祭様の大いなる過ちの一端を知りました……人界の平和と民の平穏を守る騎士として、その過ちは正さねばならない……そして、この身体をあるべき
そう言い切ってみせたアリスは──すぐ近くにいるキリトとユージオも──ミツキの纏う空気が一瞬で鋭く張り詰めるのを感じた。
「身体を、返す……。アリス、君はそれが何を意味するのか、分かっているのか。何を吹き込まれたか知らないが、そんな事させる訳には行かない。さぁ来るんだ──」
1歩、また1歩とアリスに向けて足を踏み出すミツキ──その間に、キリトが立ち塞がった。
「ッ……キリト、今のミツキは──」
「……ああ、分かってるよ……正直、信じたくないけどな──ユージオは休んでてくれ」
小さく深呼吸したキリトは、真っ向からミツキの目を見据える──すっかり温度を失った翡翠の瞳を。
「……邪魔だ、どけ」
「……ミツキ、俺が分かるか」
「その質問、後ろのそいつからも聞いたぞ──答えは同じだ、知らん」
「……俺はキリト。お前の友達だ」
「知らないと言った。もっとマシな嘘を吐け」
「嘘じゃない。今のお前は、アドミニストレータに大事な記憶を封じられて、仲間の事を思い出せなくなってるんだ。俺の知るお前はこんな事するような奴じゃない!」
「知るか。俺には
「ッ……思い出せミツキッ!お前はシンセサイズなんかに負けるような奴じゃないだろッ!お前はッ……お前は、何でもかんでもすぐに背負い込んで、俺達がどれだけ心配しても何も言わずに、1人で潰れそうになりながら、それでも誰かを助けて必死に歩き続けるような正真正銘の馬鹿野郎だろうがッ!」
耐え切れなくなったように訴えかけるキリト。
「俺は今度こそお前を助けてみせる……!その為にも、今のお前をアリスに近づけさせるわけにはいかない」
キリトの言葉を一通り黙って聞いていたミツキは、苛立ちを滲ませた盛大なため息を零す。
「助ける、ねぇ……じゃあ聞くが、仮に全部お前の言う通りだったとしてだ──お前に協力すれば、俺の望みは叶うのか?」
「っ……」
「お前が望んでるんだろう全員が救われる最良の結末への道筋は見えてるのか?その方法は?」
「それ、は……」
「お前アレだろ──『諦めない』って言うだけ言い続けて、ありもしない希望を無責任にチラつかせた挙句、結局何も出来ずに終わる──そういう
言葉の刃が一切の容赦無くキリトの胸を貫く。その痛みから決して目を背けず、噛み締めたキリトは、
「……それでも、だ──未来はどうなるか誰にも分からない。俺にも、お前にも、誰にも。俺はそんな不確定な未来を信じる。決して最良じゃないかもしれない、全てが望み通りとはいかないかもしれない……それでも、少しでも望む未来に近づくように──その為に、足掻き、抗い続けるんだ。諦めるっていうのは、不確定な未来を自分自身の手で最悪に決定づける事だからな」
「……おーおー眩しいねぇ……眩し過ぎて──いっそ消えて欲しいくらいだ」
「……冷たいこと言うなよ。俺は嬉しいぜ、シンセサイズされてるとはいえ、ようやくお前の本音を聞けたんだからな──」
ミツキはキリトに槍を突きつける。対するキリトは右腰からミツキの剣を外すと、ユージオに差し出した。
「持っといてくれ──ミツキの本領は槍だ。俺も本気で行かないと負けるだろうし、本気でも勝てる確証はない。だから……もし俺が負けそうになったら、その時は迷わずアリスに短剣を使え」
「……キリト──僕は、君とミツキの間に何があったのか知らないし、ミツキがどうしてアリスを求めるのかも分からない。けど──ミツキを助けたい、って気持ちは君と同じだ」
「……ああ。よく見とけよユージオ。これが、アインクラッド流同士の本気の戦いだ」
続いて、イーディスの治療を続けるアリスへ目を向ける。
「……アリス。君の覚悟と決意を否定するつもりはない。けどさっき言った通りだ。俺は諦めちゃいない──君があいつと交わす言葉が、最初で最後になるだなんて事、絶対にさせない」
左腰から黒い剣を抜き放ったキリトは、1歩前に進み出る。
「……ミツキ。お前とは長い付き合いだけど、そういやお互いに本気で戦った事は殆ど無かったよな──ALOの統一デュエルトーナメントでも、結局戦えなかった」
ミツキは答えない。シンセサイズによってキリトの事を思い出せないのだから当然か。
「正直、気になってはいたんだ──俺とお前、本気で戦ったらどっちが強いのか、ってさ」
ピタリと切っ先を据え、腰を落とす。
「決めようぜ、俺の剣とお前の槍、どっちが上なのか──!」
漆黒の剣を閃かせ、キリトは床を蹴るのだった──。
ミツキが今使ってる武器について
《無銘の旗槍》(名前が無い為、便宜上の仮称)
アンダーワールドでの実験が始まった際、人界の人々が手を取り合い、やがて来るダークテリトリーの侵略に立ち向かう為の旗印として掲げられていたもの。存在していた時間だけならアリスの金木犀の木と同レベルだが、人々の願いや祈りを記憶として蓄積していた都合、文明が発展=アドミニストレータによる支配が進行するに連れて人々が祈ることをしなくなっていった為、内包する記憶はどんどん風化し、今や何も無い空っぽの状態でカセドラル武器庫に死蔵されていた。
(神社に祀られた神様が参拝者の減少でどんどん力を失っていくようなイメージ)
ミツキに発掘され、アドミニストレータの手で《記憶簒奪術》を組み込まれる。
《記憶簒奪術》
アブソーブ・リコレクションの式句で発動。神器級の武器に内包された記憶を一時的に収奪する。
内包した記憶を用いて武装完全支配術を発動することも可能だが、
・記憶解放術は使えない
・取り込める記憶は1度に1種類のみ
・一度記憶を収奪した場合、支配術で記憶をリリースしなければ再収奪出来ない
・支配術を発動した場合、奪った記憶は元の神器へ返還される
等、制約も存在する。
元々ミツキは不意打ちとかフェイクとか割と汚い手を使うスタイルでしたが、シンセサイズによりアリスしか見えなくなった事で数段過激になりましたね。普通の仮想空間とは違って痛覚も窒息感もあるアンダーワールドの特徴をフル活用してます。
そして当然のように怪我上等…普通にめちゃくちゃ痛いはずなんですがね。愛の力ってすげー…
因みに、本来シンセサイズされた人間は人格から変わりますが、ミツキに限ってはそうなっていません。クィネラ頑張りました。