現実世界にて《SAO事件記録全集》が発売され、《黒の剣士》と《裂槍》という2人の英雄の存在が広まってからというものの、読者及び事件被害者達の間でずっと議論の続いている話題があった。
──なぁ、《黒の剣士》と《裂槍》ってどっちが強いんだろうな?
小さな子供がヒーローについて語るかのような軽いノリで投下されたこの一言が火種となり、瞬く間に様々な意見が広がっていった。
──ゴミカスチーターの茅場晶彦にトドメ刺したんだから《黒の剣士》だろ。
──でも直前の75層ボス戦では《裂槍》がいなきゃ全滅してたって記録本に書かれてるぞ。
──対人戦じゃ《裂槍》の方が上だって説もあるらしいな。
──いいや、俺は《黒の剣士》派だね。《裂槍》はなんか…セリフが臭くてやだ。
──草、《黒の剣士》も大概だろ。てかあの本、セリフとかは作者のイメージだって知らんの?
そんな議論の尽きない問題に、1つの回答が示されようとしていた。文字通り次元の違う世界──アンダーワールドで。
「──ハァッ!」
「シッ──!」
同時に繰り出された2つの刃が火花を散らすのは、これで何度目か。キリトとミツキの一騎打ちは、瞬く間に展開されていった。
まず、キリトは初撃を斬り込むと見せかけ、突き出すように構えていた左手でミツキの槍を掴みカウンターを封じる。対するミツキも、遅れて繰り出された黒い剣を、キリトの手首を押さえて止める。その後、敢えて
高優先度のオブジェクトを2つ持てば動きが鈍る……そう考えたのはキリトも同様であり──互いに自分の武器を手放した瞬間、握り締めた拳がお互いの横面目掛けて突き上げるように叩き込まれた。クロスカウンターの衝撃と鈍い痛みを感じながらも、双方目は逸らさない。
蹈鞴を踏んで後退しながらも、ミツキは落下する槍をつま先ではね上げてキャッチ。キリトもまた手放して床に突き立っていた黒い剣を引き抜く──踏み止まった弾みを利用し、剣と槍が打ち合わされた。数秒間せめぎ合った末、全く同時に繰り出された蹴りが両者の距離を大きく開け──受身を取った2人の得物に、光が点った。
「「ッ…らァッ──!」」
《レイジスパイク》と《ソニックチャージ》──異なる突進技が交錯し、ギャリィッ!と火花を残して静止する。切っ先が互いの肩を抉り、赤い血が滴った。
「(すごい……これが、アインクラッド流同士の戦い……)」
キリトとミツキの戦いを見守るユージオは、素直に感心していた。そんな呑気にしている場合ではないと分かっている。だがそれでも、まだほんの欠片程度にアインクラッド流を学んだ者として、2人の戦いがどういったものなのか理解出来た。
「剣や術だけに頼るな、周囲にある全てのものが武器にも罠にもなり得る」──キリトとミツキが稽古の際、頻りに口にしていた言葉だ。この極意のお陰で、ユージオは騎士団長ベルクーリに辛勝することが出来た。だが今2人が戦っているこの99階は、上へ向かう昇降盤以外何も無い。利用出来るような物が存在しない以上、純粋な剣力の勝負になる──そう思った自分はまだまだ修行不足なのだと痛感する他なかった。
利用できるものなら、ある──相手の思考だ。
こう攻めてきたのだからこう守り、そうすればこう動いてくる……そんな思考の裏を常に読み合い、時に世界の摂理すらも利用しながらの激しい攻防は、少なくとも今のユージオでは真似できない。
「……彼らの戦い方、随分と似通っていますね。《アインクラッド流》と言っていましたが」
「うん……キリトならきっと……ッ」
「(しかし……恐らくこのままでは──キリトが敗北する)」
アリスはもう少しで完了するイーディスの治療を続けながら、苦い顔で胸中に零した。
キリトとミツキの戦いは、一層苛烈を極めていた。
彼のカウンター戦術をよく知っているキリトは、とにかく間合いを詰める事で、襲いかかるカウンターを「穂先による斬撃」ではなく「柄や石突による打撃」に限定。槍の回転軸に近い箇所ならば威力が低くなる事を利用して手で受け止めたり、腕で受け流して対処する。
対するミツキもまた、あちらが肉薄してくるのならばと体術を積極的に織り交ぜてくる。距離を離せば槍の間合いに持ち込まれる都合、キリトは攻防の合間を縫うように差し込まれる拳打や肘打ち、膝蹴りを捌くか、食らって尚怯まないようにしなければならない。
「くッ…オオオオォォ!」
吼えたキリトは斬り下ろしからショルダータックルを敢行。負傷部位であるミツキの左肩から小さな飛沫が飛ぶ。ミツキは小さく呻きながらも、追撃の一太刀を柄で受け流した。そこから更にグルン!と大きく得物を旋回させ、双方勢いを乗せた横薙ぎの一撃がぶつかり合う。
「っ……どうだミツキ!ちょっとは思い出したかよ──ッ!」
「くどいんだよッ……!一々真似すんな気持ち悪ィ──ッ!」
キリトは剣を押し上げ、潜るようにして槍を後ろへ流す。すれ違いざまに振り向き一撃を見舞おうとするも、突如腹部へ生じた衝撃がそれを咎めてきた──ミツキが石突で背後に突きを繰り出したのだ。
刃を持たない石突ならば致命傷にはなりえない、と根性で耐えたキリトだったが、ミツキの攻撃はまだ終わっていない。腹へめり込ませた石突はそのままに、下から掬い上げるようにしてキリトを持ち上げると、思い切り投げ飛ばした。
「まだ、だぁッ──!」
キリトは空中で体勢を直し、剣を背中まで大きく振りかぶる──片手剣突進技《ソニックリープ》──刀身がライトグリーンの輝きに包まれた瞬間、キリトの体は不可視の力に後押しされ、弾かれたように加速した。
「──キリトやめろッ!」
「ッ──!?」
斬りかかるキリトの耳に届いたミツキの声。キリトは殆ど条件反射的に剣筋を逸らしていた。光の残滓を散らしながら《ソニックリープ》が空振りに終わり、ミツキより少し手前の床を斬りつける──その様を見下ろすミツキの表情が一瞬で冷めていくのを感じた瞬間──キリトは己が失態を悟った。
ミツキは剣を振り抜いた状態で俯けられたキリトの顔面に蹴りを見舞う。顎を綺麗に蹴り抜かれ大きく仰け反ったキリトの前で、ミツキが腰の辺りで槍を横に引くと、黄色いライトエフェクトが穂先を包む──腕の振りと腰の捻り、そして身体の回転を乗せた両手槍中段2連撃技《オービット・ウィール》が、ガラ空きになったキリトの胴を立て続けに2度、深々と斬り裂いた。
「がッ──は……っ」
「……認めてやるよ、お前は確かに強い。が……
「キリト──ッ!!」
壁まで吹き飛ばされキリトに、ユージオが駆け寄ろうとする。が──
「ユ……ジオ……ッ!」
這いつくばりながらも掠れた声を搾り出し、名前を呼ぶ。その意味を理解したユージオは、歯噛みしながらも駆け出そうとした足を止め、チラと横を見た。隣で緊迫した表情を浮かべるアリス、その傍らで眠るイーディスの外傷は、もう治療が完了している。
キリトが負けを認めた……少なくとも、真っ当に勝つのは難しいと判断した以上、アリスが今の状態のミツキの手に渡るという展開だけは阻止しなくてはならない。
本当にこれでいいのか、と迷う己を振り切るように、ユージオは襟元から短剣を取り出すと、鎧に覆われていないアリスの腕に先端を押し当てた。
「ごめん、アリス──!」
「ユージオ、何を──っ!?」
短剣の力で彼女とカーディナルの間に強固な
これで一安心……とは、残念ながらならない。アリスの姿が消えた瞬間、ユージオの全身を文字通り貫いた殺気が、そうさせてはくれなかった。
「……お前、今何した」
「……ミツキ、今の君は──」
「──答えろ、アリスに何をした……!?」
「……ここじゃない安全な場所で、眠ってもらってる」
「……そうか。助けるとかなんとか言って、結局彼女を殺すつもりってわけだ」
「違う、そうじゃない……!」
「違わねぇだろッ!元の人格を取り戻せば、今のアリスは消えてなくなるんだからな──!」
「ッ……ああ、その通り、だよ……けどッ──」
キリトは息も絶え絶えに、神聖術で傷を治療しながら立ち上がる。
「けど……俺は諦らめないって言ったろ……どっちのアリスも消えずに済む方法がきっと──」
「──あったとして?それが見つかるのはいつだ、実現するのはいつだ。見つからなきゃ無いのと同じだ、実現出来なきゃ無かったのと同じだ……ッ!」
「っはは……まるで、子供の我侭だな……けど、分かるよ──もし、どこかで運命が1つでも食い違っていたなら……俺とお前の立場は逆転していたかもしれない──俺はお前程強くないからさ、とっくに潰れちまってたろうな……」
胸の内に蘇るのはアスナの顔だ。もし、ALOで彼女を取り戻せていなかったら……彼女の生存すら分からないまま、先の見えない時を過ごす事になっていたなら──考えるだけで恐ろしくなると同時に、正しくその状況で実に3年の時を過ごしてきたミツキの心情は察するに余りある。そんな状態で、キリトやシノン、アスナを始め仲間達の事を助けてくれた。
シンセサイズされた今でもミツキの中にはアリスの記憶が残っている。それがアドミニストレータの意図した事なのかは分からないが、幾度となく打ち合わせた槍を通じて、彼の気持ちが流れ込んできたのは確かだ──アリスの温もりを求める声が、アリスの笑顔を求める声が、アリスの幸せを求める声が。
アリス・シンセシス・サーティは、この戦いが終わった暁にはアリス・ツーベルクへ体を返し、自分は消える事を選んだ。それが彼女の決断であり、彼女の望みなのだとしても……飲み込めるわけがない。もしアスナが同じ決断をしたのだとしても、
「(ミツキ……お前は、俺だ……)」
ミツキは、キリトが通ってこなかった道を通ってきた。
やがて交わった同じ道の上でも、見えていた景色が違った。
或いはキリトが辿っていたかもしれなかった、もう1つの未来の生き証人。
その苦しみを真に理解することは出来ない。推し量るのが精々、それすらも同情以上の意味を成さない。だからと言って、ここでユージオの願いを──アリス・ツーベルクを諦めるのが正しいとも思えない。
ならば……せめて自分に出来るのは──
止血だけ済ませたキリトは、支えにしていた黒い剣を構え直す。
「ふぅ……待たせたな、第2ラウンドと行こうぜ……!」
「お前、死にたいのか?それともようやく俺を殺す気で戦う腹が決まったか」
「バカ言え……どっちでもないに決まってんだろ──ただ……今の俺に出来るのは、お前の思いを全部受け止める事だけだって……そう思っただけだ」
「あァ……?」
「来いよミツキ──お前がずっと溜め込んできたモン、全部吐き出すまで付き合ってやる。最後まで俺が死なずに立ってられたら──その時は俺の勝ちだ」
「……意味不明な上に勝負として成り立ってすらない。心臓ぶち抜くか首を撥ねりゃそれで終わりだ」
「ハッ、やれるもんならやってみろ──言っとくけどな、今のお前の槍、思ってたより全然大した事ないぜ。俺の知ってる本気のお前は、傍目にもこんな程度じゃなかった。今、俺が死んでないのが何よりの証拠だ……!」
不敵に笑って挑発するキリト。その視線の先で、ミツキは小さく嘆息した。
「……そうかい。そんなに死にたいなら──」
不意に、ミツキの姿が掻き消える。
「──お望み通り、殺してやるよ……ッ!」
一瞬で距離を詰めたミツキは、引き絞った槍を解き放つのだった。
声が聞こえる。
──起きなさい。
心の内とは違う場所……しかしそこに近い場所から、己の声が語りかけてくる。
──悠長に眠っている場合ではない。早く目覚めなさい!でないと……!
「はっ──!?」
パチッ、と弾けたように、アリス・シンセシス・サーティは目を覚ました。
「ここ、は……?」
辺りを見回せば、所狭しと並んだ大量の本。背丈を優に超える巨大な本棚に囲まれた長机の上に、アリスは寝かされていた。見習い期間を含めればカセドラルで6年間過ごしているが、このような場所があった記憶はない。
最後の記憶を振り返ってみる……シンセサイズされたミツキにキリトが痛撃を食らい、助けに入るべきかと考えていた所で……そう、横に居たユージオが何かをアリスに刺したのだ。記憶はそこで途切れている。
「──驚いたな。よもや自力で目覚めるとは」
ふと聞こえてきた、あどけなさの中に確かな威厳を感じる声。振り向いたアリスは、こちらへ歩いてくる小柄な少女を目にした。
「子供……?」
「外見はな。じゃが、これでもお主よりずっと永い時を生きておるよ──整合騎士アリス・シンセシス・サーティ。儂の名はカーディナル、そうじゃな……故あって表舞台から姿を消した、もう1人の最高司祭、とでも思ってくれればよい。同時に、アドミニストレータを討つという目的の下、キリトとユージオに協力する者でもある」
子供というにはあまりにも豊富な語彙と成熟した喋り方。彼女がただの少女ではないのだということはすぐに理解できたが、もう1人の最高司祭、という言葉がどうにも引っかかった。
「……では、カーディナル様。あなたもまたアドミニストレータ様のように、この人界を支配するつもりだというのですか」
「否。儂はアドミニストレータめが長年に渡り築き上げた歪な支配を破るべく、キリトらを助けた──」
カーディナルは、自身の出自及びキリト達との関係を手短に、掻い摘んで説明した──ユージオがアリスをここへ送る為に使用した短剣と、その目的についても。
「──と、大まかな状況はこんな所じゃな。何か質問はあるか?」
「彼らは……今、どうなっているのです。無事なのですか?」
アリスの問いに、カーディナルは少し表情を曇らせる。
「お主がここへ来てから数十分程が経った。両名とも無事ではある……が、それも時間の問題じゃろう──シンセサイズされたミツキはあやつ等を殺すのを躊躇せぬのに対し、キリトとユージオはあくまでもミツキを元に戻すつもりでおる。戦いに於いて、殺意の有無という些細な違いが生み出す差はお主とて知っておるはずじゃ」
「……はい」
「あやつ等を送り出す前、キリトには儂も言って聞かせたのじゃがな──『全てを救うのは無理じゃ』と──この期に及んでも諦めぬとは、見上げた往生際の悪さじゃ」
「……キリト達が、彼を正気に戻せる見込みはあるのですか?」
「無に等しいな。見た所、ミツキの《シンセサイズの秘儀》によって摘出された記憶はキリト達に関するものなのじゃろう。しかしその当人と刃を交えて尚、挿入された《敬神モジュール》が弾き出される様子が無い……推測に過ぎぬが、奪われた記憶はミツキの中で『最も大事な記憶』ではなかったのやもしれぬ」
「では、彼にとって最も大事な記憶というのは……?」
「お主じゃよ──アリス。キリトから聞いた話では、お主はここではない別の世界で、ミツキと睦まじい関係にあったそうじゃな。その記憶こそが、ミツキにとって何にも代え難い記憶ということじゃろう──アドミニストレータに奪われる事を拒否する程にな」
大事な人間の記憶というのは、唯一《敬神モジュール》に対抗しうるものだ。用心深いアドミニストレータが、叛意の芽となるそれを敢えて残す筈がない。なのにああしてミツキにアリスの記憶が残っているという事は、シンセサイズによって記憶を編集されながらも、アリスとの記憶だけは奪わせまいと抵抗した結果なのではないか──カーディナルはそう語った。
「……では、私なら──私であれば、彼を元に戻せる……?」
「まぁ、キリト達よりは幾分可能性はあるじゃろうが……それでも0が1になる程度じゃ。現に、お主と言葉を交わして尚、元に戻る気配は無かったのじゃろう?」
「それは、そうですが……」
「薄情な事を言うようじゃが……こうなった以上、一切の犠牲を出さずに事を成すのは不可能じゃ。辛かろうが、キリト達が命を落とすくらいならば──」
「そんな……何か方法はないのですか!?私はっ……確かに、今の私には彼との記憶がありません。それでも──」
アリスは襟元から金木犀の指輪を引っ張り出し、確かめるように握り締める。
「胸の奥……魂が、叫んでいるのです。キリト達だけではなく、ミツキの事も救いたいと……!」
ふと、アリスの手の中に熱が生まれる──手を開くと、指輪が淡い光を発していた。
「む……アリスよ、その指輪を詳しく見せてもらえるか?」
「は、はい……」
チェーンから外した指輪をカーディナルに預ける。それを矯めつ眇めつ検分するカーディナルの表情が、次第に驚愕に塗り変わっていった。
「何と……このような事が、ありうるものか……」
「カーディナル、様……?その指輪が一体──」
カーディナルは指輪をアリスに返すと、真っ直ぐ彼女と向き合い、口を開いた。
「……儂らが選べる道は2つに1つと思っておった──」
1つ、このままアリスを99階へ送り返し、キリトに代わって戦う──ただし、最低限ミツキの犠牲は避けられない。
2つ、カーディナルが直接対処する──当然、アドミニストレータの介入がある事を考えれば、ミツキを傷つけずに無力化する事が難しい。やはりミツキの死は免れない。
「──じゃがたった今、3つ目の道が現れた。この方法であれば、お主ら全員が死ぬことなくミツキを正気に戻せるやもしれぬ。少なくとも、これ以上戦わずには済むじゃろう」
「ならば、その方法を──!」
「焦るでない、最後まで聞け──言った通り、この3つ目の道であれば、今持てる最大の戦力で以てアドミニストレータと対峙できる。しかし……その代償として、お主は凄まじい苦しみを味わう事になる」
「苦しみ……」
「うむ。傷を負い、血を流す痛みではない。お主の心を引き裂く苦痛じゃ──アリスよ、お主はアドミニストレータを討った暁には、その体を元の持ち主へ返す、と……そう決めたのじゃったな?」
アリスは怪訝な様子で頷く。
「この道を選んだが最後──お主を苛むのは凄まじいまでの『迷い』じゃ。この道を選ばなければ良かったと、深く後悔することになるやもしれぬ」
カーディナルは、幼さの残る瞳を真剣そのものにしてアリスを見上げる。
「整合騎士アリス・シンセシス・サーティよ。民を救わんとする騎士としての誇りや矜持を、お主自身の手で裏切る覚悟はあるか?──等しく救うべきものに優先順位を付け、1つを救う為にもう1つの未来を切り捨てる……その傲慢なる罪を背負う覚悟はあるか?」
非情な決断を迫る声が、大図書館に静かに響き渡った。
カセドラル99階──アリスのいなくなったそこでは、殆ど一方的といっていい暴力が繰り広げられていた。
明確なる殺意を持って振るわれる槍を懸命に防ぎ、時に反撃を繰り出すキリトだったが、ただでさえ手負いの状態で長く持つはずが無い。一撃受ける度に黒衣の体が床を転げ周り、時として穂先が肉を裂き、血を流す。簡素な治療を施した腹の傷はとっくに開き、零れ出る血液が赤黒い染みを作っていた。
遂に我慢の限界を迎えたユージオも加勢に入ったが、焼け石に水──元より技量に差があることに加え、キリトを庇いながらでは満足に戦えない、致命の一撃をどうにか凌ぐのが精一杯だ。切り札である武装完全支配術も、あの旗槍の前では敵に塩を送る事になる。
最早、この状況を打破する方法はただ1つ──文字通り、ミツキを斬るしかないのか、と歯噛みするユージオに、幾度目かの槍が襲いかかる──!
「ぐっ……!」
掲げた青薔薇の剣で直撃は免れるが、ミツキは槍を器用に使ってユージオの剣を横へ振り払い、体を反転させながら距離を詰め、側頭部に肘を叩き入れる。怯んだユージオの襟首を掴み、勢いよく投げ飛ばした。
壁に叩きつけられ、倒れ伏すユージオ。その傍らでは、こちらも満身創痍のキリトが荒い息をつきながら尚も立ち上がろうとしていた。ミツキがその胸ぐらを掴み上げる。
「っ……ミツ、キ……ッ」
「……思ったよりは粘ったな。よく頑張った、と褒めてやるよ」
ミツキは槍の穂先をキリトの胸──丁度心臓にあてがう。
「だが、これで終わりだ」
「ミツキッ……!止め──」
ユージオの静止の声も虚しく、キリトの胸に槍が突き立てられる──その寸前で、背後から黄金の風が吹き込んだ。
ミツキはキリトを解放し、大きくその場を飛び退る。支えを失い倒れるキリトをユージオは慌てて受け止めた。
「今の、攻撃は……」
無数の輝きから成る黄金の風、極小の刃が齎す破壊の嵐を、ユージオは見たことがある。実際その身に受けたことも。アレは──
「……何とか、間に合ったようですね。ユージオ、コレを──」
再びこの場に舞い戻った黄金の騎士アリスは、ミツキを挟んだ向こう側にいるユージオへ小瓶を2つ、投げ渡す──キャッチしたそれは、50階でファナティオを転送した際、引き換えにカーディナルから貰った治療薬と同じものだった。
「それをキリトにも飲ませて、下がっていなさい──ここからは、私が引き継ぎます」
位置的にアリスの表情までは伺えないが、何はともかく治療が最優先と、栓を抜いた小瓶をキリトの口に突っ込む。すると随所にあった傷がたちどころに消え失せた。
「戻ってきてくれて嬉しいよ、アリス。一緒に来てくれる気になった──そう思っていいのか?」
ゆっくりと振り向いたミツキ。その目を見たアリスは、悲しげに瞳を伏せる。
「……いいえ、答えは変わりません。私はお前と一緒には行かない──お前が、私と共に来るのです」
宙を漂う花弁達を呼び戻しながら、アリスは凛と言い放つ。
「……私は、罪を償う為にここへ来ました──ミツキ、お前に嘘をついてしまった事。お前をずっと独りにさせてしまった事……挙句、お前の目を曇らせ、キリト達に刃を向けさせる程追い詰めてしまった事──全て、私の罪です。あの時、あんな大言を嘯いておきながらこの体たらくとは……全く、自分の愚かしさに腹が立つ」
アリスは元の形を取り戻した金木犀の剣をピタリと正眼に構える。
「相棒が道を誤ったのなら、それを連れ戻すのが相棒の役目。その為ならば、もう1つ罪を重ねましょう──加減は無しです、少し痛いですが我慢なさい、ミツキ!」
愛の欠片を取り戻した少女は、少年を取り戻すべく、再び《姫騎士》となる。
Q.ミツキとキリトが本気で戦ったらどっちが勝ちますか?
アンダーワールド内且つミツキはシンセサイズされてます。
A.やる気のある方が勝ちます。デュエルじゃないので、当然どっちかは死にます。
Q.殺る気のあるミツキがあまりにも強すぎます。どうすればいいですか?
シンセサイズされてるせいで説得も出来ません。
A.こっちも殺る気を出しましょう。それが無理なら、殺る気をどうにかして引っ込めさせましょう。