「……随分とみずぼらしい格好になったわね──それで?一層貧相になった棒きれ2本で何をするつもりかしら」
「戦うんだよ──あんたの作ったゴーレムに囚われた人達を、解放する為にな」
「解放、ですって?まだ記憶が混濁してるのかしら、私の言葉を忘れちゃったみたいね──ゴーレムの素材になった剣は、ヒューマン・ユニットをそのまま物質変換したものよ。形こそ剣になっても、その意識はまだ生きたまま。ゴーレムを攻撃するという事は、即ち人間を攻撃するという事になるのだけれど?」
「ああ。そう言った」
俺の返答に、クィネラの目元がピクリと動く。
「これが正しい事だとも、仕方のない事だとも思わない。本当はもっといい方法があるのかもしれない。ただ──それでも、今取れる方法はこれしかなくて、それは誰かがやらなきゃいけない事だ。だったら、少しでも経験のある奴がやった方がいい。もう血塗れの奴がまた血塗れになるだけで済むなら安いもんだろ」
「……出来るつもり?神器級の剣30本で出来た最強の兵器を、たった1人で?」
「やるさ。手伝ってくれる奴もいるしな──」
灰色の槍を頭上に掲げる。声無き声に応えるように、俺は口を開いた。
「行くぞ──エンハンス・アーマメント──!」
この一声で、武器に秘められた記憶の力が目を覚ます。深呼吸した俺は両足を開いて大きく腰を落とし、身構えた。
「そう……ならその思い上がりを、今のあなたごと粉々に打ち砕いてあげる──もう二度と、そんなことを考えなくていいようにね──ッ!」
クィネラの命を受け、ソード・ゴーレムが動き出す。
両の剣腕を前に突き出して床を抉りながら突っ込んでくるゴーレムを、全力で横に跳んで躱す。
横を通り過ぎていったゴーレムは文字通り上半身を半回転させ、振り向きざまに腕を振りかぶっての横薙ぎ攻撃を繰り返すかと思いきや、剣が一部スライド展開してブーメランのように投擲してきたり、胸部の鈎状の刃を飛ばしてきたり、胴体を軸として全身の剣をミキサーのように回転させたり……大量の剣をパーツとして組み上げられた強みを存分に発揮し、さながらロボットよろしく各所の関節をガキン、ガキンと動かしながら、生物にあるまじき挙動で攻撃を繰り出してくるのが厄介だった。
それをひたすら回避し、時に槍の姿のまま自律して動くユージオのフォローを受けながらギリギリの所で受け流し続ける俺は、何度目かの攻撃を避けざまに、最初の突進で弾き飛ばされ転がっていた旗槍を掴んだ。
出来れば相手の攻撃の手口をもう少し把握した上で危険度順に対処して行きたかったが、これ以上時間をかけては部屋の隅へ退避しているキリトやアリス──先の時点で既に瀕死だったカーディナルの姿は跡形もなく消え失せていた──へも危険が及ぶ可能性がある。悠長に情報収集はしていられないか。
「どうしたのかしら?自信満々に完全支配術まで発動しておいて、ずっと逃げ回ってばかりじゃない──!」
切り離され、巨大なブーメランと化した剣腕が迫る──クィネラの言う通り、ここまで防戦一方だった俺はここで初めてゴーレムの攻撃と向かい合った。
「──ユージオッ!」
俺の声に応じ、ユージオが自らの剣先を床に突き立てる。床に対し微妙に角度を付けられたその槍は迫り来る剣腕を斜めに迎え入れ、ジャンプ台のように斜め上へ逸らす──凄まじい速度で通過する刃、その腹目掛けて、俺は灰色の槍を引き絞っていた。
「何をしようと無駄よッ!ゴーレムの剣を迎え撃てる訳が──」
「──アブソーブ・リコレクション」
素早く囁かれたその言葉。同時に槍へライトエフェクトが灯り、凄まじい速度で突き出された穂先が三日月型の巨大な刃を
「な──っ、まさかあの子……ッ!?」
澄まし顔を明確な驚愕に歪ませるクィネラを尻目に、俺とユージオは一転してゴーレムへと向かっていく。突き出した灰色の槍に引っ張られるように、超低空ダッシュで足元に潜り込むと……
「アブソーブ・リコレクション──!」
再びコマンドが唱えられる。するとゴーレムの右前脚がガクン、とバランスを崩し、動きが止まった。間髪入れず発動された《スイフト・ランジ》が、4本あるゴーレムの脚を1本破壊する。
同じ現象を立て続けに目の当たりにしたクィネラは、胸中に抱いていた予想を確信する。
「私の作った術式が、こんな形で使われるとはね……!」
ゴーレムの躯体を構成する剣は、全て人間を剣に変えたものだ。当然、このアンダーワールドで生まれた瞬間から今現在に至るまでの記憶を有しており、持ち主である記憶の欠片達はその記憶を参照材料の1つとして記憶解放を行っている──であれば、奴の体は文字通り全身《記憶簒奪術》の対象となり得る道理。
そして──真偽の定かでない、単なる俺の感覚に基づく推測だが──記憶が風化し伽藍堂となっていたこの旗槍は、奪った記憶を宿した瞬間、「何か」が変わった。言うなればそう……強く、強靭になったように感じられたのだ。
即ち……逆説的に考えるなら、記憶を抜き取られた神器は弱く、脆くなるという事なのではないか。
1本、また1本とゴーレムの躰を破壊していく俺を睨むクィネラは、きっとこう思っているはずだ──「いくら記憶を奪ったからといって、神器級の優先度を持つ剣を容易く破壊できる筈がない」と──記憶が無くなったからといって、天命や優先度が低下するわけではないというのはこの旗槍が証明している。にも関わらず、こうして剣を破壊出来ているのは、俺がもう一方の手に握る灰色の槍の力が大きかった。
俺がオルティナノス領の洞窟で発見したコイツの正体……それは、遥か彼方より飛来し、幸か不幸か燃え尽きることなく墜落した
ラースは宇宙まで作りこんでいたのか。という話は置いておき、コイツはこの人界でも、ダークテリトリーでもない場所で生まれた、謂わば地球外物質ということになる──《ステイシアの窓》を見た時、優先度や天命が文字化けしていたのは恐らくそれが原因なのだろう。
そんな極めて異質な存在に刻みつけられた記憶は、強烈な「力」だった。自分達をこの地上へ引きずり落とさんとする、一度捕まったが最後、抗う事の出来ない力──
この灰色の槍の武装完全支配術は、槍を起点に引力を操作することで、擬似的な超高速移動が可能となる。そしてかの《絶剣》ユウキを見れば分かる通り、仮想世界に於いてスピードと攻撃の威力は比例関係にあり、それはこのアンダーワールドでも例外じゃない。
同じく神器級の優先度を持つ、文字通り隕石級の威力を孕んだ槍の一撃は、俺の期待通りにゴーレムの剣を打ち砕いてみせた。
しかし……対ソード・ゴーレム装備とも言えるこれらの武器があって尚、俺に齎される優位は僅かなもので──俺の全身には、その優位の大部分を帳消しにする程の激痛が絶えず走っていた。
「(あとッ……26──ッ!)」
睨んだ剣に対して簒奪術を発動し、間髪入れず灰色の槍を叩き込む。強烈な力に引かれ、銃弾すら超えんばかりの速度で繰り出される槍を握る指が、手が、腕が──肩や腰、脚までもを含む全身の関節が悲鳴を上げる。多少はユージオがカバーしてくれているとは言え、この上ゴーレムの攻撃とクィネラの横槍が入らないように、とにかく絶え間なく動き続けなくてはならないのだ。四方八方滅茶苦茶な方向に体を引っ張られてはブレーキをかけ、かと思えばまた別の方向へ……正直、現実世界だったら間違いなく吐いてる。
極めつけにはこの
──やめろッ!!!
──傷つけないで!!!
──いや、どうして…ッ!!
剣を1つ……否、
気が狂いそうなこの声の中にあって、俺の胸には小さな安堵が浮かんでいた──これを、ユージオ達だけに背負わせず済んで良かった──と。
「ああ……
繰り出された槍が、実に10人目の命を奪う。胸を貫く声無き叫びを感じながら、俺は迫るゴーレムの腕を回避する──踏み止まろうとした左脚に、ひび割れるような、一際強く鋭い痛みが走った。
「ッ……ぐ……!」
ここに至るまでも戦っていたせいか、思ったより早くガタが来た。だがまだ動ける──と、その一瞬の隙にゴーレムの銅から射出された6つの刃が襲いかかる──!
刹那、飛び込んできた純白の槍が、俺に代わって刃の1つ目を弾く。
──焦るなよ、らしくないぞ。
そう言われた気がした俺は旗槍を手放し、空いた左手で
休む間もなく、残る5つの刃が飛んでくる。方向もタイミングもバラバラ、尚且つ一定のホーミング性能を持っているらしく、回避は難しい。
ならば話は簡単、避けなければいい──ことこの攻撃に対しては、回避よりも有効な防御手段を、俺は知っているではないか。
出来る限り視野を広げ、視界内の光景を俯瞰で捉えた俺は、2つ目の飛刃に向かって両の槍を振るう──叩き落とすのではなく、角度をつけて受け流すように──肉厚な刃がすぐ近くを過ぎ去る瞬間に戦慄を覚えながら防いだ飛刃は、次いで襲い掛かろうとしていた3つ目の刃と衝突。盛大な火花と音を散らしながら互いを弾き合った。
続く第4、第5の刃も同様に、ホーミングを逆手に取って誘導しつつ、掲げた槍で軌道を逸らして同士討ちさせる。そして最後の1つは……
「──アブソーブ・リコレクション!」
転がっていた旗槍をつま先で跳ね上げた瞬間に発動させた簒奪術で記憶を奪い、宙で動きを止めた刃を両手槍斬撃技《エッジフォール》で叩き割った。
瞬く間に捌かれ床に突き立った5つの刃が再始動する前に、俺は痛む脚に鞭打って疾駆する。
今や躰の3分の1を破壊されたゴーレムは、片腕と脚の半分を失ったせいで移動する事が出来ない。残った片腕も、脚の代わりに躰を支えるのに使っている為攻撃には使えない──無理に攻撃しようとすればバランスが崩れるので、不発に終わるか、見てからでも容易に回避出来る。
案の定、強引に腕を振り上げたゴーレムは、崩れた体勢を支えようと、その刃を慌てて床に突き立てた。その一瞬に勝機を見出し、俺は一層強く床を蹴る──!
右の槍を引き絞り、突進技《ソニックチャージ》を繰り出そうとした俺だったが……ふと、背中に冷たいものが走った。
見なくても分かる。先の5つの刃が再び動き始めたのだ。そしてその切っ先はすぐそこに迫っている……そこからの動きは殆ど条件反射と言っていい──構えを解いた灰色の槍を放り、踏みつける。次の瞬間、足下の槍は上方向に引力を発生させ、間欠泉にでも噴かれたかのようにグンッ!と勢いよく持ち上がった。
即席のジャンプ台で高く跳び上がった俺の下に刃が殺到し、小さな火花を散らしつつその牙を上向ける。更に前方では、ゴーレムが躰の剣を分離して周囲に展開していた。このままでは5秒と待たずに俺の体はミキサーにかけられるだろう。しかし──
右手に持ち替えた純白の槍を逆手に持ち替える。
──3秒、1秒。時にはゼロコンマの刹那の隙……
肩の上で引き絞った槍に、真紅の光が灯される。
──そんなもの、何度だって見てきた。
更に穂先の根元で折り畳まれていた羽根が開き、尖端から蒼い光が渦を巻く。
──何度だって……貫いてきた──ッ!!
「いっ……けぇ──ッ!!!」
裂帛の気合と共に、純白の槍を一閃する。両手槍投擲技《メテオ・インペイル》──紅と蒼、2色の光芒を残して飛翔する槍の目標はただ1つ……ゴーレムの中心で妖しく輝く結晶体──《敬神モジュール》だ。
回転を始めた剣達の隙間を縫うように、ユージオはゴーレムの心臓たるモジュールを一直線に貫いた。
モジュールが壊されたことで、周囲を舞っていた剣も全て機能を停止。破壊された胴体周辺の剣が、バラバラの破片と化して散らばった。
着地した俺は左脚に走った痛みに膝をつき、歯を食い縛る。痛みは増す一方だが……完全に折れたわけではない。まだ戦える──まだ、休むには早かった。
「──まさか、本当にたった1人でソード・ゴーレムを破壊するなんてね……正直、いくらあなたでも不可能だと思っていたわ」
意外な事に、ゴーレムとの戦闘中一切の手出しをして来なかったクィネラは、傍らにレイピアをくるくると浮遊させながらこちらを見下ろしてくる。
「ハッ……こちとら、不可能を覆すのには定評があるらしくてな……それに、俺1人の力じゃない──ユージオと、もう1人のアリスのお陰だ」
「そうね……けれど、所詮あなた達はただのヒューマン・ユニット──ただ少し権限レベルが高いだけの人間でしかない。《向こう側》から来たからといっても、全ての不可能を覆せるわけじゃないでしょう?私の人形の隙間を啄いて壊した程度で、勝った気になられては困るわ」
「なら……直接、戦ってみるか……ッ?」
転がっていた灰色の槍を支えにしてどうにか立ち上がる──その横を、純白の疾風が駆け抜けていった。元の大剣の形へ戻ったユージオだ。
「ユージオ……ッ!?」
「あら、やる気?
光の翼をはためかせ突撃するユージオを、クィネラはカーディナルを討ち滅ぼしたあの黒雷で迎え撃つ。一瞬押し負けたかに見えたユージオだったが、嵌め込まれたアリス・ツーベルクの記憶の欠片が光を放ち、黒雷を打ち払う。
「ッ──このおおおおおおぉぉぉ──ッ!!」
怒りと苛立ちを顕にしたクィネラは、今度は黒雷をレイピアに纏わせ、剣戟を以てユージオに直接叩き込む。突き合わされた剣の切っ先が衝撃を生み、閉ざされた部屋を駆け抜けた。
「ッ……ユージオ!」
「止せッ……やめろユージオ──ッ!!」
キリトの切迫した声と同時に、ユージオの刀身に亀裂が入る。それは切っ先からどんどん広がっていき、やがて根元まで達するが、それでもユージオは止まるどころか、光の翼を一層強く羽ばたかせた。
「ユージオ──!!」
せめぎ合う2つの力が弾ける──先に砕けたのは、クィネラのレイピアだった。得物を失った彼女の右肩にひび割れた大剣が食い込み……ユージオもまた、内より溢れ出る力が弾け、閃光と衝撃を撒き散らした。
「が……ッ!」
「うぅ……ッ──」
揃って壁まで吹き飛ばされた俺とキリトの視界に飛び込んできたのは、にわかには信じ難い──信じたくない光景だった。
「ぁ……そん、な……」
キリトの口から掠れた声が漏れる……視線の先には、真っ二つに叩き折られた純白の大剣が横たわっていた。大剣はその形を解き、元のユージオの姿を取り戻す。しかし──姿は同じでも、形は大きく異なっていた。
「嘘、だろ……ユージオッ……!」
あの大剣は、ユージオの肉体を作り替えたもの──それが折れたという事は、即ち本来のユージオの肉体もまた、2つに分たれた事に他ならない。
無情にも引き裂かれた、ユージオの上半身と下半身。その間から止めどなく流れ出る赤黒い血。急速に減少を始めているであろうユージオの天命を少しでも永らえさせようと、先程まで彼と一体化していた《青薔薇の剣》が血溜まりに突き立ち、傷口ごと凍らせて止血を施した。しかしその剣もユージオ同様に相当な深手を負っていたようで、刀身の根元から折れてしまう。
ゴトッ、と小さくも重い音を残して転がった剣の柄。その傍らで声もなく横たわるユージオの姿を、俺達は愕然と見ていることしか出来なかった。
「──この子の肉体を変換した剣……優先度的には私の《シルヴァリー・エタニティ》に敵う筈はなかったのに、意外な結果だったわ。剣が金属製じゃなかった事にすぐ気付けなかったのも、私のミスかしらね」
そんな俺達を他所にクィネラはさっさと肩の傷を塞ぎ、斬り飛ばされた腕を、砕け散ったレイピアに代わる新たな得物へと変換する。物質変換で生み出された細身の長剣の輝きが、俺の意識をこの場へ引き戻した。
「まぁ、意外と言うならあなた達もね。《向こう側》から来たにしては何の権限も持っていない事といい、詳しい目的を知りたい所だけど……それに関しては《あの者》に聞けばいいし、後でいいわ。それよりも──」
クィネラは片膝をつく俺の眼前に長剣を突きつける。
「……これが、最後のチャンスよ──私の元で全て忘れて幸せに生きるか、身に余る際限のない憎悪と自責で溺れ死ぬか──選びなさい」
……その答えは、すぐに出た。
「俺は……何1つ、投げ出すつもりは無い。仲間達の記憶ばかりか、罪まで奪うなよ……それこそ自己嫌悪で死にたくなる」
「……あなた、正気?そんな事したって誰も喜ばない、誰もあなたに感謝しない、誰もあなたを賞賛しない。最後には《理解できない
「すごいな……───、──────?」
「…………」
俺の問いを聞いたクィネラは、続くはずだった言葉すらも飲み込んで押し黙った。返答は無い。代わりに──
「……そう、そういう事……分かったわ──もう、あなたの意思は関係ない。何も考えない、何も話す必要のないお人形にしてあげる。ずっと、永遠に傍に置いて、大事に大事にしてあげるわ」
そう言ってクィネラは長剣を振り上げる。
「痛みは一瞬よ、我慢なさい──ッ!」
「くっ──!」
振り下ろされた長剣を槍で受ける事には成功したものの、痛む左脚では踏ん張りが利かず、そのまま押し倒されそうになる──不意に、得物を通じて伝わる力が弱まった。
クィネラの銀色の長剣を受ける槍の柄……そこにもう1本、黒い剣が重ねられている。
「やらせない──」
低い声でそう呟いた黒衣の剣士は、クィネラの剣を一気に押し返した。
「やらせるもんか……ミツキを……俺の大事な友達を、お前なんかに渡さないッ!」
得物を弾き上げられ、クィネラは大きく距離を取る。立ち上がった黒衣の剣士は、視線は前に向けたまま、俺に声を投げる。
「──ミツキ。お前さっきの言葉、本気で言ってんのか」
「……ああ。本気だよ」
「ッ──!」
歯噛みしたキリトは俺の胸ぐらを掴み、強引に立ち上がらせる。間近にあって俯けられたキリトの顔──黒い前髪から覗く双眸が、真っ直ぐ俺を睨んだ。
「ッ………正直、ここでお前をぶん殴りたい。でもそれは後だ、今は──」
「……分かってる、今は──」
手を離したキリトと俺、2人の得物が、真っ直ぐクィネラに向けられる。
「アリスを取り戻す。力貸せよ──キリト」
「好きなだけ貸してやる。だから……絶対勝つぞ、ミツキ」
仮称:《灰色の剣》
ミツキがオルティナノス領の洞窟の奥で見つけた結晶を剣に仕立てたもの。
その正体は、遥か創世期のアンダーワールドに落下した隕石の破片。
本来は岩肌の中にあの結晶と同じものが複数入っていたが、気圏(リアルで言う大気圏)突入時にほとんど塵となって消えてしまった。落ちてきたのがアドミニストレータが生まれるよりも前だった事と、以降殆ど人目に触れていなかったせいで、永らくその存在を知られないままミツキとの邂逅を果たす。
武装完全支配術は、隕石落下時の記憶から、槍を特定方向へ引き寄せる引力操作が可能になる。
これを利用すれば擬似的な超高速移動及びインパクト強化が出来る……といえば聞こえはいいが、実際は猛スピード直進と急ブレーキ(人力)しか出来ない暴れ牛に振り回されるようなもの。
頭で考えながら使えるような代物ではない為、直感的な操作が要求される。おまけに慣れない内は体がちぎれそうになる、めっちゃ痛い。
まるで意思を持っているかのような疑惑があり、似た境遇のミツキにシンパシーを感じてか、結晶の時点から自分の記憶を夢という形で見せていた。
・余談
カセドラルでキリトが武器庫からこの剣を持ち運ぼうとした時、最初は「あたしゃそんなお安い剣じゃないよ。持てるもんなら持ってみろや」とばかりに重量全開だったが、ミツキを助けに行くという目的を知ってからは「それ早く言えよ。けど抜こうとしたら…分かってんなオイ?」てな具合に、持ち主に一途。
因みに…学院から連行時にアリスが持った時も持ってみろや状態だったのだが、アリスは涼しい顔で普通に持ってみせた。記憶こそ無いとはいえ正妻の力か。