ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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短い一幕×2でお送り致します。


幕間:やり残した事

 誰かを愛するという事は、同時に大きな弱点を抱える事になる。

 

 如何に完璧な存在であろうと、何にも代えられない存在が1つ出来るだけで──その存在が敵対者の手に渡っただけで、その「完璧」は随分と呆気なく瓦解してしまう。

 

 防ぐ手立て自体はあった。彼をディープフリーズして、全ての準備が整うまで手元に置いておけば良かったのだ。だがそうしなかった──まるで彼をモノとして扱っているようで、それは私が描く愛の形とはかけ離れていたから──思い返せば、もうこの時点で私の「完璧」は崩れていたのだろう。我が事ながら、「人の心はままならない」という言葉に酷く得心がいった。

 

 ものの見事に彼はアリスの元へ戻り、私に矛を向けた──どうして裏切った、等と言うつもりは毛程も無い。ただ……自分のやり方では駄目なのか、と、自分の選択に……自分の中に初めて芽生えた「愛」に、ほんの少しだけ自信が無くなった。

 それでも、考えを曲げる気はなかった。アリスでは彼を救う事は出来ないし、彼を救うには周りの連中が邪魔だという考えは、変わらない。

 

 だけどこうなってしまった以上は、それだけを強硬に押し通すべきではない、と考えた。

 怒りや憎しみの感情は心意の力の原動力になりやすい。事と次第では再シンセサイズを施して尚、彼は私を拒絶するかもしれない。ならば──せめて、どちらに転んでも問題のないよう保険をかけておくべきだ、と。

 

 大前提として、私と彼らは相容れない。どちらかの目的を達成する為にはどちらかが目的を断念しなくてはならず、それを大人しく受け入れられない以上、戦うしか道はない。当然、先に待つのはどちらかの死だ。妥協も、和解も有り得ない──きっと、その段階はとうの昔に置いてきてしまった。

 

 勿論、全て思い通りに行けばそれが理想だ。しかしそうならなかった場合──具体的に、私が敗北し消滅した場合の事を考えておく必要がある。

 

 彼は優しい人間だ。相容れない思想を持つ相手であっても、少しでも感じ入る部分があったのなら、それを頭ごなしに否定する事はしない──シンセサイズという、本人が望まざる手段でこそあれ、彼を救おうとした私のことも否定しない筈……というのは、流石に都合が良すぎるか。

 ならばまず、せめて彼が私を殺した事に要らぬ責任を感じず済むよう、悪に徹しよう。幸いと言うべきか、私は人界のヒューマン・ユニットを「人間」とは認識していない。昔の……彼を知る前の自分と同じように考え、同じことをすればいいだけだ……例え、彼を傷つける事になろうとも。

 

 彼は私を蔑み、憎悪するだろう。それでいい。いっそ自分の事は一切の情け容赦なく殺すべき敵であると認識してくれれば、私を殺したとて無用な傷も残るまい。

 

 

 

 

 

 

 

 ……やられた。敗北だ。

 

 いくら私でも、心臓を吹き飛ばされてしまっては致命傷となる──管理者権限といえど、回復の為の空間リソースを無から生み出す事は出来ず、またリソース無しに身体を復元する事も出来ない──負けてもいいように考えていたとは言え、負ける気は無かった。それどころか勝利を確信してすらいたのに、たった2人の子供にそれを覆された……否、彼らだけではない。あの赤い剣を生み出した死に体の少年、彼を正気に戻したアリス、そんな彼らを守って死んだカーディナル(ちびっこ)、奴の到着まで時間を稼いだあの蜘蛛……多くの要因が繋がり、私の勝利を打ち砕いた。彼らの敗北という結末を覆してみせたのだ。

 

 最後の最後に私を倒した力の原動力が「心」であるのなら……それが「愛」というものであるのなら、それに敗北した私の「愛」は所詮、他の有象無象と同じ紛い物だった、という事か……

 

 彼が来た……あぁ、そうか。アリスの記憶の断片を取り戻しに来たのか。

 

 ……今思えば、当時の私は随分と早計だった。アリスから摘出した記憶に──その中にいる彼との思い出に──少しでも浸っていたくて、記憶の欠片を常時挿入したままでいられるよう、無用な部分を削り取った……あの時は、こんな結果になるなんて思いもしなかった。

 

 万全の形ではないけれど……私が消える以上、アリスにはちゃんと彼を支えてもらわねばならない。その為にも、記憶は返さなければ。

 

 そうそう、ちゃんと、演技も忘れずに──あなたなんか嫌い。

 

 

 あなたなんか嫌い。

 

 あなたなんか、嫌い。

 

 あなたなんか、きらい。

 

 あなた、なんか……っ

 

 

 ッ……なんで、「ありがとう」なんて言うのよ。

 

 ホント、目敏いんだから……必死に演技してたのが、馬鹿みたいじゃない。

 

 ……えぇ、好きよ。あなたが好き。

 

 ちゃんと嫌いになれなくて、ごめんなさい。嫌われる事が出来なくて、ごめんなさい。

 

 そんな顔をさせてごめんなさい。

 

 ……最後の最後に、「嬉しい」と感じて、ごめんなさい。

 

 でも、仕方ないじゃない──憎むべき敵じゃなくて……曲がりなりにも、あなたを愛した女として、初恋の人の記憶に残れたんだから。

 

 初恋のあなたが、最後まで私の事をちゃんと名前(クィネラ)で呼んでくれたんだから。

 

 

 ──世界の管理者(アドミニストレータ)じゃない私、なんてものが有り得たなら……別の未来もあったのかしらね。

 

 

 そんな夢物語を描きながら、私は意識が閉じるに身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「……アリス。これで、よかったんだよね?」

 

「ええ。後はあの3人に任せましょう。きっと、世界をあるべき方向に導いてくれる──って、言いたかったんだけどねー……?」

 

 どことも知れぬ暗闇の回廊で、青いエプロンドレスの少女が、結わえた金髪を揺らしてユージオをジトっと睨む。

 

「誰かさんが、言うべきことをちゃんと最後まで言わなかったから……」

 

「ご、ごめん……本当に、ごめん。アレでも頑張ったんだけど……」

 

 シュンとするユージオを見て嘆息した少女──アリス・ツーベルクは、片手を腰に当ててユージオをビシッと指差す。

 

「もう……まぁいいわ。どの道、私達にはまだ1つだけやらなきゃいけない事があるんだもの。そのついでと思えばね──今度はちゃんと言うのよ?」

 

「うん──でも、どうやって?」

 

「そりゃあ勿論、直接言うに決まってるじゃない」

 

「直接!?……ど、どうやって……?」

 

「どうも何も、大声で叫んでればその内──ッ……!?」

 

 不意に、アリスとユージオは何か「嫌な感覚」を覚えた。生きていた頃で例えるなら……背筋がゾクリとくる感覚だ。こういう時は、往々にして良くない事が起きた。

 

「アリス……今、なにか……」

 

「ええ……とにかく行きましょう。あまりモタモタしてられないわ」

 

 8年で随分と差のついた高さにあるユージオの手を取り、アリスは走り出す。

 ユージオは、あちら側に残してきた2人の親友達の事を気にかけながら、その後に続くのだった。

 




本作のクィネラ、初期プロット段階では単に原作でのユージオの立場がミツキに変わるだけで、ここまでミツキに対する激重感情は無かったんですが、最終的にこんな感じになりました。
私自身、アリシゼーション編ではかなり好きなキャラということもあり、少なくとも原作よりは遥かに満足して敗北できたんじゃないかなと。
そしてユージオとアリスについても、原作ではこの戦いで明確にフラクトライトが消えてるんですが、本作ではちょっとだけ手を加えました。
ユージオが伝え損ねたミツキの剣の名前は勿論、アリスの言う「やらなきゃいけない事」とは何なのか。サブタイの「やり残し」が指してるのは本当にユージオ達の事だけなのか、それが明かされるのは、次章UW大戦編になります。
(原作でも詳しい事が判明してない部分に触れる要素があるので、おバカな作者なりの解釈が多分に入ることと思います)




《ちょっと大事なご報告》
次章の大戦編から、もしかしたら更新頻度が少し落ちる…かもしれません。
正直に白状しますと、毎週更新がちとキツくなってまいりました…まさか前回前々回と2週連続で完徹する事になろうとは。
一応、このまま維持する方向で考えてはいますし、そのつもりで執筆していきますが、(毎回かは分からないけど)隔週更新になる可能性がこれまでよりも高くなるだろう、という事は予めお伝えしておきたく思います。もしそうなる場合は、活動報告の方でお知らせします。

読んでくださる皆様、感想や評価等くださる皆様のお陰で、またひと山越えることが出来ました。
本当に、ありがとうございます。
今後共、ミツキ達を応援して頂ければ嬉しいです。
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