7月26日、太平洋上を航行中だった海上研究施設《オーシャン・タートル》が何者かによって襲撃された。
銃撃戦の中、メインコントロールルームから上層に位置するサブコントロールルームへ退避した菊岡達は、まず状況の整理に取り掛かった。
現在、菊岡達がアスナや凛子を連れて避難したこのサブコンは、下層にあるメインコンと2枚の耐圧隔壁によって隔てられている。その隔壁も、重火器の類では破壊できず、工具でも携行サイズのものなら最短8時間かかる、流石に爆発物を使われれば破られるだろうが、2枚の隔壁の中間にはアンダーワールドの全てを保存してある《ライトキューブ・クラスター》が設置されている以上、クラスターに傷がつくリスクを抱えてまで突破を試みようとはしないはずだ、というのが菊岡の見解だった。
人的被害についても、こちらの戦闘員に重傷者が2名出たものの、非戦闘員を含めて死者はゼロ。施設の下部を丸々占拠された事に目を瞑れば、完全な不意打ちで襲われたにしては最小限の被害で済んだと言っていいだろう。
「問題は連中の目的と、どこの誰か、という点だが……前者に関しては、十中八九STL技術──ないし《A.L.I.C.E.》の奪取と見ていいだろう。破壊が目的なら、わざわざ乗り込まずとも巡航ミサイルなり魚雷なり打ち込めば事足りる」
「同感です。奴さんら、船底ドックから侵入するなり真っ直ぐメインコンまで駆け上がってきましたから。あの迷いのなさを見るに、恐らくは……」
「ああ……奴らは《プロジェクト・アリシゼーション》の存在を知っている。どこから嗅ぎつけたのかは分からないがね。では後者、奴らが何者かについてだ──比嘉君、どうだい?」
「ッスねぇ……」
比嘉はコンソールのキーボードを叩き、監視カメラに記録された画像をモニターに表示する。ドックから侵入してきた者達は、皆一様に黒づくめで装備を統一させていた。
「まずこうして見た感じ、パッと分かるような目印は見当たりませんね、国旗とか部隊のシンボルとか。なんで、どっかの国の正規軍って事は無いと思います。使ってる武器はオーストリアのメーカーっぽいですけど、こりゃ世界中に大量に出回ってる代物ですから判断材料にはなりません。強いて言うなら……連中の平均体格から推定すると、多分アジア人じゃないだろう、ってくらいですかね」
「つまり、少なくとも我が国の特殊部隊じゃないというわけだ……そいつは喜ばしいね」
「幸い、メインコンのロック作業は完了しました。これで、連中がリアルからシミュレーションに介入することも、《A.L.I.C.E.》のライトキューブをクラスターからイジェクトする事も出来ません。まぁ、それは僕らが今いるサブコンも同じ状態なわけッスけど……でも菊さん、これは実質勝ったも同然じゃないスか?連中は物理的にも情報的にもクラスターに干渉する手段が無い。出来たとしても相当な時間が掛かる。その間に護衛艦から援軍がなだれ込んでくれば──」
「問題はそこだ──どうだ中西君?」
菊岡は神妙な面持ちで、壁際に立つ部下へ声を投げる。
「それが……護衛艦には、横須賀の艦隊司令部から『現状の距離を保って待機せよ』と命令が出ています──どうやら、我々が襲撃者の人質になったと判断したようです」
「人質ィ!? だって──乗員は全員隔壁のこっち側に退避させたんスよね!?」
「恐らくだが……奴らは自衛隊の上層部にチャンネルがあるんだろう。突入命令が出る頃には、既に奴らが《A.L.I.C.E.》のライトキューブを手に入れた後だった……
「んな馬鹿な……」
「悲しいかな、僕ら自衛隊も一枚岩じゃないってことさ──さて、これを踏まえた上で話を続けよう。……アスナ君、君はこの状況をどう見る?」
門外漢としてジッと黙って話を聞いていた所へ急に話を振られたアスナは、戸惑いながらも思案し、答える。
「えっと……さっきの人達が本当に自衛隊の上層部と繋がってるなら、少なくとも相手はただのテロリストじゃないでしょう。どこかの国、或いは個人が秘密裏に送り込んできた可能性が高い。この研究のことも知ってるなら、あちらにも電子機器の扱いに長けた人員が1人はいるはずです」
アスナの分析に、比嘉や凛子、その他サブコンにいるスタッフ達も舌を巻く中、菊岡だけは「流石」と言わんばかりに笑みを浮かべて頷いた。
「となると、マズいっすね……アスナさんの言う通りなら、連中も気付くかもしれない──《A.L.I.C.E.》のライトキューブを手に入れる裏技に」
「裏技……?」
首を傾げたアスナの疑問に、菊岡が答えた。
「アンダーワールド内部からのオペレーションだ──向こうに設置されたバーチャルコンソールでも、同様の操作が行えるからね。メインコンのすぐ傍には《第1STL室》もあるし、実行に移す材料は揃ってる」
「同様の操作って言うと……《A.L.I.C.E.》のライトキューブをイジェクト出来るって事?」
凛子の問いかけを首肯した菊岡は、傍らにある小さなハッチを指差す。
「内部で操作を行うと、クラスターから該当のライトキューブが排出され、エアチューブを通ってソコから出てきます。当然、同じものがメインコンにもありますよ」
菊岡の一瞥を受け、比嘉がモニターの表示を切り替える──映し出されたのは、《第2STL室》で治療を受けているキリトとミツキの姿だった。
「アンダーワールドから《A.L.I.C.E.》のライトキューブを回収するには、内部で直接本人をコンソールの元へ連れていく必要がある……現状それが可能なのは彼らだけだ。またも、最後の命運は彼らに託されたというわけだな──比嘉君、彼らの容態はどうなんだ?」
アスナがずっと確かめたくて堪らなかった話を、菊岡は遂に口にした。当の比嘉はというと、苦い顔でキーボードを叩く。
「……正直言って、最悪1歩手前で踏みとどまってる状態……ですね。不幸中の幸いと言うべきか、2人のフラクトライトはまだ生きています」
2人の身に起きた事を順序立てて整理するとこうだ──彼らは《死銃》の残党に薬品を注射され、脳の神経細胞に重大な損傷を負ってしまった。唯一、STLを使えば回復の見込みがあるという事で、以前の3日間連続テストダイブの時と同様に、現実での記憶をブロックしてキリト達をアンダーワールドへダイブさせた筈だったのだが──
「──恐らく、フラクトライト損傷の影響かと思われますが……彼らの記憶はブロックされなかった。現実世界での桐ヶ谷和人及び三島翠月としての記憶を保持したまま、アンダーワールドに放り出されたんです……それに気づいたのは、さっきメインコンで彼らからの通信が入った時でした」
現在のSTLの加速倍率と、ここに運び込まれてからの時間から逆算して、キリトとミツキが内部で過ごした時間は実に2年半。SAOに囚われていたのと殆ど同じだけの期間、彼らはアンダーワールド内で過ごしていたことになる。
同時に、それだけの時間、内部で生きている人工フラクトライト達と接してきたことを意味しており……
「最後の通信での様子を鑑みるに、恐らく彼らは人工フラクトライト達が、現行シミュレーションの終了と共に消去される存在である事を突き止めた。だから現実世界との連絡コンソールを目指したんでしょう。彼ら自身が現実世界へ帰還する手掛かりを見つける為でもあったでしょうが……それ以上に、現存している人工フラクトライト達の保全を要請するつもりだった──菊さん、あなたにね」
比嘉や菊岡は実際に内部の状況を見聞きしているわけではないが、こうしてモニタリングしている範囲だけでも、彼らの道のりが険しいものであった事は伺い知れる。何せそのコンソールがあった場所は、統治組織である公理教会本拠地のど真ん中なのだ。
教会に属するフラクトライトのステータスはいずれも高く、元より戦うことを想定してなかった都合、その辺の一般市民と何ら変わらないステータスだった彼らが太刀打ちできる相手ではないはずだ。事情を話した所で信じてもらえるはずもなく、内部へ入ること自体が困難を極める。
「それでも彼らはたどり着いた。内部で得た協力者達の助けも借りて。ただ──丁度襲撃の真っ最中だったので、詳しく確認は出来ませんでしたが──その過程で、協力してくれた仲間達を喪ってしまったようです。その事で、2人共激しく自分を責めていた……言うなれば、自分で自分のフラクトライトを攻撃していたんです」
黙って説明を聞いていたアスナは、胸の前でキュッと手を握り締める。やはり彼らは、人工フラクトライト達のことを単なるAIと考えてはいなかった。あの世界に産み落とされた1つの命、1人の人間として接していたのだ──だからこそ、それを死なせてしまった事に対する自責の念は計り知れない。
「そんな中で、奴らが主電源ラインを切断。ショートして発生したサージ電流がSTLの出力を瞬間的に増大させ……結果、彼らの自己破壊衝動は現実のものとなり、各々の自我へ影響を及ぼしてしまった」
「自我への影響って……具体的にはどういう状態なの?」
凛子の質問に対し、比嘉はモニターにあるものを表示させて答えた、
「今映ってるのは、現在の彼らのフラクトライトをビジュアライズしたものです。右がキリト君ですね──この真ん中の部分に、黒い穴があるでしょう。本来なら、ここにあるのは個人の《主体》……セルフ・イメージと呼ばれるものです」
「セルフ・イメージ……自ら規定した自己像、って事?」
凛子の推測に、比嘉は頷いた。
曰く──人間の意思決定は、「自分ならこの状況でそれを行うか否か」というYES/NO回路を通して行われる。
「例えば──凛子先輩はスーパーの試食を1人で何個も食べちゃった事とかあります?」
「……無いわよ」
「とてもお腹が減ってて、持ち金ほぼゼロの状態でも同じ選択をします?」
「ええ」
「なら、それが凛子先輩のセルフ・イメージに則った処理結果って事ッス──キリト君の場合、フラクトライトの大部分は無傷ですが、このセルフ・イメージを司る回路が機能していないせいで、今の彼に出来るのは……恐らく、染み付いた記憶による反射的リアクションのみでしょう。食べたり寝たり、とか。自分が誰なのか、何をすべきかも理解出来ず、外部からの入力を適切に処理出来ず、自分から何も出来ない……そんな状態かと」
それを聞いたアスナの肩が小さく震える。気の毒に思いつつも、凛子は話をミツキに移した。
「それじゃあ、三島君も同じ状態って事でいいのかしら?」
「セルフ・イメージに異常を来たした、って点は同じですが……ミツキ君の場合、キリト君とはまた違ったベクトルで良くない状態にあります──ともすれば、キリト君以上に」
凛子に続きを促され、比嘉はミツキのフラクトライトを表示する。
「キリト君がセルフ・イメージの回路が機能不全になってしまったのに対し、ミツキ君の場合はセルフ・イメージ回路そのものは機能しています。少なくとも見かけ上、何ら損傷は無いと言って良いでしょう。ただ……問題はそのセルフ・イメージの方でして」
「どういうこと……?」
「以前のテストダイブ時に記録したデータと比較してやっと気づけた変化なんですが……簡単に言えば、セルフ・イメージを上書きしてしまったんです。どのような変化が起きているのかまでは詳細な判別がつきませんが……改めて活動ログを見た感じ、自発的行動が極めて限定されています」
「主体回路は機能してるのよね?その状況下で限定的な行動しか取ってない、って事は……」
「はい……恐らく、ミツキ君は自分のセルフ・イメージを、その限定的な行動のみ行うように再定義したんだと思います。大雑把に言うなら──誰かを守る為だけに行動する、とかそんな感じですかね」
「……ミツキ君なら、有り得ない事じゃないと思います──協力者の人達が死んでしまった事に強い責任を感じて、その償いとして、自分の全てをアンダーワールドの人々を守る為に使う──とか」
アスナの意見に、比嘉は困ったように頭に手をやる。
「強い贖罪の気持ちがサージによって現実になってしまった、と──さっき僕が『キリト君以上に良くない状態』って言ったのは、ミツキ君のフラクトライトが形の上では正常なのが理由です。つまり、仮にこのまま彼がアンダーワールドからログアウトしたとしても、この上書きされたセルフ・イメージで目覚める事になる……元の彼とは言い難い状態になってしまいます」
「そんな……」
「どうします菊さん。この状態じゃ、彼らに《A.L.I.C.E.》を持ち帰ってもらうのはとても……」
「──比嘉君、ミツキ君のフラクトライトは、形の上では正常に活動しているんだろう?」
「え?ええ、まぁ……」
「なら、向こうで見聞きした情報はちゃんとフラクトライトが受信出来ているというわけだ。もう一度、彼の活動ログを詳しく遡ってくれ。彼の傍に、今も件の《アリス》という少女がいるかもしれない」
菊岡に言われるまま、比嘉は他数人のスタッフと共にミツキの活動記録を洗い直す。無言でキーボードを叩くこと数分後──
「あ……確かに、キリト君の他にもう1人、人工フラクトライトの少女が一緒にいます。これは──ビンゴっスよ菊さん!彼女のフラクトライトが格納されたライトキューブ、例の《アリス》って子と同じです!」
「よし、まず第1段階はクリアといった所かな。問題は次だ──2人のフラクトライトをどうやって元に戻すか。比嘉君、何か妙案はあるかい?」
「……リアルサイドでSTLを用いる以外に、フラクトライトに変化を及ぼす手段があるとすれば……やっぱり、内部で直接行うしかありません。さっきも言った通り、彼らのフラクトライトは今も活動を続けています。自らを責めるあまり、魂を変容させてしまった彼らに……誰かが、赦しを与えて癒す事が出来れば──」
「赦し、か……言葉以上に難しいな。キリト君はともかく、ミツキ君だ──サバイバーズ・ギルトと言うんだったか。生憎心理学は門外漢だが、そんな僕の目で見ても、彼は背負い過ぎているように思える──確か、帰還者学校では定期的にカウンセリングが行われているそうだが……」
菊岡がアスナにチラと目を向けるが、アスナは無言で首を振る──カウンセリングとは言うものの、その実態はデスゲーム感覚に囚われていないかどうかを確認する項目が殆ど。勿論、カウンセラーは仕事として義務付けられた項目と別に、きちんと生徒個々人の悩みに耳を傾けてくれるのだが、ミツキがそういった心遣いに素直に甘んじる人間ではないということを、アスナはよく知っている──何せ帰還してからの1年、胸の内を一切悟らせなかったのだから。
「……技術屋として、こんな事言うのは自分でもどうかと思いますが……生身の人間のフラクトライトは、まだまだ秘密の多いブラックボックスです。STLを通してある程度可視化されたとはいえ、フラクトライトは物理的な現象なのか、或いは科学じゃ実証できない観念的な事象なのかすらハッキリしていない。ただ、もし後者であるのなら……傷ついた魂を癒せるのは、同じく非科学的なもの──愛とか絆とか、そういうものなのかもしれません」
「……そうかもしれないわね」
声音に少しだけ照れくささを滲ませた比嘉の言葉に、先輩である凛子が小さく笑みを浮かべる。その横で──
「──私、行きます」
凛とした声がサブコントロールルームに響く。その主であるアスナは、菊岡達の前に進み出た。
「私、アンダーワールドに行きます。向こうで、2人に言ってあげたいんです──頑張ったね、って。辛いこと、悲しいことが沢山あっただろうけど、君達は出来る事を精一杯やったんだよ。もういいんだよ──って」
強い意志の中に暖かな慈愛を秘めたその声は、菊岡達の胸を打った。
「……確かに、STLはあと1つ空きがある。しかしアンダーワールドは今、非常に不安定な状態にあることが予想される──予定されていた負荷実験の最終段階に、じき突入するからだ」
「その負荷実験っていうのは?」
「えーまず……アンダーワールドには普通の人間が暮らす《人界》があって、周囲をグルッと囲む山脈の外にはゴブリンとかオークとかが住んでる《ダークテリトリー》が広がってます。んで、人界とダークテリトリーを隔ててる《東の大門》の耐久値がゼロになって壊れると、ダークテリトリーの軍勢が一気に人界になだれ込んできます──人界側が十分な防衛体制を整えてれば、最後には撃退出来るよう設定してあるんですが……タイミングの悪い事に、キリト君達が公理教会を壊滅させちまいましたから。この状態でちゃんと戦って、勝てるかどうか……」
「ふむ……どちらにせよ、我々の内誰かがダイブする必要はありそうだ。戦いの混乱の中で、《アリス》という少女が命を落とす危険性もある。高位のアカウントでダイブし、少女を保護しつつ、《果ての祭壇》──《ワールド・エンド・オールター》まで移動して、そこにあるコンソールから《アリス》のライトキューブをイジェクト出来れば……」
「そう言えば……メインコンから避難する時、桐ヶ谷君達にもそう言ってたわね」
「ああ。彼らが変わらず無事だったなら、きっと遂行してくれたはずだ。あの通信時点で既に、彼らは《アリス》と一緒にいたわけだからね」
「いやぁ、それは分かんないッスよぉ?キリト君のあの怒りっぷり、覚えてるでしょう?彼らからすれば、僕らは人工フラクトライトを使い捨ての道具として扱う悪魔でしょうし、ただでさえ菊さんは彼らに嫌われてるんスから。──とまぁ、そういう事情もありますし。僕としてもダイブするのは明日奈さんが適任だと思います。彼らとのコミュニケーション能力は勿論、もし内部で戦闘になった場合、仮想世界内での動きに慣熟してる方がいいッスからね」
「そうだな──なら、使うアカウントも出来る限り高位のものがいいだろう」
「ええ、ええ、選り取りみどりッスよぉ。騎士、将軍、貴族……ハイレベルアカは色々揃ってます」
「あの……STLはメインコンの方にも設置されてるんですよね?襲撃犯達が同じようにアンダーワールドにダイブして、《アリス》を狙うって可能性は……?」
アスナの懸念に、比嘉は「あぁ」と零す。
「そこは抜かりないッスよ。人界側のハイレベルアカは全部ロックしましたし、パスワードを破る時間は連中には無いはずッス。使えるのはレベル1の一般民くらいのモンで、負荷実験で怪物が襲ってくる中、女の子1人を探してうろつけるようなステータスじゃありません。この上《アリス》をミツキ君が守ってるなら、そりゃもう最強のファイアウォールッスよ」
得意げに語る比嘉の胸に、チクリと一抹の不安が過ぎったが、それが明確な形を得るより先に、指がキーボードを叩き始めた。
場所は移り、《第2STL室》──診察着に着替えたアスナは、稼働中の2機のSTLに横たわる少年達の姿を見やる。そして事前に菊岡達から許可をもらい、本土で待つ仲間達にメッセージを送った。
アスナ
《みんな、わたしもアンダーワールドに行ってきます。絶対にキリトくんとミツキくんを連れて、3人一緒に帰ってくるから心配しないでね》
送信ボタンをタップしたアスナは、それで覚悟が決まったかのように息をつく。背後でスタンバイ状態となった3機目のSTLの傍らでは、輸液パックを準備した安岐ナースがアスナを待っていた。
「……結城さん、準備はいい?」
「はい。いつでも始めてください」
頷いた安岐は、アスナの腕に点滴を施す。全ての準備が完了したアスナは、STLのベッドに仰向けになった。
『アスナさん、聞こえますか?これからダイブを開始します。座標はさっき言った通り、キリト君の近くで大丈夫ッスか?』
「はい、お願いします!」
『ではSTL、起動します。気を楽に──』
ベッド上端から、頭全体を挟み込むような物々しい機械が下降を始める。閉じた瞼越しに薄らとした光を感じながら、アスナは胸の中で念じた。
「(待ってて、キリト君、ミツキ君……今行くからね)」
改めて決意を秘めたアスナの意識は、かの世界へと沈んでいった。
今回でミツキがどんな状態かを全部説明しきれるかなと思ったんですが、そんなことなかったですね。取り敢えず外から見た限りで分かるのはこんな所です。
残りはその内本人にでも説明してもらいましょう。
何はともあれ、リアルサイドも行動開始です。