私事ですが、この年明けから身辺環境が大きく変わりまして。今後は隔週更新がデフォになる事が予想されます。事と次第では2週間空いてしまうかも分かりません。
年内に完結出来ればと考えていますが…出来るといいなぁ。
2つの世界を隔てる門が崩れ去り、道が拓かれた瞬間、真っ先に動いたのはダークテリトリーの第1陣だった。
中央に大柄な
対する人界守備軍は作戦通り、整合騎士を先頭に敵の攻撃を懸命に受け止め、迎撃し続ける。先陣だけをとっても1万近い敵軍に対し、こちらの前衛部隊はおよそ300人。それを中央と両翼に分け、各100人程の数で応戦しなくてはならない。
普通ならば一瞬ですり潰されるこの戦力差。それでもどうにか戦線を維持出来ているのは、文字通り最前線で奮戦する3人の整合騎士達の存在が大きかった。
右翼を担当するデュソルバートは《
中央に構えるファナティオは、《
左翼のエルドリエもまた、進軍する山ゴブリンの一団を迎撃すべく構えていたが……ここで、敵が予想だにしない奇策を講じてきた。
ゴブリン族といえば、本能のままに蛮刀を振るい暴れまわる野蛮な種族だ。ほんの数える程度とはいえ戦闘経験があったからこそ、先頭に立って敵を食い止められる筈だと自負していた。珍しく刃を持たない神器である《
故に、エルドリエに何か致命的な落ち度があったわけではない。
強いて言うのなら、経験が足りなかったのだ。故に予想も、対処も出来なかった──山ゴブリン達が一斉に煙玉を投げ、視界を封じて強引に防衛線を突破してくるなどと。自分達には目も呉れず、部隊後方へ潜り込むゴブリン達を食い止めようとする衛士達に、同士打ちを避けるべく待ったをかける程度の冷静さは残っていたのが不幸中の幸いだろうか。
峡谷という閉鎖空間では煙が自然に晴れるのも時間がかかる。かと言って風素を用いた神聖術を使うわけにもいかない。こうしている間にも敵は続々と防衛線を通り抜けているのだ。他の方法を模索する時間すら惜しかった。
「ッ……総員後退っ!レンリ殿の部隊と合流し、奴らをこれ以上進ませるなッ!殿は私が勤めるッ!」
こうなってしまってはもう前衛で敵を抑えるのは不可能と言っていい。部隊ごと下がらせて、少しでも煙の薄い地点で敵を食い止め、押し返すしかない。当然、前方からはまだまだ後続がやって来るが──
「ここからは──1匹たりとも通さんッ!!」
周辺の衛士達がいなくなった事で同士打ちの危険が無くなり、殿として単身残ったエルドリエは縦横無尽に戦場を駆け、煙の中に浮かぶ影を片っ端から鞭で打ち、剣で斬り伏せる。後ろへ抜けていくものはレンリが対処してくれるはずだと信じ捨て置く、若き騎士は前方から迫る敵を半ば本能で打ちのめしていった。
時を同じくして、右翼及び中央でも戦況が動き始める。
まず、一矢で数十にも上る敵を吹き飛ばし続けていたデュソルバートの矢が遂に尽きた。同胞の亡骸を盾として熾焔弓の攻撃を掻い潜った平地ゴブリンの長は、したり顔で一転攻勢に出た。
続く中央の部隊。巨人族の長と思しき一際大きな巨躯を持つ敵に狙いを定めて天穿剣の光を放ったファナティオだったが……驚くべきことに目標の長は、文字通り光の速度で飛来するファナティオの攻撃を寸での所で避けたのだ。そして怒りからか、半狂乱状態となった敵の長の攻撃からファナティオを守ろうと、彼女の部下である《四旋剣》の1人、ダキラ・シンセシス・トゥエニツーが戦死した。
いずれも状況は苦しい。刻一刻と増え続ける人的被害に関しては語るに及ばず、この場の誰もが初めて経験する「戦争」の緊張感は、想像以上の速度で気力と体力を奪っていく。正直、いつどこで戦線が崩壊するかもわからない。
それでも戦わなければ──ここで戦わなければ、全てが終わってしまうのだから。
衛士達がその一心で剣を振るう中、1人の騎士が忽然と姿を消していた。
人界守備軍後衛部隊の更に後方──補給部隊が待機している場所は、思いもよらぬ大混乱に見舞われていた。突如として大勢のゴブリン達が押し寄せてきたのだ。
無論、予備兵力として待機していた衛士達とて、ここは本陣の更に後ろだから安全だなどと楽観していたわけではない。事と次第では敵がここまで押し入ってくる可能性もあるだろう、その時は剣を取り戦わねば、と。
……ただ、如何せん早すぎた。門が開き、開戦の狼煙が上がってからほんの10分と少しで前衛、後衛部隊を駆け抜け、真っ先に最後方の補給部隊を潰しに来る敵がいるとは、誰も予想できなかったのだ。
──最初に異変を察知したのは、やはりというべきかミツキだった。
アリスと別れ、後輩達と共に天幕で彼女の帰りを待っていた時の事……ミツキはふと小さく身動ぎしたかと思えば、剣の柄に手を掛けてゆっくりと入口へ向かう。
「先輩……?」
レイラが一体どうしたのかと聞こうとした矢先、ミツキは答えより先に天幕の外へ飛び出して行った。
「先輩ッ──!」
慌てて後を追い、天幕の外へ顔を出したレイラが目にしたのは、驚くべき光景だった。
天幕から程近い場所で、灰色の剣を振り抜くミツキの後ろ姿と……その足元に崩れる、大柄な人間──否、形こそ人型だが、緑色の肌にぎょろりとした双眸、あれはまさか──
「ゴブリン……!?」
呆然と零れたその名を耳にしたロニエとティーゼも、鋭く息を飲んだ。
整合騎士を筆頭に数百人の衛士達が戦っているというのに、もうこんな後方まで攻め込んできたというのか。それはつまり、前衛部隊は壊滅したということなのか──次々湧いてくる嫌な想像を振り払ったレイラは、後ろの2人に手早く状況を伝えた。
「──ここも危ないかもしれない。どこか別の場所に先輩達を避難させましょう」
緊張の面持ちで頷いた友人2人と共に、慎重に天幕を出る。この短い間にもミツキは数匹のゴブリンを斬り伏せており、思った通り、予断を許さない状況のようだった。
「先輩、別の場所へ移動しましょう!」
ミツキの背に呼びかけるレイラ。ミツキはこちらを一瞥してから、ある方向を指差した──その方向にあるのは、確か物資備蓄用の天幕だ。
中に駆け込もうと急ぐ最中、ミツキは突然足を止めると、主戦場となっている前線の方を見やる。同じように足を止めて引き返そうとしたレイラだったが、ミツキは無言でレイラを天幕の方へ押しやると、再び抜剣した。
「せ、先輩も一緒に──」
震える声と共にミツキの腕に触れた瞬間、脳裏に声が聞こえた気がした──「キリトを頼む」──そんな声が。それを聞いた瞬間、レイラは未熟と自負する頭に思考を巡らせた。
かつて、学院でミツキはこう言っていた──全ての言動には必ず理由がある。言葉、行動、表情、それらの「情報」と「事実」を照らし合わせ、予測しろ──と。
あの時は自分には無理だと諦め、地道に経験を積めば自然と出来るようになる、と言われたそれを、レイラは必死に考えた。
まず、行動から読み取れる「情報」──ミツキは恐らく、レイラ達だけを天幕に隠れさせ、自分は戦いに出ようとしている。
続いて「事実」──この後方部隊にも既に敵が侵入しており、恐らく前方では待機していた衛士達が応戦している。
それらを踏まえた上での「予測」──仮に、前線の部隊が突破されたのだとすれば、敵もどんどんなだれ込んでくる筈だ。決して多いとは言えない戦力で太刀打ち出来るとは思えず、隠れたとていずれ見つかってしまうのは想像に難くない。
敵に見つかる=隅々まで捜索する余裕があるという事は、つまり後方部隊が陥落した事を意味する。包囲されては抵抗も無意味だろう。よしんばミツキならどうにか出来るとて、満足に戦えるかも怪しい自分達が一緒では間違いなく足手纏いになる。
よって、まだ深くまで潜り込まれていない今の内に対処しなくてはならない。その為に、ミツキはレイラ達にキリトを預け、剣を取っている──たっぷり5秒程かけてその推論に至ったレイラは、触れていた指先を引っ込め、胸の前で握り締めた。
「……キリト先輩の事は、お任せ下さい。くれぐれも、ご無理はなさいませんように」
レイラの決断にも返事が無いまま、ミツキは補給部隊の前方へ向かって走っていった。その背中を短く見送ったレイラが天幕に入ると──ティーゼとロニエ、キリトの他に、見慣れぬ顔があった。
「あなたは……?」
物陰から顔だけ覗かせていた若草色の髪が目を引く少年は、両手を挙げて敵意が無い事を示しながらその姿を露わにする──薄暗い天幕の中でも微かな光を反射する銀色の鎧に、緑の胸当て。公理教会の紋章が刻みつけられた鎧を有する存在はこの人界でただ1つだけ。
「整合騎士様……!」
「……やめてくれ。僕はもう、整合騎士じゃない……騎士を名乗る資格なんか、無いんだ──」
本来なら全員前線に投入されているはずの整合騎士が何故こんな所にいるのか──レンリ・シンセシス・トゥエニセブンと名乗った彼は、その理由を語った。
「僕は……持ち場を放り出して逃げたんだよ。皆を指揮して戦わなきゃいけないのは分かってるし、そのつもりでここに来た。でも……怖いんだ」
きっと今頃、レンリが率いるはずだった左翼後衛部隊は大混乱だろう。死者だって出てるに違いない。自分は整合騎士なら当たり前に持っていなくてはならないものを持たない──騎士を名乗ることすら烏滸がましい《失敗作》なのだと。彼は自身を非難した。
きっと彼女達も同じ事を言うだろう、と思った。整合騎士は民達から崇敬を集める人界最強の存在、こと今回の戦に於いて必要不可欠な戦力だ。それが土壇場で恐怖に萎えて逃げ出すなど、情けないにも程がある、皆命を賭けて必死に戦っているのに何を不抜けたことを言っているのかと。
しかし彼女達──ティーゼの口から出てきたのは、レンリの予想とは違う言葉だった。
「……そうですよね。整合騎士だからって、怖くないわけ、ありませんよね」
「え……?」
「──申し遅れました。私は人界守備軍補給部隊のティーゼ・シュトリーネン初等練士です。後ろの2人は、同じく初等練士のロニエ・アラベルと、レイラ・カーヴァス。そしてこちらが……キリト上級修剣士殿です」
最後に紹介された車椅子に座る少年の名前は、レンリにも聞き覚えがあった。最高司祭アドミニストレータを討ち、公理教会を混乱に陥れた張本人。この戦場に赴いていると話だけはベルクーリから聞かされていたが、いざ対面してみれば随分と弱々しい印象を覚えた。本当に彼が最高司祭を殺したのかと、疑いたくなる程に。
「そうか、彼が……えっと、確か彼の他にもう1人いる、って聞いてるけど」
この問いにはレイラが答えた。
「……はい。先輩──ミツキ上級修剣士殿は、私達にここへ隠れるよう指示してから、侵入してきた敵との戦いに向かわれました」
「そんな、もうこんな所にまで敵が……!?」
「詳しい状況は分かりかねますが、少なくともこの補給部隊が敵襲を受けている事は、確かかと」
そういう意図は無い筈だと分かっていても、レンリにはどうしても聞こえてしまう──あなたが逃げ出したせいでこんな事になっているのだ、という声無き声が。彼女の口ではなく、レンリ自身の胸の内から直接頭の中に響いてくる。
勿論、どうにか出来るのならそうしたい。しかしレンリに──かつてアドミニストレータから、神器の武装完全支配術が発動できないという理由で《失敗作》の烙印を押された自分に──そんな力があるとは思えない。こんな役立たずがノコノコ出て行った所で邪魔になるだけではないか。
「それでその、騎士様……今しがたのお話を聞いた上でこのようなお願いをするのは身勝手だと承知しているのですが──私達に、手を貸してくださいませんか?」
アリスから直々に言いつけられたという事を差し引いても、今の3人は何としても果たさなければならない役目を負っている。しかし剣術に於いて未熟そのものである自分達だけでは、万が一敵に見つかった時、ゴブリン1匹倒すことすら怪しい。だからキリトの身を守る為に力を貸して欲しい──そんなロニエの頼みにどう答えたものかレンリが決めあぐねていると、入口を仕切る布の向こうから戦いの音が聞こえてきた。
おおよそ人間のものとは思えない、獰猛で殺意に満ちた雄叫びと、どちらのものかも判然としない断末魔。そして、得物同士が打ち合わされる剣戟音……やはり、衛士達だけではゴブリン達を完全に抑えきれなかったようだ。
ティーゼが布を小さく捲って外の様子を伺う……妙な色の煙が流れてきている、という言葉から、ゴブリン達は何か目くらましめいた手段を用いて防衛線を突破してきたのではないか、とレンリは推測した──それが分かったからなんだと言うんだ、とも。
「ッ……!」
不意に、鋭く息を飲んだティーゼが1歩、また1歩と後ずさりながら、腰の剣に手を伸ばす。その行動の表す所を、この場の全員が瞬時に理解した。ロニエとレイラもそれに倣い、天幕の中が緊張で満たされる──そしてそれは、入口の布と共に乱雑に引き裂かれた。
半分に断ち切られた布の向こうでは、先程レイラが目にしたのと同じ──小柄ながらも逞しい両腕に蛮刀を携えたゴブリンの兵士が、ニタリと獰猛な笑みを浮かべていた。
「おぉ……白イウムの、女……俺の獲物だァ……!」
鋭く不揃いな乱杭歯を剥き出したゴブリンは、舌舐めずりをしながらジリジリと迫ってくる。
「と、止まりなさいっ!それ以上近づけば、斬ります……っ!」
そう言って気丈にも抜剣するティーゼだが、声も、差し向けた剣の切っ先も、明らかに震えている。隠しきれていない恐怖を舐めるように感じ取ったゴブリンにとって、警告どころか威嚇にもならない。か弱い獲物が無駄な抵抗をする様子を見て嘲笑っているようだった。
この戦場に来て、武器を与えられ、他の衛士達と共に訓練に励んでいたとはいえ、彼女達はまだ学生、それも入学して1年も経っていない初等練士だ。闇の軍勢の存在は本の中の御伽噺も同然、初めて目にするその恐ろしさに恐怖するのも当然と言える。
しかしそれは、彼女達の後ろで自らの得物に手を伸ばすレンリもだった。彼が《失敗作》の烙印と共に《ディープ・フリーズ》による凍結封印を受けたのは、整合騎士の主な役目であった《果ての山脈》の警護──そこに向かう為の飛竜を与えられるより前だったのだ。
即ち、レンリは当時こそ恵まれた才能を以て、異例の速さで神器を有する上位騎士となったもののそこ止まり。武装完全支配術も使えず、実戦経験という点では、最も若い騎士であるエルドリエ以下ということになる。目の前の少女達と同様に初めて目にするゴブリン──想像とは全く違うその姿に、後ろ腰に伸ばした手が恐怖で震えていた。
「(た、戦わなきゃ……たたかわ、ないと──でも、勝てるのか?こんな恐ろしい怪物に、《失敗作》の僕が……)」
心に火を灯そうとしても、《失敗作》の3文字が冷水の如くかき消していく。その冷たさに、遂には武器に伸ばしていた手を下ろそうとしてしまった時──何か、金属が震え、軋むような音が聞こえた。
彼だ──車椅子の上で項垂れたままのキリトの左手が、抱えた2本の剣を凄まじい力で握り締めているのだ。表情は変わらず虚ろのまま。何か言葉を発することはおろか、右腕を失い、その剣を抜くことも、自力で立ち上がる事すら出来ないというのに。彼女達を助けようとしている。
自分にも、出来るだろうか──レンリの胸の奥底に、再び小さな灯火が生まれる。それも再びかき消されるかと思いきや……この灯火は、暖かな光に包み込まれていた。灯火は光の中で強く、大きく、炎となって燃え上がり、レンリの全身へ巡っていく。
──お前なら出来るさ、レンリ!
最後に聞こえた、知らない筈の「誰か」の声が、レンリの身体を呪縛から解き放った。
ゴブリンがティーゼ達に蛮刀を振りかざす──刹那、霞むような速度でレンリの手が閃いた。
ピゥッ、と風を切る音が聞こえたかと思えば、凶刃を携えたゴブリンの頭の上半分が、ズルリと滑り落ちる。同時に蛮刀を握る腕も手首から落とされ、ゴブリンは自らが生み出した小さな血溜りの中に倒れた。
突然の事に呆然と立ち尽くすティーゼらの背後で、小さく刃の鳴る音が聞こえた。振り向いてみれば、掲げられたレンリの手がくの字型の刃を指で挟み込んでいる──武器といえば剣か斧、という先入観のある少女達には一体どのように扱うものか分かりかねたが──とにかく彼が自分達を助けてくれたのだという事実は疑いようがなかった。
「……確か、ミツキさんは外で戦ってるんだよね?」
「は、はい……」
「……分かった。君達はこのまま隠れて、キリトさんを守っていて──敵は、僕が引き付ける」
それだけ言い残し、レンリは天幕を飛び出して前線へ走る。
ゴブリンを倒したとはいえ殆ど不意打ち。それで自信がついたわけではない。それでも……胸の奥で熱く響いた、あのどこか懐かしさを覚えるような声を、信じてみようと思った。
同じ頃──人界守備軍補給部隊の前線付近では、予備兵力として待機していた衛士達が侵入してきたゴブリン兵と血みどろの戦いを繰り広げていた。
ファナティオが秘蔵の3連撃技を開示、訓練させることで格段にレベルアップした衛士達だが、如何せん付け焼刃。いくら強い秘奥義を使えるようになっても、ダークテリトリー軍とは実戦経験で雲泥の差がある。その答えが今の状況だ。懸命な抵抗でゴブリン兵の侵攻を遅める事は出来ているが、押し返すには足りない。こちらでも煙幕が用いられている分、ゴブリン側が有利とさえ言えるだろう。
それでも、こうしてギリギリながら持ち堪える事が出来ているのは、途中参加ながら混戦状態の中を走り回る2人の小さな騎士見習いと、1人の修剣士のお陰だった。
「ゲヒャア──!」
岩を削った粗雑な棍棒で衛士に止めを刺そうとしたゴブリン──その首がスッパリと切り落とされた。
「あーもう!暇潰しに来てみれば何この状況!? どうしてゴブリンがこんなトコまで攻め込んで来てる訳──!?」
余程素早く、鋭く繰り出したのだろう、首を両断したにも関わらず殆ど血に濡れていない短剣を手にゴブリン達を倒し続ける2人の少女──ショートヘアの少女に、相方である長い三つ編みの少女が言葉を返す。
「ざっと100匹くらいはいそうです。ゼル、流石にあたし達だけじゃ手が足りません──!」
「遊撃で待機してたはずのイーディスは騎士長の命令でいないって言うし!大体、前を守ってるレンリっちは何してんのさ、ったく──!」
ショートヘアの少女はフィゼル・シンセシス・トゥエニナイン、三つ編みの少女はリネル・シンセシス・トゥエニエイト──外見こそ年若い少女達だが、これでも見習いとはいえれっきとした整合騎士だ。……尤も、見習いに与えられないはずの番号を手にした経緯は穏やかならざるものではあるのだが。
ともかく、整合騎士に任ぜられる以上、その実力自体は折り紙つき。現に彼女達は抜群のコンビネーションでゴブリンの首を落とし、心臓を貫き、全て的確に急所を突いた一撃で敵を仕留めている。
「あたし達の他にもう2人──せめて1人でも腕利きがいれば楽になるんだけど……!」
小柄で俊敏、装備も軽量な2人はゴブリン達が焚いた煙幕を逆に利用することで優位に立ち回っている。煙が晴れたとて数匹のゴブリン相手なら負ける気はしないが、このまま増援が続いてくるようであれば話は別だ。あまりに差のついた数的不利は神器の力でもないと覆すのは難しい。
「……ゼル、あそこ」
フィゼルは走りながらリネルの視線を追う。その先には、ゴブリン達を斬り伏せながら戦場を駆ける少年の姿が──衛士達と違い防具の類は身に着けておらず、振るう剣も支給された鉄剣ではなく、遠目でも整合騎士の神器に匹敵する業物だと分かる。
「……整合騎士、じゃないよね?鎧着てないし」
「はい。顔も知りませんし、あんな神器見たこと──いえ思い出しました。あれは確か、前にキリトが持っていたもう1本の剣です」
「……あぁ、あの灰色のやつ!ってことはもしかしてアイツが──」
「はい。話に聞くキリトとユージオの仲間──ミツキです」
顔を見合わせたリネルとフィゼルは、飛びかかってきたゴブリンの命を刈り取りざま方向転換。単身奮闘する少年の元へ向かった。
半年前、カセドラルでキリトがファナティオらと戦う様を間近で見せられた2人は、以降ずっと気になっていた──在りし日のユージオが言っていた、「心の強さ」こそがキリトの強さの理由なのだ。という言葉──上手く殺す技術こそが強さの証であり、神器の性能や完全支配術もその1つと思っていた彼女達は、キリトの強さを理解出来れば、見習いから正規の整合騎士に近づけるはずだと考えた。
会って直接確かめれば──そう思い至ったまではいいものの、いざ訪ねようとしてみればキリトはあの状態。手合わせはおろか会話も満足に出来ないと言うではないか。
そういった経緯を踏まえれば、リネル達がミツキにも興味を示すのは当然と言えるだろう。
キリトとユージオと共に最高司祭を倒した反逆者の1人。その代償か、キリトと同様に会話は出来ないそうだが、彼はああして戦えている。流石に今の状況で戦いを仕掛けるつもりはない、しかしせめて彼の戦いを近くで見れば、何か分かるかもしれない、と。
いざ近づいてみると、彼も大なり小なり傷を負っているのが分かった。アドミニストレータを倒せる程の実力があるなら、今更ゴブリンの雑兵ごときに傷を負わされるものだろうかと首を傾げそうになったが、その理由もすぐに分かった──彼はゴブリンを倒す以前に、衛士達を助けることを優先しているのだ。
他の衛士と戦っている最中のゴブリン、傷ついた者にトドメを刺そうとするゴブリン、そんな相手を優先的に狙い、一太刀の下に斬り伏せる。倒れて動けない者を見つければ、動ける者の所へ引き摺って行き後を任せる。道中邪魔をするゴブリンがいれば容赦なく斬り捨てる。
特に目を見張るのは動く速度だ。かつてのキリトも学生の身で整合騎士と渡り合う辺り大概だったが、今のミツキはそれ以上……整合騎士に匹敵どころか、超えてすらいるのではないかと思わされる。得物の剣もかなりの優先度のはずだが、まるで細枝かのように軽々と振り回していた。
「つっよぉ……でも所々危なっかしいなぁ」
「ですね……衛士達を助けるのを優先しすぎて、無駄な手傷を負ってます。見るからに手遅れなヤツは無視すればいいのに。お荷物なだけです」
見た感じ、既に事切れている者は流石に捨て置いているようだが、絶対に助からないような重傷者でさえ、その時点で生きているなら退避させている。ゴブリンの蛮刀が身体を掠めようと決して救助者の手は離さず、救助者に向かう刃は剣で叩き落とす。
ただ……先も言った通り敵の数が多すぎる。相対するゴブリンが常に1匹だけなら問題なかっただろうが、他の衛士を助ける最中、複数のゴブリンに斬りかかられた際……剣1本で守りきれない時は、躊躇なく自分の腕や脚で蛮刀を受け止めているのだ。お陰で彼の着ている灰色の騎士服は、随所に赤い染みが出来ていた。
ゴブリンの得物は然程切れ味の良くない粗製品であることも相まって、手足を切り落とされてはいないようだが、傷を負えば血が流れる。血が流れれば天命が減る。天命がゼロになれば死んでしまう。それはどんなに強い騎士──人界最強の剣士である騎士長ベルクーリだろうと、最高司祭を討ち取った反逆者だろうと抗えない世の摂理だ。
「行こ、ネル!」
「しょうがないですね──」
今まさに傷ついた衛士を引き摺っていこうとしているミツキ目掛け、2匹のゴブリンの刃が迫る──しかし、蛮刀が振り下ろされるより早く、別の刃がゴブリン達の胸を貫き、首を刎ねた。
「ねぇあんた、ミツキだよね?キリトの仲間だっていう。あたしはフィゼル、こっちはリネル。整合騎士見習いよ」
「この状況ですし、仕方ないから手伝ってあげます。いくら腕が良くても、そんな戦い方じゃすぐに──」
「………」
しかし当のミツキは双子の言葉など聞いていない様子で、負傷した衛士の襟首を掴んでズルズルと引き摺りながら中央の補給隊に走っていく。無視された双子は、ムッとした顔で手近なゴブリンを倒しながらその後に続いた。
どうやら中央、右翼側の補給隊から応援が来てくれたらしく、前線の部隊が後続を抑えてくれさえすれば、後は侵入したゴブリンを片付けるだけで済みそう──とフィゼルが内心安堵する傍ら、前を走っていたミツキは応援の部隊に負傷者を預け、また左翼後方にとんぼ返りを始めた。当然、急に怪我人をパスされた衛士は困惑しており……
「えぇっと、とりあえずその人よろしく!──ねぇ!ちょっと待ってってば!」
指示とも言えない指示だけ残して、フィゼル達も大慌てで左翼側へ引き返した。
「ゼル、何なんですかアイツ!無視はするし傷だらけだし、そのくせ強いとか、段々腹が立ってきました……!」
「すっごい同感!けど……
「えっ──?」
「ほら、副団長とかデュソルバートのおじ様がよく言ってるじゃない?『整合騎士は民を守る為に』とかなんとか──誰かを守りたい、助けたい、って気持ちがあるから、キリト達は上位騎士とか最高司祭様にも勝てたのかな、って──!」
「そうなのかもですけど……無駄に痛いのは嫌ですねぇ。ミツキみたいに、わざわざ痛い思いをしてまで誰かを守りたくもありません──!」
「うん、あたしも!まぁ別に痛い思いはしなくていいんじゃない?全部殺しちゃえばさ──!」
「ですね──ッ!」
答えながら、リネルは煙の中から飛びかかってきたゴブリンの下をスライディングでくぐり抜けざま、逆手に握った短剣で顔面から胴にかけてを一直線にカッ裁く。
「それじゃ手始めに、ミツキを助けてあげるとしましょうか──人助けはあたし達がやるから、ミツキはとにかく敵を皆殺しにする──そんな感じでいいですかね?」
「そうね。……でさ、肝心のミツキは?」
ここで、追いかけていたはずのミツキの姿を見失っていた事に気付く。辺りを見回せどこうも視界が悪くては、ミツキの姿を見つけられるはずもなかった。
「嘘でしょ、探す所からやり直しぃ……?」
「いよいよほんとに腹が立ってきましたね……」
落胆のため息をつく双子達は、つい足を止めてしまっていた事に──自分達の最大といっていい武器を、自ら手放してしまっている事にまだ気付いていない。そこへいくつかの影が忍び寄っていることにも……
「白イウムの……ガキィ──!!」
同胞を殺された怒りか、激昂するゴブリンが襲いかかってくる。この短時間で腐るほど見た雑兵ではない、黒く染めた革の鎧を身に着ける偵察隊のゴブリンだ。ただでさえ混戦状態ということもあり、2人共接近に気付けなかった──!
とはいえ、それでも彼女らは過去に整合騎士を殺し、番号を奪った《恐るべき双子》だ。ここまで数多のゴブリンを屠っている事からも分かる通り、全く反応も出来ずに殺される、という事はありえない。しかし些か距離が詰まり過ぎている。先に相手を殺せても、敵の刃はピタリと止まるわけではない。相打ちを避けられるかまでは怪しい絶妙な間合いだった。
そんな攻撃がフィゼルとリネル、両方に襲いかかる──「これは無理かな」「上手く殺してくれるといいなぁ」──死が間近に迫ったにしては随分と呑気な感想を浮かべた刹那……煙幕を切り裂くような勢いで、灰色の風が駆けた。
跳躍からリネルを狙うゴブリンの首を腕諸共斬り飛ばし、着地した左足を軸にグルッと勢いをつけた踵落としでフィゼル側のゴブリンを叩き落とすという2秒にも満たない離れ業で2人の窮地を救ったミツキ──脚を旋回させる時傷つけまいとしたのか、手前側にいたリネルは彼の腕にすっぽりと抱き抱えられていた。
「あ、ありがと……」
呆気に取られたフィゼルが素直にお礼を言う一方、腕から解放されたリネルは三つ編みを揺らしてプイとそっぽを向く。
「……別に、助けなんて要りませんでしたけど。あたしまで血で汚れました、最悪です。二度と近づかないでください。行きましょう、ゼル」
「あ、うん──衛士達の救援はこっちでやっとくよ、あんたはゴブリンを倒すのだけに集中して、多分そっちのが強いでしょ。じゃ頼んだから──!」
あっという間に煙の中へ消えていった2人を見送ったミツキもまた、戦闘を再開。
一方──煙のせいだろうか──リネルに追いついたフィゼルは、隣を走る相方の顔がほんのり赤くなっているように見えたのは余談である。
双子達からの提案を受けたミツキは、言われた通り後方からゴブリンを殲滅する方針へシフト。
ゴブリン達が集まっている箇所へ切り込み、襲いかかる敵を片っ端から討ち取っていた。
衛士らを双子が請け負ってくれた分、集中して戦えるようになったミツキだが、それでも数で押されては敵わない。相対するゴブリン達も同じことを考え、ワラワラとミツキに群がっていく──そんなゴブリン兵達の間を、ピゥッと特徴的な風切音が通過。一体何だ、と傾けられたゴブリンの首が、そのまま地面に落ちていった。
音の発生源は宙を舞い、陣の後方から飛び出してきた人影の手元へ向かう。集まったゴブリンの群れの中に、もう1人──否、
「良かった、見つかった──あなたがミツキさん、ですね?遅くなってすみません!」
背中合わせの状態でミツキに問いかける、鎧を纏った少年──レンリは、後ろ腰から得物である神器《
「……あなたは怪我もしている。下がって欲しいですけど、この状況じゃそれも難しいか──」
ミツキとレンリは今や数十ものゴブリンに囲まれてしまっている、当然、レンリとミツキを逃がしてくれるはずもない。さりとて、このまま戦ってゴブリンを全滅させるというのもあまり現実的ではなかった──何せレンリは未だ、整合騎士の秘奥である武装完全支配術を使えないのだから。
ならばせめて、前線から応援が駆けつけるまでの時間を稼ぎつつ、隙を見てミツキを逃がす。その為には、ここにいる誰よりも自分が敵を引き付けなければ──そう方針を定めたレンリは、大きく息を吸った。
「我が名はレンリ──整合騎士レンリ・シンセシス・トゥエニセブン!この首が欲しければ、命を投げ出す覚悟でかかって来いッ!!」
人界の筆頭戦力である整合騎士。それは即ち、ダークテリトリーに於ける各部族の長にも等しい立場だ。100の雑兵の首にも勝る価値を持つその首1つさえ取れれば、自分こそが次の族長に──そんな考えを浮かばせたゴブリン達は、我先にとレンリ目掛けて斬りかかってくる。
「伏せて──ッ!」
ミツキに鋭く指示を飛ばすと同時に、レンリは両手の刃を投擲する。くの字状に屈曲した2枚の投刃は文字通り風を切って飛翔し、辺り一帯を駆け巡った。鮮血による軌跡を描きながら戻ってきた雙翼刃を指で器用にキャッチしたレンリは、間髪入れず次なる目標へ得物を放った。
エルドリエの《霜鱗鞭》が刃を持たない神器であるなら、レンリの《雙翼刃》は
作戦通り、レンリ1人の手で次々とゴブリン達が倒されていく──落とした首の数が20を超えた辺りで、どこからかガキィン!という異音が耳に入った。
音の方向に振り向けば、煙幕を切り裂いて戻ってくる雙翼刃──どうにかそれをキャッチしたレンリは、刃が戻ってきた方向に視線を凝らした。
総じて小柄だったゴブリンの中でも、かなり大きい。レンリとそう変わらないだろう。頭には羽飾り。そして肩に担ぐ得物は他のゴブリンの蛮刀を軽く凌駕する威圧感を放っていた。レンリは直感する。恐らくこいつが──
「……お前が、こいつらの大将か」
「おうよ。山ゴブリンの族長、《コソギ》だ──あーあ、ウチの部下をよくもまぁ殺してくれやがってよぉ……」
チャンスだ──ダークテリトリーは、強者に絶対の服従を強いる世界。ここで族長の首を取れれば、ゴブリン達は撤退するはず──その程度の事は知っていたレンリは、コソギに向けて投刃を放つ。雙翼刃の刃の前には、革の鎧程度無いも同然。死角から首を狙えば倒せる……その予想は、容易く裏切られた。
不敵に笑ったコソギは、担いでいた大型剣で飛来する投刃を弾き返してみせたのだ。微かに失速して戻って来る刃を慌てて受け止めたレンリの手の平では、うっすらと血が滲んでいる。
「ハッ……『ゴブリンのくせに』とでも言いたげなツラだなぁ?生憎、ンな軽い板っきれを何度投げられた所で、俺にゃ届かねぇよ──ブンブン煩くて適わねぇぜ、ったく」
コソギは言葉を続ける── 一騎当千と聞いていた整合騎士も、本物はこの程度。もしくは、とりわけ弱い騎士を引き当てたか──と。
「正直、横で座ってるガキの方が向いてるんじゃねぇか?ッハッハッハ!──おうテメェら!つよいつよーい整合騎士様は俺に任せて、横のガキをヤッちまえ!その後は目に付く白イウムを皆殺しだァ!」
長の号令で、生き残っていたゴブリン達が一斉に動き出す。狙いはミツキだ。並のゴブリンなら今のレンリでもどうにかなるが、当然、コソギが邪魔をしてくるだろう。
この状況を打破する方法があるとすれば1つだけ──雙翼刃の武装完全支配術。
自分に出来るのか、と……もう何度目かもわからない自問。しかしその答えは──
「(そうだ……僕は《失敗作》の騎士。けど……出来損ないはあくまで僕であって、
整合騎士の神器は、使用者ではなく、神器自身の意思で決定される。永きに渡り適格者の現れなかった雙翼刃が初めてにして最も強く共鳴したのがレンリ・シンセシス・トゥエニセブンという騎士なのだ。
信じろ、胸の奥に響く、自分の背中を押してくれた「声」を。
信じろ、自分と惹き合った、運命の相棒を──その間に結ばれた、確かな絆を!
「──飛べッ……雙翼ッ!!」
意を決して放たれた投刃は、まるで鏡合わせのような軌道で天高く飛翔する。日も沈み、星の瞬く夜空を舞う2枚の翼に、レンリは自らの手を翳した。
「リリース──リコレクションッ!!」
曰く──《雙翼刃》は、翼のそれぞれ左右ずつを失った番の神鳥が転じた神器なのだという。
片翼の鳥達は互いに支え合い、二羽一対で羽ばたくことで、いつまでも、どこまでも……独りでは行けなかった場所へだって飛んでいけた。
秘められし記憶を解放した雙翼は、今ここに、その
くの字型の刃が背を預けるように繋がり、手裏剣状の十字刃と化す。高速回転する巨大な手裏剣は、文字通りレンリの意のままに宙を駆ける。
自分とミツキの周囲を渦を巻くように旋回した雙翼は、その軌道上にあるもの全てを切り刻んでいく。凶刃を振りかざしていたゴブリン兵達は、ものの一瞬で肉片へ姿を変えていた。
残るはお前だけだ──視線でそう投げかけたレンリは、神の翼をコソギへ差し向ける。しかし圧倒的な力を見せつけられて尚、コソギは怯まなかった。
「板きれは板きれ……無駄なんだよォ──ッ!」
両目を見開き、飛来する刃をしっかり捉える。形が変わろうと、その重さは変わらないはずだと考えたコソギは、軌道上に「置いた」剣で迎撃を試みた。
しかし──
「ああ……無駄だよ──」
そう呟いたレンリは、クイと小さく手首を動かす。すると雙翼刃は驚くべき滑らかな動きでコソギの剣を
あの刃は再び戻ってくる、それはもう見た。ならば先にこの騎士を殺してしまえば……!
コソギの考えは合理的且つ正しいものではあった。事実、この距離なら確実にレンリを斬り殺せたはずだ──
振り下ろした大型剣が、硬質な手応えと共に弾かれる。自分とレンリの間に割り込んできた傷だらけの少年──その手にある灰色の細い片手剣が、多大な犠牲を払ってまで暗黒騎士団から製法を盗み、苦労して打ち上げた自慢の大剣を、易々と弾いてみせたのだ。
「は──なんだよ、そりゃ」
それが、山ゴブリン族長コソギの最期の言葉になった。
長を討ち取り、残ったゴブリンの掃討に移ろうとしたレンリの元へ、フィゼルとリネルが合流する。
雑魚ゴブリンは全滅、負傷者は既に治療を開始しており、物資用の天幕で隠れていたティーゼらとキリトも、双子によって中央に合流させている。あとはミツキだけ、と言われたレンリは、
「……ミツキさん。最後に助けてくれて、ありがとうございました。キリトさんと彼女達にも、お礼を言っておいてください。──それじゃあ君達、彼を補給部隊に送り届けたら、元の持ち場に戻って」
「はぁい」
「了解です」
ほんの少し前まで怯えていた身ではあるが、これでも一応上位騎士だ。見習いである双子達に指示を出したレンリは、これまでの失態以上に戦わねばと、確かな決意を胸に前線へと戻っていった。
「んじゃ、こっちだよ。早く行こ」
双子に手を引かれ、ミツキは補給部隊へ連れて行かれる。
「いやぁ、偶然とはいえ、こっちに来て良かったわね。あたし達がいなければ危なかったよ」
「ですね。これでまた正式な整合騎士へ近づきました。騎士アリスにも恩を売れるかもです」
「お、いいじゃん。何かお願いでも聞いてもらおっか?」
そんな事を話していると、あっという間に中央の補給部隊へ到着する。フィゼルが医療班の人間を呼びに行っている間、リネルは嘆息しながらミツキに文句を言っていた。
「あの時……別れる前に言った事は本当ですから。あなたがいなくたってどうにか出来てました。汚れ損な上に、反逆者で幼女趣味の男に抱きしめられるなんて。本当の本当に最悪です」
ある事ない事チクチクと口撃を受けるミツキ。相変わらず表情は変わらないが、心なしか雰囲気がシュンとしてるように見えるのは気のせいだろうか。一頻り文句を言い終えたらしいリネルはそんなミツキの袖をクイと引くと、屈ませて耳元に口を寄せる。
「でも……まぁ、一応お礼は言ってあげます──助けてくれて、ありがとう……です」
ボソリと告げられたお礼の言葉。それがちゃんと届いているのかは解らない。
ただ少なくとも、今回のミツキの奮闘は、あの双子達にとって、大いに意味のあるものを残したであろう事は、確かだった。
実は今のミツキ、権限レベル的にはアンダーワールド最高(ベルクーリやアリス以上)です。
アドミニストレータ&チュデルキンという教会2トップのラストアタックを取ったことで、カセドラルでの戦いの時より大幅にパワーアップしております。
しかしとある理由から今の状態では完全支配術が使えないことに加え、おまけに敵のトップが目的の為なら損耗度外視で無茶振りするような奴なので、無双出来たとしても最初だけ、戦力ジャブジャブ突っ込まれて数ですり潰されるでしょう。戦いは数だよ兄貴。