ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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反撃開始

 クラインら仲間達が救援に駆けつけ、前線で戦う最中、アスナとミトは後方で自身の傷を治療しながら、皆がここに来た経緯をリズに尋ねた。

 ユイがアンダーワールドのことをALOの皆に説明し、リズとシリカ、クライン、エギル達が大勢のプレイヤー達の前で助けを募ったのだ、と──リズ本人は何てことの無いように言っているが、決して簡単な事ではなかったはずだ。

 この世界の存在もさる事ながら、そこに伸びる魔の手はどこぞの国が秘密裏に送り込んだ武装集団であり、奴らの目的が完遂されれば、仮想世界は愚か現実世界の未来すらも左右しかねない──そんな突飛も突飛な話を聞かされて、すぐに信じられる方がおかしい。しかもアンダーワールドにはペインアブゾーバーも無く、コンバートしたデータが無事でいられるかも危ういというのに。

 

 続々とログインしてくるALOからの友軍を見上げるアスナが心を感謝の念で満たしていると……

 

「あの……アスナ様。その方達は一体……?あの大勢の戦士達も」

 

 遠慮がちに進み出てきた騎士──レンリは、至極当然の質問を投げかける。彼の後ろにいる数人の衛士達も胸中を同じくしているようだった。

 

「あの人達は私の……私達の、大事な仲間です。リアルワールドから、応援に駆けつけてくれたんです」

 

 アスナの返答を受け、レンリは目を丸くしながら数歩、歩みを進め……リズとシリカの前で足を止める。視線を2人の間で何度か往復させた後、大きく安堵の息をついた。

 

「そうですか……良かった──正直に言うと、リアルワールドにはあの赤い兵士達みたいな人間が大勢いて、アスナ様達のような方が少数派なのでは、と……」

 

「そんなわけないじゃん!ま、こんな状況だし、気持ちはわかるけどさ──あたしリズベット、よろしくね騎士クン!」

 

「シリカって言います!」

 

「あ、はい!僕はレンリと言います」

 

 親しみある笑みを浮かべて握手を交わす3人。何の変哲もないただの握手だが、そこに込められる意味はとてつもなく大きなもの──リアルワールドとアンダーワールドという2つの世界で繋がった絆の1つ、その証であるように、アスナには思えた。

 この光景を忘れないよう、胸にしかと刻み込んだアスナは、ミトも治療を済ませたのを確認してから表情を引き締める。

 

「──リズ、コンバートしてくれた人達の数は?」

 

「あぁ、うん──頑張ったんだけど、やっぱ全員とはいかなかった。多分、2000ちょいってトコかな」

 

「2000も集まれば上々でしょ──なんせこっちには、最強ギルドの副団長様もいるんだし」

 

 そう言ってミトが視線を向ける先では、アスナが早くも作戦立案に取り掛かっていた。

 

「……来てくれた皆がちゃんと再コンバート出来る可能性を残す為にも、消耗戦は絶対に避けたい。あまり前線は広げず、回復(ヒール)を厚くしよう。──リズとシリカちゃんは、200人くらい後ろに下げて、支援部隊を作ってくれる?」

 

 アスナの指示を即答で了解した2人は、すぐさま人員集めに取り掛かる。アスナは次に、レンリ達守備軍へ目を向けた。

 

「ごめんなさい……不本意だと思いますが、整合騎士の皆さんは衛士の方々と一緒に修道士隊へ合流して、負傷者の治療に当たってください──リアルワールドからの援軍は神聖術に慣れてませんから、術式を教えてあげて欲しいんです。もし余裕が出来たら、攻撃術式で火力支援をお願いします。あ、それと……飛竜を1頭、後ろに待機させておいてもらえますか?」

 

「わかりました!」

 

 流石の頭の回転の速さでテキパキと指示を出していくアスナ。彼女の傍らには、ミトだけが残った。

 

「……それで、私は何をすればいいわけ、女神様?」

 

「決まってるでしょ──私と一緒に来て、1番前で暴れるよ!」

 

 そう言って、アスナは細剣の切っ先をミトの前に掲げる。

 

「了解──ッ!」

 

 不敵に笑ったミトは、自分の鎌を打ち合わせる。金打の音が小さく尾を引く中、2人は大きく腰を落として突進系ソードスキルの構えを取った。

 

「ッ──!!」

 

 先陣を切ったのはミトだ。

 地面を蹴ると同時に身体を捻り、腰に据えた鎌を旋回させながら突っ込んでいく──大鎌突進技《モータル・ペイン》が、前方に屯していた赤い兵士達をなぎ払った。

 そしてミトが作った突破口目掛け、アスナが駆ける。たっぷりと助走をつけ、超低姿勢で疾駆するアスナの細剣に水色のライトエフェクトが灯る──細剣カテゴリ最上位スキル、長距離突進技《フラッシング・ペネトレイター》──さながら地を這う一条の流星と化したアスナは、進路上の兵士達を貫き、或いは衝撃で吹き飛ばしながら、最前線へと切り込んでいった。

 

 スキル終了時の硬直時間を狙って迫り来る兵士……その身体が中程からスッパリと断ち斬られる。アスナの背中を守った、この戦場に於ける3柱目の女神──ユウキは、得意気に笑うのもそこそこに、アスナの元へ駆け寄った。

 

「アスナ、さっき降りてくる時に上から見えたんだけど──」

 

「うん、東から来る魔獣の群れの事でしょ──イーディスさんっていう女騎士の人が足止めしてるそうなんだけど……!」

 

「……あの数を1人は無茶だよ。その人が超高威力の爆発系魔法とか使えるんなら話は変わるかもだけど……この世界の人は、リアルのボクらと同じで一度死んだらそれきりなんでしょ──!?」

 

「そうだね……だから、あなたを探してたの──!」

 

「ボク──!?」

 

 話している間にも迫っていた、付近の兵士最後の1人を斬り捨てたアスナは、同じく振り抜いた剣を下ろしたユウキの肩を掴む。

 

「ユウキ。あなたはイーディスさんの応援に向かって」

 

「……大丈夫なの?まだ敵の数だって……」

 

「確かにその通りよ。けど、皆がいれば大丈夫──私がこういうの得意だって、ユウキ知ってるでしょ?」

 

「そりゃ、そうだけど……」

 

「お願い。あなたの《絶剣》で、イーディスさんを──この世界の人々を、助けてあげて」

 

 2人の《絶剣》の視線が交錯する。その短い間の後、ユウキは口元に小さな笑みを形作った。

 

「……分かった、向こうは任せて。──すぐに倒して、そのイーディスさんと一緒に戻ってくるから!」

 

 ユウキは部隊後方に向けて敵味方の間を駆け抜けていく。そして事前にアスナが頼んでおいた、移動用の飛竜が待機しているのを発見した。傍らに立っていた白銀の鎧の騎士に駆け寄る。

 

「ねぇ!その飛竜って──!」

 

「む……?飛竜を1頭待機させておくように、というアスナ様の指示と聞いているが……」

 

「あ、それ多分ボク!東にいる魔獣の群れを倒すの、手伝いに行けって!」

 

「イーディス殿を助けに……君1人でか?」

 

「うん──あ、でも大丈夫!こう見えてボク強いから。今ならこの──グラディア様、だっけ?──の神様パワーもあるし」

 

「グラディア……神話に伝え聞く剣神の力か……」

 

 頭1つ程上からユウキを見下ろす隻腕の騎士──エルドリエの言葉の続きを、ユウキは何となく理解できた。

 

「(いかに女神の力を宿しているとはいえ、こんな年端もいかない少女を独り、戦場に送り出さなければならないとは……我が身の無力が情けない。師に報いる為にも、ここは──)」

 

「──そんな事ないよ」

 

 まるで心の声が聞こえていたかのようなタイミングで、ユウキはサラリと言い放つ。

 

「その腕を見れば分かる。一生懸命戦ったんでしょ、大事な人達を守る為に。今だって、傷ついた人達を助けようと頑張ってる──そういう人、すごくカッコいいと思う」

 

 長剣を肩に担いだユウキは、言葉を続ける。

 

「でも、焦ったらダメだ。そうやって、とにかく何かを成そうと突っ走るのは……それは、もう時間が残されてない人がする事だから。ここで焦って、これからあなたを待ってる筈のたくさんの未来を置いていっちゃうのは勿体無いよ──だいじょーぶ、イーディスさんをバッチリ助けて、魔獣の群れもバーン!って倒しちゃうからさ!」

 

 そう言って笑うユウキを見て、エルドリエは胸の中に込み上げていた焦燥感が引いていくのを感じた。騎士は民を守護する盾であり、騎士と民は明確な一線で隔てられている、とそう考えていた彼が、まさか初対面の少女に自らの未熟さを諭されるとは。

 以前の自分なら、そんな事実は認めないか、或いは自らに厳しい叱責を飛ばしていたことだろうが……

 

 

 ──整合騎士といえど感情があります。緊張も、恐怖だってある。それを恥じることはないんです。それら全てを受け入れた上で立ち向かう勇気を持てさえすれば──その勇気を、他の誰かから貰ったっていいんですよ。

 

 

 以前レンリに言われた言葉が蘇る。

 そう──恥じる事はない。人とは学び、成長していく生き物だ。それは整合騎士も変わらない。そして学びを得る相手というのは、必ずしも、師と仰いだ憧れや、偉大なる先達である必要もない。

 

 部下として付き従ってくれる名も知らぬ衛士でもいい、かつて刃を交えた敵だっていい。街中で出会った若人でも、老人でもいい。本来なら自分達が守るべき民……年端もいかない少女から、学びを得たっていいのだ。

 

「……武運を祈る。イーディス殿のことを頼んだぞ、若き女神よ」

 

 そう言って、エルドリエは握った右拳をユウキに差し出した。

 

「──うん、任して!」

 

 自らも拳を打ち合わせて応じたユウキ。振り返ったエルドリエは、待機している愛竜の首を撫でる。

 

「──頼むぞ滝刳(タキグリ)。彼女をイーディス殿の元へ送り届けてくれ」

 

 頼もしい唸り声で応えた滝刳の背に飛び乗ったユウキは、思い出したようにエルドリエを見下ろす。

 

「あ、そうだ自己紹介してなかった──ボクユウキ、よろしく!」

 

「整合騎士、エルドリエ・シンセシス・サーティワンだ──ユウキ殿、貴殿と、貴殿の仲間達の助力に感謝する」

 

 もう一度笑みを浮かべたユウキを乗せ、滝刳は遺跡の東にいるイーディスの元へ飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナ率いる人界・リアルワールド連合軍が遺跡で戦う東側──巨大な異形の魔獣がゆっくりと歩を進める前で、単身奮戦する騎士がいた。

 

「シャアアッ──!」

 

「ッ──!」

 

 飛びかかってくる4足歩行の獣を躱しざま、首を落とす。決して足を止めず、すれ違う魔獣は全て斬り伏せる。

 

「──霧舞(キリマイ)ッ!」

 

 鋭い呼び声に応じ、上空から飛来した影色の飛竜が超高温の熱線で地を焼き払う。

 

「エンハンス・アーマメント!──影よッ!」

 

 整合騎士イーディス・シンセシス・テンは、武装完全支配術を発動させた《闇斬剣》を足元に突き立てる。すると彼女の影を通じて闇斬剣の闇が伸び、周囲の魔獣を次々貫いていった。

 

「はぁ……はぁ……ッ」

 

 荒い息を付きながら、剣を引き抜く。これでもう何匹目だろうか。

 見上げれば、ゆっくりだが着実に進行を続ける巨大魔獣──《母体》とでも言うべき特に大きな個体の腹から、次なる魔獣の群れが産み落とされている所だ。アレさえ倒せば増殖は止まり、あとは大した強さではない小型魔獣を掃討すればそれで終わる……この認識は恐らく間違っていない。現にイーディスも、霧舞に乗って上空から強襲をかけ、真っ先に母体を潰そうとしたのだが……

 

「(アイツ、斬っても斬っても再生するのよね……しかもかなりの速度で)」

 

 これだけ魔獣を倒していれば死体から空間神聖力が発生し、それを利用して強力な闇素術を発動できれば一気にカタを付けられる。しかしあの母体は周囲の空間神聖力を凄まじい勢いで吸収しているようなのだ。

 産み落とした魔獣が殺されれば、その神聖力をすぐさま吸収し、次なる魔獣の素になる……徐々に増殖数が増えていくこのサイクルをどうにか断ち切りたい所だが……イーディスには決定打が無かった。

 

 他の騎士達と違い、闇斬剣の武装完全支配術はそれ単体だと直接的な攻撃力の増大には繋がらない。先の影を用いた攻撃は闇素術との併用だし、それだって、空間神聖力を母体に持っていかれるせいであれ以上の大規模攻撃を行うのも難しい。

 

 デュソルバートやファナティオであればもう幾分容易に母体を倒せたかもしれないが……それを言っても無いものねだりだ。あと思いつくのは……再生を上回る速度でとにかく斬り刻んで、人間の心臓に当たる「核」を破壊するくらいか。

 

「(まぁそれも、こう疲れてちゃ難しいか──霧舞の援護も無限に続くわけじゃないし、隙を作れるとすれば記憶解放術しかないけど……闇斬剣(この子)の残り天命を考えれば、機は一度きり。もし仕損じれば、本当に打つ手が無くなる……!)」

 

 やれるだけやってはいるが、群れの進行を遅めるのが関の山、完全に止めるには至らない。母体の進行速度は遅々としているが、生み出された小型はその限りではない為、放置しておけば手がつけられない程の数になって、遊撃部隊に襲いかかるだろう。

 

 もう倒すのは諦めて、とにかく時間稼ぎに徹するしかないか……そう腹を括って剣を握り直した時──どこからか、飛竜の鳴き声が聞こえてくる。愛竜のものではない。

 

「アレは……滝刳──エルドリエ?」

 

 ベルクーリ共々アリスを追いかけていった筈だが……無事彼女を取り戻したということなのだろうか?何にせよ、人手が増えるだけでありがたい──そんな彼女の考えは、いい意味で裏切られた。

 

 

「で──やあああああぁぁぁッ!!!」

 

 

 気合一閃、叩きつけるように振り下ろされた長剣が、凄まじい衝撃と共に、文字通り群れを割る──それだけに留まらず、大地にも深々と斬撃を刻みつけた。

 突然の闖入者が放った斬撃の威力に舌を巻くイーディスは、その源が年端もいかない少女だった事と合わせ、二重の驚きを覚えた。

 

「ふぅ……何とか間に合った、かな──あなたがイーディスさんだよね?」

 

「え、えぇ、そうだけど……あなたは?」

 

「ボクはユウキ!えっと──アスナの友達って言えば、味方って信じてもらえるかな?」

 

「アスナさんの──それじゃあ、あなたもあっちの世界から来た、女神の力を借りてる人間ってこと?」

 

「そうそう。アスナに頼まれて、応援に来たよ!──まぁ、もっと大勢連れてこれれば良かったんだけど……今、向こうも大変だからさ」

 

「そう……ううん──それでも、助けに来てくれただけありがたいわ。それがこんなに可愛い女神様なら尚更ね」

 

「任して──ボク一応、向こうじゃ《最強》ってお墨付き貰ってるからさ──ッ!」

 

 グラディアアカウントに与えられた長剣《ソロウ・トライアンフ》をひと振りしたユウキは、またも生み出された魔獣達の群れに、果敢に切り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は北へ移り──アスナが作り出した峡谷。

 そこでは今も、外国人プレイヤー集団を抑えるべく殿を買って出た拳闘士団とシェータが奮闘を続けているのだが……

 

「オラァッ!──っく……がァ……ッ!」

 

 もう何人目かも数えていない、赤い兵士の顔面を打ち抜いたイスカーンの拳は、度重なる酷使によってひび割れ、歪み、腫れ上がり、血を流していた。蹴りを繰り出す足も似たりよったりで、それは他の拳闘士も同様だ。

 

 肉体を鋼鉄の如く固めて戦う拳闘士といえど、疲労が重なれば心意にも揺らぎが生じる。その揺らぎが傷を生み、その傷が更に心意を揺るがす──万を越える敵兵に包囲されながらも抵抗を続けた拳闘士団は、今やその大部分が戦闘不能に追い込まれていた。

 

 そして、イスカーンと肩を並べていた整合騎士──《無音》の異名を冠するシェータも、その鉄面皮には流石に疲労が滲んでいた。数多の敵を斬り伏せてきた《黒百合の剣》も、いよいよ限界を迎えて砕け散ってしまった。

 

「……クソが──もちっとやれると思ったんだがな……」

 

「……私も。どうせなら、最後に……」

 

「あぁ?……おいまさか、この状況でやり合おうってンじゃねーだろうな。流石の俺も引くぞ」

 

「……そう、思ってたけど……なんだか、違う感じ」

 

 ただ標的を斬ることのみに目を向け、心血を注いできた。殺戮の先にのみ、この身に渦巻く殺人衝動への答えがある、というアドミニストレータの言葉を信じて。

 イスカーンと最初に戦った際、黒百合の剣すらも弾いてみせる彼を斬ることが出来れば、何か掴めるかもしれない、と思っていたのだが──今、シェータの胸中には、これまでとは違うものが芽生えていた。

 

 ……出来る限り、彼との戦いを終わらせたくない?──違う。

 ……彼と一緒に、戦っていたい?──少し違う。

 

 ……彼を、殺したくない?

 

「──そっか……私が、これまで沢山斬ってきたのは……」

 

 シェータは傍らで膝をつくイスカーンの手を、そっと握る。

 

「……斬りたくないものを、見つける為だったんだ」

 

 冷たい氷のようだった彼女の目に初めて宿った、暖かい光──それを目にしたイスカーンの目にも、熱い(モノ)が込み上がってきた。

 

「ッ……あぁ──アンタと、所帯を持ちたかったな……俺達の子供なら、そりゃ強えぇ拳闘士になったろうによ」

 

「ダメ。その子は騎士にする」

 

 即座に言い返してきたシェータに、イスカーンは泣きながらも笑みを浮かべる。

 

 気づくには遅すぎたこの気持ちを胸に、せめて最期の瞬間まで──そう覚悟を決めた2人の視線の先で、数人の赤い兵士が轟音と共に吹き飛んでいくのが見えた。

 

 

「せぇい──ッ!!」

 

 

 翠玉の光が奔り、再び兵士達が吹き飛ばされ、光の粒子となって消えていく──兵士達の包囲を外から斬り破り、若草色の装束に身を包んだ女剣士が飛び込んできた。

 

 イスカーンもシェータも見知らぬその少女だが、身に着けている鎧や武具にどこか見覚えが──アスナのそれと似通っているように思えた。

 

「──あなた達、アンダーワールドの人よね!?」

 

「お、お前誰だ……!?」

 

「もしかして……アスナさんと同じ、外側の人間……?」

 

「良かった、アスナさんの事は知ってるんだ──あなた達は下がってて。コイツらは全員……あたしが斬るッ!」

 

 そう言うなり突っ込んでいく女剣士──少し遅れて、複数人の足音が。

 

「イスカーン、無事かッ!?」

 

「リルピリン……オーク族が何でここに」

 

「リーファのお陰だ。お前達を助けに来だ!」

 

「……そいつぁありがてぇが……何の見返りもやれねぇぞ」

 

「そんなもの要らねぇ。おで達は恩を売りに来たんじゃなく、助けに来たんだ」

 

 イスカーンは、リルピリンの真意を測りかねていた。オーク族と言えば、暗黒界十候の中でもとりわけ人族に対する憎悪の念を向けている部族だ。それが何の見返りも求めずに人間を助ける……?一体何があればこうも心変わりするのだろうか。

 

 考えられる理由とすれば、リルピリンが《リーファ》と呼んでいたあの女剣士だが……

 

「──恐らく、お前が考えてる通りよ。イスカーン」

 

 傷ついた拳闘士達を助け起こすオーク達の中から進み出てきた人物に、イスカーンは今度こそ声をあげて驚いた。

 

「ディッ、ディー・アイ・エル……!? てめぇ生きてやがったのか!?」

 

 例のアリスという整合騎士によって焼き殺されたとばかり思っていた暗黒術師総長。その姿はイスカーンの記憶にあるものと寸分違わなかった。

 

「生きてて残念だったわね──あの小娘がオーク族を説得したのよ。あろう事か、力でも策謀でもなく、純粋なる言葉でね」

 

「……だとして、何でてめぇが一緒にいるんだよ。てめぇもてめぇで、オークどころか亜人族全員を滅法嫌ってたろうが」

 

「えぇ。私があいつらを好きになる事はないでしょうね。まぁ──ちょっとした実験みたいなものよ。気まぐれとも言うかしら」

 

「実験だぁ……?今度は何企んでやがる」

 

「取り敢えず、今私達には共通の敵がいるという事だけ理解しておけばいいわ。あれこれ理屈を並べた所で、どうせ信じないでしょうし」

 

「イスカーン、コイツやおでを信じられない気持ちはよく分かる。だけど──リーファの事は信じてやってくれ。彼女は、おで達を助ける為に戦ってくれてるんだ」

 

 単身奮闘するリーファの後ろ姿をじっと見つめる。確かに、その背中から邪なものは感じられない。装いがアスナと似ている事といい、彼女もまたアスナ同様にこの世界を守るべく、皇帝ベクタと戦う勢力である事は確かなようだ。

 

「さて、取り敢えず私の役目に取り掛かろうかしら──このまま死にたくない者は、傷の酷い者から並びなさい。あの赤い兵士共のお陰で暗黒力には困らないから……今なら、誰の命を犠牲にすることもなく治療してあげるわ」

 

 そう言って、ディーは治癒術式の詠唱を始めるのだった。

 

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