ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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20時からEchoes of アインクラッドのPVプレミア公開が始まるぞ!
アーカイブは無いって話だ、ここは後でいいから、早く行って準備なさい!


約束の十字

 ──キリト(パパ)アスナ(ママ)、ミツキさんを助けて欲しい。

 

 

 ユイからそう頼まれたユウキは、二つ返事で了解した。

 

 あれからじき半年が経つ。体は順調に快復に向かいつつあり、この分なら来月には無菌室から通常の病棟へ移れるだろう、と倉橋医師からもお墨付きを貰った。

 つまり、恐らくは今回が自分とメディキュボイドの最後の仕事になるかもしれないというわけだ。

 

 基礎設計が同じメディキュボイドであれば、セッティングを変更することでSTLに極めて近しい運用が可能なはずだ。というユイの言を受け、少し時間がかかるかもしれないが、なんとかしてみる。と通話を切ったユウキは、すぐさま倉橋医師に連絡を取った。

 

 幸い当直として残っていた倉橋医師は程なくして病室を訪れ、ユウキは先程ユイから指示された通りにメディキュボイドのセッティングを変更するよう頼んだのだが……やはりと言うべきか、そちらは二つ返事で了承とはいかなかった。

 

 機密事項ということで、今アスナやミツキ達が巻き込まれている事態の詳細を話す訳にいかないのは勿論だが、それを差し引いても、医療機器であるメディキュボイドを医療目的以外に使用するというのは、昨今フルダイブマシンが置かれている立場的にも決して褒められた事ではない。

 ましてやユウキはれっきとした患者だ。何かしら理由はあるのだろうが、メディキュボイドのリミッターを外して、通常運用時の数倍の電磁パルスを出力できるようにするのは、医学的観点から見てもリスクが高いだろうことは容易に想像できた。

 

 ……実の所、わざわざメディキュボイドを弄らずとも、アンダーワールドへのダイブ自体は可能ではある。しかしキャラクターコンバートの処理はラース側で行う以上、要請に応じてくれた他のプレイヤー達と一斉にログインすることになり、一刻も早く助けに行きたいユウキとしては、いつになるかも分からないその時を待つのが焦ったく思えた。

 その点、この方法であればラース側からハイレベルアカウントを借りることで、準備が終わり次第ダイブが可能だ。

 

 倉橋医師の渋面にもめげず、ユウキは説得を続ける。

 

「──お願いしますっ!大事な……大事な友達なんです。諦めてたボクに未来をくれた人達を、今度はボクが助けてあげたいんです!終わったらちゃんと怒られます、だからっ……!」

 

 血液ドナーの身元を知りたがった時と同じか、それ以上の真剣さで頼み込むユウキに、倉橋医師は「自分の監視の下、何か異常が見られたら即時切断する」という条件付きでユウキの頼みを聞いてくれた──後の本人曰く「木綿季くんの珍しい我儘でしたから」と。

 

 ユイが繋いだラースとの回線越しに、倉橋医師は凛子の指示を受けてメディキュボイドの設定を変更していく。その間、ユウキは比嘉から、ダイブに使用するスーパーアカウントと、アンダーワールド特有のイマジネーションを使ったシステムについての説明を受けた。

 

『──とまぁ、グラディアアカウントに関する説明はこんな感じです』

 

「ふむふむ……つまり、とにかく敵を斬りまくればいいってことだね」

 

『まぁ、そうっスね。グラディアの《無制限切断》はチートレベルで強力ですから。ただ──』

 

 

 

 

 

 ──ダイブ前に比嘉から受けた忠告を、ユウキは戦場の真っ只中で、今更のように思い出した。

 

 グラディアの力は確かに強力だが、ソルスやステイシアのように広範囲攻撃手段を持たず、テラリアのような継戦能力も有していなければ、ルナリアのような搦手も使えない。文字通り物理攻撃一辺倒のアカウントだ。

 メディキュボイドを調整したことでSTLに近しいスペックを発揮できるようになった反面、デメリットも同様のものを抱えている。ニーモニック・ビジュアルによるリアルな痛みや疲労感は、時間が経てば経つ程、ユウキから気力と体力を奪っていく。長らく、肉体的疲労の存在しない仮想世界で過ごしてきたユウキからすれば、これは確かな違和感だった。

 

 そして今現在彼女が相手取っているのは魔獣の群れ……次々と際限なく湧いて出て圧倒的な物量を誇る群れに対し、グラディアの力は決定打になりにくい。

 これらの条件を踏まえ、ユウキが取れる戦法は実質1つ──群れの大元である母体を真っ先に叩く、短期決戦が望ましい。

 

 そう意気込んだまでは良かったのだが……この現状を見て分かる通り、そう上手くはいかなかった。

 

 イマジネーションの力で再現した《マザーズ・ロザリオ》を幾度となく母体に打ち込んだものの、周囲のリソースを吸収し、凄まじい速度で天命を回復し続ける──ゲーム風に言うならば、過剰も過剰なリジェネによって実質常時リレイズ状態──母体の核までは届かない。あらゆる物を一撃で断ち斬るグラディアの力と、《絶剣》と謳われた11連撃を以てしても、もうあと数手足りない。

 

 ユウキが攻撃を仕掛けるチャンスを幾度となく作ってくれたイーディスと彼女の愛竜《霧舞》も、終わりの見えない戦いで消耗を隠せないでいる。

 

 膝を突き、得物こそ手放さないながらも肩で息をするイーディスとユウキ。その周囲を、多数の魔獣達が取り囲んでいた。自分達を無視してアスナ達の元へ向かわない点はありがたいが……

 

「(完全に囲まれた……ッ)」

 

 どうにかして、せめてイーディス達だけでも逃がせないかと思考を巡らせるユウキだが、生憎彼女は根っからの前衛(フォワード)気質。作戦を考えたり、仲間達へ指示を出したりという経験は皆無と言っていい。

 新生アインクラッドのフロアボスを《スリーピングナイツ》だけで撃破した時──あの時はボス戦の指揮経験が豊富なアスナがいてくれた。それ以前……ALOとは違う、サムライ達の世界では、いつだって「彼女」が後ろを支えてくれていた。今は亡き、大好きな家族()が。

 

「(姉ちゃんっ……アスナ……ッ!)」

 

 歯噛みするユウキ。その一方──イーディスもまた、必死に思考を巡らせていた。

 

「(……やっぱり、何度考えてもコレしかないか)」

 

 イーディスは握り締めた愛剣を一瞥する。

 攻撃範囲の拡張や、遠間の攻撃でもない。単に相手の武器や防具をすり抜ける《闇斬剣》の武装完全支配術──そこに内包された記憶を全て現出させる、記憶解放術。

 

 イーディスは傍らのユウキに声をかける。

 

「……ねぇあなた。さっきから使ってるあのすごい技、あと何回使える?」

 

「えっ?……っと、まぁやろうと思えば何回でもいけると思うけど……正直、この分じゃあと1回──どんなに頑張っても、2回が限度かな……ごめん」

 

「いーのいーの、謝らないで──ちょっとした作戦、聞いてくれる?」

 

 イーディスは周囲を警戒しながら、考えた策を手短に説明する──それは、ユウキの思っていたような、この状況を打開するようなものではなかった。

 

「──あたしがこいつらの動きを止めるから、その隙にあなたはアスナさん達の所へ戻りなさい」

 

「……応援を呼べ、ってこと?」

 

「そう出来ればいいけれど……そんな余裕、ありそうだった?」

 

 口籠るユウキに、イーディスは小さく笑う。

 

「多分、そう長くは止められないだろうけど……できる限り時間は稼ぐわ。最悪、道連れに──」

 

「ダメだよそんなのッ!逃げるなら一緒に──ううん、ボクがここに残る!」

 

「こんなかわいい女神様の力を、こんな連中に使うなんて勿体無いでしょ?……厳しいことを言うようだけど、いくらあなたがすごい技を使えても、あいつを倒すには至らなかった──だったらその剣はもっと別の相手に向けるべきだわ。こんな所で無為に使い潰すなんて、それこそ絶対ダメ」

 

 イーディスの言い分は尤もだ。

 母体を倒せないまでも、グラディアの力が絶大であることに変わりはない。ならばわざわざ相性の悪い相手と戦わせず、もっと相応しい場でその力を振るってもらうべきだろう。

 同時に……イーディスの力は、1人でいる時(こういう時)が最も強く使えるのだ。

 

「……あいつを倒せればいいんでしょ。だったらボクがやる!ボクがちゃんとあいつを倒してみせるから!」

 

「倒せる見込みはあるの?ただ闇雲に剣を振るだけじゃダメだって、あなただって分かってるでしょ」

 

「分かってる──イーディスさん、あいつらの動きを止める方法があるんだよね?……10秒でいい、技に集中する時間を稼いで欲しいんだ」

 

「ダメよ。……その方法って言うのは、辺り一帯を無差別に闇で包み込むの。例えあいつを倒せる威力の技を繰り出せたとしても、当てられなきゃ意味が無い。それに──」

 

 イーディスは苦い顔で小さく俯く。

 

「それに、あたしはその技を……記憶解放術を、ちゃんと制御できる自信が無い。勿論、ちゃんと修練は積んできたし、あれ以来暴走した事もないけど……もし、あなたに万一の事があったら──」

 

「──大丈夫だよ」

 

 その一言が、イーディスの顔を上げさせる。もし、失敗してしまったら──そんな憂いの中に一筋の陽光が差した気がした。

 

「ここまでちょっと一緒に戦っただけだけど、イーディスさんがすっごく強くて、優しい人だって分かった。きっと沢山練習して、沢山戦ってきたんでしょ──だったら、こういう時こそそういう自分を信じてあげなきゃ──ボクは信じるよ、イーディスさんならバッチリ決められるって!」

 

「ユウキさん……」

 

「呼び捨てでいいよ──お願いイーディスさん。ボクに力を貸して!」

 

 この状況下でも眩しいユウキの笑顔を目にしたイーディスの口元に、笑みが戻っていく……

 

「……なら、あたしも呼び捨てでいいわ──あたし達2人でとっととこいつを倒して、皆の所に戻りましょう、ユウキ!」

 

「うん──やろう、イーディス!」

 

 剣を握り直したイーディスを背にしたユウキは、引き絞った剣の切先を母体に向ける。後ろから、イーディスの声が聞こえてきた。

 

「いい?闇斬剣の記憶解放術を発動したら、あたし以外は完全に視界が封じられる。ただ見えないだけじゃなくて、すぐに平衡感覚も狂っていくと思う。だから──」

 

「──目標目掛けて、最短、最速、一直線にカタをつける──任して。ボク、暗いの慣れっこだから」

 

 ユウキは長らくメディキュボイドの中で過ごして来た。

 ゲーム内で《寝落ち》して目覚めると、そこはメディキュボイド内の待機空間──カメラを起動していなければ、だだっ広いだけの真っ暗闇だ。少なくとも常人よりは暗闇の中でも動ける自信がある。

 

 イーディスは剣を捧げ持つように構え、深呼吸する。

 大丈夫、自分はもう、未熟だったあの頃とは違うのだ。そう自らを落ち着かせ、長年連れ添ってきた相棒の記憶を呼び覚ます言葉を──

 

「リリース・リコレ──ッが……ァ!?」

 

 突如として右目に灼けるような激痛が走り、視界が血のように赤く染まった。まさかこれが──

 

「ハァ、ハァ……ッ……これ、がッ……《封印》……!」

 

「イーディス……ッ!?」

 

「──集中しなさいユウキッ!あたしはッ……大丈夫、だから……ッ!」

 

 聞こえてきた苦悶の声に振り向こうとするユウキを、イーディスは鋭く制した。

 禁忌目録を始めとするこの世界の規律を破ろうとした者を、問答無用で諌める不可視の枷──半年前、ミツキとの戦いで手当たり次第に殴られ、つま先を貫かれ、腕を折られた時の痛みに比べれば……などと思っていたが、いざ実際に味わってみると、それらを軽く凌駕する激痛だ。

 焼けた鉄杭を眼球に差し込まれでもしたかのような感覚……なる程確かに、生半可な悪意や害意程度、この痛みの前では屈する他無いだろう。

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

 

 苦痛に苛まれながら、イーディスはこの封印を施したのだろうアドミニストレータのことを思い浮かべた。

 

《今後、周囲に味方のいる状況下での記憶解放術の使用を禁じる》──ちゃんと術式を制御できるようになれば、この禁は解いてあげる、と、在りし日の彼女は言っていた。

 客観的な事実として、今のイーディスであれば術式の暴走などという事はまず起きない。それでも尚こうしてイーディスを縛りつけるという事は……アリスやベルクーリが言っていた通り「上位者からの命令を破ろうとした」という事実のみで、この封印は発動するのだろう。

 禁を課した張本人ないし本人に認められた名代でなければ解除は不可能、そのどちらもこの世に存在しない以上、イーディスが取れる方法は1つだけ──

 

「こん、な……痛みなんかに、負けないッ……アリスはこの痛みを乗り越えたんだから!あたしだって……アリスを、人界に暮らす人々を、守る──こんなっ、誰も……救う事の出来ない禁忌なんかに、邪魔はさせない──ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 イーディスが世のしがらみに抗う中、ユウキは彼女ならきっとやってくれる筈だと信じ、瞳を伏せ、意識を集中させる……3度に渡り《マザース・ロザリオ》を耐えてみせたあの母体だが、だからといって、自分では奴に勝てない、などとは思っていない。

 

 ユウキはまだ本当の意味で《マザーズ・ロザリオ》を掌握出来ていないのだ。ALOで繰り出してきたあの技はシステムによるもの──システム外スキルによる威力ブーストだって、ユウキからすれば苦も無く出来た事であり、ユウキまだ本当の意味で……《魂》で技を繰り出せていない。だから届かなかった、だから倒せなかった。

 

 

 ──イメージしろ。《閃光》も《黒の剣士》も《裂槍》にも勝利した、「最強」の自分を。

 

 

 ユウキの胸に紫の輝きが瞬いた。その輝きは全身へ広がり、グラディアの純白の衣が闇を思わせる紫に染め上げられていく……

 

 

 ──描け、「最強」の自分に相応しき「最強の剣」を。

 

 

 引き絞った長剣《ソロウ・トライアンフ》が光に包まれ、その形状を変化させていく……肉厚な片刃の刀身が細く、鋭く……刺突に秀でた細剣も斯くやという所まで。

 

 

 ──示せ、《絶剣》が《絶剣》たる所以、何者にも負けない《絶対無敵の剣技》をッ!

 

 

 瞑目するユウキの中で練り上げ、鍛え上げられた剣気が空気を揺らしたその時──

 

 

 

「ッ……闇よ、周囲に帳を下ろせ!一筋の光も通さぬ、真の闇をッ!──リリース・リコレクションッッッ!!!」

 

 

 

 小さな紅い華が散華し、闇夜の騎士が剣を掲げる。漆黒の刀身より解き放たれた渦が、一瞬にして世界を闇で染め上げた。

 

「──行って、ユウキッ!」

 

 その声を背に受け、《絶剣》の名を背負いし女神が地を蹴った。

 視界は一部の隙もなく闇に染め上げられ、どれだけ目を凝らそうと、足元の地面すら見えはしない。その中をユウキは、脳裏に焼き付けた母体へ至る一直線の道筋を一心不乱に駆ける。

 

 1歩、また1歩……地面を踏み締める音すらも置き去りにするユウキの足が、不意にズルッと滑った。

 

「ッ──!?」

 

 死んだ魔獣が遺した粘性のある血溜まりが、闇の中でユウキに最後の抵抗を試みたのだ。即座に踏ん張って転倒は免れたものの、突然のアクシデントで距離感覚が掴めなくなった。

 

 あと何歩進めばいい?剣先の軸はまだ合っている?──そんなことを考える間に、イーディスが警告した通り、ユウキの平衡感覚が狂い始める──自分は今ちゃんと立てているか?どっちを向いている?この先にちゃんと敵はいるのか?

 

 何も……何も見えない、何も分からない。自分は、ホントウにイマ、ここにイルのかどウかも……

 

 歯噛みしながら、それでも足だけは止めまいとひた走る。そんな時だった──

 

 

──こっちだよ、()()

 

 

 このアンダーワールドに於いて、死者の強い思いが残留思念となって残るというのはそこまで珍しい事ではない。死別した肉親、恋人、友人などが一時の幻として現れた、といった話はよく聞くし、同時に、それを単なる妄言と捉える者も少なくない。

 それが果たして真実なのかはさておき……大前提として、これらは死したアンダーワールド人のみに起こりうる現象だ。

 

 だからこの「声」は幻聴の類か、或いは別の誰かの声を誤認しているだけなのかもしれない。だって起きるはずがないのだから。

 

 ──そんなの、ユウキにとってはどうでも良かった。

 ユウキにとってこの声は……自分のことを「ユウ」と呼ぶただ1人の声は、何よりも信ずるに値するものだったから。

 

 ユウキは声のした方へ方向転換し、速度を上げた。もう後どれくらいの距離かなんて考えず、とにかく走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ねぇユウ。ギルドの皆は元気?

 

 

 うん。ボクを入れて6人になっちゃったけど……皆、前を向いて頑張ってるよ。

 

 

──新しい友達はできた?

 

 

 うん。大事な友達がいっぱい、いっぱいできたよ。

 

 

──好きな子とかは?

 

 

 うぇッ!? そ、そういうのはボクにはまだ早いっていうか……!

 

 

──ねぇユウ。約束、覚えてる?

 

 

「例え残された時間が少なくても、幸せを諦めないこと」……うん、覚えてるよ。

 

 

──どう?今は、ちゃんと幸せ?

 

 

 ……姉ちゃん。ボクね、病気、治りそうなんだ。まだ少しかかるかもしれないけど、そう遠くない内に、退院して……また前みたいに、学校にも行けるようになるんだって。

 

 

──そっか。良かったね、頑張ったね。

 

 

 うん。……ねぇ、姉ちゃん。

 

 

──ん?

 

 

 ボク……頑張るよ。これからも、その先も、ずっとずっと、頑張る。

 メリダの分も、クロービスの分も、姉ちゃんの分も──ボクの命を繋いでくれた、大好きな人達に……大好きな姉ちゃんに、胸を張って「幸せだったよ」って言えるように。頑張って、生きていくから。

 

 

──うん。ゆっくり、たっぷり楽しんで来てね。待ってるから。

 

 

──いってらっしゃい、木綿季!

 

 

 最愛の姉の手と、更に別の2つの手がユウキの背を押し──目指していた場所へ送り届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらず周りは闇に覆われて見えない。見えないが……ハッキリと分かる。

 

 敵は目の前にいる。コイツこそが──今、ユウキが打ち倒すべき存在なのだと!

 

 握った剣に光が灯る。一切の光を通さない完全なる闇の中に在って尚、眩く輝く光が。

 その光に誘われるように、周囲の魔獣達がユウキに殺到する──その尽くは、虚空に広がる闇から出現した刃によって瞬く間に斬り捨てられた。

 

 同時に辺りを覆っていた闇が晴れ、光の刃を掲げし剣の女神の威容が、赤日の下に晒された──!

 

 視界に飛び込んできた異形の巨体目掛け、女神の刃が閃く。

 右上から左下、左上から右下……X状に放たれた神速の10連突きが、母体の肉を抉り進めていく。

 

 

「でぇえええええええいッ──!」

 

 

 1拍溜めてからの強烈なひと突きが、魔獣の首元を丸ごと吹き飛ばし──分厚い肉の内に隠された核を露出させた。

 ……それで終わり。剣神の力と共に放たれる11連撃を以ってしても、やはり足りない。一回きりの整合騎士の秘奥も、全てが無駄に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──などと考えているのは、魔獣達だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキの剣からは、まだ輝きが失われていない。突き出された刀身には、不規則に明滅を繰り返しながらも、光が灯されたままだった。

 

 出来るはずだ、たったもう数撃!《絶剣》ならば──!

 

 ユウキはあらん限りのイマジネーションを剣に込めるが、輝きは安定しない。それでも、諦めるものかと剣を握る手に力を込めた時……ふと、脳裏に浮かんだ記憶。

 

 その記憶が、ユウキの()()動かした。

 

 

「ぅ…おおおおおおおおお───ッ!!!」

 

 

 静止するかに思えた腕が、霞むような速度で振るわれる──!

 

 

 

「プロミストッ──ロザリオオオオオオオォォォッ!!!!」

 

 

 

《絶剣》最大の武器である剣速を最大限に活かして繰り出された、2つの斬撃──殆ど同時と言っていい2撃によって、光の十字架が暗黒界の空に突き立てられた。

 

 合計13連撃となったユウキの技は、母体の身体ごと核を斬り刻み、絶えず小型を吐き出していた魔獣工場は血と土煙の中に沈んでいった。残っていた魔獣達も、それに伴い塵に還っていく。

 

 剣を斬り上げた姿勢のまま、荒い息をつくユウキ。力尽きたように倒れる小柄な身体を、慌てて駆けつけたイーディスが抱き止めた。同時に、彼女の装いと剣が元の姿に戻っていく。

 

「……お疲れ様、ユウキ。あいつを倒せたのはあなたのお陰よ」

 

「へへ……っ、やったね──イーディスも、最後の最後で助けてくれてありがと。……って右目!大丈夫なのソレ!? すっごい痛そ〜」

 

 そう言われて、イーディスは今更のように、今の自分は右目が吹き飛んでいるのだと言うことを思い出す。戦いが落ち着けば治すことも可能だろう、と慌てるユウキを落ち着かせ、応急処置として破いたマントを眼帯代わりに巻きつけた。

 

 体を起こしたユウキは、ふぃ〜、と大きく息をつく。その様子が、あんな鬼気迫る大技を繰り出した剣士と同一人物とは思えず、イーディスはつい吹き出してしまった。

 

「にしても凄かったわねぇ、最後の技。あんなのを隠してたなんて」

 

「あー、はは……実はアレ、未完成っていうか……前々から《マザーズ・ロザリオ》より凄い技を作ろう、って色々考えてはいたんだけどねー。いざやろうと思うと、中々形にならなくて。もうとにかくなんとかなれー!って技名叫んだら、土壇場で出来ちゃった──みたいな?」

 

「……技名を叫ぶだけで、出来ちゃうものなのソレ……?」

 

 なんとも言えない顔をするイーディスに、ユウキはどこか得意げな表情でこう言う──

 

 

 

「ミツキとキリトが言ってたんだ──技名を叫ぶと威力が3倍くらいになる!──ってね」

 

 

 




はい、と言うことで、ユウキ&イーディスの戦いでした。
本来イーディスが封印突破して記憶解放するのはもっと後の話なんですが、ユウキ共々苦手な対多数戦を切り抜ける為というのが中々いい理由づけになったのではないかなと。

そしてマザーズロザリオ編でユウキが冗談のように言っていた「マザーズロザリオより凄い技開発しちゃうもんね〜」発言、見事実行してくれましたね。
技名は「プロミスト・ロザリオ」
従来のマザーズ・ロザリオに加え、11撃目からそのまま横薙ぎへ繋いで、旋回させた剣で真下から一直線にズパンと斬り上げる13連撃です。ただ、本人も言っているようにこの技はALOでは再現できてない代物なので、ユウキがこれを引っ提げてアスナと戦うのはまだまだ先になりそうですね。

ちなみになぜ、土壇場で完成したのかについてですが…川原先生の別作品であるアクセル・ワールドにて「心意技を発動させる際、イメージをより固め易く、より強固にする為に技名を口にする」というプロセスがあるんですね。
ユウキにとって、新技開発はアスナと交わした未来への約束みたいなもの、と言う事で。

ホントに威力が3倍になってんのかは知りません。ミツキたちに聞いてください。
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