──償い方は、何も死ぬだけじゃないだろ。
在りし日の浮遊城で、死に向かっていた自分を引き留め、前へ進むきっかけをくれた言葉が、ミトの脳裏に蘇る。
あの時のミトは自暴自棄になっていたと、自分でも思う。ちゃんと現実に向き合おうともせず、勝手に早合点して、自ら命を捨てようとしていた──そんな如何にも短絡的な行動を、彼は止めてくれたのだ。
とはいえ、ミトもバカではない──いや、馬鹿ではあったのだが──「君が死ぬことなんて友達は望んでない」とか、そんなありきたりな説得なら跳ね除けるつもりでいたし、その為の反論だってあった。
──何でそんなことが言えるの?あなたは
──
……きっと、彼も同じ考えだったのだろう。だから、後に続いた彼の言葉をすんなり受け入れられたのかもしれない。
──死のうとして死ぬのと、生き抜いた末に死ぬのとじゃ、結果は同じでも、意味は全く違うだろ?
──ソイツの分まで戦って、生き抜くのも償いになるんじゃないのか。その末に死ぬなら……
──
彼は、例え死んででも償おうとするミトの気持ちそのものは否定しなかった。
相手には相手の事情があって、考えて考えて考えて、その末に強い意志を持って選択を下した。であるのなら、赤の他人に過ぎない外野が何も知らないまま「それは間違いだ」なんて否定するのは違う。理解出来ないから、納得出来ないからといって、それら全てを「正しくない、間違っている」と切り捨てるのも、違う。
より良い方法で望む結果を提示できるなら話は別だが、上部だけの正義感でそれっぽいことを言い、正しいことをしたつもりになって自己満足に浸るなど以ての外。
衝突が避けられないのであれば……その衝突に勝つという事は即ち、相手を否定するという事だ。相手が必死に考えて、こうするしかない、そうしてでも、と決断した気持ちを否定する事だ。「お前は間違っていて自分が正しい」と決定づける事だ。
もちろん、誰にも彼にもその姿勢でいたわけではないと思う。矜持や信念の無い相手であれば真っ向から否を突きつけた筈だ。
それでも、「相手にだって正しさがある。相手からすれば自分の方が間違い」というスタンスは崩さなかった。
あのリューゲという男が語った「薄っぺらい正義感を振り翳し、その過程で犯した罪の責任を相手に全て押し付けて、のうのうと安寧を享受する」ことを、彼は良しとしなかった。
相手の価値観を認める寛容さは勿論、それを容認できずに衝突せざるを得ない時は、常に自分を「間違いの側」に置いて考える──それはつまり、誰かを傷つけ否定することを「正しいこと」にしたくない、という気持ちの表れだったのではないだろうか。
同時に、自分の考えこそが絶対と驕るわけでもなく……肩を並べる仲間達はその考えに賛同しないかもしれない、してくれても、余計な負い目を感じて苦しませてしまうかもしれない。だから隠す。誰にも明かさず、胸の内に留めておく。
それが彼──
全くもって難儀な、とりわけ今の時代では生きづらい性分だと率直に思う。
「……そんなあいつを業の深いダークヒーローに仕立て上げようって?冗談キツいわ、出来る訳ないでしょ──ッ!」
アスナがPoHに向かっていく一方、ミトは大鎌《バイオレント・デュアリティ》を縦横無尽に振り回し、リューゲを猛撃していく。合間に蹴り技を混ぜ込むことで隙を減らしているが、リューゲは逆にそこを突いてきた。
ミトの蹴りを受け止め、即座に軸足を払う──鎌という武器の性質上、攻撃は大振りの斬撃になりがちだ。センスも実力も悪くないが、長物の扱いはミツキの方がずっと上、というのがリューゲの見立て。バランスを崩して次の攻撃を不発にし、倒れた所を仕留めればいいイージーゲーム……そんな展開を思い描いていたが、ミトも大人しく倒れてはやらない。
「ッ──!」
足を払われるや、ミトは即座に空いている片手を地面について転倒を回避。足を掴むリューゲの手を支点として、払われた足をその勢いのままグルンッ!とリューゲに返した。
視角外からのミトの踵を避けられず、こめかみに一撃を貰ったリューゲは怯んでミトの足を解放。ミトはすぐさま飛び退って間合いを取ると同時に、お返しとばかりに振り向きざまの一撃でリューゲの足を文字通り刈り取ろうとする。しかしリューゲも小さくジャンプし、寸での所でこれを回避した。
「ッハハ……痛ェ痛ェ。やるじゃねェの──あー、そんで?出来る訳ない、だったか。俺はそうは思っちゃねェが……まぁ100歩譲ってそうだとして、だ──じゃあアイツはいつ、どうやったら楽になれンだろうなァ?」
リューゲは続ける──ミツキにとって、今の世界は生きづらくてしょうがない。善人は淘汰され、悪人ばかりが益を貪る世界だ。だが世界は変わらない、変えられない。だったら当人が変わればいい。ならば──
「──くっだンねェ正義感だのは捨てちまってよォ、いっそ自由気ままに悪に堕ちちまった方が幸せなんじゃねェの?悪人はいいぜェ?自分がロクでもねェ人間だって自覚してる。だから何をしたって良心の呵責も、罪悪感もねぇ」
「ミツキを正義のヒーローにしたいんじゃ無かったの」
「悪人が悪人ぶっ殺しちゃいけねえのかァ?おっくれてるゥ〜!──今さっき自分で言ったろうが、ダークヒーローってやつだよ。悪人なら、悪人らしい方法で悪人に制裁を下せる!──今時の連中にゃそっちのがウケ良いかもなァ?『悪い事した奴は何されたって当然の罰!だって悪い事する方が悪いんだもんね〜!』とかドヤ顔で言っちゃうような世代だ。これは正義の行いダ〜とかなんとか抜かしながら嬉々として他人を攻撃しといてェ、自分達がその悪人と同じことやってるなんてつゆ程も思わねェ…ッ!──そんな連中をこそミツキが裁いていくゥ!こりゃ中々に痛快じゃねェのよ」
「……そういうのって、大抵最後には破滅するのがお約束だと思うけど?」
「だ〜か〜らァ、俺ァミツキが最終的に死のうが生きようがそこは別にいーんだってェの!俺はアイツを使って世界を変えたいんだよ!人間なんてモンにゃ大して期待しちゃねェけどよォ、もしかしたら……超天文学的な確率で、出てくるかもしンねェジャン──正真正銘、
「アンタさ──」
差し込まれたミトの言葉に、リューゲの声がぴたりと止む。
「アンタ、随分ミツキにご執心みたいだけど……その割に、アイツの事全然分かってないのね」
「あァ……?」
「ラフコフじゃそういう連中が多かったのかもしれないけど──本当の悪人っていうのはね、悪事を働く時、一々『自分は悪人だから〜』なんて考えないのよ。アンタ『自分は生物だからこうしないと生きてけない』って考えながら呼吸してるわけ?」
「何が言いてェ」
「アレコレ理屈捏ねて、責任とか罪悪感から逃れようとしなかった──どんなに辛くたって、自分だけはそうする事を嫌ってきたバカみたいな不器用人間に、そんな器用な真似出来る訳ないでしょって言ってンのよ──!」
ミトの一声が、すぐ近くでPoHに押されていたアスナにも波及し、力を与える。
「ッ……そうよ──キリト君も、ミツキ君もッ……あなた達なんかに絶対渡さないッ!これ以上、あなた達なんかに傷つけさせないッ!」
「私の大事な友達を、命の恩人を助ける為にッ……あの日の私を乗り越える為にッ──今ここでッ!アンタ達をぶっ飛ばすッ!!!」
決意と共に、アスナの背に純白の翼が顕れる。この翼は、今のアスナの肉体である創世神に準えたものではない──あの光の十字架を空に打ち立てた、名実共に仮想世界最強の剣士が託してくれた必殺の奥義、その具現だ。
──やれる、今ならば。あの技を──!
翼から流れ込むように身体中を駆け巡る熱いモノが、手を通じて剣に流れ込む。その力は世界の理をも書き換え、有り得ざる奇跡を現出させた。
アスナの体が急加速し、一条の光となってPoHを貫く。もう一度、更にもう一度──四方八方から次々と閃光が突き刺さり、刺し傷がX状に連なっていく──!
「せ…やああああああああああァァァ──ッッッ!!!」
全霊を込めて繰り出される、一際強烈なひと刺し──OSS11連撃《マザーズ・ロザリオ》。
《絶剣》ユウキより継承した最強のソードスキルが、PoHの胸に大穴を穿った。
一方のミトにも、微細ながら変化が顕れた。ただしアスナのように翼が生えるのではなく……変化したのは、携えた得物だ。
「フ──ッ!」
ミトが鎌を振り抜くと、先端の刃が柄から離れ、通常なら届かない位置にいるリューゲ目掛けて襲いかかる。それが躱されたと見るや、刃に繋がる鎖を手繰り寄せ、引き戻す──ガチンッ!と刃が再び連結されると、今度は柄の部分が多節棍のように複数にバラけ、石突となっていたスパイク状の鎖分銅を投擲した。
「鎖鎌たァニッチな趣味じゃねぇの!けどなァ──!」
リューゲは術師に不釣り合いな動きで分銅を躱し、突っ込んでくる──遮蔽物の無い平野というフィールドは、鎖を用いた遠距離攻撃を阻害しない代わりに、受ける側からしても回避しやすいのだ。ミトの動きを見れば、鎖が戻ってくるタイミングもおおよそ掴める。
しかしミトが鎖を手繰り寄せる様子は無い。攻撃を容易く躱され動揺でもしたか、とリューゲが口元を吊り上げた時──
「──システム・コールッ!」
突如ミトが口にした、神聖術の起句。死角から不意打ちを狙っているのかと背後を見たリューゲ──咄嗟に屈めた頭を、鎖分銅が横薙ぎに掠めていった。
リューゲの背後──鎖が飛んでいった軌道上に、ミトが《鋼素》で生成した鉄杭が打ち込まれている。分銅は杭にぶつかって軌道を変え、その先にもう1本打ち込まれた杭に絡むようにしてUターン、振り子の要領でリューゲに再び襲いかかったのだ。
その後もミトは立て続けに杭を生成していき、幾度となく鎖の軌道を操ってリューゲに差し向ける。リューゲもその尽くを躱し、弾き、時折掠めながらも凌いでいった。そして──遂に、鎖の全長が限界を迎える。
「ハッ!詰めが甘ェんだよガキィ──!」
何本もの鉄杭の間を張り巡らされた事で、鎖は広範囲に渡ってリューゲを囲むように複雑に絡み合っている。全長もさることながら、こうなってしまっては引き戻すのも容易ではない。
「──詰めが甘いのはアンタよッ!」
飛びかかるリューゲを前に、ミトは左手に装着された月齢盤を稼働させる。これまでは守備軍の後衛部隊が治癒を行う為に展開していた結界を解除し、今、自分が戦っている領域──最低限、張り巡らせた鎖がすっぽり収まるだけの範囲を指定し、ルナリアの力を再発動した。
リューゲとミトのいる空間が暗闇に包まれる。展開された新月の結界の力は、内部に存在している空間リソースの抹消。これでリューゲは結界から出ない限り神聖術を使えない。しかしこの距離であれば、術なんか使わなくてもミトを殺せる。ボロボロに刃こぼれした骨の剣だろうと、少女の心臓を貫くなり首を刎ねるなり、十分に事足りるだろう。
だがリューゲの判断には、1つだけ抜け落ちていた事がある──本人もたった今、それに思い至った。
ルナリアの新月の結界が影響を及ぼすのは、空間リソースだけではない。
リソースが形を成したもの──素因によって形作られた器物や術式も、一様に消し去られる。
即ち、先程ミトが打ち込んだ大量の《鋼素》で出来た鉄杭も霧散し──雁字搦めになっていた鎖が、自由を取り戻すのだ。
「オ──らァッ!」
不敵な笑みを浮かべたミトが鎖を一気に引っ張ると、周囲の鎖が一斉に光に包まれた。
ライトエフェクトに彩られた鎖が渦を巻き、リューゲを追い込むように縮小していく……やがて鎖はリューゲに絡みつき、身動きを封じた。
「ぐッ……ッンだよまたかよクソがァッ!」
毒づくリューゲは鎖を引き千切ろうともがくが、ガッチリと体を縛る鎖は小さな金属音を発するだけ。当然、この期に及んで繰り出した技がただの拘束技である筈がない。宙を舞ってミトの元へ戻ってきた鎖分銅にはまだライトエフェクトが灯ったまま……
「ぶち…抜けえええええええええェェェ──ッ!!!」
全力の気合いと共に、ミトは振りかぶった鎌の背で、分銅を力の限り
ガキィンッ!と確かな手応えを残し、打ち出された分銅はリューゲ目掛けて飛んでいく──鎖鎌カテゴリ上位技《ランバージャック》が、鎖の間から僅かに覗いていたリューゲの胸を貫いた。
リューゲも、PoHも、各々が受けた技の衝撃で大きく吹き飛ばされる。PoHは遺跡の壁に激突し、リューゲは今も尚殺し合いを続ける赤い兵士達の中へ放り出された。
「はぁ…はぁ……ッ」
鎖を巻き戻し、ガチンッと元の状態に戻った鎌を支えに、ミトは荒い息をつく。一度アスナの方を伺ってから、ミツキへ……
……正直に白状すると、ミトはミツキに対しささやかながら好意を持っていた時期がある。
と言っても、思い出したようにそれを自覚したのは帰還してから1年が経った後──O.Sの一件があった本当につい最近の事で、もうとっくに過ぎ去った恋として処理出来ているのだが。
発端であるSAO当時、ミトは早々に攻略の最前線から身を引き、職人として店を構える為に奔走していた事もあって、ミツキと顔を合わせる機会も減っていったし……何よりあの時にはもう、ミツキの隣にはアリスがいた。そしてそのアリスとも、アスナに続く大事な親友となり、ミトは2人の幸せを心から願い、結婚したと聞いた時は両手をあげて祝福した。
もっと言うなら──これは当人達も全く気付いていない事だが──SAOベータテストの折、ミトとミツキは何度か顔を合わせ、なり行きで暫定パーティも組んだことがある。ミツキも得意としている格闘を織り交ぜた戦い方は、実はミトのスタイルから着想を得たものだった。
初対面の時の恩を返す為というのは勿論だが、本当にそれだけか?と聞かれれば……ミトとしても、イエスと即答は出来ないのが正直なところだった。
「ミト──!」
仲間達が喜びの声に沸く中を駆け寄って来たアスナに、ミトは小さく頭を振って応じる。
「アスナ、大丈夫?怪我は?」
「こっちは平気。ミトの方こそ、アイツらに拘束されてた時……」
「あぁ……うん、私も平気。ちょっとジンジンするけど、血も出てないし」
一度地面に打ち付けられた額は少し赤く腫れているものの、出血は見られない。お互い全くの無傷というわけではないが、大事に至るような痛手は負わずに済んだようだ。
「……やっぱりミトは強いね。一緒にいてくれると、すごく頼もしい」
「ん、ありがと。──まぁ初恋相手を助けようってわけだしね、気合いも入るってモンよ」
「あはは──は……ハ…?」
親友の口から脈絡もなく出てきたとんでもない発言に、アスナは言葉を失う。
「え、あ……の、ミト……?は、はつッこ──だ、だれ……!?」
「ぷっ……あ、安心してアスナ…むっ、昔の話……ッ!」
目がぐるぐる回っているのが目に浮かぶような狼狽ぶりのアスナを見て、ミトは笑いを堪えながら答える。
──不意に、そんな和やかな空気を、瓦礫の音が壊した。
即座にスイッチが切り替わり、2人して音の発生方向を見やる……土煙の中、ゆらりと立ち上がる人影の正体は、先程アスナに吹き飛ばされたPoHだが……
「嘘でしょ……あの傷でまだ動けるっていうの……!?」
PoHの胸には、渾身の11連撃を余す事なく受けて穿たれた空洞がある。そこにあるはずの
「あの武器がッ……空間神聖力を、吸収しているのか……っ!」
右腕を押さえ、呻くように溢されたメディナの言葉。確かに、立ち上がったPoHの体からは力みが一切感じられず、頭も項垂れたまま。真上に掲げられた肉包丁だけが異様な気配を放っている。あれではまるで、剣が持ち主を動かしているかのようにすら見えた。
最早PoHの代名詞とも言えるあの肉包丁──固有名《
デスゲームと化したSAOに於いては最悪と言って差し支えないそんな武器を手にしたのがよりにもよってあの男だったのは、あの2年間の中でもトップレベルの凶事だったと言えるだろう。
そしてそんな代物がこのアンダーワールドに持ち込まれたことで、あの武器は殊更厄介な能力を獲得していた。斬った人間の
「だったら……ッ!」
ミトは神聖力を消し去る新月の結界を、PoHの周囲に展開しようと月齢盤を稼働させる──持ち上げたその腕から先が、突如として消失した。なんの前触れもなく、忽然と。そこに残ったのは凄まじい激痛だけだ。
「なッ……に、が……!?」
まるで空間ごと削り取られたかのように綺麗な断面を残して消えた月の女神の左手──原因は、こちらも全身ボロボロになりながら立ち上がった暗黒術師だった。
「ア゛ァ゛ッ……クソがァ……やってくれやがったなァ」
吹き飛ばされた先にいた赤い兵士達から直接天命を奪い、更に肉体を接合する形で最低限動ける程度に肉体を修復したリューゲが、触れたものを消失させる性質を持つ《闇素》でルナリアの月齢盤を左手ごと消し去ったのだ。
対抗策を失い、またも窮地に立たされる。こうなればPoH諸共あの剣を破壊するしかない、と細剣最上位剣技《フラッシング・ペネトレイター》の構えを取るアスナだったが……
『同志達よッ!! これが日本人の本性だッ!軟弱な裏切り者も、そして汚い日本人共も──1人残らず殺し尽くせェェェ──ッ!!!』
意識を取り戻したPoHの号令。しかしそんなもの、最早誰も聞き入れはしない──その期待は、容易く裏切られた。
PoHの言の葉はドス黒く澱んだ心意となって、ダークテリトリーの空を覆っていく……その下にいる赤い兵士達の意識を問答無用で侵し、最早大義も何も関係なく、PoHの命令に従うだけの傀儡となってしまった。
自我を奪われた兵士達は我先に駆け出し、人界軍及び、PoHの意思に従わない中韓プレイヤー達を手当たり次第に殺していく……
こうも大規模な混乱になってしまっては、アスナとミトでは手がつけられない。自陣に大きく接近を許してしまった以上、ステイシアの地形操作も味方を巻き込む危険性がある。
せめて……せめて彼らだけでも守らなければ──動き出した瞬間、アスナ達には目もくれず走り抜けていく赤い兵士に突き飛ばされ、倒れ込む。
「アスナッ……!」
ミトに助け起こされる。ここまでの消耗に加え、リューゲによって左手を奪われたのは長物使いとしては致命的だ。心意の力も、彼女にとってはそう簡単に発動できるものではない。
「キリト君っ……ミツキ君……っ!」
アスナが手を伸ばす先では、力無くアスナに手を伸ばすキリトと……雑踏の中、尚も立ちあがろうともがくミツキの姿があった。
──立て。
──立てよ。
──立って戦え。何這いつくばってんだ。
──お前が生きてる意味は何だ?戦う為だろ。
──戦って、戦って、戦って、お前と言う存在の全てを、魂の一片まで余すことなく使い潰す為だろうが。この世界を守る為に。
「………」
──黙ってんじゃねぇよ立てッ!
怒号と共に、背中を足蹴にされる。続けて、周囲からたくさんの石が投げられる。
大きさは大小様々だが、形は総じて角張っていた。当たるととても痛い。両の手足に嵌められた枷には内側に棘が付いてて、それだけでもすごく痛いのに。
少年を袋叩きにする群衆の中で、とりわけ過激に暴力を振るう黒い影が、うずくまる少年の髪を掴んで顔を覗き込む。
──お前みてぇな人殺し、これくらいしか役に立てないんだぞ!立てよ、どんなに痛かろうが辛かろうが、泣き言言わずに立って戦え!
──まさか「許してほしい」なんてほざく訳じゃないだろ?お前のやった事は到底許されるようなモンじゃない。お前如きの命を捧げた所で何の償いにもなりゃしない!
──命程度じゃ足りないんだよ。お前が持ってる全てを捧げろ。全てを使って償え。
──当然だよな?後生大事にしてたモンをぶっ壊したのはお前自身なんだからなァ!
──お前のせいだ!お前が弱いせいだ!お前がもっと強ければ、覚悟が決まっていれば、こんな事にはならなかった!
「……そうだね。俺のせいだ。俺がもっと強ければ、死なずに済んだんだ。辛い決断をさせなくて済んだんだ……」
──分かってんなら戦え!少しでも多くの人々の盾になれ!少しでも多くの敵を、少しでも多くの味方の代わりに殺せ!そんで最後にゃ地獄に堕ちろ。
「………」
──ちッ……立てっつってんだろうがッ!
胸ぐらを掴まれ、顔を殴られる。
少年の目が覚めるようにと、何発も、何発も、何発も、何発も、何発も──
「──そこまで。……もう、そこまでだよ」
……何発目かのパンチを、止める手があった。
殴られていた少年の掠れる視界に見えたのは……拳を引き留めるコバルトブルーの袖と……
……絶対に忘れるはずのない、亜麻色の髪だった。
ミトの足癖の悪さはミツキに伝染していた!
プログレッシブにて、ゲーセンで格ゲーしながら「オラオラオラオラ…!」言うてた辺り、ミトは多分熱くなると口が悪くなるタイプ。
尚、「鎖鎌のスキルってホーミング無かったっけ?わざわざ回りくどい事せんでもよくね?」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、本作では鎖鎌スキルにホーミングは無いか、あっても精度が甘い。5層ボス戦でコロッサスの弱点にビシバシ当ててたのは、ミト本人の技量に寄る部分が大きかったという事でひとつ。職人やってたのと帰還後のブランクを踏まえれば、鎖捌きはこう、いい塩梅に腕が鈍ってるはず。
前回に続き、アスナとミトとで各々別の相手と戦うことになったわけですが、どうも描写がミツキサイド(メディナとかミトとか)に偏りがち…エイジもO.S編でミツキとガッツリ関わったキャラですし、ちゃんと描きたかったんですが…如何せん、あのシーンはアニメ見れば大部分補完出来ちゃう部分が多くて。
今回アスナ側の描写がほとんど無かった事といい、私の力が及ばず申し訳ないです。
大戦編ももう佳境、力が…力が欲しい…!