ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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分割前編です、後編は明日か明後日には更新できると思いますので、少々お待ちを


支配された街

 2024年現在、この世界で生き残っているプレイヤーの総数は約6000人。

 その内の約3割──およそ2000人近い数のプレイヤーは、ゲームが始まってから2年経つ今でも第1層《はじまりの街》に閉じ篭っているとされている。

 

 戦う事が出来ない彼ら彼女らを責められはしない。誰もが最前線の攻略組のように現実へ立ち向かえるわけではないのだから。この世界からの脱出を目指す勇気は、彼らにとっては自らの命を投げ出すに等しい蛮勇に見えているのだろう。

 

 数日ぶりに訪れた《はじまりの街》の空気は、そんな彼らの心境を表したかのように寒々としていた。

 

「──ユイ。何か見覚えのある建物とか、そういうのは無いか?」

 

 キリトにおんぶされたユイはキョロキョロと辺りを見回すが、首を横に振る。やはり完全に記憶が飛んでしまっているようだ。

 

「俺達はサーニャに会いに行ってみる。そっちは街を回りがてら、掲示板を見てみてくれ」

 

「分かった。何かあったら連絡くれ」

 

「そっちもな」

 

 ユイはキリト達に任せ、俺とアリスは街の教会を目指して移動を始めた。あそこにはユイのような身寄りの無い子供達が集まって暮らしており、その面倒を見るプレイヤー達の1人がサーニャなのだ。彼女から話を聞ければ、何か手がかりが掴めるかもしれない。

 

「……少し、妙ではないですか?」

 

「何がだ?」

 

「ここに閉じ篭ったままのプレイヤーの数に対して、すれ違うプレイヤーが余りにも少な過ぎる」

 

「……なる程、確かにな」

 

 中央広場から教会までの道は決して長い訳ではないが、それにしても人が少ない。転移門の周りには人っ子1人いなかったし、ここまでにすれ違ったのはたった2人だけだ。

 

「思い返せば、そのプレイヤー達も妙に挙動不審というか──やたら周りを気にしてたな。まるで何かに見つからないよう隠れてるみたいだった」

 

 ゲーム開始時からずっとこの街に篭っている人々にとって恐怖の対象になり得るのは、何もモンスターだけではない。恐らくだが、彼らは──

 

「──少し急ごう」

 

「はい」

 

 足を速め、前方に見えてきた教会へ急ぐ──すると教会の中から1人の女性プレイヤーが現れ、どこかへ走っていくのが見えた。切迫した様子なのが遠目でも分かる。顔を見合わせた俺達は、その女性プレイヤーの後を追った。

 

 ──急いで追いかけたものの、《はじまりの街》は《アルゲード》に及ばないまでも入り組んだ構造をしているせいであの女性を見失ってしまう。《索敵》の派生スキルである《追跡》はパーティやフレンド登録をしていないと効果が無く、どこの誰とも知れないプレイヤーを追いかけるのには使えない。

 

「まだそう遠くには行ってないはずだが……」

 

 恐らくメインストリートから裏路地へ入り込んだのだろう。手近な路地を覗き込んでいると、

 

 

「──子供達を返してください!」

 

 

 人気の無い路地の奥から、そんな声が聞こえてきた。アリスと頷き合い、声のした方へ駆ける。

 

「──ミツキ、アリス!」

 

「こっちだ、行くぞ!」

 

 そこへ、あちらも声を聞きつけて来たのだろうキリト達も合流。4人と1人で石畳の道を疾走する。何度目かの角を曲がった先に──先程見た女性の後ろ姿と、その前方で路地を塞ぐようにして立ちはだかる数人のプレイヤーの姿が見えた。重そうな金属鎧と緑色のマントには見覚えがある。あれは《軍》のユニフォームにもなっている装備だ。

 

「(あいつら……ッ!!)」

 

 歯噛みした俺は更に一段スピードを上げ、思い切り地面を踏み蹴る。上げに上げた敏捷と筋力ステータスに物を言わせ、俺達4人は《軍》の連中の頭上を跳び越えた。路地の奥で追い詰められていた3人の子供達の前に降り立ち、俺とキリトは《軍》を警戒する。

 

「──怖かったね。もう大丈夫だよ」

 

「装備を戻して下がっていなさい。よく頑張りましたね」

 

 そう言って子供達を安心させた2人もまた、奴らをキツく睨む。

 

「……何だお前らは?」

 

「我々解放軍の任務の邪魔をするつもりか!?」

 

「任務……?いつから軍は子供をカツアゲするチンピラ集団に成り下がった」

 

「仮にもゲームクリアを掲げる巨大ギルドのやる事とは思えないぜ」

 

「おいおい…何か勘違いしてないか?俺達はそこの子供達に社会常識ってやつを教えてただけだよ。これも軍の大事な任務の内なんでな」

 

「こんな小さな子供に寄って集って、それのどこが常識なのよ!?」

 

「あぁ……見ない顔だと思ったら、お前ら余所者か──いいぜ教えてやる、そいつらは納税の義務を怠ったんだよ。その滞納分を払うよう催促するのは、何もおかしくないだろう?」

 

 納税──以前エギルの店で小耳に挟んだことがあった。軍は《はじまりの街》のプレイヤー達から徴税を始めるつもりだという噂。その時は冗談半分に聞いていたが、まさか本気だったとは。

 

「この保母さんらは随分税金を滞納してるのさ。持ってる金だけじゃない、装備も置いてって貰わなきゃ困る──武器も防具も、何から何まで全部、な」

 

「愚かな……ッ救うべき民衆、それも幼い子供まで虐げるなど言語道断。ましてや貴様達のような下衆が解放の2文字を掲げていると思うと虫酸が走る……ッ」

 

「……口の聞き方に気をつけろ。この街で解放軍に楯突く意味が、分かってんだろうなァ──ッ!?」

 

 集団のリーダーらしい男は腰から音高く剣を抜き放ち、威嚇するように頭上に掲げる。薄暗い路地へ微かに差し込む陽の光で刃がギラリと輝いた。

 

「別に《圏外》に行ったっていいんだぜこっちは。おぉん?」

 

 後ろの子供達は怯えたように萎縮する。しかし最前線で戦ってきたモンスター達──それこそ74層のボスが振るっていた大剣と比べれば、あんなひと目で未使用品と分かるブロードソードを見せびらかされた所で俺達には何の効果も無い。一周回って微笑ましさすら覚えそうになる。

 

 だが……この世界に於いては、「人に剣を向ける」という行為そのものに大きな責任が伴う。断じて、あのような下衆いた笑みを浮かべながらやっていい行為ではない。それは《圏内》だろうと同じだ。

 

 故に──

 

 

「──だったらこっちも教えてやる」

 

「──キリト君、ユイちゃんをお願い」

 

「伏してその身に刻むがいい──戦いの恐怖を」

 

 

 キリトを除く俺達3人は各々の得物を装備し、軍の連中と真っ向から向かい合った。

 

「なんだ、やる気か?たった3人、しかも女連れでこの数に敵うと──ぅぐぁッ!?」

 

 言葉を最後まで言い終える事なく、男の胸に光が突き刺さる──アスナの放った細剣(レイピア)基本技《リニアー》だ。一時的とはいえ前線を退いて尚、衰えるどころか更に磨きのかかった《閃光》の一刺しは紫色の光芒を散らしながら、男を大きくノックバックさせた。

 

「安心して。ここは《圏内》、どれだけ攻撃されてもHPは減らないわ」

 

 アスナの言う通り、《犯罪防止(アンチクリミナル)コード》によって守られている街の中では、基本的にどう足掻いてもHPを減らす事は出来ない。振るった武器はアバターに命中する前にシステムの壁に阻まれてしまう。だがHPが減らないという事は同時に、どれだけ攻撃してもカーソルの色は変化しない事を意味する。

 その仕組みを利用し、攻略組の間で考案されたのが《圏内戦闘》という訓練法だ。上へ昇るに連れて増えてくる武器を持ったMobや、或いはプレイヤーとの戦闘を想定し、万が一の事故があり得るデュエルを介さずに行う模擬戦闘。

 攻撃側が高レベルの手練であればある程、防護壁が発生させる光や音はどんどん過剰になっていき、被攻撃時に受けるノックバックも相まって、自身がシステムに保護されていると分かっていても、本能的な恐怖が呼び起こされるのだ。

 

 こういった訓練を積まずに最下層で威張り散らすだけの軍の兵士は、次々繰り出されるアスナの攻撃に手も足も出ない。悲鳴を上げながら石畳の上を転げ回るだけだった。

 

「おっ、お前ら!見てないで助けろ──ッ!」

 

 その声に反応し、周りの仲間達も気づいたように武器を抜く。それだけではなく、ここに続く周辺の路地を塞いでいたらしい兵士達までゾロゾロと集まってきた。

 

 敵も増えたことで、俺とアリスはアスナの両隣に並び立つ。大きな街の小さな路地で、3人の攻略組による大立ち回りが始まった。

 

 アスナの《リニアー》が突き刺さり、アリスの《スラント》が斬り上げ、俺の《シャフト》と──時折混ぜ込まれる《体術》スキル正拳突き《閃打》が、兵士達を次々と吹き飛ばしていく。やがて恐怖に怯えた者から、我先にと逃げ出していった。

 正直に言うと先回りして逃げ道を塞ぎ、まだまだお灸を据えてやりたい気持ちもあったが、目的は彼らを甚振る事ではない。そんな事をすれば、一撃の下に兵士達を斬り捨てる──この場合は打ち据える、と言った方が正しいか──愛しの相棒の剣が俺にまで向けられそうだ。

 

 みるみる数を減らしていく兵士達。その中の1人が、路地の隅に退避していた女性──兵士達の言葉を聞くに子供達の保護者なのだろう──に手を伸ばし、まるで人質を取るかのように捕まえた。

 

「お、おら武器を捨てろッ!コイツがどうなってもいいのかよ!」

 

 ……最早呆れて声も出ない。散々ぶっ叩かれたせいでここが《圏内》だという事すら忘れてしまったのか。俺やアスナならばこの状況でも兵士の顔面にピンポイントで刺突技を叩き込む事が出来たが、その必要は無さそうだ。と俺達は武器を収める。

 

「お、おう。物分りがいいじゃねぇか。次は土下座だ!俺達にこんな真似した事、土下座して侘び──ロォッ!?」

 

 突如、兵士の頭上で爆発じみた音と共に紫の光が炸裂する。それに伴い、兵士は気を失ったようにその場へ倒れこんだ。

 

 

К черту(ク チョールトゥ)、ですわ──(わたくし)が不在の時を狙ってこのような乱暴狼藉を働くだなんて……あなた方《軍》も落ちる所まで落ちましたわね」

 

 

 建物の上から飛び降りざまに繰り出された渾身の縦斬り《バーチカル》──その名残である青いライトエフェクトを散らす深紅の片手剣をひと振りした紅いレザーコートの少女、サーニャは、倒れる兵士を冷ややかな目で見下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──軍の連中は捨て置き、俺達は子供達を連れて教会へ戻ってきた。

 

「まずは、子供達を助けてくれた事を感謝致しますわ。спасибо(スパシーバ)──そして、また貴方達とお会いできて嬉しいですわ。お久しぶりですわね、4人共」

 

「サーニャさんも元気そうで良かったわ。最近、あまり前線に顔を出さなくなってたから少しだけ心配だったの」

 

 アスナの言葉を受け、申し訳なさそうに微笑む。最近会う事が減っていた理由は、やはりというか軍が原因だったようだ。先のような恐喝紛いの手口でこの街のプレイヤー達に圧政を強いる連中から子供達を守る為、ここを離れることが出来なかったのだろう。

 

「私が稼いだお金は子供達の為にあるのであって、あのような野蛮な方々の懐に入れるお金は1コルも無い──そう言って、取立てに来た兵士を門前払い、時には実力行使で片っ端から追い返してきたのですけれど……それが今回のような事態を引き起こしてしまったのかもしれませんわね。ごめんなさい、サーシャ」

 

 サーニャの隣にいるメガネを掛けた女性の名は《サーシャ》。サーニャと一緒にこの教会で子供達の面倒を見ているのだそうだ。

 

「気にしないで、サーニャ。あなたがああやって矢面に立ってくれなければ、今頃もっと辛い状況になっていたかもしれないもの。少なくとも私はあなたが子供達の為に戦ってくれて心強いし、嬉しく思ってるわ──寧ろ私の方こそ、あなたに頼りきりで……」

 

「──それよりも……ユイと言いましたわね、その子は大丈夫ですの?」

 

「……うん……気を失っただけ、だと思う。でも、明らかに普通じゃなかった」

 

「ああ。あんな現象、初めて経験したよ──」

 

 ──《軍》の連中を黙らせた直後の事だ。キリトの背中で事の成り行きを見守っていたユイは、

 

「みんなの、こころが……!」

 

 という言葉と共に、ふと虚空へ手を伸ばした。何か思い出したのかと問いかけるキリトだったが、返って来たのは

 

「わたし、ここにはいなかった……ずっと、ひとりで…くらいとこにいた……!」

 

 という、俺達には意味を掴みかねる言葉。そこから更に、何か思い出そうと顔をしかめたユイだったが──不意に、頭の中に直接響いてくるような嫌なノイズが辺りを走ったのだ。「ママ、怖い…!」と恐怖に怯えながらアスナに泣きついていたユイはそのまま気を失い、今に至る──。

 

「皆の、心……キリト、ミツキ。お前達でも心当たりはないのですか?」

 

「うーん……残念ながら何も」

 

「俺もだ。ここに来て変化があったってことは、やっぱりユイちゃんの記憶は1層絡みと考えるのが自然ではあるが……手探りで何かを探すには、1層(ここ)は広過ぎる」

 

「一応、『心がどうの~』って感じのクエストはいくつか思い当たるんだけどな……ユイはクエストNPCじゃないし、受注できる場所も上の層だ。何より『暗い所にずっと1人でいた』ってのが分からない。そんな場所に閉じ込められるクエストなんて聞いたことないよ」

 

 ベータテスト時代まで記憶を詳細に遡ってみても、キリトの言う通り有力な情報は見つからない。断片的には合致しても、別の断片には全く合致しない──そんな状態だ。

 

「……とにかく、今日は泊まっていくとよろしくてよ。その状態の子供に長距離の移動は堪えるでしょうし」

 

「ありがとうサーニャさん。お言葉に甘えさせてもらうわね──アリスとミツキ君はどうする?」

 

「私達は……一度上に戻ろうかと。また明日の朝にお邪魔します」

 

「残念ですわ……アリスとは異国出身同士、話したい事もありましたのに」

 

「……それはまたの機会に──では、これで失礼します」

 

 サーシャと子供達にも挨拶をして、教会を後にする。ユイのことも気がかりだが……前を歩くアリスの背中が少しだけ萎れている様に見えた。

 

 理由は何となく察せる。別れ際のサーニャの言葉だろう。彼女はアリスを自分と同じ日本国外に出自を持つ外国人であると認識しているようだが、アリス自身にはそのことすら判別がつかないのだ。語らう過去が無いというのは──自分が何者であるのか分からないというのは、きっと俺が思っている以上に不安で、怖い事なのだ。彼女は今も尚、戦い続けている。

 

 出来る事ならその不安を解消してあげたいが……俺に出来る事はとても少ない。

 

 この日の夜は、2人並ぶと手狭なセミダブルのベッドが少しだけ広く感じ──まるで何かに縋り付くように俺の胸に顔を埋めるアリスが寝付くのを待ってから、俺も眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日──子供達へのお土産として47層の蜂蜜パイを買い込んだ俺達が教会を訪れると、入口に丁度先客がいた。

《ユリエール》と名乗ったその女性は、昨日軍の兵士を叩きのめした凄腕のプレイヤー ──即ち俺やアスナ達を訪ねに来たのだという。最初は報復なり抗議なりしに来たのかと思ったが、どうやらそうではない。曰く──俺達にお願いがある、と。

 

 彼女が語った話はこうだ──

 

 現在の《軍》の横柄な振る舞いは本来の理念に反するものであり、それを煽っているのは《キバオウ》というプレイヤーだった。その結果、ギルド名が《解放軍》になる前──かつて《MTD》という名前で互助活動を行っていた者達と、キバオウ一派とでギルドが内部分裂。

 勢力を強めるキバオウ派は、やがて効率のいい狩場の独占や《はじまりの街》のプレイヤーから徴税と称して恐喝紛いの行為に手を染め始める。一方《MTD》創設者である《シンカー》という男の派閥は、そんなキバオウを諌めようと奔走していた。

 リソースを溜め込む理由として掲げていたはずの「攻略」を蔑ろにしている事でキバオウへの批判が強まっていく中、苦肉の策として強行された、配下のハイレベルプレイヤーによる74層ボス攻略──結果は知っての通り、失敗と呼ぶのも生温い最悪の結果に終わった。その失態に乗じて、暴君キバオウをギルドから追放する準備を進めていたそうなのだが──

 

「──あの男は、シンカーをダンジョンの奥地に置き去りにしたんです……ッ」

 

 ユリエールの小さく震える声を聞いた俺達は、皆一様に険しい顔をしていた。

 キバオウという名前には大いに覚えがある。第1層の攻略会議で俺やキリトを始めとする元ベータテスター達を──もっと言うなら、一部のプレイヤーがリソースを独占しようとする理念そのものを批判していた男だ。

 しかしそんな彼も、1層突破時には俺とキリトの行動の意味を理解していた様子で、以降攻略組2大ギルドの片割れ《ALS》のリーダーとして、対向ギルドの《DKB》と反目し合いながらも、手探り状態だった攻略初期を懸命に支えていたと記憶している。そんな彼があのような蛮行を見逃すどころか煽っており──それだけに留まらず、《軍》となってからも対抗勢力のトップを《ポータルPK》にかける等と、相当な豹変ぶりだ。一体何があの男をこうも変えてしまったのだろうか?

 

 ユリエール曰く、シンカー氏はキバオウの「丸腰の1対1で話したい」という言葉を信じ、《転移結晶》も持っていなかったという。《回廊結晶》でダンジョン奥地に飛ばされてからもう3日が経過しており、安全地帯に避難したのか無事であることは確認できているものの、救出の目処は立っていないそうだ。

 

「シンカーが閉じ込められたダンジョンは、我々では手こずるレベルなんです。現在実権を握っているキバオウの目が光っている以上、軍の人間の助力は得られません──そこで、皆さんの力をお借りしたいのです。どうか、私と一緒にシンカーを救っていただけないでしょうか……ッ!?」

 

 流れる沈黙。俺達は揃って同じ事を考えていただろう──本当に彼女の話を信用していいのだろうか、と。

 勿論、力になりたい気持ちは山々なれど、彼女は穏健派のシンカー派閥を自称してこそいるが、《軍》の人間である事に変わりはない。ああも腐敗してしまった組織の内情に詳しくない俺達では、彼女の言葉が嘘か真か、判断する術が無いのだ。事と次第では俺達までそのダンジョンに閉じ込められる危険性があるし、何より今のキリト達にはユイがいる。万が一にも、彼女を独り残す結末だけは避けなければならない。

 

 ──俺とアリスだけでシンカー氏の救出に向かおう。

 

 そう口を開こうとした俺だったが、

 

「──だいじょぶだよ、ママ。このひと、うそついてない」

 

 退屈な話にうつらうつらと船を漕いでいたはずのユイが、不意にそんな言葉を口にした。

 

「ユイちゃん……そんな事、わかるの?何か思い出した?」

 

「んーん。でも、わかるよ」

 

 本人も言語化は出来ないようだが、少なくとも当てずっぽうや気休めで言った訳ではないのだろう。ユイの幼い瞳には確信が見て取れる。思えば俺と初めて会った時も、この子は俺の心を見透かしたかのような言動をとっていた。まさか心を読む力を持っているとでもいうのだろうか──何にせよ、俺の中で考えは決まった。

 

「──分かりました。その依頼、お受けします」

 

「ええ。大切な人を助けたいという気持ちは、私にもよく分かりますから」

 

 ユリエールに少し前の自身を重ねているのだろうアリスに続き、キリトとアスナも協力を承諾。サーニャだけはまた軍の連中──キバオウ一派の人間が報復に来る危険性を考えて、心苦しくも教会に残る事となった。

 

「ッ……ありがとう、ございます……!」

 

 頭を下げるユリエールの目元から溢れる涙は、ユイの言った通り、嘘には見えなかった。

 

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