ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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自由の翅

 火妖精(サラマンダー)の連中に追い回されながらアルヴヘイム中立域の古森を飛んでいた時の事だ。

 連れのパーティメンバーが敵と相打ちになり、自身も痛手を負いながら追っ手を撒くべく森に身を隠したリーファは、自分を探すサラマンダー達の様子を木陰から伺っていた。

 

「──そこの木の陰だ」

 

 ジッと息を潜めていた所に聞こえたその言葉で、鋭い息が漏れそうになる。それを堪えて腰の剣に手を掛けた瞬間、奴らが発見したのは自分ではない別の誰かである事が分かった。そっと覗いてみると、グッタリとした少年が首根っこを掴み上げられている。

 

「おいおい、こんな所で落ちるバカがいるかよ!」

 

「いっちょ、初心者にこの世界の厳しさって奴を教えてやっかァ?」

 

 暗い緑の髪色を中央で分け、片方を耳に掛けたそのプレイヤーは、身につけている装備の色からして、自分と同じシルフ──それもゲームを始めたばかりの初心者であることが伺えた。ホームタウン以外の場所でログアウトする際は即時ログアウト不可の警告表示が出るのだが、すぐに戻るつもりだったのか、あの男性プレイヤーはログアウトを敢行したらしい。

 木陰に身を隠していた辺り、警告表示の意味はちゃんと理解していたようだが、そこへ図らずもリーファが奴らを連れてきてしまった形だ。運が悪いと言えばそこまで。しかし同じシルフという事を差し引いても、新規プレイヤーが既存プレイヤーに無残に狩られるのは見ていて良い気分じゃない。原因の一端は自分にもある訳だし、このゲームの先輩として、ここで敢えて姿を晒して彼を逃がす程度の事はしてあげようと考えたリーファだったが……

 

「──ちょうどいいや、コイツ痛めつけて助け呼ばせようぜ。上手くいきゃあのシルフ出てくンだろ」

 

「お、賛成!回復魔法も合わせてちょっとずつ削ってきゃ、スキル上げにもなって一石二鳥!ってな」

 

「お前達なぁ……」

 

「なんだよカゲムネ。お前確か魔法スキル上げてる最中だろ?付き合えよ」

 

「俺はパスだ。そんな事してあのシルフに背中を刺されちゃ堪らないからな」

 

「シルフ狩りの名人ともあろう奴がビビリだなぁ──わぁったよ。んじゃこっちで勝手にやってっから、周り見といてくれ」

 

 連中のやろうとしている事に軽い怒りを覚えたリーファは、腰の長刀を抜き放ち木陰から飛び出す。

 

「──あたしならここよッ!」

 

「おお、早速出てきやがった」

 

「用があるのはあたしでしょ、無関係の他人を巻き込むのは止めなさい!」

 

「巻き込むとは人聞き悪ィなぁ。俺達はたまたま、中立フィールドで落ちた馬鹿なニュービーを見つけただけだぜ?」

 

「初心者相手にそんな真似して恥ずかしくない訳……!?」

 

「ゲームのルールに従うことの何が恥ずかしいって?それともアンタが代わりしてくれるのかよ」

 

 兜のバイザーの奥から粘ついた視線を感じ、不快感に舌打ちする。そんな様子を見かねてか否か、リーダー格らしい男が進み出てきた。他2人がコントローラーで飛んでいるのに対し、この男だけは左手に盾を持っている──コントローラー無しで飛べるという事は、相応の実力者という事だ。

 

「──悪いが、こっちも任務なんでな。金とアイテムを置いていけば見逃す」

 

 唯一話が通じそうなこの男も、あくまでリーファの事は獲物として認識している。先の会話を聞くに、真剣に頼めばあの初心者の少年は解放してくれるかもしれないが……

 

 歯噛みするリーファ。そんな時、ようやく再ログインしたらしい少年が目を覚ました。

 目が覚めたらいきなり他種族に生殺与奪を握られているこの状況、初心者なら慌てて暴れだしてもおかしくないが、この少年は不思議と落ち着いていた。しかも自分の置かれた状況を大方把握したようで、「自分を気にしなければ勝てるか?」等と聞いてくる。本当に初心者か?と思わずにはいられなかったが、初期装備縛りで強くなれる程ALOというゲームは甘くない。ましてやこんな中立域のど真ん中でログアウトするようなバカな真似は初心者以外にありえない。

 

 そんな初心者を犠牲にして勝利を掴んだとて後味は悪いし、どちらにせよこの場を勝利という結果で切り抜けるのは恐らく不可能だ。只でさえ数的有利を取られている上に、こちらが飛べないのに対し向こうは全員飛行可能。人質もいる。あと1人刺し違える程度が関の山だろう。

 

 せめてリスポーン先で彼の愚痴でも聞いてあげようと得物を構えたリーファだったが、ここでシルフの少年が思わぬ行動に出る。翅を使って自分を貫こうとしていた槍を蹴り上げ、あまつさえ反撃してみせたのだ。その身のこなしはリーファの目から見ても見事なもので、装備さえちゃんとしていればこのサラマンダー達とも渡り合えそうだった。

 

 解放されて尚、リーファと共に戦うと言ってくれた彼に感謝しつつ、精々大暴れして死んでやろうと思ったその時、新たな闖入者──黒髪のスプリガンが飛び出してきた。

 

 着地をミスったのか派手に顔面を打ち付けた初心者スプリガンを見て、

 

 ──今日は本当に何なのよ!

 

 と思ったのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──行くぞ、ミツキ!」

 

「……ああ、キリト!」

 

 剣を構えたキリトの姿が一瞬で掻き消える。次の瞬間、赤鎧3人の内1人の体が腹の辺りで真っ二つに両断された。何が起きたのか理解する間もなく赤い炎を残して消えていった赤鎧Aは、同色の小さな火の玉へ姿を変えた。

 

「てめぇ──ッ!」

 

 仲間がやられた事で逆上した赤鎧Bが突撃槍(ランス)を構えてキリトに突っ込んで行く。しかし振り向いたキリトは槍の穂先を難なく掴んでみせた。

 

「ほら、パスだ──!」

 

 突進の勢いを利用してそのまま投げ飛ばされた赤鎧Bは、コントローラーを操作してどうにか再攻撃を仕掛けようとするが……

 

「──馬鹿野郎!ムキになるな!」

 

 リーダー格の男の声が飛ぶ。しかしもう遅い──赤鎧Bの背後で剣を構えていた俺は、思い切り飛び出すと同時に項の辺りにある鎧の継ぎ目目掛けて剣を突き入れた。

 

「なんだよコイツら、初心者じゃ──ッ!?」

 

 赤鎧Bは驚愕を貼り付けた顔でまたも火の玉へ姿を変えた。どうやらキルされたプレイヤーはこのように火の玉という形で暫く残存するらしい。SAOとは違って蘇生手段があるようだし、その猶予時間ということか。

 

「──さてどうする?まだやるなら付き合うぜ」

 

 俺とキリトによってあっという間に仲間が2人倒され、一転して追い込まれてしまった赤鎧リーダーは、大人しく両手を挙げる。

 

「いや、やめとくよ。もう少しで魔法スキルが900なんだ、デスペナが惜しい」

 

「正直な人だな──そっちのお姉さんは?」

 

「……あたしもいいわ。けど、次会ったらちゃんと勝つから!」

 

「……出来れば、君ともタイマンで闘り合うのは遠慮したいな」

 

 キリトは最後に俺にも確認をとり、こちらも了承。全員この場は剣を収めるという事で一致した。

 

 飛び去っていく赤鎧リーダーを見送ったキリトは、剣をひと振りしてから背中に収める。俺もそれに倣おうとしたところで、剣を握る手が小さく震えている事に気付いた。小さく深呼吸して、震える手にもう片方の手をそっと重ねる。

 

「(大丈夫──大丈夫だ。ここはSAOじゃない)」

 

 自らにそう強く言い聞かせた事で、震えは収まった。今度こそ剣を収め、背後に立つシルフの女性に向き直る。

 

「で──この状況、あたしはどうすればいいのかしら?お礼を言うべきか、逃げるべきか……それとも戦う?」

 

「戦うって……一応俺、同族だよな?」

 

「そうね。けど初心者にしては随分戦い慣れしてるし、他種族のプレイヤーが別アカウントを作ってスパイをしてる線も捨てきれない。あなた、見た所そのスプリガンと知り合いなんでしょ?」

 

「まぁ、そうだけど……」

 

「さっき言ってた『教えて欲しい事』っていうのも、シルフの内情を探る為かしら?」

 

 説明されれば、なるほど確かにと思わざるを得ない。種族間の競争がメインに据えられているALOでは、情報も立派な武器になる。この場合、俺は別アカウントでシルフの初心者に扮したスプリガン勢力のスパイと疑われているのだろう。当然そんなつもりは毛程も無いのだが、それを証明する手段も無い。

 どうしたものかと頭を捻っていると、ふぅ、と息を吐いたシルフの女性が剣を収める。

 

「……まぁ何にせよ、シルフの重要な情報なんてあたしもよく知らないし。あなたスパイにしては随分抜けてる所あるし。そっちが戦わないって言うなら、こっちとしても異存はないわ」

 

「し、信じてもらえてなにより……」

 

「お姉さん、結構武闘派だな。こっちとしてはヒロインを助けた正義のヒーロー的なつもりでいたからさ、俺が駆けつけるまでたった1人で自分を守り続けたミツキ(そいつ)に涙ながらに抱きつく──とか、そういうロマンチックな展開になるかと」

 

「バッカじゃないの!?やっぱり戦う……ッ!?」

 

 真面目だか冗談だか分からない顔でそんな事を口にするキリトに、彼女は再び剣へ手を伸ばす。

 

「ハハハッ、冗談冗談」

 

 そう言って笑うキリトの胸元が、何やらモゾモゾと動いた。

 

「──そうですよ!そんなのダメです!パパにくっついていいのはママと私だけです!」

 

 可愛らしい抗議の声を上げながら飛び出してきたのは、手のひらにスッポリ収まる程小さな体格をした妖精の少女──その姿を目にした俺に衝撃が走った。

 

「……ユイちゃん、なのか?」

 

「はい!お久しぶりです、ミツキさん!」

 

 間違いない。スケールこそ縮んでいるが、腰まで届く程の黒い髪に、どこかあどけなさを残す瞳──アインクラッドで出会ったキリトとアスナの「娘」、ユイ。

 プログラムの核をオブジェクトデータとしてキリトのナーヴギアに保存して以降、それっきり音沙汰が無かったが……無事に再会出来たのだ。

 安堵、喜び、感動に混じって込み上げてきた数々の疑問を口にしようとした俺の横では、いつの間にか、あの女性シルフが興味深そうな目でユイをまじまじと見つめていた。

 

「……ねぇ。それ、プライベート・ピクシーってやつ?確か、プレオープンの販促キャンペーンで抽選配布されたっていう──結構長くこのゲームやってるけど、初めて見たわ」

 

「あ、ああ。そうそう、そんなとこ」

 

「……でも、だったら尚更変ね。プレオープンから参加してる割にバリバリ初期装備だし、かと思えば動きは初心者離れしてるし──ミツキ(きみ)も、初心者にしては随分肝が据わってるっていうか……ホントに何者?」

 

「あー、っと……ALOが始まった時にアカウントだけは作ってたんだ」

 

「そ、そう!けど、俺もミツキ(コイツ)も他のVRMMOにハマっちゃってさ。そっちが一段落したから、本格的にALOもやってみようって話になったんだ」

 

「ふーん……まぁいいわ。それはそうと、何でスプリガンがこんな所にいるわけ?領地は真反対じゃない」

 

「そういえば……確かスプリガンのホームタウンってアルヴヘイムの右上辺り……だったっけか。ここまで飛んできたのか?」

 

 キリトはチョイチョイと俺を手招きすると、声を潜める。

 

「その……実の所よく分からないんだ。キャラ作って、最初はスプリガンの領地に行くはずだったんだけど、急にここに飛ばされた。ユイが言うには、位置情報がバグったか、リアルの近所にいるALOプレイヤーと混線したんじゃないかって話だけど……」

 

 PK推奨のこのゲームに於いて、キャラが全く育っていない状態で敵地に放り込まれるのは死活問題だ。もしそんなバグが存在するなら、早々に運営の処置が取られていて然るべき筈だが……

 

「そうだ、バグといえば……ミツキ、お前自分のステータス見たか?」

 

「……いや、見てないけど。ずっと飛ぶ練習してた」

 

「お前、連絡来ないと思ったら……とにかく確認してみてくれ。多分、俺と同じで──」

 

「──さっきから何コソコソ話してるの?まさか本当にスパイじゃないでしょうね」

 

 言われるままステータスを開こうとした俺の手が止まる。キリトはしどろもどろになりながらも、咄嗟に考えた言い訳を口にした。

 

「あぁいや、なんて言うか……み、道に迷って……」

 

「ふふッ…!嘘でしょ、方向音痴にも程があるよー!きみ変過ぎ!」

 

「そ、そんな笑う事ないじゃないか……!」

 

「あははッ!ごめんごめん──遅くなっちゃったけど、助けてくれてありがとう。あたしリーファっていうの」

 

「俺はキリト。こっちはユイで──」

 

「俺はミツキ。よろしく」

 

「キリト君にミツキ君、ね。2人はこの後どうするの?」

 

「あの連中をどうにかしたらキリト(こいつ)と合流するつもりだったけど、もう解決したからな……特に予定は無い」

 

「俺も特には」

 

「そうなんだ。じゃあその……お礼に1杯奢るわ。どう?」

 

《リーファ》と名乗った女性シルフの申し出はまさに渡りに船だった。この世界の情報を集めるいい機会だろう。

 

「そりゃありがたい。奢りついでに色々教えてくれると、より助かる」

 

「教えるって……さっきも言ったけど、あたし別にシルフの重役とかじゃないわよ?」

 

「そうじゃなくて。シンプルにこの世界の事を教えて欲しい。ほら、こちとら武器を振り回す事しか出来ない初心者コンビだからさ」

 

「特に、アレについて聞かせて欲しいんだ──」

 

 キリトが指差したのは、夜闇の中にひっそりと影を作る巨大な大樹。恐らくあれが──

 

「世界樹ね──いいよ、あたしこう見えて結構古参なの。そういう事なら……うん。ちょっと遠いけど、北の方に中立の村があるから、そこまで飛びましょう」

 

「遠いってどれくらいだ?体感だけど、シルフの街の方が近いんじゃ……」

 

 先程の連中が報復にやって来る危険性を考えれば、近くの街に避難した方が安全なのではと思った俺の言葉に、リーファは呆れたように嘆息した。

 

「各種族のホームタウンは、単なる溜まり場とかリスポーン地点とは違う、言ってしまえば1つの国みたいなものなの。《スイルベーン》はシルフであるあたしとミツキ(きみ)なら全く問題ないけど、スプリガンのキリト君は突然斬りかられても文句は言えないわ。他種族のホームタウン圏内じゃ一切のキル行為が出来ないから、自衛だって楽じゃないし」

 

「成程ね──けど、血の気の多い連中しかいないって訳じゃないんだろ?リーファさんやミツキもいるし、多分大丈夫だよ。それに風妖精の街は綺麗そうだし、見てみたい」

 

「ああ、凄い綺麗だったぞ──とはいえ、俺もしっかり見た訳じゃないからな。ちゃんと街を見てみたい。リーファさんさえ良ければ、だけど」

 

「リーファでいいわよ──まぁ、そっちがいいならいいけど……命の保証までは出来ないからね」

 

 そう言ってリーファは翅を出現させ、確かめるように小さく震わせる。

 

「……リーファはコントローラー無しで飛べるのか?」

 

「ん、まぁね」

 

「じゃあ早速で悪いけど、コツを教えて欲しい。自分で試してみたんだが、スピード出過ぎて止まれなくてさ……」

 

「……初心者の君がこんな所にいた理由、何となく分かったよ……──キリト君も教えようか?」

 

「頼むよ。正直コントローラーで飛ぶのはちょっと物足りないと思ってたんだ」

 

 早速、俺とキリトはリーファ先生指導の下、コントローラー無しでの飛行──《随意飛行》のレクチャーを受ける事に。

 

「まず、《随意飛行》とは言っても文字通りの意味じゃないの。イメージが重要なのはそうだけど、それだけで飛べるわけじゃないって事ね」

 

「やっぱり、自分の意思で翅を動かす必要があるんだな」

 

「察しがよろしい──今触ってる所、分かる?」

 

 羽を出現させた状態で横に並んだ俺達の背中──肩甲骨の少し上の辺りをリーファの指がつついているのを感じ、俺達は首肯を返す。

 

「ここから仮想の骨と筋肉が伸びてると想定して。それを動かすイメージ」

 

「仮想の骨と……」

 

「筋肉……」

 

 イメージはこういった点で重要という訳だ。肩甲骨に力を込めてみると、薄緑の翅がピクピクと震え始め、徐々に持ち上がっていく。

 

「お、そうそう。2人共センスあるよ。最初は思い切り背中とか肩の筋肉を動かして、翅の動きと連動する感覚を掴むの──じゃあ今の動きをもう1回、もっと強くやってみよっか」

 

 一旦脱力してから、もう一度──リーファに言われた通り、思い切り力を込める。ぐぐぐッ…と翅が持ち上がり、背後に謎の力が渦巻くような感覚を覚える。

 

「なぁ、これでいいの──かァッ!?」

 

 突如背中を強く押され、俺はキリト共々空高くすっ飛んでいく。上下左右、滅茶苦茶な方向に飛び回る最中、あわやキリトとぶつかりそうになり、とにかく方向転換をと背中に力を込める。

 激突するスレスレでグインッ!と軌道が変わった俺とキリトは、以降数分に渡ってあらぬ方向へビュンビュン飛び回った末に、その光景を見て一頻り大笑いしたリーファによって停止。改めて細かい翅の動かし方を学んで、これまた数分の練習の末に随意飛行を会得するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 月光に照らされた夜空を、2人の妖精が翔ける。

 1人は全身を簡素な黒衣に包んだ影妖精。もう1人はこれまた簡素な緑衣を纏った風妖精。

 2人は完全に掌握して間もない翼を翻し、楽しそうに飛んでいた。

 

「おお……!こいつはいいな!」

 

「鳥とかドラゴンはこんないい思いをしてたんだなぁ……」

 

「どう?楽しいでしょ!」

 

 目的地であるシルフ領スイルベーンに向かって俺達を先導するリーファが、少し速度を落として俺の横につけてくる。

 

「ああ!コントローラーじゃこの感覚は味わえなかった」

 

 コントローラーで飛ぶのも飛行体験としては悪くなかったが、慣れるとやはり「操作」感が表に出てきてしまって味気なく思えていたのだ。しかし正真正銘自分の力で自分の翅を羽ばたかせる随意飛行は、ある意味無限の可能性を秘めているように思える。人は古来より空へ思いを馳せたと言うが、その気持ちがよく分かった。

 

「でも驚いた。まさかここまで上達が早いなんて。これなら空中戦にもすぐ慣れそう」

 

「そうか、リーファ達はこの状態で戦ってるんだよな……空の戦い、か──」

 

「言っとくけど、想像より難しいわよ?」

 

「上等。もう既に色々考えてるよ」

 

 三次元的な動きが可能になる空中でなら、きっと俺の得意戦術がより強くなる。新たな発見もあるだろう。そう思うと、無意識の内に笑みが溢れた。

 

「──やっぱりミツキさんもパパと同じ、バトルジャンキーなんですね!」

 

「ユ、ユイちゃん……?」

 

「パパから聞きました!ミツキさんも自分に負けず劣らずの戦闘狂だって!そしたら──」

 

「ああ、ユイほら!飛びながら喋ってると舌噛んじゃうぞ!ポケット(ここ)入ってなさい!」

 

 ユイの体を胸ポケットに押し込んだキリトに、俺はジトーっとした目を向ける。

 

「……おい、お前ユイちゃんに何教えた……?」

 

「い、いや何も?──それよりほら、早く行こうぜ!リーファ、もっとスピード上げていいぞ!」

 

 すっかり慣れた様子のキリトは、一際強く翅を震わせて加速する。逃がすものかと俺も後を追うが、その更に後ろから弾丸の様に飛び出す影が──

 

「ふふん、2人共まだまだ遅いわよ──!」

 

 そう言ってリーファは更にもう1段ギアを上げる。肩越しに見せた挑戦的な笑みに、俺とキリトはさっきまでの事さえ忘れてリーファを追い越してやろうと今出せる全力を翅に注ぎ込んだ──。

 

 

 

 

 

 

 

「──ほら、見えてきたよ!ミツキ君は1回来てると思うけど──改めてようこそ、《スイルベーン》へ!」

 

 鮮やかな翡翠色に彩られた街並みは、先程来た時よりも活気が増している気がする。恐らく時間的な都合でアクティブユーザーが増えたのだろう。

 

「あたしのトップスピードに付いてこれたの、2人が初めてかも!久々に全力で飛べて楽しかったぁ!」

 

「こちらこそ、初めての空の旅がこんなに楽しかったのはリーファのお陰だ」

 

「なら良かったわ──それじゃ、あの塔の根元に着陸を……って、そう言えば2人共ランディングのやり方、分かる……?」

 

「「……わかりません」」

 

 揃って同じ言葉を発する俺達に、リーファはどうしたものかとあたふたするが……

 

「……ご、ごめん。もう遅いや。幸運を祈るよ──!」

 

 謝罪の意を込め手を合わせた彼女は、翅を大きく広げて降下していく。一方、空に取り残された俺達はというと……

 

「お、おいキリト!何か思いつけ!」

 

「無茶言うな!お前こそなんか閃けよ!」

 

 そうこうしている内に街の中央の尖塔はどんどん近付き──俺達は揃ってびたーん!と壁に激突したのだった。

 




最近のお気に入り登録爆増の原因ですが、どうやら本作がランキングのどこかに載ってたらしいですね。光栄です。
因みにまっっっったく知りませんでした…別に通知とかが来るでもなし、ランキングページ自体全くと言っていい程見ないもので…。
何はともあれ、今後共本作にお付き合い頂ければ幸いです。
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