シノンに連れられ曲がりくねった道やら路地を幾度も通り抜けること暫く──開けた大通りに面した大型マーケットに到着した。ここは俺も以前訪れた覚えがある店だ。
さながらダンスクラブのようなBGMが鳴り響く店内では多くのプレイヤーが行き交っており、シノンはその間をするすると猫のようにすり抜け進んでいく。
「さて──じゃあまずは大まかな武器系統だけでも決めちゃいましょ。2人のステータスタイプはどんな感じ?」
「えっと……筋力重視で、次に素早さ……かな?」
「こっちは逆で、敏捷の次に筋力」
「STR-AGI型と、AGI-STR型か……見事に鏡合わせね。どっちもSTRに余裕があるなら、メインは結構重めのアサルトライフルなんかがいいかな。サブにそこそこの威力のハンドガンがあれば、接近戦も十分対応出来るだろうし──って、待って。そう言えば……」
何かに気づいたらしいシノンは、困ったように手で顔を覆う。
「……ごめん、すっかり忘れてた。コンバートしてすぐじゃお金無いわよね。だからミツキはカジノに行こうとしてた訳だし」
「あー……まぁ。はい」
メニューを開いて所持金を確認しても、そこには僅か1000クレジットというバリバリの初期金額が表示されているのみ。いかに初心者向けの総合ショップといえど、この金で買える装備はたかが知れている。
「うーん……いくらコンバートで初期ステが盛られてると言っても、BoBで戦おうと思ったら色々必要になるし……どう考えても予算オーバーね」
少し考えたシノンは身銭を切ってまで俺達の装備を整えようとしてくれたが、流石にそこまで世話になるわけには行かない、と2人揃って丁重に遠慮する。プレイを継続して返していけるならまだしも、今回もまたこの場限りのログインになるだろう俺達がベテランの善意に甘えて借金までするわけには行かない。
「あの、カジノはダメなんですか……?確か
「このゲームのカジノは現実のそれと同じような感じで、本当に運なのよ。当たる時は当たるし、外れる時はどうやっても大外れ。全てはマシンの機嫌次第。持ち金に余裕があって、ある程度スっても構わない時以外オススメしないわ」
「じ、じゃあ他に何かドカンと稼げるアテは……?」
こと今の俺達にとって資金難は死活問題だ。最悪の場合、フィールドでミドルゾーンのプレイヤーをPKしまくって金やアイテムを分捕るという蛮族行為に身を染める必要がある。
「そうね……カジノ程ギャンブル性が強い訳じゃないけど、似たようなものなら一応──」
あまり気が進まない様子のシノンに連れられてやって来た店の一角。隅っこのスペースを大胆に専有するそこは、デパートにある簡素なアトラクションコーナーのようだった。
2つあるゲームコーナーの内《Untouchable!!》の看板を掲げた方には人だかりが出来ているが、もう一方には殆ど誰も見向きもしていない。
「……なんですか、アレ?」
「簡単に言えばちょっとしたミニゲーム……だけど、実際はそんな生易しいものじゃないわ」
賑わっている方は所謂「弾避けゲーム」──前方にガンマンが待ち受ける20メートル一直線の細いレーンを、被弾ゼロで駆け抜けるというシンプルなゲームだ。進めた距離に応じて金をゲットでき、最奥のガンマンにタッチ出来れば、今までのプレイヤーが注ぎ込んできた金を総取り出来るという。
「えっと今は……30万ちょいか。暫く見ない間に貯まったわね」
「す、凄い額ですね……簡単そうなのに」
「ま、話だけ聞くとそう思うわよね。でも無理なのよ──あのNPCガンマン、挑戦者が8メートルラインを超えると、インチキな早撃ちになるんだ。リボルバーのくせに高速リロードで3点バースト。予測線が見えた頃にはもう手遅れってわけ」
「じゃあ、あっちのは……?」
俺が指差す寂れた方のゲームコーナーには《Intercept!!》という看板が掲げられている。意味は確か……「迎撃」だったか。
「あぁ……あっちはもっと止めておいた方がいいわ。NPCが撃ってくるバズーカの砲弾を専用のレイガンで撃ち落とす、ってゲームなんだけど──」
早い話がクレー射撃だ。
奥行20メートル、幅10メートル、高さおよそ5メートル程のケージ内で、世紀末NPC(としか形容できないヒャッハー系の格好をしている)が撃ってくるバズーカを全7回迎撃する。こちらも全弾迎撃できればプールされた金が全額バック。
世紀末NPCは奥にある5本の柱の陰からランダムに現れる為、次々変わる射角にしっかり対応するのがミソらしいが……
「──あっちもあっちで大概インチキなのよ。回数が重なる毎に向こうの弾速が徐々に上がってくるんだけど、5発目を境に物理法則ガン無視のトンデモ軌道で飛んでくるの。しかも予測線が無い上に、砲弾は正確に中心を撃ち抜かないとクリア判定されないから、尚更無理ゲーって訳。前は結構挑戦する人がいたみたいだけど、今じゃ誰もやりたがらないわ。お馬鹿な連中が罰ゲームとかその場のノリで挑戦するくらいね」
なる程、見え見えの無理ゲーよりは予測線を頼りに動ける弾避けゲームに希望を見出しているというわけだ。プール額の表示を見てみるとざっくり60万程貯まっており、今に至るまでこのゲームに挑んでは敗北してきたプレイヤー達の夢の跡が伺い知れる。
「……ミツキ、どっちにする?」
「……好きな方に行けよ」
小声で囁きかけてきたキリトの目は、ジッと弾避けゲームの方を見ていた。丁度別のプレイヤーがチャレンジして失敗した所らしく、勘も掴めたようだ。
シノンの制止も間に合わず、前に進み出たキリトはキャッシャーに手を押し当ててプレイ料金を支払う。レトロチックな精算音に続いて、ゲーム開始を告げるファンファーレが鳴り響く。
その外見も相まって周囲から一層注目を集めるキリトは、入口のゲートが開くと同時に低い姿勢で駆け出した。
事ある毎に物騒な英語のスラングを吐き捨てながら銃を撃つNPCガンマンだが、キリトは見事な身のこなしでその全てを回避、ここまでの最大到達点であった8メートル地点を越え、あっという間に10メートルのラインを突破してみせた。
ガンマンの射撃は確かにインチキと言いたくなるスピードであり、リロードから射撃までにかかる時間が1秒も無い。挙句3点バーストどころか込めた弾を一気に全弾ぶっ放す、リボルバーらしからぬ連射速度ときた。果たしてデザイナーはクリアさせる気があるのだろうかと疑問すら浮かぶ。
しかしそんなインチキ射撃を以てしてもキリトの進撃は止められず、いよいよ15メートル地点に差し掛かった。目標であるガンマンとの距離は僅か5メートル、たった今横薙ぎに放たれた6発の銃弾をスライディングでくぐり抜けた所だ。これよってまた大きく距離が詰まり、残り約2メートル。キリトのスピードなら、次の射撃に入るまでの間に十分タッチダウンを狙える筈──しかし何かを感じ取ったらしいキリトは、ここで大きく跳躍。次の瞬間、キリトがいた場所をリロード無しで放たれた6発のレーザーが焦がす。身を翻して着地したキリトは、今度こそガンマンの胸をポン、と軽く叩いた。
短い沈黙。その沈黙は、ガンマンの盛大な断末魔によって破られた。同時に、ジャラジャラと大量の金貨が溢れ落ちてくる。自動的にストレージへ収納された金貨で懐を温めたキリトは、そそくさと、しかしやりきったような顔でゲートから出てきた。
「──いやぁ、何とかなった」
「お疲れさん」
……正直な所、これでキリトが失敗してくれれば半ば無理矢理に帰らせる事も出来るのでは、と密かに期待していたのだが……やはりこの男、ことVRMMOに於けるゲームスキルはピカイチだった。あのNPCガンマンにはもうちょっと頑張って欲しかったものだ。
「あなた……どういう反射神経してるの?最後のレーザーなんて、あの距離じゃ予測線と実射撃のラグも殆どゼロなのに……!」
「え……っと、その──だ、だってこのゲーム、ガンマンの狙いを
「よ……予測線を予測ぅ──!?」
バツの悪そうな笑みを浮かべるキリトの言葉にシノンを含む見物客達が愕然とする中、俺はなる程とその意味を理解した。
かつて俺達が戦ったSAOには、銃こそ存在しなかったものの、弓矢を始め遠距離攻撃を行ってくる敵は多々存在していた。そんな敵に対抗する為編み出されたのが、《見切り》というシステム外スキルだ。
あの世界にいたMob──眼に類する器官を持つものだけだが──は、攻撃する直前に狙っている位置へ視線が移動するという習性を持っており、それを利用して攻撃前に敵の攻撃の軌道を予測、回避するというものだ。
SAOから産み落とされた《ザ・シード》によって芽吹いたこのGGOにもその特徴は継承されており、キリトは予測線を見てから回避するのではなく、ガンマンの視線から予測線そのものを見切って回避していたというわけだ。……まぁそれでも、最後のレーザーはよく避けられたものだが。
「──でも良かった。30万もあれば、何とか2人分の装備は整いそう」
「いやいや、30万じゃないですよ」
そう言って笑うキリトに首を傾げるシノン。その横で、俺は人っ子1人いないゲームコーナーのキャッシャーへ手を押し当てた。久しぶりの挑戦者を歓迎するかのようなファンファーレが鳴り響き、ケージの入口が開く。それを聞いて、野次馬達の注目もこちらへ移り始めた。
「ちょっとまさか……あなたもやる気!?」
「まぁ、予算は多いに越したことはない…でしょう?」
「そりゃあそうだけど、でも……」
「大丈夫ですよ。
「あなたも大概化け物じみてると思うけど……?」
2人のやり取りを他所に、俺はケージ内へ足を踏み入れる。傍らには小さなハンドガン型光学銃が置いてあり、これを使って砲弾を迎撃しろという事らしい。
前方で、トゲトゲした袖無しの革ジャンにモヒカン+尖ったグラサンといういかにもな格好をした世紀末NPCが何やら喚き散らしているが、耳を貸さずに適当な奥の柱目掛けて銃を撃ってみる──思ったよりは長く飛んだが、目標の柱に到達することなく光弾は消滅してしまった。バズーカが発射された瞬間を狙えないよう、こちらの射程は15メートル程度に抑えられているらしい。キチンと撃たれてから命中するまでの間に撃ち落とすしかないようだ。
世紀末NPCが「さぁ、地獄のダンスを楽しもうぜベイビー!」的なスラングを吐き捨てたのを皮切りに、ゲームが開始。でっかいバズーカを構えて発射してくる。シノンが言っていた通り、予測線は表示されない。しかし弾速自体はそこまででもないし、何より的が大きいお陰で狙うのに然したる苦労は無かった。銃を構え、砲弾の中央にポツンと表示されている赤い光点──ここを撃てという意味だろう──を狙ってトリガーを引く。命中精度の高い光学銃なだけあり、ビシュン!という音と共に発射された光弾は見事に命中。砲弾は小さな爆発を残して弾け飛んだ。
次いで2発目──システム的にテレポートでもしているのか、移動した様子も無いまま別の柱から姿を現した世紀末NPCがバズーカを撃つ。確かに先程よりも弾速は上がっているが、まだ遅い。何より軌道が直線的なこともあって危なげなく撃ち落とした。続く3発目、4発目共に難なく──4発目は目に見えて速い上に緩くカーブを描いてきて少し驚いたが──クリアした事で、問題とされている後半に移行する。
またも物騒なスラングを吐き捨てながらバズーカが発射される。射角がやや上向いており、放物線を描きながら先程とは打って変わってゆったりとしたスピードで飛来する砲弾を、早い内に落としてしまおう、と銃を構えた俺だったが──
「──なッ!?」
砲弾は空中で弾かれたように急加速。ミサイルもかくやという勢いで突っ込んできた。真正面から向かってくるコースだったのが幸いし、慌てて照準、撃墜する。
「なる程……こりゃ確かにインチキだ……!」
続く6発目──今度は横方向にジグザグの軌道を描きながら飛んできた砲弾を、切り返しのタイミングを捕まえて撃ち落とす──が、切り返しのタイミングにもバラつきがあったようで、軌道を先読みして撃った初弾は外れてしまう。
「ちぃ──ッ!」
舌打ちしながらも砲弾をよくよく注視し、銃を構え直す。左右に振り切ったところを狙えないのなら、中央に来たタイミングで──!
刹那を捉えてトリガーを引き、前方5メートルの位置で砲弾は爆散していった。
「よし、これで──ッ!」
いよいよ最後の7発目だが──ここで思わぬ事実が発覚する。
5本全ての柱から全く同じ格好をした5人の世紀末NPCが姿を現し、挙って「ファッキュー!!」と叫びながら各々バラバラの方向を狙ってバズーカを構えてきたのだ。実は彼らが5つ子だった事にも驚きつつ、まさか5発同時に撃ってくるんじゃないだろうな…!?と戦慄した俺だったが、流石にそこまで鬼畜仕様ではなかったらしい。5つ並んだ砲口の内1番右端だけが火を噴いた──が、しかし。
斜め下を向いていた砲口から撃ち出された砲弾は、床に激突して大きく跳ね上がる。更にあろう事か、床から天井、天井から壁へと、勢いよく投げつけたスーパーボールよろしく滅茶苦茶な方向にバウンドするではないか。
ふざけんなこの野郎ッ!と内心で叫びながらも、俺の目はしっかり砲弾を捕捉しにかかる。
「(くそッ……追いつかない……!)」
これが最後の1発という事は、即ち弾速もこれがトップスピードという事。バウンドする方向を予測した時にはもう次のバウンドに入っており、撃った所でこちらの弾速が足りず、偏差撃ちで当てようと思うと2バウンド分は先読みが必要になる。SAOの頃から色んなスキルを取ってきた俺だが、流石に《未来予知》のスキルは無い。
持ってるのが槍か、せめて剣だったらあんな砲弾簡単に叩き落とせるのになァ!──と、つい益体もない事を考えてしまう。だが今手の中にあるのはどこかおもちゃのようにも見える小さな光線銃であり、俺は所定の位置から移動することも出来ない。こうなれば最後の手段だ──俺は狙いが定まらず右往左往していた銃を腰の辺りまで下げ、緩く構える。
思い返せば、これまで撃ち落としてきた砲弾には1つの共通点があった。それは、あの世紀末NPCは明確に俺を狙ってバズーカを撃っているという事。ロースピードからの急加速だろうと、不規則なジグザグ軌道だろうと、あの砲弾達は何もしなければ俺に命中していた筈だ。
つまりどれだけ複雑怪奇な軌跡を描こうと、
焦らすように幾度となくバウンドを繰り返した砲弾が、いよいよ鋭角に軌道を曲げ俺に向かってくる──!
10時方向、仰角45度。距離、およそ1メートル強──俺は右手を閃かせ、銃口が砲弾に向いた一瞬の内にトリガーを引いた。
閃光が奔り、丸々とした砲弾を貫く──微かな間を置いて、俺のすぐ目の前でパァン!という音と共に砲弾が弾け飛んだ。まるでくす玉を割ったように中からキラキラと輝く粒子が降り注ぎ、俺の勝利を祝福してくれる。同時に──
『ホゥーリィーシィィィィィッッット!!!』
担いでいたバズーカを取り落とし、先程のNPCガンマンに負けず劣らずの断末魔をあげながら崩れ落ちる世紀末NPC。その背後に積まれていた木箱が破裂し、中から大量の金が溢れ出てくる。
それらが全てストレージに収まったのを確認した俺は、「そりゃこっちのセリフだっての」と小さく捨て台詞を残し、ケージを出る。すると大勢の野次馬達が詰めかけてきた。
──スゲェじゃねぇかあんたら!
──あんなんクリア出来るとか化物かよ!
──君ら可愛いね、俺とフレにならない?
──バカ野郎、この娘達はウチのスコードロンに入るんだよ!
次々飛んでくる賞賛の言葉に圧倒される俺とキリトだったが、手を引いて人混みから連れ出してくれたシノンのお陰で事無きを得る。
「まさかこんな事になるとはね……あなた達、何者?」
「な、何者と言われても……ただのゲーマーですよ、ねぇ?」
キリトの言葉に俺はうんうん、と頷く。
「ただのゲーマーは予測線を予測したり、予測線無しのトンデモ魔球を撃ち落としたり出来ないわよ──まぁいいわ。BoBで実際戦ってる所を見られれば、本当の事も分かるでしょうし」
「あ、あはは…──」
「さ、行きましょ。これだけあればいいのが買えると思うから」
シノンに連れられ、俺達はこの世界で共に戦う事になる相棒達を探しに向かうのだった。
インチキにはインチキぶつけんだよ…
ミツキが挑戦した迎撃ゲームは、多くのプレイヤーを泣かせてきた某ゲームをイメージしています。
次回はRPGの醍醐味の1つ、武器選びのお時間です。