午後3時半──少しずつ日が傾き始める昼下がりの道路を、バイクに乗って走る。
日曜といえど車通りはまだそこまで多くなく、行楽帰りの混雑には巻き込まれずに済みそうだった。
家を出てから1時間弱を経て到着した御茶ノ水の病院──駐輪場には見覚えのある青いバイクが停まっており、どうやら昨日とは逆でキリトの方が先着しているらしい。
昨日と同様、諸々の事前準備を済ませて病室へ向かう。自分以外誰も乗っていないエレベーターで、昨日の事を思い出す。
──マジであのミツキなのかって聞いてンだよ。
──楽しみにしてるぜェ、今度こそお前をぶっ殺すのをなァ。
「っ……」
あまり詳細には思い出さないよう努めたが、それでも全身が強張っていくのが分かった。
恐らく俺は今日、あのピエロマスクと戦う事になる。誰かの助けは借りられない。俺自身の手で、少しでも早く奴を倒さねばならない。
単に可能性があるというだけで、奴が《死銃》であるという確証は無い。あのアバターを操っているのが「奴」であるという確証も。もしかしたら全くの無関係で、今の俺は本来果たすべき目的から逸れてしまっているのかもしれない。それでも、直感めいた何かが俺に告げるのだ──奴を野放しにしてはいけないと。
静まり返った廊下を歩くこと暫く。昨日と同じ病室に到着し、ドアの取っ手を掴む。開こうと力を込めた瞬間──
「──俺はSAOの中で、プレイヤーを……人を、3人殺してるんです」
「ッ──!?」
沈痛で、乾いたキリトの声が耳に入った。
「彼らは全員、進んで人を殺す殺人者だったけど……殺さず無力化するという選択肢がちゃんとあった。でも俺は彼らを殺しました。怒り、憎しみ、復讐心だけで斬り殺した。そして俺は、つい昨日までその事を綺麗に忘れていたんです──今だって、殺した3人の内2人の顔と名前を思い出せない。……俺は、この手で殺した相手の事も忘れてしまえるような人間なんです」
少しの沈黙の後、恐らく話を聞いているのであろう安岐ナースの声が聞こえてくる。
「──ごめんね。私には、君の重荷を取り除く事も、一緒に背負ってあげる事も出来ない。私は実際にSAOをやった訳じゃないから、その苦しみを本当の意味で理解してあげる事も出来ない……けど、これだけは分かるよ。君があの世界でそうしたのは──そうしなきゃいけなかったのは、誰かを守る為なんでしょ?」
彼女は続けた──医療の世界でも、救う命に優先順位をつける時がある。誰かを救う為に、別の誰かの命を諦めなくてはならない事がある。その結果、遺族から恨まれる事も決して少なくない。中には、その重責に耐えられなくなって業界を去る医師もいる。
「勿論、仕方がないから──理由があれば殺していいわけじゃないよ。でも、そうした結果助かった命の事を考える権利は、関わった人全員にある。君や、君の周りにいる人達にもね。君は、自分が助けた人達の事を考えることで、自分を助ける権利があるんだよ」
「自分を──」
「(──助ける、権利)」
かつて、俺は須郷伸之を殺そうとするキリトを止めた事があった。必要のない命を奪わせない為に──必要のない罪を背負わせない為に。
この「必要か否か」を判断する線引きは人によって様々だろうが、少なくとも俺は「そうする事に意味があるか」で考えている。命を奪うことで誰かを救う事が出来るなら、それは立派な意味になるだろう。安岐ナースの言うように、誰かを救えたという事実で己を救うことも出来る。
そう──意味があれば。
背負うべき罪から目を背けてきた自分にそんな資格は無い、と声を震わせるキリト。そんな彼を、安岐ナースは優しく諭した。
「大丈夫、君はちゃんと覚えてる。思い出すべき時が来たら、全て思い出す──だから、その時は一緒に思い出さなきゃダメだよ?君のお陰で救われた命も、ちゃんとあるんだって事を」
彼女はそう言ってキリトを宥める──ドアを隔てた病室の外には、既に誰の姿も無かった。
俺が病室に入ったのは数十分後──2つ並んだベッドの上で、体に電極パッドを貼り付けた俺とキリトは、安岐ナースが計器の最終チェクをする傍ら、アミュスフィアを装着する。
「えっと……それじゃあ安岐さん、監視の方、よろしくお願いします。それと……さっきは、ありがとうございました」
「何、いいって事よ。桐ヶ谷君と三島君の体はしっかり見とくから、安心して行っといで」
「……はい」
キリトと俺は一度顔を見合わせてから、バイザーを下げてベッドに横たわる。セットアップ完了の音が鳴ったのを確認し、目を閉じた。
「「──リンク・スタート」」
電子の境界線をくぐり抜け、俺とキリトはGGOの世界に降り立つ──昨日も訪れた総督府タワーのすぐ近くだ。
本戦というだけあってタワー周辺は昨日以上の賑わいを見せており、どうやらNPCによる本戦出場プレイヤーを対象とした賭けまで行われているようだ。
エントランスホールに入ると、人混みの中から見知った顔が姿を現す。水色の髪と、背中で猫の尻尾のように揺れるマフラーが特徴的な彼女は──
「──や、やぁシノン……さん」
「……えぇ」
キリトの挨拶にぶっきらぼうに短い返事だけを返してきたシノンは、それ以上何を言うでもなくジッと俺を凝視してくる。
「……今日は、負けない」
「……なら、今日も勝たせてもらう」
俺の返答に、シノンはキッと眉を強く寄せる。本戦開始までまだまだ時間があるが、既に闘志は十分なようだ。
大会前に彼女には聞いておきたい事もあるが、昨日と同じ轍は踏むまいと、まずはエントリーを済ませることにする。昨日のようにあれこれ入力する操作は必要なく、タッチパネルに手を翳すだけでエントリー手続きは完了した。
「ふぅ……始まるまでまだ時間あるけど、どうする?」
「俺は最寄りの武器屋に行ってくる。新しい銃剣を調達しなきゃだからな」
「そっか。じゃあ俺は……」
「シノンに本大会のルールでも説明してもらえ。どうせちゃんと読んでないんだろ」
「ちょっと、何勝手に──!」
「じゃ、よろしく頼む」
「あ、おい──!」
キリトとシノンの制止の声を無視し、俺は足早にその場を去った。
──残されたキリトは、仕方ない、とミツキに言われた通り、シノンから本大会のルールについて詳しいレクチャーを受けようと思っていたのだが……
「あ、えっと……まずは予選通過、おめでとう」
「………」
「ミ、ミツキと当たった時はどうなるかって思ったけど、決勝に進んだ時点で本戦は確定してたんだって思い出してホッとしたよ。ははは……」
「…………」
本戦前の景気付けとして多くのプレイヤーで賑わっている酒場フロアに場所を移したシノンは、ついて来たキリト共々、隅っこにある小さなブース席に腰を下ろしている。仏頂面でドリンクを注文する様は他者を寄せ付けず、キリトの対人コミュニケーションスキルの低さも相まって、何とも言えない苦しい空気が充満していた。
「えぇっと、それで……」
「……無駄話する為についてきた訳?用があるならとっとと済ませて、じゃなきゃ視界から消えて」
「あ、あぁはい……コホン──本戦だけど、同じマップ内に30人がランダムに転送されて、会った傍から撃ち合う、って事でいいんだよな?で、最後まで生き残った奴が優勝」
「基本的にはそれで合ってるわ」
BoB本戦は、参加者30人による同一マップ内での遭遇戦。転送位置はランダムだが、絶対条件としてスタート位置は各自1キロ以上の距離が置かれる。
「1キロも離れてるって……じゃあ、マップは相当広いのか?」
「……アンタ、本当に運営からのメール読んでないのね……マップは直径10キロの円形で、山あり森あり砂漠ありの複合ステージ。時間は午後になってるから、装備やステータスタイプでの一方的な有利不利も無し」
「10キロ……それ、戦いになるのか?下手すりゃ長時間誰も遭遇しないなんて事もありえるんじゃ……?」
「狙撃銃の射程は最低でも600メートル、アサルトライフルだって500メートルくらいまでは狙えるわ。銃で撃ち合う以上、これくらい必要なのよ。これで狭いマップに30人も押し込んだら、開始からすぐ撃ち合いになって半分近く死ぬでしょうね」
「な、なる程……」
「けど、今アンタが言った事も強ち間違いじゃないわ。消耗を避ける為にひたすら隠れて、敵が少なくなるまで待つって考える奴もいる。そういう連中が一方的に有利にならないよう、参加者全員に《サテライトスキャン端末》が配布されるの」
「サテライトっていうと……人工衛星?」
「そ。15分毎に上空を監視衛星が通過するって設定でね。どこにどのプレイヤーがいるのかマップ上で確認出来るの。だからどこか一箇所に隠れ続けるのも15分が限度って訳」
「ふむふむ……でもそれじゃ、スナイパーってかなり不利じゃないか?勿論ミツキみたいのは例外として、基本的に茂みとか岩陰に陣取って里芋みたいに銃を構えてなきゃいけないわけだし、銃声だって他の銃より大きいはずだろ?」
ふと、キリトの脳裏に《芋スナ》というスラングが過る。
「里芋は余計よ──1発撃って1人殺して1キロ移動するのに、15分もあれば充分だわ」
「さ、さいですか……」
総括すると、試合が始まったらとにかく頑張って生き残りつつ、必要とあらば戦闘。15分毎にスキャンが行われ、各プレイヤーの位置情報と生死を確認出来る。というわけだ。
「……これで用は済んだわね。じゃ、次会ったら風穴開けるから」
「えっ?あ、ちょ──!」
席を立つシノンを慌てて引きとめようとするキリトだったが、何を思ったのか、そうせずともシノンは足を止めた。少し考えた末に、チラリとキリトを一瞥する。
「……私も、教えて欲しい事があるわ。
「え?あ、あぁ……知ってる範囲でよければ」
もう一度席に着いたシノンは、腕を組んでテーブルをジッと見つめながら口を開く。
「……もう察してるだろうけど、私は前にもGGOでアイツと会った事があるの。一応、一緒に戦ったりもしたけど……昨日のアイツはその時とは全然様子が違って見えた。あなた、同じALO出身でしょ?向こうでもあんな感じなの?」
シノンの質問に、キリトはどう答えたものか考える。
確かに、昨日のミツキは予選の途中からやけに荒れていた。本人は「元ラフコフメンバーのプレイヤーと遭遇したのが理由」と語っていたが……キリトの知るミツキは、それだけでああなるような人間ではない。アインクラッドのボス戦で窮地に追い込まれようと、ミツキは冷静に状況を見定めて行動していた。時に無茶と言える行動も多々あったが、話を聞けば、彼なりにしっかり考えた上での行動だったのだと分かる。
しかし昨日のミツキは違う。本人にも言ったが「らしくなかった」。例えば2回戦──ミツキは敵の銃撃を躱しながら接近し、銃剣で敵を滅多刺しにしたわけだが……ミツキの特徴であるシステムに依らない持ち前の《
以降の戦いも同様。接近するにあたって多少のダメージに目を瞑るのはキリトも同じだが、あの時のミツキは「多少」どころではない。HPが1ドットでも残ってれば──死ななければいいと言わんばかりの、文字通り捨て身の突攻であり、そこに合理性はほぼ無いに等しかった──ある意味では、合理性の極致と言えなくもないが。
「……確かに、俺から見ても昨日のミツキは変だった。一応、理由は聞いたけど──」
「──何の話だ?」
「っ……!?」
突如聞こえた声に顔を上げると、そこには今まさに話のタネとなっているミツキがいた。
──武器屋から戻った俺がキリトとシノンを見つけたのは、総督府地下1階の酒場だった。
「……お、おうミツキ。戻ったか」
「ああ。それで、繰り返しになるが……何の話だ?」
「あぁ、いや別に大した話じゃ……」
「……昨日、アンタの様子がおかしかったって話をしてたのよ。本人が来たなら話が早いわ──アレ、どういうことだった訳?」
ストレートなシノンの問いにキリトはどこかハラハラしているようだが、俺は努めて冷静に、何気なく、返答する。
「訳もなにも、単に初めての大会でパニクってただけだ。だろ、キリト?」
「あ、ああ。そう、だったな……」
シノンからは見えないよう視線で釘を刺した事で、キリトの方も話を合わせる。当の彼女はまだ釈然としない様子だったが、これ以上の追求を避けるべく、俺は話題転換を図る。
「──それよりシノン。君に聞きたいことがある」
「何よ。まさかアンタまでルールについて教えろ、なんて言うんじゃないでしょうね?」
「運営メールで一通り把握してる。聞きたい事ってのは──」
言いながらメニューを開き、今大会の本選出場者一覧を表示。可視化状態にしてシノンへ見せる。
「この中に、君の知らない名前──俺や
「えっ……?」
「そう!俺もそれを聞こうと思ってたんだ。頼むシノン、教えてくれ」
どうやらキリトも《死銃》の正体が初出場プレイヤーだと予想していたらしく、真剣な表情で頼み込む。それが伝わったのか、シノンは訝しげだった視線をウィンドウへ落とした。
「……大会も3度目だし、殆どの人は常連よ。
「その4人の名前は?」
「んと……《銃士X》と《ペイルライダー》、これは…《
今シノンが読み上げた名前を脳裏で反芻する。この4人の誰かが《死銃》である可能性が高いというわけだ。勿論、名前だけで正体を予測する事は出来ないが、28人いる候補を1/7まで絞れたのは大きい。
「……それがどうしたのよ?一方的にアレコレ教えさせておいて、何の説明も無い訳?」
「説明、と言われてもな……こっちの話、としか」
「それで納得すると思ってるの?こうも露骨に隠し事されると正直イラつく。いい加減にしないと本気で怒るわよ」
シノンの言い分も理解出来る。チュートリアルよろしく便利に使うだけ使われて一切説明も無しというのは誠実さに欠けるだろう。だが一方で、何をどう説明すればいいのか。というのも正直な所だ。
──この大会に《死銃》を名乗るプレイヤーが出場していて、もしかしたら他の出場者を殺すかもしれない。危険だから大会を棄権して欲しい──と言うか?
否、それではシノンの目的が果たされなくなってしまう。予選の時点でさえああも強い意志を持って戦いに臨んでいたシノンだ、棄権させるなら相応の理由が必要なのは明白であり、《死銃》という現状オカルトじみた都市伝説に過ぎない風説ではその要項を満たせないだろう。
かと言って、あまり大きな話をでっち上げても、それが周囲に広まれば予想外のパニックを引き起こす可能性も考えられる以上、滅多なことは言えなかった。
「……もしかして、昨日ミツキが急におかしくなった事と、関係してるの?」
「ッ──」
いきなり的を得た発言をするシノンに、思わず鋭く息を飲む。彼女をこれ以上踏み込ませる訳には行かない、と即座に否定しようとした俺だったが──
「──ああそうだ。俺達は昨日、昔、同じVRMMOをやってた奴に、いきなり声をかけられたんだ」
それより先に、キリトの言葉が紡がれた。
「おいキリト……!」
「彼女の言う通り、流石に何も説明しないのは良くないだろ。変に関心を引いたら逆効果だ。……大丈夫、何も一切合切話そうってわけじゃない、あくまでも話せる範囲のことだけだ。──シノンも、それで構わないか?」
キリトの確認に、シノンは真剣な表情で小さく頷く。キリトもまた首肯を返し、シノンに対するある程度の説明がなされる運びとなった。
「話の続きだけど──じゃあ、さっき私が挙げた名前のどれかが、その昔の知り合いって事よね?……友達、だったの?」
「いや違う──敵だ。俺達はそいつと……そいつの仲間達と、本気で殺し合った事がある筈だ。……今じゃ、名前も思い出せないけどな」
「殺し、合った……?それって、パーティでトラブって仲違いしたとか、そういう……?」
シノンの問いに、今度は俺が答える。
「……言葉通りの意味だ。正真正銘、
「ああ。それ自体に後悔はしてない。けど、俺はその結果負うべき責任から目を背け続けてきた。無かった事として、今日まで生きてきてしまった──だから、今度こそちゃんと向き合わなきゃいけないんだ。もう逃げる事は許されない」
「そうだ。今度こそ、決着をつけないといけない。……もう、誰も死なせない為に」
最後に小さく付け加えられた俺の言葉が聞こえたらしく、キリトが反応を見せる。それに先んじて、シノンが口を開いた。
「──『守るべき時に、守るべきものを守れなかった。殺すべき時に、殺すべき相手を殺せなかった』──」
「ッ──!?」
うわ言のようにシノンが口にしたのは、昨日俺がシノンと予選決勝で戦った際に言った言葉だ。彼女の中で、断片的だった情報が組み上がり、1つの推測を形作る──
「ミツキ、キリト……もしかしてあなた達、
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。消え入るように途切れた言葉に続いて発されたのは、遠慮がちな謝罪の言葉だった。
「……ごめん、軽はずみに聞いていいことじゃなかったわね」
「……いや、気にするな」
シノンはその後も何か言いたげだったが、何も言わずに立ち上がった。元SAOプレイヤー ──所謂《SAO
「……もうこんな時間。そろそろホールに行きましょ。装備の点検とか、ウォーミングアップとか、そういう時間が無くなっちゃう」
「あ、ああ……」
少々面食らいながらも、俺とキリトはシノンに続いて地下行きのエレベーターに乗り込む。モーターの駆動音だけが静かに響く小さな空間の中で、俺達はお互い距離をとったまま黙して佇んでいた。
先程キリトが言っていた「負うべき責任」──それはきっと、ダイブ前、安岐ナースに話していた件だろう。キリトはSAOの中で、3人の命を奪っている……その内1人は、攻略組の1人でありながらPKに身を落とした《クラディール》。残る2人──名前も思い出せないと言っているのは、恐らくラフコフ討伐戦での事と考えるべきか。
俺だけではない。あの戦いは、参加した全員の胸に深い傷跡を残した。キリト、アスナ、クライン、そしてアリス──パッと浮かぶだけでも4人の心に、決して消えることのない傷を。
その事実が、音もなく俺の胸を抉った。きっと、俺がこの世界ですべき事は、《死銃》の真偽を確かめ、あのピエロマスクを倒して過去に決着をつける事だけではない。まだ、懺悔しなくてはならない罪が残っているのだ。
エレベーターが下降を続ける中、ふとシノンが口を開く。
「……ミツキ。あなたにも、あなたの事情があることは理解したわ。でも、私との約束は別問題よ──」
そう言って、シノンは俺の背中にトン、と指を突きつける。
「あなた達がこのBoBに持ち込んだ事情は否定しない。だからあなたも、ちゃんと私との約束を果たしなさい──昨日の借りは必ず返す。私以外の奴に撃たれたら、絶対に許さないから」
「……分かった。君と戦うまで、生き残れるよう頑張るよ──流石に絶対とは言えないけどな」
「
背中に感じる圧力を強めながら念押しされ、俺は小さく苦笑いしながら了解する。すると突きつけられていた指が離れ、小さく「ありがとう」という言葉が聞こえた。
ここでエレベーターが到着し、俺達はシノンと別れる。
俺とキリトは参加者用の適当な控え室の隅で、ブリーフィングとは名ばかりの最後の会話をする。
「分かってるな。本戦が始まったら、まずは15分、何が何でも生き残れ」
「ああ。そしたらサテライトスキャンで他の連中の位置を確認。例の4人の正体を確かめる。だな?」
「追加で、可能なら《死銃》をキルして大会から弾き出す。本戦はキルされても大会終了までログアウト出来ないから、それで安全は保証されるはずだ。……だがくれぐれも深追いはするな、確実に
「おい、まだあるのか……?」
「──『奴』を見つけても、戦わずに逃げろ。俺が相手をする」
「……何だよ、急に?」
「いいから約束しろ。……頼む」
キリトは訝しみながらも、一先ず俺の要求を了解してくれた。
「──けど、もし『奴』が《死銃》候補の1人だったら話は別だからな。正体を探る必要もあるわけだし、戦闘も必要になるかもしれない」
「……出来れば、そうじゃない事を祈るばかりだな」
斯くして、祭りの幕は上がる。
盛大な花火、多くの戦士達の雄叫びと、多くの銃声を皮切りに、第3回《バレット・オブ・バレッツ》本戦が開始されるのだった。