ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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暴かれた正体

 砂漠エリアの洞窟で互いの罪を打ち明けた俺達は、話を《死銃》へシフトさせる。

 俺の言葉に納得していない様子のキリトも、一旦は口を噤む事を選んでくれたようだ。

 

「──あなた達の話が本当なら……あいつらの正体は、私達と同じ、ちゃんと現実に存在するプレイヤーって事よね」

 

「ああ。元《ラフィン・コフィン》のメンバーなのは間違いない。ピエロの方はもうあたりが付いてるから、後はボロマントのSAO時代の名前が分かれば、リアルでの本名や住所を特定できる。元々、俺もキリトも《死銃》の正体を突き止めるのが目的でこの世界に来たんだ」

 

「じゃあ、あいつらはSAO時代の事が忘れられなくって……またPKをしたくなって、GGOに来たって事?」

 

「それもあるだろうが……多分、それだけじゃない」

 

「ああ。ただ単にプレイヤーを殺したいだけなら、予選で戦った相手も──もっと言えば、ゼクシードを殺した時点で、その場にいた他のプレイヤーも殺しているはずだ。けどアイツは、名のある強豪プレイヤーだけを狙ってる。それもこの大会みたいな、大勢の目がある状況で……」

 

「まるで……いや、きっと見せしめって目的もあるんだろう。誰もが強者と信じて疑わないプレイヤーを、衆目の前で殺してみせる。そうする事で周りにアピールしたいのかもな──自分にはゲームの中から本当に人を殺す力がある、この力の前ではどんな強者も無力なんだ──と……それが広まれば、SAOの時と同じ殺戮者に返り咲ける」

 

「動機は、それでいいとして……でも、どうやって人を殺してるの?だって……ナーヴギアと違って、アミュスフィアじゃ人を殺せないって……」

 

 菊岡の話では、被害者の死因はいずれも心不全──脳への損傷ではなく、心停止によって死亡していた。仮想世界を通した死亡事例という事で脳はしっかり調べたと言っていた為、恐らくそれは間違いない。つまり、ナーヴギアとは根本的に違う方法で人を死に至らしめている事になるわけだが……喫茶店で散々議論した時と同じく、皆目見当もつかない。いっその事そういう超能力と言われた方が納得できるような気さえしてきた。

 

「……実はさっき、廃墟でシノンを助けた時に妙だと思ったことがあるんだ」

 

 シノンを助けに入った際、奴は発射直前だった拳銃を収めてライフルで反撃してきたと、キリトは語った。明確に自分を殺すと宣言してきた割には悠長な真似をしている、と。

 

「……確かに妙だな。仮にあの拳銃の力が本物であるなら、それでキリトを撃った方が確実だ。なんせ当たりさえすればHP残量に関わらず本当に殺せるんだからな」

 

 この違和感が鍵になるはずだと直感で理解した俺達は、挙って思考を巡らせる。最初に口を開いたのはシノンだった。

 

「十字を切る暇が無かった……それか、あの銃──《五四式・黒星(ヘイシン)》を撃つ時は、必ずジェスチャーをするって決めてる、とか……?」

 

「いや、さっきのチェイス中、後ろに居たピエロは十字を切らずにあの銃で君を撃ってきた──つまり、銃の使用者や手順は特に限定されてないって事だ」

 

「となると、ボロマントは俺を殺せたのに殺さなかったって事になるな。けど敢えて見逃す理由も無いはずだ。SAO時代の因縁を差し引いても、こっちは一応トーナメント優勝者で、箔は十分の筈だし。なのに準優勝のシノンだけ撃とうとした……」

 

 予選の結果を持ち出された瞬間、シノンはムッとする──どうやら少しずつ平常心になってきているようだ──キリトの言葉を踏まえると、《死銃》は何らかの理由でキリトを撃つ事が出来なかったのではないかという推測に行き当たる。

 

「妙といえば、私も──アイツがペイルライダーを殺した時、すぐ傍に転がってたダインは無視してたわよね。てっきり、彼も撃たれると思ったけど……」

 

《ダイン》というのは、ペイルライダーと戦っていたプレイヤーの名だろう──あの時点で彼は死体状態だったが、その死はシステム上のもので、彼の意識自体はまだアバターに残っていた。《死銃》の力がシステムの枠に囚われないのなら、確かにダインの事も殺すのが自然だ。これもまた何かの理由で意図的にダインを無視したと考えられる。

 

「つまり……キリトとダイン、私とペイルライダーにはそれぞれ何かの共通点があって、そこで標的かどうかを分けてる……?」

 

「共通点……過去に殺されたゼクシードと薄塩たらこにも当てはまると見るべきだろうが……単に強さやランキングってわけでも無さそうだしな」

 

「ええ。ペイルライダーは確かに強かったけど、過去の大会には出てないもの。ランキングで言えばダインの方が上だわ」

 

「じゃあ、何か共通のイベントに参加してたとかは?」

 

 キリトの言葉に、シノンは首を横に振る。シノンは最近までダインと同じスコードロンに身を置いて共に戦っていたと言うが、ペイルライダーらしき人物は見ていないという。

 ゼクシードやたらこに関しては、双方自分達とはランクの違う有名人であり、大して関わりも無かった。たらことは会話をした事があるようだが、大会フィールドから戻る際にたまたま近くにリスポーンし、大会の景品は何をもらうか~という世間話をした程度らしい。

 

「他に共通点になりそうなのは……武器とか、後はステータスタイプか」

 

「武器は全員バラバラよ。私は見ての通り狙撃銃で、ペイルライダーはショットガン、ゼクシードはレアなアサルトライフルで、薄塩たらこはエンフィールドの軽機関銃。ステータスタイプは──…正直、共通点って言うには大雑把過ぎだけど《全員AGI特化ビルドじゃない》って事になるわね。まぁ本当にそれだけで、STRとかVITに寄ってたりバラついてるんだけど」

 

 仮にシノンの言った条件が共通項とするなら、ペイルライダーと同じ筋力優先のキリトは狙われてもおかしくないし、俺もAGI寄りとはいえSTR複合型だ、予選での戦いを見られていた以上、ターゲットになる可能性は十分ある。

 

「理由なく決めてるにしちゃ、不可解な行動が多い……何かあるとは思うんだけどな……今ある情報じゃ、この辺が限界か」

 

「何か別の視点から考えてみようぜ。そうだな…──そういやシノン、たらことは景品について話したって言ってたよな?俺、よく見てなかったんだけど、景品って何貰えるんだ?」

 

「何でそこで景品の話にいくのよ?──えっと、確か順位に応じて色々選べるのよ。普通じゃ手に入らないオシャレ用のアイテムとか。銃とか防具もあるけど、所詮は景品だから性能面は言う程でもないわ。あとは……変わり種でモデルガンがあるわね」

 

「モデルガン?……ゲーム内アイテム、じゃないよな?」

 

「そ。リアルで貰える奴。私は前回順位低くて、ゲーム内アイテムだと良いのが無かったから消去法でそれにしたんだ。シュピーゲル曰く、金属とかも使ってあって、おもちゃにしては結構出来が良いんだって。……まぁ、私は基本しまいっぱなしなんだけどね」

 

「……それって、運営が送ってきたのか?わざわざアメリカから?」

 

「う、うん、国際郵便で」

 

 頭の奥でチリっと火花が散る。何か引っかかったような感覚をより明確にすべく、思考を巡らせた。

 

「……つまり、運営はプレイヤーのリアル情報を知っている……けど、アカウント登録の段階じゃ、大した個人情報は求められなかった……他に個人情報を入力するようなタイミングは……」

 

「……昨日予選にエントリーする時、端末に本名とか住所を入力する欄が無かったか?俺、何も入れずにエントリーしちゃったけど」

 

「……ああ、あった。俺も空欄だ」

 

 頭の中で、情報のピースが組み上がっていく。

 

「……まさか、運営が絡んでるって言うの?」

 

「いや、運営側にメリットが無い以上、その可能性は低い。けどあのタイミングなら、一般プレイヤーであっても個人情報を手に入れる事が出来る」

 

 エントリー端末が設置されていた総督府ホールは、完全な個室ではなくオープンスペースだ。その気になれば端末を覗き見る事も可能なのではないか?

 

「無理よ……!遠近エフェクトがあるから少し離れただけで画面は見えなくなるし、見える距離まで近づかれれば流石に気づくわ」

 

「遠近エフェクトはあくまでアバター本体の視覚に適用されるものだ。何か道具を介した場合はその限りじゃない──鏡や双眼鏡を使えば、距離を保ったまま端末を覗けるんじゃないか?前に俺の友達が、その方法で扉のパスワードを盗み見たって聞いた事がある」

 

 キリトの言葉を受けて思案するシノンだが、やはり首を横に振った。

 

「それでもよ。あんな大勢の目がある中で双眼鏡なんか使えば嫌でも目立つし、運営に通報されてBANされる。GGOはアメリカのゲームだから、ハラスメント関係には厳しいのよ」

 

()()()()()()()()()()()?──あの透明マントを街中でも使えたら?」

 

 思案する彼女の顔が強張っていく。どうやらあの手のアイテムが街中では使えない、というシステム的制約は存在しないらしい──まだ仮説の域こそ出ないが、真相という名のパズルは8割方組みあがった。

 

「け、けど……プレイヤーの個人情報を手に入れて、それでどうするの?だって《死銃》本人はこうしてログインしてるんだから、現実世界には干渉出来ない筈でしょ」

 

「ああその通りだ。ゲームの中から現実の命を奪う──その考えに至った時点で、俺達はあいつらの術中に嵌ってたんだよ。最初から、もっとシンプルに考えるべきだったんだ」

 

「……どういう、こと?」

 

 俺は完成目前のパズルがどんなものか、シノンに説明を始めた。

 

 ──まず、ゲームにログインした《死銃》があの黒い拳銃でターゲットを撃つ。それと同時に、現実世界のターゲットの家に侵入した()()1()()が、ダイブ中で抵抗出来ないターゲットを殺す。

 

()()()()()()()()──恐らくそれが真実だ。奴らは大会の景品にモデルガンを選んだプレイヤーの中から、ターゲットを選別していた」

 

 聞けば、ゼクシードやたらこも大会の景品にモデルガンを選んだ可能性が高いというではないか。一方ダインはゲーム内アイテムを選んでいたらしく、ここもまたターゲットか否かを分ける共通点になり得る。

 

「……でも、どうやって他人の家に侵入するの?家の人とか、鍵は……!?」

 

「現状分かってるゼクシードとたらこに関しては、古アパートの1人暮らしだったらしい。……多分、電子ロックも旧式だろう」

 

 現在主流の電子錠は、物理的ピッキングこそ不可能になったものの、マスターキーならぬマスター電波が解析され、高額ながら闇市場で手に入る。という噂があり、古い住居は対策が施されていない初期モデルのままという事も十分考えられる。

 盗み見た住所から建物を検索するなり現地に出向くなりすれば、その辺の情報も容易に手に入るだろう。

 

「じゃ、じゃあ……死因は……?心不全って言ってたけど、お医者さんにも分からない方法で心臓を止めるなんて出来るの……?」

 

「首を絞めたりすれば痕が残る筈だから……多分、薬品系。遺体は発見時点で腐敗が進んでいたらしいから、小さな注射痕なんてまず見つからない。何より、今時VRMMOのヘビープレイによる心臓発作で死亡、ってケースは残念ながらそこまで珍しいわけじゃないからな……部屋を荒らされたり、何かを盗まれたような形跡が無ければ、その手の自然死と判断される場合が殆どだろう。脳以外の詳しい解剖は行われなかったそうだ」

 

「そんな、の……そんな労力をかけてまで人を殺すなんて……狂ってる……」

 

「実際狂ってるんだろうさ。それを自覚してるかはともかく、な──正直俺も、SAOがクリアされたからといって、あの世界の俺が完全に消えて無くなったとは思っていない。あの世界で経験した事は全て本物で、今も俺の中に残り続けてる」

 

「そうだな……俺もまだ、自分は剣士なんだって意識がある。多分それと同じで、あいつらもレッドプレイヤーで居続けたかったんだろう。あの世界で多くの人々を恐怖させた殺戮者としての自分を取り戻したいんだ。……多分、現実側の共犯者も同じ元ラフコフの仲間──それもかなり親しい人間だと思う。ゲーム内で標的を撃つと同時に現実で殺すっていう手順を自然に行うには、犯行時刻から何まで厳密に合わせなくちゃならないし……」

 

 あのボロマントが行っていた十字を切る仕草──あれは手首に仕込んだ腕時計で時間を確認する為のものだったのではないかと、キリトは推測する。その表情が、次第に強ばっていった。

 きっと考えを同じくしているであろう俺は、努めて冷静に、シノンへいくつか質問をする。

 

「……シノン、君は1人暮らしか?」

 

「え?……う、うん」

 

「思い出してくれ。ダイブする前、鍵は掛けたか?ドアチェーンは……!?」

 

 次ぐキリトの質問にも、困惑しつつ答えた。

 

「鍵は掛けてあるわ。電子錠だけじゃなくて、普通のシリンダー錠も。……ただ、鍵自体はウチも初期型で、チェーンは……掛けて無い、かもしれない……」

 

「……そうか……」

 

 既に事態は、限りなく最悪に近い方向へ傾いている事を察した俺は、シノンの肩を掴んで真っ直ぐ視線を合わせた。

 

「……シノン。怖いだろうが、落ち着いて、よく聞いて欲しい──俺達が廃墟をバギーに乗って逃げてる時、奴らはあの銃で君を撃った。もしここまでの俺達の推測が全て正しいなら……それはつまり、全ての準備が完了しているという事になる」

 

「準、備……?」

 

「……今この瞬間、現実世界の君の自宅に《死銃》の共犯者が侵入して、君があの銃に撃たれるのを待っている可能性がある──って事だ」

 

 BoBはゲーム内は勿論、現実世界でも各種動画配信サービスで大会の様子を中継している。GGO内部が今どのような状況なのか知ることが可能だ。もし、あの黒い拳銃の弾丸がシノンの体を掠めでもすれば……その瞬間、自宅のベッドなりソファで無抵抗に横たわる彼女の体へ薬品が注射され、心停止に追い込まれる。

 

「い、いや──嫌……ッ!」

 

 その様子を想像してしまったのだろう、シノンは呻き声と共に自らの肩を抱く。息を荒げ、込み上がる恐怖が震えとして溢れ出し──ついには、満足に呼吸すら出来なくなってしまった。

 

「──ダメだ、落ち着けシノン!今緊急切断したら危ない!」

 

 アミュスフィアには簡易的なモニタリング機能が搭載されており、急激な心拍の上昇や過度の興奮状態を察知すると強制的にログアウトされるのだが……状況が変わった今、現実世界の彼女が目を覚ませば、自宅でスタンバイしていた共犯者と鉢合わせてしまう。それがどのような結果を招くかは想像するまでもない。

 

「あの拳銃で撃たれない限りは現実サイドの実行犯も手出し出来ない、今君が無事でいる事がその証拠だ!」

 

「頑張れシノン、気持ちを落ち着けるんだ……!」

 

「でもッ……怖い…怖いよ……ッ!」

 

 どうにか彼女を落ち着かせようとキリト共々呼びかけるが、1人暮らしの女性の家に見知らぬ誰かが忍び込み、あまつさえ寝ている自分に凶器を突きつけているという状況はそう簡単に飲み込めるものではない。抗おうにも、本能的な恐怖が彼女の内を支配しつつある事がありありと見て取れた。

 

「(クソ、どうすればッ──)」

 

 意識を蝕む恐怖(もの)を取り除くにはどうすればいいのか──そう考えた時、俺の脳裏に1つの方法が浮かんだ。俺に上手くできるかは分からない、しかし彼女を助ける為ならやれる事はなんだってやるべきだ──と、その方法を実行に移す。

 

 俺は怯えるシノンの肩を引き寄せ、彼女の頭をそっと胸に抱き締めた。

 

「──シノン、俺の心臓の音、分かるか?」

 

 返事は無い。しかしごく小さな動きで、こくり、と頭が上下した。

 

「よし──そのまま目を閉じろ、何も考えなくていい。鼓動を感じることだけに集中するんだ──ゆっくり、息を吸って……吐いて……大丈夫、大丈夫だから」

 

 少しでも安心できるようにと、胸に抱いた頭を優しく撫でる──かつて、「彼女」がそうしてくれたのと同じように。

 

「……落ち着いたか?」

 

「ん……もう少し、このまま──」

 

 恐慌状態は程なくして落ち着きを見せ、体の震えも収まったが、本人がいいと言うまで、俺は彼女を抱きしめ続けた。やがて、腕の中で大きく深呼吸をしたシノンが顔を上げる。

 

「……どうすればいいのか、教えて」

 

「やる事は変わらない。俺達で奴を──《死銃》を倒す。あのピエロも倒す。そうすれば、現実世界にいる共犯者も姿を消すはずだ」

 

「けど、言う程簡単じゃないわよ。たった100メートルからのヘカートの弾を避けるような奴だもの。それに──そろそろ隠れ続けるのも限界だわ。2回のスキャンで私達の姿が見えない以上、ここに隠れてるって事を察してるプレイヤーも多い筈。いつグレネードを投げ込まれてもおかしくないわ。寧ろ、今まで無事だったのが不思議なくらい」

 

「移動しようにも、他の洞窟までどれくらい離れてるかも分からないからな……」

 

「どこに逃げたっていつかは見つかるわ。だから──私も一緒に戦う」

 

「けど……」

 

「一緒に、って言ったでしょ。それに──」

 

 反論しようとした俺を、シノンが手で制する。そして不意に、ズイと顔を近づけてきた。

 

「よく見なさい──まだ、私が負けるつもりに見える?」

 

 そんな言葉と共に向けられた目には、恐怖の代わりに火が灯っていた。小さくはあるが、確かな闘志の火が。

 

「……いや、俺の知ってるシノンの目だ──分かった、一緒に戦おう」

 

 正直に言えば、彼女を巻き込むべきではないのでは、という気持ちもまだある。だがこの戦いは既に、シノンにとって全く無関係とは言えないものになった。彼女もまた前に進むべく、この戦いを通して過去に立ち向かうというのなら、それを一方的に否定する事は出来ない。

 

「何か策はあるの?」

 

「そうだな……確実に倒すなら、やっぱりシノンの狙撃が1番だと思う──橋でアイツが狙撃を避けられたのは、透明マントを使ってシノンの位置を事前に把握してたから、って事でいいんだよな?」

 

「ええ。予測線も無しにあの距離で死角からの狙撃を回避するのは不可能よ」

 

「予測線無しの完全な狙撃なら仕留められるか?」

 

 俺の問いに、シノンは自身の手を見つめ──確かめるように握り締める。

 

「……うん。必ず当てる」

 

 決意の表情で、力強く頷いてみせた。

 

「よし、ならこうしよう──」

 

 ──次のスキャンの際、俺とキリトがわざと洞窟の外に出て位置情報を晒す。《死銃》は俺達を射程に収め次第、俺かキリトのどちらかをあの狙撃銃で狙い撃つ筈だ。その発射炎から位置を割り出したシノンが、逆狙撃を行う。

 

「自分達が囮になろうって訳?まぁ、アンタ達がいいならいいけど……ピエロの方はどうするのよ?予測線無しの1射目をボロマントに使う以上、残ったピエロ男には予測線が表示される」

 

「ボロマントの狙撃を受けなかった方が対処すればいい。運良く生きてりゃ、2人掛りで一気に叩く」

 

 ほんの少し戦った程度ではあるが、ボロマントに対してピエロの方は然したる脅威とは感じられなかった。曲がりなりにも前回大会で準決勝まで勝ち上がったプレイヤーのアカウントなのだからステータス的にはバカに出来ないかもしれないが、プレイヤースキル的には俺とキリト、どちらであっても奴に遅れは取るまい。

 

 大方の作戦が決まった所で、手首の時計に目をやる。次のスキャンまではあと3分程──と視線を戻そうとした俺は、視界の隅っこで点滅する謎の赤いマークに気付いた……こんなもの、あっただろうか?

 シノンに聞いてみると、彼女はしまった…とでも言いたげにため息をつく。上向けた視線の先には、件のマークとよく似た円形のホロオブジェクトが音も無く浮かんでいた。あれは──

 

「──中継用のライブカメラよ。普通は戦闘中のプレイヤーしか映さないんだけど、多分生存者が減ったからこんな所まで来たのね」

 

「……まさか、今の全部聞かれて……?」

 

「よっぽど近距離だったり、大声で叫んだりしない限りは大丈夫──いっそ手でも振ったら?」

 

「や、そう言われてもな……」

 

「……何、この映像を見られたら困る相手でもいる訳?」

 

「そりゃあ…──いやほら、シュピーゲルだって中継見てるんだろ」

 

「か、彼とはそういうんじゃないって言ったでしょ……少なくとも今は。──そんな事より、そろそろ時間よ。さっき決めた通り、私はここに残って、あなた達がわざとスキャンされる──それでいいわね?」

 

「ああ」

 

「あ、そういえば……」

 

「……どうした?」

 

 立ち上がったキリトが思い出したように言ったのは、《死銃》のキャラネームの事だった。

 

「あのボロマントの名前──結局《Sterben》って事で良いのかな?まぁ、どうせあのマントで透明化してスキャンにも映らないんだろうから、気にしなくていいのかもだけど」

 

「その辺を確認するのはあいつらを倒した後でも遅くないだろ──時間だ、行くぞ」

 

 俺とキリトは慎重な足取りで洞窟を出る。その背中に「気をつけてね」という声を受け、俺達は揃ってサムズアップを返すのだった。

 

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