ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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祝 SAOFD発売!
当然キャラはアリス、シノン、そして○○を使いまくってますが、使用感的な部分とは別に気に入り始めてるのが死銃さん。ストーリープレイした人なら理由はお分かりいただけますね?


逆転の一弾

 第3回《バレット・オブ・バレッツ》本戦も最終局面。

 残る生存者は5名、その内4人は、最終決戦の舞台となった北方の砂漠エリアで激闘を繰り広げていた。観客達は過去最大にヒートアップしており、その理由は一目瞭然──GGOがサービス開始してから一度として見る事のなかった純粋な接近戦が行われているからだ。

 

 片や、実用性皆無のロマン武器に過ぎなかった無名の光剣使いvsこちらも無名のエストック使い。

 

 そしてもう片方は──

 

 

 

 

 

 

 マントの内側から2振りのコンバットナイフを抜いたデリンジャーが、金切り声を上げて飛びかかってくる。そのスピードたるや先程までとは段違いだ。ナイフを受け止めることには成功したが、勢いに押されて数歩後退させられた。

 

「ハハッ!ヘァハハハハッ!──おいおいどうしたよォ!?あの頃とくら、比べて随分トロくせぇじゃねぇか!て、テメェの本気はこんなモンかアァン!?」

 

「ぐっ……!」

 

 滅茶苦茶に繰り出されるナイフを受け、躱し、捌いていく。威力は然程ではないが、とにかくスピードが速い。奴が操っている《デリンジャー》氏のアバターがSTR型であったなら更なる苦戦を強いられた事だろう。

 とはいえ、使っている武器の都合得意のカウンターが決められない以上、ここまでの至近距離に踏み込まれるのはよろしくない。俺は間隙を縫って後ろへ地を蹴り、大きく宙返りする。当然奴がそこを狙ってくるのは予測済み──空中で体を捻り、遠心力を乗せて横薙ぎに振るわれたドラグノフの銃剣がデリンジャーの手元からナイフを纏めて弾き飛ばした。

 

 着地するなりもう一度脚に力を込め、体の捻りを加えた突進突きを見舞おうとした俺は、寸での所でそれをキャンセルし横に転がる──直後、軽い銃声と共に地面の砂が弾けた。更に4回、6回──左右後方へ大きく動いて大ダメージは避けたが、数発が肩や脚に命中、HPゲージが僅かに減少する。

 

 見れば、デリンジャーの手にはナイフに変わって小型のハンドガンが2丁握られていた。装弾数は多くないらしく、今しがたの射撃で全弾撃ちきったようだが……

 

「キ、シシ……AGI型ってのは難儀だよなァ。速ェだけで大した銃持てねぇんだからよ……ま、俺には丁度良かったけどな。小せぇ銃やらナイフ程度なら、要求される筋力値はそこまで多くねぇ。お陰でほら──SAOの時と同じだぜ」

 

 そう言いながら空になった銃を投げ捨て、マントの下から新たな拳銃とナイフを取り出す。言葉を聞く限り、恐らく奴は小型武器をいくつも隠し持っている。しかし具体的な数や種類まではマントで隠れて分からない。少なくともあのショットガンのような大威力火器は持ってないだろうが、もしかしたら1丁くらいは大型拳銃が紛れ込んでいるかもしれない。攻撃力は低かろうとタカをくくって不用意に近づき、至近距離で喰らえば痛撃必至だ。

 

 そしてSAOの時も似たスタイルとの事らしいが……やはり、どの記憶とも結びつかない。

 

「……はっ、覚えてねぇって顔だなァ?だったら思い出させてやるよォ──ッ!」

 

 デリンジャーが銃で牽制しつつ突っ込んでくる。銃弾を躱した所へナイフが襲い掛かり、それを捌く所へほぼゼロ距離から銃弾が放たれる。戦いの主導権は完全にあちらへ渡ってしまっていた。

 

「キヒャッ!おらもっと頑張ってみろよォ!その大層な銃は飾りかァ!?」

 

「ちぃ──ッ!」

 

 こちらもグロックで対抗したいところだが、通常の槍とは大きく形状の異なるドラグノフを片手で扱うには敵の接近を許し過ぎてしまった。俺が引くか、奴に引かせるか、とにかく一度距離を取らなくては……!

 

 隙があるとすれば拳銃の残弾が尽きた瞬間──銃を交換してから既に5発撃たれており、記憶が確かなら先程は6発撃った辺りで弾切れになった筈……いやダメだ、交換後も同じ銃とは限らない。装弾数にバラつきがある可能性を考えれば、発砲回数で判断するのは危険だ。さりとて拳銃を注視していては目まぐるしく襲い来るナイフを捌ききれなくなる。

 

「オラオラオラァッ!──この距離まで近づきゃァお得意のソードスキルも出せねぇだろ!槍なんざ距離さえ詰めときゃ怖かねェんだよォ!」

 

 そんな言葉と共に振り下ろされたナイフを、奴の手首を掴んで止める。すかさずもう片方の銃が差し向けられるも、手首の動きだけで投げ落としたドラグノフのストックが照準をずらし、銃弾は俺の足の間を通り抜けていった──それが最後の1発だったらしく、今奴の手の中にある銃はスライドが開きっぱなしになっていた。

 

「(今だ──ッ!)」

 

 俺はドラグノフを握っていた右手で奴が着ているツナギの襟を掴み、ステータス補正全開で思い切り投げ飛ばす。すぐさま追撃に入ろうとした俺だったが、ドラグノフを拾おうとした右手に赤いラインが突き刺さった。地面に転がったまま新たに抜かれたデリンジャーの銃が、俺の手を照準しているのだ。

 

「ッ──!」

 

 鳴り響く銃声。放たれた銃弾は予測線を正確になぞり、俺の手に向かって突き進む──紅い光芒が虚空を薙いだかと思えば、銃弾は跡形もなく消え失せた。

 

「キッ……隠し玉かよ。ま、黒の剣士が使ってんならてめぇも、たァ思ったけどよ」

 

 忌々しげに呟きながら起き上がるデリンジャー。その視線の先で、俺もドラグノフを拾い立ち上がる。先程まで空だった左手には、闇夜の中で妖しく輝く光の刃──本戦開始前に銃剣と一緒に購入していた、血のように赤いブレードの光剣《オロチV2》が握られていた。

 

「本当なら、対《死銃》用だったんだけどな──慣れない武器でお前を倒すには使うしかない」

 

「キシシッ……手こずってんのは武器のせいってかァ?情けねぇなァ──!」

 

 デリンジャーは俺に向けてハンドガンを数発撃つ。しかしその弾丸が1発として俺に届く事はない。赤い軌跡を残して振るわれる光剣によって全て防がれているのだ。

 

「──見ての通りだ。もうお前の攻撃は俺には届かない。その妙なスピードにも慣れた。距離を詰めれば光剣(コイツ)がお前のHPゲージを吹っ飛ばす」

 

「……だから何だァ?」

 

「これ以上無関係の人間を巻き込むのは止せ。犯行に関わった奴全員で警察に自首しろ」

 

 暫しの沈黙──それを破ったのは、あの下品な笑い声だった。

 

「無関係、無関係ねェ……じゃあつまり、関係ある奴なら殺して良いってことかァ?」

 

「……何だと?」

 

 デリンジャーは再びメニューを開き、操作を加える。

 

「ッ……ダかラ──俺がテメェをブっ殺すのは構わねェのかっテ聞いてンダヨ……!」

 

 怒っているのか、苦しんでいるのか──マスクを引き裂かんばかりに爪を立てられ、醜悪なピエロの顔が歪む。一切表情を変えることのない単なるマスクの筈だが、今だけは、気味の悪い笑みを称えるその目が「反論は許さない」と言っているような気がした。……尤も、端から自分は無関係などと宣うつもりは無かったが。

 

「……どうしても続けるなら──来い。お前達を倒して、この事件を終わらせる……!」

 

 光剣を前に、ドラグノフを後ろにした半身で構える。その答えに満足がいったのか、デリンジャーは一層狂ったようにケタケタと笑いながら持っていたナイフと銃を投げ捨てた。そして後ろ腰から抜いたのは……重厚な鈍色の刃を持つ大型のナイフ──否、ナイフというよりは(ナタ)に近い。刃渡りは目測で40センチ強……密林で蔦や枝葉を切り開くのに用いられるマチェーテだ。

 

「お、教えてやるよ裂槍ォ……!切り札ってのはなァ、さ、先に切った方が負けなンだよ──隠し玉のその剣を俺に抜かされた時点で、テメェは負けってこったァ──ッ!」

 

 デリンジャーは最早狂乱状態と言っていい有様で突っ込んでくる。スピードも先程より数段上がっており、アバターに走るノイズも激しくなっている。

 だが目で追えない程ではない。軌道も直線的だ。振りかざされたマチェーテの軌道上に光剣のエネルギーブレードを割り込ませる。銃弾すら容易に溶かし消す光剣の刃なら、薄っぺらいマチェーテ程度容易に両断出来る。そのままカウンターを──!そんな俺の予想は、容易く裏切られた。

 

「な──ッ!?」

 

 俺が掲げた赤い刃は、間違いなく奴のマチェーテと接触した。しかし鈍色の刃は赤い光の中にあって健在だった。あろう事かそのまま光剣のブレードを通り抜け、鋭利な刃を俺の右肩に喰い込ませ──

 

 ザシュッ!

 

 振り下ろされたマチェーテ。鮮血のように勢いよく噴出するダメージエフェクト。その根源である俺の右肩から先が丸ごと斬り落とされた。ドチャッ、というような音と共に武器を持った右腕が転がり、一瞬置いてポリゴン片に分解される。

 

「ッ……!」

 

 全力で地面を蹴り距離を取った。ペイン・アブソーバのレベルが他よりも少しだけ低く設定されているというGGOだが、俺の右肩を焦がす焼けたような痛みはきっと錯覚だ。そうと分かっていても、赤いダメージエフェクトを滴らせる傷口を反射的に押さえようとしてしまうし、利き腕を丸ごと消失するというのはSAO時代から見ても初の事だ。正直動揺もある。

 

 そんな俺の内心を見透かしたのか否か、デリンジャーは興奮気味に息を荒げ、

 

「ハ……ハハ、ハハハハハハハッ!腕!まず腕ェッ!斬った!斬ってやった!グッ、グヒッ、ギャハハハハハハッ──!」

 

 被ったピエロマスクとぴったり重なるような下劣極まる笑い声をあげる。と、粘つくような所作でマチェーテを持ち上げ──

 

「さァて……次はどこを斬ってやろうかなァ……左腕、右足、左足……いやそれじゃ足りねェ。何なら服も全部ひん剥いて観客共にも全裸の達磨状態を見せてやろうかなァ!?黒の剣士が見たらどんな顔すんだろうなァ──リューゲのクソが見たら何て言うんだろうなァ!?ッェハハハハ!」

 

 そのまま恍惚と喋り続けるデリンジャーの言葉から、いくつか分かった事がある。

 まず、奴はリューゲを嫌っているらしい事──ラフコフの中で気が合う奴は少なかったと語っていたリューゲ本人の言葉が思い起こされる。

 次に、俺と奴との因縁──俺からしてみれば、言われてようやく思い出す程度のものだったのだが、俺が仲間達から離れて独り犯罪者狩りを行っていたあの時……所持していた《回廊結晶》最後の1つをコイツに使ったのだ。その際、俺は当時のコイツの両手足を瞬く間に切断し、達磨状態で《黒鉄宮》の監獄に蹴り込んだ。俺を敵視するのはその恨みという事だろう。

 そして3つ目──これが1番驚いたのだが、あの場に奴を呼び寄せたのはリューゲだったという事。討伐戦で捕縛されずに逃げ延びて以降、細々とPKを続けていた当時のデリンジャーに《迷いの森》を狩場にするよう助言したのだという。余計なお世話と思いつつ実際やってみれば中々に効果的だったらしく、暫くは森を根城にしていた所へ俺が来たというわけだ。

 

「──アハァ……リューゲの野郎が裂槍にご執心ってなァラフコフじゃそこそこ有名だったからよォ。俺がテメェをぶっ殺してアイツの楽しみを全部台無しにしてやるんだョ!」

 

「……これ以上お前らの一方的な都合に巻き込まれるのは御免だな。だが1つだけ教えろ──今回の件、リューゲは関わってるのか」

 

「キヒャッ──さァ、どうだろうなァ?」

 

「そうか。なら──」

 

 左手の光剣を真一文字に倒し、スイッチを入れる。すると柄尻の部分が開口し、もう1本のブレードが出現した。所謂《双頭刃》状態となった《オロチ》を片手でクルリと回す。

 

「──力づくでも吐いてもらう」

 

「オォ、いいねェ……やってみろよ──!!」

 

 デリンジャーはもう1振り、同型のマチェーテを抜き放ち飛びかかってくる。余程頑丈な素材で作られているのか、あのマチェーテは光剣の威力を以てしても切断出来ない──非実体のエネルギーブレードをすり抜けてくる為、盾を持たない俺にとって唯一の防御手段だった武器防御(パリィ)が使えない。

 しかし光剣の持つ威力そのものは健在だ。風を切り裂き襲い来る2つの刃をひたすら回避し続ける最中、奴の腕や脚へブレードを差し向けるだけでも牽制の効果はある。今拮抗出来ているのがそのお陰なのは間違いない。

 一方で攻め手に欠けるのもまた事実。只でさえこちらは部位欠損で手数とHP上限が減っている分、ダメージ覚悟で強引に切り込むのはリスクが高い。あちらも多少HPを減らしてはいるものの、光剣で奴のHPを全て吹き飛ばすのが先か、奴のマチェーテが俺の首を撥ねるのが先か……賭けになるのは避けられないだろう。

 現状、敗北か相討ちの線が濃厚だ──だが勝利の可能性が潰えたわけではない。その可能性を掴み取る為にも、今はとにかく耐える。

 

「(──あと、30秒……ッ!)」

 

 この僅か30秒が、今は途方も長く感じられる。足元が不安定な砂地ということもあり、1秒経つ間に2撃、3擊と襲い来る鈍色の刃は次第に俺の身体の端を捉え始める。軽微なダメージがどんどん蓄積されていき──いよいよHPは残り2割に迫ろうとしていた。

 

 あと15秒──

 

 ……ダメだ、このままでは持たない。スピードを増したデリンジャーのとんでもないラッシュに反撃を挟む余地は無く、今や完全に防戦一方、回避に専念させられている状態だ。

 

 俺を倒した後、デリンジャーが次に狙うのはキリトか、シノンか……どちらにせよ、俺の敗北が行き着く先はシノンの死だ。シノンのアバターに傷一つでも付いたが最後、現実世界にいる彼女も殺される。

 この戦いにはシノンの命が掛かっている。勝てば生存、負ければ死。残酷で単純明快なこのロジックは、デスゲームが始まったあの日からずっと俺の中に残っており、こうして再び顔を出した。《死銃》やデリンジャー、この犯罪に関わったラフコフの連中にとってSAOは終わっていない──否、終わったはずのSAOを取り戻そうとしているのに対し、俺のSAOは現在進行形で続いている。あの時から何も変わっていない、まだ終わっていない。あの時から今に至るまで、俺が槍を取る時はいつだって誰かの命が、未来が掛かっていた。

 だからこそ負けられない、負ける事は許されない。次元を超えて根を張る悪意と憎しみの連鎖を断ち切る事は、あの世界に心の一部を置いてきた俺が負うべき役目なのだから。

 

 

「(頼む……俺に力をくれ──アリスッ!)」

 

 

 そう、心の中で強く念じた瞬間……不意に、視界を何かが横切った。これは──花だ。4枚の花弁を持つ小さな小さな白い花が風に乗って舞い、地面の上にポトリと落ちる。

 

 

 こっちだよ──。

 

 

 懐かしいけど、少し違う、けれど心がじんわりと暖かくなる……そんな声に導かれる俺に、デリンジャーがマチェーテを振りかざす。狙いは首、防御も出来なければ、回避も間に合わない。

 

 ならば残るはただ1つ──迎撃だ。

 

 俺は右足で思い切り地面を踏み抜く。すると爪先に何かを踏みつける感触があった。そのまま爪先に力を込めて跳ね上げると──薄く被った砂を舞い上げながら、右腕共々手放してしまったドラグノフがその穂先を擡げた。

 

 それでもこちらの攻撃の方が速い、とそう確信したデリンジャーだったが……視界の端から()()()が迫るのを察知する。光剣の刃が迫っていると判断し、逆にその腕を切り落としてやろうと振りかざした刃の行き先を変更する──それが、命取りだった。

 

「ァ……!?」

 

 振り下ろしたマチェーテは空を切った。アバターの肉を斬り裂く感触も、何も感じられない。

 何だ?確かに赤い光が来ていた筈──そう思ったデリンジャーの目があるものを捉えた。俺の後方、遥か遠方から伸びる1本の赤いライン──弾道予測線。

 

 予測線が見えたなら警戒しろ、狙われている証拠だ。

 GGOプレイヤーの頭に刷り込まれた固定観念を利用し、条件反射的に動きを止める《攻撃》──シノンの経験と閃きによって生み出された幻影の一弾(ファントム・バレット)。その応用として予測線を横薙ぎに払うことで、同じ赤い色の刀身を持つ光剣による攻撃と誤認させたのだ。

 

「(そ、それでも──!)」

 

 改めて光剣による攻撃を仕掛けられる前にこっちの攻撃が通る筈──奴はそう考えているのだろう。何せ今の俺は右腕を失っている、ドラグノフによる攻撃は行えないはずだ、と。

 

 

 ──考えが甘い。

 

 

 奴は言っていた、「両手槍のスキルは距離さえ詰めておけば怖くない」と──概ねその通りではある。事実、至近距離から有効に通せる両手槍のソードスキルは無いに等しい。

 

 だがゼロではない。1つだけあるのだ。この状況を覆す逆転の一弾が──!

 

「ッ──!!」

 

 俺は跳ね上げたドラグノフのストックを爪先に乗せ、あらんばかりの力を込めて()()()()!!

 

 両手槍変則投擲技《ストラグル・ブリット》──数ある両手槍スキルの中でも唯一無二、《体術》スキルとの併用によって習得可能な「槍を蹴って飛ばす」ソードスキルだ。通常の両手槍よりも全長の短いドラグノフだからこそ、この間合いでも実現した。

 

 名前の通り弾丸もかくやという勢いで打ち上げられたドラグノフは、先端の銃剣をデリンジャーの腹に深々と突き立てる。くぐもった声を漏らすデリンジャーは尚ももう片方のマチェーテで俺を攻撃しようとするが、それが叶う事はない。

 

 たった今を以て3分が経過──この瞬間、部位欠損で消失していた右腕が復活する。

 デリンジャーの異常なスピードに手を焼かされていたのは、従来と感覚が違う上に敵と相性の悪い光剣という武器を、右腕喪失というこれまた違和感しかない状態で扱うことを強いられていたからだ。両手が使えるのならその限りではない──!

 

「ふッ──!」

 

 赤い光刃が目にも止まらぬ速さで閃き、仕返しとばかりにマチェーテを握る奴の両腕を切り落とす。右手でドラグノフを掴んで引き抜き──

 

 

「ぅ……おおおおおおァァァ──ッ!!」

 

 

 ここまでの鬱憤を晴らさんばかりに吼えた俺は、体を回転させる勢いを乗せ、実体と非実体、2つの刃を立て続けに4度、叩き込んだ。

 ドラグノフが腹を真一文字に斬り裂き、勢いよく回転する光剣の刃が両脚を根元から斬り飛ばす。再び襲いかかるドラグノフが喉笛を斬り裂き、最後に光剣が胴体を斜めに両断した。

 

 双槍4連擊技《デュアル・オービット》──2つの円環を描く斬撃をモロに食らったデリンジャーは、SAOの時よりも更にアバターを細切れにされた状態で砂漠に転がった。

 

「……キ、シシ……後悔、するぜ──ここで俺に……殺されとくべき、だったってなァ……!」

 

 奴の死に際の言葉を背に受けた俺は、残身を解いてゆっくりと立ち上がる。

 

「……生憎、その後悔はもう通り過ぎてる」

 

 死体には目もくれず、俺は光剣のスイッチを切ってキリトの元へ向かう──必要とあらば加勢するつもりだったが、丁度あちらも決着がついた後らしく、背後には上半身と下半身を分かたれた《死銃》の死体が転がっていた。全身に鋭いダメージエフェクトを刻まれ満身創痍のキリトは、似たり寄ったりな俺の姿を見て小さく笑った。

 

「……やったな」

 

「……ああ、お疲れさん」

 

 短い労いの言葉を贈りながら、俺達は互いの拳をコツン、とぶつけ合う。そこへ、荒い砂地を踏みしめる足音が聞こえてきた──ヘカートを抱えたシノンは、俺達が無事だということを確認すると安堵の笑みを浮かべる。

 

「……終わったのね」

 

「まだやる事は残ってるが……そうだな、少なくとも直近の危険は去ったと見ていいはずだ」

 

《死銃》一派の目的は《あの黒い拳銃に撃たれた者は本当に死ぬ》という伝説を作り上げ、絶対的な殺戮者に返り咲く事であり、ただ闇雲に殺人を繰り返す事ではない。GGO内で奴らを倒した以上、現実サイドの実行犯もシノンの元から姿を消しているはずだ。

 

「……とは言え、向こうに戻ったらすぐ警察を呼んだ方がいい。それまでは鍵を閉めて、一歩も外に出るな」

 

「う、うん……でも何て説明するの?当事者の私達でさえ、あいつらの企みが本当だったって証明出来るものは持ってないのに」

 

「そうだな……一応、俺達の依頼人は公務員で、そっち方面にも多少顔が利く筈だから、奴に動いてもらうって手もあるけど……」

 

「……その場合、シノンのリアルでの住所やら本名を教えてもらう必要がある。ナシだな」

 

 VRMMOに限らず、ゲーム内で現実世界の情報を聞き出すのはマナー違反だし、こと今回の事件の内容を考えればその危険性も身に染みているはずだ。だが──

 

「──いいわ、教える」

 

 シノンは一瞬考えただけで、そう言って頷いた。余りの判断の速さに俺もキリトも思わず「えっ?」と声が漏れてしまう。本当にいいの?と確認する間も無く、シノンは俺とキリトの耳元に口を寄せた。

 

「……私の名前は朝田詩乃。家は東京都文京区湯島4丁目の──」

 

 本名から住んでいるアパートの名前と部屋番号まで聞き終えた俺は、その情報を一字一句しっかりと記憶しながらも驚きを隠せなかった。何故なら──

 

「俺とミツキは、東京御茶ノ水からダイブしてるんだ。湯島ならすぐ近くだ」

 

「え、そうなの……!?」

 

「ああ──だったらいっそ、俺達が直接君の家に行った方が早いかもだが……」

 

 俺の提案にシノンは一瞬何かを言おうとして、それを飲み込む様子を見せた。

 

「……ううん、大丈夫。シュピーゲルの家、結構近くだから。電話すれば来てくれると思う──お医者さん家の子だから、いざって時はお世話になれるしね」

 

「おい止めてくれ、縁起でもない──そうか、シュピーゲルなら大丈夫だな。電話する時、気をつけて来るようちゃんと言っとけよ?」

 

「分かってる。──それはそうと。必要だったとは言え、私にだけ個人情報開示させて終わり?」

 

「ん?あぁ、そうだよな──俺の本名は三島翠月。言った通り、ダイブしてるのは御茶ノ水だけど、家は東京の赤羽だ」

 

「俺は桐ヶ谷和人。家は埼玉県川越市」

 

 俺達の本名を聞いたシノンは少し考える仕草をして、小さく吹き出す。

 

「……成程、確かに安易なネーミングだわ」

 

「お互い様だろ」

 

 片やフルネームの頭と尻、片や名前に1文字付けただけ。手軽さで言えばどっちもどっちだ。

 

「……さて、そろそろ大会も終わらせなきゃな」

 

 話してる間に横槍が入ってこなかったという事は、生き残っているのは正真正銘俺達3人だけ。俺とキリトが自殺すれば、残ったシノンの優勝という形で大会は終わる。

 

「──とまぁ、そういう訳なんで。シノン、ホント悪いんだが……」

 

「……まぁ、どうせあなた達2人共全身ボロボロだし?そんなのに勝った所で自慢にもならないし。別にいいわよ。決着は次のBoBに預けといたげる」

 

 成り行きで次回大会にも出場する事になってしまったが、約束を果たせないのはこちらの都合なので断る権利などあるはずもなく、大人しく受け入れた。

 

 さぁ後は自殺するだけ──だったのだが、ここで思わぬ事態が発生する。俺もキリトも、いざ自分で命を絶とうとすると筆舌に尽くしがたい緊張感に見舞われてしまい、中々決行に踏み切れなかったのだ。

 

 言うなればそう──バンジージャンプで最後の1歩を踏み出すのを躊躇してしまうような。

 

 仕方がないので少しばかり手段を変更。俺とキリトが同時に光剣で斬り合って相討ちで決着させることに。

 

「よし、カウント0の『ゼ』で振るぞ。準備はいいな?」

 

「オーケー。遅れるなよ」

 

 光剣を手に向かい合った状態で、俺がカウントを数える。

 

「3、2、1──ゼロッ!」

 

 指示通りのタイミングで、全く同時に2色の刃が振るわれる。間違っても打ち合わないよう、お互い狙う場所は事前に決めてある。キリトの紫色の刃が、手始めに俺のアーマーを溶解させ──るかに思われたその瞬間、キリトの光剣が突如消失した。

 

 

「「えッ──!?」」

 

 

 異口同音に声を発したのも束の間。

 

ぐォあああああああああ──ッ!?

 

 光剣から発せられる高密度エネルギーがキリトの中で荒れ狂う。赤い刃はそのまま黒いファティーグに包まれた細身の胴を斬り進み──やがて、キリトのアバターが内側から弾けた。……といっても爆発四散した訳ではなく、ちゃんと死体は残っているのだが。

 

 まるで子供に弄ばれたマネキンを思わせる奇天烈なポーズで倒れ伏し、《Dead》タグを浮かべるキリト。俺はそれを3秒程凝視してから、

 

「あー……ど、どうしよう……?」

 

 ギギギ…と首を回転させ、シノンに意見を仰ぐのだった。

 

「光剣のバッテリーが切れたのね……昨日からずっと使いっぱで、どうせ交換もしてなかったんでしょ。タイミングが良いんだか悪いんだか」

 

「なる程──…あっ……」

 

 ここで俺の光剣も刀身がフェードアウト。そう言えば《オロチ》はブレードの出力が高く、また双刃状態にもなる都合、バッテリー消費が激しい。というような説明文を購入時に読んだような気がする。

 こうなれば仕方ない。シノンに銃を渡し介錯してもらおう、と考えていると……彼女は呆れ気味に笑いながら腰のポーチを探り始めた。

 

「北米サーバーの第1回BoBは、2人同時優勝だったんだって。理由は、優勝するはずだった人が油断して《お土産グレネード》に引っかかったから」

 

「お土産……なんだそれ?」

 

「ん、手出して」

 

 言われるままに手を差し出すと、メカメカしい野球ボール大の黒い球体を手渡される。シノンが中央にあるボタンをポチっと押し込むと、ピッ、という電子音に続いて──ピッ、ピッ、ピッ──という明らかにヤバげな音が……

 

「……あー……お土産グレネードって、そういう……?」

 

 この球体と《お土産グレネード》なる技の正体に気付いた俺を逃すまいと、シノンがグレネードごと俺の身体を抱き竦める。

 ぴったりと密着したシノンが、俺の耳元に心底楽しそうな笑い声を残し──次の瞬間、空気を震わす大爆発によって俺とシノンのアバターは木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 同時に試合終了を知らせるアラームが高らかに鳴り響く。

 約2時間に及んだ第3回《バレット・オブ・バレッツ》本戦バトルロイヤルは、《Sinon》と《Mitsuki》の同時優勝で幕を下ろしたのだった。

 




ミツキの光剣の刀身を緑じゃなく赤にしたのは、キリトの光剣がジェダイカラー(ゆうて紫は1人だけですが)だからミツキは対になるシスの色にしよう、ということで。
気分はさながらダース・モール。
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