12月もいよいよ下旬に差し掛かった頃──俺は休日の昼間からバイクを走らせていた。
理由は昨日の夜届いた1件のメッセージ──付き合って欲しい所があるから、13時に池袋に来て。バイクだと助かるわ──というシノンからの急な誘いだった。
具体的に何に付き合えばいいのかなど、詳細は不明。しかしあんな事があって尚俺に声をかけてくる辺り、どうしても俺でなければいけないらしい事、そして幸か不幸か俺の方に用事は無かった事から、半ば仕方なしに出向いているというわけだ。
駅前の駐輪場にバイクを停め、シノンとの待ち合わせ場所へ向かう。場所は東口、時間は約束の5分前。見た限り、どうやらシノンはまだ来ていないらしい。
到着した旨を連絡しておこうかと携帯を取り出そうとした所で、
「──ミツキ」
聞き馴染みのある声と共に、後ろから肩を叩かれた。
「シノン……もしかして、待たせたか?」
「見ての通り、今来た所よ──あなた、ちゃんと時間守るタイプだったのね」
「何だその意外そうな顔は……こないだ学校に迎え行った時だって時間通りだったろ」
「冗談よ──ほら、行きましょ」
2人並んで、池袋の街を進んでいく。その道すがら、シノンは俺を呼んだ目的を話してくれた。
ここ池袋は、昔ながらの体感型ゲームやアトラクションを楽しめる場所としてその筋で人気を博しており、シノンはそれが目当てらしい。
「──ここよ」
「……結構並んでるな」
「前にテレビとかネットの記事で紹介された影響でしょうね。最後尾は……あそこね」
列に並ぶ途中、おどろおどろしいフォントで描かれた《DEAD&Dead》という看板が目に入る。アトラクションのタイトルなのだろうが、何とも物騒な名前だ。
ビルを丸々1フロア使った期間限定のアトラクションで、《完全現実》という売り文句の通り、病院のセットを探索してAI制御のロボットゾンビをビームガンで倒す、というガンシューティングゲームなのだそうだ。
「……で、どうして俺が呼ばれたのかをまだ聞いてないんだが?」
「前に商店街のくじ引きでここのチケットが当たったの。で、試しに1人でやってみたんだけど……ペアでプレイするのが前提の難易度設定だから、ソロじゃ完全クリアが厳しいのよ。だからあなたを呼んだの」
「……それならキリトでも良かったろ。何でわざわざ俺だ」
「……どうせ同じ脳筋なら、多少なりとも銃が使える方を選んだまでよ」
「事実とはいえ酷い言い草だな……期待に添えるとは限らないぞ。リアルのサバゲーなんてやった事ないし、GGOでもロクに当たらなかったし──」
そこまで言いかけて、俺はある事に気付く。
「……どうしたのよ?」
「……サバゲーと言えば、てっきりミリオタ系の野郎共が多いと思ってたけど、意外と女性客も……ってか、カップルばっかだな。最近の若者の間じゃ流行ってるのか?」
「あなただって最近の若者でしょ──大方、遊園地のお化け屋敷と勘違いしてるんじゃない。ゲームスコアのおまけで相性占いとかも出来るみたいだし。まぁ、私はそんなの全然……全ッ然、興味無いけど」
バッサリ斬って捨てるシノンだが、企画者サイドとしては相性診断をウリに若いカップルの客層を呼び込みたかったのではないか……とも思ったり。果たして勘違いしているのはどちらなのか。
話している間にも列は進み、やがて俺達の番がやってきた。
スタッフに通された小部屋がブリーフィングルームになっているらしく、そこでゲームのルール説明を受ける。
モニターに表示されるいかにも軍人然としたナイスガイ曰く──大型病院でバイオハザードが発生し患者が全員ゾンビ化。麻痺銃でゾンビを全て無力化するのが俺達の任務──という事らしい。
『──ベテラン刑事のお前さんが、ニュービーのカワイ子ちゃんをしっかり守ってやるんだぞ!』
「あー……ということで、よろしくベテラン刑事さん」
「ニュービーだからって、サボるようならゾンビの群れに突っ込ませるから」
「……頑張ります」
傍らのラックには2人分の装備が用意されており、GGOでも目にしたようなタクティカルジャケットを羽織る。ゾンビがジャケットに触ると、クリア時のスコアが減少していくシステムになっているようだ。最後は武器だが……
「……コレ2つしかないのか?」
「ええ──はい、ニュービーの武器はこっち」
用意されていた武器の内、シノンがアサルトライフル状の大型銃を装備したのに対し、俺に渡されたのは何とも頼りないちゃちな小型拳銃だった。
「ぼさっとしてないで、とっとと行くわよ。かわい子ちゃん」
「……イエスマム」
得物を携え、俺達は薄暗いビルの中へ踏み出したのだった。
予想よりも数段グロテスクなAIゾンビ達を手際よく倒しながら──その殆どはシノンが見事な1発ヘッドショットで倒したのだが──進むこと暫く、最終ステージらしいボス部屋の前まで到達した。
「部屋に入ると、大量の雑魚ゾンビが襲ってくるわ。しかも後ろの通路は防火シャッターが下りて退路も絶たれる。覚悟はいい?」
「オーケー、行こう」
シノンが銃を構え、俺がドアを一気に開け放つ。素早く中に滑り込んだ俺達を迎えたのは、シノンの言った通り、大量のゾンビ達だった。
「ミツキ、5秒だけ雑魚を引きつけて!後は私が全部始末する!」
「そりゃいいが……ゾンビのタゲってどうやって取るんだ?」
「こう──っ!」
突然背中から突き飛ばされ、俺は迫るゾンビ達の真ん前に立たされる。まさかとは思うが……
「ゾンビ達は1番近い相手を狙う習性があるわ。私がボスを倒すまで耐えて!」
「おまッ……本当に5秒で倒せるんだろうな!?」
「ええ、あなたの犠牲は無駄にはしないわ」
黙々とボスゾンビを撃ち続けるベテラン刑事シノンさんが、新人刑事の俺を呼びつけた本当の目的が露呈した瞬間だった。
こうなればやるしかない。例え囮だろうと、呼ばれた以上はその役目を果たさねば。
俺は銃を持ち上げ、最寄りのゾンビの頭目掛けて引き金を引く。するとGGOの光学銃よろしくバシューン!とビームが……出る訳もなく、AIゾンビに信号を送る為の赤いレーザー光が一瞬伸びるだけだった。しかも……
「おい!頭狙って何で死なないんだコイツらッ!?」
「そっちの銃は威力が低いから、雑魚ゾンビでも最低頭に2発当てないと倒せないのよ」
「そういうのは最初に言ってくれ──!」
慌ててもう一度引き金を引き、1体撃破。一心不乱のダブルタップでゾンビ達を迎撃していくが……圧倒的物量を前に早々に限界が訪れる。
「──おいシノン!もうとっくに5秒経ってるだろ!?」
「もう少し耐えて!大丈夫、あなたのリアルAGIならもう10秒はいけるわ!──言っとくけど、こっちにトレインしてきたら承知しないわよ!」
「んな理不尽な──あぁクソッ!」
いよいよ手詰まりになり、果たしてロボット相手にやっていいものかと迷っていた最終手段《格闘》を解禁。鈍重な動きで迫るゾンビを蹴り倒し、時間を稼ぎながら地道に1体ずつ倒していく。
やがてシノンがボスを倒し、残ったゾンビを2人掛りで全滅させ──ゲームエリアを出る頃にはすっかり疲れ果てていた。
「──あー、そんじゃまぁ……完全クリア、おめでとう」
場所は移り、駅前の大手ファストフード店。昼下がりということもあり、空いていた窓際のボックス席に腰を下ろした俺達は、昼食がてらプチ祝勝会的なものをやるつもりだったのだが……
「………」
当のシノンはビルを出た時から何やら不満げな様子で、受け取ったスコア表を無言で凝視していた。
「……さっきから何をそんなむくれてるんだよ。完全クリアしたじゃないか──出来てた、よな?」
「……えぇ。お陰さまで」
まさか彼女にとっての完全クリアとは、即ちノーダメージのフルスコアを指していたのかと思ったが、そうではないらしい。では一体何故……?と思った矢先、シノンが徐に口を開いた。
「……20点」
「……俺の貢献度合いが?」
「違うわよ──私と、ミツキの相性……100点満点中、20点」
「……まぁ囮だったからな、俺。寧ろ20点あるのが驚きというか──確か、性格診断も書いてあるんだっけか?こういうのって大抵的外れな事しか書いてないイメージだけど」
「──《大事な局面で相棒をしっかり守り抜いたあなた。責任感が強く、多くの人から頼られるでしょう。ただし誰かを守ろうとするあまり、自分自身を守る事が疎かになってしまわないよう注意》──だそうよ」
「……勝手なこと言ってくれるな」
「……ねぇ、ミツキ──」
「──シノン。早く食べた方がいい」
「あまり話したくないのは分かるけど──」
「そうじゃない──外、雲行きが怪しい。降り出す前に帰ろう」
ハンバーガーを頬張りながら指差す先では、先程まで晴れていた筈の空がどんよりとした灰色に染まっていた。予報では降るとしても夜になってからと聞いていたのだが。
状況を理解したらしいシノンも渋々ながら一旦口を噤み、Sサイズのポテトを急ぎ食べ始める。ハンバーガーだけでなくポテトまで頼んでいた俺はフードファイターよろしくの早食いをする事となったが、最後のポテトをコーヒーで半ば流し込むようにして飲み込み、先んじて完食していたシノン共々店を出る。
「……もう、少し降ってきてるわね」
「この程度ならまだ大丈夫だ。食ったばかりで辛いだろうが、急ぐぞ」
小雨が降り注ぐ中、足早へ駐輪場へ向かう。本降りになる前に出発できたまでは良かったのだが……程なくして、肩や袖に落ちる雨粒の量と勢いが増してきた。
上半身だけでも革製のライダースジャケットを羽織ってる俺はともかく、このまま真冬の冷たい雨に打たれていてはシノンの方がまずい。事ここに至っては一時的な雨宿りも得策とは言えなくなってしまった。
……こうなった以上、仕方ないか。
「──シノン、この後予定とかは?」
「え?……別に、無いけど……」
「そうか──流石にこのまま走るのは危ないから、一度ウチに来い。距離的には湯島の君の家より早く着けるはずだ」
「ウチって──っくしゅ!……し、仕方ないわね。お願い」
シノンの了承を得た俺は進路を変更──赤羽にある我が家へバイクを走らせるのだった。
そうそう、幕間ってこれくらいの長さでいいんだよ…どうしてほとんど全部1万字近く書いてるんでしょうか私は?
あんな事があった後ですがシノンとのデート()です。
避けているのはあくまでキリト達SAO組であって、生還者じゃないシノン個人に対してはそこまでではないんですね。もし待ち合わせ場所にキリト達もいたなら即回れ右した挙句、もう誘っても来てくれなくなったでしょうが。
内容を見て「おや、これは…?」と思った方、今となっては結構古くからSAOを知っている方とお見受けします。
続く次回は、なんと…