ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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ついに世界がSAOに追いつきましたね。


幕間:例え無意味な罪だとしても

 バイクを走らせること約20分──赤羽にあるミツキの家に到着した途端、雨が激しさを増した。

 ずぶ濡れのバイクは一先ずシートだけ簡単に掛けて軒下に一時放置。シノンを家に上げることを優先する。

 

「──お、お邪魔します……」

 

 シノンは帰るなり脱衣所へ駆け込んだミツキからタオルを受け取り、濡れた髪を拭きながら家に上がった。

 

「ねぇ、家の人達は……?」

 

「仕事。普段は叔母がいるんだけど、今日は外に出てる」

 

「そ、そう……」

 

「シャワー使っていいから、まずは温まってこい。洗濯機は乾燥器ついてる。使い方分からなければ聞いてくれ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 シノンを脱衣所へ案内したミツキは、それだけ言ってとっととリビングへ引っ込んでしまう。

 

 厚意をありがたく受け取り、まずはたっぷり水を吸って重くなった上着を脱ぐ。続いて上着程ではないにせよこちらもしっかり濡れてしまった薄手のセーターを脱ごうと裾に手を掛けた所で、シノンの手がピタリと止まった。

 

「(……大丈夫……よね)」

 

 閉ざされた脱衣所のドアをチラリと見る。鍵はついておらず、その気になればあちら側から自由に開けられる状態だ。

 しかし考えている間にも冷えた体は鳥肌が立ち、小さなくしゃみも出る。何はともかく、今はミツキの言う通り体を温めるのが先決だ、と自らに言い聞かせたシノンは、出来る限り迅速に服を脱いで洗濯機に投入。小さく身震いしながらそそくさと浴室に足を踏み入れた。

 

「はぁ~……」

 

 温かいシャワーを頭から被って一息ついていると、水音に混じって、脱衣所のドアをノックする音が……

 

「──シノン」

 

「ひゃッ!?──ミ、ミツキ……!?」

 

 すりガラス状の樹脂パネル越しに、ぼんやりとミツキの影が浮かび上がる。

 

「着るもの、適当に置いとくぞ。必要なら好きなの着てくれ。あと、シャンプーやらも好きに使ってくれて良いからな」

 

「え、えぇ……ありがと……」

 

 最後に「ごゆっくり」と言い残し、ミツキは脱衣所を出て行く。ドアが閉まったのを確認した途端、シノンは深く胸を撫で下ろした──のも束の間。

 

「(あれ……?)」

 

 シノンはふと、重大なことを思い出す──着ていた服は全て乾燥中なわけだが、その中に唯一、含まれていないものがあったはずだ。大して雨に濡れておらず、また乾燥が完了するまで風呂を占拠しておく訳にも行くまいと思い、適当なタイミングで出ていけるよう脱衣場に置いたままだったもの──即ち、下着が。

 

「(……み、見られた……!?)」

 

 いやいやまさか……と思う一方、シノンの脳裏は高速回転していた。

 

「(き、今日どんなのだったっけ──じゃなくて!──入る前、どこにどう置いたっけ?えっと、確か……脱いだ後、簡単に畳んで……タオル……そう、タオルの下に置いた!さっきのミツキは入口から入って着替えだけ置いてまっすぐ引き返したから……多分、タオルには触ってない筈……だ、大丈夫よね……!?)」

 

 ほんの数分前の事なのに、こうも自分の記憶力を信じられないのは初めての事だ。軽くパニクったシノンの思考は、あらぬ方向へと舵を切り始める。

 

「(──って言うか、普通に言われるがまま来ちゃったけど……ここ、ミツキの家よね……!?)」

 

 社会的身分は同じ高校生1年生ではあるものの、実年齢で言えばミツキはシノンより1つ上なのだという事実を今更のように思い出す──週末の土曜日、家族不在の男子の家に上がり込んでお風呂を借りているという状況がシノンの全身に熱を巡らせた。

 

「(違うわッ!これはやむを得ない緊急避難!アイツが私を心配してくれただけよ!他に、意味なんか……!)」

 

 他意なんか無い──そう続けようとするも、心のどこかに「他意」を望む自分でもいるのか、きっぱり断言するには至らない。

 

「もう……そんな事考えてる場合じゃないでしょ。私のバカ。しっかりしなさい……!」

 

 洗面器に貯めた冷水を、気付けのつもりでバシャッと顔に叩きつける。はねた飛沫で小さく体を震わせたシノンは、お湯に戻したシャワーをもう一度頭から被った。

 これ以上変な事を考える前に出ようかと思ったシノンだったが、その視界があるものを捉えた──綺麗に並んだ、シャンプー類の各種ボトルだ。後ろ髪を引かれるようにそれらを数秒間凝視したシノンは……

 

「(……まぁ、一応人様の家に上げてもらってる訳だし。綺麗にしておくに越したことはない──というか、マナーよね。うん、これは最低限のマナー……)」

 

 尤もらしい理由を言い聞かせながら、髪と体を──普段自宅で入浴する時よりも少しだけ念入りに──洗って、シノンは浴室を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──シノンがシャワーを浴びてる間、俺は雨に濡れたバイクの洗浄を済ませた後、暖房の効いたリビングで夕方のワイドショーを見ていた。

 ニュース報道からコーナーが切り替わり、天気予報へ──お天気キャスター曰く、今日はこれ以降ずっと降りっぱらしく、止むのは明日の朝らしい。

 

『──加えて、日没以降はこれまで以上に冷え込むことが予想され、夕方から夜にかけて、雨が雪に変化する可能性があります。これを受けて、各種交通機関は運転を一時休止することも視野に──』

 

「……マジか」

 

 良くないニュースに思わず声が漏れる。報道を受けて電車は急ぎの帰宅ラッシュで大混雑は必至だろう。時間をズラそうにも雪になってしまってからでは遅い。

 こうなっては仕方ない、もう後1時間もすれば家族が帰ってくるはずだ、車通勤の母に頼んでシノンを送ってもらう他ないだろう──そんな事を考えていると、背後からペタペタと足音が……

 

「シノン、天気なんだ──が……ッ!?」

 

 何の気無しに振り返ると、とんでもない光景が飛び込んできた。

 そこに立っているのは予想通りシノンだったのだが……着ているのは日中の私服ではなく、ダボっとした服装──俺が普段、部屋着にしてるTシャツとパーカーだった。

 確かに、何か羽織るものはあった方が良いだろうと着替え共々パーカーは持っていった。しかしその中に俺のTシャツが紛れ込んでいた事までは気付かなかった……叔母が同じ色のTシャツを持っている為、見事に取り違えてしまったようだ。

 

 でもだからって何でピンポイントで俺のを選んじゃうかなキミ──という俺の言葉にならない叫びなど知る由もないシノンさんは、

 

「……シャワー、ありがと」

 

「あ、ああ……服、乾かなかったか?」

 

「その、入る前にボタン押し忘れちゃってたみたいで……着替え、ありがたく貸してもらったわ」

 

「そ、そうか……」

 

 知り合いの女子が俺の家で俺の服を着ている──頭では何て事ないように考えていたが、実際目にすると湯上りでほんのり上気した姿も相まって、こう……背後から不意にクリティカル攻撃をもらったような衝撃を食らう。

 

「……それで、天気がどうしたの?」

 

「あ、あー……こほん──どうも止むのは明日の朝。夜には最悪雪かもって話だ」

 

「雪……どれくらい降るのかしら」

 

「さぁな……予報では、交通機関に多少なりとも影響するかもしれないそうだ」

 

「となると……今から急いで出たところで、帰宅ラッシュに巻き込まれるのが関の山ね」

 

「6時になったら母さんが帰ってくる筈だから、車で送って貰うよう頼むよ。それまでは好きに寛いでてくれ」

 

 時計はじきに午後5時を回る。1時間もあれば服も乾くはずだ。懸念点があるとすれば、服が乾くより先に叔母が帰宅し、あらぬ誤解を生んでしまう事と、もう1つは……

 

 

 

 母《仕事が忙しく、帰る頃には雪の為、今日は会社に泊まります》

 

 佳苗《ごめん!雪すごくて今日帰るの無理そう!夕飯テキトーに済ませちゃって!》

 

 

 

「……えっ」

 

 午後6時前──振動した携帯を開いた途端飛び込んできた家族からのメッセージ。その内容に目を通した俺は、慌ててカーテンを開く。窓の向こうでは、やかましかった雨音は鳴りを潜め、深々と雪が降っているではないか。確かに夕方からとは言っていたが、いくら何でも早すぎではないか。

 

「ああ……降り出してきちゃったわね──って、どうしたのよ?」

 

 窓に手を突き肩を落とす俺に、シノンは首を傾げる。

 

「……すまん。今日、家族帰ってこないみたいだ」

 

「えっ……じゃあ……」

 

「ちょっと待て、今考える……」

 

 まず電車は混雑や運休で使えないと見ていいだろう。徒歩やバイクは論外、後はタクシーだが……やはりというべきか、帰宅ラッシュでてんてこ舞いのようだ。

 他に何かシノンを無事帰す方法が無いかと頭を捻る俺の肩を、当のシノンが叩く。

 

「ねぇ──」

 

「9時くらいになればタクシー呼べるようになるか……?けどそこまで待ってダメだったらもう本当に手が……」

 

「ねぇってば」

 

「……っと、悪い。何だ?」

 

「色々考えてくれてる所悪いし、私が言う事じゃないのも分かってるけど……こうなった以上、1つしかないんじゃないの?」

 

 その「1つ」というのは、勿論俺の頭にも浮かんではいる。いるのだが……

 

「……まぁ、あなたがどうしても嫌って言うなら仕方ないけど」

 

「や、嫌って言うか……」

 

「何よ、言いたい事があるならハッキリ言いなさい」

 

 こちらを小さく睨むシノンに、俺は逡巡しながらも大人しく白状した。

 

「……()()()()があってまだ1週間だぞ──怖いだろ、男と2人きりで寝泊りとか」

 

 ほんの数日前、彼女は《死銃》の片腕である新川恭二に暴行を受けかけた。それまで友達だと信じていた相手に、あまつさえ命を狙われたのだ。そんな事件からひと月も経っていない今、家族不在の異性の家でシャワーを浴びるだけでもかなりの勇気が必要だったはず。その上泊まるというのは恐怖を覚えてもおかしくない。当然、そんなのは俺の望む所ではない。

 

 出来ることなら、わざわざ言及して思い出させるのも避けたかったのだが……しかしそんな俺の危惧に反し、シノンの口から出てきたのは吹き出すような笑みだった。

 

「あなた……やっぱりバカね」

 

「……は?」

 

「そんなの、あなたの家に行こうってなった時点で考えたに決まってるじゃない。その上で来てるのよ──あっ……今のは別に、そッ、そういうのがオーケーとかそういう意味じゃないからッ!あ、あくまで危機管理はした上で来てるって事!」

 

 早口でまくし立てたシノンは、小さな笑みと共に腕を組む。

 

「……そもそも私、あなたなら大丈夫だって思う程度には、あなたの事信用してるもの──そりゃあ、万が一の時は全力で蹴っ飛ばしてやろうと思ってたけど──あなただって、そういうつもりで私を連れてきた訳じゃないでしょ?」

 

「勿論」

 

 即座に答えた瞬間、一瞬だけシノンが微妙な顔をしたように見えたが、すぐ元に戻って言葉を続ける。

 

「とにかく──あなたさえ良いなら、今晩だけお世話になるわ」

 

「……分かった。君さえ良いなら、泊まってってくれ」

 

 俺の答えに、シノンは満足げに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──とはいえ、ちゃんと警戒心は持っておいてくれると助かるんだけどな」

 

「心配しすぎ──言ったでしょ、もしもの時は思い切りやるって。寧ろあなたに怪我させちゃうかもね」

 

 泊まるのならそろそろ夕飯の準備を始めようという話になり、キッチンに向かおうとしたシノンだが、不意に後ろから手を掴まれた。

 

「ミツキ……?何──きゃッ!?」

 

 手首を掴まれ、シノンはそのまま手近な壁まで押しやられる。身長差の都合、ミツキがほぼゼロ距離からシノンを見下ろす形になった。掴まれた手首に然程力は込もっていないが、それでも──

 

「──振り解けないだろ?俺がその気になれば、君1人を押さえこむ程度簡単だ」

 

「……ちょっと、離し──」

 

 シノンの心臓が早鐘を打つ。このまま……少し背伸びをすれば、()()()しまいそうな距離。

 

「信用してくれるのは嬉しいけど、少しは警戒心を持ってくれ──今は、特に──…一応、俺も男だからさ」

 

「ッ……」

 

 間に挟まった小さな一言。それはまるで、シノンだけじゃなくミツキ自身にも言い聞かせているかのようで……気付けば、シノンは自由なままの左手を持ち上げていた。押し退けるのではなく、逆に引き寄せるように、ミツキの頬へ──

 

「(私……あなた、なら──)」

 

 指先がほんの少し触れた瞬間、掴まれていた手がパッと解放される。同時にミツキはシノンから体を離した。

 

「……すまん、悪ふざけが過ぎた。けどまぁ、そういう事だ。頭に入れといてくれ。──夕飯の準備だったな、冷蔵庫に何かしらあると思う。手伝ってくれるか?」

 

「ぇ……あ、うん……」

 

 キッチンへ向かったミツキ。ほっと息をつくシノンだが、心臓の動悸は収まらない。突然ミツキに迫られたのも勿論だが……最終的にそれを受け入れてしまいそうになっていた自分がいた事の方が理由として大きいようにも思える。

 

 もし──もし近づかれた時点で、目一杯背伸びをしていたら。あそこでミツキが自分から離れていなければ。……ミツキが離れるより先に、シノンの方からミツキに近づいていたなら──

 

「(バッ……何考えてるのよ!?)」

 

 つい「その先」を想像してしまい、顔が熱くなる。これでは自分の方こそ「そんなつもりで来たのか」と言われても仕方がない。

 ミツキは後ろでシノンが悶々としている事など全く気にも留めず冷蔵庫を漁っている。せめてもの仕返しとして彼の足をつま先で小突く程度が、今のシノンに出来る精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 冷蔵庫に余っていた食材で作った肉野菜炒めをおかずとして夕食を済ませた2人。

 食後のお茶もそこそこに、シノンが洗い物をしている間、ミツキが入浴する事に──と言っても、来客中に家主がヌクヌクとしているわけにはいかないので、こちらもシャワーだけ済ませてさっさと上がった。

 

「洗い物、ありがとな」

 

「泊めてもらう身だし、これくらいはね──って、ちょっと」

 

「ん?」

 

「ん?じゃないわよ。あなた、そのままでいるつもり?」

 

 言っている意味が分からず首を傾げるミツキに、シノンは呆れたようにため息をつく。

 

「髪、まだ濡れたままじゃない。ちゃんと乾かさないと風邪引くわよ」

 

「あぁ……別に大丈夫だろ。ちゃんと拭いたし、すぐ乾くって」

 

「ダメよ、ちゃんと乾かしなさい。ほら、ドライヤー持って来て」

 

 内心メンドクセーと思いながらも、洗面所からドライヤーを持ってくる。すると……

 

「──ん」

 

「……ん?」

 

「何してるのよ、早く貸しなさい」

 

「……え、いや自分で出来るよ」

 

「あなたの事だから、どうせ適当に済ませるんでしょ。いいからそこ座る!」

 

 半ば無理矢理にドライヤーを奪われたミツキは、渋々ソファーに腰を下ろす。その後ろに立ったシノンは、彼が首に引っ掛けていたタオルでもう一度しっかり水気を取ってから、ドライヤーのスイッチを入れた。

 

 少し離れた位置から弱設定の温風を当て、ミツキの髪を乾かしていく。

 

「(ミツキの髪……結構細い。手触りも意外とサラサラしてるし……遺伝なのかしら)」

 

 ドライヤーの風がシャンプーの匂いを運んでくる。髪を掻き分けるシノンの優しい手つきは、まるで頭を撫でられているような心地良さすら覚えて……髪を乾かし終わる頃には、ミツキはうたた寝をしていた。

 

 ドライヤーを止めたシノンはそれに気づくと、逡巡の末に自分もミツキの横に腰を下ろす。そして項垂れて眠るミツキの体を、自分の膝の上にそっと横たえさせた。

 

「(……可愛い寝顔。別人みたい)」

 

 シノンの膝の上で安らかに寝息を立てる少年を見ていると、彼が本当にGGOで《死銃》達と戦ったあのミツキと同一人物なのか──先日ダイシーカフェで見せたあの一面は幻だったのではないかと思ってしまう。

 

「……そんなわけ、無いのにね」

 

 辛い、苦しいといった感覚は、常に表層に出ているわけではない。表面上は収まっているように見えても、心の内側にしっかりと根を張っているのだという事を、シノンは身を以て知っている。

 

 今日1日一緒に過ごした限りでは、基本的にシノンの知る「いつものミツキ」だったが……それでも、苦しみを取り除くことは勿論、忘れられたわけでもない。ただ、違う場所へ目が行っていただけに過ぎない。

 

 今のミツキは大切な人と引き離され、塞がることのない穴を抱えている。

 それはきっと、シノンでは埋められない。会った事は勿論、姿さえ見た事の無いアリスという少女が欠けた穴は、付き合いの長いキリトにも、アスナにも埋める事は出来ない。それが出来るのは他ならぬ当人だけなのだ。

 

 それでも──何か出来る事はないのかと、そう思わずにはいられなかった。

 

 シノンの口が、半ば自動的に言葉を紡ぎ出す──

 

「ねぇ、ミツキ……あなた言ってたわね。『大切な人を守る為に戦った私やキリトなら大丈夫』『自分に救われる資格は無い』って──」

 

 それが全てとは思わないが、キリトやシノンと違い、誰かを救う為の罪ではない──誰も救えなかった罪である。という認識がミツキを苦しめる一因であることは恐らく間違いない。

 その認識を覆す事は……出来ない。事が起こったのが仮想世界である以上、彼らがシノンにしてくれたように、彼の罪によって救われた人間を探し出すのは不可能と言っていい。調べようにも、当時のことをミツキと同等以上に知っている人間がそもそも存在しないのだ。

 

 だから、ミツキの言う通りなのだろう。彼は救う為に罪を犯したわけではなかった。彼の罪は誰も救えなかった。それが真実。しかし、それでも──

 

 シノンの手が、眠るミツキの頭を慈しむように撫でる。

 

「私ね、あなたの言葉に勇気を貰ったの。他の誰でもない、()()()()()に──」

 

 同じ言葉だったとしても、それを口にしたのが別の誰かであったなら、きっとシノンは今こうしてここにいる事はなかった。《死銃》との戦いに打ち勝つことも、恭二の狂気に立ち向かう事も出来なかっただろう。

 ミツキだから……過去を背負い、苦しみながらも進み続ける今のミツキだからこそ、その言葉はシノンの胸に染み渡った、背中を押してくれた。

 

 ならば……そこに意味は生まれる。

 

「あなたの罪は誰も救えなかったのかもしれない。あなたの罪は無意味なのかもしれない。それでも……その罪を背負って生きるあなた自身は、無意味なんかじゃない。だってあなたは私を助けてくれた、私を救ってくれた──罪を背負ったあなただったから、私は救われたの」

 

 例え犯した罪そのものに意味は無くとも、「罪を犯した」という事実は大きな意味がある。こんな言い方は不謹慎極まりないが、過去の罪に苦しむ今のミツキでなければ、シノンを救う事は出来なかった。

 

 彼の心情を慮るなら「ありがとう」とは言えないが……

 

 

「罪の重さに押し潰されそうになった時……その時は、心の中で私の事を思い出してね──私が、あなたが罪を犯した意味になる。私も一緒に背負うから」

 

 

 その言葉に、抑えきれなかった感謝の気持ちをほんの少しだけ込めて、シノンはミツキの頭を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日──日曜日の朝8時。

 降っていた雪はすっかり止み、天気は快晴そのもの。薄く積もった雪が朝の陽光を受けてキラキラと輝いていた。

 

「──泊めてくれてありがと。朝ご飯までいただいちゃって、悪かったわね」

 

「気にするな。それより、送っていかなくて本当に大丈夫か?」

 

「うん。電車はもう動いてるみたいだし、バイクは逆に危ないでしょ」

 

 路面凍結という程ではないが、雪が降ったばかりの道路をバイクで2人乗りは流石に危険の方が勝る。ここはシノンの言う通りだろう。

 

「……それじゃ、お邪魔しました」

 

「──シノン」

 

 家を出ようとしたシノンの背中を、ミツキが呼び止める。

 

「……何?」

 

「……いや、何でもない──帰り道、気をつけてな」

 

「……うん。それじゃあね」

 

 小さく微笑んだシノンは、そう言ってミツキの家を後にした。

 




彼T+彼パーカー+お泊まり=最強。髪まで乾かしてもらっちゃいましたよこの子ってば。

原作ではエクスキャリバー獲得クエにて「この剣を抜くたび私を思い出してね」と爆弾を投下したシノンさんですが、本作では「罪の意識に耐えられなくなったら、あなたが助けた私を思い出して」という彼女にしか出来ない形でミツキに己の存在を刻みつけていきました。
流石、原作でも「愛の重さはアスナ以上」と言われるシノンさん。
「世界が敵になっても私は味方(要約)」と告ったアリス然り、ミツキを好きになるならこれくらいじゃなきゃダメという事なのかもしれません。


話は変わって、皆様アンケートのご協力ありがとうございました。
序盤こそ拮抗しておりましたが、最終結果は約40票差でマザーズ・ロザリオ編となりました。
(正直もっと大差になると思ってました)
少しお休みを頂いたり(しないかもしれない)、その結果定期更新の曜日が変わったり(しないかもしれない)などあるかもですが、次章をお待ちいただければと思います。

以上、思ってた以上にミツキが苦しんだファントム・バレット編、本当に完結!
重ね重ね、読んでくださる皆様のお陰でまた1つ山場を超えることが出来ました。
お付き合い頂き、ありがとうございました。
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