ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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時系列はフェアリィダンスまで遡る…
※暫くしたら番外編として別の章に移動させます。急になんか変な話入ってきたんだが!?となっても悪しからず。



番外編
幕間IF:GOOD END


「はぁ……はぁ…──」

 

 夜の冷たい空気が漂う病院の廊下を、荒い息をつきながら1人、歩き続ける。

 

「はぁ…はぁ……ッく──」

 

 須郷のナイフで傷つけた左手が痛い。深い傷ではなかった為出血は止まっているが、冷たい空気とは対照的に熱を持った傷口がジンジンと主張していた。

 

「はぁ……ハァ……ッ」

 

 やがて俺は、とある一室の前で足を止めた。悴んだ手で面会用パスを翳してロックを解除。緊張の面持ちでドアを開くと……俺を焦らすように、出入り口とベッドを隔てるカーテンが立ちはだかった。

 

 これを……この布1枚を取り払った先に、彼女がいる。ずっと、ずっと会いたかった彼女が。

 しかし彼女もそうとは限らない。現実世界に戻った途端、彼女の中から全てが綺麗さっぱり消えてしまっている可能性だってゼロじゃない。そう考えると、途端に怖くなるが……

 

 

 ──待ってるわ。現実世界で、あなたが来てくれるのを。

 

 

 ログアウトする直前の彼女の言葉を薪として、萎みかけた勇気をもう一度燃え上がらせる。一度深呼吸を挟んでから、ゆっくりとカーテンを開いた──

 

「………」

 

 言葉が、出なかった。あまりにも美しかったから。

 

 ベッドから体を起こし、ぼんやりと窓の外の夜空を見上げる彼女を、優しい月光が照らし出す。それを受けた金色の髪がキラキラと輝いているようだった。

 

 俺の存在に気づいたようで、青々とした瞳がこっちを見る。

 

「ッ……ぁ…──」

 

 言いたい事は沢山あったはずなのに、いざ彼女を前にすると声が出ない。まず何を言えばいいのかすらも頭から吹き飛んでしまっていた。

 

 

「……ミツ、キ……?」

 

 

「ッ──」

 

 反射的に息を飲んだ。思わず我が耳を疑った。彼女は今、何と?名前を……俺の名前を、呼んだのか?

 

「ア……アリ、ス──」

 

 どうにか絞り出したその名前を聞いた彼女もまた、驚いたようにサファイアの瞳を見開く──その目に、涙が滲んだ。

 

「ミツキ……あなた、なのね?」

 

「あ、あぁ……俺だよ……ッ……君の相棒の、ミツキだ……!」

 

 言葉だけでは足りないと言うように、彼女が手を伸ばしてくる。まだ点滴に繋がれたままの手を取ると、今までどれだけ願い、祈っても全く動く事のなかった彼女の手が、弱々しくも俺の手を握り返してきた。我慢の限界を迎えた俺は、アリスのことを強く抱き締めた。

 

「アリス……覚えてるか?俺の事、キリトやアスナの事──」

 

「……えぇ、分かるわ。キリトも、アスナも、私のかけがえのない友で……あなたは、私の大切な人──良かった……約束、ちゃんと……っ!」

 

 アリスは握った俺の手を自分の頬に触れさせる。

 

「冷たい──けど、感じるわ。あなたの温度を……暖かさを……本当に、帰ってきたのね」

 

「あぁ……そうだよ。全部……これで本当に、全部終わったんだ……キリトも、俺も……本当にッ……がんばったん、だよ……ッ」

 

 急に膝から力が抜け落ちる。泣き崩れた俺の頭を、アリスは優しく撫でてくれた。

 

「……ありがとう、ミツキ……ね、もう一度聞かせてくれる?あなたの本当の名前を──」

 

「……っ……三島、翠月……君とずっと一緒に戦ってきた相棒で、君の恋人だ──アリス、君の名前は……?」

 

「アリス・ツーベルク──それが、誰よりもあなたの事を愛し、これからも愛し続ける私の名前よ。翠月」

 

 よもや彼女もまた、アスナ同様本名とキャラネームが同じタイプであった事に、俺は泣きながら笑ってしまう。

 

「翠月、もっとよく顔を見せて──もっと、あなたを感じさせて」

 

 立ち上がってベッドに腰を下ろした俺の顔を、アリスの両手が包み込み……そのままそっと口付ける。

 2年と数ヶ月間寝たきりだった彼女の手は、覚醒時の俺程ではないにせよ骨ばっているものの、暖かく──触れた箇所から彼女の気持ちが伝わって来るようだった。

 

「……なんだか、最後に見た時よりも少し大人びたわね」

 

「アバターが出来た時から2年経ってるからな……そういう君も、もっと綺麗になった」

 

「あまり見ないで……もっとちゃんとした姿で会えれば良かったのだけど」

 

「はは、そりゃ無理だ。今の俺は、どうしたって君を見ちゃうよ」

 

「も、もう……」

 

 恥ずかしそうに目を逸らしたアリスの頬へ手を伸ばし、もう一度唇を重ねる──2人によく似た剣士と槍使いが、どこからか俺達のことを祝福してくれているような……そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、5月──無事帰還者学校への入学を果たした俺は、今日も今日とて勉学に勤しみ、待ちに待った昼休みを迎えていた。

 

「──ミツキ、お待たせしました」

 

「大丈夫だよ。行こう」

 

 アリスと合流した俺は、2人一緒に中庭へ向かう。ダンジョンよろしく入り組んだ生垣の道を進んでいくと……

 

「──よ、お2人さん」

 

「遅くなりました。アスナ、キリト」

 

「やっと来たか。遅いぞ2人共」

 

「キリト君だってさっき着いたばかりでしょ──いらっしゃいアリス、ミツキ君」

 

 燦々と降り注ぐ陽の光を優しく遮る自然の東屋──その下に設けられたベンチで、キリトとアスナが俺達を待っていた。

 女性2人を挟む形で横並びに座った俺達に、アスナは持参したバスケットの中身を公開する。

 

「──じゃーん!」

 

「うぉ、これってまさか……!?」

 

「74層で食べた、あのサンドイッチか!?」

 

「作ったのですか?現実世界で……!?」

 

 三者三様の反応を見せる俺達だが、輝く瞳と嬉しい気持ちは共通だ。アスナは照れたような笑みを浮かべながら「完全再現出来たわけじゃないんだけどね~」と、各自の分を取り分けた。

 

 

「「「──いただきます!」」」

 

 

 口を揃えて唱和するなり、俺もキリトも大口を開けてかぶりつく。

 

「……んん、美味い!」

 

「確かに細かい味が違う気もしなくはないけど……でも9割型再現出来てるだろ。十分過ぎる完成度だぞ。その証拠に──ほら」

 

 俺が目を向けた先では、もっきゅもっきゅと嬉しそうにサンドイッチを頬張るアリスの姿が。

 

「気に入ってくれたようで良かったわ。いつか完全再現してみせるから、楽しみにしててね」

 

「むぐ……はい、期待してます!」

 

 談笑を挟みながら昼食を摂り終え、各々のクラスへ引き揚げる最中の事──

 

「最近思うけどさ、昼休みってこんな短かったっけ?」

 

「どうしたの急に──学校によって多少差はあるだろうけど、大体どこもこれくらいじゃない?」

 

「そのはずなんだけどさ……なんかこう、この面子が揃うといつにも増してあっという間に思えるっていうか……」

 

「私は、何となくキリトの気持ちが分かるような気がします。楽しい時間はあっという間、と言うように──同じ学校で学び、語らい、また明日と言える──そんな何気ないひと時が、それだけ充実しているという事でしょう。あの世界を経験した今なら、こうした日常が一層尊く思えます。……これで4人共クラスも同じなら、文句無しだったのですが」

 

 この中で同じクラスなのはアリスとアスナだけであり、俺とキリトはそれぞれ別々のクラスだ。──学内屈指の美少女2人が揃っているという事もあり、男子達の間では彼女らと同じクラスというだけで一種のステータスになっているのはここだけの話である。

 

 ……尤も、それをステータスと言うのなら、俺とキリトは間違いなくステータスカンストレベルの幸せ者なのだが。

 

「何、授業が終われば会えるさ。それに今日は放課後も予定入ってるしな」

 

「確か、エギル殿の店で集まるのでしたね。キリトの妹も同行するとか」

 

「そうそう。スグの奴、アリスと一度試合してみたいって言ってたよ。悪いけど、その内暇な時があったら付き合ってやってくれ」

 

「悪いなどという事はありませんよ。手合わせというなら望む所です──と言っても、流石にアインクラッドの時と同程度動ける程の自信はありませんが……」

 

「けど、案外どうにかなるもんだぞ。動きの勘さえ覚えてれば、後はソードスキルを再現できるレベルまで体を鍛えるだけだ──俺は今ンとこ、《バーチカル・スクエア》習得を目標にしてる」

 

「まだ諦めてなかったの?SAOの装備と同じくらい重い剣を振ろうと思ったら、どれだけ鍛えればいいのか分かんないわよ」

 

「うーむ……片手剣はともかく、両手槍なら何とかならないか?ほら、《オービット・ウィール》辺りならこう……」

 

「ミツキ君まで乗り気にならないでよ、もぉ……」

 

 無人の中庭に、3人の楽しげな笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の睡魔との熾烈な激闘を切り抜け、時は放課後──俺は昇降口で他3人の到着を待っていたのだが……

 

「……ん、アリスだけか?」

 

「ええ。途中まで2人も一緒だったのですが、アスナが先生に頼まれ事をされまして。キリトはそれを手伝うから、私とミツキで先に行ってて欲しい。と」

 

「そうか。別に待っててもいいけど……直葉ちゃんを待たせるのも悪いしな。行こうか」

 

 アリスと手を繋ぎ、俺達は最寄駅へ向かって歩き始めた。

 

 暫く歩き続け、辺りに人気が無くなった時──繋いだ手の中で、アリスの手が何やらモゾモゾと動き出す。

 

「……アリス?」

 

 何してんの?という意味を込めた俺の呼びかけに答えず、アリスはモゾモゾと手を動かし続け、やがてスルリと俺の手を振りほどいてしまう。

 もしかして、流石に暑苦しいとか鬱陶しいとか思われた……?そう考えたのも束の間──アリスは自由になった腕を、おずおずと俺の腕に絡ませてくるではないか。

 

「あ、あの……アリス、さん?」

 

「な、何ですか?別に、おかしな事ではないでしょう。私とお前は、恋人同士なのですから……」

 

 ……まさかとは思うが、アスナとキリトに影響でもされたのだろうか?確かにあの2人、2人きりの時(大抵俺達も一緒にいるのだが)は手を繋ぐどころか腕を組んで歩く事もしばしば──こちらは本当に2人きりの時にしかデレてくれない愛しのアリスも、内心そういうのに憧れがあったという事か。

 

「……く、くっついてると暑くないか?」

 

「私は問題ありません。……お、お前が迷惑だというなら、止めますが……」

 

 絡まる腕に力が込もる。アリスの心臓の鼓動が腕に伝わってくるようだ。

 

「……正直、めちゃくちゃ嬉しいです」

 

「そ、そうですか……私も、嬉しい、です……」

 

「それは何より……」

 

 そのまま腕を組んで歩くこと暫く──駅に近づくにつれて、少しずつ人通りも増えてくると、アリスは名残惜しそうに腕を解いた。

 

「……そんな寂しそうな顔をしないでください。いえ、させているのは私ですが──その、また2人きりの時に」

 

「寂しそうにしてるのはそっちだろ──けど、うん。2人きりの時に、な……了解」

 

 そう言って、もう一度手を繋ぎなおす。

 

「ほら、行こうぜ──後ろで隠れてる2人も」

 

「えっ……!?」

 

 慌てて振り向いたアリスの視線の先には、バツの悪そうな笑みを浮かべるキリトとアスナの姿が……

 

「なっ……2人ともいつの間にッ!?ミツキ、いつから気付いていたのですかッ!?」

 

「あー、っと……多分、アリスが腕組んできた辺りから……かな」

 

「きッ、気付いていたなら言いなさいバカ者ッ!キリト、お前達も、黙ってついてくるなんて不謹慎ですよ!」

 

「いや、だって……あまりにも熱々だったもんだからさ。邪魔するのも悪いかと……そ、それに俺よりもアスナの方がノリノリだったんだぞ?」

 

「言い出したのはキリト君でしょ!」

 

 この期に及んで見苦しくも責任を擦り付け合うキリトとアスナの前に、凄まじいオーラを纏ったアリスが迫る。さしもの《黒の剣士》と《閃光》のカップルといえど、我らが《姫騎士》様のお怒りを前にしては平謝りするしか無いようだ。それは俺が1番よく知っている。

 

「何でもいいけど、早く行くぞー。今度は直葉ちゃんに怒られても知らないからな──」

 

「ちょッ、待ちなさいミツキ──!」

 

 足早に駅へ駆け込む俺を、アリスを先頭にした3人が追いかけてくる。こんな他愛ない日常が、とても愛おしく感じられた。

 

 

 

 

 ──これは、そんなあり得たかもしれない未来を綴った、泡沫の夢である。

 

 

 

 

 




本日2024年11/2はミツキとアリスがSAOで結婚したまさにその日です。

何を書くか迷いましたが、折角なら本編では実現しなかった話を書こうじゃないかということで、
「SAOクリア後、アリスの身元がちゃんと分かっていて、アスナと共にALOに囚われており、ミツキはキリトと共に彼女達を無事助け出すことが出来た。アリスはちゃんと全部覚えてた」という「設定とか矛盾とか関係ねェ!こうなれば良かったのになァ!」をお送りしました。
差し当たってアリスにはちゃんと姓が必要なので、暫定的にツーベルクを名乗ってもらってます。

このミツキはちゃんとアリスと再会できたことで、毎朝アリスと一緒に通学できるし、一緒にALOをプレイすることは勿論、放課後や休日にデートだってできちゃいます。夏休みには皆と一緒にEXエディションの海底神殿のクエストに挑んで猫耳アリスの水着姿を拝んじゃったり。
SAO時代に背負ったものこそそのままですが、こっちではアリスが傍にいてくれます。当然死銃事件後にキリト達とすれ違う事なんてありません。これには茅場とハピエン厨もにっこり。

…ま、夢なんですけど。

※明日は本編の方が更新されます。
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