ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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突発で失礼致す!


幕間IF:トリック・アンド・トリート

 秋も深まる10月下旬。しつこかった残暑もようやく鳴りを潜め、秋らしい涼しさ──を通り越し、早くも冬の到来を告げんばかりの寒さが立ち込めるこの頃。

 

《ダイシーカフェ》は平日ながら貸切となっていた。というのも──

 

 

「「トリック・オア・トリート~!」」

 

 

「……ハロウィンは明後日だぞキミたち」

 

 扉を開けた俺とキリトをそんな声と共に出迎えたのは、リズとシリカだった。2人揃って何やら体を黒いマントですっぽり覆っている。

 

「仕方ないでしょ。当日はALOのイベントやら仕事やらで忙しくて、リアルで集まれるのが今日しかなかったんだから。ついでにミツキ(アンタ)の誕生日も祝ってあげようってんだから感謝しなさいよ」

 

「ついでて……当人を前にして言いますか──そんな薄情モンにゃお菓子はやらんぞ」

 

「ほほう~?ならイタズラがお望みってことでいいのね?この日の為に考えたイタズラが火を吹くわよ~」

 

「へいへい、後で飴ちゃん買ってやるから勘弁してくれ、リズベット先生。──キリト、パス」

 

「うぇ、俺かよ!?」

 

 と、こんな風に軽くあしらってみせた俺だが、内心リズのイタズラに戦々恐々としているのは秘密である。なにせ彼女、こういう時のイタズラは「マジ」なのだ。顔に落書きされて写真の1枚も撮られたが最後、最低でも年越しまでそれをネタにからかわれるに違いない。

 

「キリト~?お菓子持ってんでしょ、そこでジャンプしてみなさいよ~」

 

「観念してください、キリトさん~!」

 

「ちょ、ハロウィンはカツアゲイベントじゃないだろ!」

 

 リズ達のタゲをキリトに擦り付けた俺は、カウンターに座ると周囲を見回す。ハロウィンシーズンということでダイシーカフェもそれに因んだ飾り付けがされているが、そこに俺達以外の姿が見えない。

 

「……おいエギル、他の皆はどうした?確か先に来てるはずだろ」

 

 俺とキリトが2人で来たのには当然理由がある。アスナからこの時間に来るよう厳命されたのだ。彼女を始め女性陣は先んじて何か準備をするとの事で、てっきり店の飾りつけでも手伝っていたのかと思っていたのだが……

 

「何だ、聞いてねぇのか──なら、俺の口からは言えねぇな」

 

「はぁ?何だよ勿体ぶって」

 

「まぁ、茶でも飲んで待っときな」

 

 そう言って烏龍茶入りのグラスを渡された俺は、訝しみながらもチビチビと飲む。その横にリズにいじられて早くも疲労困憊のキリトもやってきて、そっちにも烏龍茶が渡った所で、リズとシリカが店の奥へ続く扉に向かう。小さく開けたドア越しに何やらヒソヒソやり取りを交わしたかと思えば、

 

「さぁ~て喜びなさい男共!今日のメインイベントよ──!」

 

 リズの声と共に扉が開かれ、向こうからゾロゾロと姿を現したのは──

 

 

「じゃーん!──ハロウィンコスプレ、してみちゃいました!」

 

 

 アスナを始め、多種多様な仮装をした女性陣だった。

 

「お、おぉ……凄いな──けど、なんかもう完全にコスプレパーティーに趣旨変わってないか?一応、俺の誕生日祝ってくれるって聞いてきたんだが」

 

「細かいこと気にしない!──そんな事より、目の前にこんなコスプレ美少女達が勢揃いしたら、真っ先に言う事があるでしょうが!」

 

 俺とキリトは一瞬顔を見合わせてから、リズの言わんとする事を理解する。

 

「えっと……みんな似合ってるよ」

 

「右に同じ」

 

「もー、適当なんだから……今日の予定が決まってから、みんなで準備してたんだよ?もっとよく見て欲しいなぁ──ほら、どうキリト君?」

 

 そう言って最初に前に進み出たのはアスナ。彼女の仮装は頭のとんがり帽子と体を覆うローブを見れば分かる通り……

 

「魔女の仮装か。さっきも言ったけど、すごく似合ってるよ。ALOでメイジやってる時とはやっぱり雰囲気違うな」

 

「でしょ?ALO(あっち)では白メインだから、キリト君と同じ黒基調でまとめてみたの。ちゃんと杖もあるんだよ」

 

 肩に掛けたローブの内から取り出したステッキにはハロウィンらしくコウモリのモチーフがついており、まるで魔法を掛けるようにクルクルと回したステッキを俺達に差し向けた。

 

「──はい、これで魔法に掛かった2人は、私達が満足する感想を言うまで帰れません!」

 

「……アスナ、なんか今日テンション高くないか?ハロウィン効果?──まだハロウィンじゃないけど」

 

「はは……アスナはこういうイベント、結構ノリノリで楽しむタイプだからな──そして大抵、止められない……」

 

「さっすがキリト君、分かってるね──それじゃあ次、直葉ちゃんの番だよ」

 

「は、はい!──ど、どうかな……お兄ちゃん、ミツキさん?」

 

 続いて前に出てきた直葉は、余る程に袖の長い中華風のコスチュームだ。頭に被った帽子から垂れ下がる長方形の紙切れが目を引く。

 

「これは……えっと、なんだっけアレ。名前ド忘れした……」

 

「キョンシーだろ。確か中国の妖怪……だっけか?」

 

 考え込むキリトに代わって俺が答えると、直葉はにっこり笑う。

 

「はい、正解です!」

 

「あぁ、あのピョンピョンジャンプするやつ!──へぇ、よく似合ってるじゃないか」

 

「ホント!?やったぁ!──ほらココ見て、腰のとこにパンダ付いてるんだ~、可愛くない?」

 

「そうだな……って、おいスグ……?」

 

 不意に、キリトの表情が軽く凍りつく。

 

「な、何……?」

 

「その服……その、ちょっと防御力低くないか?主に、下半身……丈短すぎだろ」

 

「えっ?これくらいは普通だと思うけど……」

 

「アンタなーにめんどくさい父親みたいな事言ってんのよ」

 

 娘が若々しいファッションをすることに苦言を呈する父親、というリズの例えがぴったりハマる様子で唸るキリト。

 

「……いや、ダメだ!──俺、SAOでキョンシー系のモンスターと戦った事あるんだけどな、あいつらめっちゃジャンプするんだよ。いくらスグが怪力だからって、その丈でジャンプしたら諸々の自衛がだな──」

 

「かっ……何てこと言うのよ、お兄ちゃんのバカ──ッ!」

 

 憤慨した直葉は、長ーく余ったコスチュームの袖を渾身の力でキリトの顔面に叩きつける。すぐ横で「スパァンっ!」と音がする程の勢い……キリトに同調するわけではないが、剣道で日頃から鍛えている直葉は事実として力が強いので、例え布であろうとアレは痛い、きっと。

 

「全くもう……今のは全面的にキリト君が悪いからねー」

 

「や、俺は兄として……」

 

「言い訳するならお巡りさんの判断も聞こうじゃないの──どう、シノン?」

 

「情状酌量の余地無し、満場一致の有罪ね」

 

 ピシャリと判決を言い渡したのは、血痕のような模様が随所に描かれた警官服を身に纏う我らがシノンさん──判決を下すのは警官の仕事じゃないだろ、とは言わぬが仏か──手錠を指先でクルクル弄ぶ彼女の視線が不意にこちらへ向き、俺は反射的に目を下へ向けてしまう。すると、直葉に負けず劣らず丈の短いタイトスカートから覗くシノンの御御足が視界に飛び込んできて……

 

「……ミツキ(あんた)はセクハラの現行犯で逮捕」

 

 俺の腕を掴んだシノンは、手首に手錠をかけようとしてくる。

 

「ちょ、待った!冤罪だ冤罪!」

 

「人の脚をやらしい目で見る事のどこが冤罪よ!」

 

「べっ、別に何とも思ってない!偶然目線が向いただけだ!」

 

「……それはそれでムカつく……やっぱり逮捕──いっそ射殺の方がいいかしら」

 

 腰のホルスターから拳銃まで抜き出した──流石にモデルガンだろうが──シノンを俺が懸命に説得する横では、アスナの進行でリズとシリカの番が回ってくる。

 

「リズとシリカちゃんは、確か2人で衣装合わせしたんだよね?」

 

「はい!」

 

「さぁキリト、とくと見なさい──!」

 

 リズとシリカが羽織っていたマントをバサっと脱ぎ捨てた。

 

 ノースリーブのワンピースに、モフモフとしたファーを両手首に着けているリズは、最後に動物の耳がついたカチューシャを装着する。

 一方シリカはというと、マントの下に隠れていた赤いフードをすっぽりと被った。

 

 動物と、赤いフードの少女。この組み合わせはもしや──

 

「これは……リズが狼で、シリカは赤ずきんの仮装か」

 

「正解です!流石キリトさんですね」

 

「ほらほら、とっとと感想聞かせなさいよ~!」

 

 くるりと回ったリズの後ろ腰で、ふわりと狼の尻尾が揺れる。2人にズズイと詰め寄られたキリトは、

 

「ふ、2人ともすごい似合ってるよ……イメージにピッタリっていうか。シリカなんか、そのまま童話に出てきても違和感ないんじゃないか?」

 

「ほ、ホントですか!?えへへ、やったぁ……!」

 

「あたしが狼のイメージ……ってキリト、あんたまさか──このリズベット様が赤ずきんに出てくる狼みたいに誰かを騙してるとでも言いたい訳ェ……!?」

 

「ち、違う違う!ほら、狼って群れで行動するだろ!?だから、リーダーシップ取れるリズにぴったりだなーって、そういう!」

 

「どーかしらねぇー?いつだったか、あたしのこと《ぼったくり鍛冶屋》とかなんとか言ってくれたしぃ……?」

 

「まぁまぁリズさん。キリトさんもちゃんと褒めてくれてるんですし」

 

 キリトの必死の弁明を胡乱な目で聞いていたリズ。そこへシリカが助け舟を出し、宥めにかかる。

 

 しかし──

 

 

「──それに、狼コスを着る為に()()()()()()()()()甲斐もあるってものじゃないですか!」

 

 

 キリトに褒められて気が浮いていたのか、つい緩んでしまったらしいシリカの口から出てきた言葉に、周囲の空気が一瞬凍りつく。

 

「え……っと……お、お疲れ……?」

 

 この沈黙をどうにかしようと気を利かせたつもりのキリトの一言がトドメとなり、ガクリと肩を落としたリズはシリカの方を振り向くと……

 

 

「あ、ん、た、ねぇ~~~~~ッ!!!」

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい~~~~~ッ!!!」

 

 怒りのまま、フードに包まれた顔をグリグリと弄り回すリズと、されるがままひたすら謝罪を繰り返すシリカ。いつも通りの2人を見て笑ったアスナは、

 

「それじゃあ最後だね──って、あれ……アリスは?」

 

「一緒に出てきたと思いましたけど……まだ奥にいるんですかね?」

 

 皆が出てきた扉の向こうをアスナが覗くと、どうやら直葉の思った通りだったようで……

 

「もう、アリスってばまだそんな所に……ほら、早くミツキ君に見せてあげなきゃ!──大丈夫、今のアリスもすっごく可愛いから──!」

 

「ま、待ってくださいアスナ、そんなに押さないで──!」

 

 店の奥から連れてこられた少女──否、()()の姿を見た瞬間、俺は声を失っていた。

 

「じゃじゃ~ん!アリスはシスターのコスプレでーす!」

 

「うぅ……恥ずかしい……」

 

 所謂マーメイドドレス……というのだろうか。ぴったりとした黒い修道服が体のラインを際立たせ、丈こそ長いが、代わりに左右に大きくスリットの入ったスカートからは目の細かい網タイツに包まれた脚が太ももまで覗いている。その上タイツの上端からはガーターベルトまで──衣服が暗い色調な分、彼女の生まれ持った金髪と白い肌がより際立ち、羞恥に赤らんだ頬すらもアクセントになっているように感じられた。

 

 

 まぁ、要するに───めっちゃ可愛い。それはもうめちゃくちゃ可愛い。しかも美人で可愛い。こんな美少女が俺の彼女って本当ですか?恥ずかしそうにしてる表情めっちゃ可愛い……正直今すぐ抱きしめたいしこの格好で外歩かせたくないし今日クラインが仕事でいなくてマジ良かったし何ならキリトとエギルにも見せたくないし──

 

 

「──い……おーい、ミツキ?……こりゃアレだな、処理落ちしてる」

 

「感想垂れ流しながら意識だけ飛ばすとか、変なとこで器用なんだから……ほら、いつまでも惚けてるんじゃないわよ──」

 

 シノンが俺の耳元で銃の引き金を引く。リボルバー型の弾倉には弾こそ入ってないものの、そこそこ質のいいプラスチック製のハンマーがトリガーと連動で動き、ガチンッ!という音が俺の意識を引き戻した。

 

「はっ──!?」

 

「欲望垂れ流しご苦労様。本人はご覧の有様よ」

 

 シノンの視線を追ってみると、その先では耳まで真っ赤にしたアリスが縮こまって震えていた。

 

「ア、アリス!?い、やこれはその──!」

 

「だ、大丈夫です……気に入って貰えたのなら、良かった……の、ですが──」

 

 アリスの元へ駆け寄った俺は、不意に彼女にガッシリ腕を掴まれた。

 

「先程聞いた……シノンの事をいやらしい目で見ていた、というのは本当ですか……?」

 

「えっ」

 

 すぐさまシノンを見る。他人事のように明後日の方向を眺める彼女の表情から、「やられた!」という事は瞬時に理解できた。

 

「シノンに限らず、全員魅力的であることは理解していますが……それを邪な目で見るとは何事ですか!」

 

 こうなってしまっては、言い訳じみた弁明も逆効果だ。素直に白状する他ない……が、だからといってシノンをそういう目で見ていたという冤罪を大人しく認めるわけにもいかないので──

 

「……シノンを見て、素直に『可愛い』と思ったのは事実です。でも、脚に視線が行ったのは本当に偶然で、決して邪な気持ちがあったわけでは……!」

 

 誠心誠意、シスターアリスに懺悔する。嘘を言ってるわけではないというのは伝わってくれたらしく、シノンも慌てる俺を見て溜飲が下がったようで、神は俺をお赦しになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴もたけなわ、あれから皆でケーキを食べたり、プレゼントを受け取ったりと、ようやく誕生日らしい事を経た俺は、私服に戻ったアリス共々帰路についていた。

 

「賑やかなパーティでしたね。SAOではお前の誕生日をちゃんとお祝い出来ませんでしたから、こういった場を設けてくれたアスナ達には感謝しなければいけません」

 

「まさか、前半が丸っとコスプレショーになるとは思わなかったけどな……」

 

「おや、その割には楽しんでいたようですが?シノンの脚に見惚れていたり──」

 

「や、だからそれは誤解だって……!」

 

「ふふっ、そう慌てずとも分かっています──お前の中の1番深くにいるのが私だということくらい」

 

 どこか自信有りげに微笑むアリスに、ドキリとする。

 

「ん……まぁ、その通りですケドモ……」

 

「──ところで、ミツキ」

 

「ん?」

 

 隣を歩いていたアリスが不意に足を止め、俺も背後を振り返る。

 

「トッ──トリック・オア・トリート……!」

 

 唐突な展開に、俺は目をぱちくりさせる。

 

「あー……悪いけど、今お菓子は──」

 

 持ってないんだ──ポケットを探りながらそう続けようとした俺の口に、何か柔らかいものが押し当てられる。それがアリスの唇だと気づくのに、数秒の時間を要した。

 

「……お前とした事が、判断が遅れましたね。呆けた顔で隙だらけでし──ンむッ……!?」

 

 今度はアリスの口が塞がれる。数回に渡り口づけを繰り返すに連れ、両手で包んだ彼女の頬が熱を帯びていくのが分かった。

 

「ン……ッはぁ……」

 

「……まさか、自分の方が悪戯される側になる事、考えてなかったわけじゃないだろ?──こっちはせめて、当日まで我慢するつもりだったってのに」

 

「それは……その……」

 

 間近にあるアリスの顔がどんどん赤くなっていく。放っておいたら湯気でも出るんじゃないだろうか。

 

 ボーッとそんな事を考えていると、アリスの頬を包む俺の手に、彼女の手が重ねられた。

 

「……これで、終わりなのですか?」

 

「え……?」

 

「お……お前が我慢していた悪戯というのは、こんな数秒で終わる程度なのかと聞いているのです──もっと、あるのでしょう……?」

 

「……なんでそういうこと言うかなぁ……」

 

「お前が私の事を大好きなのは、私が1番よく知っていますから」

 

「……是非挑発に乗りたいけど、我慢しとく──その分、当日は覚悟しとけ」

 

「ふふ……その言葉、そっくり返します」

 

 最後に一瞬触れるだけのキスを交わした俺達は、ほんの少しの名残惜しさを胸に、家路に戻るのだった。

 




2025/10/29、本日は本作主人公ミツキの誕生日です。
ということで短いですが番外編。
こういう未来を目指して、頑張って欲しいものです。

……ま、これは夢みたいなもんなんですけどね。
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