ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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もう一度、キング・クリムゾンッ!

※今回は胸糞要素が少々含まれております。必要な方は清涼剤をご用意の上お読みください。



何故月は陰ったか

 ユウキ達《スリーピング・ナイツ》と共に27層フロアボスを撃破した翌日──再開した学校を後にしたアスナは、キリトと共にいつもとは違う電車へ乗り込んでいた。

 

 正直、昨日明らかに様子のおかしいままログアウトしていったユウキの事も気がかりだが、それは今夜ALOにログインした時に詳しい話を聞くことにする。今、アスナがすべき事は別にあった。

 

 何度か電車を乗り継いだ末、到着したのは北赤羽駅──ミツキの自宅の最寄駅だ。

 

「スグ達、上手く足止めしといてくれてるといいんだけどな……」

 

「そうだね……あまり長いこと任せるのも悪いし、早く行こ」

 

 アスナ達の目的を果たす為には、絶対にミツキ本人と鉢合わせるような事があってはならない。

 しかしミツキはそもそも学校でも友達が多くなく、クラスメイトに話を聞いても誰かと放課後を共にしていたというような情報は得られず終い。リズやシリカに頼もうにも、彼女達もまたミツキから避けられてしまっている。

 こうなれば仕方ない。と、わざわざ他所の学校に通うシノンと、偶然部活の休養日が重なっていた直葉に頼み込み、放課後ミツキを連れ歩いて足止めしてもらうことにしたのだ。正直、この2人がダメならもうお手上げ状態だったので、2人には今度、話題の人気スイーツを奢らせてもらう予定である。

 

 そんな労力をかけてまで、何故ミツキの自宅へ向かっているのか。発端は数日前に遡る──

 

 

 丁度、アスナがユウキとデュエルを行う前日の事だ。

 アスナは以前から、母である結城京子からしきりに転校を迫られていた。曰く「あなたには能力があるのだから、帰還者学校などという隔離施設に身を置く必要はない。ちゃんとした学校へ通えれば、輝かしいキャリアを築くことが出来る」と。

 母に言わせれば結婚までもがキャリアの1つであり、アスナが年末年始に京都へ帰省した際、遠縁の親戚にあたる大学生の男と見合いじみたやり取りをさせたのもそれが理由だった。当然、アスナにはもう桐ヶ谷和人という心に決めた相手がいるのだが……

 

 ──いいわよ、あなたに()()()()()なら誰でも。言っておきますけど、あんな子…あんな施設の子達は含まれませんからね。

 

 あろう事か、母はアスナが日頃親しくしている同年代の男子──キリトとミツキの素性を調べていたのだ。幸い、と言っていいものかはともかく、母が重要視しているのは家柄や実績であり、例えば住所などの個人情報までは手を伸ばしていなかったようだが……

 

 ──明日奈、あなた下手したらまた危ない目に遭ってたかもしれなかったのよ?暴力事件を起こすような子と同じ学校ってだけでも危ないのに、そんな子と仲良くしてたなんて。友達を作るのはいいけど、相手はしっかり選びなさい。

 

 母の言葉に気になるものを覚えたアスナは、翌日、母が大学へ向かった隙に書斎へ侵入。すまないと思いつつもPCからキリトとミツキの調査結果を見つけ出した。

 キリトの方は何らおかしな点は無く、本人や直葉等から伝え聞いているのと同じ事が書いてあったのだが……問題はミツキの方だった。

 記録によれば、彼は中学に上がる直前に学校で暴力沙汰を起こし、クラスメイトに怪我をさせてしまったのだという。それが理由で、本来とは違う中学へ進学した過去があったようだ。

 

 ミツキが進んで誰かを傷つけるなんて考えられない、きっと何か理由があったのだ──そう考えたアスナはこの事をキリトにも相談。こうして2人でミツキの自宅を訪れた。

 彼の家族であれば何か知っているはず。もしかしたら、ミツキが誰にも頼らず何もかもを1人で背負い込むようになってしまった理由も分かるかもしれない。

 

 

「──家の人、誰かいるといいんだけど……」

 

 緊張の面持ちでインターホンを鳴らす。少し待ってみるが、応答が無い。キリトと顔を見合わせてから、もう一度──しっかりボタンを押し込んでみるが、誰かが出てくる様子は無かった。

 

「確か、ミツキ君の叔母さんは在宅で仕事してるんだったよね?」

 

「ああ。取材だったり、たまに編集部に顔を出すこともあるらしいけど、基本はそうだって母さんは言ってた」

 

 キリトの母はミツキの叔母と仕事上で関わりを持っており、その叔母から話を聞ければと思っていたのだが……もしや運悪く不在のタイミングを引いてしまったのだろうか。

 もう一度だけ鳴らしてみて、それでもダメなら一旦出直そう、ともう一度インターホンを押そうとしたその時──

 

「──ウチに何か御用?」

 

 氷のような、しかし冷たさは感じない──美しい氷細工とでも表現すればいいだろうか──そんな声が耳に入った。声の方へ目を向ければ、そこにはスーツ姿の妙齢の女性が。

 

「その制服、SAO帰還者学校の生徒さんね。ウチの子の知り合いかしら?」

 

「あ、えっとその……」

 

 しどろもどろになるキリトに代わり、アスナが前に出る。

 

「突然の訪問、失礼します。ミツ──翠月君のご家族の方ですか?」

 

「ええ、翠月は私の息子よ。あなた達は?」

 

 ミツキの母と名乗った彼女──三島紗和(みしま さわ)に、アスナとキリトも慌てて名乗り返す。ミツキとはSAOの頃から付き合いがある事も話した。

 

「──そう、ウチの子と仲良くしてくれてありがとう。……あの子は一緒じゃないの?」

 

「その、少し事情がありまして……彼のいないタイミングに伺いました」

 

「……事情っていうのは?」

 

「不躾だということは承知の上でお願いします。彼が──翠月君が何故ああなってしまったのか、聞かせてくださいませんか?」

 

「……ここじゃなんだし、どうぞ上がって」

 

 紗和に連れられ、アスナとキリトは三島家の敷居を跨ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 リビングに通された2人は、緊張の面持ちでL字型のソファに腰を下ろす。そこへ2人分の紅茶を持った紗和も続き、本題が始まった。

 

「──さて。それじゃあまずは、結城さん、桐ヶ谷君、あなた達が何を知りたいのか。何故それを知りたいと思ったのかを聞かせてもらおうかしら」

 

 その言葉は言外に「事と次第では話す事は出来ない」と言っているようにも感じられる。もしや、以前にも彼の過去をこうして聞き出しに来た誰かがいたのだろうか。

 いずれにせよ、ここで聞いた事を悪用するつもりは微塵も無い。アスナはミツキが過去に暴力沙汰を起こしたという話を聞いた事、そして自分達とミツキのギクシャクとした現状について説明した。

 

「……まず、私の母が非常識な真似をした事に関して謝罪させてください。申し訳ございませんでした」

 

 立ち上がり、深く頭を下げる。短い沈黙の後、紗和は柔らかい笑みと共に口を開いた。

 

「……頭を上げて、結城さん。確かにウチの子の事を嗅ぎ回られたのは良い気持ちはしないけれど、それが無ければ、あなた達がこうして話を聞きに来る事も無かった訳だし──何より、あなた達自身は『あの世界』で翠月の事を助けてくれたんでしょう?」

 

「そんな……逆です!寧ろ、私達こそ彼に何度も助けられて…──」

 

「──だから、今度は俺達がアイツを助けてやりたいんです。何をした所で、無理なのかもしれないけど……何もしないでいる事は、出来ないから」

 

「そう…──分かりました、話しましょう」

 

 紗和の言葉に、2人はハッと顔を上げる。

 

「と言っても、決して気持ちのいい話じゃないし……思っているようなものでも、ないかもしれないけれどね──」

 

 そう前置きしてから、紗和はゆっくりと、過去を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──遡ること2019年、翠月が12歳の頃だ。

 当時の翠月はよく外で遊ぶ子供で、風邪などの病気にかかることも殆ど無い健康優良児だった。成績は中と上を行ったり来たり、学校では友達も多く、時にバカをやって先生に怒られることもあったという。

 

 冬休み終盤、じきに3学期が始まろうというタイミングで、翠月は12年の人生で初めてインフルエンザに罹った。それ自体は無事完治し、他の生徒より数日遅れて登校した翠月は──またも人生で初めて、いじめの現場に遭遇したのだ。

 風の噂で「どこかの誰かがいじめに遭ってたらしい」程度は耳にした事があった。そして、いじめは良くない事だということも教師を始め周囲の大人達からよく言い聞かされていた。だから止めた。

 

 何も特別なことはしていない。休み時間、人気の無い体育館裏で1人の気弱な生徒を囲み、しきりにボールを投げつける3人の男子生徒に、「止めなよ」と声をかけた。それでも止めず、それどころか「お前もやろう」と誘ってくる3人に「先生に言うよ」と釘を刺しただけだ。その場はそれで収まった。後にこの事をちゃんと教師に報告。該当生徒達は注意を受けた。

 

 これで終わるはずだと──無垢故に愚かな正義感を持つ子供だった翠月は、そう思っていたのだ。

 

 翌日から、いじめの対象は翠月に変わった。だがいじめっ子達の誤算だったのは、翠月が予想よりもしっかりとした抵抗の意思を見せた事だった。

 以前他の生徒にやっていたのと同じように、体育館裏でボールを投げつけられそうになれば、それをキャッチして逆に投げ返した。掃除の時間、濡れた雑巾を投げつけられれば躱し、箒で叩かれそうになれば同じく箒で応戦。そして揃って先生に怒られる。

 些細な嫌がらせ程度なら、このように対処出来ていた。出来て()()()()()()。やがては向こうが懲りるか飽きるかするだろう、とそう考えていた。

 

 時折見られた「流石にこれは」というものは遠慮なく教師に報告し、然るべき措置が取られたことも何度かあったのだが……それでも、翠月に対する執拗な嫌がらせは続いた。

 

 向こうは楽しみの延長でやっているのだからいくらでも続けられるのに対し、受け手側の翠月はそうもいかない、抵抗もやがて限界が訪れる。いよいよ本格的に厄介だと思い始めた翠月は、思い切って担任教師に全てを打ち明けた。

 最初に翠月がいじめを目撃した際や、これまでも諸々の報告をしてきた際は「またか」と言いながらも注意をしてくれていた男性教師だったのだが……

 

「──あのな三島、いい加減にしろ。何度も何度も同じことを言わされるこっちの身にもなってくれ。どうせまた戯れ合ってて喧嘩したとかだろう?」

 

「違います!僕、ずっとあいつらに嫌がらせを受けてて──!」

 

「先生な、教師やって結構長いから分かるんだけどな。そういうのは大抵すれ違いなんだよ。向こうはお前と仲良くしたいと思ってるだけだ。だから何度もお前に絡むんだよ」

 

「そんな訳ないです!だってボールぶつけられたり、箒で叩かれそうになったり……!」

 

「先生もお前達くらいの頃はよくそうやって遊んだよ。そんで先生に怒られた。お前の考え過ぎだ」

 

「先生!」

 

「──先生この後大事な会議があるんだ、な?」

 

 

 まず1つ目の不運。それはミツキがいじめに対処出来ていたせいで、傍目には戯れ合っているようにも見えてしまっていた事。

 派生して2つ目の不運。幾度となく対応してくれた教師の限界が、偶々この時だった事。

 

 

 翌日の放課後──明らかに気を落として1人廊下を歩く翠月に、偶然通りかかった校長が声をかけてきた。校長ならもしや……そう思った翠月は、自分がしつこいいじめに遭っている事を話した。校長はそれを受け、担任を呼んで詳しい話を聞くと言ってくれた。それまでは良かったのだが……

 

「──それは誤解です。うちのクラスでいじめなんかありませんよ」

 

「だが彼はいじめに遭っていると……」

 

「実の所、三島は最近他の生徒と戯れ合うことが増えてきてまして。それがいじめのように思えてしまっているだけかと。現に、大きな怪我なんかもしてませんし」

 

 翠月はそのやり取りを信じられないという面持ちで聞いていた。校長はまだ「本当にいじめが起きている」という可能性を捨てきれていない様子ではあったものの、

 

「……どうだろう三島君。先生もこう言ってることだし、もう少しだけ様子を見てみるのは?勿論、君が嘘を言ってるとは言わないが、先生の言うように、勘違いという事もあるかもしれない」

 

「……はい」

 

 これ以上は何を言っても無駄か──そう思った翠月は、それだけ言い残して校長室を出る。担任に外で待っているよう言われ、少し経ってから出てきた担任と廊下を歩く。

 

 徐に開いた口から最初に出てきたのは──それはそれは深い、苛立ちを込めた溜息だった。

 

「……三島、お前先生の言うことそんなに信じられなかったか?お前のせいで校長先生に怒られたんだぞ」

 

「……ごめん、なさい……」

 

「お前も男ならな、まず()()()()()()()()()。そうやって誰かに頼ってばかりいるから、いじめられてるなんて勘違いするんだろ」

 

「勘違いじゃ……」

 

「なにか言ったか?」

 

「……何でも、ないです」

 

「……どうせもうひと月もしたら卒業なんだ、少しくらい我慢しろ」

 

 

 

 

 

 

「──自分でどうにかしろ、か……それが、あいつが周りに頼らなくなった理由……」

 

「酷い……仮にも教師の言うことじゃないわ」

 

 紗和も佳苗も、当時は仕事で家を空けることが多く、ミツキにとって最も身近だった大人は、1日の大半を共に過ごす学校の教師だ。所属するクラス、ともすれば学校全体の実質的な支配者である教師という上位存在──子供にとってその言葉は全面的に正しいものだ。学校とはそもそも、そのように教育を施す側面がある。

 事実、幼少期のミツキは基本的に一度注意された事はきちんと守っていた。それが変わったのは、いじめの標的になってから。教師視点では、何度注意されてもおふざけを止めなくなった、というように見えていたのだろう。

 一度抱いた先入観というものは中々剥がれないもので、もうミツキが何を言ってもまともに取り合ってもらえなかったのは想像に難くない。

 

「……それから、彼はどうしたんですか?」

 

 紗和は少し逡巡した後、アスナの質問に答えた。

 

「……あなたが知った通りよ──あの子は遂に、手を上げてしまった。他の生徒の目がある中でね。傍目には過剰防衛とも言えるレベルだったそうよ」

 

 ミツキもミツキで多少なりとも傷を負ってはいたが、負傷度合いで言えばいじめっ子3人の方が圧倒的だった。大泣きしながら教師に泣きついた3人と、怒りを滲ませた様相で佇むミツキ──直近のやり取りのこともあり、どちらが悪く見えるかは明白だった。これが、3つ目の不運。

 

 ──お前どういうつもりだ!なんでこんな事をした!?

 

 ──だって、先生が自分でどうにかしろって……

 

 ──言い訳するな!あの3人の顔見たか!?お前がやったんだぞ!あとひと月だってのに、どうして大人しくしてられないんだ!お前のせいで、先生までとばっちりを食らうんだぞ!お前責任取れるのか!?

 

 やる事成す事、頭ごなしに全て否定された。どんな理由を述べても全て「言い訳」の一言で切り捨てられた。「暴力を振るった」という事実のみをフォーカスされ、当時のミツキは元を辿れば被害者だったにも関わらず、加害者として一方的に頭を下げさせられた。

 

「一応それから少しした頃、あの子がいじめられてたっていう告発があってね。クラスの子からの証言が多かったから、いじめてた3人もすんなり認めたわ。だから、殴られた側に原因があったっていう認識は広まったんだけど……当然、だからってやり過ぎなんじゃないかという声もあったわ」

 

 紗和の考えでは、いじめの告発自体、正義感から来るものではなかったのではないかと思っている。理由はきっと──恐怖心。このまま傍観を続けていては、もしかしたら自分達にまで手を上げるのではないかという恐怖から身を守る為、いじめを告発した味方という立ち位置を獲得しようとしたのではないだろうか。

 

「ムシのいい話よね、今更味方面をした所で遅いのに──そこからはトントン拍子だったわ。学校の立会いの下、双方保護者同伴で面談。いじめてた子達もあの子に謝った……こっちも、必要以上に傷つけた事で謝る事になったけどね」

 

「担任教師の方は?」

 

「それがね……あの子、何も言わなかったのよ。ただ流れに沿って質問に答えて、謝罪して、それで終わり。担任のことを責めもしなかったわ──まぁ、監督不行届なのは明らかだったから、然るべき処分は下ったようだけど」

 

「どうして……?」

 

「……あの子、子供ながらに敏い所があったから。余計な事を色々考えちゃったんでしょうね。ほら、よく言うじゃない?『自分がされて嫌な事は他人にもするな』って。仕返しに自分と同じ思いをさせてやる、みたいな事を考えないのよ、あの子は」

 

 普通ならよく出来た子供だと賞賛するところだが……紗和や佳苗には、まだ大人の支えがなければ生きていけない筈の小さな我が子の姿が、酷く歪に見えた。

 

 それからというものの、ミツキは──三島翠月という少年は変わってしまった。

 大抵の事を1人でこなすようになり、本当に必要な時だけ周囲を頼るようになった。

 今まで仲の良かった友達は皆、挙ってミツキを避けるようになった。

 他人の目を見て話すのが苦手になった──これは、いじめの事を相談した際の担任の反応を思い出すからではないかと、紗和は推測している。

 顔見知りの多い学区内の中学では生活しづらいだろうと別の中学へ進学したが、どこからか例の一件が広まり、ミツキは進学早々周囲から孤立。本人はその現状を、自分がやった事の結果だとして憂いもせずに受け入れ、放課後はいつも1人で帰ってきた。友達を連れてきた事は勿論、友達と遊びに出かける事も無かった。

 

 

 これが、4つ目にして最後の不運──全てを受け入れるという行為そのものに、彼自身が驚く程すんなり納得出来てしまった事。

 

 

 正直、またいじめられるような事になっていないだろうかと親心に心配だったが、あまり過干渉するのも良くない、と紗和はミツキの「大丈夫」という言葉を信じ、静かに見守るしかなかったのだ。

 

 そんなミツキを見かねて、叔母の佳苗が彼にゲームを教えた。最初こそ経験の差で叔母が優位だったが、ここに来てゲームセンスが開花。すぐに叔母を追い抜く。やがて叔母も仕事が本格的に忙しくなり、ミツキは色んなゲームを手当たり次第に遊んだ。

 中学2年になる頃には既に廃ゲーマーの領域へ片足を突っ込んでおり──やはり心の底では誰かと一緒にゲームをしたいという気持ちがあったのだろう──特に他のプレイヤー達と関わりを持てるMMOへのめり込んでいた。

 

 しかしMMOといえど、キャラクターを動かすのは人間である以上、どうしてもいざこざは起こってしまう。当時入っていたギルドのメンバーは仲違いを起こし2つに分裂、最後まで仲裁しようと奔走したミツキだったが、努力も空しくギルドは消滅してしまった。

 

 その折に仲間から投げつけられた「お前どっちの味方なんだよ」「外から来た部外者のくせに知ったような口利いてんじゃねぇ」という言葉は、ミツキをソロプレイの道へ誘った。

 

 そうして時は過ぎ、ミツキはSAOベータテストに当選。然る後に《ソードアート・オンライン》の虜囚となったのだ。

 

「──私から話せるのはこの程度ね。役に立つ内容があれば良かったのだけど」

 

「とんでもないです。お母様としても辛い事でしょうに、話してくださってありがとうございました」

 

「それこそとんでもないわ──正直に言うとね、あの子が《ソードアート・オンライン》から帰ってきて、まだVRゲームをやってる事が不思議だったの。怖い思いをして、また同じような事が起きるんじゃないかって考えたはずなのに、何でなんだろう?ってね……きっとあの子は、あなた達の事が──あの世界で出来た友達の事が大好きなんだと思うわ。大好きだから、必死なのね」

 

 推測とは言え、実の母親から告げられたミツキの本心にアスナもキリトもむず痒さを覚える。一方で、ミツキが何故自分達を突き放すような真似をしたのかも少し納得がいった。

 

「私が口を出す事じゃないというのは分かってるけど、それでも言わせてちょうだい──あの子と友達になってくれてありがとう。これからもよろしくしてあげてね」

 

 玄関まで見送ってくれた紗和の言葉に、2人はちらりと顔を見合わせると、

 

「──勿論です!」

 

「あいつが嫌だと言っても、友達辞める気なんかありませんよ」

 

 そう言って、アスナとキリトは三島家を後にするのだった。

 




ぶっちゃけ「なんか想像してた程の過去じゃないな…」と思われた方もいるのではないでしょうか。
重くするだけなら全然余裕だったんですが、傍目には「え、そんなことで?」と思うような些細な事が原因で先の人生が大きく変わることもあるよね、と敢えてこういう過去にしました。

悲しいかな、誰しも生きてれば1回は経験するかもしれない、特段珍しくもない事ですが、三島翠月の生き方を決定づけるには十分な出来事だったと。

これを踏まえると、果たしてミツキがSAOに閉じ込められた事は幸か不幸か、判断が難しいところです。アリスやキリト達と出会えた事は間違いなく人生レベルの幸運でしょうが、SAOでの出来事がミツキのこの性分を悪化させたわけですから(一方で、部分的に緩和もしているんですが)
多くのかけがえのない存在を得た幸運か、多くの消えることのない業を背負った不運か…皆さんはどう思うでしょうか。

…にしても、アスナもアスナで大変ですねコレ。
ミツキの過去を知った矢先にユウキの真実にも直面するわけですよ。
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