お礼というかなんというか、今回は2連投失礼致します!
新生アインクラッド27層ボスが撃破されてから数日が経ったある日。
アスナは帰還者学校の空き教室で、何やら焦れったそうな様子で椅子に腰掛けていた。目の前ではキリトを始めとする3人の男子生徒がアスナには意味不明な呪文をブツブツと交換しており、彼らの操作するノートPCは、アスナの肩に装着された謎の機械にケーブルで接続されていた。
「……ねぇキリト君、まだ?昼休み終わっちゃうよ」
「悪い悪い──ひとまず、初期設定はこれでいいとして……ユウキさん、聞こえますか?」
『はーい、よく聞こえてるよ!』
キリトの呼び掛けに応えたのはアスナではなく、彼女の肩に装着された半球状のカメラデバイス。内蔵されたスピーカーから聞こえてくる声は、《絶剣》ユウキのものだった。
一体何故、ユウキが帰還者学校に来ているのか。そして何故、カメラ越しでやり取りをしているのか──その理由には、ユウキの置かれた現状が密接に関係していた。
ユウキこと
2026年となった現代に於いても有効な治療法が確立されていないこの病だが、投薬による早期治療でかなりの長期間、発病を抑える事は出来る。しかしユウキ及びその家族が感染したのは《薬剤耐性型》だった。彼女の母親は一度は家族で死を選ぶことも考えたそうだが、最終的には一家全員で病と闘い続ける道を選んだ──今やユウキは、その
幼い身体で複数の薬を服用し続けながらも、ユウキは学校に通った。休みもせず、成績も良かった。しかし懸命に生きていた彼女に、社会という怪物は容赦のない攻撃を加えた。
結果、ユウキの家族は揃って転居を余儀なくされる──丁度その直後から、ユウキの免疫機能が急激に低下、エイズの発症が確認された。
横浜の総合病院に入院したユウキは、当時試作品が完成したばかりのフルダイブ医療機器《メディキュボイド》の被験者となる事を選択。免疫力低下による日和見感染のリスクを大幅に減らせる代わりに、無菌室の中で24時間ずっとダイブしっぱなしの生活を送る事となった。期間にして3年──SAO事件が起きた直後から2026年現在に至るまで、ユウキは文字通りずっと仮想世界と共に生きてきたのだ。
ALOで見せた素早い身のこなしは、ナーヴギアよりもスペックの高いメディキュボイドの処理能力に加え、アスナ達SAO生還者よりも長い時を仮想世界の中で過ごした事による適応の結果だったというわけだ。
投薬に加え、造血幹細胞移植等、入院する以前から試せる方法は一通り試したが、ユウキの病状は改善の兆しが見えないまま。この調子では持ってあと3ヶ月だろう──それが、担当医の見解だった。
それを知ったアスナは、ALOの中でもう一度ユウキと話した。
もう先が長くない自分と仲良くなっても、悲しい思いをさせるだけだから、ひと思いに忘れて欲しい──そんなユウキの頼みに、アスナは首を横に振る。
例え未来は変えられなくたって、その分残された時間をとびきり楽しいものにしよう──何かやりたい事、行きたい場所はないかと聞かれたユウキは、遠慮がちにこう答えた。
──ボクね、学校に行ってみたいな。
──と、そういった経緯があって今に至る。アスナの肩に装着されているのは、《視聴覚双方向通信プローブ》というデバイスで、学校のメカトロニクスコースを受講するキリトが今年度の頭から開発に着手しているものだった。
簡単に言えば、カメラとアミュスフィアをネットワーク接続することで、仮想世界の中から現実世界の景色や音を認識できるようにするという代物で、当初はリアルの肉体を持たないユイの為に開発していたもの。これを使えば、メディキュボイドから出られないユウキでも学校の空気感を感じられるし、授業だって受けられる。
5限の現国と、そのまま6限の授業も一緒に受けたユウキに、アスナは放課後の時間を使って学校を案内した。それもひと段落つき、一度中庭で腰を落ち着けようとしたアスナは、いつもキリトと昼食を食べているあのベンチに先客がいるのを目にする。
キリトより少し大きいくらいの背丈に、少し青みがかった黒髪。そしてぼーっと空を見上げる翡翠色の瞳──ミツキこと三島翠月が、缶コーヒー片手に中庭で1人黄昏ていた。
「ミツキ君……」
ポツリと溢れた声はそよぐ風に攫われて届かないかに思われたが、偶然か否か、空を見上げていたミツキの視線がアスナ達の方へ降りてきた。
ただでさえ最近話していなかった事と、先日彼の家族から聞かされた過去の話もあって、どう声をかけるべきか、一瞬迷う。
「あ、えっと……こんにちはミツキ君。この時間まで残ってるの、珍しいね?」
「……職員室に届け物したら、倉庫の整理を手伝わされた」
「そっか……休憩、邪魔しちゃってごめんね」
「いや、いい。そろそろ帰る所だったしな」
そう言って、素っ気なくアスナの横を通り過ぎようとしたミツキだったが──
『──ねぇ君!あの時助けに来てくれたシルフの人だよね?』
「──?」
アスナではない何者かの声に、ミツキは思わず足を止めて振り返る。
『よく考えたら、ちゃんとお礼言えてなかったなーって。あの時は本当に助かったよ、ありがとう!』
この声がアスナの肩にある通信プローブから発せられている事はすぐに察したようだったが、デバイスの向こうにいるのが誰なのかまでは気付かなかったらしく、アスナが手短に事情を説明する。
「──って事で、さっきまでユウキに学校を案内してたの」
「そうか……それこそ、邪魔して悪かったな」
『邪魔なことなんて無いよー。それに、ボクも君に言いたい事あったしね』
「言いたい事……?」
『そう!聞いてよアスナー。この人、ボクと戦った時本気じゃなかったんだよー!槍じゃなくて剣だったもん!』
まぁそれでも強かったけどさー、と続けられたユウキの言葉に、アスナは驚きを隠せなかった。
スリーピング・ナイツに暫定加入したその日に、アスナはキリトやミツキではダメだったのか?と確認していたからだ。キリトの方は「ボクの秘密に気付いちゃったからダメ」と言われていたのに対し、ミツキの方──灰色装備のシルフの
いくらミツキでもまさかユウキ相手に槍を使わないことはあるまいと勝手に思っていたのだが、その実、ユウキがALOで辻デュエルを始める直前、挑戦者をどこで募集するか決めていた頃に、片手剣装備のミツキと戦っていたようだ。結果はもちろん、ユウキの勝利。
「……まぁ確かに、今となってはミツキ君が槍使う事の方が珍しくはある……のかな?」
『戦ってる最中にちょっと見た程度だけど、前の時とは動きも全然違ったもん!ああいうのを「手足みたいに扱う」っていうんだろうなぁ……!』
「……それを言うなら、君の方がずっと
『そうかな?あの二刀流の人もそうだけど、君達はまだボクが知らない強さを持ってる気がする──だってソードスキルで魔法を斬るなんて真似、普通出来ないもん!』
「俺は強くなんか……それに、そんな『当然出来るよね』みたいに言われても困るんだけどな」
『あれ、出来ないの?』
「………」
視線を泳がせて押し黙るミツキに、アスナはつい吹き出してしまう──出来ちゃうんだろうなぁ、と。
「……ねぇ、ミツキ君。今度はいつインするの?ユウキ達の事もちゃんと紹介したいし──」
「──悪い、そろそろ行く。アスナ達も気をつけて帰れよ」
アスナの言葉を遮って、ミツキは足早に立ち去ってしまう。後を追いかけることも出来ず、アスナはそのまま学校を後にした。
──学校を出たアスナは、ユウキたっての希望で横浜まで足を伸ばしていた。
ユウキの指示に従い、駅前の商店街を通り抜けていく。時折スピーカーから聞こえてくる声や息は、克明にユウキの表情を物語っているようで……アスナは、この街がユウキの育った場所なのだということを、すぐに理解した。
やがて商店街を外れ、閑静な住宅街に差し掛かる。何度か道を曲がった所で、ユウキは足を止めるよう言った。
そこにあったのは、白い外壁が特徴的な一軒の家──ユウキが入院する以前、家族で暮らしていた家だった。長らく誰も手をつけていないらしく、玄関先の植物は無残に枯れ果て、庭は雑草も生えている。残酷とも言える時の流れを感じさせるこの家を、しかしユウキは心底懐かしそうに見上げていた。
『……ありがとう、アスナ。ボクをここまで連れてきてくれて』
「……中、入ってみる?」
『ううん。ここまでで十分だよ──早く帰らなきゃ遅くなっちゃうし』
「私ならもうちょっと大丈夫だよ。家には連絡入れたし」
アスナの言葉を受け、ユウキはもう暫し過去の思い出に浸る。
実際に住んでいた期間こそ1年足らずと短かったが、それでも、この家には大好きな家族との思い出がたくさん詰まっているのだと、楽しかった記憶を色々聞かせてくれた。その中に庭でバーベキューをした話があり、今度ALOのアスナのログハウスで皆でバーベキューをしよう、と約束した辺りで、ユウキの声音が微かに陰る。
『……この家ね、もうすぐ無くなっちゃうんだ』
「え……」
ユウキの親戚は、この家の処遇で今揉めに揉めているらしい。やれ取り壊してコンビニにするだの、駐車場にするだの、貸家にするだのと──ユウキの意思などそっちのけで、あれこれ話を進めているのだそうだ。だから、家が無くなる前にもう一度だけ見に来たかったのだ、と。
「……じゃあさ、こうしたらどうかな?ユウキは今15でしょ、16歳になったら、好きな人と結婚するの。そうすれば、相手の人がこの家をずっと守ってくれるよ、きっと」
『あっははは!アスナ凄い事考えるね?確かにいい方法かもだけど、残念ながら相手がなぁ……』
ユウキにとって最も身近な異性といえばスリーピング・ナイツの男性陣だが、年の近そうな大剣使いの《ジュン》は『あんなお子様ダメダメ!』と一蹴されてしまう。
少し考えたユウキは『アスナとボクが結婚すればいいんだ!』と冗談を言ってアスナを驚かせたが、彼女もアスナとキリトの関係を察しており、笑って身を引いた。
『──気を付けた方がいいよ』
「え、何が……?」
『
後者がミツキの事を指しているのだと気付いたアスナは、彼の事をユウキに相談してみるかどうか迷う。その間、ユウキは在りし日の母の話を聞かせてくれた。
『この家に住んでた頃、ママはよくお祈りの後に、こう言ってくれたんだ──神様は、私達に耐える事の出来ない苦しみはお与えにならない──って。正直、聖書の言葉じゃなくてママ自身の言葉を聞きたい、ってあの時は思ってたんだけど……今解った』
母はきっと、言葉ではなく、気持ちでユウキと姉の藍子を包んでくれていたのだ。自分がいなくなったとしても、道を見失わずに真っ直ぐ歩いていけるように。
そう言葉を締め括ったユウキに、アスナは思わず言葉を零していた。
どれだけ言葉を交わしても、母の気持ちが分からない、自分の気持ちが伝わらない。だからと言って完全に決別することも出来ない。分かり合うことも、立ち向かうことも出来ず、ただ自分の無力さに怒り、嘆く事しか出来ない。
ミツキの事もそうだ。自分達に嫌悪感を抱いている訳ではない、と思うが……いや、寧ろその方が良かったまであるのかもしれない。こちら側に何か問題があった、で済ませられるのだから。
先日聞いたミツキの母の言葉が真実として──事実、カフェでの一件以来ミツキが明確にアスナ達を傷つけた事はない──彼が自分達を遠ざける理由があるとするなら、それはきっとアスナ達の為なのだろう。
自分が一緒にいては、何か迷惑をかけたり、傷つけてしまうかもしれない──そんな考えがあって、ミツキは皆を避けている。そう考えれば、アスナの知る彼の為人とも合致するのだが……肝心の理由がハッキリしない。それを聞き出す事が正しい事なのかも、分からない。
無理に関係を修復しようとした結果、手のつけようがないレベルまで壊れてしまう可能性だってある。そんな未来を想像すると、踏み出そうとした足も、伸ばそうとした手も止まってしまう。
「──ねぇユウキ。どうしたらユウキみたいにできるかな?どうしたら、あなたみたいに強くなれるの……?」
『……ボクは、全然強くなんかないよ』
「そんな事ない。ユウキは私みたいに、人の顔色を伺ったり、怯えて尻込みしたりしないじゃない。すごく自然に、人との距離を縮められてる」
アスナとしては見たままの印象を口にしたが、ユウキ本人にとってはそれでもピンとこなかったらしく、少し思案してから口を開いた。
『ボクもね、現実世界で生きてた頃は、自分じゃない自分を演じてた気がする。パパとママを悲しませないように、変に気を遣わせたりしないように、いつも元気に笑顔でいなくちゃ、って思ってたんだ』
ユウキは続ける──例えそれが演技で、本心は別の所にあるのだとしても、それで本人や周りが笑顔でいられるのならそれでいいじゃないか、と。
ただでさえ自分にはもう時間が無い。だから、他人との距離を計りながら近づく時間が勿体無く感じる。最初から全力でぶつかることが必ずしもいい結果を齎す訳ではないけれど、その人の心のすぐ近くまで行けたのなら、それでいい。
「……そうだね。ユウキがそうやってぶつかってきてくれたから、私達はたった数日でここまで仲良くなれたんだもんね」
『ううん、それはちょっと違うよ。だってほら、ボク1回アスナから逃げちゃったでしょ?それでもアスナがボクの事を追いかけて来てくれたから──ボクの病気の事を知っても、まだボクに会いたいって言ってくれるんだ、って分かったから。それが凄く嬉しかったんだ、泣いちゃうくらいにね』
駆動音と共に、
『だから、お母さんともそうやってぶつかってみたらどうかな?気持ちって、ちゃんと伝えようとすれば伝わるものだよ』
「うん……やってみるよ」
母に対する気持ちは固まったものの、アスナの声はまだ浮かない。ユウキはその理由──アスナを悩ませるもう1つの原因に、話を移した。
『スリーピング・ナイツの皆が、VRホスピスで出会ったメンバーだっていうのは前に言ったよね?そこには色んな人達がいたんだけど──』
まだSAO事件の真っ只中だった頃、ユウキはVRホスピス《セリーン・ガーデン》の中で、とある少年と知り合った。
その少年は、同じ病院に入院している年下の子供達に慕われる兄のような存在で、苦しい闘病生活に挫けそうな子供達を励ます所をユウキも目にした事がある。彼は「皆をちゃんと勇気づけてあげる為にも、まずは自分がしっかり病気と戦わないと」と気丈に振舞っていたのだが……ある日の夜、何気なく仮想空間の中をぶらついていたユウキは、その少年が1人で泣いている現場に鉢合わせた。
新しく服用し始めた薬の副作用がかなり強く、気持ちが折れそうになった少年を、これまで彼に励まされてきた子供達が逆に励ましてくれたそうなのだが……
『──その子、内心じゃかなり一杯一杯だったみたいでさ……「自分がどれだけ苦しいのかも分からないくせに、勝手なこと言うな」って、他にも色々言っちゃったんだって』
一頻り吐き出すだけでスッキリできたのならまだ良かったが、次に少年を襲ったのはとてつもない自己嫌悪だった。
──あの気持ちは嘘じゃないけど、違う、あんな事を言いたかったわけじゃない。あの子達だって十分辛い思いをしながら頑張ってるのに、僕は…──
「その子は、どうなったの……?」
『……分かんない。それから全然ダイブして来なくなっちゃったから。わざわざ子供達に聞くのも、なんか……ね』
恐らくだが……つまりはそういう事なのだろう。顔も名前も知らない、会った事すらないその少年の冥福を静かに祈りながら、アスナはユウキの言葉の続きに耳を傾ける。
『話を聞いた感じ、多分ミツキさんも同じなんじゃないかな。色々溜め込んじゃって、限界が来そうなのは本人も分かってて、でもそれをぶつける場所がどこにも無くて……そのままでいたら、アスナ達に全部ぶつけて傷つけちゃうから──って事なんだと思う』
「………」
1年──いかにも短く聞こえるが、月に直せば12ヶ月、日数にして365日、時間にして8760時間だ。短くもあり、同時に途方もなく長いこの時間、ミツキは一体どれだけの想いを溜め込んでいたのだろう。自分達はそれを知りもせず──知ったつもりでのうのうと日常を謳歌していたわけだ。
……だが一方で、ミツキはそうなることを望んで、胸に秘めたものを隠し通してきた。いつかきっと、溜め込んだものが消え去るはずだ、全部元通りになるはずだから、と。しかしその思いは今に至るまでずっと裏切られ続けている。
このままでは何も出来ないまま手遅れになってしまうのではないだろうか。
「……ミツキ君の本当の気持ちを聞ければ、1番いいんだけど……」
『……あのねアスナ。誤解しないで欲しいのは、そうやって内側に閉じ込めてるものだけが本物とは限らないって事。アスナ達を傷つけるかもしれない気持ちが本物なら、それを防ごうと頑張ってる気持ちも、きっと本物だよ。だって、嘘の気持ちでそんなに頑張れないでしょ』
ふと、アスナの脳裏に過去の記憶が蘇る──懐かしきKoB本部にて、親友と交わした会話だ。
「……うん。そうだね、そうだよね──ミツキ君は、そういう人だもんね」
ずっと考えていた。ミツキを直接救うことは出来ずとも、せめて自分達の元へ繋ぎ留めておく為には──いつかきっと来る時を皆で揃って迎える為にはどうすればいいのか。ただ本心を暴き、吐き出させればいいわけではない。今の状態を維持しておくなど以ての外だ。
これはアスナだけが一方的に頑張ればどうにかなる問題ではないのだろう。ミツキ自身にもこちらへ歩み寄る姿勢を持ってもらう必要がある。その為にも、まずはアスナが頑張らなくてはいけないのだ。
『アスナならきっと大丈夫。ボクね、思うんだ──アスナには、魔法の力があるんだ──って』
「ま、魔法……!?」
『うん!昨日ALOで抱きしめてもらった時とか、手を握ってもらった時とか──アスナと一緒にいると、なんだかホッとするんだ。暖かくて、包み込んでくれるみたいな感じがする』
「そ、そうかな……全然実感湧かないけど」
『ほんとだよ。だから大丈夫。アスナが全力でどーん!とぶつかれば、きっとミツキさんも安心してどーん!って返してくれるよ。《絶剣》のボクが言うんだから、間違いない!』
そう言って朗らかに笑うユウキ。ここで通信プローブのバッテリー残量が限界を迎え、アスナはまた明日一緒に授業を受ける約束をユウキと交わしてから、通信を切る。
これまでは憂鬱な気持ちが大部分を占めていた自宅への帰路。それが綺麗さっぱり消えたわけでは、残念ながらない。しかし、
──頑張って。アスナはボクよりもずっと強いんだから、きっと大丈夫!
ユウキが別れ際に残してくれた言葉が、アスナの胸に小さな火を灯してくれていた。
まずは母と正面から向き合って、今度こそ自分の気持ちをちゃんと伝えよう。
「──よしッ!」
短く意気込んだアスナは、意を決して自宅の門を開くのだった。