ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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幕間:月に差す光

 なぁ、リーファ。君は──

 

 

 

「──君は、アスナの事を妬ましいと思った事はあるか……?」

 

 2025年の暮れ──ALOにて伝説級武器《魔槍ゲイボルグ》を入手したその日に、共にクエストに挑戦してくれたリーファへ向かって、俺は最低な質問を投げかけた。

 

 正直、こんなデリカシーの欠片も無い質問をすれば、殴られるなり斬られるなり、それこそ絶交と言われたって文句は言えない。それでも彼女は──リーファ(直葉)ではなく、ただの《リーファ》として俺の隣に腰を下ろした彼女は、穏やかな声音で答えてくれた。

 

「……うん、あるよ。これでも一応、ちゃんと失恋したしね」

 

 特にSAOから帰還してすぐのキリトは、目覚めないアスナの事で頭が一杯で、直葉の気持ちに全く目を向けられていなかった。アスナのお見舞いに向かうキリトを見送る度、胸の内に多少なりとも黒いモノが湧き上がる自覚はあったのだろう。

 それでも嫉妬に狂わずにいられたのは、義理とはいえ兄妹という関係に加え、キリト本人の気持ちを尊重したいという彼女の愛情があったから。最終的に、キリトの心の片隅に居られればいい、という彼女なりの答えを出すことが出来た。

 

「……強いな、リーファは。俺とは大違いだ」

 

「……ううん、一緒だよ」

 

「そんな訳──」

 

「一緒だよ。当ててあげよっか──ミツキ君は今、キリト君の事を妬ましく感じてる……それ以上に、そんな事を考えちゃう自分自身にすっっごい自己嫌悪してる──違う?」

 

 図星を突かれて何も言い返せない俺に、リーファは「ほらね」と言わんばかりに肩を竦める。

 

「変な感じだよねぇ……幸せになって欲しいはずなのに、それを素直に喜べないんだもん。頭の中グチャグチャになって、どうしたいのかもよく分かんなくなっちゃうよね」

 

「……お門違いだってのは分かってるんだ。アイツは充分過ぎる程苦しんで、立ち向かって、その末にアスナを取り戻した。だからアイツは、苦しんだ分以上に幸せな時間を過ごす権利がある。そうするべきなんだ」

 

 だというのに……俺はキリトの幸せを直視出来なくなっている。

 いつかきっとアリスと会える──それだけを真っ直ぐに、バカ正直に信じていられたらどれだけ良かったか。己の半端な賢しさをこうも恨めしく思ったことは無い。

 

「ミツキ君。君のその気持ちは、あって当然のものなんだよ。きっと。……不謹慎だけど、正直ちょっと安心した」

 

「安心……?」

 

「うん。あたしの場合、キリト君にあんなに構ってもらえてズルい──みたいな気持ちでアスナさんに嫉妬してたわけだけどさ。ミツキ君は少し違う──君はこれまで、ずっと誰かの為に戦ってばかりだったでしょ。この前のGGOでの時も……あたしが何も言わなかったら、帰って来ないんじゃないかって、思ったし……でも今の話を聞いて──ミツキ君もちゃんと、キリト君と同じくらい幸せになりたいって思えてるんだな──って、解ったから。だから安心しちゃった」

 

 言葉の通り、ホッとしたような笑みを浮かべるリーファ。そんな彼女から、俺は目を背ける。

 

「……どうかな……心の底じゃ、キリトの幸せを全部奪って同じ思いを味あわせてやりたい、って思ってるかもしれないぞ」

 

「──大丈夫ですよ」

 

 すぐさま返ってきた言葉に、思わずリーファを見てしまう。

 

「もし……ミツキさんが本当に限界になって、何もかも壊したくなったら──その時は、あたしが止めます。絶対、何も壊させませんから。だからその時は好きなだけ暴れて、スッキリしちゃってください」

 

 真っ直ぐ俺を見つめるリーファの目からは、確かな決意が見て取れる。嘘偽りでもなければ、気休めでもない。紛れもない本心なのだという事は伝わって来るが……

 

「……《リーファ》は、俺に敬語使わないと思ったんだけどな」

 

「あっ……べ、別にいいでしょ!あたしだってたまには敬語使いたくなる時くらいあるもん!」

 

 彼女の気持ちを素直に受け取れなかった俺は、そうやって話を逸らす事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──意味を失った俺の罪に、意味を与えると言ってくれた少女がいた。

 

 

 ──俺が何かを壊しそうになったら、何も壊させずに止めると言ってくれた少女がいた。

 

 

 彼女達は、何故こうも俺に寄り添ってくれるのだろう。

 

 キリトを、皆を傷つけ、自ら関わりを絶とうとした俺に。

 

 何にせよ、客観的に見て彼女達が俺に手を差し伸べてくれているのは間違いないのだろう。救われたいと願うなら、その手を取ればいい。

 

 だが、俺にそんな資格があるのだろうか。そんな甘えが、許されるのだろうか──もう何度目かも分からない自問自答。

 

 彼女達の手を取って、皆の元へ戻ったとしよう。

 俺という、いつ爆発するかも知れない爆弾を警戒させ続けるのか?そんな状態で、本当に皆は楽しい日常を過ごせるのだろうか。

 何よりそんな暖かい空間にいて、俺はちゃんとアリスの事を想い続けていられるのだろうか。

 皆が向けてくれる厚意を言い訳に、アリスの事を諦めてしまうのではないか?心の中にアリスを思い浮かべながら、一時の安心感を得たいが為に形ばかりの温もりを求めようとするのではないか?

 

 

 ……ああ、そうか。どうやら俺は、自分で思っていた以上に、壊れてしまっていたらしい。

 

 

 今更気づいた。

 俺は、こうして手を差し伸べてくれる皆の事は愚か、自分自身すらも信じられなくなっていた。

 

 

 ダメだ。これじゃあ。尚更戻れない。

 

 

 これ……もとにもどるのかな。

 

 

 

 

 

 

      ──諦めちゃダメ

 

 

 

 

 

 

 ……もういちど。

 

 もう一度だけ、がんばってみよう。それでだめなら……

 

 ……こんどこそ、ぜんぶこわしてしまおう。なおらないくらい、なおそうとするひとすらあらわれないくらい、こなごなに、()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──俺は、あいつらと出会うべきじゃなかったのかな。

 

 その質問を即座に否定出来ないまま、意識は微睡みに沈んでいった。

 




月は単体じゃ光れません。
照らしてくれる太陽が無ければ、誰からも見えなくなってしまいます。
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