ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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進捗いい感じ…!年内章完結いけるぞぉ!
アンケートへご協力頂いた皆様、ありがとうございました。



《絶剣》VS《裂槍》

 2月──冬も終わりに近づき、まだ寒いながらも春の到来を待つようになったこの頃。ALOでは全プレイヤーが沸き立つ一大イベントが開催されていた。

 

 その名も《ALO統一デュエルトーナメント》。早い話がALO版《BoB》──最強決定トーナメントである。

 

 新生以前のALOでは種族単位で分かれて行われていたのを1つに纏めたこのデュエル大会は、出場者もそうそうたる面子で、サラマンダー将軍ユージーン、シルフ領主サクヤ、同じくシルフの魔法剣士リーファ、暗殺からエージェント稼業へ転身したスプリガンのカゲロウ、そして《絶剣》ユウキ。黒づくめ(ブラッキー)キリトを始め、元SAOプレイヤーの中からも多数が出場。一体誰が優勝するのかと、観客達の間で行われるトトカルチョはしきりに変動を繰り返していた。

 

 トーナメントは恙無く進行し、早くも準決勝──東ブロックではキリトがユージーンを破って一足先に決勝へコマを進める一方、今は西ブロックの準決勝が始まる所だ。

 

 

『──東ブロックの激戦の熱も冷めやらぬ中、お次は西ブロックの準決勝!こちらもまた我々を熱くさせてくれる予感しかしません!御託は程々に、選手の入場と行きましょう!お前ら準備はいいか~!?』

 

 

 ノリのいいMCの煽りに、観客達は歓声で以て応える。

 

 

『まずは赤コーナー!──妖精の大地に突如舞い込んだ新風!可憐な容姿とは裏腹に、振るう刃は相対する尽くを斬り伏せる!その強さは正に絶対無敵!誰か彼女を止められる奴はいないのかぁ!?──《絶剣》ユウキ──!』

 

 

 割れるような声援を受けて入場してきたのは、小柄な闇妖精ユウキ。既に《絶剣》の名はアルヴヘイム全土に広まっており、最早彼女の実力を疑う者など1人としていない。

 

 

『対するは青コーナー!──おい、そんな装備で大丈夫か?なんてことはもう口が裂けても言えません!今ここにいる事がその答え!最近めっきり姿を見せていなかったという灰かぶり姫。12時の鐘を待たずして無敗の伝説を終わらせる事ができるのかァ!──《灰かぶり》ミツキ──!』

 

 

 ユウキ程ではないにせよ、またも熱い声援に迎えられて入場するは風妖精ミツキ──背には片手剣ではなく、1本の槍があった。

 

 大勢の観客が見守る中、2人の妖精が向かい合う──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なんだよ灰かぶり姫って……俺男なんだが」

 

「あはは、まーいいんじゃない?男の子のシンデレラ、ボクはアリだと思うよ?」

 

「そりゃどうも…ま、それはさておき──待たせたな、ユウキ」

 

「うん。来てくれてありがとう、ミツキ──ちょ~っと待ちくたびれちゃったけどね」

 

「同じブロックだったのが不幸中の幸いだな」

 

 アスナとの話し合いを経た数日後──ALO運営からこのトーナメント開催の告知がなされ、俺はそれを知ったユウキ直々に「この大会でまたボクと戦って!」とあの通信プローブ越しに再戦を申し込まれたのだ。

 元々予想はしていたが、アスナ及び本人からちゃんと「事情」は聞かされている。断る理由らしい理由も無かった事だし、俺はそれを承諾し今日に至る。

 俺とユウキは西ブロックの両端からスタートし、幾度の戦いを経てこの準決勝まで勝ち上がってきた。東西ブロックを勝ち抜いた末に行われる決勝戦で当たる方が絵的にも燃えるのは確かだろうが、その場合俺とユウキのどっちかは先にキリトと戦わなければならない可能性が浮上し、彼の強さを知っている身としてはかなり骨が折れる。ユウキとの戦いの前に気力を使い果たすような事態にならずに済んだのは僥倖と言うべきか。

 

「君とはちゃんと戦いたかったんだ──何ならあの時みたいにもう1本の槍も使っていいんだよ?」

 

「多分キリトにも同じ事言うつもりだろうが……あのスタイルは基本やらない様にしてるんだ。こっちの都合で悪いな」

 

「そっかー、残念」

 

「代わりといっちゃ何だが、今回はちゃんと本気だ。少なくとも、前回よりは楽しめると約束するよ」

 

「へぇ……言質取ったかんね──!」

 

 そう言ってユウキが腰の剣に手を掛けた瞬間、デュエル開始のカウントダウンが始まる。

 黒曜石のような細身の片手剣を抜き放つユウキに対し、俺もまた背中の留め具から槍を抜き、クルリと回してから構えた。

 ALOに来てからは槍よりも剣を握っていた期間の方が長いが、やはりSAOで2年間みっちり使い続けてきた槍の方が手に馴染む。ユウキの言葉を借りるなら、まさに手足のように身体と一体化したような感覚さえ覚える程だ。

 

 デュエルの常であったシステム外スキル《先読み》は使わない──ユウキの速度の前では、攻撃を予測出来たとて反応が難しい。同時に、これまで対人戦で俺が取ることの多かった「受け」の構えも、今回は取らない。

 

 俺達SAO生還者以上の長い時間を仮想世界で過ごしてきた彼女の反応速度から繰り出される剣戟は、きっと「隙を突く」事自体が困難な筈だ。周囲から事実上不可能と散々言われてきた「カウンターを迎撃する」なんて真似を平気でやってのける可能性も大いにある。

 

 で、あるのならば。必然的に取れる手段は1つだけ──

 

 

 3──2──1──《DUEL!!》

 

 

「てぇい──ッ!」

 

「ッ──!」

 

 デュエル開始と同時に、双方勢いよく地を蹴った。繰り出された得物が音高く打ち合わされ、空気を小さく震わせる。以前のデュエルでは受けに回った俺がこうして攻め込んできた事に、ユウキは一瞬だけ驚いてから好戦的な笑みを浮かべた。

 ギャリィッ!と音を立てながら槍の柄に刀身を滑らせ、ユウキは器用に剣先を槍の内側へ潜り込ませてくる。俺は槍を勢いよく回し、それを払い除けた。

 

 通常ならここで一度距離を取る所だが、互いに一歩も引く事をしない。凄まじい速度で繰り出されるユウキの剣を俺が槍で受け、その威力を乗せたカウンターをユウキがまたも弾く。

 最早武器の間合いなど関係ない超至近距離でのインファイト──もう何度目かも分からない打ち合いの後、ユウキはカウンターを弾きざまに後ろへ跳んで距離を取った。

 

「うへぇ~……気持ち悪い手応え。何度打ち合っても慣れないや。しかも防御が全然抜けない──ミツキ、君実は滅茶苦茶強いでしょ?」

 

「ウチのお家芸でな。今まで戦ってきた奴らからは概ね不評だったんだが──気に入ってくれたなら何よりだ」

 

「なる程ねぇ……こりゃ確かに楽しめそう──ッ!」

 

 再び同時に地を蹴り、真っ向からぶつかり合う。

 神速と表現するに相応しいユウキの刃を、同じく神速に匹敵する速さを以て返す。1合打ち合ったその瞬間には次の1合を読み合う。文字通り攻撃と防御を同時に行う、目にも止まらない攻防── 一瞬たりとも気を抜けない、どちらが先に受けを仕損じるかというせめぎ合いは、唐突に動きを見せた。

 

 このまま続けたとて千日手と判断したユウキは、キリトをも上回る持ち前の反応速度を遺憾無く発揮。コンマレベルに等しいカウンターの間隙を縫い、剣を振るう。それは即ち、俺のカウンターの迎撃を放棄したということでもあり──ユウキの剣が俺の腿を斬り裂き、同時に俺の槍がユウキの肩へ食い込んだ。

 ここまでの攻防でジリジリと削れていた分も合わせ、互いの残りHPは7割弱に達する。

 

 小さく舌打ちしたユウキは、バックステップと同時に翅を展開。空中へ身を躍らせる。対する俺も翅を広げ、戦いは空中戦へ移行した。

 

 震わせた翅にジャンプの勢いも乗せ、銃弾も斯やという勢いで突っ込んでいく。引き絞った槍の穂先にライトエフェクトが灯った。

 

 ソードスキル発動の予兆を感じ取ったユウキも剣を構える。距離的にスキルでの迎撃は不可能なので、恐らく俺のスキルを捌いてから技後硬直中を狙って来るはず──予想通り、発動した刺突技《スイフト・ランジ》を掲げた剣で流そうとしたユウキだったが……その表情が、驚愕へと一転した。

 

 ライトエフェクトを纏う槍がユウキの剣に触れる直前、技の軌道が変わったのだ。システムに定められた鋭角なものではなく、ゆるい曲線を描くように──本来直線突きであるはずのソードスキルが、曲がった。

 

「ッ──!」

 

 すぐに動揺から立ち直り、ユウキは剣を横薙ぎに振るう。ひらりと身を翻してそれを躱した俺は、硬直が解けるなり槍を上段へ振りかぶった。

 

 再び発動したソードスキル──単発縦斬り《エッジ・フォール》を、ユウキは下段から発動させた2連撃《バーチカル・アーク》で迎え撃とうとする。しかし……

 

「ぐッ……!?」

 

 またも、ユウキの剣は空を切り、俺の槍は命中──ユウキの脇腹を()()()()()()()()()()。スキル発動中に有効打を貰ったことで、ユウキのスキルは中断。2撃目が放たれる事なく、そのまま10メートル程吹き飛ばされた。

 

「ってて──ねぇ今の何。ソードスキルが曲がったように見えたけど……あんな技、無かったはずだよね?」

 

「さて、どうだろうな?ユウキはまだALOに来て日が浅いし、知らないだけかもしれないぞ」

 

「うわ~すっごい余裕──あ、もしかして……《システム外スキル》ってやつ?アスナから聞いた事あるよ、元SAOプレイヤーの得意技だって」

 

「おぉ、意外と勉強家だな」

 

「へへ、でしょ?ボク、これでも学校の成績良かったんだ──!」

 

 会話もそこそこに、ユウキが突っ込んでくる──疾い……ッ!

 

 寸での所で槍を割り込ませ、すれ違いざまの斬撃を防御。急制動から返された刃も屈んで回避。お返しとばかりに、今度は俺の方から仕掛けた。

 

 振り向く動作を利用して石突きと穂先による横薙ぎの2連撃、返す槍で直線突き、そこから更にコンパクトな動きで攻撃を加えていく。しかしユウキはそれら全てを危なげ無く捌き、一瞬の隙を見つけて剣を振りかぶる──そこに合わせ、こちらもソードスキルを発動させた。

 

 再び発動させた《スイフト・ランジ》が、ユウキの攻撃に先んじて命中する──かに思われたが、その程度はユウキとしても予測済みだった。不敵な笑みと共に想定を上回る速度で振るわれた片手剣がスキル発動直前だった槍を弾き、狙いを外す。

 モーションが崩れ、ソードスキルを中断されたことでアバターは硬直。無防備になった俺に、ユウキは3連撃技《シャープ・ネイル》を叩き込もうと刀身にライトエフェクトを纏わせる──

 

 ──そこもまた、予測済みだった。

 

 明後日の方向を向いていた俺の槍が突然動き出し、先程彼女がやったのと同じようにスキル発動前の得物を弾き上げる──そこで硬直が解け、俺は再びソードスキルを発動。刺突4連撃《ホロウ・ランバス》がユウキのアバターをしっかりと抉った。

 

「こッ……のぉ──!」

 

 HPが半分を切るほどのダメージにも動じず、硬直が解けるなりユウキも負けじと反撃してくるが、またも硬直で動けないはずの俺の槍が動き出したことで、与えられるダメージは軽微なものに留まる。これではまるで、俺だけソードスキルの硬直時間が無くなったかのよう──

 

 ──当然、そんなチートじみた行為に手を染めてはいない。これはユウキが予想した通り、《システム外スキル》によるものだ。

 

 

 俺がSAO──特に対人戦に於いて最後の「詰め」以外でソードスキルを使用しないスタイルを取っていたのは、システムの課した制約たる技後硬直が理由だ。

 まだSAOでの戦闘に不慣れな者が多かった序盤ならいざ知らず、攻略と育成がある程度進んで行けば、ソードスキルを使う戦い方に習熟した者同士の戦闘が多くなるのが道理。それがモンスターであればまだしも、デュエルの時やオレンジプレイヤーとの戦闘となると一気に話は変わる。

 何せ相手はこちらの考えを読み、自ら考え、時に狡猾に騙してくる人間なのだから、必殺技であるソードスキルも安易には使えない。強力な技程、仕留めきれなかったり、外したりすれば硬直によって無防備を晒す諸刃の剣なのだ。

 

 従って、対人戦で重要になるのは2つ──如何に自分のソードスキルを的確に命中させ、失敗時のリスクを減らすか。そして如何に相手のソードスキルを失敗させるか。

 

 俺は2つの内、前者に目をつけた。

 ソードスキルは規定の攻撃モーションが終了すると数秒間アバターが硬直し動けなくなる。俺とてそのルールに縛られているのは同じだ。しかし1箇所だけ、硬直状態にあっても自由に動かせる部位が存在する。かつての俺達が有していなかった、A L O(この世界)でなければ存在しない部位──「翅」である。

 

 元より、この翅はアバターから直接生えているわけではない。随意飛行を会得するコツとして「仮想の骨と筋肉」という例えこそ使えど、それはあくまでイメージ上のものであり、翅はアバターとは別の器官となっている。

 そしてこの妖精の翅は、扱いに慣れればホバリング状態で横滑り、なんて器用な真似も出来る。リーファからそれを教わった俺はピコンと閃き、以来、左右合わせて4枚ある翅をそれぞれ独立して動かす練習をしてきた。何度も何度もあらぬ方向へ転げ回り、頭やら背中をぶつけまくった努力の甲斐あって「4枚の内特定の翅だけ震わせる」テクニックを会得したのだ。

 その結果、ソードスキルの硬直中に翅を使って身体を回転させることで武器を振り、実質的な硬直のキャンセルを行う事に成功。更にその応用で、翅を使ってアバターごと向きを変えることで、縦斬り攻撃を横斬りへ、という具合に限定的ながらソードスキルの軌道を変化させるウラワザまで編み出したというわけだ。

 

 

 飛行状態でしか使えない事から《エアリアルコンボ》と名付けたこの技術により、俺は完璧でないながらもソードスキルの弱点を克服。スキルを抜きにしても、翅によって変幻自在に姿勢を変えながら槍、拳、蹴りが襲いかかるのだ。タイマンなら並大抵のプレイヤーをこれだけで完封できる自信がある。

 

 しかしながら──相対するは、そんな並大抵のプレイヤーを60人以上無敗で屠ってきた《絶剣》だ。俺の小手先の技を前に一歩も引かない。仕組みをひと目で見抜いたわけではないだろうが、俺の動きを「そういうもの」として捉え、対応してくる。それどころか──

 

「ふふっ──あはは──ッ!」

 

 彼女は笑っていた。HPは彼女の方が少ない。状況的には劣勢だというのに、この少女は笑っている。笑みを湛えて打ち合わされる得物を通じ、彼女の気持ちが流れてくるような感覚──

 

「すごい──すごいすごいッ!やっぱり君はすごいよ!この世界にはまだボクの知らない強さが沢山ある!キリトと戦った時も、アスナと戦った時もそうだった!」

 

 不意に──ユウキの剣が肩口を浅く捉える。これは……

 

「(おいおい、マジか……ッ!)」

 

 ユウキを《絶剣》たらしめている圧倒的な剣速が──上がっている。

 1合打ち合う度、ビリビリと得物に伝わる剣の威力が上がっているのを感じる。

 見間違いでも、勘違いでもない。彼女は今この瞬間、戦いの中で成長しているのだ。

 

「やぁ──ッ!」

 

「ふッ──!」

 

 俺はユウキが発動させたソードスキルを、同じくソードスキルで敢えて相殺。衝撃に逆らわず、双方飛び退りながら地上に戻った。

 

 距離はおよそ10メートル。残りHPはユウキが4割に対し俺は5割弱と、優劣の差は殆どなくなった。

 

 

「ねぇミツキ──楽しいねッ!」

 

 

 太陽、向日葵──そんな表現が似合いそうな満面の笑みで、剣を構えたユウキが言葉を投げかけてくる。

 

 

「……あぁ。そうだな──!」

 

 

 こちらも槍を構えながらそう返した俺の表情は、自分でも無意識の内にはっきりとした笑みを形作っていた。そんな俺を見て、ユウキもまた嬉しそうに笑う。

 

「正直、まだまだ戦ってたいけど……そろそろ、終わりにしよっか」

 

「望むところだ──来い!」

 

 俺の返答を受け、地を蹴ったユウキの剣に光が灯る。紫色の眩いライトエフェクト──以前戦った時は見る事が出来なかった、彼女が辻デュエルで賭けていた11連撃のO S S(オリジナル・ソードスキル)だろう。

 

 笑みが一転、鋭く研ぎ澄まされた闘志、気迫、それら全てがあのか細い剣に込められる。あの技をまともに喰らえば絶対に負ける──そんな逃れようのない敗北という結果を、否応無しに俺の脳裏へ突きつけてくる。

 

 急速に引き伸ばされていく時の中、俺の頭にあるのは1つだけだった。

 

 ゲーマーの端くれであるにも関わらず、久しく忘れていたような──勝ちたい、という強い意思。

 

 凄まじい勢いで突っ込んでくるユウキの姿、それを収めた視界が一瞬スパークする。

 

 俺の中から色が抜け落ちる。次いで音が抜け落ちる──灰を被った世界にあって尚、眩い輝きを放ち続けるユウキの剣に、その尖端にぴたりと焦点を合わせる。

 

 左肩から右下へ流れるように繰り出される5連突き──その軌道にぴったり重なるように、槍を掲げる。完全に防ぎきれず数発は貰い、俺のHPが僅かに減少。残り4割。

 続けて、再びの5連突き──今度は右肩から左下にかけて放たれるそれを、こちらも同じように防御。これまた完全には防ぎきれなかったが、利き手とは逆側からの攻撃だったからか、逃した数発はアバターを掠めるだけで済んだ。更にHPが減少。残り3割5分。

 

 傍目には、瞬く間に放たれた10連撃をこちらも瞬くような速さで防いだように見えているだろうか── 一際強い輝きを湛えた締めの11撃目を迎える今の俺には、そんな思考すらノイズでしかなかった。

 

 

「でやあああああああああああ──ッ!!!」

 

 

 音を排した今の俺にも、ユウキの凄まじい気合を感じ取れた。

 

 防御──不可能。

 

 迎撃──不可能。

 

 回避──不可能。

 

 ならば──!

 

 一縷の望みに賭け、槍を後ろへ引いて構える。そんな俺に、《絶剣》の誇るOSS最後の1撃が叩き込まれた。

 

 盛大な爆発エフェクトで巻き上がった煙が晴れるのを、観客達は固唾を飲んで待つ。彼女の剣は《灰かぶり》を倒したのか、それとも……!

 

 果たして、爆煙の晴れた先には──槍を構えた風妖精の姿があった。残すHPは僅か1ドット。デコピン1発で容易く消し飛ぶ風前の灯。だが確かに火は灯っていた。

 

 最後の最後の悪足掻き──ギリギリでユウキの剣を耐え抜くか否かという「賭け」に、俺は勝利したのだ。

 

 そして勝利できた暁に彼女へ渡す「プレゼント」の用意も抜かりはない──!

 

 闇魔法を思わせる鮮やかなヴァイオレットの光を湛え、槍が閃く。

 

 左右下段からの斬り上げに続き、縦一直線の斬り下ろし──✽状のダメージエフェクトが、ユウキの身体に星を刻む。

 

「くッ──!?」

 

 ユウキは硬直が解けるなり全力のバックステップで距離を取ろうとする。しかしみすみす逃す俺ではない──ッ!

 

 

「う…おおおおおおおおおお──ッ!!!」

 

 

 俺が唯一開発に成功した両手槍OSS、9()()()技《コラプサー・テンペスト》──刻みつけた星を打ち砕かんと、6つの流星が襲いかかる──!

 

 しかしユウキも最後まで勝負は捨てなかった。システムの束縛から解放された腕を霞むような勢いで動かし、残る6連撃を弾きにかかる。

 

 1──2──3──知覚加速状態でも尚速いと感じる剣で軌道を逸らされる。

 

 4──5──これもまた凌がれてしまうが、5撃目を受けた際、姿勢が不安定だったことで剣を持つ右腕が大きく弾かれた。これならば……ッ!

 

 6連突き最後の1発。これが当たれば──!

 

 しかしこの土壇場でユウキは機転を利かせてきた。これだけでは足りないと判断し、背中の翅を広げて後退距離を伸ばそうとする。

 

 だがまだ届く!突きの瞬間思い切り腕を伸ばしきった勢いで少しでも体が前へと進めば、まだ……ッ!

 

「ッ……!?」

 

 ここが勝負の分かれ目だった。

 灰色だった俺の世界に、色が戻っていく。静寂で満たされていた世界に、喧騒が戻ってくる。そして──あの領域への通行料として、俺は体の自由を奪われた。

 

 システムアシストによって最後の一撃は変わらず繰り出されるが、そこにシステム外スキルによる威力ブーストは乗っておらず──突き出された槍は、ユウキの身体と紙一重の位置でピタリと停止した。

 

 駆け抜ける衝撃。霧散する輝きと共に俺のアバターはガクリと膝をつき、倒れこむ。

 

 同時に、タイムアップを告げるアラーム音が鳴り響く。ユウキのHPはまだ1割程残っており──デュエルは彼女の判定勝ちとなった。

 

 その瞬間、観客達は一斉に沸き立った。勝負の内容もさる事ながら、無敵と思われた《絶剣》をここまで追い詰めたという事実がその熱に油を注いでいるのだろう。

 ギリギリの勝負だっただけに、勝てなかったのは正直滅茶苦茶悔しいが……見応えのある戦いに出来たのなら、これはこれで悪くないか。と倒れたままの頭でそんな事を考える。

 

「──お疲れ、ミツキ!」

 

 その声に苦労して顔を上げると、気分爽快、といった面持ちのユウキがこちらを見下ろしていた。

 

「ああ、お疲れ。……悪い、もう少しだけ待ってくれ。多分、そろそろ動けるようになる」

 

 アバターから痺れが抜けたのを確認すると、俺はユウキの手を借りて立ち上がる。

 

「いやぁ~、ほんっと強かったよ!予想の何倍も楽しかった!」

 

「期待に沿えたなら良かった──俺も、久しぶりに楽しいって思えたよ。ありがとう、ユウキ」

 

「なら、またボクと戦ってよ。今度は槍2本の状態で!」

 

「あー、それはちょっと……まぁ気が向いたらって事でひとつ」

 

「えぇ~!?んー、じゃあ……そうだ!今度、ミツキがやってたアレ教えてよ!《システム外スキル》!」

 

「ん、まぁそれでいいなら──けど、修行は大変だぞ?」

 

「うん、望むところだよ!」

 

 笑みと共に差し出された手を取り、握手を交わす。そんな俺達を、観客達は惜しみない拍手を以て称えてくれた。

 

 その後、満を辞して行われた決勝戦──ユウキとキリトの戦いは、一層白熱した。互いの持ちうる知識と経験、才能を遺憾無く発揮した激闘の末、あの11連撃を全弾ヒットさせたユウキが勝利。

 ALOだけでなく、GGOでも大暴れしたことで広くその名を知られているキリトを破った者として、世界の壁を越えたザ・シード連結帯(ネクサス)全域に《絶剣》の力と異名を知らしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、1ヶ月後の3月──帰還者学校も春休みに入り、じきに4月を迎えようとしていたある日のことだ。

 

 アスナの携帯に、ユウキの主治医からメールが届いた。

 

 

 ──《木綿季(ゆうき)君の容体についてお話したい事があります。近く、病院へお越しいただけますか?》

 

 




《エアリアルコンボ》のコツは《スキルコネクト》と同じで、翅と一緒にアバターの手足を動かしちゃわないよう切り分けています。その上で更に翅を1枚1枚個別に意識しながら動かして、更にシステム外スキルのブーストもかけてるわけですから…要求される集中力半端ないっすねコレ…。
本家とは一長一短です。

多分ミツキは障害物競走とかでよくあるピンポン玉運びが滅茶苦茶上手い。どんだけ走っても微動だにしなさそう。
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