今年もまた、本作にお付き合いいただければ幸いです。
年末年始の諸々で時間が取れなかった事もあり、非常に短いですがOS編第1話です。
オーグマー
「命の危険を感じたら、空に向かって俺の名を呼べ。この槍を流星に変えて、お前達の願いを叶えてやる──生きたいという願いをな」
2026年4月──電子機器メーカー《カムラ》は、とある画期的な製品を世に送り出した。
その名も次世代型ウェアラブルマルチデバイス《オーグマー》である。
『──このオーグマーにはフルダイブ機能が搭載されていないという事で、先発のアミュスフィアからは技術的に退化しているという意見もありますが、それは大きな間違いです。アミュスフィアと違って完全覚醒状態で使用できるというのは大きなアドバンテージと言えます!』
ニュース番組のコメンテーターが、
『何せARマシンのオーグマーには、フルダイブマシンに伴う諸々の危険が存在しません。日常生活に寄り添うデバイスとして、健康管理やフィットネス目的に利用する人も増えていますからね』
SAO事件及びALO事件、そして記憶に新しい死銃事件。それら全てに共通しているのは、フルダイブマシン特有の危険性──ダイブ中は現実の肉体を動かせず、また現実世界の状況を確認できないという点だ。
一方オーグマーはあくまでも現実世界の情報を拡張するものである為、上述のような事件に巻き込まれる危険性が無い。その気になればいつでも自分の意志でデバイスを外す事が出来る。
『生活に寄り添う、ですか──その一例としてご紹介するのがこのゲーム、《オーディナル・スケール》です』
最近発表されたオーグマー専用のARゲーム《オーディナル・スケール》は、ARという特徴を活かして現実世界の様々な場所に出現するモンスターを倒すことでポイントを獲得し、ランキングに応じて各種協賛企業のサービスを受けられるというビッグタイトルだ。
そのサービスというのも多岐に渡る。よくあるコンビニやファストフード店のクーポンに始まり、大手ネット通販サイトの割引クーポンやイベントチケットの優先購入権、ポイントを使って家電メーカーの製品を購入出来たりもする。
特に血気盛んな学生世代を中心とした若者へのウケが良く、東京の街中で行われるARバトルによって回線がパンクしないよう、中継用のドローンが日夜空を回遊している。最初こそシュールな印象を持たれていたが、それも程なくして日常へと溶け込んでいった。
『オーグマー、そしてオーディナル・スケールの勢いはまだまだ止まりそうにありませんね──』
「──今やすっかりAR一色、か」
見ていたニュース番組のウィンドウを閉じ、装着していたオーグマーを外した俺は、誰にともなく独りごちる。
「ARは嫌いな訳?その割には結構遊んでるっぽいけど」
そんな声と共に現れたのは、両手に飲み物を持ったシノン。同じくオーグマーを装着した彼女から缶コーヒーを受け取った俺は、プルタブを開けながらそれに答えた。
「別に嫌いって訳じゃないさ。実際、
「それは流石に考え過ぎじゃない?新作タイトルがブームを攫うのなんてよくある事でしょ。来月には落ち着くわよきっと。──あなたやキリトみたいに、ARには向かないタイプのプレイヤーだって結構いるだろうし」
つい先日、キリトもアスナに引っ張られて
「いや頑張った方だろ。あとその言い方だと、まるで俺が運動音痴みたいに聞こえる」
「違うの?」
「これでもスタミナはある方だと自負してる。体育の成績も悪くないからな」
「ふーん……じゃあさっきの戦いで盛大に攻撃をスカして私にLAを持って行かれたのは、あなたと私の実力差から来る当然の帰結だったってわけね」
「そ、それは……軽過ぎるんだよ、武器が。ソードスキルが使えないのはまだしも、せめてもうちょい重いヤツじゃないと振った時の感覚が──」
剣あり銃あり魔法無しの体感型アクションゲームであるO.Sは、オーグマーに付属するスティック型タッチペンを武器に見立てて戦う。
フルダイブ機能こそ無いものの、一応オーグマーも微弱ながら電磁パルスによる脳への干渉は行っているらしく、武器を振った時や敵を攻撃した時にそれっぽい手応えを感じるのだが、俺はどうにもそれがしっくり来ない。この辺の重量感覚の再現は間違いなくフルダイブの方が優ってると言える。恐らくキリトがO.Sに乗り気じゃないのもここら辺が一因なのではなかろうか。
そういった訳で、帰還者学校生徒全員に無料配布という大盤振る舞いで渡されたこの新型デバイスを、俺は専ら便利な情報端末として利用しており、ローンチタイトルであるO.Sを自発的に遊ぶ事は殆ど無いというのが実情だ。
──と、ここまでの会話から推察出来るだろうが、俺とシノンはつい先程までO.Sのボス戦に参加していた。というのも、ここ最近妙な噂が立っているのが理由だ。何でも、O.Sのイベント戦に旧SAOのフロアボスが出現するのだとか。
にわかには信じ難い話だったが、実際キリト達は秋葉原で旧アインクラッド第10層フロアボス《カガチ・ザ・サムライロード》と戦ったという。攻撃パターンから何まで当時のままだったそうだ。
それを聞いたシノンが俺に声をかけ、こうして休日の夜に出張ってきたというわけなのだが──
「──空振りだったわね。一応ボスモンスターっぽいのは倒したけど、SAOじゃあんな敵いなかったんでしょ?」
「ああ。戦ってきたフロアボスの中にあんなのは間違いなくいなかった──多分、一口にボス戦と言っても、旧SAOのボスが出て来るのとそうでないのとで分かれてるってことなんだろうが……」
「あ、そういえば……リズがボス戦の開始時間が遅いって愚痴ってた気がする。確か、直前にならないと場所が公開されない、って」
「ならそれかもな……単に、俺達がたまたまそれっぽい場所にいた、そこそこ強い野良モンスターをボスだと勘違いしてた説も無くはないが」
「わ、悪かったわよ……カスを掴ませるような事になって」
「まぁ、言う程カスでも無かったよ。ポイントはそこそこ入ったし、いい運動にもなるし。それに結構楽しかったしな」
俺の返答を聞いたシノンは、バツの悪そうにしていた顔を小さく輝かせる。
「ほ、本当?なら、いいんだけど……その、良かったらまた一緒にやりましょ。今度こそちゃんとしたボス戦」
「機会があれば、な──そろそろいい時間だし、帰ろう」
4月といえど夜はまだ少し肌寒い。コーヒーで身体も温まった所で、俺は先んじてバイクに跨る。そこからすっかり馴れた様子でシノンが後ろに乗り、俺の腰に腕を回した。
「……なぁシノン。そこまでくっつかなくてもいいんだぞ?」
「何よ、なんか文句あるわけ?」
最近──と言ってもそう頻繁に出かけるわけでもないのだが──のシノンは、バイクの後ろに乗る際の距離が近くなってきたような気がする。
勿論、しっかり掴まってくれる分には悪い事はないし、こっちとしてもありがたいのだが……過去数回、距離が近い故に起こり得る事態が何度かあった。詳細は省かせてもらうが……まぁその、より一層運転に集中することを余儀なくされた、とだけ言っておく。
「……まぁ、そっちがいいなら何も言わないが……んじゃ、しっかり掴まってろよ」
それだけ言ってバイクを発進させる。周辺確認の為にチラリと後ろを向いた際、視界の端にシノンの顔が見えたのだが──ヘルメット越しに見えたその表情がどこか嬉しそうに見えたのは、果たして気のせいだったのか。
クラインが腕を骨折して入院した──そんな報せが舞い込んできたのは、翌日のことだった。
どうやら例のO.Sのボス戦に参加する際、何かトラブルに見舞われたそうなのだが……詳しい事はまだ分からないらしい。
何でも、先日アスナが参加した代々木公園での戦いにも結局参加してこなかったと言うし、風林火山の面々も一緒だった上で腕の骨を折るレベルとなると、単なるトラブルとは考えにくい。交通事故か何かにでも遭ったのだろうか。
情報をくれたエギルに、詳細が分かり次第共有するようメールを送った所で、またも携帯が振動。シノンからの通話だ。
「──もしもし?」
『あ、急にごめんなさい。さっきね、ユイちゃんがO.Sで次に旧SAOボスが現れるだろうって場所を特定してくれたの。私は今日その時間バイトだし、キリトも今回は止めとくって言ってたから、アスナとリズとシリカの3人で参加するそうよ。一応、あなたにも伝えておいた方がいいかなって』
「そうか……わざわざ悪いな。場所は?」
『渋谷の恵比寿ガーデンプレイス。参加するなら、アスナ達に一声かけときなさいよ』
「渋谷……分かった。ありがとな」
通話を切った俺は今日の予定を変更。手早く身支度を整えて家を出るのだった。
この時点でのミツキはキリトやアスナ達をこれまで程露骨に避ける事はしなくなっていますが、まだ完全に元通りとは言えない状態です。ちゃんと連絡を取り合ったりはしてます。
休日に遊びに出かけたり、ALOの中で一緒にクエストやったり~ってのはもう少し先になりそうですね。現状そのポジションはシノンがほぼ独占状態です。
(キリトの都合が付かない時なんかは代役としてたま~に直葉と出かけたりもします。尚、こっちの方がスピードが速いからという理由で、直葉的にはキリトよりもミツキのバイクの方が好みらしい)