ソードアート・オンライン-剣槍-   作:不可視の人狼

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マザーズロザリオ編と同じくらいの長さになると思ってたけどそれより短くなりそうですねコレ。
アンケートの回答ありがとうございました。需要ありそうだったので、活動報告に質問箱を設置致しました。詳細はあちら側に記載してます。


奪われたモノ

 バイクを走らせること暫く──適当な場所にバイクを停めた俺は、夕暮れ時の代々木公園イベント広場へ向かう。

 

 ここはちょうど昨日、アスナがO.Sのボス戦で旧SAO11層フロアボスの《ザ・ストームグリフィン》と戦った場所だ。同時に、クライン達《風林火山》のメンバーが何らかの理由で大怪我を負ったとされている。

 アスナ曰く直前に現地入りはしていたそうだし、もしクライン達の怪我が交通事故の類であるなら、何かしら痕跡があるはずだと思い、周辺を少し散策してみるが……

 

「(綺麗なもんだ……事故らしき痕跡は何も無い。となると、何か対人関係のトラブルで殴り合いにでもなったか──)」

 

 それらしいニュースでもないかと、ボディバッグからオーグマーを取り出し装着。表示されたホロウィンドウに指を走らせようとした時──唐突に、視界の端に白い人影が現れた。

 

「ッ……!?」

 

 突然の事でつい叫びそうになるのをどうにか堪える。あちらも驚いたのか後ずさった人影は、フードを目深に被って人相は伺えないが、スカートを履いていることからどうやら少女のようだった。

 

「あ……悪い、考え事してて気付かなくて。何か用──」

 

 不意に、少女がズイと顔を近づけてくる。フードの下の瞳と一瞬だけ目が合った。

 しかしそれ以上何かを言うでもなく、少女は数秒程俺を凝視してから徐に腕を持ち上げ──とある方向を指差す。当然、その方向を見てみても何かがある訳でもない。

 

 一体何が言いたいのかと少女に聞き返そうとした俺だったが、視線を戻した時には彼女は忽然と姿を消していた。オーグマーを外してみても、どこにも他の人間の姿は見られない。

 走り去るにしてもこう広い場所なら身を隠すより早く見つかるはず。となると……あの少女は文字通り姿()()()()()ということになる。

 そんな真似が可能な時点で、まず生身の人間ではない。O.SのNPCか何かだろうとも思ったが、それを示すタグは付いていなかった。

 

 首を傾げる俺のポケットで携帯が振動する。次の目的地へ向かうのに設定していたアラームだ。あの少女のことも気がかりではあるが、ひとまず横に置いておくとして、足早にバイクへ引き返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再びバイクで走ること暫く──到着したのは渋谷区の恵比寿ガーデンプレイス。

 

 シノンから聞いた話では、件のボス戦が始まるのは毎日決まって夜の9時。場所はその30分前に告知されるとの事だったが、東京都心且つアクセスの良い渋谷という事もあってか、既に結構な人数のO.Sプレイヤーが集まっていた。

 

「《オーディナル・スケール》起動……!」

 

 音声認識によりシステムが起動。俺の装いがO.S仕様のバトルスーツへ、持っていたタッチペンは身の丈に程近い槍へと変化する。しかし俺は今まさに始まろうとしている戦闘には参加せず、見物客の後ろでの一時静観を決め込んだ。

 

 空中を飛ぶドローンが光を発したかと思えば、ちょうど小さなステージのように出っ張ったビルの外壁に人影が浮かび上がる。

 

 

『さぁ皆、準備はいい?戦闘開始だよ──ミュージック・スタートッ!』

 

 

 姿を現した、サイバネティック風衣装に身を包む少女が指を鳴らすと、どこからともなく壮麗な音楽のイントロが聞こえてくる。それを聞いたプレイヤー達は一気にざわめき立つ。

 

 それもその筈──彼女の名は《ユナ》。

 O.Sのイメージキャラクター兼、世界初のARアイドルとして人気を博しており、歌は勿論、プログラム制御のAIとは思えない程自然な仕草や表情も相まって、今や方々のイベントや番組に引っ張りだことなった時の人。

 何を隠そうシリカと直葉、ついでにクラインは彼女の大ファンであり、シリカがボスバトルに参加したがっていた理由の1つは、時折こうしてユナがボス戦の現場に現れて生歌を披露してくれるというファンサービスがあったからだった。

 

 ユナの歌が始まると同時に、フィールドに赤い出現エフェクトが発生する。その中から姿を現したのは、赤い甲殻の巨大なヤドカリだった。

 

「あいつは確か……12層ボスの《ストリクトハーミット》か」

 

 SAO当時に戦った記憶だと、奴の背負っているでっかい甲羅がとにかく固く手こずらされた。しかしメインの攻撃手段である、これまたでっかいボクシンググローブの如き鋏を用いた強烈なパンチのラッシュは正面へ集中する為、タンクが攻撃を凌いでいる内に横から攻撃を見舞うというローテーションを繰り返せば、然程恐れる相手ではない。

 そこは攻略組トップ層として初期から戦ってきたアスナも了解しており、周囲のプレイヤー達へ素早く指示を飛ばすが──

 

 

「い、いくらタンクがいないからってぇ──ッ!!」

 

 

 絶え間無く繰り出されるワンツーのラッシュの矢面に立たされているのは、我らがリズベット先生──…なんと、彼女以外に盾持ちのプレイヤーがいなかったらしい。

 数倍の大きさはあろうかという鋏のパンチを、左腕の小さなバックラーで必死に防ぎ続けるリズが飛ばされてしまわないよう、シリカがその背中を懸命に支える。

 そこへ横から飛び込んできたアスナがハーミットの横腹に一撃を叩き込み、巨大ヤドカリはビルの壁へ吹き飛ばされた──筋力重視のプレイヤーでもなければあんな真似は不可能だが、O.Sはランキングが上位になればなる程、攻撃時のダメージが上がっていく。最近熱心にO.Sをプレイしているというアスナのランクは結構な上位に位置するようだ。

 

 アスナ達女子トリオに負けていられないと、他のプレイヤー達も続々とハーミットへ向かっていく。リズとシリカもそれに続いた所で、唯一アスナは戦闘を外れ、フィールドの端で俺と同じく戦いを静観していた見知らぬプレイヤーの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いから一時離脱したアスナは、フィールドの端に佇んでいた1人のプレイヤーの元へ歩みを寄せていた。以前の秋葉原での戦いでも目にした彼の名は──

 

「あなた、KoB──《血盟騎士団》にいたノーチラス君……よね?」

 

《ノーチラス》と呼ばれた青年はチラリとアスナを一瞥すると、

 

「……その呼び方は止めてください。アスナさん」

 

 そう言って頭上のプレイヤータグを名刺代わりに見せてくる。そこにはランキング2位を示すナンバーと、《Eiji(エイジ)》という彼のプレイヤーネームが表記されていた。

 

「……随分やり込んでるのね、このゲーム」

 

「意外、とでも言いたげですね?──昔とは違いますよ。あなたも……随分角が取れたようで」

 

「そう……かしら?」

 

「ええ。昔は()()()、ね──」

 

 含みのある言葉を残したエイジは、ステージ上のユナへ視線を投げる。それを追ったアスナは、楽しげに歌声を奏でる少女の姿に奇妙な感覚を覚えた。まるで、積み重なった記憶の1欠片が一瞬光ったかのような……

 

「……そろそろか」

 

 ボス戦の残り時間3分──ボソリと零したエイジの呟きが引き金となったかのように、ユナは次なる曲を歌い始める。以前代々木で戦った際にも耳にした、どこかおどろおどろしく不穏な雰囲気を漂わせるメロディに、アスナが本能的な不安を覚えたのも束の間──転倒したハーミットに一斉攻撃を仕掛けようとしていたプレイヤー達の背後で、新たな出現エフェクトが発生した。

 

 エフェクトの中から現れたのは、両腕で抱えられる程の小さな身体に羽毛を生やしたドラゴン《フェザーリドラ》。SAOではレアエネミーとされていたモンスターだ。

 

「──ピナ!」

 

 SAO時代にテイムに成功して以降、ALOへデータを引き継いでからもシリカと共に冒険を繰り広げてきた《フェザーリドラ》の《ピナ》。相棒が助けに来てくれたのだと、シリカは嬉しそうに幼竜へ駆け寄る。しかし、幼竜は差し伸べられた手に対して明らかな警戒体勢を取っていた。いつもならシリカがこうして手を差し伸べれば嬉しそうに顔を摺り寄せてくるのだが……

 

「ピナ、どうしたの……?」

 

《フェザーリドラ》はレアモンスターでこそあるものの、フロアボスのように単一個体のみが存在しているわけではない。当然、ピナ以外の《フェザーリドラ》だって存在する。

 しかしSAO当時でも滅多に遭遇例が無かった事と、1年もシリカと連れ添っていた事。そして今やシリカだけでなく、キリトやリズ達にも懐いていた事が災いし、こういった時真っ先に浮かぶ至極単純な思考が抜け落ちてしまっていた。

 

 即ち──ここはSAOでもなければALOでもないのだから、ユイのような特殊な出自を持っていない《ピナ》が現れるはずがない、という事に。

 

 突如、幼竜の体が不気味な光を発したかと思えば、その体がみるみる巨大化していく。

 柔らかそうだった羽毛は消え失せ、ゴツゴツとした厳つく黒い鱗へ。2本に分かれていた細い尻尾は寄り集まって強靭な1本の尾となる。

 

 気付けば、《フェザーリドラ》の可愛らしさが見る影も無い巨大なドラゴン──本来なら旧アインクラッド()9()1()()で攻略組と戦うはずだった未知のフロアボス《ドルゼル・ザ・カオスドレイク》がシリカの前に立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どういうことだアレは……!?」

 

 2体目のボスの登場で混乱の一途を辿る戦場に、俺は小さく呻く。

 転倒状態から復帰したハーミットは未だ健在、事前にアスナ達がやってみせた事でおおよその戦い方は周知されたらしく、あちらは時間さえかければ倒せるだろうが……問題は新たに現れたあの巨大な黒龍だ。あんなボスは記憶に無い。

 この戦いの場に現れた以上、SAOのフロアボスである事は間違いないはずだが……まさか、未開のまま消え去った、75層より上のフロアのボスという事なのか。

 

 何にせよ、この状況は非常にマズい。あのドラゴンはどういうわけかシリカ1人だけを執拗に狙っており、タゲを引き剥がそうと銃装備のプレイヤーが攻撃を浴びせるも全く意に介していない。

 シリカとてALOでは今やクエストボスとも渡り合える実力者ではあるが、状況を把握し、戦いながら敵を観察、攻略法を導き出すというボス戦のセオリーには慣れきっていない節がある。そんな彼女が全くの初見であるあの恐ろしいドラゴンと単身で戦うのは厳しいと言わざるを得ないだろう。

 

 助けに向かおうにも、広場へ向かう階段には戦場へ向かおうとする者と逃げようとする者とが詰めかけ大混雑を起こしており、かき分けて通るにも時間がかかる。

 

 こういう時シノンが居てくれれば、ここからでも狙撃で援護出来たのだが……いや、この場にいない者のスキルを当てにするのは時間の無駄だ。今、自分に出来る事を考えろ!

 

「(ここから投擲で──いや無理だ、リアルの肉体でソードスキルも使えない以上、届く距離なんざたかが知れてる。他のプレイヤーと協力するにもこのパニックじゃ……!)」

 

 俺がアレコレと頭を捻っている間にも、あのドラゴンは好き放題暴れ回っている。ブレス攻撃をどうにか躱しながら逃げ惑うシリカは、不注意から別のプレイヤーとぶつかってしまった。もしかしたらシリカを助けてくれるかも──そんな俺の希望的観測は一瞬で裏切られた。

 

「なッ……!?」

 

 シリカとぶつかった男性プレイヤーは、あろう事か乱暴に彼女を突き飛ばしたのだ。倒れ込んだシリカの背後に、翼を広げた黒龍が襲いかかる──!

 

「シリカッ!」

 

「シリカちゃん──ッ!!」

 

 俺の叫びと同期するように、アスナがシリカの元へ走る。迎え撃つのは不可能と判断したのか、アスナはシリカを庇うように抱きしめた。

 黒龍の爪牙がアスナの背中を深々と斬り裂く──HP全損必至の大ダメージを受けた彼女が倒れる瞬間、何か小さな光が上空へ飛んでいったような気がした。

 

「アスナッ!……くそ──ッ!」

 

 こうなれば最終手段。と、俺は一瞬だけオーグマーを外す。O.Sに塗り替えられていない現実世界を確認してから、もう一度オーグマーを装着すると、俺は意を決して階段の突破を試みた。唯一人混みに塞がれていないルート──手摺に飛び乗って。

 表面が平たくなっている手摺を勢いのまま駆け下り、キリの良い所で飛び降りる。着地の衝撃でビリビリと痺れる両足に鞭打って、俺はアスナの元へ駆け出した。

 

「(まずはアイツを引き離す──ッ!)」

 

 握り締めた槍を引き絞り、奴の背後からダッシュの勢いを乗せた突きを繰り出す──がしかし、完璧な死角からの攻撃だったにも関わらず、奴は背中に目でもついているかのようなドンピシャのタイミングでヒラリと宙返りし、距離を取った。

 

 どうせなら一撃見舞ってやりたかった所ではあるが、奴を引き離すという目的は果たせたとして、俺はあの男を警戒しながらも後ろに庇ったアスナ達の様子を伺う。

 

「2人共怪我は!?」

 

「ミツキさん──私は大丈夫です!けど、アスナさんが……!」

 

 シリカに抱き抱えられたアスナは気を失っているのかグッタリとしており、目尻には涙の跡が見て取れた。

 

「アスナ、大丈夫かッ──!?」

 

 そこへ、どうやらあちらも戦いを見守っていたらしいキリトも合流。アスナ達の事はキリトに任せ、俺は前方の男へ注意を向ける。

 

「お前、彼女に一体何をした……ッ!?」

 

「おやおや、《裂槍》に《黒の剣士》……2人の英雄が揃い踏みですか」

 

「ッ……そういうお前もSAO生還者か」

 

《裂槍》及び《黒の剣士》という名前自体は、最近出版された《SAO事件記録全集》という本でSAOクリアの英雄として語られているが、その名前と俺達を直接的に結びつけるものはない。

 即ち、この男は俺達と同じくあの世界に閉じ込められ、ともすればこちらの顔を知っているということだ。

 

「質問に答えろッ!アスナに何を──ッ!?」

 

 奴に詰め寄ろうとしたキリトだが、逆に腰から抜いた剣を喉元に突きつけられてしまう。……驚くべき速さだ。油断していたつもりは無かったが、柄に手を置いてから抜刀するまでの動きが殆ど見えなかった。

 

「ッ──!」

 

 気圧されたのも一瞬。俺は奴の剣──それを握る手を弾き上げようとするが、それも容易く躱されてしまう。

 

「フン、他愛ないな……VRでは最強の英雄も、ARではこんなものか。団長ヒースクリフ──茅場晶彦を倒した伝説が泣くぞ」

 

「何だと……!?」

 

 歯噛みするキリト。そこへ空から複数の火球が降り注いだ──俺達とあの男とを隔てるかのように立ち塞がった黒龍は、威嚇するように咆哮を轟かせる。こうなれば戦うしかないかと、俺とキリトが武器を構えようとした瞬間──響き渡る歌声がピタリと止んだ。

 

 

『ざぁーんねーん!時間切れ~!』

 

 

 その声にタイマーを見やれば、10分あった時間がゼロになっていた。ユナがパチンと指を鳴らすと、暴虐の限りを尽くした黒龍は飛び去り、多数のプレイヤーに包囲されながらもまだ生き残っていたハーミットも姿を消す。

 

 他のプレイヤー達はボス戦で獲得できるボーナスポイント欲しさに、飛び去る黒龍を追って行き──気付けば、あの男も姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、広場は静けさを取り戻す。一先ず俺とキリトで肩を貸し、目を覚ましたアスナを手近な階段に座らせた。

 

「アスナ、大丈夫?」

 

「うん……ありがとう」

 

「ごめんなさい。私がヘマしちゃったせいで……」

 

「ヘマってあんた、あのランク2位の奴に突き飛ばされてたでしょ。ほんっと、何なのアイツ!?」

 

「わ、私は大丈夫だよ……シリカちゃんが無事で良かった──ミツキ君とキリト君も、来てくれてありがとね」

 

「もっと早く来れれば良かったんだけどな……取り敢えず、怪我は無いようで良かった。ただでさえクラインの件もある」

 

「そうだな。アイツがクライン達に怪我をさせた張本人、って訳じゃないだろうけど……でも、ああいう手合いが出た以上、今後もボス戦に参加するなら気をつけるべきだろうな。せめて、俺かミツキが付いてた方が……」

 

「お、大袈裟だよ……それよりほら、遅くなっちゃうし、もう帰ろ」

 

 アスナはこのままキリトがバイクで送る事にし、俺もシリカとリズを駅まで送ってから家路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜──俺は夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──連撃技が肌に合わない?」

 

「ええ。我ながら何を今更、という話ではありますが……連撃技を使おうとすると、どうも体に変な力が入ってしまうのです」

 

 2023年、浮遊城アインクラッド第10層のNPCレストラン──珍しく食事を奢るとアリスに誘われた俺は、ふとそんな相談を受けた。

 アリスはシステム外スキルによるソードスキルの威力ブーストを無意識下で行っていた才女だが、片手剣スキルの熟練度が上がるに連れて習得出来る連撃技──特に5連撃のボーダーを超えると、妙に体が緊張して上手くブーストが掛からないらしい。

 要らぬ緊張は下手すればスキルの中断にも繋がり、ともすれば命の危険にも発展しかねない。何かいい解決策はないか、というのが本題のようだ。

 

「んー……単発技は問題ないんだよな?」

 

「はい。《バーチカル》や《スラント》、《ソニックリープ》は寧ろ益々磨きが掛かっていると自負しています。《バーチカル・スクエア》は……暫く前、ようやく単発技と同じ調子で繰り出せるようになったばかりですが」

 

「ふむ……もしかしたら、アリスのリアルに関係してるのかもな。習い事とかで剣の覚えがあって、そこでは基本単発技しか使ってなかった──とか。長く続けてれば、仮想世界のアバターになっても体に動きが染み付いてる事だってあるだろうし」

 

「そういう事、なのでしょうか……確かに、そう考えれば辻褄は合いますが」

 

 実際、片手剣の連撃技は体をクルクルと回しながら斬撃を繰り出す物が多い。4連撃の《バーチカル・スクエア》や《ホリゾンタル・スクエア》はその筆頭で、しっかり地に足つけて一撃を繰り出す単発技と比べ、威力ブーストをかけるのに多少の慣れが要る、というのは俺やキリトもベータテスト時代に味わった。

 

「ぶっちゃけた話、単発技だけでも十分戦っていけると思うけどな。攻撃力は武器のパラメータでも変わるんだし」

 

「そうと分かってはいるのです。しかし、この先フロアボスとの戦いも激化が予想されます。対モンスターとの戦いに於いて、連撃技の齎す利はお前とてよく分かっているでしょう」

 

 連撃技のメリットは単にその威力だ。単発技を例にしても、ただの縦斬りと《バーチカル》では与えるダメージに雲泥の差がつく。それを複数回連続で叩き込むとあれば、与ダメージ量は凄まじいものとなるのは道理というもの。

 特にフロアボス戦に於いては、ボスが見せた隙にどれ程の大ダメージを叩き込めるかというのがミソだ。当然、単発技よりも連撃技、半端なブーストより完璧なブーストの方がより大ダメージを見込める。

 

「うーん……まぁ対策って程良いものじゃないけど、何とかなるかもしれない方法も、あるにはある。正直、危ないから気が進まないんだが」

 

「お願いします。お前だけが頼りなのです」

 

 そう言って深々と頭まで下げられては、こちらとしても無碍には出来ない。テーブルに並んだ料理最後の一口を食べ終えた俺は、アリスを伴って適当な下層フロアへ向かった。

 

 手頃な強さのMobが湧くフィールドで、まずはアリスに連撃技をいくつか披露してもらう。

 見た所、3連撃技《シャープネイル》辺りまでは単発技と遜色ないレベルで威力ブーストもしっかり掛けられている。4連撃《バーチカル・スクエア》を披露した辺りでブーストの質が少しだけ揺らぎを見せるが、まだ許容範囲内。続く5連撃のソードスキルは──

 

「……なる程な。確かに不安定だ」

 

「今見た通りです──それで、先程お前が言っていた方法というのは?」

 

「うん。アリス、試しに《シャープネイル》を使ってみてくれ。ただし──ブーストを掛けるのは最後の1撃だけだ」

 

 俺が何を言ってるのかまだ理解できていない様子のアリスだが、素直に指示に従い、剣を構える。

 

 ライトエフェクトを纏った刀身が閃く──左上から垂直斬り、その右側を垂直斬り上げ、そして──

 

「──やぁッ!」

 

 締めとなる垂直斬りは、前の2撃より強く空気を揺るがした──上手く出来たようだ。

 

「よし、じゃあ次は1撃目だけをブーストだ」

 

 これもアリスはクリア。更に2撃目のみのブーストも難なくこなしてみせた。

 

「ミツキ、先程からやっているコレは一体どのような意味が……?」

 

「まぁまぁ。論より証拠、習うより慣れろ、だ。これで最後──3連撃全て、()()()()()()()()()()()ブーストを掛けてみろ」

 

「……なる程、そういう事ですか──やってみましょう」

 

 アリスは手近な木に向かい剣を構え、何度目かの《シャープネイル》を繰り出す。アリスの剣は、力強く唸りながら獣の爪のような3本の軌跡を描いた。

 

「どうだ?」

 

「……不可能、という訳ではありませんが。正直、難しい部分もあります」

 

「ま、だろうな。正直な話、俺もアリスがぶっつけで出来るとは思ってなかった──でも出来たって事は、やっぱり才能があるってことだ」

 

 俺が提示したアリスの悩みの解決法──それは、威力ブーストをかけるタイミングを斬撃の瞬間のみに限定し、繋ぎの動作はシステムアシストに任せる。というものだ。

 

 俺の主観だが、アリスは連撃技であっても《シャープネイル》のようなしっかり地に足つけて繰り出す技には完璧に威力ブーストを掛けられている。5連撃技でそれが揺らいだのは、体をクルクルと回しながら剣を振るう動作に体が慣れておらず、システムアシストの動きにちゃんとついていけていないのが原因だろう。

 無理に動こうとしてアシストを妨害してしまうならば、ダメージを与える瞬間のみ威力ブーストを掛ければいい──理論上はこれで行けるが、実際やろうとするととんでもなく難しい。ただでさえソードスキルは並外れたスピードで繰り出されるのだ。その中から命中する瞬間──厳密には、命中する直前且つ十分な威力ブーストを乗せるに足るだけの猶予を持たせた刹那を捕まえるというのは最早神業の領域と言える。

 

 そんな、自分で言っておきながら「出来るわけない」とすら思っていた神業を、アリスは初見でやってのけた。改めて、彼女の持つ剣の才能に戦慄を覚えずにいられない。

 

「分かってると思うけど、コレは失敗したら命取りと思っていい諸刃の剣だ。だから、無意識下でも同じ事が出来るようになるまで、実戦では使わないようにな」

 

「それが懸命ですね。それにしても……」

 

「……何だよ?」

 

 剣を収めたアリスは、ふと俺の顔をまじまじと見つめてくる。美しいサファイアの瞳に吸い込まれそうになった俺は、思わず目を逸らした。

 

「……改めて、お前の頭の中身はどうなっているのかと気になりまして」

 

「……え、俺今サラッとディスられた?」

 

「でぃす……?ともかく、今のは一応褒め言葉のつもりですよ。お前の発想力に驚かされたという事です」

 

「あ、ああ……なら素直にそう言ってくれ。てっきりアリスが猟奇的な好奇心にでも目覚めたのかと……」

 

「なっ……お前は私を何だと思っているのですか……!?大体、この体は本物の肉体ではないのですから、頭を開いた所で何も出てこない事くらい分かっているでしょう」

 

「……いや、でもどうなんだろうな。案外バーチャル脳みそ的なオブジェクトが入ってたりするのかも──って、なんだよ!?」

 

 突如、アリスは鬼気迫る様子で俺の肩をガッシリと掴んできた。

 

「お、お前がそういう事を言うと冗談に聞こえません!まさか確認してみよう、等と言わないでしょうね……!?」

 

「と、当然だろ!ンな事したらHP全損確定だっての!アリスの方こそ、俺を何だと思ってるんだか──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ふと、微睡みから目を覚ます。寝ぼけ眼を瞬かせながら時計を見やれば、午前6時という早朝だった。

 

「(……随分ピンポイントな夢を見たな……もう2年前か……)」

 

 アリスと出会ってからもう3年も経ってしまったのだと、そう考えると胸の奥にチクリとした痛みが走る。アインクラッドで共に過ごした2年と、彼女と共有出来ていたかもしれない1年。どちらが幸せだったかと問われれば、その答えは決まっている。

 

「(俺は──)」

 

 ──俺は、あの世界に戻りたがっているのかもしれない。

 

 もう一度あの世界に戻れば、そこに彼女がいるのではないかと、期待しているのかもしれない。

 

「(アリス……俺、君に渡したいものがあるんだ。君の為に……作ったんだ──)」

 

 生み出してから一度として日の目を見ていない、自分だけが知っている剣──交わした約束を、何があっても忘れないようにと生み出した、彼女に渡すことで完成する、証の技。

 

「(きっと……綺麗だろう、な──)」

 

 声にならない声を残し、俺の意識は再び微睡みへと沈んでいった。

 




因みにこのドルゼル、現在発売中のSAOFDではレイドバトルで、そしてアプリゲームのインテグラルファクターではちゃんとメインストーリーのフロアボスとして登場します。IFの91層編はストーリー凝ってて良かったですね。
ただ、何故劇場版では最初にフェザーリドラの姿で出てきたのか結局不明のままという。
(ゲームのストーリーでもフェザーリドラに化けてる~みたいなのは確か無かったはず…私が忘れてるだけかもですが)
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