正直な所「キャラバリを出すにはちと早くない?」と思う部分もありますが…でも嬉しい!
イラスト自体は原作及びVSなんかで既に出ていましたが、動くのは今回が初なんです!そう、動くんですよ!猫耳がピコピコしたりするのかなー!全身絵見たらシリカやシノンより尻尾がモフモフでまぁ可愛いのなんの。
ALOの武器で戦う以上、技もガラリと変わるでしょうし、何ならロールごと変わる可能性もある…?ワンチャン初出のソードスキルとか拝めますかね?正直資料的に見てもかなりありがたかったりします。その点では初の槍キャラであるサチの実装も嬉しいですね。
六本木での戦いを終え、ミトを送り届けた後。自宅に戻った俺は、携帯にシノンからのメッセージが来ていることに気付いた。
シノン
《ボス戦、終わったわよ。私もキリトも無事。キリトが何か手掛かりを掴んだみたい。大岡山の東都工業大学に何かあるかも、って》
ミツキ
《2人とも無事で何よりだ。東工大か…俺の方でも少し調べてみる。改めて助かった。ありがとう》
シノン
《約束、忘れないでよね。おやすみなさい》
デスクに向かい、PCで東都工業大学に関して検索をかける。手始めにHPを見てみると──
「重村徹大教授……オーグマーの開発者か」
今をときめく人気デバイスの開発者というだけあり、ホーム画面にでかでかとトピックが載っていた。なる程、確かに彼ならば何か知っている可能性は高い。
とはいえ、あちらは現役の大学教授だ。オーグマーの人気も手伝い、学生でもない俺が会おうと思って簡単に会えるような人物じゃない。正攻法ではない、何か裏口的手段を用いる他ないが……
「………」
少し考えた俺は、携帯からとある人物へメールを送る。本文には「頼みたい事がある。貯まった借りを少しは返せ」と打ち込んだ。
翌日──丁度学校の創立記念日ということで、俺は朝からバイクで平日の道路を走っていた。
駐輪場に乗り付けると、見覚えのある姿を見つけ、そのすぐ横にバイクを停める。
「──よ、ミツキ」
「もう来てたのか」
「個人的に興味もあったからな、ここの大学。──にしても、菊岡からミツキも一緒に行くって聞いた時は驚いたよ。どこからここの事聞いたんだ?」
どうやらシノンは俺に頼まれてキリトと一緒にボス戦へ臨んだ旨を明かしていなかったらしい。それならそれで好都合。今後シノンを警戒されても困る為、情報源は伏せておく事に。
「悪いが守秘義務があるんでな──お前の方こそ、何でここに?」
「ランク2位の《エイジ》ってプレイヤー、いたろ?どうやらアイツ、ここの大学に通ってるらしいんだ。しかもオーグマー開発者である重村教授の研究室にいた。流石に何かあるだろうって思ってな」
「なる程な……それはそうと、あれからアスナの様子はどうだ?」
「あぁ……特に変わった事はないよ……少なくとも、今の所は」
「そうか……何か収穫があればいいが」
「──それで、話というのは何かね?」
場所は変わり、学内にある研究室──俺達はそこの主である重村徹大教授と対面していた。
「単刀直入に伺います。O.Sランク2位のエイジというプレイヤーを知っていますか?」
そう言いながら、キリトがテーブルに1枚の写真を差し出す。そこには在りし日の彼が、教授と共に写真に写っていた。
「さぁ……」
「あなたの研究室にいたはずですが」
「学生は、沢山いるからね……」
シラを切っているのか、本当に覚えていないのか……どちらにせよ、エイジ本人との関連性から探りを入れるのは難しそうだと判断したらしいキリトは、別方向からのアプローチを試みる。
「……では、オーグマーを使用したSAO生還者が記憶障害を起こす事件が発生している事はご存知ですか?オーグマーには、ユーザーに明かしていない、装着者の記憶をスキャンする機能があるのではないですか?既に俺の知り合いが2人、当時の記憶を失っています」
「総務省の菊岡君の話では、『ゼミを見学したい』との事だったが──」
話を逸らそうとする教授を逃すまいと、キリトはすかさず追撃する。
「オーグマーにイレギュラーな機能が搭載されている事は、詳しく調べればすぐにわかります。それが明るみに出れば、オーグマーもナーヴギアのように葬られることになる──あなたも、あなたの生徒だった茅場晶彦と同じ道を往くつもりですか……!?」
そう……何の因果か、ここ重村研究室は俺達にとっても因縁深い者達がかつて所属していた場所でもあった。即ち──茅場晶彦と須郷伸之である。
あの
「……さっきから、一体何の事かね──仮に、その記憶スキャニングとやらが可能であり、SAO生還者達が当時の記憶を失っているのも事実だとして、だ。それに何の問題があるのかな」
「な……他者の記憶を強制的に奪っているんですよ!?問題無いわけ──」
「『忘却はより良い前進を生む』という言葉もある──全ての生還者は、あの恐ろしい過去を忘れたいと願っているのではないかな?」
「あなたは──ッ!」
語気を強め、立ち上がろうとするキリトを、俺は手で制する。今度は俺が口を開いた。
「なる程。確かに一理あります。事実として、SAOでの記憶が根を張ってVRゲームをプレイ出来ない、仮想世界に対して本能的な拒否反応を示す生還者も存在していますから」
「理解してもらえたなら何よりだ。さて──」
「──しかし。些か見識が狭い、と言わざるを得ません。確かにあの世界での記憶の中には、いっそ忘れてしまえば楽になれる辛いものもある……でもそれだけじゃない。あの世界で手に入れたもの、あの世界でなくては手に入らなかったものだって存在するんです。被害に遭った生還者達は、恐ろしい記憶以上に、楽しかった記憶、忘れたくない記憶まで一緒に失っているのだという事を──それは必ずしも幸せではないという事を、くれぐれも忘れないでください」
努めて冷静に告げた俺の言葉、それを聞いた教授の目に、微かな感情の揺らぎが見えたような気がした。
「……ふむ、覚えておこう。話は終わりかね?なら、ここまでにしてもらう。何分、私も多忙な身でね──次は、正式なアポを取ってくれたまえ。尤も……私の予定が空いているとは限らないが」
言外に「もう二度と会う事はない」と宣告された俺達は、これ以上の問答は無意味と悟り、大人しく引き揚げる──応接室を出る際、出入り口の横に雑多に積まれたガジェット類が、妙に目を引いた。
教授との対面を終えた俺達は、大学敷地内の片隅で、菊岡に事の次第を報告していた。そのついでというわけではないが、キリトは菊岡にとある事を調べて欲しいと頼む。
『──確かに、重村教授には娘さんがいる……しかし2年前に亡くなってしまっているんだ──今、ミツキ君の方に画像を送ったよ』
俺の端末の画面に表示されたのは、学校のアルバムと思しき1人の少女の顔写真──名前は「重村悠那」とあった。先程重村教授のデスクに同一人物の写真が飾ってあった、とキリトは語る。
「2年前……菊岡さん、彼女は……」
『……ああ。察しの通り、死因はナーヴギアによるもの──彼女もSAO事件の被害者だよ』
「どういう事だ……何の為にこんな──」
呻くキリトの横で、思考を巡らせる──SAOによって娘を喪ったという事実は、教授と今回の件を結びつける導線足り得るのは間違いない。しかしキリトの言う通り、SAO生還者から記憶を奪う行為の真意は依然として不可解なまま。
彼自身が言っていた、SAO生還者達が恐ろしい記憶を忘れて未来を歩む為、という動機は尤もらしいが、その根底にあるものが娘の死……というのも現状こじつけ感が否めない。
「依然情報不足、か……」
「……とにかく、オーグマーに何か危険な機能が仕込まれてる可能性は高いんだ。菊岡さん、あんたの力でサービスを停止させられないのか?」
『こちらでも解析は進めているけど、相手は経産省も絡んだビッグプロジェクトだからね……確たる証拠が無い以上、慎重にならざるを得ない。少し時間がかかりそうだ』
「O.SのプレイヤーにはSAO生還者も多い。このまま旧SAOボスと戦う奴が増えれば、記憶を奪われるケースも……!」
『分かってる、最大限の努力をするよ──キリト君とミツキ君も、これ以上ボスと戦うのは止めた方がいい。君達の記憶まで無くなってしまったら大変だからね』
「──さっきはありがとな。止めてくれて」
通話を終え、駐輪場へ向かう道すがら、ふとキリトがそんな事を言い出した。
「気にするな。あんな事言われちゃ、ああもなる」
「……気を悪くしないで欲しいんだけど、正直意外だったよ。その……お前は俺なんか比じゃないくらいに怒ると思った──なんなら菊岡とか俺の時みたいに手が出るんじゃないかって」
「……俺だってその程度は弁えてるさ。それにお前の言う通り、殴るまでは行かなくても、内心胸ぐらを掴みそうになってたのが正直な所だし……お前が怒ってくれたお陰で頭が冷えた部分もある。礼を言うのはこっちだ」
「そうか…──っと、悪い」
不意にキリトの携帯が振動する。どうやらアスナからだったらしく、キリトはこのままアスナに会いに行く事に。俺もどうかと誘われたが、丁重に遠慮した。
「じゃあ、また今度な。ミツキ」
「ああ。アスナによろしく」
バイクで走り去っていくキリトを見送り、俺もヘルメットを被ろうとしたその時──視線の延長線上、建物の陰からこちらを見ている人物がいるのに気付く。
「あいつは……!」
あちらも俺の反応に気付いたのか、敷地の奥へ姿を消す。俺はグローブを外す時間すら惜しいとばかりに、後を追った。
人気の少ない建物の裏手──そこで俺は、追っていた人物と対面する。
「──数日ぶりですね。まさかあなたや《黒の剣士》がここに来るとは、正直予想外でしたよ……改めてご挨拶を。英雄の片割れ、《裂槍》さん。僕は──」
「O.Sランキング2位の《エイジ》──それとも《ノーチラス》と呼んだ方がいいか?」
俺の言葉に、奴──エイジが小さく反応する。
事前にキリトから聞いていた話だ。彼はSAO当時、《ノーチラス》という名でKoBに所属していた。腕は良かったそうだが、最前線で戦うにあたって死の恐怖を克服できず、ある時期を境にギルドを脱退してしまったのだという。
「……どうぞ《エイジ》と──僕の事をご存知なら手間が省けて助かります。あなたには聞きたい事もありますし」
「……奇遇だな、俺もだよ」
数秒間、真っ向から睨み合う。先に口を開いたのはエイジだった。
「単刀直入にお聞きします。あの人は──《姫騎士》さんはどこですか?」
「……!」
先程とは逆に、今度は俺の体に緊張が走った。
「……どういう意味だ」
「ここ数日間、何度かあなた方の戦いを拝見しました。しかしその中で、一度として彼女の姿を見ていない。昨日の六本木でも、あなたは別のプレイヤーと組んでいたようですし……まさかとは思いますが──」
「ッ……!」
それ以上言葉を続けるのは許さないとばかりに、俺はエイジに向かって踏み出す。それを奴は手で制してきた。
「そう怖い顔をしないでください。言ったでしょう、聞きたい事があるだけだと──ここであなたと戦う気はありませんし、戦った所で僕には勝てない。……とはいえ、流石にズカズカと踏み入り過ぎたことは謝ります」
小さく頭を下げたエイジに困惑を隠せないでいると、エイジは言葉を続ける。
「ともかく、状況は概ね把握しました。そこでもう1つ、本題の質問です──」
奴は真剣な眼差しで俺を真っ直ぐ見据え、こう言った。
「──もし、彼女に……《姫騎士》アリスにもう一度会える。と言ったら?」
すっかり日も落ち、夜が空を包んだ頃──俺は本日行われるボス戦の場所である明治神宮を訪れていた。
丸い砂利が敷き詰められた無人の参道を声もなく歩く。その脳裏では、先刻のエイジとのやり取りを何度もリピートしていた。
──重村悠那を、生き返らせる……!?
──えぇ。SAO生還者達の記憶から彼女の情報を抽出、結合する事で、
──そんな事、出来るわけが……。
──教授はあの茅場晶彦を育てた天才。不可能ではありません。事実、計画完遂までのロードマップは既に組み上がっています。
──……何故、俺に話した。
──先程言った通りですよ。僕らの計画に協力するのであれば、集めた生還者達の記憶から《姫騎士》さんを蘇らせることも可能です。彼女程の有名人なら、悠那よりも容易に必要分の記憶の欠片を集められるでしょう。あなたにとっても、悪い話ではないはずだ。
──……少し、考えさせてくれ。
──いいでしょう。今日行われるボス戦が終わったら、改めてご連絡します。あぁそれと……あなたが僕の提案を受けるにせよ蹴るにせよ、ランキングは少しでも上げておく事をお勧めしますよ。後々必要になるでしょうからね。
「(今日の戦いが終わったら、答えを出さなきゃならない。受け入れれば、他の生還者……アスナやクラインだけじゃなく、キリト達の記憶まで──断れば、恐らくアリスに会う事は、もう……)」
そこまで考えて、ハッとなった俺は頭を振る。
一体何を考えているのだ。アリスはきっと生きてる、奴の提案に乗らずとも──乗らず、とも……
奴の助けなど借りなくたって、きっとアリスを見つけ出してみせる──そう断言出来ない自分に、ほとほと嫌気が差す。
……ここに来てやっとなのだ。ようやく、明確に彼女に繋がる標が見えた。例えそれが悪の道なのだとしても、その先に彼女との再会が待っていると知った以上、俺はその道を捨て去ることが出来ない。
だが一方で、何も考えずに突き進む事もまた出来ない。その道を通る為に払う代償は、俺にとって余りにも大き過ぎるものだから──俺と共に戦ってきた皆から、俺を気遣い、支え、信じ、見守ってくれた皆から、あの頃の記憶を奪う事の罪深さが俺に二の足を踏ませる。
「(俺……おれ、は──)」
暗がりの中、視界が不明瞭になっていく。呼吸が荒くなり、視界がぐるぐると回り始める。回っているのは俺か、世界か。平衡感覚が薄れていく。俺は今立っているのか、座っているのか、寝ているのか。
俺は今──ドコにいるのか。
「っ……?」
気付けば、辺りは薄明るくなっていた。足元は砂利ではなく、綺麗に舗装された石タイルに。辺りに茂っていた背の高い並木は消え去り、いくつもの花々が植えられた花壇が広がる。そして──差し込んだ朝日に照らされた俺の装いは、いつの間にかO.Sのものへと変わっていた。
「……この朝日、どこかで……」
格好からして、ここが現実ではない──夢か、或いは仮想世界ないしAR技術によって塗り替えられた世界だということは分かる。しかし辺りを照らすこの陽光は、妙に俺の記憶を擽った。
やがて陽の光はどんどん広がって行き、前方にとあるものを浮かび上がらせた。石ともレンガともつかない、それでいて周囲の風景に溶け込んだ、全体を余す所なく紅に染め上げられた巨大な建造物──俺はかつて、これと同じものを遠目ながらも見たことがある。
「《紅玉宮》……ここは、アインクラッドなのか……?」
戻ってきたのか?だとするなら──思わず足を速めて真紅の宮殿に立ち入ろうとする俺だったが、その道中、小さな橋の上に佇む1人の少女が目に入った。
全体的に白を基調とした装い、以前会った時と違いフードは脱いでおり、その下に隠れていた純白の髪が露わになっている。
「……君は……重村悠那、だな。何故ここに──いや、君がこの光景を作り出したのか?それとも、俺が夢でも見ているだけなのか?」
橋の上から眼下を流れる小川をジッと見つめる悠那と思しき少女は、儚げな表情はそのままに口を開く。
「……夢も仮想世界も、そう変わらないよ。目が覚めれば、泡沫の記憶になるだけ──もしかしたら、あなたが今まで過ごしてきた時間も全部夢かもしれないよ。デスゲームをクリアした事も、現実世界に帰ってきたのも、全部夢。目が覚めたら、まだアインクラッドの中にいるのかもしれない……そう思った事は無い?」
唐突な少女の問いに、俺は少し考えてから答えた。
「……ああ、あるよ。思った事もあるし……そうであって欲しいと望んだ事も、ある」
「……そっか。それでも、あなたはここまで来たんだね。迷いながら、手探りのまま──
「そうだな……正直、自分でも困ってる。俺は、俺自身をどうしたいのか、どうなって欲しいのか、未だにハッキリしない──いや、違うな。求める姿も、求める未来もハッキリしているけど、それを追いかけられるだけの力が、俺には無いんだ。それを自覚していながら、ずっと後ろ髪を引かれ続けてる……もう諦めろと言う自分と、それでも諦めたくない自分がいるんだ」
人生というものはとても理不尽で、残酷だ。先に進みたければ、抱える中から何かを手放すことを強いてくる。最初の内は問題なくても、やがては残った「大事なもの」の中から選べと言ってくる。どれも等しく大切なものなのに、そこに優先順位を付けて切り捨てることを強いてくる。
俺はその決断をひたすら先延ばしにしているのだ。残った2つの宝物、そのどちらかを手放せと言ってくる理不尽な存在を前に、2つとも捨てずに済む道が現れる事を期待して、立ち止まり、抗い続けている。しかし力尽くで跳ね除けることも出来ないから、引き伸ばす代償として、俺は自分の「心」を支払ってきた──それも限界を迎え、今こうして再び、決断を迫られているというわけだ。
「……良かった」
「……何がだ?」
「あの世界を終わらせた英雄が2人いた事──その片割れがあなただった事。……ミツキ、あなたに1つ、お願いがあるの」
「お願い……?」
「エーくんを──エイジ君を、救ってあげて欲しい」
エイジを──今回の件の首謀者と言っていい彼を、救って欲しい。
普通なら何を馬鹿な、と切って捨てる所だ。あの男は仲間を傷つけ、他の生還者達から当時の記憶を無理矢理奪ったのだから。しかし……
「……何故、俺に?その口ぶりじゃ、キリトにも協力を仰いでるんじゃないのか」
「うん。確かに事態を解決するだけなら彼1人でも不可能ではないと思う。けど……《黒の剣士》じゃ多分、エーくんの心までは救えない。だから、あなたに頼みたいの──同じ道を歩んできた《
「……君の望む結果になる保証はないぞ。そもそも、俺に救えるかどうかすら分からない」
「分かってる。でも私は信じる。あなたならきっと、彼を救ってくれる。その代わり、ってわけじゃないけど、私から1つだけアドバイスをあげるわ──」
「──ハッ!?」
弾かれたように目を覚ますと、そこは少し前まで歩いていた参道だった。美しい朝日も、聳え立つ紅き宮殿も無い。そんな中で俺はというと、参道脇の生垣に埋もれるようにして倒れていたようだ。
「今のは……夢、じゃないよな……?」
付けていたオーグマーを一旦外してみる。当然ながら、特に変わった所は見られない。やはり夢だったのか……そう思った所で、脳裏に少女の声が蘇った。
──手放したくないのなら諦めちゃダメ。あなたの中にある宝物の奥、1番大事なものを探して。
「1番、大事なもの……」
自分の胸の内を探りながら、俺は戦いの舞台である宝物殿広場へ急ぐのだった。
「──じゃあ、そっちも気をつけろよッ!」
「ああ、分かってる──!」
エイジに対抗すべくランキングを上げようと、こちらも明治神宮を訪れていたらしいキリトと共にボスを撃破した俺は、互いの無事と健闘を祈って二手に別れた。バイクに飛び乗り、携帯に表示したマップ情報を頼りに、全20箇所に出現したボスの中から次のポイントを目指す。
「──次!」
果たして俺はどうするべきなのか。
「──次ッ!」
俺の中にある1番大事なものとは何だ?
「──次ッ!!」
1番大事なもの。何に代えても守り抜きたいもの。
「ッ……うぉああああああ──ッ!!!」
全力の気勢と共に振り抜いた槍が、食虫植物型のボスを深々と斬り裂く。一瞬の間を置いて、ボスの体は花火のように弾け飛び、消えていった。
「はぁ……はぁ……ッ」
大学で話した際、エイジから渡されたマップを確認する。どうやら各地のボス戦の状況がリアルタイムで表示されるらしく、点っていた最後の光点が、たった今消失した。
場所は今俺がいる港区の芝浦中央公園と程近い竹芝ふ頭──恐らく、キリトが倒したということだろう。
果たしてボスは何体倒したか……5体を越えた辺りから数えるのを忘れていたが、ギリギリ5桁を切る程度だった俺のランキングが6位まで上がっているあたり、相当数は倒せたようだ。
武器を収めた所でメッセージを受信、エイジからだ。
今どこにいるのかを聞かれ、答える。程なくして来た返信には、浜松町で合流する旨が記されていた。
「──ボスに負けるような無様を晒していなかったようで安心しましたよ。ランキングも見違える程上がったようで、流石は英雄、といった所ですか」
浜松町駅前のファストフード店。カウンター席の隅に腰を下ろしたエイジは、手元に2つあるコーヒーカップの片方を差し出してくる。
「ご心配なく、僕の奢りです。毒も薬も入っていませんよ──雑談はこの辺にして、回答を伺いましょうか」
隣の席に腰を下ろす。少しぬるくなったコーヒーを一口飲んでから、俺は、
「……もう一度聞く。何故、俺に計画の事を話した。情報をリークされるとは考えなかったのか。証拠さえあれば、警察機関はすぐにでもお前達の逮捕に乗り出すぞ」
「何か裏がある、と?当然の事ながら、信用がありませんね──今回、あなたに計画の事をお話したのは完全な僕の独断です。教授には何も言っていません」
「何……ッ?」
「リスクのことなら当然考えましたよ。しかし、それを加味した上であなたに詳細を明かした……この意味を、よくよく考えて頂きたい」
「どうしてそこまでする?お前にとって、彼女は何なんだ」
俺の問いに、エイジは暫し沈黙する。
「……あなたは、FNC──《フルダイブ不適合》という症状をご存知ですか?」
「……あぁ、知ってる」
「悠那は僕の幼馴染でした。そしてそんな彼女をSAOに誘ったのは、他でもない僕だった。デスゲームが始まり、僕は彼女を無事元の世界へ返す為に強くなろうとした。少しずつでも、着実にレベルを上げて、最強ギルドのKoBに入団する所まで行った……しかし、ギルドの仲間と共に最前線のダンジョンに潜った時──仲間のピンチに、僕のアバターは突然動かなくなってしまったんです。どれだけ動けと念じても、足が竦んで動けなかった」
フルダイブ不適合の症状は人によって様々あり、エイジの場合、本人の意思とは関係なしに、脳から発せられる生存本能による反射的命令をナーヴギアが過剰に拾ってしまうものだったらしい。
仲間が危険な状況に置かれ、助けに行きたい。しかし助けに行けば自身も危険に晒され、最悪死んでしまう。よって動くべきではない──FNCによって後者の命令がアバターへ強く伝達されてしまい、エイジは入団して間も無く、前線攻略を担当する1軍からドロップアウトした。
これがFNCによるものだと判明していたなら、或いは克服する道もあっただろう。
しかし当時の彼はそんな事を知る由もなく、肝心な時に足が竦んでしまう状況を、恐怖に負けてしまう己の弱さ故だと考え、レベリングに邁進する日々を送り続けた。誰よりもあの世界に精通していたあの男──KoB団長ヒースクリフならば、道を示す事も出来ただろうが……自分で集めておきながら、奴はドロップアウトした団員の事など歯牙にも掛けなかったのは想像に難くない。
それでも、愚直に努力を続けるエイジを──ノーチラスを傍で支えてくれたのが
「別に英雄になりたかった訳じゃない。ただ彼女の事を守れればそれで良かった……それだけで、良かったんだ……ッ」
今から2年前──ノーチラスはユナと共に当時の最前線である40層のダンジョントラップに閉じ込められてしまった他のプレイヤーを助けに向かった。
しかしダンジョンの攻略経験が少ないメンバーが多かったことが災いし、救援隊の数人が麻痺攻撃を受け、あわやミイラ取りがミイラ状態になってしまう危機的状況に陥ってしまう。大量のモンスターが押し寄せてくる中、ユナは単身でモンスターのヘイトを自身に集中させ、皆を救う。ダンジョンを支配していたボスは撃破し、閉じ込められていたプレイヤーも無事救出出来たが──ユナの命という、ノーチラスにとっては余りにも重すぎる代償を払う結果になったのだった。
「あの時も、僕は動けなかった……っ……目の前でユナが──大切な人が殺されていくのを、何もっ……ただ見ている事しか、出来なかったんだ……ッ!」
エイジは組んだ両手をキツく握り締める。かける言葉を探していた俺を他所に、彼はふぅ、と溜め込んだ息を吐き出した。
「──長話に付き合わせましたね。私事ですので、お気になさらず」
エイジはポケットから手の平サイズの小型デバイスを取り出し、カウンターに置く。
「デバイスのスイッチを入れた状態でプレイヤーをキルすれば、スキャンした記憶情報を保存、僕達の元へ送信出来ます──あなたの手で、《黒の剣士》の首を取ってきて下さい。その結果を以て、協力の是非を確かめましょう」
それだけ言い残して去っていく。どこか寂しさを漂わせるその背中を、俺は無言で見送ることしか出来なかった。
「………」
エイジの抱えるものは分かった。自分の弱さ──蓋を開ければ、自分ではどうする事も出来なかった理不尽な枷によって、大切な人を喪った。
彼にとって悠那は、俺にとってのアリスだったのだ。それを目の前で喪った悲しみは、想像するに余りある──彼は、俺よりもずっと辛く苦しい気持ちを抱えながら過ごしてきたのだろう。
確かに、俺もまたアリスとの再会という先の見えない暗闇の中を歩き続けている。しかしエイジは違うのだ。悠那を喪ったその瞬間に、道そのものが途絶えてしまった。彼はそれでも歩き続けた。万に一つの希望も無い失意の底に転げ落ちて尚、這い上がってきたのだ。全ては悠那を、大切な人を取り戻す為に。
勿論、彼らの所業は許されるものではない。それは俺とて重々理解している。だが……
「何にも代え難い、1番大事なもの──お前にとっては、悠那がそうだったんだな」
今一度、己が胸の内を省みる。
思い出せ、俺の1番大事なものは何だ。何よりも守りたいものは何だ。俺は、何の為に──
「──そう、か。ああ、そうだったな」
脳裏に浮かんだのは、最愛の彼女の顔だった。
埼玉県川越市にある自宅。キリトはボス戦から戻るなり、道場に篭ってひたすら竹刀を振っていた。傍らに立てかけたタブレットには、部活の合宿に出向いている直葉が突貫で作ってくれた《O.Sでも使える技動画》をループ再生している。
──『ユナのライブに来い。そこで《閃光》の記憶を返してやる。ただし、来れるものならな』
ボス戦直後に接触してきたエイジのメッセージ──口ぶりから察するに、何かしら妨害を差し向けてくるという事か。事と次第では、会場へ向かう際は自分1人で行くべきかと考えていると……
「……ん?」
振り下ろした竹刀が空気を切る音と、自分の息遣い以外聞こえていなかった道場に、ふと異音が混じってきた。これは……バイクのエンジン音だろうか。
怪訝に思い道場の戸を開けてみると、家の前に1台のバイクが停まっているのが見えた。キリトのものではない、あれは──ミツキのバイクだ。
慌てて素足に靴を履き、外へ出る。
「ミツキ……どうしたんだよこんな時間に?連絡してくれれば──」
果たしてキリトの言葉を聞いているのか、ヘルメットを脱いだミツキは無言でバイクを降りると、真っ向からキリトと向かい合う。
「ミツキ……?」
「キリト───俺と戦え」
エイジとミツキ、「欠けた」状態で帰還後の人生を歩んできた者同士、何か感じうるものがあったという事でしょうか。
エイジは「アリスは生死不明」という事実こそ知りませんが、仮にそれを知ったとて、死亡濃厚としてミツキを仲間に引き入れようとするのは同じだったと思います。これも彼なりの善意。