──アツイ。
全身を灼き焦がす程の強烈な熱。
──イヤダ、ミンナ、イカナイデ……ヒトリニシナイデ。
気づいた時からずっと一緒にあった■■■■■達が、ひび割れ、砕け、分たれ、灼き消えていく。
どれだけ手を伸ばしても届かない。■■■■■達は消えていく。この身は■■■■■達から遠ざかっていく。
失意と共に墜ちていく。いっそ自分も同じように消えてしまえれば……そんな願いも叶わずに。
「──ハッ!?」
ビクッとしながら目を覚ました。辺りを見回せば、そこは北帝国を縦に貫くルール川の近く──そういえば昨日はここで野営したのだったと思い出しながらノロノロと起き上がり、縮こまった体を大きく伸ばす。どうやらまだ早朝らしく、顔を覗かせ始めた太陽が空を徐々に照らしている所だった。
「……夢か」
地べたの上に布1枚という野晒し状態では二度寝する気も起きず、ラジオ体操がてら軽いストレッチをした俺は、川で顔を洗いに向かった。
川の水の冷たさにヒィヒィ言いながら顔を洗っていると、背後から足音が……
「──おはようミツキ、早いんだね」
「ん……ユージオか、おはよう。そっちも早いな」
「村を出る前は、天職の為にいつもこれくらいの時間に起きてたからね。始めたばかりの頃は辛かったけど、もうすっかり慣れっこだよ──あたた……誰かさんが僕の腕を枕代わりにしたせいで筋肉痛が……」
ウチのキリトがすみません……心の中でそう謝らずにはいられない。
「天職……そういや、ユージオはキリトと会う前は木こりをやってたんだっけか」
俺の隣で同じく冷たい水をバシャバシャと顔に浴びるユージオを見て、昨晩の夕食で軽く歓談した時の内容を思い出す。
「そうだよ。《ギガスシダーの刻み手》っていうとんでもなくでっかい杉の木を切り倒す天職でね。300年間代々続いてきた役目が、僕の代でようやく完遂出来たんだ──と言っても、キリトの助けが無ければ、今も変わらず斧を振ってただろうけど」
「300年……すごいじゃないか──それでよくすぐに次の天職を決める気になったな。俺なら暫くは何もしなくていい自由な生活を、って思うぞ」
「はは、キリトみたいな事言わないでよ。──助けたい人がいるんだ。僕の幼馴染なんだけどね。あの時の僕は何も出来ず、ただ見ている事しか出来なかった……あれから8年経つ今も、その時の後悔がずっと胸の中に残ってる。いつまでもこのままじゃダメだって、思ったから」
「……だから、《剣士》になったのか」
「うん。整合騎士になって、央都にいるはずの幼馴染を──アリスを助けに行く為に」
ユージオの口からその名前を聞いた瞬間、ふと胸の奥がチクリと痛む。それをかき消すように、もう一度冷水を顔に叩きつけた。
スッキリした俺達がキャンプに戻ると、キリトは未だにグースカ寝息を立てている。一方メディナは……
「……うぅ……ッ」
「……随分うなされてるみたいだね……起こしてあげた方かいいかな?」
「そうだな…──メディナ、おいメディナ──?」
軽く肩を叩き、揺すってみる。思いの外すぐに目を覚ましたメディナの目尻には、薄らと涙が滲んでいた。
「む……ここは──そうか、昨日、止むなく野営を……」
「気分はどうだ?随分うなされてたみたいだが」
「ん…──うわぁッ!?」
「おわッ!?」
俺の顔を見るなり慌てて飛び起きたメディナ。危うく頭がぶつかりそうだった所を、俺は尻餅をつく形で回避した。
「なッ、なッ……何をするつもりだ貴様ッ!?」
「そっちこそいきなり何だ!?俺はただ君を起こそうとしただけで……!」
「ううるさい黙れッ!だから野営など嫌だと言ったのだ!」
起き上がった拍子に崩れた天幕の布で身体を覆いながら、メディナは俺を睨む。どうやら俺が不埒な行為を働こうとしたと盛大に勘違いをしている様子だが、どう弁明したものか。まずは彼女を落ち着かせる必要がある。
「よし分かったメディナ。一旦深呼吸だ、さぁ深く息を吸って──」
まるで猛獣のブリーダーにでもなったような気分で精神のクールダウンを促す。しかしやはりと言うべきか聞く耳は持ってもらえず、ガルル…という幻聴まで聴こえてくる始末だ。そこへ、見かねたユージオが助け舟を出してくれた。
「待ってメディナ、ミツキは本当に何もしてないよ。君がひどくうなされていたから、起こそうとしただけなんだ。そりゃあ、起きていきなりミツキの顔があったら驚くのも無理ないけど……」
最後の一文は果たしてフォローになっているのか大変怪しい所だが、この場は彼に任せて俺は口を噤んでおく。
「それにほら、無理矢理に行為を強いることは禁忌目録で禁じられてるじゃないか」
「それは……そう、だな……すまない。少し、気が動転していた……あまり気分の良くない夢を見たものでな」
ユージオの説得を受けて平静を取り戻したメディナに、こちらもホッと胸を撫で下ろす。
「あー、取り敢えず冷や汗凄いし……ほらタオル。俺達は向こうで朝食の準備してるから、落ち着いたら来てくれ」
「ああ……そうさせてもらう」
やはり人間、慣れない環境では悪夢を見てしまうものなのだろうか。俺はSAO時代、ダンジョンや迷宮区の安全地帯で何度も野営をしたものだが、既存の仮想世界とアンダーワールドとの違いがこういった些細な所にも影響しているのかもしれない。
その後、キリトを叩き起した俺とユージオは手早く朝食の準備をし、メディナも加えた4人揃っての最後の食事を済ませてから、荷物を片付け始める。
「──そういやユージオ、ずっと背負ってるその革袋、何が入ってるんだ?」
「これかい?これはね──」
ユージオはしっかりと口を縛る紐を解き、中身を見せてくれた。袋越しに見える形状から、恐らく剣か何かが入っているのだろう、という所までは予想していたが……顔を覗かせたのは、一目見ただけで思わず息が漏れる程に美しい白銀の長剣だった。
銘は《青薔薇の剣》──ユージオの故郷であるルーリッド村の更に北にある《果ての山脈》の洞窟で見つけたものらしく、斧の代わりにこの剣を使った事で、膨大な天命を持つギガスシダーを切り倒す事が出来たのだという。
「少し、抜いてみてもいいか?」
「いいけど、気を付けてね。結構重いだろうから」
ユージオに代わって白銀の鞘を支え、薔薇の蔦が巻き付いたような柄をしっかり握る。ほんの少し力を込めると、鞘の中から透き通るような刃の根元が顔を覗かせた。
「おお……これ、何で出来てるんだ?ただの金属じゃないよな?」
「う、うん。多分、凄く優先度の高い氷じゃないかなって──それより、すごいねミツキ?その剣を普通に抜いてみせるなんて。僕やキリトも、最初は持ち上げるだけでやっとだったのに」
「──多分、ミツキも俺達と同じって事だろ。俺やユージオが果ての山脈でゴブリン達と戦ったように、ミツキも何か……それこそめっちゃ強い獣かなんかと戦って、《
会話に加わったキリトに言われるまま、俺は自分の手の甲の上でS字状の印を切ってポンと叩く。すると、半透明のホロウィンドウが出現した──アンダーワールドに於けるステータスウィンドウに相当する《ステイシアの窓》だ。
最上段に【UNIT ID:NND7-6349】──工業製品よろしくナンバリングされている事に思う所が無くはないが、そこは置いておく──その下には【Durability:3295/3295】と《天命》を示す値が記載されている。その更に下に行くと、【
「上のOC権限はどれくらいだ?」
「49だな。下のSC権限は3」
「ほらな。《青薔薇の剣》はクラス45だから、ミツキの権限なら俺達と同じように軽々持てるって訳だ」
「驚いたなぁ……ミツキもあのゴブリンみたいな相手と戦ったんだね」
「まぁ、戦ったのは殆どメディナなんだけどな。俺はトドメ刺しただけだし──ってか驚いたのはこっちだ。何サラッとゴブリンとか言ってんだよ」
「いやぁ、まぁ色々あってね……」
その「色々」とやらについて根掘り葉掘り聞きたい所ではあったが、ここで後ろにいるメディナが「いつまで喋っている」と言わんばかりに俺達を睨んでる事に気づき、慌てて荷物を纏める。
一纏めにして置いてあった3つの革袋──内1つはユージオの《青薔薇の剣》──の中から1つを手に取った俺は、持った感触に違和感を覚えた。それは隣のキリトも同様らしく、揃って訝しみながら袋の口を開けると……
「「……何だこれ?」」
全く同じ言葉が全く同じタイミングで溢れた。俺の手元にある袋の中には、真っ黒な細長い円錐状の物体が収められていたからだ。
「……なぁこれ、キリトのか?」
「あ、俺のそっちだったか……袋が似てるから紛らわしいな」
言いながら、互いの袋を交換する。渡された袋には、例の碧色の結晶が収められていた。
「それ、何が入ってんだ?炭?」
「違う違う、ユージオが切り倒したギガスシダーの枝だよ。こいつを央都まで持ってって、剣にしてもらえ、ってさ──そういうミツキのソレは何だよ?」
「うーん、何なんだろうな……取り敢えず、謎の物体Xって事で──」
「貴様ら……そうやって無駄口を叩いているつもりなら置いていくからな……!」
「「は、はいただいまッ!」」
会話を打ち切り、ズンズン先に進んでいくメディナの後を追いかける。こうして、ザッカリアまでの残り短い旅路が再び幕を開けた。
「──さっきの続きだけどさ。その謎の物体、どれくらいの優先度なんだ?」
「あー、そういや見てなかったな──」
歩きながら革袋の口を開け、結晶の頭を少し覗かせる。窓を開いてみると──
【Durability:201■■■】
【Class 48 Object】
「……何だこりゃ、文字化けしてる」
辛うじてクラス48──文字化けの影響で時折47になったりしているが──《青薔薇の剣》よりも更に上の優先度を持つオブジェクトであることは読み取れるが、耐久力の値の下3桁が判読不能となっている。ユージオに聞いてみても、こんなものは見たことがないと言うではないか。
「でもま、クラス48ならかなり強力な武器になってくれそうだし、そこは安心かな」
「ミツキも央都で自分の剣を手に入れるつもりなんだね。職人の知り合いとかいるの?」
「……メディナ?」
「いる訳がないだろう──いや厳密に言えば、いるにはいる。だがそれも遥か昔のことだ。今会いに行った所で門前払いが関の山だろう」
恐らくその知り合いというのは、彼女の持つ《陽炎の剣》を鍛えた者──その一族に連なる誰か、という事だろう。当時は関係が良好だったとしても、時が流れ、オルティナノスが《欠陥品》等と言われるようになった今では違う、というわけだ。
「だったらさ、キリトの剣と一緒に頼んでみるのはどうかな?央都にいるサードレって人が、僕の先代の《刻み手》の知り合いでね、その人なら強力な剣に仕立ててくれるはずだ、って」
「俺、接点すら無い赤の他人だぞ?引き受けてくれるかどうか……」
「それでも、頼むだけ頼んでみようよ。僕とキリトも一緒にお願いするからさ」
知り合って僅か1日しか経っていない俺の為にここまでしてくれるユージオの人の良さに感動を覚えた俺は、その厚意をありがたく受け取り、央都に到着した暁には件のサードレ氏に謎の物体Xを預けてみる事にした。その為にも、何が何でも衛兵隊に入って央都へ立ち入る資格を手に入れなくてはならない。
「(ま、俺の場合は経緯が経緯だし、多分大丈夫だとは思うけどな……)」
そんなことを考えていると、不意に先頭を行くメディナが足を止めた。
「──起き抜けの肩慣らしだ。戦わないなら下がっていろ」
見れば、前方に数匹の獣が屯して街道を塞いでいた。勿論迂回する事も出来るが、奴らが立ち去るより先に他の誰かがここを通る可能性もあるし、何よりこちらには敢闘精神旺盛なメディナがいる。俺達男衆としても、ザッカリアまでの最後の戦いになるかもしれないこの機をみすみす逃す事はしなかった。
4人揃って剣に手を掛け、少しずつ獣達に近づいていく──内の1匹がこちらに気付くなり、唸り声を上げて走り寄ってきた。
「やッ──!」
一番槍メディナが腰の剣を居合抜きする。一瞬の煌きを残して目にも止まらぬ速度で繰り出された刃が敵共々
血煙を噴いて倒れる獣を他所に、俺達も各々の標的目掛けて走る。
キリトが長距離突進技《ソニックリープ》で最奥にいた1匹を一太刀で斬り伏せる傍ら、ユージオはというと……
「くっ……!」
相手取ったのが他よりも少々大柄な個体だったこともあってか、ユージオの振るった剣は獣の突進を止めるには至らず、1メートル程押し戻されてしまう。
「ユージオッ!」
「僕は大丈夫ッ!キリト達は他の獣を──!」
助けに入ろうとしたキリトを制したユージオは、両の手足に力を込めて刀身に食いつく獣を押し返していく。
「この、程度の相手に……ッ、負けてなんかいられないッ……!必ず整合騎士になって──アリスを、助けるんだッ!」
勢いよく獣を振り払ったユージオは、微かに怯んだ敵目掛けて突っ込む──!
「邪魔を──するなァッ!!」
強烈な踏み込みから発動された単発水平斬り《ホリゾンタル》が、獣の身体を一刀両断してみせた。
「はぁ……ッ、はぁ……ッ──」
獣の亡骸を前に荒い息をつくユージオ。その背後から、2匹の獣が──
「おいお前、何をボーッとしている──ッ!」
「ユージオ避けろ──!」
「え──?」
先の一撃で気力を使い果たしてしまったのだろうか。メディナとキリトの声も虚しく、ユージオの背中に爪牙が突き立てられる──その寸前、青白い光が間に割り込んだ。
「せ…あああぁぁ──ッ!!」
左上から斜めに振り下ろされた剣がピタリと止まり、間髪入れず鋭角に跳ね上がる。
片手剣2連撃技《バーチカル・アーク》──V字状に走った刃が2匹の獣の頭を深々と斬り裂いた。
ユージオが無事だと分かるや、キリトは《スラント》で、メディナは《絶空》で最後の1匹を片付け、こちらへ駆け寄って来る。
「大丈夫かユージオ……?戦闘中に気を抜くなんて、お前らしくない」
「あ、うん……なんだか急に力が上手く入らなくなっちゃって。でもミツキのお陰で助かったよ、ありがとう」
「どういたしまして──まぁ、昨日今日とで実戦続きだしな。精神的な疲れで緊張の糸が切れかけたのかもしれない。夕べちゃんと休めたか?」
「自分ではそのつもりだったんだけど……ごめん、迷惑掛けちゃったね」
「全く……人騒がせな奴だ。戦えないのなら下がっていれば良かっただろう」
「……そういう訳にはいかないよ。大きな怪我をしてるとかならともかく、戦う為の力があるのに何もせず見てるだけなんて真似は……もう、嫌なんだ」
「……まぁ、そういう気持ちは分からんでもないが……」
「それに、僕は君達3人と比べて剣の腕で圧倒的に劣ってる。だから少しでも多くの経験を積んで、少しでも早く追いつけるよう強くならなくちゃ……」
「だったら尚更、焦らないことだ。変に焦るとミs……失敗が増えて、結果的に全部お釈迦になる可能性だってある。急がば回れ、小さい事からコツコツと、な」
「そうそう、焦る事無いって。心配しなくても、ユージオには間違いなく才能があるんだからさ。ここまで剣を教えてきた俺のお墨付きだ」
俺とキリトは、あのデスゲームが始まって暫くの間、遮二無二レベルアップに邁進した。
些細なミス1つが命取りになる危険な状況下で、どれだけ鍛えても消える事のない不安に駆られるまま、少しでも早く、少しでも強くと無心に武器を振るったものだ。
当時でこそアレコレ理由をつけて自分と周りを納得させていたが、その危険性を身に染みて理解している立場としては、ユージオやメディナに同じ道を歩ませたくはない。
「うん……分かった。今日はもう無理しないようにするよ。もしまた獣が出てきたら、その時は任せていいかな」
「おう。その代わり、しっかり俺の戦いを見とけよ。動きを見るだけでも得られるものはあるからな」
「……とは言え、ザッカリアはもう目と鼻の先だ。ここまで来れば、獣もそう出て来ないだろうがな。とっとと行くぞ」
メディナの後に続き歩く事暫く──前方に石造りの城壁が見えてきた。
「あれがザッカリア……すごい、本当にあったんだ」
「何を当然の事を、と言いたい所だが……そうだな。斯く言う私も来たのは初めてだ──中々に壮観だが、それ以上に、お前達との喧しい旅もようやく終わると思うと、足取りも軽くなるというものだ」
「まだそんな事言ってるのか……メディナも内心じゃ結構楽しんでたように見えたけどな」
「そんな訳無いだろう!……だがまぁ、喧しい一方で、興味深い知見も得られた。最低限、無意味ではなかったとだけ言っておこう」
「少しくらい素直になればいいだろうに──ほんじゃ、残りの道を有意義にする為にも何か話そう」
「あ、それじゃあ聞いていいかな?──ねぇキリト。ミツキの流派も、僕らと同じアインクラッド流なのかい?戦ってる時の2人の動き、結構似てると思ったんだ。それに使ってる秘奥義も」
「んぇ?あぁー……そうだな、多分そうだと思う」
「アイン、クラッド流……?」
何それ?という意思を込めキリトを見やる。以前メディナにも聞かれた剣術の流派云々に関して、俺は知らぬ存ぜぬで適当に流していた一方、キリトは流派の名前を即興ででっち上げていたらしく、その名前こそが《アインクラッド流》なのだそうだ。
確かに、俺達の使う秘奥義──もといソードスキルは、SAOの舞台である浮遊城アインクラッドで培われたものなので、そういう意味では相応しい名前と言えるか。
「……思い出した。そうだ、アインクラッド流だった」
記憶喪失の《ベクタの迷子》である前提を壊さないよう、あたかも今思い出した風を装う。いつかはこの演技もしなくていい時が来るのだろうか……とそんな事を考えていると、次なる質問が飛んできた。今度はメディナからだ。
「……物のついでだ、私からも聞かせろ。お前達のその《アインクラッド流》には、一体いくつの秘奥義が存在している?」
この質問には俺が答えた。
「え……っと、だな……す、凄く沢山……?」
「……有意義な話をしようと言ったのはお前の筈だが?真面目に答えろ」
「至って真面目だよ。……正直、俺達も《アインクラッド流》の技の全容を掴めてるわけじゃないんだ。何せ武器の種類毎に大量にあるからな……まぁ、一応一通り頭に入っちゃいるが、実戦に耐えうるレベ──練度になってるのは、その内のほんのひと握りだ」
片手剣、両手剣、細剣、短剣、メイス、両手斧、両手槍、曲刀、カタナetc.──頭に浮かんだ武器カテゴリを片っ端から列挙していくに連れ、ユージオとメディナが愕然とした表情に変わっていく。
「そ、そんなに沢山あるのかい……!?」
「ああ、そりゃあもう沢山あるぞ。これまで俺がユージオに教えてきた技は、どれも片手剣の基本中の基本になる技だ。アインクラッド流の真価はその先にある。それこそが──」
「──連撃技、というわけか」
メディナにセリフを横取りされ、キリトは小さく躓くような仕草を見せる。
「何だ知ってたのか──その通り。アインクラッド流の秘奥義は、どんな武器であれ複数回の攻撃を繰り出す連撃技を持ってる。さっきミツキがユージオを助ける時に使った《バーチカル・アーク》がいい例だな」
「つまり……
「あぁそれ!やっぱミツキが教えたのか──となると、メディナは凄いな。短期間でカタナスキル──刀の秘奥義の基本技2つをあそこまで使いこなしてるわけだろ?」
「む……まぁな」
「刀って使い方にちょっとしたクセがあるから、直剣と同じ感覚で使うと上手くいかないんだよなぁ……こりゃ俺達もうかうかしてられんぞ、ミツキ」
「ま、俺も立場的にはどっちかっていうとメディナ達側だからな。うかうかしてられないのは実質お前だけだぞ、キリト」
「うへぇ……」
俺が今こうして戦えているのは、ALOが新生して以降、専ら片手剣を使っていたお陰というのが大きい。とはいえ、SAO時代に培った知識と経験ありきの見様見真似。我ながら付け焼刃感は否めない。俺も今後精進していく必要があるだろう。
あー、槍があればなぁ……と無い物ねだりな事を考えていると、ザッカリアの門が近づいてくる。歓談もここまでのようだ。
「着いちゃったね、ザッカリア……」
「何だその顔は、元よりその為に来たのだろう」
「そうだけど……短い間とは言え、この4人で旅するのは結構楽しかったから。それも終わっちゃうんだな、って」
シュンとするユージオを見て気を遣ったのか否か、小さく鼻を鳴らしたメディナは、クルリと踵を返す。
「……残念だが、別れるのはもう少しだけ後だ。私は
そこまで子供じゃないぞ。と言いたい気持ちも沸いたが、俺が衛兵隊に入る経緯はかなり特殊なケースである可能性が高い。であれば、代役を寄越すよう頼まれた当人であるメディナが同行してくれた方が話が早く済むかもしれない。何より、ユージオが嬉しそうにしているのを見ると、突っぱねる気も失せた。
赤褐色の岩で作られた暖色の街を歩く最中、ユージオは周りの視線が気になるのか──建物だけでなく街行く人々の服装まで赤系統な為、緋色の装いのメディナはともかく、青・黒・灰の寒色チュニックに身を包む俺達はどうしても浮いてしまうのだ──縮こまる一方、キリトはそんなものどこ吹く風と興味深そうに街を見回している。
「──着いたぞ。ここが衛兵隊の詰所だ」
たどり着いたのは、これまた赤茶色のレンガで出来た建物。正面入口の両脇には謎の紋章の描かれた小さな旗が掲げられており、中の様子を伺うと、口元に髭を生やした初老の衛兵と目が合う。
「……何か御用かな、お嬢さん方?」
キリトとユージオは外にいるよう釘を刺したメディナは、俺を伴い詰所に足を踏み入れる。
「失礼──先日、この街から便りを受け取ったオルティナノス家当主、メディナ・オルティナノスだ。要請に応じ、欠員の代役を連れてきた」
手短に要件を伝えながら、メディナが書状を差し出す。それに目を通した老兵は事情を理解したようで、一度奥へ引っ込む。程なくして戻ってきた老兵の後ろには、如何にもといった風体のガタイのいい男性の姿があった。
その男性は衛兵隊の隊長らしく、先にメディナに恭しく挨拶をしてから値踏みするように俺を見る。
「──ふむ、この少年が……誠に失礼ながらオルティナノス殿、この年端も行かぬ少年に我が栄えあるザッカリア衛兵隊で戦える程の実力があると?」
「そうだ。型はともかく、実戦という事ならこいつの右に出られる者はそういまいよ。ここまでの道中、私も目にしてきた──信じられないというなら、そちらの腕利きと1本試合わせてみればいい」
メディナの言葉を挑戦と受け取ったか、隊長は老兵に耳打ちし、人を呼んでこさせる。その間、建物裏手に案内された俺達は、出口を出てぐるりと建物を回った先の広場で足を止めた。
「……時に、君達は?」
ジロリとキリトとユージオを睨む隊長に、キリトは、
「お、俺達
「じ、邪魔はしませんッ!」
キリトの言葉に慌ててコクコクと頷くユージオ。幸いにも志高い若者と判断されたのか、特に追い出されるようなこともなく見学を許可された。
「お連れしました──」
老兵に連れられて現れたのは、これまた屈強且つ精悍な顔立ちの男だった。背丈は俺よりも頭半分程高く、身に纏う服越しにも鍛え上げられた筋肉が伺える。
「来たかルーカス──早速ですまんが、この少年と試合をしてもらいたい。木剣を用いた1本先取、手加減は無用だ」
ルーカスと呼ばれた男は、「はぁ…」とよく状況が飲み込めないながらもこれを了承。双方老兵から木剣を受け取り、所定の位置につく。審判を務める老兵が掲げた腕を振り下ろす──
「──始め!」
始まりはとても静かだった。
ルーカスはゆっくりと木剣を上段に構え、仕掛けるタイミングを計っている様子だ。対する俺はというと、対照的に剣を下段に緩く据えるだけ。構えらしい構えは取っていない。
「……ねぇキリト、ミツキ大丈夫かな?あれじゃ急な打ち込みに反応できないんじゃ……」
「まぁ見てろって。アインクラッド流の別の側面が見れるかもしれないぜ」
「別の、側面……?」
キリトとユージオの会話が小さく聞こえてくる──なる程確かに。ただ勝つだけならと思っていたが、折角ユージオやメディナが見ているのだ。俺も少しは師匠っぽい事をしてみるかと思い直し、揃えていた右足をほんの僅かに後ろへ下げた。
その瞬間──
「だあああァァァ──ッ!!」
力強い気合と共にルーカスが突っ込んでくる。軌道は変わらず、上段からの唐竹割り──否、ほんの僅かに右に傾いているか──狙いは恐らく俺の右肩。得物は木剣なので例えしくじったとて腕を斬り落とされるような事はないはずだが……十分な力さえあれば骨を砕き、人を撲殺出来る以上、甘く見てはいけない。
俺は1歩踏み込むと共に剣を握る右手を持ち上げると、丁度あちらの木剣の軌道に重なる位置に剣を置く。コォン…!と木製の刀身が乾いた音を立てた。しかし全力で剣を振るうルーカスに対し、俺は片手、それも剣先が外側を向いた不安定な形で彼の剣を受けている。これでは容易くガードを押し破られ、大なり小なり怪我は避けられない──と、この場の殆ど全員が思ったことだろう。
俺は敵の剣を受けた瞬間、手首を極限まで柔らかく使って攻撃を受け流した。木剣同士の腹が擦れる音を間近に聞きながら身体を左へ逃がした事で立ち位置が変化、剣を振り抜いたルーカスの横につける形になる。続けて抵抗の消えた手首をバネ人形よろしく跳ね戻せば、自動的に剣を上段に振りかぶる構えが完成し──
「シッ──!」
短い気合と共に振り下ろした木剣が、ルーカスの背中を叩く。
短い沈黙。それを破ったのは、我に帰った老兵の声だった。
「……いっ、1本!」
判定が下った瞬間、疎らな拍手が聞こえてくる。見れば、キリトとユージオが俺の勝利を称えてくれていた。
「凄い……秘奥義も使わずに勝っちゃうなんて──キリト、今のがアインクラッド流の別の側面なのかい?」
「んー、まぁそうだな。俺は基本的に先手を取ったり、敵の攻撃を押し返して勝つ方向性でお前に色々教えてるわけだけど、ミツキの場合はその逆──敢えて後手に回って、敵の攻撃を捌いた隙を突く戦法だ。言うなれば《剛》と《柔》ってトコか」
「《剛》と、《柔》……アインクラッド流は、どこまでも未知数なんだね」
「と言っても……俺が知ってる限りじゃミツキ以上に《柔》を上手く使える奴なんていないんだけどな」
「知ってる限りって……君は記憶を失くしてるんだから、つまりミツキしか知らないって事じゃないか」
「あ、あぁそうとも言うな……はは」
キリトとユージオがそんなやり取りをする傍ら、衛兵隊長はメディナの元へ歩み寄る。
「……先程の発言は、謹んで撤回させて頂く。我が隊指折りの実力者たるルーカスに勝利したとあらば是非もなし。ザッカリア衛兵隊は、あの少年を歓迎しましょう」
「何、気にするな──ああは言ったが、あんな奴が本当に強いのかと疑う気持ちは私とてよく分かる」
「寛大な措置に感謝します。さて少年──ミツキと言ったか、君さえ良ければすぐにでも入隊の手続きをと考えているが、どうだね?」
「あー……それじゃあ最後に、少し皆と話をさせてもらっても?」
よかろう、と頷いた隊長は、老兵とルーカス共々先に建物の中へ。この場には俺達だけが残される。
「おめでとうミツキ。これで無事入隊だね!」
「俺達もすぐ追いついてやるから、寂しくて泣くなよ?」
「誰が泣くか…──ここでお別れだな。メディナ」
「……ああ。これでようやく静かな旅が出来る」
「俺がいなくても、無理や無茶はするなよ。ちゃんと休む時間を取って、食事も取ること。あ、それと《辻風》は絶対人間相手には使うな。禁忌目録違反になる」
「うるさい、お前は私の保護者かなにかか!全く──お前の方こそ、くれぐれも先方に迷惑をかけるなよ。それと……つまらん事故や怪我で領地に叩き返されるような醜態を晒すことは許さん。精々達者でいることだ。……先程の試合、見事だった」
ボソリと最後に付け加えられた言葉を聞いた俺は、
「お嬢様のお気に召したなら何よりだ」
「だからその呼び方は止めろと言っただろう!……私はもう行く」
「修剣学院でまた会おう。気をつけてな」
メディナを見送り、キリトとユージオとも別れた俺は、衛兵としての第一歩を踏み出すのだった。
※ゲームアリリコだと《辻風》は斬りながらバクステ→次元斬ですが、本作ではプログレッシブ準拠の単発居合斬りとしています。イメージとしてはめっちゃ速い居合い斬り→風の刃でシュバババッ!みたいな(剣を振ってるのは1回だけなのでどこからどう見ても単発技ですね)。
鞘に収めた状態でないと使えず、軌道も縦横で割と自由が利く。風の刃で追撃が入る都合、UWでは対人戦には使えないという点で《絶空》と差別化してます。
ゲーム版アリシゼーションのカタナスキルってかなりアレンジされてるんですよね…3連撃だったはずの《緋扇》も4連撃に増えてますし。
ようやっとザッカリア到着&ミツキが衛兵隊デビュー。メディナとは一旦お別れになりました。
ここから5ヶ月後にキリトとユージオが剣術大会を勝ち抜いて入隊。然る後に3人共推薦をもらって学院入学となります。
取り敢えずこれでUW内部はひと段落着いたかなと思うので、次回はリアルサイドの話になる予定です。…1話で纏められる気がしねぇ…