※ガチの大ポカ
いつものように授業を終え、放課後が訪れる。
いつもならベル先輩の部屋の掃除から取り掛かる俺だが、今日は上級修剣士寮の前で先輩と合流した。
「──先輩、どうでした?」
「うん。どうにか取り付ける事が出来たよ。ただ……僕が提示した食後のデザートと市街の銘菓に加えて、1つ条件があると言われてしまってね」
「条件……?」
「まぁ、それはあくまで僕に対するものだから、君が不安に感じる必要は無いよ。安心してぶつかってきたまえ──さ、行こうか。呼びつけた以上、こちらが遅刻するわけにはいかないからね」
先輩に連れられて向かったのは、学院が誇る大修練場──要は体育館だ。入学・卒業式といった式典の類を行ったり、年4回の検定試験も行われているこの場所で、俺は準備運動がてら木剣を軽く素振りする。
「変な質問かもしれないが……勝てる見込みはあるのかい?」
「どうでしょうね。戦うのはこれが初めてですし、あの人の剣は何度か遠目に見た程度ですから、何とも──でも戦う以上は、勝つつもりでやりますよ。先輩方からの教えも活かして」
「ふむ、まぁ君は器用だからね。可能か不可能かで言えば可能だろうが……くれぐれも練習の一環とは思わない事だ。これまで培った全てを以て当たるくらいの気構えで行かないと、大怪我を負ってもおかしくない。何せ相手は──っと、噂をすれば来たようだ」
気付けば、大修練場がざわついていた。騒ぎの中心にいたのは、白を基調にコバルトブルーのラインが入った修剣士服に身を包み、俺は殆ど話した事のない傍付きの男性生徒を侍らせた男、北セントリア修剣学院主席上級修剣士──ウォロ・リーバンテインだった。
短く刈り込んだ金髪の下でギラリと威圧感を放つ鋭い双眸。見かけ上はゴルゴロッソ先輩より細身ながらも負けず劣らず鍛え上げられているのが分かる肉体も相まって、目にするだけでも体が緊張を覚える。
そんな主席殿は悠々と歩みを進めると、ベル先輩の前で足を止めた。
「わざわざ御足労頂いてすまないね、リーバンテイン君」
「お前が珍しく熱心に頼み込んでくるものだからな」
「うんうん、1週間分のデザートを譲る約束をした甲斐があるというものだね」
「お前はまたそのような事を……だから《道化》等と呼ばれるのだ──
「……あぁ、分かっているとも。ただし、約束したからには君もちゃんと役目を果たしておくれよ?頼んだ通り、僕の傍付きと手合わせ願おうか」
最初に頼み事をしてきたのはそちらだろう、とウォロ主席の傍付き練士が抗議の声を上げようとするが、主席当人によって制される。リーナ先輩もそうだったが、ウォロ主席もまた初等練士時代はこの人に振り回された経験があるのかもしれない。
「──さて、お前がコーレン修剣士の傍付きか」
「は、はい。ミツキ初等練士です!この度、私のわがままにお付き合い頂き、心から感謝致します」
「わがまま、か……一応、そちらにも何かしらの事情があるという程度の事は聞き及んでいる。私としても、同期の練士の剣がどれ程のものなのかを傍付きに見せるいい機会だ。お前と手合わせする事自体は了承しよう。しかし──勝敗までは保証出来ん。そこはいいな?」
ゾクリ、と悪寒が背筋を駆け抜ける。
「……無論です。こちらも主席殿の胸を借りる、などと言わず、倒す心持ちで立ち会わせていただきます」
学院の頂点に君臨する主席上級修剣士に向かって不遜極まりない物言いの俺に、周囲のギャラリーがざわめく。
「では、その言葉の程を確かめさせてもらうとしよう──準備を」
修練場の一角に出来た群衆の中、俺とウォロ主席は試合の準備に取り掛かる。
もう一度確かめるように木剣を試し振りしながら周りをざっと見回すと──群衆の中に、いくつか見知った顔を見つけた。
まずキリトとユージオ、そして2人の指導生である両先輩。他には……ライオスとウンベール、ラッディーノ、更にはメディナの婚約者の姿もある。馬鹿な平民がみっともなく敗北する様を見て嗤うつもり満々らしく、一様に意地の悪そうな笑みを湛えてこちらを眺めていた。
最低限、あいつらが軽々しく嗤えない程度には善戦せねばと内心気合を入れ直す。そんな俺の視界に、特徴的な緋色の髪が──修練場をぐるりと囲う観覧席の隅っこからハラハラした視線を投げるメディナだ。ちゃんと来てくれた事に安堵しつつ、「見とけよ」という意思を込めた視線を投げ返した。
「ミツキ君、もう一度言っておくよ──ウォロ・リーバンテインは、基本的に実剣同士の立ち会いしかしない稀有な男だ。今回は君が自分の剣を持っていない事もあって、その主義を曲げて貰ったわけだが……だからといって、その強さが損なわれることは無い。もしかしたら見た事があるかもしれないが、彼は木剣の一撃で訓練用の案山子を圧し折るような男だからね。あの剛剣を身に食らえば、どんなに短くても数ヶ月は剣を握れなくなると思いたまえ。最悪、一生だ」
戦う前の脅し文句というには過剰も過剰に聞こえるベル先輩の言葉だが、全て事実だ。俺も上級修剣士寮から帰る折、通りがかった修練場で案山子を木っ端微塵に破壊する主席の姿を見たことがある。
つまり、俺が取れる最善策は「主席の初撃を避けて一撃入れる」なわけだが……そう上手くはいかないだろう事は、リーナ先輩やゴルゴロッソ先輩とも何度か立ち会いをさせてもらったお陰で身に染みて理解出来ている。
そも、俺と似通った戦闘スタイルのリーナ先輩でも進級以降一度としてウォロ主席に勝てていないのだ。受けからのカウンターが得意な実戦流派のセルルト流伝承者たる彼女でダメなのだから、そんな彼女にも勝てていない俺が優位に立てる道理はない。
結局の所、事前にあれこれ策を弄して戦うよりは、いつも通り行き当たりばったりに戦うのが吉、という事になりそうだ。
「では、僭越ながら僕が審判を務めさせてもらうよ──双方、構えて」
数メートルの距離を置き、俺とウォロは向かい合う。ベル先輩の合図で互いに背筋を伸ばして一礼してから、腰に据えていた木剣を抜き放った。
……重い。
携えているのは刃を持たない木剣なれど、得物を握ったウォロから滲み出るプレッシャーは、まるで俺にかかる重力だけを数割増しにしているのではと錯覚する程に濃密だった。
だが……対する俺は、その感覚に懐かしさのようなものを抱いていた。
所謂《真の強者》と相対した時特有の感覚──《聖騎士》ヒースクリフ、《絶剣》ユウキ、そして《姫騎士》アリス──彼ら彼女らと戦った際にも感じたものだ。
脈打つ心臓、泡立つ肌、滲む汗──背筋を駆けるゾクリとした感覚にすら一種の心地よさを覚える俺は、殆ど無意識に不敵な笑みを形作っていた。そんな俺の様子を見てか、ウォロもまた口元に薄らと笑みを描く。どうやら、あちらも同類だったらしい。
気付けば、俺の身体はおおよそ剣の構えとはかけ離れた姿勢を取っており──
「「ッ──!!」」
ウォロは上段からの斬り下ろし、俺は下段からの突き上げを以て、戦いの口火を切った。
木剣同士が乾いた音を立てて交錯し、互いの攻撃の軌道を逸らす。鍔元での一瞬の拮抗を経て、俺はウォロの背後へ抜ける。すれ違いざまに一撃入れようとした俺だったが──あちらの剣の方が早かった。
ウォロの初撃は力強い踏み込みだったにも関わらず、それをいなされたと見るや即座に重心を入れ替え、横薙ぎの一撃で俺を追従してくる。間に木剣を割り込ませる事には成功したものの、あちらの膂力及びこちらの体勢的に止める事は出来ない為、俺はトン、と後ろへ小ジャンプ。ウォロの追撃に逆らわず、その力を利用して敢えて吹き飛ばされる事で距離を取った。
ある程度衝撃は殺したつもりにも関わらず、手がビリビリと痺れる。即座に体勢を整えて木剣を構え直す俺に、ウォロもまたしっかり剣を構え直す──今度はあちらから仕掛けてきた。
「──ぬんッ!」
右上からの一撃を木剣で受ける──剣同士が触れ、ウォロの力が俺の剣を押しやろうとした刹那、俺は手首、腕、肩、そして腰の関節を使って攻撃を流した。
セルルト流の極意《活水》──リーナ先輩に直接教えを受けたわけではない、殆ど目で盗んだに近い見様見真似だが、土台となる感覚は既に掴んでいる。攻撃を空振らせたウォロに大きな隙が生まれ、俺は飛び退りざまに切っ先で一撃入れようとするも、視界に入っていたウォロの足が強張るを目にし、反撃は諦めて回避に注力した。ウォロは流された剣を引き戻さず、その勢いのまま体を一回転。一瞬遅れて、俺がいた場所を彼の木剣が薙いだ。
殆ど床を這うようにして飛び退いた俺は、ふぅ…と静かに息をつく。この1年、幾度となくリーナ先輩と主席の座を争っているだけあって、セルルト流のような手合いとの戦い方を心得ているのだろう。思った通り、一筋縄にはいかせてくれない男だ。ゴルゴロッソ先輩との鍛錬で「相手の筋肉の動きから行動を読む」コツを教わっていなければ、恐らく今の一撃は避けられなかった。どこかしらの骨と引き換えで相打ちに持っていくのが精々だったろう。
彼に勝つには、こちらからも攻めていく他あるまい──そう考えた俺は、果敢に修練場の床を蹴るのだった。
大修練場の観覧席──キリトとユージオは、突如行われる事になったミツキとウォロ・リーバンテインの戦いを固唾を飲んで見守っていた。
「凄いねミツキ……主席上級修剣士相手に渡り合ってる」
「ああ。でもヤバイのは相手の方だ……ミツキの反撃を尽く潰してる。流石主席になるだけの事はあるぜ──…ミツキもハンデがあるとは言え、ここまでとはな」
ミツキの本領は剣ではなく槍であることはキリトとて重々理解している。しかし、過去ALOで彼が片手剣を使っているのを見た限り、決して剣だからといって一気に弱くなる、というわけではない。ましてやアンダーワールドで修剣学院に入学してからはちゃんと剣を扱う為の訓練をしているのだから、単純に考えてALOで見た頃よりも強くなっているのが道理の筈だ。
にも関わらず、この試合のミツキはイマイチ決め手に欠けているように見える。そんじょそこらの相手なら初撃を捌いてカウンターで決着がつく所だが、ウォロはそれを徹底的に対策しているのだ。穂先だけではなく石突きも攻撃に使えた槍と比べて、剣ではどうしてもカウンターのタイミングにコンマ数秒のラグが生じてしまう。その一瞬を的確にカバーしているというのか、あの男は。
「リーバンテイン家は、代々帝国騎士団の剣術指南役を担う一族だ。血筋なのだろうな、あの男の生まれ持った剣術の才は紛れもない本物だ。我がセルルト流の動きにも程なくして対応してみせた」
「加えて、鍛え上げられた肉体から繰り出される剛剣──納める流派こそハイ・ノルキア流だが、彼の技は殆ど別物と言っていいだろう」
技に秀でるリーナ、そして腕っ節にかけては右に出る者のいないゴルゴロッソにここまで言わせるウォロ・リーバンテインの強さ。次席であるリーナが超えるべき壁であり、この学院で自分達が目指すべき場所──その頂の高さを、キリトとユージオはひしひしと感じていた。
「フッ──!」
「シッ──!」
鋭い気合と共に、木剣が打ち合わされる。しかし鍔競り合う事はなく、刹那の接触を残して離れた剣を握る我が手に、俺は確かめるようにグッと力を込めた。
「……ふむ、よく凌ぐ。お前のその技、セルルト修剣士のものだな?」
「……それが何か」
「いや何。彼女の傍付きでないにも関わらず、よく盗んだものだと感心しているのだ。もしお前が彼女の傍付きになっていれば、もう少し手を焼かされたかもしれんな」
「……お褒めに預かり恐縮です」
「だが──解せんな。それだけの技を身につけていながら、お前の剣は軽い。その点はベルグリッドにそっくりだ」
「……今のは、流石に聞き捨てなりませんね」
「奴よりは真っ当な剣だと言うか?ならば、その小手先の技で我が剣を凌げるか、試してみるがいい──」
「ッ……!?」
ウォロがゆるやかな動きで木剣を最上段へ掲げる。その瞬間、彼から放たれる威圧感が跳ね上がった。両手で握った剣を振りかぶるあの構え──両手剣重突進技《アバランシュ》もとい、ハイ・ノルキア流秘奥義《天山烈波》だ。
「………カァッッ!!!」
裂帛の気合と同時に、ウォロの木剣に黄金と見紛うオレンジ色の光が灯された。煌々と燃える炎の如き輝きを湛えた木剣が、不可視の力に後押しされて凄まじいスピードで迫り来る。その速度たるや、俺が過去目にしてきた《アバランシュ》とはまるで違った。SAOやALOでは「侮れない優秀な技」程度の認識だったが、ウォロのそれには「まともに喰らえば無事では済まない」とハッキリ分かる「何か」が込められていた。
──どうする!?
避けるにはもう距離が詰まり過ぎている。真っ向から受け止めるなど以ての外。《活水》で流すのは可能といえば可能だろうが、ここまで彼の剣を幾度となく受けてきた俺の手もそろそろ限界が近い。秘奥義を凌げたとして、突進技である《アバランシュ》──それも速度と威力が大幅に上昇したものに対してカウンターを仕掛けたとて、こちらの剣が当たるより先に間合いを離脱されてしまうだろう。その上で改めて剣に十分な力を乗せられるかは……正直、怪しい。
取り敢えず敗北を免れる術はある。しかしそこから勝ちに繋げる術が──否、1つだけあった。
俺としても経験の無い、文字通りその場の思いつき。成功率だってお世辞にも高いとは言えない、絵に描いたようなぶっつけ本番。槍ならいざ知らず、剣で同じ事が出来るか否か……迷ってる時間さえ惜しい。例えどんなにか細くとも、そこに活路があるのならば──あと必要なのは、それを切り開く意思だけだ。
俺は右手の木剣を、下段から振り上げる──持ち上げる、と言った方が正しいだろうか。刃を返して斬り上げるのではなく、正眼に構えた際、自分の方を向く峯側の刃で、ウォロの剣を迎えた。
ウォロの眉が微かながら怪訝に潜められる。それも当然、剣を握る俺の手は──否、俺は剣を
1本だけ折った中指に剣の柄を置き、親指で柄尻を支えるという、傍目にはふざけているとしか思えない持ち方。全く以て同意だが、生憎俺がこの状況で勝ちを拾うにはこの方法しかない。
ガツンッ!──木剣同士が衝突し、その瞬間、俺の指に凄まじい荷重がかかった。
まともに受けるつもりだったなら間違いなく指がへし折れているだろうが、そこまでする必要は無い。ほんの少し──数瞬だけ耐えられさえすればいいのだ。
持って行かれそうになる木剣を親指だけで必死に引き止める。
──まだ。
指が軋み、悲鳴を上げるのが分かる。もう限界だと、体が訴えている。
──もう、少し…ッ!
指に激痛が走り、内部で「ミシッ」とでも形容すべき感覚を覚えた。
──い…ま……ッ!
バギャッ!!
剣を押さえていた親指をリリースしようとしたその瞬間──俺の木剣が中程から叩き割られた。ほぼ柄だけになった俺の剣が、カラカラと虚しい音を立てて床に転がる。
「そこまで!──勝者、ウォロ・リーバンテイン!」
判定を告げるベル先輩の声が飛んだ瞬間、修練場内が一斉に沸き立つ。勝利を祝福するというよりは、改めて見せつけられたウォロの力に対する畏怖という意味合いが強いか。
「──大丈夫かい、ミツキ君……!?」
「ッ……は、い……なんとか……」
膝をついて手元を押さえる俺に、ベル先輩が駆け寄ってくる。
どうやら折れるまではいかずとも、骨にヒビが入ったらしい。中指が早くも紫色に腫れてきていた。
「システムコール、ジェネレート・ルミナス・エレメント──」
先輩が神聖術で簡単な応急処置を施してくれる傍ら、剣を収めたウォロがやって来る。
「──随分と無茶をする。あのような真似、ベルグリッドでもやらんぞ」
「……あれ以外に……ッ、思いつかなかったもので」
「フ……あの状況に及んで尚、自らの技量に賭けたというわけか。その姿勢は評価しよう。ベルグリッド──約束は覚えているか?」
「ああ、覚えているよ……君の要望をなんでも1つ聞く……一度だけ、君と本気で立ち会う──だろう?僕も剣士の端くれだからね、反故にはしないさ」
「そうか、それを聞いて安心した──ミツキ初等練士、お前の剣はいつ頃仕上がる?」
「え……っと、恐らく先輩方が卒業するまでには間に合うと思いますが……」
「リーバンテイン君、まさか……!?」
「条件変更だ──お前が実剣を手に入れた後、改めてもう一度私と立ち会え。正真正銘の真剣勝負だ」
俺達にしか聞こえない声量で告げられた言葉に、ベル先輩が珍しく驚きの声を上げる。
「元より譲歩したのはこちらだ、条件を変更する権利はある。違うか?」
「だが、しかし……!」
「──分かりました」
ベル先輩の言葉を遮って答える。
「最初に言った通り、今回は俺のわがままですから。それに……俺も、負けっぱなしは好きじゃないので」
俺の返答を聞いて、期待通り、とでも言いたげな笑みを浮かべたウォロは、ちゃんと医務室へ行くよう言い残して踵を返す。来た時と同じく後ろに自分の傍付きと多くの生徒を引き連れて修練場を去っていった。
ただ少しだけ違ったのは、彼の後ろをついて行く生徒の数がいくらか減っていた事と、その減った分の生徒達が、ささやかながらも俺に拍手を送ってくれた事だった。
「ふぅ……一時はどうなるかと思ったけど、とにかく今は医務室へ行こうか。立てるかい?」
「ッ……えぇ、大丈夫です」
俺もまた、先輩と共に修練場を後にする。出口へ向かう途中、観覧席最前列のキリトらと目が合い、「何やってんだよお前!」という声無き声が聞こえた。そして観覧席の端に目を向けると──試合が始まる前には確かにいた緋色の髪の少女の姿は消えていた。
「──全く、何を考えているんだお前はッ!?」
教師の高位神聖術によって忽ち腫れの引いた手に感嘆の声を漏らしながら医務室を出た俺を出迎えたのは、メディナの厳しい叱責の声だった。その後ろにはキリトとユージオの姿もあり、言葉こそ無いものの胸中は同じくしているらしい。
「言われた通り行ってみれば、訳も分からず主席上級修剣士との立ち会いが始まるし、お前は土壇場で妙な真似をして怪我をするし!見ているだけで心臓が止まるかと思ったぞ!」
メディナの後ろでキリト達が「うんうん」と大きく頷く。
「あー……は、はは──折角来てくれたのに悪かったな、勝つとこ見せられなくて」
「当然だ!相手は主席なんだぞ!大体お前は──!」
「──まぁまぁオルティナノス嬢、気持ちは分かるがその辺で。今回の件は僕にも多少なりとも責任があるわけだし。どうせなら僕にも一喝頼むよ」
「コーレン先輩……!いえ、上級修剣士殿に意見など畏れ多い……」
「なら、そこまでにしておきたまえよ。僕としても無茶とは思ったが、そうするに至った理由くらいは聞いてたりするんじゃないかな?」
「……まぁ、一応」
「なら、すれ違いの心配は無用だね。僕は一足先に部屋に戻っているよ。ミツキ君、話が終わったら僕の部屋に来たまえ」
「わ、わかりました」
先輩が立ち去り、この場には俺達だけが残される。
「……まぁ、そういう事だ。コーレン先輩に免じて、これ以上の叱責は勘弁してやる」
「ありがたき幸せ……それはそうと、だ──勝てこそしなかったものの、主席相手にある程度やり合えたって事でどうだ。まだ足りないか?」
メディナは呆れたように嘆息して腕を組む。
「……お前の事だ。ダメだと言えば、今度は何をしでかすか分かったものじゃない。業腹ではあるが認めてやる、お前はそう容易く潰されるような奴ではないとな」
「わかってもらえたようで何よりだ。そんじゃ──改めてよろしく」
差し出した手を、メディナは根負けしたような顔で握り返す。これまでとは違う、初めてしっかりとした握手を交わした瞬間だった。
「──なる程、そういうことだったのか。なら、俺達もウォロ主席と戦えば仲間にしてもらえるって事でいいのか?」
「ああ、もう──分かった!お前達の事も認めてやるから、馬鹿な真似はしてくれるなよ」
狙い通り、とでも言いたげに笑うキリトと、やれやれと肩を竦めつつこちらも笑うユージオ。そんな2人を見てがっくりと肩を落とすメディナだったが、そんな彼女の口元にもまた笑みが浮かんでいたのを、俺は見逃さなかった。
「さて──無事仲間になったって事で、メディナが何に悩んでるのか、ちゃんと教えてくれないか?」
そう持ちかけるキリトだが、メディナは少し考えると、
「……少し、待ってくれ。また後日必ず話す。今は検定試験も近いし──私も、
「……そっか。分かった」
「けど、くれぐれも1人で無理はしないようにね」
「分かっている──ただし、もし試験の成績が私より下回るようなら、お前達3人とも先程の話は無しだからな」
「「「え、えぇ……!?」」」
話は纏まり、俺は言われていた通りベル先輩の部屋を訪れる。
「来たね──まずはお疲れ様、と言っておこうか。手の具合はどうだい?」
「痛みも違和感も全く。治癒術式って凄いですね」
「それは重畳。では早速本題に入ろうか。まずは状況の整理からだ──端的に言えば、君はウォロ・リーバンテインに目をつけられた。実剣を手にした暁には、もう一度彼と戦わなくてはならない。当然、その時はあちらも実剣だ。そして彼は寸止めの試合を好まない。一本先取形式になるだろうね」
「一本先取……って、実剣でですか?」
「実剣で、だ。君なら大丈夫だとは思うが、当然下手をすれば命に関わる。そんな相手に君は堂々と啖呵を切ってみせたわけだ」
「あー……売り言葉に買い言葉、と言いいますか。まぁ、殆ど勢いであることは認めます」
「まぁ、こうなってしまったものは仕方がない。前向きに、建設的な話をしよう──僕の目で見た所、技量という点では君とリーバンテイン君の間に大きな差は無かった。にも関わらず、君は見事に木剣をへし折られ敗北を喫した。その理由は分かるかい?『才能や経験の差』以外でだ」
考えてみるが、それ以外の要因となるとパッとは浮かんでこない。
「あ……そういえば戦っている最中、主席に言われたんです──俺の剣は軽い、ベル先輩と同じだ──って。もしかして、それが……?」
それを聞いたベル先輩は、微かに表情を引き締めた──ような気がした。
「……そうか……やはり、
先輩の言葉を理解できず、俺は小首を傾げる。
「ミツキ君──君がリーバンテイン君と戦い、勝つ為……最低限、命を落とさないようにする為には、君はとある技を身につけなければならない──技というより、
「……その、術っていうのは……?」
ベル先輩は腰掛けていたソファから立ち上がり、ゆっくりと窓に向かう。
「曰く──人界を守護する整合騎士は、手足に頼らずとも剣を振るい、刃を用いずとも斬撃を繰り出せるという──勿論、君も同じことを出来るようになれ、とは言わない。だが少なくともその領域の入口には達する必要があるのさ」
この日から、俺はアンダーワールドを支配する1つの法則に直面することになる。
イメージで世界を塗り替える力──知る人ぞ知る《心意》の領域に。
ミツキ、惜しくも敗北…しかし新たなステップに進むいいきっかけになりました。
(そうせざるを得なくなった、とも言う)
ちなみに、ウォロの秘奥義に対しミツキは何をするつもりだったのかというと…
あの変な持ち方で一瞬だけウォロの剣を耐えて、離す。
↓
すると反動でミツキの木剣が下にすっ飛んでく。
↓
それに合わせて手を小さくクルッとやる事で、槍の時と同じ要領で変則カウンターを決める。
というもの。要は、槍の時は基本腕とか肩を軸にしてた所を、無理やり指1本でやろうとしたわけです。勿論、技の軌道の都合、クルッとした後の剣を指の骨が逝きかけた状態の手で掴んで振らないといけません。
ペインアブゾーバ効いてるVRMMOならともかく、痛覚生きてるアンダーワールドでこれをやるのは…うん、正気の沙汰じゃあないですね。