死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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食事の時間

 罪状、自治区破壊・暴行・殺人。

 判決・死刑。

 

 報告書には、突如たった一人で武器も持たずにその自治区を制圧し、破壊の限りを尽くしたとある。

 

 無論何も抵抗がなかったわけではない。自治区の治安を維持する存在であったり連邦生徒会への要請でやってきた多数の部隊であったり、企業の勢力などで、相当の戦力が投下されていた。

 

 しかし、結果は惨敗。獣のように叫ぶそれに圧倒され、皆等しく砕けて散っていった。

 

 歴史上最悪の事件としてどの自治区にも恐ろしいものと語られている。この世界が消える時までそれが途絶えることはないだろう。

 

 さて、そんな歴史に名を残す大事件を引き起こした一人とされる彼女はどこにいるのかというと……。

 

 ──ぺらり

 

 "04"と刻まれた囚人服を着て与えられたボロボロのベッドに横になり、シューズの雑誌を無表情で読み続けていた。

 

 ここは連邦矯正局。加えて死刑囚であり強大な力を持っている彼女専用の牢獄。地下深くにあり、さらに頑丈な素材で周りを囲まれ、一ヶ所を除き出入口はない。

 

 あるのは明かり、ベッド、洋式トイレ、そして看守が牢屋内を見るため上にある小窓、食事を与えるため下にある小窓のみ。小窓はそれぞれその用途を満たすためだけの僅かな隙間しかない。

 さらに小窓のある部分はシールドになっている。そこからやろうと思えば牢屋内に出入りは可能。しかし、内側からは開けられない仕様になっている。

 

 当然衛生環境は最悪である。なんかキノコとか生えてる。生活がなんとか出来はするという最低限の最低限といったものしかない。

 しかし彼女はこれに文句は言わない。生活は出来るからだ。

 

 ──ぱたん

 

 ここで彼女、雑誌を読むのを一時中断。何故か持ってるアタッシュケースからコレクションのシューズたちとクロスを取り出し、一つひとつを丁寧に磨いていく。

 

 ──キュッキュッキュ……

 

 磨かれたシューズはまるで太陽に照らされた海のような輝きをみせる。

 全てを手入れし終えた彼女はシューズたちとクロスをケースに戻して読書再開。

 

 ──ぺらり

 

 静かである。たまにページを捲る音がなるくらいで、基本的には無音だ。

 

 ここで容姿について触れよう。

 顔の左半分の皮膚の色が若干薄く、その境目には縫い合わせられたような痕がある。目の色と髪の毛も同様。また、ところどころ似たようなものが存在している。

 身体は、年にしては小柄といったところだろうか。

 そして特徴的なのは、なんといってもとても長いピンクのウサミミ。ピンと立っておりたまに動く。なんか左ウサ耳には大きい安全ピンが一個ついてる。あと若干色も薄い。

 最後に、マゼンタの円型ヘイロー。ところどころ桃色の部分がある。一点のみ緑色の箇所も。あとヒビのようなものも見える。

 

 ──ぺらり

 

 これが彼女の基本の日常。誰とも話すこともなく、表情も変わることもなく、ただひたすら独りで趣味に時間を費やすだけだ。

 

 刑が執行される、その時まで。

 

 ──くぅー

 

 ここで彼女は本を読むのを中断。自身のお腹を見つめる。どうやら、お腹が空いた様子。

 

 同時に、かちゃりと皿が地面に置かれる音。下の小窓から一つ皿が牢屋に送り込まれた。

 皿に乗せられていたのは一匹の魚。しかも生である。なんなら生きていると言われても割と納得がいくレベル。

 

 彼女はベッドから立ち上がり皿を手に取る。

 

 ──すんすんすん

 ──ぺたり

 

 三回ほど、魚の匂いを嗅ぐ。途端、表情こそ変わらないものの、ピンと張っていたウサミミがたらんと垂れる。

 どうやら、お気に召さなかったよう。

 

 ──こんこんこん

 

 シールドをノック。すると上の小窓が開き、看守の目と対面する。

 

「……何の用? 4番」

 

 不機嫌そうに、看守は尋ねる。

 

 ──ひょい……ポチャ

 

 彼女、目の前で皿をひっくり返して魚を宙へ。そのままトイレに着水。そして、空の皿を看守の方へと向けた。

 

 もっとマシな飯をよこせ、と言っているかのよう。

 

 これに看守はイラっとした様子。折角食べ物を与えてやってるのに、それを食べずに捨てたあげく、別のものを要求しているからだろう。

 

「……いいわ」

 

 二度目の皿を床に音。下の小窓からもう一つの皿が彼女の足元に届く。

 

 ……骨だけになった、食べるところなど無い魚を乗せて。

 

「──アッハハハ! あなたのような大犯罪者には本当はこれくらいでちょうどいいのよ!!」

 

 拾い上げる彼女。無表情のまま、それを見つめる。

 

「アハハハ! 何にも言えないかしらぁ?! まぁ? どうしてもと土下座でもするんだったら? 多少改善してあげるかもしれませんけどねぇ??」

 

 ──ドゴォッ!

 

 瞬間、彼女は看守の腹であろう位置を目掛けて殴る。

 モーションは非常に素早く、無駄が無さすぎた。

 

「──ッカ、ハァ……ッ?!」

 

 目の前の金属で出来たシールドはぐにゃりと曲がり、上の小窓から看守の目が消え、どさりと倒れた音がする。

 

 ──ブゥン!

 

 その隙に、持っている皿を下の小窓へ物凄い勢いで投げ返した。

 

「ッたぁい!?」

 

 声からして、床に倒れた看守へ投げ返した皿と骨がぶつかったのだろうと推測できる。

 勢いが凄まじかったのに加えて、結構魚の骨はとげとげしていたため想像以上に痛そうだ。

 

 彼女はその場でただ待つ。

 さっさと看守が起きて、美味しいご飯を持ってきてくれるのを。

 

「ッ、こんのォ!!」

 

 シールドが開かれ、怒りの表情を顕わにした看守が顔へ本気のパンチを繰り出す。

 ドカッという骨が折れてもおかしくないような音と共に殴られたほうへと顔が傾く。

 

 ──ぐぐぐぐぐ……

 

 普通ならそのまま転倒してもおかしくないほどの衝撃。しかし彼女はねじれを戻すように、割となんでもない様子で傾きが戻っていく。

 そしてシールドなしで対面してしまう、彼女と看守。

 

 ──ブチィ!!

 

 瞬間、何かがキレる音が鳴る。

 

 無表情だった表情は一変、瞳孔がガン開きになり、眉間を含めた目の周りにしわが出来ている。

 

 一発でキレたと分かる表情。

 

「ヒッ」

 

 ──ガシュゥ!

 

 身の危険を感じた看守はシールドで身を隠そうとするも、そのシールドは片手で握り潰される。

 

「え、あ、やめッ」

 

 キレたまま彼女は看守へと近づいていき────。

 

 

 

 

 ──ジュゥゥゥ

 

 彼女の目の前にあるのは、鉄板の上に乗った豪華なステーキ。無論お金は看守が出した。

 

 ──かちゃり

 

 あまり慣れてないながらも、ナイフとフォークを使いこなし食していく。余程美味しいのか、ほんの僅か笑みを浮かべているようにも見える。

 その隣では、傷の手当がなされた精神的にも肉体的にも割とボロボロの看守ちゃん。何故か2Lペットボトルのジュースを抱えている。

 

 ──スッ

 

「! はいただいま!」

 

 グラスを向けられ、すぐさま役割であるジュース注ぎを行う。

 犯罪者に看守がひれ伏すというかなり屈辱的なこの状況。だがこの看守、折れてはいなかった。

 彼女の目が離れた隙に持ってるペットボトルを上げて振り下ろすと構えを取っている。チャンスが出来れば殴ってやろうとしているのだろう。

 

 しかしその度に彼女はギロリと睨みを利かせ、姿勢を正させる。全てわかっているかのよう。いや、この看守が分かりやすすぎるだけなのかもしれないが。

 

 キレると誰も止められない彼女。諸々最悪の独房にいるものの、気に入らないものがあれば無理やり力で言うことを聞かせることが出来る環境の構築に成功している。

 

 彼女にとってのここでの生活は、案外悪くないものなのかもしれない。

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 走る。

 走る。

 ただひたすらに、ある場所を目指して少女は走る。

 

 息が切れても、足が棒のようになってきても、必死に走る。

 

 少女にとっては、目指す先は最後の砦。

 半ば諦めていた、なんとかしてくれるかもしれないと思わされる存在。

 

 誰にも相手されず、誰も受け入れてくれなかった自身の思いを聞いてもらえるかもしれない場所。

 

「──"先生"ならきっと」

 

 だからこそ、少女は目指す。

 生徒のために全力を尽くしてくれる、とんでもないくらいにお人好しらしい"先生"がいる《シャーレ》を。

 

「レキさんを、助けてくれるかもしれない……!」

 

 

【第一話:依頼】

 

 

《連邦捜査部S.C.H.A.L.E》──通称シャーレ。端的に言えば、学園とかの派閥とか一切関係なく頼られれば大体引き受ける何でも屋。連邦生徒会直属の問題解決組織。

 生徒のためならと全力を尽くす"先生"を顧問とし、日々学園都市キヴォトスの生徒の依頼を引き受けている。

 

 そんなシャーレの中心的存在と言ってもいい"先生"だが、現在は膨大な量の書類仕事に追われていた。

 ほぼ毎日のように生徒からの相談事や問題解決に奔走。加えてその報告書を帰ってから仕上げ、また依頼が来ればそちらを優先にして動き──というように、どうしても書類は溜まりがちになる。

 本日はまだ依頼事がなく、この隙に溜まっていた書類を纏めて片付けてしまおう、ということのようだ。

 

 先生がここに来て、月日はそこまで経っていない。しかし書類を捌いていくスピードはとてつもない。無言で、たまにコーヒーなんかも飲みつつ、淡々とこなしていく。

 

 そんな時であった。

 外から聞こえてくる短い間隔の足音。段々と音は大きくなってきている。

 

 誰か来たのか、と手だけは動かしたまま、入口のほうを見つめる先生。予想通り、やってきた。

 

「──あのっ!」

 

 開口一番は、呼びかけ。膝に手を当てながら息を整えつつ、しかし目は先生へと向けられたまま。

 

「ここなら、きいてくれるんですよねっ。わたしの、はなしッ!」

 

 あまりに必死な様子。書類仕事の途中ではあるが、中断。

 なにせ先生にとっては、生徒の相談ごとがなによりも優先されるのだから。

 

「"うん、聞くよ。なんでもね"」

 

 席を立ち、やってきた生徒を座らせる。呼吸を落ち着かせるため、そして詳しく話を聞くため。

 二つ分のコップを持ち、対面する形で先生も席に着く。

 

「"コーヒーでよかったかな?"」

「あ、はい。すみません……」

 

 呼吸を落ち着かせ、一旦コーヒーを飲んで心も落ち着かせたところで、先生から話を振る。

 

「"君は……"」

「あ、そうですよね。先に自己紹介をさせてください。

 わたしは『琴原ニツ』っていいます。ミレニアムの学園に通ってて、今は一年生です」

「"ニツだね。ありがとう。私のことは……もう知ってくれてるかな?"」

「はい。シャーレの先生ですね。色んな生徒の悩みを一緒に解決してくれると聞いてます」

 

 先ほどにもあったが、まだ先生はここに来てそこまで経っていない。

 よって現在は信頼獲得のための時期。その成果が噂という形で出てきていることを先生は嬉しく感じる。

 

「その、それで相談というか、聞いてほしいことがありまして……あの」

「"……うん、大丈夫。ゆっくりでいいよ"」

 

 何から話すべきかを考えているのかパニックになりかけてる様子のニツ。

 それを先生はゆっくりでいいと待ちの姿勢を見せる。自分は最後までしっかり聞くから焦らなくてもいいという意思表示だ。

 

「……まずは、お願いしたいことを一言で言います」

 

 一呼吸おいて、ニツは続けた。

 

「どうかお願いします……。

 わたしの恩人で友達で──何故か死刑囚になっている『坤音レキ』さんを助けてくれませんか……ッ!?」

 

 

 

 ──【次回→第二話:詳細】




出てくるキャラ名の殆どは、元ネタキャラの逆さ読みです。

不評であれば消します。
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